千七百三十七話 リューリュ<従者長>になる、そして、<光闇の至帝>の獲得
〝レドミヤの魔法鏡〟を仕舞うと、
「「ンンン――」」
「ニャァ~」
「ニャォ」
相棒と銀灰猫と黄黒猫と白黒猫がバーソロンたちの足下を行き交い始めた。
すると、レン・サキナガが、相棒たちから離れて前に出て黒髪を靡かせながら、
「シュウヤ様、血文字である程度情報を得てますが、今のが新しい〝レドミヤの魔法鏡〟なのですね、二十八カ所の転移可能な場所の記憶が可能とか」
「おう、そうだ」
レンの衣装は前と変わらず。
和風と西洋風の要素を併せ持つ防護服。
太股に刻まれた「闘争:権化」「鬼化:紅」の刺青のような紋様が渋いし、かなり格好いい。ソウゲン隊長とシバ隊長も近くに控えている。
横にいるバーソロンが頬の炎を煌めかせながら、
「陛下、皆から聞いていると思いますが、破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの討伐と、メリディア様を復活を含めた数々の勝利、おめでとうございます!」
「「「おめでとうございます」」」
「おう、詳しくはヴィナとグラドとレンも〝知記憶の王樹の器〟で記憶共有してもらうか」
「「ハッ」」
「「はい」」
光魔騎士ヴィナトロスと光魔騎士グラドは厳かな様子だ。
バーソロンを見て、「当たり前だが、ここも変化はない」と発言しつつ【レン・サキナガの峰閣砦】の大楼閣を見ていく。
「ふふ、はい」
前と変わらず、差し込む光は天井の巨大なドームを通して神々しい輝きを放っている。ドームのプラネタリウムのような装飾が降り注ぐ光を虹色に分散させ、幻想的な空間を作り出していた。
バーソロンたちに、
「魔皇獣咆ケーゼンベルスは、ラムラントのバリィアンの堡砦かな?」
「分かりません、神出鬼没で時折、ここにきますが、バリィアンの堡砦を含めた、バーヴァイとメイジナの地方を駆けている。大半はメイジナ大平原とローグバント山脈とバーヴァイ平原を駆けているようですが……」
バーソロンは皆を見た。
ヴィナトロス、レン、リューリュ、ツィクハル、パパスは、頭部を左右に振るが、グラドが、
「ケーゼンベルスの魔樹海に戻ることも多いはず。皆の騎兵代わりになる黒狼たちの数を増やす計画を行っているのだ! と強い口調で、語られていました」
「へぇ」
グラドのモノマネが少し面白いが、番いのお見合いパーティでもやってんのかな、想像すると面白い。
そこで、レン・サキナガとバーソロンとリューリュ、ツィクハル、パパスを見て、レンが先だと考えていたが、先に彼女たちを<従者長>に迎えるか。昔、黒狼隊として暫し活動してくれたからな。
と、考えたところで、血文字が浮かぶ。
『陛下、お帰りなさいませ、チチルです。バーヴァイ城とバーヴァイ平原の近隣は平和な範疇。勿論、小規模な争いは魔傭兵集団の争いなどに、モンスターの襲来はありますが』
『了解した、蜘蛛魔族ベサンや百足魔族デアンホザーたちの動きは?』
『小規模ながら、纏まった動きはありますが、軍隊としてのしっかりとした動きはありません、蜘蛛娘アキ様たちに、ミューラー隊長たちも居ますし、なにより魔裁縫の女神アメンディ様がいますからね、恐らく、わたしたちが知らない間に様々な戦いが周囲で起きているはずです。あ、魔皇獣咆ケーゼンベルス様も時折、いらっしゃってくれています』
『おう、了解した。では、そのまま【バーヴァイ城】と地方を頼む。ソフィーやノノたちにも伝えておいてくれ、血文字は別段にいい』
『はい』
と、血文字で連絡を取っていると、皆が、
「バーソロンとレンに皆もご苦労様~」
「「はい」」
「血文字では何度も連絡したけど、やっぱ、こうして会って話すほうが実感はあるわね」
バーソロンはレベッカ、ユイ、キサラ、イモリザ、ルシェル、ルビア、ラムーに続いてヴィーネとも握手をしてはハグをしていった。
エヴァは血文字で、<従者長>ラムラントにメッセージを送り出す。
キサラも、バーヴァイ城にいるソフィーたちに血文字を送っていた。
すると、シャナが、
「皆様、セラからついてきているシャナです、よろしくお願いいたします」
「はい、シャナさん、よろしく」
「はい」
続いて、風の女精霊ナイアと古の水霊ミラシャンが、
「皆様、初めまして、風の精霊ナイアです。【メリアディの命魔逆塔】で、再生され、眷族となりました、これからもよろしくお願いいたします」
「皆様、古の水霊ミラシャンです――」
そして、ママニやメルにビュシエとクレインに次々に皆と挨拶を交わしてく。
すると、黒猫が、レンの足下に優雅に歩み寄った。
「にゃ~」と小さく鳴いては頭部をレンの脛に当てては、レンの足の匂いを嗅いでいる。レンは微笑みながら黒猫を見つめ、
「神獣様たち活躍もバーソロンたちから聞いていましたよ」
「にゃ~」
「レンとリューリュ、ツィクハル、パパス、早速、眷族化の約束を果たそうと思うんだが」
「え、はい!」
「「はい!」」
「では、閣下、《水幕》――」
ヘルメが早速、レンとリューリュ、ツィクハル、パパスの周りを《水幕》で囲ってくれた。
<血道第五・開門>を意識し、発動。
<血霊兵装隊杖>も発動させた。
血の錫杖が出現。
「では、リューリュから<従者長>に迎えようと思う」
「「はい」」
「ハッ」
「ご主人様、<血道第七・開門>を得て、神座:神眷の寵児を得たことで、眷族の数は増加したのでしょうか」
「あぁ、枠は増加していると感覚で分かる。<筆頭従者長>が三十で、<従者長>が三十五だ」
「「「「おぉ」」」」
「もう眷族だけで、一つの軍隊だな」
「では、シュウヤが眷族化を行うまで、俺たちは少し離れていようか」
「「はい」」
「にゃおぉ~」
「ンンン」
ハンカイたちは離れた。
「では、リューリュ近くに、<光魔の王笏>を発動する。<従者長>に迎えよう」
「はい!」
近づいたリューリュに向け<光魔の王笏>を意識し、発動した。
体から大量の光魔ルシヴァルの輝きを帯びた血が噴出し、周囲に広がって、リューリュの体を飲み込んでいく。俺たちを中心に大楼閣の一部の空間を血で満たした。
血の領域は不思議な静寂を湛えながら、生きた存在のように波打つ。
その深みには光魔ルシヴァルの古の力が潜んでいると分かる。
血の表面には幾何学的な紋様が浮かんでは消え、その模様は眷族たちの絆を表すような複雑な形を描いていく。
<血魔力>から冷たい圧力染みた畏怖を感じた。
その血海の中心でリューリュは立ち泳ぎを行いながら口と鼻から大量の空気と銀色の魔力粒子が零れ出ては、子宮を模るように優しくリューリュを包み込んでいく。
血の領域の外、《水幕》の外側から見守っているキサラたちが演奏を奏で始めた。
ダモアヌンの魔槍をギターにしての和風な三味線ロック。
ハスキーボイスでリューリュの鼓動を表現するかのような高揚感を持たせながらの絶妙な魔声に鳥肌が立った。イモリザとシャナも歌い始める。
三人の歌声が光魔ルシヴァルの血に共鳴し、血の海に小さいルシヴァルの紋章樹が無数に出現しては消えていく。同時に血の錫杖がリューリュの周りを巡りに巡り、鐶が硬質な音を鳴り響かせた。
血の錫杖から波紋が幾つも発生し、血の世界に浸透していく。
波紋と触れたルシヴァルの紋章樹は色付きながら儚く消えていった。
その波紋はリューリュの体にも衝突し、体に光の筋が現れては消えるを繰り返す。
デラバイン族に代々受け継がれてきた炎の紋様が生命を持つかのように脈打ちながらリューリュの肌に浮かび上がっていく。
紋様は古の血脈を示す螺旋を描きつつ光を放ちながら広がった。
魔炎神ルクスの加護を示す朱色の光か。
その光は次第に増していく。炎の模様から立ち昇った幻想的な炎はリューリュの背後で翼のように広がり、やがて炎の戦士の姿を形作っていった。その姿はリューリュの持つ黒狼隊としての誇りと重なり、より厳かな威厳を帯びていく。
炎の戦士の手に握られた魔剣からは、デラバイン族の血を象徴する紅蓮の炎が螺旋を描いて立ち昇り、その渦は魔炎神ルクスの神威そのものを体現するかのようだった。剣身には古の契りを示す文字が浮かび上がり、その輝きは血の海をも染め上げていく。
無数の小精霊たちも出現。
炎の戦士は、血の世界と小精霊たちに混じるように消えながら、リューリュの黒髪を優しげに撫でていく。
一部は彼女の体の中に血の流れと共に吸い込まれた。
続けて水鴉たちと血の精霊ルッシーたちも出現し、リューリュの周りで踊りを始める。水鴉たちの口から放たれる波紋を浴びたリューリュは体内の魔力を増幅させていく。
宝船に乗った血妖精ルッシーも現れ、周囲の血妖精たちと小精霊たちは背後に並んで行進を始めた。水鴉の一部はリューリュの体に突入し、残りは血の流れに乗って飛翔を続ける。
やがて腰に注連縄を巻く小精霊が現れ、司祭の衣装を纏って皆の前に立つ。血妖精たちも歌唱隊のような装いに変化し、祝福の歌を歌い始めた。
その歌声と共に大きいルシヴァルの紋章樹が出現。
ルシヴァル紋章樹の幹が脈打つように震え、銀色の葉と花が一斉に舞い上がる。リューリュの体から放たれる魔力の糸が炎の紐のように宙を舞い、血の海と共鳴していく。
幹には太陽のような輝きが宿り、左右に伸びた枝には銀色の葉と花、様々な勾玉の果実が生まれては、宙空に散っていく。
樹の頂は陽を、根は陰を表すように光り輝いた。
樹の根がリューリュの体に絡みつき、体が半透明となって、ルシヴァルの紋章樹と一体化ように重なり合う。
銀色の魔力が全身とルシヴァルの紋章樹を巡り、光の筋となって現れては消えていく。
半透明なリューリュはルシヴァルの紋章樹に身を委ねる。
と、目の前に陰陽の図が造られ、俺の体と融合。
ルシヴァルの紋章樹とリューリュが重なっている幹から、榊のような棒が飛び出た。それを掴んで、リューリュの体を祓い撫でる。
神聖な力を帯びた榊が、リューリュの体から古い因果を解き放つように、優しく撫でていく。その度にデラバイン族の血と光魔ルシヴァルの血が調和を見せ、彼女の肌には新たな契約の証となる光の筋が生まれては消えていく。
恍惚とした表情を浮かべたリューリュ。
榊の先端から放たれる銀色の光は月光のように清らかで、しかし太陽の力強さをも秘めていた。
更に血の線から数学染みた暗号のような文字が宙空に現れ消えると榊のような棒はリューリュの体に取り込まれた。
ルシヴァルの紋章樹と幹と無数の枝と葉の合う位置に<筆頭従者長>を意味する大きな円が現れて、
第一の<筆頭従者長>ヴィーネ――。
第二の<筆頭従者長>レベッカ――。
第三の<筆頭従者長>エヴァ――。
第四の<筆頭従者長>ユイ――。
第五の<筆頭従者長>ミスティ――。
第六の<筆頭従者長>ヴェロニカ――。
第七の<筆頭従者長>キッシュ――。
第八の<筆頭従者長>キサラ――。
第九の<筆頭従者長>キッカ――。
第十の<筆頭従者長>クレイン――。
第十一の<筆頭従者長>ビーサ――。
第十二の<筆頭従者長>ビュシエ――。
第十三の<筆頭従者長>サシィ――。
第十四の<筆頭従者長>アドゥムブラリ――。
第十五の<筆頭従者長>ルマルディ――。
第十六の<筆頭従者長>バーソロン――。
第十七の<筆頭従者長>ハンカイ――。
第十八の<筆頭従者長>クナ――。
第十九の<筆頭従者長>ナロミヴァス――。
第二十の<筆頭従者長>ルビア――。
類縁関係と派生関係などを意味するように枝分かれた樹状図として出現。芸術的に光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹が展開される。
第六の<筆頭従者長>のヴェロニカの名を刻んでいる円の縁から別の線が系統樹として、小さい円へと繋がっていた。
その小さい円の中には<筆頭従者>メルと<筆頭従者>ベネットの名が刻まれてある。
第十六の<筆頭従者長>バーソロンの名が刻まれている円の縁からも線が系統樹として小さい円に繋がっていた。
その小さい円の中には、<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノの名が刻まれてあった。
第十九の<筆頭従者長>のナロミヴァスの円からも闇の悪夢アンブルサン、流觴の神狩手アポルアの魔印は繋がっている。
それとは別の小さい円がある。
樹の造形が生かされた意匠が非常に美しい。
<従者長>カルード――。
<従者長>ピレ・ママニ――。
<従者長>フー・ディード――。
<従者長>ビア――。
<従者長>ソロボ――。
<従者長>クエマ――。
<従者長>サザー・デイル――。
<従者長>サラ――。
<従者長>ベリーズ・マフォン――。
<従者長>ブッチ――。
<従者長>ルシェル――。
<従者長>カットマギー――。
<従者長>マージュ・ペレランドラ――。
<従者長>カリィ。
<従者長>レンショウ。
<従者長>アチ。
<従者長>キスマリ。
<従者長>ラムラント。
<従者長>エトア。
<従者長>ラムー。
<従者長>の位置に小さい円が生成された。
続いて、光魔騎士などの名が刻まれている円が出現。
光魔騎士デルハウト、シュヘリア、グラド、ファトラ、ヴィナトロス。
バミアルとキルトレイヤの木彫り、ナギサ、ミレイヴァル、イモリザとツアンとピュリンの木彫りとフィナプルスの彫り、<古兵・剣冑師鐔>のシタン、ヘルメとグィヴァ、古の水霊ミラシャン、風の女精霊ナイアの印と形が精巧な彫像と成って現れていた。ナイアは指輪と一体化し、風神セードの魔印もある。<魔蜘蛛煉獄王の楔>の蜘蛛娘アキ、クナの本契約の魔印のような彫りの模様は消えていない。
毎回だが、光魔ルシヴァルのデンドログラムだ。
すると、系統樹に<従者長>の新しい円の中にリューリュの名が古代語で刻まれた刹那――。
首筋から鎖骨にかけて浮かび上がった炎の紋様が発生していく。血の海が共鳴して波打ち、その波紋は黒狼の群れが駆け抜けるような模様を描いていく。
ルシヴァル紋章樹との共鳴を始めた。
リューリュの瞳が開かれると、炎のような輝きが宿っている。
全身の魔力が爆発的に高まり、周囲の血の海と紋章樹が一気に彼女に吸収されていく――光と血が消えた瞬間、意識を失って倒れかけるリューリュを抱き止めた。
ピコーン※<光魔の王冠>※恒久スキル獲得※
「リューリュ!」
リューリュは苦しそうに息を吐き、「陛下……」と、血を求めるように首筋に顔を寄せてきた。デラバイン族の力と光魔ルシヴァルの血が溶け合い、新たな力を得た証か。
氣を失っていたリューリュは目を開ける。
「いいぞ、血を吸って」
「はい……え、陛下の頭上に血に輝く王冠が消えて現れている……」
「いいから、血を吸え」
「はい」
リューリュが俺の血を吸い取った刹那――。
俺の<光魔の王笏>と<光魔の王冠>が反応したように、体内から鼓動が走る、王笏と王冠が共鳴を始めたようだ。体から<血魔力>が放出され、それから螺旋状の光が立ち昇る。
「この力……」
血の海すべてが息づくように、幾重もの波紋が広がっていく。
光と闇が交差する中、血の海から無数の光の糸のようなモノが真上に向かって伸びては、血の海は金と銀の渦となって巻き上がる。
二つの力が体の中で交差し、より深い力となって昇華されていくと理解できた。
光と闇の力を感じるまま魂が研ぎ澄まされていく調和を感じた直後、血の魔印が次々と浮かび上がる。眷族たちを意味すると分かる。
王笏と王冠の力が溶け合い――より深い血の契約が結ばれる。
眷族たちの魔力が共鳴したように不思議な鐘の音が響いた刹那――。
ルシヴァルの紋章樹が真上に出現し、前例のない輝きを放った。
デラバイン族の炎紋様、光魔騎士たちの紋章、そしてすべての眷族たちの魔印が交差し、複雑な幾何学模様を描き出す。
刹那、眷族たちの魔印が一斉に輝きを増し、彼らの力が新たな高みへと到達したと理解――。
ピコーン※<光魔の王笏>と<光魔の王冠>が融合されます※
※<光闇の至帝>※恒久スキル獲得※
おぉ、新たな力を得た。
光の渦が収束し、新たな力を得た証しとして、血の海全体が一瞬だけ紅蓮の炎に包まれ、ルシヴァルの紋章樹が降りかかって消える。
「この力に、陛下……の新しい力は……」
傍らのリューリュが震える声で呟く。
「あぁ、<光魔の王冠>を得て、<光魔の王笏>と融合し、<光闇の至帝>を獲得した」
続きは明日、HJノベルス様から書籍、「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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