千七百二十八話 死神ベイカラとの邂逅
メリディア様はヴァーミナ様と魔界騎士ハープネス・ウィドウと、近隣地帯にある古代魔樹サリヴェアと魔古竜ベルガードについて小難しい会話をし始める。ハープネスの背後をトコトコと付いていく魔竜ハドベルトが、熊に見えて、結構可愛い。
すると、ユイが、
「あ、少し待ってて――」
「了解」
<ベイカラの瞳>の双眸から、霧状の白い魔力を放出させて、周囲に展開。
ユイの姿が白い魔力に包まれて見えなくなった。ユイは食料庫の横に移動したようだ。
すぐに白い魔力が消える、戻ってきたユイは、戦闘装束が変化していた。
ユイの双眸の眦辺りから漏れ出ていくような白と銀の魔力と墨のグラデーションのまま女性のシルエットが濃くなったような氣がした。
「皆、お待たせ、さすがに聖戦士装備を身に着けたままだとね」
「はい、死神ベイカラの遺跡ですからね」
「ん、でも、死神ベイカラ様は光神ルロディスを認めていると思うから大丈夫と思う」
「――はい、ユイのイギル・ヴァイスナーの双剣との相性も、<聖速ノ双剣>を獲得していたようになかなか良さそうですからね――」
と、キサラは橙魔皇レザクトニアの薙刀で<刃翔鐘撃>を繰り出し、訓練していた。
<暁闇ノ歩法>を発動し、闇から旭が上がるような魔力を足下に発生させながら加速し前進している。
ヴィーネも影響を受けたように、両手を上げて、美しい腋を見せながら長い銀髪を一纏めにし、ゴールドタイタンの金糸で纏めてポニーテールを作った。
それだけで絵になる、魅惑的だ。
ヴィーネは右手に魔槍斗宿ラキースを召喚し、<刺突>の練習を始めた。
エトアとルビアとフーとベリーズとヴェロニカが突きの動作を真似ていく。
すると、キュベラスが、
「シュウヤ様、私たちも共に死神ベイカラの遺跡の傍に行きます。そして、闇神ハデス様の遺跡があるのなら調べておきたい」
「「「はい!」」」
ドマダイ、イヒアルス、炎極ベルハラディ、豪脚剣デル、飛影ラヒオク、闇速レスールたちが一斉に返事をした。
「おう、【闇の教団ハデス】の定紋とステッキは出しておくか。しかし、闇神リヴォグラフに捕らわれて長いんだろう?」
俺の問いにキュベラスは、
「はい、捕らわれ拘束されて長い、シュウヤ様のお陰で楽になったはずですが、外にはもう数千年と出ていないはず。生まれてからずっと闇神リヴォグラフに干渉、監視されています。そんな闇神ハデス様を信奉している魔族か、父の監視が酷くなる前に、闇神ハデス様に仕えていた眷族の一族がいたようですから、その眷族たちが建設した神殿の可能性はあります」
「なるほど」
「わたしも、死神ベイカラの遺跡は氣になるから、付いて行く」
「わたしも行く」
「はい」
「うん、殆どが付いて行くと、思う、ペルネーテには死神ベイカラの神殿はないし、と言うか、ペルネーテの宗教街は神界側の建物ばかりだからね」
「ん」
「単純に、古代遺跡の探検は冒険者としての血が騒ぐわ」
「ふふ、たしかに」
「あぁ」
「はい、紅虎の嵐としては当然ですね」
と、サラ、ベリーズ、ブッチ、ルシェルの紅虎の嵐のメンバーたちが意見を合わせる。
「「「「「はい!」」」」」
「うん」
「「勿論です」」
皆、当然に死神ベイカラの遺跡が氣になるか。
黒猫たちの返事がないが、その黒猫は……いた。
その相棒は、城壁の角や小屋の角に体を擦り付け、自分の匂いを残そうとしていた。更に、巨大な鉄杭に絡まった太い縄を見つけると何度も前転して体を擦り付けていく。猫にとって匂い付けは大切な儀式か、自分の存在を示すため、そして仲間たちとのコミュニケーションのため、黒猫は熱心に匂いを付けていた。異常に太い縄には、猛烈なフェロモン、マタタビのようなモノが付いている説もあるか。
相棒の体の擦り付けを見ていると俺も真似をしたくなるぐらいの勢いだったから、だんだんとそんなことを考える己に笑えてきた。
ま、前回、ここに着た時はすぐに外に出たからな。
匂いを付ける時間は少なかった。
城内には、見る限り、結構な数の魔猫と犬や動物たちが豊富にいる。そんな状態で、野良猫たちの匂いを上書きしたら、縄張り争いが勃発してしまうと思うが……。
ま、相棒の場合は、毎度のことかな。
いつのまにか、地元の猫ちゃんたちと交流を果たし、多数の野良猫たちを従えることが多いからなぁ。
犬とアヒルもいるようだ。
カルガモ、アルパカ、頭が二つの魔牛ルンガ、ポポブムと似た魔獣たちもいる。
庭には色とりどりの花が咲き乱れ、蝶や蜂が飛び交っている。
池の水は澄み切っており、鯉が優雅に泳いでいるのが見えた。
木々は緑葉を茂らせ、木漏れ日が地面に斑模様を描いている。小鳥たちのさえずりが聞こえ、時折、風が葉っぱを揺らす音が耳をかすめる。
元氣な動物たちに、兵士たちもだが、皆、元氣だ。
ロングボウと魔法防御を主体とした籠城の戦い方が基本だったようだが、補給線はしっかりと維持し続けということだろう。
とはいえ、人族ではないからな。
糧秣、補給、兵站、調理、給食、被災者用糧、作戦ごとの食料配給、魔力、魔法や様々なアイテムで状況は変化するだろうからな。
同時に、それだけ優秀な魔将がクーフーリンか。
一騎掛けで何人も敵将を倒せては、数百人を屠れる実力者だからな。
そして、相棒たちには、魔猫たちの匂いが氣になったかな。
親子のカルガモのような動物が庭の先を通り、池に入るところは微笑ましかった。
匂いを付けている黒猫を見て、
「――ロロたち、俺たちは庭の奥に向かい地下を少し潜ることになる」
「ンンン――」
黒猫は尻尾を上下させつつ、喉声を発した返事のみ。
匂い付けが終わったかと思いきや、大きい厩舎の方に走っていった。
相棒の猫まっしぐら、といわんばかりの勢い。
それは、宝物を探す子供を思わせる、目を輝かせていた。
銀灰猫も「ンン、にゃ~」と鳴いて軽やかな足取りで黒猫を追い掛けていく。
「ニャァ~」
「ンンン、ニャォ~」
「ワンッ」
「グモゥ~」
黄黒猫と白黒猫と異界の軍事貴族の銀白狼と子鹿も相棒たちを追うように走り出していく。
その様子を暫し見てから、
「ロロたち、遺跡を調べたら、この庭に戻って、【メリアディの命魔逆塔】に入り、【メリアディ要塞】に向かうからな~?」
黒猫たちからの返事はない。
探検に夢中か。
「ふふ、【エルフィンベイル魔命の妖城】はロロ様たちにとっても新しい場所に近いですからね」
「あぁ」
ヴィーネは魔槍斗宿ラキースを消して、普通に隣を歩く。
そのヴィーネと、【エルフィンベイル魔命の妖城】の本丸近くの斗形の階段と城郭の石垣と木材のことを指摘しながら、皆と共に、冥界の庭を進み、小屋に近づいた。
小屋は結構廃れて、物置小屋にしか見えない。
メリディア様は「では、少し調べてから、横の道から奥にある階段を降ります、暫し、ここでお待ちを」
と、スタスタとその小屋の出入り口前に移動し、小屋の軒とドアにかけて広がっていた蜘蛛の巣を右手から飛ばした紅の閃光で焼くように退かしていた。
クーフーリンは
「あ、私が」
「クーフーリン、大丈夫です。ふふ、こういう立場は、新鮮なのです、楽しい――」
「は、はぁ」
と、俺たちに悩ましい視線を寄越すクーフーリン。
元天魔帝だからな、当然、このような調べごとは、部下たちがすべてやっていたか。
<闇透纏視>や掌握察から分かる範囲では、小屋にはベイカラ教団の大導師と数名はいないようだ。
その小屋よりも奥の地下牢から溢れるように出ている漆黒と紫の魔力のほうが氣になる。【幻瞑暗黒回廊】と冥界シャロアルから漏れ出ている魔力のはず。
すると、法魔ルピナスと荒鷹ヒューイが、
「パキュル~」
「ピュゥ~」
と鳴いて空を舞う。
憤怒のゼアの勢力との戦いでは、大きいエイのような法魔ルピナスと、サザーは、いいコンビだった。
サザーは空が飛べるようになっているから、足場は必要ないと思うが、ルピナスと共に空を駆けていたな。 ルピナスの頭鰭から出る霧状の魔法には数種類あるようでサザーとの相性が良さそうに見えた。そして、小柄獣人よりも大きいゲルダーノ咆哮を扱う姿が、結構、格好良かった。
背の低さを活かす飛剣流はサザー独自の剣術に見えるし、非常に格好良かった。
荒鷹ヒューイは、俺の近くでは見かけなかった。
古の戦長ギィルセルの肩に止まっていることは数回見たが、それっきり。
が、古の魔甲大亀グルガンヌ近くで、憤怒のゼアの眷族やモンスター兵と戦いぬいたことは分かっている。
さて、衣装を戦いに備えて新装備も試すか。
魔剣師たちの戦いでは<魔戦酒胴衣>から闇と光の運び手装備を優先したから、〝紅翼の宝冠〟と魔竜王バルドークを活かした新衣装に変更しよう。
「ハルホンク、衣装をチェンジだ」
「ングゥゥィィ」
肩の竜頭装甲は消えると一瞬で闇と光の運び手装備をスパッと消えた。
額当てと面頬が展開され、七分袖の魔竜王素材のシャツとインナーを装着。
上着に紅玉と漆黒の鱗が渋いジャケットも装備した。
<翼紋結界>と<光翼双刃>の模様が刻まれている。
ジャケットの胸と腰に複数のベルトが付く。
〝紅翼の宝冠〟の素材を活かした足装備もした。
「ん、やはり、戦いになると思う?」
「分からん、念の為」
「ん」
エヴァは紫の魔力を体から発し、座っていた魔導車椅子を分解、融解させて骨の足に金属を吸着させ、一瞬で、金属の足にして、一部をインゴット化と球体に変化させる。
金属の球体を、サージロンの球のように己の周囲に浮かばせていく。
「ふむ、冥界シャロアルか、【バーヴァイ城】の地下と……【闇神寺院シャロアルの蓋】にあったな、シュウヤの記憶にある闇神アーディン様のとの邂逅に、魔軍夜行ノ槍業のシュリ師匠の体の一部を入手した戦いの記憶は覚えている」
ハンカイの言葉に頷く。
そのハンカイは金剛樹の斧を右手に召喚。
キサラが、
「はい、闘柱大宝庫での戦いですね」
「ん、冥界シャロアルの中にあった不思議な異空間」
「はい」
エヴァたちの言葉に頷いた。
「冥界シャロアルだが、俺は〝影心冥王ゼムラの冥印鍵〟を持っているから絡まれる可能性はあるからな」
「そういえば、そんなものがあったわね」
「古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルを助けた時の記憶に、冥界シャロアルの外法シャルードゥの名も出ていた。その情報も、シュウヤ越しの記憶だけど、しっかりと覚えているからね、そうした少し怖さがある」
レベッカの言葉に皆が頷いた。
ファーミリアたちは、既に何回か、俺の話をだれかからかなり聞いたようで、数回頷いている。
ピュリンとシャナは〝知記憶の王樹の器〟から記憶を得ているからな、時間的にファーミリアたちと長く会話していてもおかしくない。
「小屋の周りは平和的だけどね」
「うん、漆黒の霧と、冥界の気配を帯びた紫がかった光が氣になるけど」
「【幻瞑暗黒回廊】の魔力と、冥界の出入り口も近くにあるってことかな」
「たぶんね」
「近くの白銀と灰色の魔力も漂ってるから、それが、わたしの<ベイカラの瞳>の魔力と繋がってる」
ユイの言葉の後、メリディア様が小屋から出てきた。
そのメリディア様は、
「ベイカラ教団に関しての、古びた書物があるだけでした、一応、その書物をユイさん――」
「あ、はい」
ユイは白い書物を手にした直後、白い書物に魔力が帯びた。
ユイの双眸から漏れ出た魔力が構成する女性の魔力と繋がると、女性ははっきりとした幻影として小屋の横をスゥっと移動していく。ユイの双眸からの魔力とはわずかに繋がっている。
「行こう」
「「「はい」」」
小屋の横を通り、地下牢の出入り口に到着した。
左右には頭蓋骨の縦に並び立つトーテムポールのような物がある。
中央には、鋼鉄製の分厚い扉があり、その上部から漆黒の霧が滲み出ている。
床と下部からは、紫の魔力が這うように漏れ出て上昇し、左右の頭蓋骨とトーテムポールの柱と、宙空に浮いている頭蓋骨と、その眼窩の炎の中にも吸収されるように消えていた。
女性のはっきりとした幻影は、その出入り口の前で薄まって消えかかると、ユイの白い双眸と、ユイが持つ書物に消える。
メリディア様が開けようとしたが、
クーフーリンが前に出て、
「今、開けます」
鋼鉄製の扉の前に立つ。メンノアが、
「<紅光結界>の一部ですね」
と、教えてくれた。
「ふむ……」
生首だけのラホームドも興味深そうに近づいて、
「頭蓋骨は<霊魔術>と<魔魂術>と<死霊術>の技術を応用された作り、興味深い。ここに<召喚術>を組み込める頭蓋骨状の魔道具もありまするな、ほほう、誰かが削除したか、ん、解除を試みた魔族がいたようですな」
「……戦いの永い間に、放置していたので、補給路から、ここに侵入されている可能性は否めません」
鋼鉄製の扉と頭蓋骨のトーテムポールに複数の頭蓋骨の魔道具を見て指摘してくれた。
クーフーリンは正直に語っていると分かる。
そのクーフーリンが地下牢を封じている扉の立つと、表面に魔法陣が薄らと浮かび上がった。
天井と床からも光線が発生し、クーフーリンと衝突。
光線はすぐに消える、クーフーリンは氣にせず、片手を翳した。
その片手から金の魔力を発した。背の半透明な翅も広がって、油膜のようにキラキラと薄く七色に輝く。
途端に、片手の前に煌びやかな魔法陣が発生し、その魔法陣が回転すると、扉の前に薄らと現れていた魔法陣がはっきりと表示されて、クーフーリンが発生させている魔法陣と同じように回転させていく。
その魔法陣と魔法陣が近づく。
どちらの魔法陣の表面に凹凸があった、その凹凸を合わせると明滅し印が生まれ、魔法陣の輝きが増し、重なり合う。パズルを組み合わせるような印がいたるところにあり、それを組み合わせていく。
と、魔法陣が一つになった直後、閃光が発生し、鋼鉄製の扉が開いた。
先は、いきなりの横幅が広い階段。
途端に、ユイの白い書物からゆらゆらと、白い魔力が出現し、階段の下へと伸びていく。
ユイの<ベイカラの瞳>から出ている白い魔力は女性を模り、その女性も先をゆく白い魔力と融合しながら階段を降下していった。
「こちらです」
皆でその階段を下りていく。足音が不気味に響き渡り、階段が紅にわずかに光る。
横壁の溝から紅の魔力が発生し、それが脈動するように明滅し、光源となって壁から天井に紅の閃光が走っていく。
階段を下りるたび、温度が急激に下がり、冥界の寒気に包まれたかのような冷たさが全身を包む。
風はないのに、皆の髪が不規則に揺れ始めた。やがて皆の吐く息が白く変わっていった。
レベッカは魔杖グーフォンから炎を発生させる。
「エヴァ、これで」
「ん、ありがとう」
皆、上着を重ねた。
階段を下りていくと、空間そのものが歪んでいるかのような違和感が漂ってきた。
視界が開けたところで、地下回廊に到着した。
ユイの双眸から放たれる白銀の魔力は、より立体的な女性の姿を形作りながら左へと進んでいく。
その足跡には一瞬だけ白銀の輝きが残り、書物から放たれる魔力が螺旋を描くように女性の姿と融合していった。
【闇の教団ハデス】の定紋からも魔力が出ては、その女性が進む左側に向かった。
メリディアとルビアとメンノアが歩く足下と天井と壁からは、紅色の魔力もわずかに床から発生している。
「不思議」
「メリディア様と魔命を司るメリアディ様に闇神ハデス様と、死神ベイカラ様が関係している遺跡ということでしょうか」
「はい、非常に神秘的ですね」
「「はい」」
背後からクナたちの言葉が響く。
声に含まれる振動が、周囲の魔力と共鳴するように、紅の光が一瞬強くなった。
「……なるほど……私にアムシャビス族、娘の魔命を司るメリアディの魔力と、死神ベイカラの魔力に、闇神ハデスの魔力も少しだけ、活かされている仕組みがある。奥に何かがあります」
メリディア様は何かに氣付いたか。
「ふむ<死霊術>も死、憎しみ、だけではなく、愛、命、魂……そこは魔命を司るメリアディ様や天魔帝メリディア様の魔力と関係が深いと言われ続けてますからな……」
と、ラホームドが指摘した。
「ふふ、ラホームドは<大脳血霊坤業>を獲得したとか、魔力の流れはもう見えていますね」
「はい、精神を組み込み、魂が魔素となり、強大なエネルギーとなる仕組みが左右に嵌め込まれておりまする、あれはすべて〝吸霊の蠱祖〟と似た魔道具ですな」
「その通り」
そのまま皆で、薄暗い地下回廊を進んだ。
手に持つ【闇の教団ハデス】の定紋が強く振動し、その反響が漆黒の波紋となって空気中に広がっていく。
手の中で定紋が脈を打つように震え、闇の力の存在を主張していた。
メリディア様たちが進むにつれ、床から立ち上る紅の魔力が血管のように壁を這い上がっていく。
メリディア様とルビアとメンノアの足下から強い紅の光が足跡のように発生している。
息が白く霧となって漂う。と、紅の光が壁面に刻まれた古代文字を照らし出していった。
文字は光の移ろいとともに浮かび上がっては消え、神秘的な雰囲気を醸し出している。
奥から白い光が伸びて、ユイの双眸と繋がった。
ユイは、
「……死神ベイカラ様の魔力を感じる、奥に行きましょう」
ユイの<ベイカラの瞳>が強く輝きを放ち、その白銀の光が回廊の壁面を照らし出す。壁に刻まれた無数の文様が浮かび上がり、それらは死神ベイカラの印を形作っていた。
と奥の間に到着した。大広間で中心に彫像が幾つか並ぶ。
宙空に、大きい白と白銀が織り成す魔印が幾つも浮かび上がると、キュベラスたちの表情が変化し、ドマダイたちも本能的に身構える。
遺跡内を巡る紅色の魔力が、闇の要素と呼応するように明滅していた。
メリディア様は両腕から魔線、魔力を発した。その魔線が宙空に弧を描きながら延びて、地面と天井に当たると、床と天井の紅を基調としたグラデーションが変化していく。
アムシャビス族の魔法も関係しているか。
「「「おぉ」」」
「戦旗?」
「魔印だろう」
メリディア様が見上げると、天井から降り注ぐ紅色の光が激しさを増した。
魔印の輪郭がより鮮明になっていく。
「あれは、ベイカラ教団の印です。ふふ、わたしに、娘の魔力を活かしているようです」
と、告げた瞬間、ユイの双眸と書物から伸びている白い魔力はその一つの彫像と繋がった。
大広間全体の魔印が一斉に輝きを増し、空気が凍りつくような緊張感が走る。
彫像の前に黒髪の和風の女性が出現した。
ユイの持つ書物が塵状に変化し、その女性に吸収されていくと、女性の姿がくっきりと浮かび上がった。
ユイの<ベイカラの瞳>と同じ白銀の光を放つ。
すると、【闇の教団ハデス】の定紋から強い反応が起こった。
漆黒の波動が放たれ、紅の光、白銀の光、漆黒の波動が織りなす。
それは天界と冥界が交錯するかのような神々しさを醸し出していく。
キュベラスたちの表情が一層引き締まり、ドマダイたちからも緊張が伝わってくる。
死神ベイカラの彫像から立ち昇る白銀の光が、紅色の光と交錯し、神秘的な光の帯となって大広間を取り巻いてから、光の帯は和風の衣装に変化し、黒髪の女性がそれを羽織る。
同時に、白黒の仮面が周囲に発生し、
「『ふふ……待っていましたよ……ユイ、そして、シュウヤ……』」
声は柔らかく響きながらも、大広間全体に確かな威厳を漂わせていた。
死神ベイカラ様の神意力に、念話と声か。
続きは、明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版発売中。




