千七百六十話 大月の神ウラニリ様の魂の破片と小月のウリオウ様の魔力にグラスベラの聖域
「「「「「シュウヤ様とレン様、お帰りなさいませ!」」」」」
「「「皆様、お帰りなさいませ!!」」」
天守閣の大楼閣に声が響きまくる。エコーも響いた。
峰閣守衛隊と監獄主監ルミコと魔技班たちの声は元氣だ。
皆、元氣に出迎えてくれた。
端には、【煉極組】のお爺ちゃんとお婆ちゃんがいる。
バミアルとキルトレイヤは、「「主!」」と片膝の頭で床を突き頭を垂れた。
今の二人は、三メートルぐらいだが、やはり他の日本人と似たレンたちの魔族たちとは大きさが異なる。
頭部からして二倍以上の大きさはありそう。
※古バーヴァイ族四腕騎士バミアル・使役※
※魔裁縫の女神アメンディを救おうと冥界シャロアルに移動したバーヴァイ族守護騎士団員のバミアルとバーヴァイの守護戦士キルトレイヤは、冥界シャロアルの地で外法シャルードゥに敗れ、脊柱に成り果て、バーヴァイの黒魔巨細剣とバーヴァイの炎魔巨細剣と共に冥界シャロアルに残り続けていた※
※幾星霜と月日が経ち、魔界王子テーバロンテを滅した光魔ルシヴァル宗主のシュウヤが冥界シャロアルにて魔裁縫の女神アメンディを救出に成功※
※冥界シャロアルに残っていた魔神バーヴァイの子孫、古バーヴァイ族四腕守護騎士バミアルだった脊柱に、魔裁縫の女神アメンディと神獣ロロディーヌの魔力と共に、己の<血魔力>を送り<始祖ノ古血魔法>と<水血ノ混沌秘術>を意識し、実行してから<水血ノ魂魄>を使用し、水神アクレシスの水と吸血神ルグナドの血が活きた古バーヴァイ族四腕騎士バミアルは、光魔ルシヴァルの眷属として復活を果たした※
※本来ならば魔神バーヴァイ族と関連した<祭祀大綱権>が必要だが、魔裁縫の女神アメンディの〝アメンディの神璽〟の効果で復活ができた※
※古バーヴァイ族四腕騎士バミアルは身長を3メートル~20メートルまで、体の大きさの変化が可能※
「――陛下に皆様方!」
「――シュウヤ様! 妹と姉から<魔次元の悪夢>で連絡がありました!」
光魔騎士グラドと光魔騎士ヴィナトロスも、大楼閣の出入り口から現れ駆けよってきた。
レンとバーソロンにヴィーネたちと共に大楼閣を歩き、ヴィナトロスに、
「悪夢の女神ヴァーミナ様と悪夢の女王ベラホズマ様はどうなっている?」
「はい、【悪神デサロビア吸霊山脈】から大挙して現れ続けていた悪神デサロビアの軍を、ベラ姉はシャイサードたちを遊軍に使い、【グラシャラスの地底湖】から眷族と軍隊を出撃させ、【吸霊広陵】と【電封溝地】と【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】にて迎え撃つ形で戦いとなったようです」
「激戦だったのかな」
「はい、姉が<魔次元の悪夢>を使い見させてくれる範囲では激戦。魔竜ベルザーの一族の一部が犠牲になりました。しかし、帰還したヴァーが、悪神デサロビアの大眷族たちが率いる左翼の軍隊に<白昼夢ノ鳳凰イヴェレ>を喰らわせたところで、一気に戦いの均衡が崩れた。そこから、本体のベラ姉が直に、悪神デサロビアと大眷属たちと軍隊へ、<悪夢の悪銀鬼哭連鎖>を喰らわせたようです。そこから悪神デサロビアの軍隊は瓦解。デサロビアも、逃げるように後退し、【悪神デサロビア吸霊山脈】に退いていきました」
「「「おぉ」」」
「ん、良かった」
「やりましたね!」
エヴァたちの言葉に光魔騎士ヴィナトロスは嬉しそうに微笑む。
俺も、
「氣になってたから良かった」
「はい」
ヴィナトロスの笑顔を見てから、皆に、
「では、俺は【双月神ウリオウの遺跡】か【魔族グラスベラの廃墟跡】を見てくるから自由行動にしようと思う」
「主、我らは警護を続けますぞ」
「はい」
四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルの言葉に頷き、
「おう、任せた」
「ん、一緒に行く」
「うん、一緒に行ったほうが手間が掛からない」
と、レベッカは軽食を食べている。
「ゆっくりここで食事に風呂とか入りながら待っててもいいんだぞ」
「大丈夫よ~。口紅、乳液、ローションは常備、<血魔力>で清潔にできるし、クナからは、ドメガメハメルの高濃度魔薬を得ているからね」
と、発言しながらレベッカはクナに微笑む。
クナも笑顔を見せていた。
エヴァは、
「ん、魔霊不虞草は食べると魔力を得て、いい匂いが体に付くし、元氣になる。皆、魔力を含めた食品と化粧品も持つから大丈夫」
「「はい」」
「はい、行きましょう」
キサラもエヴァたち女子組の言葉に同意している。
「「「はい」」」
「一緒に行きます~」
「お供いたします!」
光魔騎士ヴィナトロスも来る。
ファーミリアたちも傍に寄り、
「シュウヤ様、付いていっても宜しいです?」
「勿論だ。イルヴェーヌ師匠の過去と関連した話は前にも話したが、俺が<始祖ノ血槍術>と<断罪ノ血穿>と<始祖ノ触枷>などを得たように、神界と魔界の争いの事象に関連してくるだろう」
断罪槍を召喚。
血銀行では、角柱に血の穂先が出来上がった。
ファーミリアはチラッと断罪槍を見て、
「はい、ハーヴェスト神話の一端ですね。神界と魔界の神々に認められているシュウヤ様は、血銀行でも血多蟲ダゴラムルを屠り、ルグナド様に認められました。その証拠に、断罪槍にあった血印がくっきりと刻まれている」
ファーミリアの言葉に魔軍夜行ノ槍業が少し振動した。
イルヴェーヌ師匠も同意していると分かる。
「あぁ、<血魔力>は断罪槍に力となっているが……」
「魔皇グラスベラ、その一族の姫だったイルヴェーヌさんの過去、吸血神ルグナド様に一撃を与えている。そのことを氣にしているのですね」
「あぁ、小月を守りし一族は、イルヴェーヌ師匠の一族。双月神の小月の神ウリオウ様と関係が深い。小月と神狼と銀獅子の泉が、魔城グラスベラの地下や、グラスベラの森とメギドの断罪森に在ったと言っていたからな。そのような関連に俺とファーミリアが一緒に近づけば、吸血神ルグナド様の怒りを買うかもしれない」
「……それは、ささいなことかと。シュウヤ様は、もう断罪槍の血印を血銀行で強化されている。そして、吸血神ルグナド様から直々に『ふっ……見事……槍使い、魔界セブドラにて待っているぞ……そして、ファーミリアに後は託すとしよう……』と、言葉を授かっている。その意味は重大ですから、どのようなことも大丈夫と判断しています」
あぁ、託すと言われていたな。
ファーミリアの言葉に皆が頷いた。
「……どのようなこともか」
「はい、血多蟲ダゴラムルは吸血神ルグナド様の力を取り込み続けて、この血銀行の下層に数千年と生き続けていたのですから、それを倒し【吸血神ルグナドの血海の祠】を再建させ、<フォーラルの血道>を復活させたことは……吸血神ルグナド様への多大な貢献度となります。ですから、シュウヤ様とは敵対行動を取りたくない想いも強いはず」
ファーミリアの言葉にヴァルマスク家の<筆頭従者>のホフマンとアルナードとルンスたちも頷いている。
「そうだな」
そこで、レンが、
「では、外に行きましょうか。【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】にご案内します」
「おう、〝列強魔軍地図〟があるから大丈夫だが、付いて来てくれ」
「はい」
「ンンン――」
黒猫は体を黒豹と化してから、大楼閣の出入り口に向かい、階段を下りていく。銀灰猫と銀白狼と白黒虎と黄黒猫と法魔ルピナスと子鹿も向かった。
相棒にカソジックのご飯をあげようと思ったが、あまり腹は減ってないのか。
レンはルミコと峰閣守衛隊たちを見て、
「では、ルミコ、外に出かけてきます。皆、自由に――」
「「「「はい!」」」」
と、元氣な返事を響かせる。
ルミコと魔技班は上笠影衆の特殊部隊で忍者的。
峰閣守衛隊は、ザ・侍と呼べる戦国武者のような方々だ。
その方々に、俺たちも会釈をしつつ雑談をしながら階段を下りていく。
レベッカとクナとミスティとヴェロニカとベネットと魔界騎士ハープネスとシキとアドリアンヌとベリーズとサラとブッチとラムーとメルとホフマンが各地で入手したアイテムを交換しつつ雑談をしながら進む。
エヴァとキサラとヴィーネは、光魔騎士ヴィナトロスとグラドたちを、レガナとエラリエースとメイラと、元神界騎士のウスア、レチャル、コカル、エンドー、ダイク、サラーとコモラたちに紹介しながら歩いていた。
木組みの長い廊下を進み、階段をまた下りて、大楼閣の内部の【煉極組】の<煉丹闘法>の研究者たちの部屋を通り抜け、また階段を下りていく。
外が見渡せる巨大な昇降台が止まっている巨大な踊り場に到着。
黒猫はもう巨大な神獣と化して外に浮遊している。
神獣ロロディーヌは触手を俺たちに伸ばしてきた。
駆けて避けては、跳躍し、踊り場から離れた。
「「きゃ」」
「「きゃ~」」
「これは、なれない~」
「捕まるかよ、神獣!」
「し、神獣さまぁ、はぅ~」
宙空で<武行氣>を強めて飛翔を楽しむように先に向かう。
と、半身になって、振り返ると、背後から相棒が俺を追跡しながら触手手綱が飛来してきたから普通にそれを掴む。
と、その触手の収斂、いつものような反動力で引っ張られた。
グンッとした気持ち良いGを感じながら、ターザンになった如く――ドラゴンを彷彿とさせる神獣ロロディーヌの頭部へと運ばれていく。目測だが、体長は四十メートルを超えるかな。闇鯨ロターゼも相棒の背に着地。
清らかな風を<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>により、感じて見える――。
この風が、また気持ち良い~と、斜め前の頭上から、レンが見えた。細い体に悩ましく触手が絡んでいる。
しかも逆さまになって相棒の頭部に運ばれていく。
顕わになった生の太股が素敵すぎる。
そのレンを追い掛けるように――相棒の大きい片耳を掠めながら頭部に着地。
そこに、触手が絡み付き動けていないアルルカンの把神書が「――うひゃ~」と、ズンッと音を響かせながら勢いよく、相棒の巨大な頭部に着地している。相棒の体毛と頭皮に押し付けられていた。
すぐに、レンとバーソロンが腕を伸ばし、【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】の方角を差し、「こちらです」「はい、神獣様」だが、もう相棒は飛翔をして飛翔中。
【峰閣砦】の踊り場を離れている。
そのまま相棒は皆を連れて、赤茶色の岩肌が多い壮大な渓谷が多い【メイジナ大平原】へと向かう。
すると「ボォォォォォン」と骨鰐魔神ベマドーラーの鳴き声が響く。
近くに寄ってきた骨鰐魔神ベマドーラーだ。相棒は、
「にゃおおおぉ~」
と、頭部を揺らしながら鳴いて応えていく。
骨鰐魔神ベマドーラーは巨大な骨鰐。背には剣のような骨が無数に生えているが、頭部だけなら、白亜紀前期の巨大ワニ、サルコスクスと似ているかな。
「ん、一緒についてくる」
「はい、【メイジナ大平原】には【旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿】があるからでしょうか」
「あぁ、旧神の魔力がエネルギー源でもあるんだな」
「ボォォォォォン、ボボボッ、ボボッ~」
骨鰐魔神ベマドーラーは俺たちの会話を聞こえていたように鳴いていた。
【サネハダ街道街】を離れ【メイジナ大平原】に突入。
すると、骨鰐魔神ベマドーラーは【旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿】に寄るように降下していく、過去に悪神ギュラゼルバンと戦った近辺で動きを止めていた。
思えば、あの辺に転移してきたんだよな。
相棒は直進しながら「にゃおぉぉ」と鳴いていた。
〝列強魔軍地図〟を出すと、【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】の名が記した場所に近づくと高度を下げていく。
赤茶と焦げ茶の峡谷が多い。
大きい恐竜のモンスターも見えたが、巨大な相棒に驚いたように逃げていく。
レンたちは相棒の眉毛の近くにいるが、
「見えました。【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】があの辺り、地続きです――」
「はい」
と、レンとバーソロンの腕の先の光景には、古びた寺院を思わせる建物が無数に並び、洞窟もあるように見えた。そのまま古代遺跡だな。
「では先に飛翔します――」
「はい、陛下、行きましょう!」
レンとバーソロンが先に跳び、飛翔しながら降下していく。
ヴィーネとレベッカも
「ご主人様、行きます」
「うん」
「ん、行こう~」
「「「はい」」」
皆が次々に降下していく。
相棒の頭部を駆けて、巨大な鼻筋を滑るように下りて、鼻先から跳躍――。
――寺院にあるような階段が目の前の、赤茶けた地面に着地。
断罪槍をしっかりと握り階段を一段一段上っていく。
古びた寺院は魔夜の世界でも十分に明るい。
十分に昔日の栄光を静かに物語っていた。
壁面に刻まれた紋様は、時の流れに侵食されながらも驚くほど鮮明に残っている。特に目を引くのは至る所に配された双月の意匠だ。
大月と小月を象った彫刻のうち、特に小月を表す彫刻が丁寧に施されていることに気付いた。
「ここが双月神ウリオウの遺跡でもあり、魔族グラスベラたちが暮らしていた名残でもあると」
皆に聞くように発言。
「はい」
「ん」
「水が使われていた形跡もあるし、生活魔法の魔法陣が機能している」
と、ユイが階段の横にある小屋と壁の前で手を翳すと、横壁から突起物が出て、水が流れ始めた。水は溝を通り、下のほうに流れていく。排水か。
「「おぉ」」
驚きながら皆で階段を上がっていく。
レンも息を呑むような表情を浮かべて、「この辺りはきたことがありませんでしたが……」と壁に触れていた。
薄紫色の瞳が好奇心に輝いていた。
バーソロンはいつものように俺の背後に立ち、警戒の目を光らせている。
「ウリオウ様とウラニリ様を祀っていたかつての聖域ですね」
ファーミリアの声には畏敬の念が滲んでいた。
彼女の眼差しは遺跡の奥へと向けられ、そこに秘められた歴史を見透かそうとしているようだ。
「グラスベラの民がこの場所を守ってきた形跡があります」
ヴィーネは翡翠の蛇弓を構えながら、慎重に足を進めていた。銀髪が夕暮れの光を浴びて美しく輝いている。
寺院の奥へと進むにつれ、通路は徐々に狭まる。
円形の石室に到着した。
部屋の中央には半円形の祭壇がある。
周囲には複雑な魔法陣が床に刻まれていた。
古代の文字も刻まれている。
天井からは細い光が差し込み、石室の中を淡く照らしていた。
「これは……」
足を止め、魔法陣を凝視。
断罪槍流イルヴェーヌ師匠の記憶が脳裏に浮かび上がってきた。
この場所は単なる祭壇ではない。
何かを封印し、同時に守るための仕掛けがあるはずだ。
祭壇に近づくと、断罪槍が突如として震え始めた。
手の中で脈動するような振動と共に、魔軍夜行ノ槍業からイルヴェーヌ師匠の思念が漏れ出してくる。
『……私の一族と関連した場所は確実、聖域の一つか……小月を守りし一族の文字が刻まれている』
『おぉ』
イルヴェーヌ師匠の声は感情を抑えきれないように震えていた。
断罪槍を宙に放り<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚。
『イルヴェーヌ師匠、外に』
『うむ』
腰の魔軍夜行ノ槍業と<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から魔力が噴出。
その魔力は一瞬でイルヴェーヌ師匠を模る。
イルヴェーヌ師匠は跳躍し、断罪槍を掴み着地。
イルヴェーヌ師匠の手足は本物で、それ以外の体が幻影、魔力で構成されている。
「イルヴェーヌさんだ」
「「よろしくお願いします」」
「シュウヤのお師匠様の一人、綺麗な人……」
「ん、イルヴェーヌ師匠、こんにちは」
『うむ、こんにちは』
イルヴェーヌ師匠は念話で語り、会釈をした。
が、皆には念話は聞こえない。
すると、イルヴェーヌ師匠が持つ断罪槍から銀色の光が放たれた。
光は祭壇の中央に集まり、そこにあった小さな窪みを照らし出す。
窪みの中には、月の欠片のような半透明の結晶が埋め込まれていた。
「「おぉ」」
『大月の神ウラニリ様の魂の破片と、小月の神ウリオウ様の魔力……』
「え?」
驚いた。
イルヴェーヌ師匠も驚いているように、驚く俺を見て、神妙な顔付きで、頷いていた。
「ん、どうしたの?」
「半透明な結晶だが、大月の神ウラニリ様の魂の破片と小月の神ウリオウ様の魔力が集積している液体のようだ。イルヴェーヌ師匠は驚いている」
「「「「おぉ」」」」
皆が驚くと、遺跡の床に刻まれていた紋様が光る。
左右の床の石が浮遊し、浮き彫りの模様と溝にネオンの光が走った。
古代の魔法回路を思わせる点滅が始まると、その石自体が閃光が発生した。
その直後――目の前に魔皇メイジナ様が現れる。
「お、シュウヤたちではないか、と、ここは……」
「「「え!」」」
「魔皇メイジナ様!」
「ふむ、闇遊の姫魔鬼メファーラの気配ではなく、随分と懐かしい魔法感覚だから、おかしいとは思ったが、なるほど、魔界騎士グレナダがグラスベラの民に用意させた物を作動させたか」
「おぉ、では、イルヴェーヌ師匠の一族とも関係している魔界騎士グレナダと魔皇メイジナ様の守り続けてきた秘宝でもある?」
アドゥムブラリの言葉に、魔皇メイジナ様は頷いた。
「「「おぉ」」」
皆が驚いている最中にも、イルヴェーヌ師匠が持つ断罪槍から放たれる光が強まっていく、魂の破片も呼応するように輝き始めていた。
途端に、イルヴェーヌ師匠の記憶が洪水のように流れ込んできた。
グラスベラの民が祈りを捧げる姿――。
大月の神ウラニリ様もあるが、重要なのが小月の神ウリオウ様で、そのウリオウ様の祝福を受ける儀式か。そして、大月のウラニリ様の滅していない魂の欠片を守る一族、魔族でありながら神界に与したグラスベラの民を狙う吸血神ルグナド様との対立か……。
断片的な記憶が次々と脳裏を駆け巡る。
「ご主人様!」
と、ヴィーネの声が遠くから聞こえる。
すると、イルヴェーヌ師匠の幻影が、大月の神ウラニリ様の魂の破片と小月の神ウリオウ様の魔力を見てから、実際に過去に生きていた魔皇メイジナ様に向かって敬意を表するように片膝の頭で床を突き、頭を垂れる。魔皇メイジナ様は、
「ふっ、そなたは、シュウヤが扱う魔軍夜行ノ槍業の……槍の師匠の一人……なるほど、な」
イルヴェーヌ師匠はかすかに頷いてる。
本物の体を取り戻してあげたいが、それは今度だな。
『断罪槍流の祖たちが守り続けた秘宝を、長き時を経て、私の弟子に継承できる日がこようとは』
イルヴェーヌ師匠の幻影は感動に震えるように言葉を紡ぐ。
断罪槍の三日月形の枝刃が自然と伸び、<断罪ノ月弧>の状態へと変化した。
小月の神ウリオウ様の幻影が見えたような氣がした。
大月のウラニリ様の魂の破片と小月のウリオウ様の魔力と、断罪槍の共鳴が強まるにつれ、石室の床に刻まれた魔法陣が青白い光を放ち始めた。
魔法陣の中心から光の柱が立ち上がり天井へと伸びていく。
「これは……転移装置?」
バーソロンが驚きの声を上げた。
魔法陣の淵に刻まれた魔文字を読み解こうとしていた。
「うむ、グラスベラの民が設置した緊急避難用の装置だ。当初は地下に……だが……」
魔皇メイジナの言葉だ。作動方法は、
「あ、お待ちを、ふふ、わたしに解かせてくださいませ」
クナの言葉に不敵に笑う魔皇メイジナ様は、
「ふふ、サイデイルの魔術師長で光魔ルシヴァルの魔術師長と名乗っていただけはあるようだ、やってみよ」
「はい♪ では……これは、なるほど――転移を促す」
クナは魔文字を解読し、指で、スイッチを数個切り替えるように石を押し込み、引っ張る。と、周囲の空気が震え、魔法陣の外側に複数の光の門が現れる。
二つの月の形をしたオブジェも出現。
魔皇メイジナ様は、「ハハハッ、見事だクナ」と褒めていた。
「ふふ、はい――」
クナは胸に手を当てお辞儀、豊かなおっぱいが腕に押されて『ぷにょん』と音が聞こえるように動いていた。
素晴らしい。
門の向こう側には、メイジナ大平原の各地が映し出されていた。
「グラスベラの民が用意した古代の転移装置……」
レンが呟いた。
と、魂の破片が祭壇から浮かび上がり、こちらに近づいてくる。
その動きは意思を持っているかのようだった。
俺の前で止まる。
魔皇メイジナとイルヴェーヌ師匠の幻影を見て、
「メイジナ様と魔界騎士グレナダに師匠の一族の……」
イルヴェーヌ師匠は頭部を左右に振り、俺に断罪槍を放る。
受け取った。
『――否、それは、弟子が、受け継ぐべきだ。私は既に<断罪ノ月弧>が使えるのだからな』
『……はい』
「ふむ、我は魔界の神の一柱ぞ、シュウヤが受け取るべきだろう。そして、月狼環ノ槍がここにあれば、そなたに何かしらアピールをしたはずだ。神界セウロスの大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の願いと心得よ」
魔皇メイジナ様の言葉に皆が頷いた。
「ご主人様……」
ヴィーネも俺が受け取るべきだと、言うように発言していた。
レベッカたちも頷いてる。
「ん」
「はい……」
エヴァとファーミリアも頷いていた。
「分かった」
と発言し、皆の視線と声に導かれるように右手を伸ばした。
魂の破片が柔らかな光に包まれながら掌の上に静かに降り立つ。
心臓の鼓動のような温かさが掌から体に広がっていくと魂の破片が強く輝いた。光がイルヴェーヌ師匠の体と、俺が持つ断罪槍に吸い込まれていく。断罪槍と一体化するかのように融合し始めた。
同時に石室全体が揺れ動き、転移装置の魔法陣が明滅。
「ん、この場所が目覚めた?」
「うむ、長き眠りから覚めた転移装置だ」
「大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の魔力と、魂の欠片があったように、大月のウラニリ様の様は、完全には滅していなかったということでしょう」
魔皇メイジナ様とエヴァとキサラたちの言葉に頷いた。
エトアとルビアとルマルディとレガナとレベッカとレガランターラは手を握り合う。ルビアとエトアは緊張の色が見えた。
イルヴェーヌ師匠が、
『弟子、メイジナ様が言っていたように、グラスベラの都へと繋がる道かも知れない。もしくは、この地下に通じるかもだ」
『はい』
手の中で双月神ウラニリ様の魂の破片が脈動している。
この力と共にグラスベラの隠された歴史と真実に迫る時が来たようだ。
魔皇メイジナ様が、
「シュウヤよ、進もうか。グラスベラの民が用意した物だ、旧神の力が作用したどこかの地下に通じているはずだ」
「はい、分かりました。では、皆、準備はいいか? この転移装置を使って、グラスベラの都跡に向かう」
「「「はい!」」」
「にゃおぉぉ~」
目の前に広がる光の門は、グラスベラの民が残した最後の秘密へと続いているだろう。吸血神ルグナドと大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の過去の確執……。
そしてハーヴェスト神話の真実か……。
すべてが繋がり始めていた。
双月神、大月のウラニリ様の魂の破片に、双月神、小月のウリオウ様の魔力を借り、その先にある真実を見届けよう。
続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中。
コミック版発売中。




