千七百四十二話 皆と合流にサネハダ街道街
振り返った瞬間、既に大楼閣に現れていた黒猫が軽やかに肩に飛び乗ってきた。その体温が相棒の存在を改めて実感させる。
銀灰猫たちの気配も間近に感じ取れた。模擬戦の余韻が残るが、皆の存在が心地よい安らぎをもたらす。
すると、周囲の者たちが、
「――シュウヤ殿と眷族たちの模擬戦は凄まじい!」
「「「はい!」」」
皆が拍手をしてくれた。
その間に<魔闘術>系統を終わらせ、武器をすべて戦闘型デバイスに戻す。
体から蒸気染みた魔力の軌跡が幾つも発生していく。
そこにエヴァとレベッカにユイたちが見えた。
更に、沙・羅・貂たちも大楼閣の下の階層から浮上し、床に着地してきた。
「器~」
「「器様」」
沙・羅・貂たちは、エヴァたちの頭上を越えて大楼閣の床の低空を飛翔しながら近づいてくる。
「器! 神々の残骸を近隣の岩場で見つけたぞ」
「器様、【サネハダ街道街】と【ケイン街道】と【メイジナの大街】に繋がっているメイジナ大平原には、遺跡などが豊富にあります」
「――はい、他にも人族の腕の形の大きい腕型モンスターもいました」
沙たちの言葉に頷いて、
「おう、神々の残骸か、回収したんだな」
「した! 器よ、仕舞うのだ――」
と、沙が神々の残骸の一部を取り出し、幾つか、宙空に浮かばせる。
形はそれぞれに異なるが、小精霊やヴァーミナ様の眷族である闇の子鬼を思わせる特徴を持つものが目立つ。
茶色や琥珀を基調とした色合いで、光に透かすとダイヤモンドのような輝きを放つ。その一つ一つから古の力が漂うのを感じ取れた。
角度により光の反射による万華鏡のような光を放っている。
魔宝石にも見える。これらが持つ意味を考えると、胸の奥が騒ぐ。
そして、沙・羅・貂たちと、神々の残骸を見ながら、
「了解、形は地域ごとに異なるのかな」
と語る。沙は頷いて、
「うむ、様々。【メリアディの命魔逆塔】の地下層にあった神々の残骸も異なる形が多かった」
右肩の竜頭装甲のハルホンクが浮くように出現した。
「ングゥゥィィ、ウマソウ、ゾォイ」
「むむ、ハルホンクが神々の残骸を……」
「取り込めば、器様の強化に繋がるとは思いますが」
「うむ、器の記憶にあった光魔武龍イゾルデ様の言葉にあったように、聖域では、この神々の残骸が必要になるはず、そして、『うつほ・かせ・ほ・みつ・はに』の神事と儀式が使えるはず」
「はい、次元渡りの秘宝に成り得る」
「ですね、神格を封じられる魔大戦雷轟剛鳳石と魔皇碑石などと似たような印象ですが……その次元渡りの秘宝があれば〝神界セウロスに至る道〟を辿り神界セウロスに入れますし、セラや魔界にも行けるようになる」
「ハルホンク、神々の残骸は当分はナシ。代わりに、俺の魔力でも喰っておけ――」
指先から<血魔力>を出しつつ右肩の竜頭装甲に、その指先を当てた。
「ングゥゥィィ」
肩の竜頭装甲は一瞬で、<血魔力>を吸い取る。
と、そこに古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルと大楼閣の出入り口に現れた。
巨人への変身能力を持つ二人は、今は通常の姿とはいえその体格は圧倒的だ。
天井に届きそうな角と重厚な鎧の装いが、彼らの持つ力を物語っている。
「「陛下――」」
その声には、長年の忠誠と固い覚悟が込められているのを感じ取れた。
二人は片膝の頭を床に付け、こちら側へと滑るように近づき、動きを止めた。
頭を垂れてきた。
その大柄で四腕のキルトレイヤとバミアルに、
「よう、キルトレイヤとバミアル、立ってくれ」
「「ハッ」」
立ち上がったキルトレイヤとバミアルは迫力満点。
角と兜と鎧が渋い。角の先端が天井に当たりそうだ。
見上げながら、
「二人とも、守護騎士、守護戦士として【メイジナ大平原】と【峰閣砦】などの地域を守る活動、ご苦労さんだ」
「「はい」」
「今、レンたちを眷族に迎えたところだ。そして、バーソロンから聞いていると思うが、破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアを倒し、メンノアから依頼は達成した。魔命を司るメリアディ様を救出し、母の元天魔帝メリディア様も、魂の欠片とフィフィンドの心臓を用いて復活した」
「「おぉ」」
そして、エヴァとクレインとレベッカたちは、
「ん、シュウヤ、アキサダのお宝探索は一緒に行きたい」
「了解だ」
「わたしもいくさ~」
クレインは魔酒入りの白鳥徳利を持っている。
城下町で色々と仕入れたか。レベッカは、
「シュウヤ、皆の眷族化と訓練、お疲れ様~。後、わたしもアキサダのお宝探索には一緒に行くからね」
「おう、分かっている」
「うん」
笑顔のレベッカの蒼い瞳は輝いている。
お宝が楽しみなんだろう。
そこにレンたちが階段を上ってきた。
後ろ手に縄に縛られているアキサダと紅が基調の装束を身に着けている、明らかな強者集団らしき者たちもぞろぞろとやってきた。
レンが、
「アキサダと紅奠一族、そこの御方がシュウヤ様ですよ」
「ハッ――」
「「「「ハッ――」」」」
と、皆、両足の膝から脛を付けるように頭を垂れてきた。
すぐに<血魔力>を体から発しているキスマリがアキサダの横に近づく。
アキサダはキスマリが横にきたことで、体をビクッとさせていた。
「……」
それよりも紅奠一族か。
暗殺者の一族の気配が大広間に満ちていく。
彼らの存在そのものが、闇の中に潜む刃のような鋭さを帯びていた。
コグロウの大針を召喚した時の彼らの反応には、敵対していた藤襲一族の力を認める複雑な感情が垣間見えた。
俺が<禹仙針殺魔師>の戦闘職業の説明を見た時……。
※禹仙針殺魔師※
※敵対関係にある藤襲一族と紅奠一族の血継を持つ魔界八賢師キマゼルから<魔傑魂密術>を受けていた殺刻黒魔師コグロウから直に認められたコグロウの大針使いの証明※
※正式に藤襲・弧惧郎の血継衣鉢を受け継げる証し※
※藤襲一族の殺刻流暗殺武術継承者の証し<殺刻黒魔師>(魔印<フジガサネ>)※
※手刀、掌底、手高、単指、前腕、両足、針、大針、杭、判官筆、剣、槍による突き速度上昇と近接格闘術と武器操作技術の上昇※
※<闇透纏視>の精度が上昇※
※<隠身>、<魔絶>、<隠蔽術>、<無影歩>、<隠形法>、<衣鉢隠>などの気配殺しスキル全般の精度が上昇※
※サネハダ街道街※
※五番町三七ゲンジラ大通りの横町に藤襲門が存在し、藤襲門に入る資格がある※
と、あったことを思い出し、
「紅奠一族は暗殺者の一族だったな」
「「「はい」」」
コグロウの大針を右手に召喚。
紅奠一族たちは、
「おぉ、やはり……藤襲一族……」
「「「おぉ……」」」
と、ざわついた。
やや動揺したようなニュアンスで、俺のコグロウの大針を見る。
アキサダはコグロウの大針を持つ俺を持つことを知っているから驚いてはいない。そこでレンに、
「レン、その紅奠一族はレンの配下に?」
「はい、そうですが、シュウヤ様の配下でもあります」
「了解した。では、紅奠一族はレンの配下として、上草影衆たちに組み込むか? そのまま【峰閣砦】や【メイジナ大街道】と【サネハダ街道街】と【ケイン街道】の治安に使ってくれ」
レンは頷き、紅奠一族の者たちを見てからルミコを見る。
「はい、ルミコたちと連携させます、ルミコ?」
「はい、では」
ルミコの言葉後、傍に数組のダンサーと大太鼓を叩いていた大柄の魔技班が現れる。皆、頭部から布を垂らし、布で顔を隠している。
ルミコは、
「紅奠一族、アキサダの裏切りは罪深いですが、シュウヤ様たちに貢献しているので、貴方たちも有効活用されることになりました。今後は、上草影衆として活動してもらいますよ、また、シュウヤ様から紅奠一族の血継や魔界八賢師キマゼルについての質問があれば、知っている者が対応にあたるように、では、行きましょう」
紅奠一族の者たちは俺に向け、
「「「「ハッ」」」」
と発言し、頭を垂れると立ち上がり、ルミコの傍に寄る。
ルミコは「では、シュウヤ様とレン様、また」と、発言し、踵を返し離れていった。
ルミコの髪の稚児輪の房の形が可愛い。
両手首の黒い瑠袖の縁が宙に浮くと少し浮遊していた。
草履の爪先から魔力が零れていく。
そこでレベッカたちが、レンにリューリュたちに近づいて、
「レンたち、血文字でも言ったけど改めて<血道第一・開門>獲得、おめでとう」
「はい、レベッカさん。そして、エヴァさんにクレインさんにユイさんにキスマリさんも、眷族として精進いたしますので、よろしくお願いいたします」
「「「はい」」」
「ん」
「うむ」
「うん」
「当然さ」
「ん、血文字は重要」
「うん、ここから【魔命を司るメリアディの地】は遠いけど、血文字でアドゥムブラリやクナにミスティに連絡できる。そして、バーソロンや<従者長>ラムラントと<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノと連絡できるのは、大きい」
ユイの言葉に頷いた。
メルも、
「はい、眷族たちと瞬時に情報共有できるのは非常に大きい。そして、総長が、〝光紋の腕輪〟を装備したセラの眷族たちと、〝紅翼の宝冠〟と〝光紋の腕輪〟を肩の竜頭装甲が取り込んだ効果で、魔界からセラへと、狭間を越えた連絡が、魔次元の紐のように可能となるかのが、氣になります」
と、発言。
「あぁ、それはたしかに氣になるが、セラに戻ってからの話だな」
「はい」
「ん、〝魔次元の紐〟はバーソロンが二つ入手したって聞いた」
エヴァの言葉にバーソロンを見る。
「はい、ゲンナイ・ヒラガの大魔商から入手しました。シュウヤ様、どうぞ」
バーソロンから受け取った魔次元の紐は、一見すると薄い緑がかった白い紐だが、手に触れた瞬間から異質な存在感が伝わってきた。まるで生きているかのように微かに脈動する感覚さえ覚える。セラと魔界を繋ぐ架け橋の重要アイテムの重みが、手のひらに静かに広がっていった。
「これが魔次元の紐か」
その言葉を口にした瞬間、紐が微かに反応するのを感じた。
セラと魔界を繋ぐ架け橋となる重要なアイテムを手にした実感が、胸の奥で静かに広がった。
「はい」
戦闘型デバイスに仕舞った。
バーソロンはレンとリューリュたちを見てから、
「陛下、レンとデラバイン族の黒狼隊を<従者長>にして頂いてありがとうございます」
「おう、バーソロンのデラバイン族たちはがんばっているし、これからのメイジナ地方とバーヴァイ地方の発展のためには、将校クラスの良い人材は強くしないとな」
俺の言葉に皆が頷いた。
ユイが、
「うん、バーソロンは【バーヴァイ城】の守りを考えていると思うけど、その城には魔裁縫の女神アメンディ様がいるし、自由な魔皇獣咆ケーゼンベルスもいる。<従者長>となったツィクハルたちも強いから、これからは、わたしたちと一緒に行動するのもありよ」
ユイの言葉にレンとバーソロンとリューリュたちは視線を合わせて頷き合い、
バーソロンは、
「はい、【バーヴァイ城】は氣になりますが、たしかに皆がいる。ですから陛下の判断にお任せします。魔界やセラ、どこでにも移動は可能」
頷いた。そこに、
「レン様たち、<血道第一・開門>の獲得、おめでとうございます~」
「「おめでとうございます!」」
「めでたいめでたい」
「「ふぉふぉふぉ」」
「レン様に、リューリュたちが光魔ルシヴァルに!」
「羨ましい!」
模擬戦を見ていた面々から祝福の言葉だ。
【煉極組】のお爺ちゃんとお婆ちゃんたちと、黒鳩連隊隊長ソウゲン黒騎虎銃隊隊長シバと、その隊員たちと峰閣守衛隊の面々はレンたちを祝福していく。
騒ぎが一段落したところで、外の散策から戻ってきたメンバーとレンたちを見て、
「では、アキサダ、お宝の場所まで案内してもらう」
「ハッ、お任せを」
アキサダを先頭にぞろぞろと大楼閣を歩き始める。
レンは、太いワイヤーが目立つ円系のエレベーターは利用しないようで、階段がある方向に向かう。
両側に整然と並ぶ峰閣守衛隊の面々は、まさに、レン家の侍だ。
威厳を纏っていた。
彼らが一斉に掲げる斧槍は、光を受けて鈍く輝きながら古くからの伝統と誇りを物語っている。木製の階段を皆で下りていく足音が響くたびに【レン・サキナガの峰閣砦】の長い歴史を感じさせた。
【レン・サキナガの峰閣砦】の最上階だから、階段も結構長い。
レンたちが先頭に進む。
そのわずかに軋む足音が、この城の新たな歴史の一頁を刻んでいくような予感があった。
階段の後は廊下があり、大楼閣の内部の【煉極組】の<煉丹闘法>の研究者たちの部屋を通り抜けて、また階段を下りていく。
「ンンン、にゃ~」
「にゃァ~」
「ニャァ」
「ニャォ~」
相棒たちが先を下りていく。
そうして外が見渡せる巨大な昇降台が止まっている巨大な踊り場に到着した。
バーソロンは、
「陛下が氣にしておられた【メイジナ大平原】の【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】などにも向かいますか?」
その言葉に、かすかに魔軍夜行ノ槍業が反応、震えている。
『ふむ、私の祖先たちか』
と、断罪槍流イルヴェーヌ師匠の念話を寄越した。自然と頷き、歩いているバーソロンと皆に、
「そうだな、断罪槍流イルヴェーヌ師匠繋がりに、【忌丘神狼ハーヴェスト】と【双月ノ破壊碑マハハイム】に【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】と【ウラニリの大霊神廟】との共通点は調べる価値がある」
「「はい」」
レベッカが、
「アキサダ、荒神イギラムアの魔精地下堂の遺跡でもあるのよね」
「そうですぞ」
とアキサダが答えた。
ふと、前にアキサダが語っていた言葉を思い出した。
『……わしの人生でかき集めたマジックアイテムを埋めた場所が記してある』
と、上草連長首座の立場を利用した蒐集家でもあったアキサダ。
すると黒猫が「ンンン」と深い喉声を響かせながら神獣の大きさに変化。
同時に触手で皆を絡めて頭部と背に乗せていく。
漆黒の凜々しい神獣の姿は、いつ見ても格好いい。
その漆黒の体から伸びた触手の群れが、皆のことを大切な荷物を包み込むように優しく包み込むと自らの背に運んでいた。
その仕草には相棒ならではの気遣いが感じられた。
頭部と背に乗せられていく仲間たちの姿を見ながら、改めて相棒の成長を実感する。
「うぁ~」
「「きゃぁ」」
アキサダの驚きの声と、エトアたちの可愛い悲鳴が響く。
まだエトアたちは慣れないか。
銀灰猫は俺の左肩に乗ってきた。
「ンン、にゃァ」
と銀灰猫の鳴き声と共に跳躍し、神獣ロロディーヌの頭部に着地。
相棒はすぐに直進し、【峰閣砦】の巨大な踊り場から外に出た。
レンが、
「アキサダ、【サネハダ街道街】の近くの山道外れということですが、その場所の方角に腕を差してください」
「はい――」
アキサダが腕を差した方角に神獣ロロディーヌは察知し、その方角に直進した。
威風堂々と浮かぶ骨鰐魔神ベマドーラーの姿が目に入った。
その巨体の周りには、【マホロバの地】へと旅立つ予定の南華仙院の面々、そして明櫂戦仙女ニナとシュアノたちが待機している。
言葉を交わすには遠すぎる距離だが、笑顔のまま手を振る姿に少し魅了された。
アキサダのお宝を先に獲得することを優先するため、会釈を交わすだけに留めた。
相棒は直進し、【サネハダ街道街】の真上を飛翔していく。
下方には賑わいを見せる繁華街が広がっていた。
夜市の屋台から立ち昇る活気ある声と匂い、金物屋の軒先に並ぶ武具の輝き、魔道具店のショーウィンドウから漏れる神秘的な光――。
眼下には、この界隈ならではの喧騒が渦巻いていた。
通りを行き交う商人たちの姿も見える。
人族と似た魔族たちが、肩を寄せ合うように歩く姿は、この街の懐の深さを物語っていた。街道筋に並ぶ商家の瓦屋根が、夕陽を受けて赤く染まっていく。
時折、上空を見上げる者たちがいる。
東洲斎写楽のような絵柄の、武者絵に、大首絵の浮世絵の角凧が多くあげられていた。喜多川歌麿と似た絵柄の大首絵は、レンだと分かる。
俺と相棒と似た絵柄もあったから面白い――。
そして、皆、神獣の姿を目にしても特段驚く様子はない。
それだけ、この街に不思議なものが溢れているということなのだろう。
錬金術師の工房からは青い煙が立ち昇り、その隣には魔具師の看板が風に揺れている。古い街並みと新しい文化が混在する景色は、まさに【サネハダ街道街】そのものだった。
続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版発売中。




