千七百三十一話 死神槍ベイカラと空間転移の刻
<闘気玄装>以外の<魔闘術>系統を解除し、
「名は、そのまま死神槍ベイカラだ――」
戦闘型デバイスのアイテムボックスから、死神槍ベイカラを取り出す。
皆に、その魔槍を見せてから<握吸>を実行し、柄の握りを強めた。
槍全体が、俺と共鳴するように、かすかに震えた。
手に馴染もうとしている感じはある。
柄に掌が付いたような感覚のまま風槍流『右風崩し』の構えを取った。
死神槍ベイカラから桜のような花弁の形をした白銀の魔力が舞う。
穂先の死神の紋様が月虹を帯びたように輝く。
その光は冥界の力を宿しているかのような威厳を放っていた。
これで突いたら突いた相手の精神力、魔力、体力などを吸い取りそうだ。
吸魂の効果もあるかな……。
さすがにすべての魂は吸えないだろうとは思うが、専用の<魔槍技>はあるだろう。ラムーに鑑定してもらうのはありだが、一先ずは、この死神槍ベイカラを少し体に馴染ませつつ、【メリアディ要塞】行きを急ぐか。
「……はい、穂先の紋様といい螻蛄首と柄の意匠に、白と紫が基調とした柄も美しい」
「柄からユイの<死神ノ聖戦衣>の装備似た紋様と花弁も浮いています」
ヴィーネとキサラの言葉に頷いた。
ユイも「――うん」と<死神ノ聖戦衣>を発動させながら、俺の横に並び「わたしの<死神ノ聖戦衣>の装束と連動しそう」と発言、左右の手にアゼロスとヴァサージの魔刀を握り、口近くのホルダーに神鬼・霊風を召喚している。
「シンプルにお洒落で、格好いい」
「ん、ユイとの連携と新技が期待。そして、シュウヤの<血想槍>が、また強くなった」
「はい、得物の数だけ威力も跳ね上がる<血想槍>。しかし、<血想槍>自体も、相当に奥が深そうです」
槍使いのキサラは、的を射る。
頷いた。無数にある槍で微妙に差が出るし、槍技のスキルも多種多様だからな。
「でもさ、やっぱり、神魔の女神ちゃんが宿る魔槍杖バルドークと、秘密の神槍ガンジスを愛用しそう」
「そうね、強そうな八尖魔迅両刃槍を地下オークションで買っては少し使っているけど、なんだかんで魔槍杖バルドークって印象」
レベッカとミスティの言葉に頷いた。
たしかに、その通り、<紅蓮嵐穿>と<魔狂吼閃>だけを取っても突きと一閃だ。他にも<血霊魔槍バルドーク>で神魔の女神を呼び出せるし、<覇霊血武>の<魔闘術>系統は装甲にもなる。
すると、見守っていた悪夢の女神ヴァーミナ様が、
「死神槍ベイカラ、素で吸魂の効果、魔力に体力の吸収がありそうな魔槍に見える」
「はい、それはあると思います――」
前に出て風槍流『焔突き』を行いながら<刺突>を行う――
そこで、左足を引き体を開くように半身から――<豪閃>を繰り出し爪先半回転を行い跳躍し、<魔仙萼穿>を行う――。
右腕ごと槍になったように死神槍ベイカラを突き出した。
穂先は地面スレスレで止まる――。
死神槍ベイカラを戦闘型デバイスに仕舞い、身を捻って、皆を見て、
「――では、地上に戻り【メリアディ要塞】に向かいましょうか」
「「「はい」」」
一応、【闇の教団ハデス】の定紋を出して魔力を込める。
と、【闇の教団ハデス】の定紋から出た魔線は、欠けている闇神ハデスに神像に向かうが、くっ付かない。そこでキュベラスを見て、
「このハデス様の彫像だが、キュベラスたちの意見があるかな」
「氣にせずに、魔界も広いですからね、【闇の教団ハデス】の魔族たちの関係者以外にも、ハデス様の神殿、遺跡は豊富にあるはずです。ただ、闇神リヴォグラフの影響で、ほぼ廃れています」
「なるほど、イヒアルスや炎極ベルハラディにドマダイやヒョウガも同意見か?」
「「「ハッ」」」
「はい、【闇の教団ハデス】の盟主シュウヤ様だからこそ、【闇の教団ハデス】の定紋が機能し、欠けている彫像も反応しているのでしょう」
六眼の豹獣人のヒョウガの意見に頷いた。
ヒョウガさんと呼びたくなる位に、厳ついが、かなり渋くて格好いい獣人系の魔族だ。
「了解した。では、冥界の庭に戻ろうか。俺はちょい相棒を探してくるから、数十分後、出発ってことで、皆は先に【メリアディ要塞】に戻っててくれ」
「「はい」」
そこで駆けた、来た地下道を戻った。
階段を上り跳躍、片足で、上の段を突き、また跳躍。
<武行氣>と<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>を意識し、発動しながらホップステップハイジャップ――。
温度が上昇し、地下独特の空気感が安らぐ、階段の左右の壁に発生している紅の明かりから暖かさを得た。と、――森や土に匂いに風が身を吹き抜けていく――冥界の庭に戻った。
小屋の前には大量の薪と乾し草が置いてある。
切り株に斧に鎖と縄などもあった。それらを見ながら降下し着地。
小屋にはベイカラ教団の大導師が住んでいた名残と思われる印があるが、相当に古い。死神ベイカラの力が大半だと思うが、死神槍ベイカラは、大導師が残した書物を起点にしていたはず。
大導師は相当な魔族だったに違いない。
と、ラ・ケラーダの挨拶を、小屋に行う――。
そして、冥界の庭を見ながらアイテムボックスから〝レドミヤの魔法鏡〟を取り出して、置いてから魔力を注いだ。
〝レドミヤの魔法鏡〟の鏡面に刻まれた古代の文字が輝きを放つ、
と、魔力が照射され、【エルフィンベイル魔命の妖城】の冥界の庭の地面に衝突した――途端に、
【メリアディの書網零閣】
【ルグファント森林】
【ヴァルマスクの大街】
【アムシャビス族の秘密研究所の内部】
【メリアディの荒廃した地】
new【エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】
よし、記憶できた。
この〝レドミヤの魔法鏡〟の転移可能な場所は合計二十八カ所だからかなり便利だ。〝レドミヤの魔法鏡〟を仕舞う。
既に持つ、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡と二十四面体のパレデスの鏡と、〝闇遊ノ転移〟での転移に、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスの〝樹海道〟を利用すれば、かなり広範囲に魔界セブドラを移動ができる。
今度、【レン・サキナガの峰閣砦】に設置した二十四面体のパレデスの鏡:十六面は回収し、〝レドミヤの魔法鏡〟に【レン・サキナガの峰閣砦】を記憶させるかな。
いつかは、【バードイン城】や【バーヴァイ城】と【ケーゼンベルスの魔樹海】に【バリィアンの堡砦】と【レイブルハースの霊湖】も記憶しとくかな。
そんなことを一瞬で思考しつつ浮上していく。
そのまま上昇をし【エルフィンベイル魔命の妖城】を俯瞰するように城壁に並ぶロングボウ兵たちを見ながら、外の景色を堪能した。
と、古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラーから、
「グォォォォ~ン」
「ボォォン」
鳴き声が響いてくる。
俺の浮上に合わせて、巨大な頭部をこちらに向けてくれたか。
――図体はかなり巨大で、戦いの時は勇ましいが、あの動きを見ると結構可愛い。
と、古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラー付近から更に遠くの【エルフィンベイル魔命の妖城】の前方に広がる元城下町に古いアムシャビス族の遺跡と、バフィマウト平原やトーチマス平野を見ていった。
【メリアディ要塞】はあちら側だ。
紅に照らされた城下町にはアムシャビス族の遺跡が点在し、その一つ一つが歴史の証人のように静かに佇んでいる。
バフィマウト平原やトーチマス平野は戦いの傷跡を残しながらも、新たな時代の幕開けを予感させるような生命力に満ちていた。
最初にここに来た時とは、城下町の様子も結構異なる。
戦争の爪痕は激しいが、永い戦いを終わらせることができたと実感できる光景だった。
「ピュゥ~」
荒鷹ヒューイの鳴き声が風を切るように響く。
滑空する姿は優美そのもの。翼を大きく広げ、風を読むように接近してくる。
その荒鷹ヒューイと通じているように右肩の衣装が変化し、肩の竜頭装甲がポンッと出現し「ングゥゥィィ」と、いつもの鳴き声を発した。
古からの友と再会したかのような喜びの声に思えた。
ヒューイは、俺と肩の竜頭装甲に氣付き、滑空するように近づいて来る。
そのヒューイは両足を突き出してきたから、俺も、そのヒューイを出迎えるように右肩の竜頭装甲を前に突き出した。
ヒューイは大きい翼を精一杯に拡げ速度を急激に落とし、嘴を拡げ、可愛い舌を見せながら「キュキュッ――」と鳴きつつ両足の爪で肩の竜頭装甲を掴むようにズンッと着地した。
少し振動したが翼を畳めたヒューイは目を輝かせ、
「――キュィ!」
と、挨拶しながら頬を小突いてくる、少し痛い。
すると、俺の頬と顎に、小さい頭部を擦り付けて甘えてきた、可愛い。
黒猫の影響か。
そのヒューイに、
「おう、ヒューイ、ルピナスと相棒たちはどこいった?」
と、聞くと、頭部を引いたヒューイ。
つぶらな瞳で俺を見てきた。
ヒューイの眉毛が、またチャーミング。
∴の一つ一つが麻呂っているのが、なんとも言えない。
「キュイ、キュ~」
荒鷹ヒューイは翼をばさばさと羽ばたかせ、肩の竜頭装甲から離れて飛行していく。
【エルフィンベイル魔命の妖城】の厩舎にいるかと思ったら、城の西の城壁の隅っこに向かう。
見つけた。城壁の内側、櫓と地続きの歩廊の赤い屋根の上か。
そこには、他にも野良猫たちが大量に休んでいる。
高い段差を跳躍しながら登ったと推測できる城壁の赤い屋根の上で、相棒たちは優雅に寛いでいた。
黒猫は魔皇馬ハーフニルの背で丸くなり、銀灰猫と黄黒猫は尻尾を絡ませ、まるで絵画のような風景を作り出している。野良猫たちは、黒猫たちのことを氣にしてない。
もう仲間となったんだろう。
大きい鹿魔獣ハウレッツに法魔ルピナスもそこにいる。
ヒューイと共に、その赤い屋根に着地し――。
「相棒たち、探検や大冒険はまだまだやりたいと思うが、戻ろうか」
「ンン、にゃぉ、にゃぁ~~」
「ンン、にゃァ」
「ニャァ」
「ニャオ~」
「ワンワンッ!」
「グモゥゥ~」
「パキュルルゥゥ~」
「ヒヒィーン」
「キュゥ~」
黒猫は魔皇馬ハーフニルから離れて、大きい黒虎に変化。
銀灰猫も銀灰の虎に変化し、銀白狼も大きくなった。
その黒虎が跳躍しながら触手を寄越してきた。
その触手を掴むと、触手が収斂し、相棒の背に運ばれるまま、跨ぐと、「ンン、にゃおぉ~」と駆けた。
黒虎は跳躍。
重力すら無視するごとく【エルフィンベイル魔命の妖城】の城壁から外に出て、巨大な壕を飛び越えた。
端から見たら、まさに、神獣の挙動だろう。
と、城下町に出てしまったが、すぐに跳躍し、グンッとした衝撃はないが、かすかなGを感じさせる勢いで跳び、瞬時に【メリアディの命魔逆塔】の頂上に着地。
「にゃごぉぉ~」
「――ドヤ顔だと思うが、ロロさんよ、ここは頂上だ、下に降りようか」
黒虎の背と黒い体毛を撫でてながら、
「ンンン」
と鳴いた黒虎は端に移動し、そこから飛び降りる――。
バンジージャンプではないが、股間がキュッとしまるような、なんとも言えない感覚は成長しても変わらない――。
練兵場の石畳の上に豪快に着地した。
「「「「おぉ」」」」
アムシャビス族の兵士たちから歓声が起きた。
黒虎は両前足を上げ、体から「ンン、にゃごぉ」橙と漆黒と紅蓮の魔力をボッと出現させた。
「「「「「「おぉ」」」」」」
「「「「「神獣様ァァァ」」」」」
アムシャビス族の将校たちの一部が肩膝を地面に付け頭を垂れていた。
「相棒、いいから戻ろう」
「にゃ~」
と、黒虎は左を見てから、振り返るように動いた。
巨大な逆三角形の真下の【メリアディの命魔逆塔】の出入り口、開いている跳ね上げ式の扉を潜るように進み、戻ってきた。
皆、中で待っていた。
相棒から降りて、出入り口の階段に足を乗せると背後の扉が閉まる。
自動的にアンフィテアトルの円状の階段が、俺たちを上へと運ぶように、持ち上がると、出入り口は消えて、普通のアムシャビス族の秘密研究所の床に戻った。
メリディア様は、
「では、【メリアディ要塞】に戻ります、皆さん、すぐですから」
「「はい」」
メリディア様は両手から魔線を放ち、アムシャビス族の秘密研究所の光の柱と闇の柱に触れると、柱から溢れ出てゆく魔力が空間を満たしていく。
その光は前にも増して強まったように感じた。
周囲のクリスタルの群れが七色の光を放つ。
それは天空の星々が地上に降り立ったような印象だ。
まさに、古の魔法文明の叡智。
「ふふ、貴女に会えますね……」
メリディア様の呟きには深い感慨が滲んでいた。
その声には母としての想いと、天魔帝としての威厳が交錯している。
「にゃお~」
相棒は黒虎の姿で、メリディア様の足下に頭を寄せた。
神獣の血を引く者として、この瞬間の重要性を理解しているんだろう。
研究所内に立ち込める魔力は生命を持つかのように蠢く。
壁面に刻まれた古代の文字が次々と光を放った。
その一つ一つが空間転移の鍵となっていると分かる。
「メリディア様の表情には、威厳を感じます」
「ん、でも、優しさが溢れてる」
皆が、頷いた。
俺の足下に戻っていた黒虎は耳を立て、尻尾を優雅に動かしながら、この歴史的瞬間を見守るように佇んでいる。
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