千七百三十四話 魔皇碑石や魔大戦雷轟剛鳳石の入手
立食パーティを終えたところで、ハープとフルートの音色が静かに響く大広間にヴァーミナ様の声が響いた。
まだ手に持っていた魔酒入りのワイングラスを下ろしながら、
「槍使いとメリディア、早速だが、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】の西に妾を送ってくれるとありがたい」
新たな同盟を結んだばかりだが、悪神デサロビアとの争いは【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】では、今も行われているからな。すぐにでも帰還したい気持ちは分かる。
元天魔帝メリディア様が、
「はい、【メリアディの命魔逆塔】で【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】の領域の手前までは移動が可能です」
その声には【メリアディの命魔逆塔】の機能への自信が感じられた。シャンデリアの紅玉の光がメリディア様の金髪を優しく照らす。
「ふむ」
「皆様、お待ちを、シュウヤ様、メルさんたちから話を聞きましたが、狭間越えのために、己の神格をエネルギー源に返還可能なアイテムをお探しと聞きました」
メルたちも頷いている。
「はい、必要です」
「良かった、神界の楽譜に楽器もありませんが、魔皇碑石などは無数にあるので、一先ず――」
魔命を司るメリアディ様はそう語ると、シャンデリアの紅玉の光が床に描く模様を踏むように歩き出した。
アムシャビス族の将校たちは主の動きを察するように左右に分かれる。
広がった空間で魔法の袋を召喚すると、大広間の魔力の流れが一瞬変化した。
その魔法の袋から取り出された巨大な石碑は、それぞれが異なる輝きを放っている。
緑、赤と黒、蒼と赤、そして黄色の光が交錯し、大広間の紅玉の光と美しく溶け合う。
石碑の表面を走る溝の中を魔力が行き交い、古の力の痕跡を感じさせた。
「赤と黒が魔皇碑石、蒼と赤が魔大戦雷轟剛鳳石、緑が新古代碑、黄が太古の土霊碑です。すべてを差し上げます」
その言葉に込められた意味の重さに、大広間の空気が震えた。
緑に輝いている石碑が、新古代碑か。
赤と黒に輝く石碑が、魔皇碑石。
蒼と赤に輝いている石碑が、魔大戦雷轟剛鳳石。
黄に輝く石碑が、太古の土霊碑か。
「「「おぉ」」」
「すごい!」
「ありがとうございます、これで狭間を越えることができる」
「……はい」
メリディア様は微笑みながら言ってくれたが、少し悲しげな表情を浮かべていたような氣がした。
その表情には、ルビアとメンノアとアドゥムブラリなどに向けられている感情だろう。
また、代わりに得られる未来への期待も混ざっているように感じた。
メリディア様に感謝に、ラ・ケラーダの挨拶を行ってから、
「では、遠慮無く、頂きます――」
赤と黒が魔皇碑石と、蒼と赤の魔大戦雷轟剛鳳石と、緑の新古代碑と、黄の太古の土霊碑を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。
すると、シャンデリアの紅玉の光が少し強まった?
古の力の移動を見守るかのように思えた。
「ご主人様、やりましたね!」
「ん、おめでとう」
「陛下、おめでとうございます! これでセラとの行き来が楽になりました」
<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスの言葉に頷いた。
皆の声には純粋な喜びが溢れている。
「うむ、石碑は単なる力の象徴ではなく、二つの世界を繋ぐ架け橋となるものだからな、重要だ」
ハンカイの言葉に頷いた。
「神格を得て強くなるのも嬉しいけど、惑星セラの皆も大事だからね」
「ふふ、ファーちゃんたちの樹海への案内も楽にできる」
「ふふ、はい、ありがとう」
ファーミリアとレベッカの言葉だ。
ファーちゃん呼びになるとは思わなかったが、皆も嬉しそうだ。その皆を見て、
「あぁ、そうだな」
と発言。アドゥムブラリたちも魔酒入りのグラスを持ち上げ、「「おう」」と返事をしてくれた。
すると、メリディア様が、
「神格削りを行っても、また魔皇碑石に触れて魔力を送れば、その神格は再び得られますからね」
「え、そうなのですか、太古の土霊碑などに封じた神格は元に戻せるということでしょうか」
皆が、魔命を司るメリアディ様とメリディア様やヴァーミナ様に魔界騎士ハープネス・ウィドウを見やる。
ヴァーミナ様は頷いて、元天魔帝メリディア様と魔命を司るメリアディ様も頷く。
魔界騎士ハープネス・ウィドウは魔酒を飲みながら、魔竜たちと談笑していた。
魔竜ハドベルトと幼竜のイースはドラゴン用の背の高いグラスに口を付けている。相棒たちとは異なる高級食器の数々が、彼らの前に並べられていた。
相棒たちとは異なるドラゴン用の高級食器か。
魔命を司るメリアディ様は母を見やり、メリディア様は微笑んで頷く。その仕草には『貴女が説明を』という意図が込められていた。長年離れていても、母娘の呼吸は自然と合っている。
娘の魔命を司るメリアディ様は、
「はい、ただし、そうした神格を刻み保存された魔皇碑石などの秘跡は傷場と同様に、争いの的になりますから……」
その言葉に込められた警告の意味を理解するように、ヴァーミナ様と母のメリディア様、そしてクーフーリンと魔界騎士ハープネス・ウィドウ、ヴィーネたちの視線が交錯した。
ヴァーミナ様は、
「諸侯も当然狙う。【ボフラの燐地】などが有名か。新しい盤が生まれるごとに様々な魔皇碑石が誕生する」
「はい、その地域での、争いは昔から激しいですね」
「「はい」」
魔界騎士ハープネス・ウィドウが、
「燐地か、魔力の源となる魔皇碑石が戦っている最中にも誕生することがあるからな、それを利用する戦術も編み出されたと聞くぜ」
と、発言。魔界の複雑な力関係が垣間見える。
悪夢の女神ヴァーミナ様は、魔界騎士ハープネス・ウィドウを少し睨むように凝視、ハープネスは、両手を拡げて、『なんで責めるような視線を寄越す?』と言うような態度を取った。
そのヴァーミナ様は俺とハープネスを見比べ、何か言いかけたが結局沈黙を選んだ。大広間の空気には、まだ語られていない多くの物語が漂っているようだな。
メリディア様は、
「シュウヤ様、ですから神格を封じた新古代碑などは、アイテムボックスか時空魔法を使い、本人が持つか、眷族に渡したほうが良いでしょう」
神格を保存した魔皇碑石を持ち運べるならアイテムボックスが最適だ。特にセラへの移動を考えると――。
「分かりました」
「しかし……」
と、メリディア様は俺に注意するように、間を空け、
「惑星セラに、その神格、神座が刻まれ内包されている新古代碑をアイテムボックスから外に出した場合、魔神具の暴発よりも酷いことになります。最低でも傷場が生まれるような大規模な爆発的な大災害が起きることになる」
それはきついどころではないな。
「……」
皆も沈黙した。
大広間は静寂に包まれた。アイテムボックスに保管し、魔界に残る眷族に預けるのが最善策だろう。
「はい、ですから、魔界に残すか、優秀な大眷族と精霊たちに守らせるか……一時的に受け継がせたほうがいいかもですね。時折、大眷属が神意力を活かした攻撃を繰り出しますが、その神格、神座を得ているから可能なのです。また、神格自体を隠す<秘匿術>を使う方法もありますが、秘匿したところで、セラの狭間は越えられませんから、魔界ではあまり意味がないので、もう廃れて久しいです」
「魔命を司るメリアディ様とメリディア様、貴重な情報をありがとうございます」
「「はい」」
そこで、元天魔帝メリディア様とヴァーミナ様たちを見て、
「では、ヴァーミナ様を【メリアディの命魔逆塔】で【グルガンヌ大亀亀裂地帯】の西に送りますから、戻りましょうか」
「分かりました。では、メリアディ、クーフーリンはここに残すので、【魔命を司るメリアディの地】を頼みますよ?」
「はい」
「メリディア様……」
「ブブゥ」
クーフーリンは淋しそうな表情を浮かべている。
魔皇馬ハーフニルは魔息を吐いた。
メリディア様は、
「ふふ、百戦錬磨のクーフーリンにハーフニル、永遠に別れるわけではないのですから、すぐに行って帰ってきます」
「はい、お任せを」
「ヒヒィーン」
「ふふ、はい。シュウヤ様、〝レドミヤの魔法鏡〟を使いますか?」
「あ、この大広間を〝レドミヤの魔法鏡〟で記憶しても?」
俺の言葉に、魔命を司るメリアディ様は、
「はい、あ、その〝レドミヤの魔法鏡〟とは、転移用のアイテムですよね?」
「そうです」
「大丈夫です、使ってください」
頷いた。
早速、〝レドミヤの魔法鏡〟を取り出して設置。
<血魔力>を〝レドミヤの魔法鏡〟に注いで、
〝レドミヤの魔法鏡〟の鏡面に刻まれた古代の文字が輝きながら魔力が照射された、その魔力が大広間の床に衝突。
【メリアディの書網零閣】
【ルグファント森林】
【ヴァルマスクの大街】
【アムシャビス族の秘密研究所の内部】
【メリアディの荒廃した地】
【エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】
new【メリアディ要塞の大広間】
と、記憶できた。
〝レドミヤの魔法鏡〟の転移可能な場所は合計二十八カ所。着実に埋まっていく。
「ンン、にゃおぉ~」
「にゃァ」
「ワンッ」
話を聞いていた黒猫たちが集まってきた。
黒猫は黒豹へと変身した。
銀灰猫も銀灰の虎に変化。
銀白狼と子鹿は小さいまま、ママニたちの傍にいる。
「では、皆、戻ろうか、〝レドミヤの魔法鏡〟を使う」
「「「「はい」」」」
「ピュゥ~」
「パキュルゥ~」
法魔ルピナスは急降下、俺の足下に頭鰭を付けてくる。
ヒューイはエヴァの魔導車椅子の取っ手に着地。
〝レドミヤの魔法鏡〟に魔力を注ぐ。
【アムシャビス族の秘密研究所の内部】を選択した。
すると、その〝レドミヤの魔法鏡〟から魔力が零れて、零れた先の空間がアムシャビス族の秘密研究所の内部に変化した。
〝レドミヤの魔法鏡〟が開いた転移門の向こうには、アムシャビス族の秘密研究所の内部が広がっていた。
【メリアディ要塞】の大広間の空間との境目は揺れに揺れている。
「皆さん、入りましょう」
「にゃ~」
「「「はい」」」
「先に行きます」
「お先~」
「ふむ、槍使い、後で――」
と、メリディア様たちが次々に入る。
ヴィーネが最後に残り、俺に手を差し伸べた。
その表情と、細長い綺麗な手を見て、これからの道のりへの決意が込められていると感じた。
「ご主人様、〝レドミヤの魔法鏡〟の集団移動も楽のようです」
「おう――」
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