千七百二十話 ハッ! 沸騎士前衛組、出番だ、全員<ルシヴァルの盾>!
――こりゃ【メリアディの命魔逆塔】が一度消えたことが、隠れていた死狂の剣師と剣士たちを焦らせたかな?
<魔戦酒胴衣>の武道着のまま<水神の呼び声>と玄智の森で獲得した<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>と<滔天魔経>を発動。
筋肉が瑞々しく光を帯び、超人的な力が全身に満ちて、体内から清冽な水流が湧き上がるような感覚に包まれる。水神様の清らかなる力が四肢の先まで行き渡る。
全身の正経、魔脈、経絡――人族とは異なる十六経の間が活性化。
それぞれが生きて呼吸を始めたかのように脈打ち始めた。
膨大な魔力がその間を駆け巡り、体の内側から力が漲るのを感じる。
〝レドミヤの魔法鏡〟を仕舞う。
「全方位警戒を強めろ――」
「にゃご」
「はっ!」
皆と光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスに指示を出した。
黒虎はラシーヌたちの傍に寄ってから見上げている。
優しい相棒だ。ラホームドが察して、双眸から<血魔力>の月の幻影の形をした防御魔法を展開している。<月夜霊>の能力か?
その数秒の間にも、宙空高くから降下してくる魔剣師の数は増えた。
空の紅色の閃光は強まっているから判別できないが、高高度で召喚用の巨大な魔法陣が展開しているような印象だ。
<闇透纏視>で巨大な輪状の魔力が蠢いているのが確認できた。
ずっと前、魔人千年帝国ハザーンの連中が、アケミさんのダンジョンを攻めていた時を思い出す。魔人帝国ハザーン第十五辺境方面軍軍団長ギュントガンと対決した。
そのハザーンの連中は黒き環とまではいかないが、巨大なゲート魔法を用いて大量の魔族兵士を輸送し、アケミさんのダンジョンを侵略しようとしていたから、魔神や諸侯の連中がゲート魔法を使える存在がいてもおかしくない。
「マスター、【メリアディの命魔逆塔】目当てかしら」
「たぶんな」
「うん、【メリアディの命魔逆塔】の天辺に着地し、侵入されていたら、厄介よ」
「そうだな、状況次第だが、後で、天辺に移動しとく」
「うん」
ゼメタスとアドモスは、
「「閣下、我らが!」」
「おう」
「ハッ、では、アドモス、第二波は皆と閣下たちに任せるとして上の敵は、私たちが対処しようか」
「おう! 閣下に我らの成長ぶりを見て頂く絶好機!」
「うむ!」
二人は黒と赤の愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊の骨盾を掲げ、跳ぶ。
降下中の魔剣師たちは上昇してきたゼメタスとアドモス目掛け魔剣を振るう。
魔剣から魔刃が飛び出てゼメタスとアドモスに向かった。
ゼメタスとアドモスは骨盾で、飛来してくる魔刃を弾きながら上昇を続け、魔剣師の前衛組に近づいた。
まだ飛び道具は落下してこないが――。
見上げながら<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を用意し、盾を持っていない魔界沸騎士長たちラシーヌと相棒の頭上に送りつつ<鎖型・滅印>を意識し、発動。
左右の両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。
<鎖>で盾は作らない――。
「「大閣下、ありがとうございまする!」」
「ありがとうございます!」
「――おう、氣にするな」
と、ラシーヌたちに返事をしつつ両手首から伸びている二つの<鎖>は、魔剣師の魔剣を弾き、胸と腹を穿つ、が、まだ生きている。
不死系か、死者の魔剣を操る術式で<死霊術>とは異なると、ラホームドが語っていたが……光に耐性がある不死系ならかなり強い。
「光属性に対抗できる<狂魔気>を扱う連中ですね」
アドリアンヌは魔神魚を一体生成し、宙空に浮かばせていた。
「<狂魔気>とは、仕留めた狂剣タークマリアなどと関係はあるのか」
「魔剣師たちですから、あるかもですが――」
「アドリアンヌ、その<狂魔気>とはなんだ、<魔闘術>系統でもある?」
と、聞くと、魔神魚を操作しつつ黄金の頭蓋骨の幻影を頭部に生み出していたアドリアンヌは振り返り、
「<魔闘術>系統にも使えます。正式な<死霊術>スキルではなく、死者の魂を己の素の魔力と精神で直接コントロールする禁忌の術式です。使用者の精神を蝕み、狂気へと導く諸刃の剣――。しかし、狂気の王シャキダオスを信奉する死魔剣教団の使い手は、その狂気すら力として取り込んでいます。狂気の王シャキダオス側には、その狂気を完全に克服する秘術があるという情報も……その真偽は定かではありませんが」
アドリアンヌの声は、過去の悪夢を想起させられたかのように震えていた。
その瞳には、禁忌の術式がもたらす狂気を目の当たりにした者だけが知る恐怖が宿っていた。
「へぇ」
と、その敵さんたちを見やる。
魔剣師集団は黒と白の布が巻かれた兜を被っていた。
上下に突き出た角のような装飾が禍々しく、前面と側面から垂れ下がる薄い布は顔の大部分を隠している。その布の隙間から覗く顔には、血管が浮き出るように紫色の模様が刻まれ、狂気の王シャキダオスへの信仰を示すかのようだった。
滑空をするように降下速度を落とした。
上昇中のゼメタスとアドモスは、その魔剣師たちと接触しそうだ。
前衛集団に、愛剣の骨剣、名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙を突き出していたが、その突剣は、避けられる、が、すぐに<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を使い、加速しなががら袈裟懸けを仕掛けていた。
宙空に三日月の軌跡が生まれる。
と、魔剣師の三名が魔剣を振るうことなく――。
肩から腹まで両断され、その死体が魔界の夜空を舞った。
三日月の魔力の軌跡が生まれている。
ゼメタスとアドモスは<月虹斬り>を繰り出したか。
<月虹斬り>の月虹に輝く魔刃は衝撃波をも有しているのか、魔剣師たちが魔剣を盾にして防ぐが後衛の魔剣師たちと衝突していた。
一部の魔剣師は腕が別個に破裂するように散りながら吹き飛んでいる。
魔剣師たちの腕の数は四腕、二腕と様々か。
そして、ゼメタスとアドモスは<月虹斬り>と<バーヴァイの魔刃>を連続して出したのか。違う系統の新技か?
と考えながらも<鎖>を操作し、腕が破損し、回復仕掛けている二体の魔剣師の体を貫いていき穴だらけに処したが、すぐに穴が塞がった。
<鎖>が途中で止まることがあって回復力も高い。<鎖>を消した。
「ご主人様、ゼメタスとアドモスが居れば大概は大丈夫と分かりますが、空と地上からの大隊規模の奇襲、そして、高高度か真向かいに強者の大眷属か、諸侯、或いは魔神がいるかもです!」
と、ヴィーネは仰射を行うような姿勢のまま発言。
既に翡翠の蛇弓を構え、光線の矢は番われている。
そのヴィーネのアズマイル式の弓道、ダークエルフ弓道と呼べる美しい姿勢に魅了された。
「あぁ、まずは空の連中を処分だ――」
「はい!」
<鎖型・滅印>を発動し、再び両手首の<鎖の因子>から<鎖>を放つ。
ヴィーネも光線の矢を魔剣師たちがいる空に放った。
宙を直進した光線の矢は、前衛の魔剣師の頭部を貫く。
背後の魔剣師の胸に突き刺さり止まった。
刺さった箇所から緑の閃光を放つ。
俺も二つの<鎖>も魔剣師の片腕を貫いて、もう片方の手が持つ魔剣を弾く。
ミスティは、
「皆、まだ飛び道具は来てないけど、ゼクスを盾代わりに――私の愛する機械仕掛けの守護者が、皆を守ってあげる」
ミスティの声には深い愛着が滲む。
魔導人形のゼクスを前に出しながら、左腕を優雅に上げた。
その仕草には機械工学の天才としての自信が垣間見える。
ゼクスは宙空を少し旋回して、俺たちを見るように、両腕をクロスさせる。
巨大な盾となって皆の前に立ち塞がった。
その動作から、母鳥が雛を守るような優しさが感じられた。
ゼクスの装甲部の表面には精緻な魔導回路が浮かび上がり、<血魔力>が蜘蛛の巣のように張り巡らされていく。
盾の表面で脈打つ<血魔力>は、単なる防御膜ではないようだ。
ミスティが幾度もの実験と改良を重ねて完成させた特殊な強化機構により、通常の何倍もの強度を持つバリアーとして機能しているようだ。
その盾は、彼女の魔導技術の結晶とも言えるものだった。
ミスティは、細い手首に装着されている暗器械からミニ鋼鉄矢を射出している。
ミニ鋼鉄矢は威力が無さそうだが、<血魔力>を内包しているから威力は高い。
魔剣を弾き、数人の魔剣師の眉間を貫き、数人の鎧を突き抜けている。
鋼鉄矢の鋼もお手製だから当然か。
主に虹柔鋼とは思うが、魔界で色々と金属を入手しては、試行錯誤を繰り返している博士のような姿は見ている。
ブッチは「了解――」とゼクスの背後に移動していた。
ママには大型円盤武器アシュラムを<投擲>し、数名の魔剣師を屠った大型円盤武器アシュラムを片手で受け取っては、「はい」と言いながらゼクスの背後に移動していた。
「パキュル――」
サザーは法魔ルピナスに乗り皆の邪魔にならないように【メリアディの命魔逆塔】側を上昇していく。
逆三角形の形の【メリアディの命魔逆塔】だから崖下を這うように見えたが、天辺は平たいからな。というか天辺も戦場になりそうな気配だ。
メルは、
「総長、正面、奥の崩れている魔塔からも魔剣師集団です――」
発言しながら紅孔雀の攻防霊玉をメイス状から魔刀タイプに変化させる。
その魔刀を振り上げ、魔刀の紅孔雀の攻防霊玉から<バーヴァイの魔刃>を繰り出した。その<バーヴァイの魔刃>は上空にいる魔剣師の魔剣と衝突し弾かれるが、弾いた<バーヴァイの魔刃>が、斜め後方にいた胴体を突き抜けていた。
直後、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが豪快に魔界沸騎士長たちが並ぶ前に着地。地響きが響き渡る。
すぐに、
「ゼアガンヌ、ボラニウス、ラシーヌ、ゲラー、アフド、モゴン、ガタラメメゴ! お前たちは前に出て、ゼアガンヌとボラニウスの指揮の下<ルシヴァルの盾組み>を整えよ!」
ゼアガンヌたちに指示を出す。
ゼアガンヌが、前に出て、
「ハッ! 沸騎士前衛組、出番だ、全員<ルシヴァルの盾>!」
と、皆に指示を出した。
魔界沸騎士長たちが、
「「「ルシヴァルの盾ぇぇ!」」」
一斉に続いた。
「「「「おおう!」」」」
「「「「イエッサー!」」」」
沸騎士たちの雄叫びが戦場に響き渡る。
「「「「「「ウオォォォ」」」」」」
「はい!」
魔界沸騎士長たちが漆黒の炎を纏った魔剣と魔槍を掲げ、骨盾を前に突き出す。
骨盾の表面には光魔ルシヴァルの紋様が浮かび上がり、浅く輝きを放っていた。
真向かいから迫る魔剣師集団に向かって一糸乱れぬ足取りで前進を始めた。
古の北欧のヴァイキングが見せた不敗の盾壁のように、沸騎士たちは完璧な陣形を保ちながら進軍していく。骨盾と骨盾の隙間からは、漆黒の炎が零れ、その炎は光魔ルシヴァルの戦士たちの決意そのものが具現化したかのように揺らめいていた。
その間にもキッカも魔剣・月華忌憚を振るい、<バーヴァイの魔刃>を魔剣師たちに繰り出した。
フーも<鴇ノ白爪突刃>を使用しながら、前に出て、ゼアガンヌたちの横に並ぶ。
サラとキスマリもそれぞれの得物で魔剣師たちに<バーヴァイの魔刃>を繰り出しまくる。
キュベラスも<魔晶力ノ礫>を魔剣師たちに繰り出した。
シキたちもそろぞれに遠距離攻撃を繰り出す。
シキは蒼紫の魔力を混ぜた水晶球を宙空高くに<投擲>。
その軌跡は新月を描くように優美な弧を描く。水晶球の内部では、宵闇の女王レブラの加護を帯びた魔力が渦を巻いていた。
魔剣師たちに触れた瞬間、水晶球は深い紫から白銀の閃光へと変化しながら爆発。白銀が混じった蒼と紫の光を放ちながら爆発し、大気に干渉しているような波紋を宙空に残す。
その衝撃波は魔剣師たちの体を吹き飛ばすと同時に魔力経路をも寸断されたように狂気に満ちた魔剣師たちの瞳から光が消えていく。
続いて<溯源刃竜のシグマドラ>を発動。古代の白骨竜を思わせる鰐の頭部が、漆黒の魔力を纏いながら直進。その牙は、魔剣師たちが繰り出した魔刃と魔剣を柳に風が当たるかのように軽々と弾き返していく。
「【星の集い】の盟主アドリアンヌと、【闇の教団ハデス】のキュベラスも認める、宵闇の女王レブラの大眷属の力を、示しましょう――」
シキの口元に浮かぶ微笑みには己の力への誇りと、魔界の実力者としての余裕が滲んでいた。
そこに、<光邪ノ尖骨筒>による骨の弾丸が、宙空を貫く白い光の線となって放たれた。
瞬きをする間もなく、滑空しながら魔刃を繰り出してきた魔剣師の頭部を射抜く。その骨の弾丸には、<血魔力>が練り込まれた特殊な加工が施されている。
魔剣師の頭蓋を貫通した瞬間、内部で白い光が爆発を起こすと、蒼白い炎が噴き上がる。
「ピュリンか! いい攻撃だ」
ピュリンの狙撃の腕前は以前から群を抜いている。
古の魔甲大亀グルガンヌの頭頂部にいると分かるが、ここからでは、当然に見ることはできない。
そのピュリンは<光邪ノ使徒>として、その狙撃の技術は一層の磨きがかかっている。今も、空にいる魔剣師の頭部が消えていた。頭部を失っても生きている魔剣師もいるが、動かないまま地面に落下している魔剣師もいる。
<血魔力>が混じる骨の弾丸は必ずダメージを魔剣師たちにもたらしていた。
ビュシエとルマルディと闇鯨ロターゼなど、戦場の中衛組と後衛組が集まってきた。
古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラーもかなり近づいてきた。
ちょうどいいが、シャナとピュリンもいるし魔剣師たちを退治しないとな。
「グォォォォォォォォォン」
「ボォォォォォン」
「「シュウヤ様――」」
「「主ぃ!」」
ビュシエとファーミリアが着地。
アルルカンの把神書は近くにきた。
ルマルディは、宙空にいながら空にいる魔剣師側を見る。
その皆に、
「皆、ファーミリアもだが、【メリアディの命魔逆塔】を狙う、新手の魔剣師たちを殲滅してくれ。また、憤怒のゼアを倒し、メリディア様と、アドゥムブラリの幼馴染みのベキア・レサンビストを復活させた」
「「おぉ」」
「はい、素晴らしい成果! 【メリアディの命魔逆塔】が一時消えたのは、不可視の方法があったということですね」
ファーミリアは理解が早い。
「そういうことだ、この新手は<狂魔気>を扱う、皆の推測では狂気の王シャキダオス側の勢力が有力だが、魔翼の花嫁レンシサや淫魔の王女ディペリルにガラディッカなどが用意した戦力の可能性もある。また、闇神リヴォグラフ側ってこともあるだろう」
「「はい」」
「分かりました」
「相棒、ラシーヌたちを皆を頼む」
黒虎は俺を見て、
「にゃご」
と、鳴いて頷いた。
獣としての縦の瞳だが、そこには神獣としての威厳がある。
同時に相棒としての信頼も交錯している眼差しだった。
そして、皆を優しげに見ていく動作は、古の神獣が持つ戦場の守護者としての本質が滲み出ていた。
「皆、【メリアディの命魔逆塔】の出入り口は死守しようか」
「はい、今度は、わたしたちが憤怒のゼア側ということですね」
メルの言葉に、
「おう、そうなる。だが、メリディア様は復活している」
魔界沸騎士長たちが前進している足音から紅色の閃光が走る。
メリディア様が、こちら側だけに効果が発揮するような魔法防御陣を展開させたか?
メルは戦場を見渡し、微笑を浮かべた。
「はい、地の利はこちらに!」
「おう、では、宙空に出て、魔刃を繰り出しまくっている魔剣師たちを屠り、根元の存在をいぶり出しながら、【メリアディの命魔逆塔】の天辺を見てくる」
「はい!」
「わたしも行くから――」
「うん――」
背後の出入り口からユイとヴェロニカが飛び出て、そのまま飛翔。
「では、臨機応変に――」
と、俺も<武行氣>を発動させ、飛翔しながら、《連氷蛇矢》を魔剣師に目掛けて繰り出しながら、右手に魔槍杖バルドークを召喚。
続きは、明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版発売中。




