千七百六十三話 血煌槍譚の月弧の断罪者
<握吸>で断罪槍を握る力を強めつつ<闇透纏視>で眼魔シアド分析。体に纏っている<魔闘術>系統はかなり高度。
白い体の表層には、<瞑道・霊闘法被>と似た魔法の羽衣を羽織っている。未知な物ばかりで、分析はできそうにない。
赤い霧状の魔力も旧神系のスキルかな。
ラメ状の紫と漆黒がグラデーションを起こし、蠢いていることぐらいしか分からない。
その眼魔シアドはゆっくりとした動きで相棒とビュシエに向け、眼球から魔力の礫を放ち始めた。
そして、俺に、
「――神界と魔界、そして<血魔力>、<血魔術>系の使い手でもあるのか!」
と叫びつつ、眼球の前の魔法陣と積層型の魔方陣から無数の細長い刃を連続的に突出させてきた。相棒とビュシエに繰り出していた遠距離攻撃とは異なり、かなり速い飛び道具――。
『閣下!』
『大丈夫だ』
俄に、左手に握る断罪槍を掲げ、断罪槍の柄で、その細長い刃を連続的に防ぎながら後退。
すぐに<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を左前に再召喚し、その<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で、細長い刃の遠距離攻撃を防ぎながら、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を眼魔シアドに送る。
眼魔シアドは、
「反応が良い!」
と、嬉しそうに発言し、右下腕から赤い霧状の魔力を展開させ、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を防いだ。
点滅した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の裏側に『風槍流』と『魔界九槍卿』の文字が浮かぶ。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から魔線が発生し、俺に伸びて、その魔線が付着した。
眼魔シアドの赤い霧状の魔力から返還された魔力をかなり得た。
だが、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が動かなくなる。
眼魔シアドの赤い霧状の魔力に嵌まったのか?
念の為、すぐに<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消す。
「チッ、見破ってきたか――」
眼魔シアドは右下腕の掌に赤い霧状の魔力を吸い寄せる。
すると、左手の掌にある<シュレゴス・ロードの魔印>から少しだけ桃色の魔力が出て、
『あの赤い霧も旧神か何かと推測しますぞ』
『了解した』
シュレは外に出ても戦える。
不意打ちの<旧神ノ暁闇>か、旧神バヨバヨから取り込んだ<鬼塊>の仕込みもあるが、
「にゃご!」
「そこ――」
黒豹が複数の触手を眼魔シアドに伸ばし、低空からビュシエが眼魔シアドに向かった。
両者の動きに合わせ両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。
眼魔シアドは左右上腕の手が握る魔槍を上下に動かし、回し、その魔槍の穂先と柄で二つの<鎖>の攻撃と相棒の触手骨剣の攻撃を弾く。
半身のまま左下腕の甲のパイルバンカーのような剣を振るい、ビュシエの中間距離からの<血道・霊動刃>の飛び道具を斬り捨てると、左斜め後方に跳び、相棒の触手骨剣を避けた。
眼魔シアドは、筋肉質の二つの足で地面を削りながら後退。
そこに黒豹が口を拡げ、
「にゃごァ――」
紅蓮の炎を吐いた。
細長い紅蓮の炎は赤い霧状の魔力と相殺される。
「驚きだ――」
それはこちらの言葉だ、と、その眼魔シアドへと両手首の<鎖の因子>から<鎖>を繰り出す。
眼魔シアドは<鎖>の軌道を見ず二本の足を滑らせ、背を地面に付けるように仰け反って<鎖>を避け、身を捻り<血道・霊動刃>を避けては地面を蹴る。
右斜め前方へと跳び、相棒の触手骨剣を避けた。
また地面を蹴って前に跳び相棒の触手骨剣とビュシエの<血道・霊動刃>の連続とした遠距離攻撃を避けていく。
ビュシエは、
「速いですが、シュウヤ様に比べたら対処はできる――」
<血液加速>を使用し加速し、速度を上昇させ、眼魔シアドとの間合いを詰めるや否や<血魔力>のハンマーを振るう。
眼魔シアドは左右上腕の手が握る魔槍を左から右に振るい、ビュシエの<血魔力>のハンマーと衝突、弾いた。甲高い金属音が響く。
ビュシエのプラチナブロンドの髪が舞うと、ビュシエは右手にバドマイルの魔棍棒を召喚し、それを振るいつつ、至近距離で<血魔力>のハンマーを<投擲>。眼魔シアドは、魔槍を下ろすように動かし、左下腕の甲から出たパイルバンカーのような剣と、右下腕の赤い霧状の魔力で<血魔力>のハンマーを防ぐどころか消し去った。
「な!」
ビュシエは驚きながら体が硬直していた。
眼魔シアドの魔眼系のスキルを喰らったか?
そこに相棒の無数の触手から出ている骨剣が眼魔シアドに向かうと、眼魔シアドは、
「――チッ」
と、舌打ち、魔槍を振るい回しながら触手骨剣を防ぎ、後退し、赤い霧状の魔力を右下腕に引き寄せるまま、俺を凝視、
「お前を倒せば、こいつらの動きも止まるか?」
と、聞きながら低空から俺に向け直進してきた。
眼魔シアドの眼窩の眼球が膨らむ。
『弟子よ、断罪槍流を学んでもらおうか。そして、槍ノ神威と神眷の寵児の証しを示してもらう』
『はい!』
眼魔シアドは前後に体がブレた。
三腕が握る魔槍を突き出すモーションから、左下腕の赤い霧を放出しつつ、甲からパイルバンカーのような紫紺の魔力が漂う剣を突出させてきた。
<血道第一・開門>。
全身から<血魔力>を放出させつつ断罪槍の穂先で、その剣を下に弾き、風槍流『風研ぎ』の構えのまま断罪槍を上に撓らせた穂先で眼魔シアドの頭蓋骨の貫きを狙うが、
「くっ、生き物のような反応だ――」
魔槍の笹穂槍の形の穂先に弾かれた。
更に、左下腕のパイルバンカーのような剣で、俺の首を狙ってくる。
回転させた断罪槍の片鎌槍を、その剣に衝突させ横に弾く。続け様に右腕の手で柄を押し込む<豪閃>を繰り出した。断罪槍の角柱から伸びている血の穂先で眼魔シアドの体の撫で切りを狙うが、眼魔シアドは魔槍の柄を斜にし、半身のまま横回転を行い、<豪閃>を防ぐが、眼魔シアドは力に押されて後退――。
ところが眼球の魔眼を発動させ、右下腕の掌に赤い魔力を集積させ、
「喰らえ――<魔弾アルテミア>」
を繰り出してきた。
咄嗟に<沸ノ根源グルガンヌ>と<滔天神働術>に<無方南華>と<血道第四・開門>――。
右手に王牌十字槍ヴェクサードを召喚させ、その石突で地面を突き、反動で、真上に移動するように跳躍。
<魔弾アルテミア>のショットガン的な攻撃を避ける。
無数の魔弾の<魔弾アルテミア>は王牌十字槍ヴェクサードと衝突していく。
「――宙空なら安全だとでも?」
再び、宙空にいる俺に向け、<魔弾アルテミア>のショットガン的な攻撃が繰り出された。
俄に足下に<血鎖の饗宴>を敷くように発動。
無数の魔弾を無数の血鎖が喰らい尽くす。
<血鎖の饗宴>で<魔弾アルテミア>の魔弾をすべて消し飛ばすことに成功した。
「なに!?」
そのまま<血鎖の饗宴>を眼魔シアドに向かわせながら降下――眼魔シアドは、右下腕から赤い霧状の魔力を上方に展開させ、無数の血鎖の<血鎖の饗宴>を防ぎ、相殺させると、体から紫紺の魔力を噴出させて後退。
そこに、「げっ」と驚く声を発した眼魔シアドの横っ腹にビュシエの<血道・血槌轟厳怒>が決まった。
眼魔シアドは反応が遅れた。
ビュシエの〝バドマイルの魔棍棒〟から出現中の巨大な槌、<血道・血槌轟厳怒>が眼魔シアドの腹にめり込んでいる。
筋肉質な体がくの字になって、そのまま吹き飛び、きりもみ回転しながら地面に何度も叩き付けられて転がっていく。
その間に、<霊血装・ルシヴァル>を発動。
ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬を装備。
神々しい輝きが漆黒の血気と交わり、全身から滂沱の血を活かしたような<血魔力>の炎が立ち昇る。
右手に<握吸>で王牌十字槍ヴェクサードを引き寄せた。
ビュシエの強烈な一撃を喰らった眼魔シアドが吹き飛んでいたところの地面から粉塵が舞い上がっていたが、眼魔シアドは体から血飛沫を発しながらも体勢を持ち直す。
眼魔シアドは、
「――クソが!!」
と叫び、ビュシエと相棒に向け魔眼から無数の細長い刃を繰り出しながら、俺に突進。
またも、右下腕から<魔弾アルテミア>を繰り出してきた。
魔弾の軌道を読むように真横に跳んで避ける。
王牌十字槍ヴェクサードを<投擲>してから、眼魔シアドへ向け駆けた。
眼魔シアドは、魔槍とパイルバンカーのような剣を振るい王牌十字槍ヴェクサードの<投擲>を防ぐ。
その眼魔シアドへと跳躍、<武行氣>を発動しながら宙空から間合いを潰し、ジャンピング<刺突>の要領で断罪槍を突き出す<血刃翔刹穿>を繰り出した。
眼魔シアドは俄に後退し、突きの<血刃翔刹穿>の片鎌槍の穂先を避けた。
<血魔力>が覆う断罪槍の穂先から無数の血刃が光の雨のように迸る。
眼魔シアドは右と左に鮮やかに跳躍し、無数の血刃をかわしてくると、相棒の紅蓮の炎とビュシエの<血道・霊動刃>を障壁の魔法壁を使い防ぎながら左右に移動を繰り返してから、二人の遠距離攻撃が止まった瞬間足を止め俺を見て、
「血刃は<血魔力>系スキルに、武器は神界系か……恐るべき組み合わせだ」
眼魔シアドの声が虚空に響き渡る。
頭蓋骨の口元が動いているわけでもないのに、言葉が直接脳に届くかのような不気味な感覚となった。
王牌十字槍ヴェクサードを<握吸>で引き寄せ右手で掴み王牌十字槍ヴェクサードを消す。
そこに眼魔シアドの背後から「にゃごぁ」と相棒が飛びかかっていくのが見えた、眼魔シアドは横に跳び退く。
黒豹は「にゃご」と逃がすかと鳴き、体から無数の触手が眼魔シアドを追跡するように伸びていく。
触手の先端から骨剣がニュルっと出て、その触手骨剣で眼魔シアドの体を貫こうとする。
眼魔シアドは魔槍を上下させ、無数の触手骨剣を柄で防ぐと、相棒は背後に回る。そこから無数の触手から骨剣を突出させていた。
「ハッ」
眼魔シアドの背中の幾何学模様が突如輝く。
空間歪曲の防壁が発生していた。
相棒の触手骨剣の群れが、その防壁と衝突を繰り返し、すべて防がれる。と、幾何学模様の防壁から衝撃波が発生し、衝撃波をまともに喰らった黒豹が吹き飛ばされる。
「――にゃご!?」
触手を地面に刺し、衝撃波を殺した相棒は空中で体勢を立て直し、四本の足で地面に着地する
こちらを見て「ガルルル」と唸り声を発した。
体の周りに橙色の炎が渦巻き始める。
眼魔シアドの視線が、その黒豹に向く。
その隙をビュシエと共に狙った。
ビュシエの<血道・霊動刃>を眼魔シアドは魔槍を使い防ぐ。
<メファーラの武闘血>を発動。
全身に血の熱が走り、筋肉が膨張する感覚。
闇と光の運び手の装甲の隙間から<水月血闘法>の<血魔力>が噴出しながら、断罪槍を振るい<血龍仙閃>――。
振り降ろしの<血龍仙閃>は赤い霧状の魔力に防がれた。
眼魔シアドの赤い霧状の魔力は厄介、右下腕は時々膨れて縮んでいた。
ビュシエは「そんな物――」と至近距離で<血道・石棺砦>の石棺を繰り出す。
「ぬお!?」
驚いた眼魔シアド。
魔槍と左下腕のパイルバンカーのような剣を胸元に掲げて、最初の石棺の突出を防ぐが、体は浮かんだように持ち上がり、石棺に運ばれるように後退していく。
その眼魔シアドの白い体から紫紺の魔力が噴出。
石棺を吹き飛ばすと左右に転移するように移動を繰り返し、相棒の触手骨剣の攻撃とビュシエの石棺の遠距離攻撃と<血道・霊動刃>の遠距離攻撃を避けながら俺に突進してきた。
「ビュシエと相棒、前に出る」
「ハッ」
「にゃお」
断罪槍を構えながら前進。
そこにイルヴェーヌ師匠の念が流れ込んでくる。
『弟子、断罪槍流を行うぞ、流れから<断罪槍・天衝>などを学んでもらおう』
『はい』
『そして、月光の結晶を取り込んでいる断罪槍に<血魔力>を込めての攻撃タイミングは任せよう。<断罪ノ月弧>を学べるはずだ』
『はい!』
前進する眼魔シアドの四腕が唸りを上げ、魔槍とパイルバンカーの剣が雨あられと襲い来る。
イルヴェーヌ師匠の研ぎ澄まされた心技を体内に呼び起こし、迫りくる連撃を断罪槍一本で捌き続ける。
激しい金属音が戦場に木霊し火花が散る。
――二十合を超え、なおも続く攻防となった。
「チッ、二本の腕で、だと…!」
眼魔シアドの声音に焦燥が滲む。
その動きに、わずかな乱れが見え始めた。
イルヴェーヌ師匠の動きを体感するように断罪槍を上から下へと振り回す。
魔槍に、槍舞の途中は防がれたが、自らも断罪槍と共に回転し、薙ぎ払いを行う<断罪槍・薙躱斬打>を繰り出す。
眼魔シアドはパイルバンカーと赤い霧状の魔力を防御に回して薙ぎ払いを防いだ。
ビュシエの<血道・霊動刃>も赤い霧状の魔力は防ぐ。
<牙衝>のような眼魔シアドの足を狙う突きから上半身を狙う突きのなど断罪槍の動作を体が自然と覚えていった。
<断罪槍・天衝>のスキルは得られていない。
少し高度か。
眼魔シアドは魔槍を小刻みに動かし、四本の腕を活かす槍武術を扱う、断罪槍の攻撃を防ぎながら体がブレると、体から紫紺の衝撃波を発生させてきた。
三百六十度の空間が振動したように紫紺の稲妻のような魔力が宙空を行き交った。
体が痺れたような感覚を受けながら退く。
ビュシエと相棒も距離を取った。
と、前に出た眼魔シアドの魔眼が煌く。
刹那、俺とビュシエと相棒の足下に魔眼と関連しているだろう罠を仕込んでいたのか、足下から無数の魔力の筋を発生させる。俄に、足下に<超能力精神>を発動。
ビュシエと相棒は魔力の筋にかかり動きが封じられた。
宙空にいる俺に連続的に魔槍を突き出してくる。
それを断罪槍の柄で防ぎ、眼魔シアドと共に着地するや否やパイルバンカーのような剣を突き出してくる。
それを断罪槍で防いだ。
「防いでいるだけではな――」
と、眼魔シアドの右下腕から<魔弾アルテミア>のショットガンが放たれる。
『ヘルメ!』
『はい、<精霊珠想・改>』
左目から液体となって飛び出した液体状のヘルメが、一部を女体へと変化させながら神秘的な液体を拡げ、<魔弾アルテミア>のショットガンの攻撃をすべて取り込む。
「<仙丹法・鯰爆想>――」
「なんだと!」
体の一部を大鯰へと変貌させて直進――。
眼魔シアドにそれが触れた瞬間、爆発。
眼魔シアドの頭蓋骨と左上腕の一部が弾けたように粉砕された。眼魔シアドの体は内側から爆ぜながらも、俺に向けた右下腕から「ぐぇぁ、<魔弾アルテミア>――」を繰り出してきた。続けて<魔弾アルテミア>を連続発動したのか、ショットガンのような細かな魔弾が重層的に迫った。
ヘルメの女体化から分岐したような神秘的な水が広がって<精霊珠想・改>が魔弾の一部を防ぎ、取り込んでいく。
一部の<魔弾アルテミア>は防げていないから、再び<超能力精神>を発動。
その<魔弾アルテミア>の魔弾を防ぐ。
眼魔シアドは破壊された頭蓋骨を瞬時に修復させると、赤黒い眼球の魔眼を強めてくる。
殺意と魔力の波動が押し寄せ、空気が重くなった。
ヘルメの《氷槍》が宙空で止まったように遅くなる。
<超能力精神>のような能力か。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
<握吸>で握りを強化。
眼魔シアドは周囲に衝撃波を発生させ、相棒とビュシエとヘルメを近づけず、前傾姿勢で俺との間合いを詰めてくる。
応えるように重心を落とし風槍流『喧騒崩し』で待った。
「――その構えを崩してやろう」
眼魔シアドは、魔槍を連続で突いてくる。
断罪槍と魔槍杖バルドークで、連続突きを防ぎながら軸を横にズラす風槍流『異踏』から断罪槍で<刃翔鐘撃>――。
眼魔シアドはバックステップで<刃翔鐘撃>を避けた。
直ぐに<覇霊血武>を発動――。
肩の竜頭装甲ハルホンクが「ングゥゥィィ」と古代の竜の咆哮のように呼応し、魔槍杖バルドークから溢れ出る魔力が液体の鎧のように俺の体の節々を包み込み第二の皮膚のように一体化し、魂の深層で古の力と共鳴が始まると、眼魔シアドの動きが緩慢に見えてきた。
左足を地面に強く踏み込み、一気に距離を詰める。
右上から突き出された魔槍を断罪槍で受け流し、左上からの魔槍を頭部をわずかに傾けて避ける。
右下腕から放たれた<魔弾アルテミア>は、<超能力精神>で軌道を逸らす。
「チッ」
眼魔シアドは舌打ち、槍圏内から断罪槍を突き出す。
<闇雷・一穿>で、穂先の槍尖が眼魔シアドの右眼球を貫こうとした瞬間――。
眼魔シアドの胸部の幾何学模様が赤く輝き、空間転移の魔法陣が展開される。
転移はさせないように、魔槍杖バルドークを振るう<血龍仙閃>で眼魔シアドを狙うが、その姿が霧散し、魔槍杖バルドークは空を切った。
『後方!』
イルヴェーヌ師匠の警告で振り返ると、数メートル後方に眼魔シアドが実体化していた。
四腕すべてを前方に突き出し、虚空に魔法陣を描いている。
空間が歪み、闇の渦が生成されていく。
「食らえ、<絶域断界>」
空間が引き裂かれ、漆黒の切断波が放たれる。
回避不能の範囲攻撃――。
『弟子、私の力を――』
イルヴェーヌ師匠の念話と共に魔軍夜行ノ槍業から膨大な魔力が溢れ出す。断罪槍が眩い光を放ち、槍身に刻まれた古代の魔法文字が金色に浮かび上がった。
闇と光の運び手装備の砂漠烏ノ型の兜から視界が広がり、眼魔シアドの絶域断界の魔力構造が視えてくる。
一瞬の閃き――。
断罪槍を頭上に掲げ、槍身を回転させながら、
『「<断罪槍・零円輪>」』
断罪槍を中心に青白い魔力の円環が広がり、眼魔シアドの絶域断界と衝突。
光と闇の魔力が激突し、轟音と共に空間が軋む。
ピコーン※<断罪槍・零円輪>※スキル獲得※
刹那、黒豹の体から橙色の炎が螺旋状に燃え上がり、口を拡げ、
「にゃごおおおおお!!」
口から吐き出された紅蓮の炎が旋風となって眼魔シアドを包む、眼魔シアドは上腕二本で防御魔法陣を展開し、炎を押し返すが、相棒の炎は消えない。
ビュシエは空中から「<血道・牙柱>」を連続で放った。
地面から石の刃が付いた石柱で眼魔シアドを取り囲むように突き上げていく。
眼魔シアドの四腕が慌ただしく動き回る。
複数の攻撃に対応しようとするが、三方からの攻勢に追われ始めて後退を続けた。
好機――。
<血脈瞑想>を発動。
<血道・神魔将兵>を発動させ、五体、眼魔シアドに突入させた。
「なっ、げぇ――」
<血道・神魔将兵>たちの血槍の<豪閃>のようなスキルと<刺突>のようなスキルを喰らい、眼魔シアドは動きが鈍くなる。
<魔仙神功>を発動。
魔力が沸騰するような感覚、骨と肉が締め付けられる痛みを味わいながら<血道第七・開門>――。
眼魔シアドとの間合いを瞬時に詰めて、<血霊魔槍バルドーク>を繰り出した。
穂先から放たれる紅光が血の河のように流れ出す。
眼魔シアドの魔槍を弾きパイルバンカーの剣を弾くと、眼魔シアドの眼球が光を増し、虹彩の魔法陣が加速していく。
周囲の空間が歪み始め、眼魔シアドの足元から黒い霧のようなものが立ち上り、下腕から、赤い霧状の魔力が噴出。
赤い霧状の魔力と紅光が血の河の<血魔力>が衝突した。
すると、魔槍杖バルドークから紅蓮の炎を纏った血霊が解き放たれる。
閃光を発し神霊を現すように神魔の女神が魔力の蒼と漆黒と紅蓮の嵐となって、赤い霧を消し飛ばしていく。
そのまま魔力の蒼と漆黒と紅蓮が渾然一体となった魔力の嵐が、眼魔シアドの存在を貫いたに見えたが、眼魔シアドは体を加速させたのか、「ぐぇ――」半身を残しつつ吹き飛んだ。
蒼い神魔の女神は威厳に満ちた姿で実体化。
「無駄よ、主の<槍ノ神威>を含んだ一撃は、吸血神ルグナドでさえ回復が遅れるはず……」
吹き飛んだ眼魔シアドは肩で荒い息をしつつ、
「チッ、その魔槍杖は女神を宿しているか……」
と言いながら体の心臓部と思われる白い脊髄と毛細血管と似たモノが、タコのように蠢き、切断面の目立つ頭蓋に絡み付く、紫紺の触手の群れが白い体に変化し、白い体の回復をはかるが、その回復速度は明らかに遅い。
その眼魔シアドは転移しようとするが、
「にゃごぁ」
と相棒の炎とヘルメの<珠瑠の花>とビュシエの<血道・石棺砦>の石突への対処に半身の眼魔シアドの動きが鈍った。
その瞬間を狙う。
『弟子、ここだ!』
『はい』
膨大な<血魔力>を断罪槍に込める。
断罪槍の吸血神ルグナド様が認めた血印が閃光を放つと、血印に月光の結晶と大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の魔力が穂先と柄から流れ、小月の方樹槍の木も柄から少し出て、柄の造形が変化。
断罪槍の片鎌槍の三日月の枝刃が伸びる。
片大鎌槍のような片鎌槍を振り上げながら、<脳脊魔速>を発動。前傾姿勢で、眼魔シアドとの間合いを詰めた。
「『――<断罪ノ月弧>――』」
断罪槍の三日月状の刃を閃光のごとく振り下ろした。眼魔シアドの頭蓋骨に絡み付いていた白い脊髄と毛細血管を瞬時に断ち割り、その巨体を両断する。分断された体は、激しい蒼い閃光を放ち、炭化したように塵と化し消滅した。膨大な魔力が周囲に満ち、静謐な空気が戦場を包み込む。
<脳脊魔速>を終了させ、<魔闘術>系統をすべて消した。
ピコーン※<断罪ノ月弧>※スキル獲得※
「おお、見事な勝利!」
「ふふ、素晴らしい一撃です。まさしく主は血煌槍譚を体現する、神魔の使徒に相応しいお方だ」
ビュシエと神魔の女神バルドークは歓喜に満ちたように笑みを浮かべている。
神魔の女神バルドークの蒼い魔力を纏う髪を誇らしげに揺れていく。
相棒は「にゃおぉぉ~」と勝利の鳴き声を発して、駆け寄ってきた。
ヘルメも、
「閣下の大勝利! まさに、月弧の断罪者!」
と跳び抱きついてきた。
魔槍杖バルドークと断罪槍を手放し、ヘルメを抱きしめる。
「今の<魔槍技>は……」
「おう、月光の結晶を得ている断罪槍にイルヴェーヌ師匠との<魔軍夜行ノ憑依>のお陰だ」
「「おぉ」」
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