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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1723/1997

千七百二十二話 漆黒と紅蓮の狂詩曲、蒼い女神の聖なる声


『閣下、人型の三人はかなり強そうです。ヴァーミナ様とシャイサードがいて良かった』

『あぁ』


 人の形を模しながら、決定的に人ならざる者はバブルシャーか。


「お前が、狂気の王シャキダオスの大眷属か」


 言った傍から、バブルシャーの異形の肢体から無数の黄の骨と眼球が噴出した。その眼球一つ一つには狂気の意思が宿っているかのように、禍々しい光を放っている。右に跳んで、それを避けると、床と宙空で黄の骨と眼球は爆発し、金色の閃光が散る。左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。


 <鎖>はバブルシャーを守る魔剣師たちの魔剣を払いながら直進した。魔剣師たちの動きには狂気の王シャキダオスの教えを思わせる無機質さがあったが、それを突き破る。しかし、バブルシャーの頭部の先端から伸びる無数の触手刃が生きた蛇のように宙に弧を描いて降りかかってきた。その触手刃に引っ掛かるように<鎖>は止められ、触手刃の一つ一つが脈動するように蠢いている。


 刹那、そのバブルシャーの真横の空間が歪む。

 闇そのものが実体化したかのような異形の体が浮かび上がった。

 

 その漆黒の体から無数の刃が迸り、それは深淵から這い出る魔の手のように、バブルシャーの肢体に突き刺さっていく。

 空間そのものが異形の存在によって侵食されているかのような威圧感が漂う。


「チッ」


 バブルシャーは舌打ちしつつ漆黒の刃に己の胸腔から溢れるように噴出している深紅の眼球が付着させる。


 と、無数の漆黒の刃が紅と黄に泡ぶき、溶けながら紅と黄の異様な泡ぶくに浸食されていくと、異形は漆黒の刃を途中で切り離し、短くなった漆黒の刃だった物を体内に引き戻す。


 その真上に、バブルシャーが召喚したであろう数本の黄の<狂魔気>に溢れた魔剣が現れ、その魔剣が雨霰と異形に降りかかった。

 

 漆黒の異形は体のすべてから細かな漆黒の刃を斜め上に伸ばし、すべての魔剣を宙空で迎撃していたが、突如、異形の体が湾曲、老婆の胸から出ていた無数の腕の攻撃を浴びて吹き飛ばされていた。


 すぐにバブルシャーに悪夢の女神ヴァーミナ様が襲いかかる。

 両腕から繰り出される無数の魔糸は、月光に輝く蜘蛛の糸のように美しく、かつ致命的な威力を秘めているように見えた。

 魔糸の一本一本が悪夢の力を帯び、触れるものの理性を溶かしていくかのような異様な輝きを放っていた。


 シャイサードは、少し前進し、


「ゲセルファーも吹き飛べ――」


 黒兎の太い前腕が消え、否、巨大な前腕が空間を歪ませながら転移する。その一撃は大地を揺るがすような威圧感を放っていた。

 が、ゲセルファーと呼ばれた黒衣の老婆は、後退しながら胴の黒衣から無数の手を蜘蛛の脚のように伸ばし、シャイサードの巨大な拳を受け止める。その手の一本一本から邪悪な魔力が漏れ出し、接触した空間そのものが歪んでいく。


 足下の手のような多足が異様な律動を刻むと、ゲセルファーの体が真上へと飛翔する。浮遊する黒衣の裾からは漆黒の液体が零れ落ち、その一滴一滴が床を腐食させていく。


「<呪詛・千変魔葬>――」と低く唱えた瞬間、ゲセルファーの黒衣が千の手となって広がった。

 漆黒の業火のようにシャイサードに襲い掛かる。

 シャイサードは多数の腕に飲まれて消えるが、分身を繰り返しながら後退していく。

 

 朱に染まった黒衣を纏った老婆のゲセルファーは動きを止めながら【メリアディの命魔逆塔】の頂上の床に着地。


「黒髪の槍使いか、その魔斧槍が氣になるねぇ……」


 と発言し、俺を凝視。

 皺が深く、双眸は黄と白と蒼紫に満ちていて、小形の魔法陣が虹彩の真上に発生し、異様な光を放っている。

 <闇透纏視>のようなスキルを使用中か。


 口元は耳元まで裂け、狂気の笑みを浮かべている。


「……クククッ」と嗤い声を響かせた。頭頂部から突き出した細く鋭い角は、老婆のようなモンスターが悪魔と通じていることを暗示しているように見える。胴から無数の闇の腕が伸びていた。腕の根元には無数の試験管のような物体が装着されている。

 黒衣の間から出ている足も多脚、否、手のような触手の足か? 水棲動物のような闇の液体も零れている。


 黒衣の切れ端と共に床に付いている歪な手の足は、タコの吸盤が付いているようにくっ付いているようだ。

 歪の多脚の腕は床を這うようにこちら側に寄っていた。


 多腕脚触手と言えばいいのか、その多腕脚触手から怨念のような不気味な声が響きまくる。

 邪悪な魔力が濃い、思わず、白き貴婦人を思い出した。


 すると、左にいる、不気味な肢体のバブルシャーが、


「オ前ガ、槍使イ!」


 その声には人とも獣とも付かない響きが混ざっている。

 剥き出しになった肋骨の胸腔が大きく開き、そこから血と白と黄の<狂魔気>を纏った無数の眼球が湧き出てきた。

 それぞれの眼球は独自の意思を持つかのように蠢き、狂気の王シャキダオスの教えを体現するかのように個別の光線を放った。その光線に触れた空気そのものが歪み、狂気の波動が広がっていく。


 即座に更に左腕を翳し、<超能力精神(サイキックマインド)>――無数の眼球ごと光線を眼前で縫い止める。


 <神聖・光雷衝>のスキルを発動した。

 同時に<血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 

 全身の正経、魔脈、経絡を<血魔力>で更に活性化させた。

 

 両腕から光の十字の閃光が発生すると、光線ごと無数の眼球が蒼白い塵となって消え、蒼い爆発が連鎖しながらバブルシャーに向かう。バブルシャーの左右に開いた肋骨が強化外骨格となって体を守るが、それごと蒼白い塵となって大爆発し吹き飛び、左後方に離れた。

 

「な!? 神界の光か!」

「ナ……」

「ひゅぅ~」

「うふふ、さすがの妾の槍使い!」


 追撃には出ず、少し前に出てヴァーミナ様とシャイサードの動きに合わせるように、重心を下げた。


 わざとらしく<経脈自在>を発動、駆使し、<魔闘術>系統を乱した。


 続けて<水月血闘法>と<覇霊血武>と<メファーラの武闘血>を連続発動。


 肩の竜頭装甲ハルホンクが「ングゥゥィィ」と古代の竜の咆哮のように呼応した。魔槍杖バルドークから溢れ出る魔力が液体の鎧のように俺の体の節々を包み込み第二の皮膚のように一体化。

 

 魔力経路が一斉に目覚め、体内の魔力が共鳴していく。

 

 <水神の呼び声>と<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>と<滔天魔経>と<沸ノ根源グルガンヌ>と<龍神・魔力纏>は維持。


『シュレ、<鬼塊>だが、伏せながら使えるか?』

『使える』

『ならば、俺の左右に前後に伏せながら展開させろ』

『承知!』


 左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から漆黒の影のような塊の<鬼塊>が体を伝い両足から上下左右に展開された。


『閣下、シュレの罠もありますが、<精霊珠想・改>もあります!』

『おう、老婆の視線が怪しい、何かをやっている。カウンターから追撃に出たところで、ヘルメは出ろ、そこから一気に仕留めよう、まずは、引き寄せる』

『はい!』


 皆が驚く。と、老婆のゲセルファーが両手に呪具か、角灯のような道具を召喚し、


「ふふ、驚いたが、槍使い、隙ありだ。その魔斧槍を頂こうか――」


 無数の手がいつの間にか、俺の周りに展開されていた。


 ――構わず、魔槍杖バルドークに膨大な<血魔力>を込める。


『主よ、私はここに居る!』


 魔槍杖バルドークから念話が響いた。


 同時に、周囲の無数の腕の手が狂ったように蠢き、一斉に襲い掛かってきた。ゲセルファーは直進し、呪具を振るってくる。


「呪具角灯イグマラの鈍亡者イグマラよ、こやつを捕らえよ――」


 老婆ゲセルファーの言葉と共に、呪具角灯イグマラから禍々しい光が放たれた。

 すると、角灯の底から黒煙が噴き出し、瞬く間に無数の亡霊へと形を変えていく。骸骨のような、腐敗した肉体を持つもの、生前の苦しみを具現化したような異形のものが飛来――。


 咄嗟に身構え、魔斧槍をわざと上に振るう。

 ヴァーミナ様とシャイサードは俺の意図を察したかのように離れ、白銀の魔力を纏いながら異形とバブルシャーに突進していく。


「鈍亡者イグマラよ、槍使いの魂を喰らえ!」


 老婆の叫びと共に、角灯から噴き出した黒煙が無数の亡霊と骸骨へと変貌する。その一つ一つが生前の苦しみを具現化したかのような歪な姿を晒していた。


「シュレ、今だ――」

『ハッ』


 床から漆黒の獣の<鬼塊>が這い上がるように浮かび上がる。

 その姿は深淵から現れた魔獣のように禍々しく、無数の腕の手ごと、亡者たちを貪り食らうように吸収していく。吸収された瞬間、連鎖的な爆発が始まった。漆黒の爆発は次々と伝播し、漆黒の獣のような炎が老婆ゲセルファーを襲う。


「ぐあぁぁ――」


 悲鳴と共に、ゲセルファーの呪具角灯と両腕が飛散した。

 体中から黒い血を噴き出していた。それでもなお、彼女は憎悪に満ちた目で睨みつけ、「貴様ら全員、地獄に落ちろぉぉ!」と呪詛の言葉を吐き捨てた。


『行きます――<精霊珠想・改>!』


 左目から液体となって飛び出した液体状のヘルメが、一部を妖艶な女体へと変化させる。その姿は美しくも危険な水妖のよう。

「<仙丹法・鯰爆想>――」

 体の一部を大鯰へと変貌させて直進、ゲセルファーに触れた瞬間、黒衣と、その体が内側から爆ぜていく。


「ぐあぁぁ――」

 二度目の悲鳴が虚空に響く。ゲセルファーの体が内側から崩壊していくさまは、まるで腐食する人形のよう。だが、その周囲に黒い瘴気が渦巻き、再生の兆しを見せ始める。


 左目から液体状のヘルメが右に出た。

 既に<仙丹法・鯰爆想>として出ていた液体状のヘルメは、その本体のヘルメに吸収されるのを見ながら直進――。


 ゲセルファーは再生しかかっている体から欠損した無数の腕が出るが構わず――。


 魔槍杖バルドークで、<血霊魔槍バルドーク>を繰り出した。


 穂先から放たれる紅光が血の河のように流れ出す。

 ゲセルファーの再生途中の体から伸びる無数の腕を、脆い枝を払い裂くように貫いては、黒衣と体を貫いた。


 魔槍杖バルドークから紅蓮の炎を纏った血霊が解き放たれる。

 閃光を発し神霊を現すように綺麗な女性を模りつつ、それが魔力の蒼と漆黒と紅蓮の嵐となって、ゲセルファーを喰らい尽くした。

 魔力の蒼と漆黒と紅蓮が渾然一体となった魔力の嵐が、ゲセルファーの存在そのものを消し去っていく。

 蒼い神魔の女神は、そのまま威厳に満ちた姿で実体化し、左腕を優雅に翳す。


「主の友軍に歯向かう存在か、まずは、お前から――」


 その声は清らかな鐘のよう。シャイサードを押していた異形へと放たれた蒼い閃光は、浄化の光そのものだった。

 異形は必死に無数の漆黒の刃を繰り出すが、蒼い閃光の前ではか弱い闇のよう。その体の半分が消し飛ぶ。

 残された半身に、シャイサードとヴァーミナ様の白銀の刃と白銀の魔槍が十字を描くように交差する。

「げぇ……ごっ――」

 最期の言葉と共に、異形の存在が完全に掻き消えた。



続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版も発売中。

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老婆のゲセルファーは魔槍杖バルドークに興味を持ったのが敗因かなぁw
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