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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1718/1996

千七百十七話 〝光紋の腕輪〟の検証と<魔手太陰肺経>の『手揮犀琵』

2025年1月24日 16時59分〝レドミヤの魔法鏡〟の描写を分かりやすく追加。


「〝紅霧の面具〟は一つ、〝紅玉の覇帯〟は残り二つ、〝翼守の胸当て〟は三つ、〝紅翼の脛当〟が二つ。それ以外の品は数が豊富だ。皆、数の多い新しい装備品を手に取って確認し、使いたいなら装備し、暫く試すならそのまま装備し続けたらいい、使わないのなら、アイテムボックスに入れて持っておくか、ここに放置で」

「ん、魔法防御を試す」

「うん、お試し~」

「はい、意識して盾が発動するのは紅孔雀の攻防霊玉と似たような防御が可能になるということですから」

「そうね~メルが今持っている紅孔雀の攻防霊玉はかなり有効そうに見えた」

「はい、レベッカの<光魔蒼炎・血霊玉>もかなり使えますよ。では、確認しましょう」

「ンン~」

「あ、うん」

 

 エヴァたちが両腕に〝光紋の腕輪〟を装備。

 〝光紋の腕輪〟は、腕ならどこでも嵌まるようで、思念で外せていた。

 レベッカは二の腕だけでなく、肩にまで嵌めようとして、本当に肩に〝光紋の腕輪〟を嵌めていた。

 

 その面白いレベッカは魅惑的な腋を見せていたが、あまり指摘はしない。


 〝光陣の宝珠〟は自然と衣服に吸着されていた。

 と、そんなレベッカを含めた皆が、早速に魔法防御陣を生成。掌と指先で触り、確認していた。


「へぇ、装着者の動きに合わせて魔法防御の魔法と言ってたけど、物理防御の盾にもなりそう」

「ん、でも強めに指で突くとあっさりと抜けた」

「あ、うん、でも小蠅の飛来は防げそう」

「ん、いけるかも」

「にゃ」

「うん、戦闘中や飛翔の時に羽虫溜まりと遭遇すると、地味に嫌だから、重要よ」


 ミスティの言葉に皆が頷いている。

 完全に同意だ。


 相棒はエヴァに頭を撫でられている。


 各自、体の至る所から<血魔力>を発生させ、盾状に生成した魔法防御陣を、その<血魔力>の血に浸したり、<血魔力>と交ぜたりとを繰り返し、試しては、


「ん、レベッカ、魔杖で炎を出して」

「うん」

「ンン」


 レベッカはグーフォンの魔杖を構えた。

 その足下に黒猫(ロロ)が向かい、擦りつけていく。

 レベッカは、その右足を引きながら、左手に持ち直したグーフォンの魔杖から火炎を発生させた。

 火炎は、エヴァに向かう。エヴァは左手を掲げ、掌の先に円状の魔法防御陣を生成した。

 その円状の魔法防御陣と火炎が衝突、グーフォンの魔杖から出た火炎を見事に防いでいる。

 レベッカは「うん、成功ね」とグーフォンの魔杖から炎を消した。

 エヴァも円状の魔法防御陣を消す。

 魔法防御陣だった魔力の残滓、その光の粒子が両手首に嵌めている〝光紋の腕輪〟に流れ込んでいた。


 そのエヴァは、


「ん、魔法防御陣は結構飛び道具を防ぎそう」

「うん、<バーヴァイの魔刃>は最後にして、次は土の魔法を射ってみてくれる?」

「ん、了解」


 レベッカは右腕を上げた。大きい菱形の魔法防御陣を生成。

 エヴァは、


「土精霊バストラルよ。我が魔力を糧に、土の精霊たる礎の力を示し、土槍を現したまえ――《土槍(アースジャベリン)》」


 久しぶりに見たが、昔見た《土槍(アースジャベリン)》よりも大きい。

 質感が土ではなく鋼に見える――。

 その鋼のような土槍(アースジャベリン)と、レベッカが〝光紋の腕輪〟から腕先に作りだした菱形の魔法防御陣と衝突すると、土槍(アースジャベリン)は弾かれて床に転がった。

 

「「おぉ~」」

「二人ともお見事、〝光紋の腕輪〟は使えますね。そして、エヴァの魔法力もかなり強まってます」

「うん、皆も強くなっている」

「ふふ、はい」

「しゅうやん、こっち見て」


 レベッカは楽しそうな声を発し、グーフォンの魔杖を仕舞う。

 と、タン・ブロメアの拳を装着し、その武器に<血魔力>を纏わせて正拳突きを行い始める。


「その拳を〝光紋の腕輪〟の魔法防御で防げか?」

「うん! <血魔力>の部分だけ魔法防御で防がれると思うけどね」


 レベッカはグルブル流拳術の正拳突きで虚空を衝く。


「了解」

「シュウヤも〝光紋の腕輪〟を装備して」


 〝光紋の腕輪〟を投げてきたら掴んで、


「了解。では、その拳を受ける前に、〝光紋の腕輪〟を肩の竜頭装甲(ハルホンク)に食べてもらい、その機能も取り込んでおく。いいかな」

「あ、うん。どうせなら、数の多い〝光陣の宝珠〟も食べたら? ハルちゃん」

「喰ウゾォイ! レベッカ、蒼炎ノタマタマ、クレ、ゾォイ!

「え? それって<光魔蒼炎・血霊玉>のこと?」

「ソレダ、タマタマ、ゾォイ!」

「……タマタマって言わないでくれるなら一個あげてもいい」

「ワカッタ! 蒼炎ノダマダマ!」

「……ダマダマって変わってないじゃない……」

「「ははは」」

「ふふ、面白い」


 皆が吹くように笑った。

 ハルホンクの発音が面白い。

 レベッカも笑ってから、


「もう! ダマダマでもいっか、ハルちゃんは食いしん坊ちゃんだからね」


 蒼炎を体に纏いながら<血道第二・開門>を発動。

 プラチナブロンドの髪からも蒼炎と<血魔力>が噴き上がる。

 細い両腕から放出された血と蒼炎は、瞬時に五つの蒼炎の勾玉に変化。

 その五つの蒼炎の勾玉は綺麗な一つの勾玉に集約した。

 

 <光魔蒼炎・血霊玉>は結構大きい。

 ハルホンク用にサービスしてくれたかな。

 ラホームドが、「……おぉ」と、感動していた。

 そういえば、魔滅皇ラホームドに罠に仕掛けていたな。

 ラホームドをチラッと見たレベッカは、ハルホンクを見て、


「血霊玉は浄化が強まるけど、大丈夫なのよね」

「ングゥゥィィ、ダイジョウブ!」


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)は、口を拡げて閉じて、上顎と下顎を上下させ、金属の歯牙でカチカチを音を響かせる。


「ふふ、それじゃ~」


 レベッカは一つの大きい<光魔蒼炎・血霊玉>の勾玉を肩の竜頭装甲(ハルホンク)の口の中に放り込むように操作してきた。


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)は喉元を膨らませて飲み込んだ。


「ングゥゥィィ!」


 と鳴き声を発した。

 竜頭が蒼炎に包まれる。

 片目の魔竜王バルドークの蒼眼がまた輝く。

 そのまま、先程と同じように、右の眼窩と左の眼窩の中を転移するように蒼眼の位置を変化させる。


 なんかのパチスロ的なパズルに見えてきた。


 土耳古玉のような夏を感じさせる空色の眼がクルクルと回ってピカピカと輝かせてから、蒼眼が元通りになった直後、


「ウマカッチャン!」

「にゃ~」


 と、叫ぶ。結構な魔力を得た。

 相棒も足下にきて、見上げている。


 蒼炎神エアリアルの加護は得られなかった。


「では、続けてハルホンク、〝光紋の腕輪〟を喰うか?」

「喰ウ、ゾォイ」

「了解」


 〝光紋の腕輪〟を肩の竜頭装甲(ハルホンク)に当ると「ングゥゥィィ――」と鳴くと〝光紋の腕輪〟は竜頭の装甲に沈むように消えた。


 直後、ポッと音と蒸気を発した肩の竜頭装甲(ハルホンク)は、竜の髭の根元に極めて小さい腕環を誕生させる。


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)は口を拡げ閉じる。

 そして、口を拡げ、『喰っタ、喰っタ』と言うように、金属の歯をカチカチと響かせながら、口からゲップ的な音を響かせる。


「マリョク、ナカナカ、ゾォイ」

「おう、早速、〝光紋の腕輪〟を展開させてみてくれ」

「ングゥゥィィ」


 両前腕に出現した〝光紋の腕輪〟。

 右手首は戦闘型デバイスがあるから出現場所は肘よりか。

 

 〝光紋の腕輪〟がガントレットの防具にも見えてきた。

 

 その〝光紋の腕輪〟に<血魔力>を通す。

 一瞬で腕環から数㎝浮いた位置に、四角形の魔法防御陣が形成された。


「標準はこの魔法の盾か」

「<水晶魔術>のような小形の盾にも見えますね」

「あぁ」


 と、返事をしながらミラシャンの言葉に頷いた。

 エネルギーフィールドの盾っぽい。


 四角形の魔法防御陣を消すと意識したら、直ぐに消えた。


 次は、少しだけ遠くに魔法防御陣を発生させることを意識しよう――。


 と、魔法の盾を連想しながら〝光紋の腕輪〟に<血魔力>を送ると一瞬で、右手が触れられる距離の先に魔法防御陣が生成された。


 透けた魔法防御陣越しに、レベッカを見て、


「レベッカ、拳を試す前に、俺も試したい、普通にグーフォンの魔杖でもいいから火炎をこちらに向けてくれ」

「了解――」


 レベッカのグーフォンの魔杖から炎が迸る。

 魔法防御陣は、その炎を防いだ。


「炎などはこれである程度は防げる。次は、タン・ブロメアの拳に<血魔力>を込めて、うってこい」


 タン・ブロメアの拳はセスタスを思わせる。


「うん……ふふ……神座:神眷の寵児に登り詰めたシュウヤに、わたしの拳が届くか!」


 レベッカは<血液加速(ブラッディアクセル)>を発動しながら重心を下げた。

 <血魔力>がレベッカに馴染んでいるように見えるほどスムーズにレベッカの細い体を激しく行き交う。


 グルブル流拳術の構えを取った。


 俺も<魔手太陰肺経>を意識し、発動させる。


〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟と〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟に載っていた何千種類の槍武術と〝天魔女流白照闇凝武譜〟の一部を想起しつつ――。


 太極拳でいう『弓歩』の〝砂漠歩〟を行う。

 左足を前に出し、太極拳でいう『手揮琵琶』と『攬雀尾』の『太極五行掌』と似た『手揮犀琵』と『漠攬尾』を行うように動かした。

 

 両腕で幾重もの弧を描きながら、<魔戦酒胴衣>のスキルを発動――。

 肩の竜頭装甲(ハルホンク)は鳴き声を出さずに呼応し、一瞬で、俺の衣装は魔戦酒胴衣に変化。


 キサラは、俺の両手の動きを見て、


「ふふ、<魔手太陰肺経>のスキルを獲得しているので当然ですが、細かな型は見事です」


 と褒めてくれた。

 〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟と〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟に載っていた何千種類の槍武術と〝天魔女流白照闇凝武譜〟で<魔手太陰肺経>の理解はかなり高まっているとは思う。


 キサラ先生と個人的なレッスンを行いたいが、まぁ、今もこのように練習はできる。


 レベッカは、


「へぇ! キサラと目線でエッチなことして! いい度胸!」


 と嫉妬したレベッカが、膨大な血の蒼炎を体に纏う。


 と、フッと体が浮いた直後、「トゥッ」と声を発したレベッカは前進――右腕の拳を突き出してきた。

 かなり速いが<水月血闘法>と<経脈自在>に<滔天魔経>を連続発動。血管と魔脈を行き交う魔力の流れを制御。

 突き出たレベッカのタン・ブロメアの拳を水面に映る月に見立て、左右の腕で円を描くように動かした。

 レベッカの右拳が魔法防御陣を衝突、突き抜けてくる瞬間、虹のような<血魔力>と蒼炎の一部が魔法防御陣の影響で消えていくのが見えた。

 〝光紋の腕輪〟ごと魔法防御陣を消し、レベッカの正拳突きの勢いを受け流すように、左手で優しく、レベッカの右腕を掴み引き込む。その動きに合わせて、円を描く右手と右前腕で、レベッカの右前腕を下から上へと導くように運ぶ。

 両腕の上にレベッカの右腕を乗せ、キサラから習得した<魔手太陰肺経>の『手揮犀琵』のように円を描きながら、俺は右に一歩出る。レベッカの体が左斜め上へと舞う瞬間、儀式の舞のような軌跡が浮かび上がる。

 レベッカは「――えっ?」と驚きの声を漏らし、片腕が突き出したまま、身を捻って宙を舞う。その動きは舞踏のように優美で、<血魔力>の残光が空間に蒼い光の帯を幾重にも描いていく。

 漆黒の中で舞う蝶のように宙を舞うレベッカの片腕を、左手で優しく掴み、安全な着地へと導いた。


「――ちょっ、なんか一回転して、何事もなかったように……あ、魔法防御陣も消したけど、<血魔力>と蒼炎も魔法防御陣は防いでいた?」

「あぁ、<血魔力>と蒼炎は特別だと思うから、完全ではないが〝光紋の腕輪〟の魔法防御陣による効果は確認できた。実際の拳の物理は防げない」

「うん、ありがと、次、エヴァも試そう~」

「ん!」


 皆で試していく。

 蒼炎弾の場合は魔法防御陣でも防げないことがあるようだ。

 そして、魔法防御の魔法陣には、菱形の盾として実体化するものから、全身を薄い光の膜で包み込むように展開するタイプまで、使用者の意思に応じて多様な形態を取ることが判明した。古代アムシャビス族の技術は、想像以上に柔軟な適応性を秘めていた。


 そして、キサラとエヴァが、エトアとルビアにも〝光紋の腕輪〟と〝光陣の宝珠〟を渡していく。


 レベッカは、


「素顔が氣になる、天才のアイテム鑑定士、<従者長>ラムーちゃんにも装備を!」


 とご機嫌に〝光紋の腕輪〟と〝光陣の宝珠〟を渡していた。


 銅の色合いの鋼の仮面のような兜を被っているラムーは、「ふふ、はい」と笑いながら受け取っていた。


 ラムーの素顔を見たら、皆、驚くだろうな。

 かなり美人さんだ。


 俺はそのラムーを<従者長>に迎える際に、素顔を見ている。長い金髪に紺碧の瞳。鼻も少し高く、紫を帯びた唇だった。

 

 肌の色合いからしてダークエルフっぽさがあったな。

 綺麗な女性だった。

 

 と考えているとヴィーネが、


「ご主人様、ある程度の〝光紋の腕輪〟は預かっておきます、ゼメタスに配るはお任せください」

「了解」

「マスター、わたしも少し預かっておく、〝光紋の腕輪〟を皆に配る時にまた聞くからね」

「おう、頼む」


 ヴィーネとミスティが十数個をアイテムボックスに入れている。

 少し離れた位置に移動したエヴァとエトアが、


「〝光紋の腕輪〟の遠距離通信は便利――」

「はい――」


 と〝光紋の腕輪〟を利用して会話していた。

 ファーミリアたちに渡すのは確定だ。

 血文字が使えない者たちが優先かな。

 そこで、アドゥムブラリたちを見て、


「アドゥムブラリたちも取っとこう」


 と言うと、アドゥムブラリは頷いて、ベキアにも視線を向け、

 

「了解、ベキアも何かもらっとけ、紅翼衛士団の特殊部隊が身に着ける代物だ」

「うん」

「ご主人様、〝レドミヤの魔法鏡〟ですが、まずは、ここを記憶しましょうか」

「そうだな、あ、皆、俺が〝レドミヤの魔法鏡〟をもらっていいのかな」

「当然、シュウヤが使うべき」

「うん」

「「「はい」」」


 と皆が返事をして、頷いている。


「――では、〝レドミヤの魔法鏡〟を早速使わせてもらう」


 と、〝レドミヤの魔法鏡〟に魔力を込める。

 即座に鏡の表面に転移できる場所が表示された。


 三つの地名は、【メリアディの書網零閣】、【ルグファント森林】、【ヴァルマスクの大街】。

「――では、〝レドミヤの魔法鏡〟を早速使わせてもらう」


 〝レドミヤの魔法鏡〟に魔力を込める。

  転移可能な場所は合計二十八カ所と分かる。

 即座に鏡の表面に三つの転移できる場所が表示された。


 その三つの地名は、【メリアディの書網零閣】、【ルグファント森林】、【ヴァルマスクの大街】。

 それぞれの地名と共に、景色が鏡面に浮かび上がる。


 【メリアディの書網零閣】は、巨大な図書館のような建物だ。

 書架が幾重にも連なり、天井まで届くほど積み上げられた書物が見える。

 暖色系の光に照らされた書物は宝石のように輝いている。

 書物に触れると、知識が溢れ出すような感覚を覚える。


 【ルグファント森林】は、深い緑に覆われた森だ。

 巨木が空を覆い隠し、太陽の光が僅かに差し込む。

 木々の間からは、神秘的な生き物の姿が見える。

 深い森の奥底には、何かが潜んでいるような、そんな畏怖を感じさせる景色だ。


 【ヴァルマスクの大街】は、独特な活気のある街並みだ。

 石畳の道は整然としており、両脇には<血魔力>を利用した照明や装飾が施された建物が並んでいる。行き交う人々は二眼四腕と四眼四腕の魔族、エルフやドワーフを思わせる魔族たちが多く暮らしているように見えた。一部の者は<血魔力>を操り、吸血鬼(ヴァンパイア)のように物を浮かせていた。

 日常生活に<血魔力>が溶け込んでいるようだ。

 街の随所に鹿の頭部を持つ魔族の兵士たちがいる。治安維持部隊か?

 彼らの装備は精錬されており、規律正しい動きからは高い練度が伺える。

 街の中央には、<血魔力>によって赤く染まった噴水があり、周囲には人々が集い、談笑していた。


 鏡に映る【ヴァルマスクの大街】は<血魔力>を基盤とした文化が織りなす絵画を思わせる。他の二つも絵画的だ。


 腰の魔軍夜行ノ槍業が揺れる。


『ここで、ルグファントが!』

『【ルグファント森林】ここに行き、魔城ルグファントを早くみたいが、弟子よ、まずはセラに戻ろうか』


 獄魔槍のグルド師匠の念話から、一日も早く魔城ルグファントをこの目で見てみたいといった気持ちが伝わってくる。


『お弟子ちゃん、神格を持っているから、すぐには無理よ、でも、凄いアイテムを入手したわね』

『あぁ、楽しみだ』

『【ルグファント平原】にある我らの魔城ルグファント……それが、この【ルグファント森林】の先にあると思うとな……』

『カカカッ、楽しみではあるが、まずはセラの【八峰大墳墓】の破壊が先じゃ』

『あぁ……』


 八人の師匠たちの気持ちには応えたいが、俺も色々とある。


「ご主人様、ヴァルマスク大街は……」

「あぁ、ファーミリア・ラヴァレ・ヴァルマスク・ルグナドと関係している、ファーミリアが……」


『そうです。セラの樹海の地下から当時は行けた。そこにヴァルマスク大街があり、魔界セブドラ側にも【ヴァルマスクの大街】があるはずです。しかし、魔界とセラの傷場を巡る争いで、魔界側の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>が負けた。セラ側の眷族も倒れた。それ以来、地下の傷場は利用はしていません』


「と、語っていたからな、名はヴァルマスクだが、魔界側のヴァルマスク大街は、吸血神ルグナドの所領ではない、他の魔神か諸侯が占有しているはず」


 と、語る

 皆が頷いた。

 アドゥムブラリは、


「あぁ、ここで繋がるか」

「はい、ヴァルマスク大街」

「セラのサイデイルがある十二樹海の地下にも、同じ名の〝ヴァルマスク大街〟があるんですよね」


 エトアが聞いてくる。


「その通り」

「ファーミリアたちは、その地下と地上の南マハハイム地方に十二樹海の領域も失っている状況もあるからこそ、俺を頼ってきた面もあるだろうからな」

「そうね、光魔ルシヴァルの血の魅力以外にも様々な要因が、今の働きでもある」

「はい、もう【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の仲間ですから、協力したいですね」

「あぁ、では、〝レドミヤの魔法鏡〟を使い、ここを登録する」

「「はい」」


 〝レドミヤの魔法鏡〟に表示されている登録用の部分に指を当てると、鏡から魔力が照射され、秘密研究所の床や天井に当たると、一瞬で、〝レドミヤの魔法鏡〟に、【メリアディの命魔逆塔】のアムシャビス族の秘密研究所の光景が加わった。


 〝レドミヤの魔法鏡〟の転移可能な場所は合計二十八カ所。

 その内、【メリアディの書網零閣】、【ルグファント森林】、【ヴァルマスクの大街】、【アムシャビス族の秘密研究所の内部】の四つの場所への転移が可能だ。

 残り二十四個の転移可能な土地の記憶が可能。


 そこで、メリディア様が、


「シュウヤ様、私から重要な提案があります。この研究所の不可視化を行いたいのですが」


 メリディア様の声には、かつて天魔帝として統べた時代の威厳が宿っていた。


 それは凄い、俺たちが暫くはここの守備につかないとダメかもとは考えていたところだった。

 

「不可視化、ですか?」

「はい」


 胸元のメリディア様の秘石から放たれる光が脈動のように律動を刻み、古代の魔力が響き合うように煌めいた。その波動に呼応するように、〝光紋の腕輪〟を静かに調整していたメンノアの三眼が神秘的な輝きを帯びていく。


「閣下、メリディア様は、ここを管理していた存在ですから」

「なるほど」

「はい。シュウヤ様とメンノア、そしてアドゥムブラリとルビア、そして――復活したベキア・ラモレン。この五人の力が必要となります。精霊たちも協力はできますが、アムシャビス族だからこそ可能なこともあります」

「「おぉ」」


 メリディア様の言葉に、床と内壁に天井から紅色の魔力が溢れ出た。


「更に、この【メリアディの命魔逆塔】は、もう一つの機能が秘められている」

「もう一つ? 不可視の他に?」

「はい、【メリアディの命魔逆塔】自体を魔界セブドラの、私が予め設定しておいた場所に転移させることです」

「「「「おぉぉ」」」」


 驚いたが、たしかに、この建物の見た目……。

 あ、宇宙船の司令室的な異空間に見えたが、もしかして……センティアの手のような……この【メリアディの命魔逆塔】自体が宇宙船なのか?


「ここ、【メリアディの命魔逆塔】自体が、宇宙船なのですか?」

「はい、魔界セブドラの宇宙は嘗ての宇宙ではないですが、そうなります。正式名は、虚ろの箱船とも呼ばれていました」

「「「「おぉ」」」」

「メリディア様は、操作は可能なのですか」

「はい、ある程度は、天魔帝の座は失いましたが、この記憶と知識は確かです――」


 その言葉が、研究所の空気を一変させたような氣がした。メリディア様は続ける。


「では、不可視から行いますが、皆さん、宜しいでしょうか」

「「「はい」」」

「分かりました」

「どのように不可視を」

「紅玉環と光の柱、そして闇の柱を使って、この場所を異界の狭間へと隠します。それにより、不要な者の目から完全に隠せるのです」


 メリディア様の体から放たれる魔力は、その言葉に呼応するように、地下層に満ちた古代の魔力と共に脈動し始めた。

 光と闇の柱から放たれる波動が、より深い律動を帯びていく。


「ふふ、魂の欠片からの復活ですから、当然に、天魔帝だった頃の記憶と知識、能力に比べたら、弱々しい物ですが、この術式は、かつて天魔帝として、この地を守護した時から伝わるもの……」

「はい」

「だからこそ、今こそ、その知識の一端を活かす時です」


 メリディア様の説明に、アドゥムブラリとベキアが顔を見合わせた。二人の間で交わされる視線には、深い理解と覚悟が宿っていた。


 研究所の魔法陣が、より強く明滅を始める。

 メリディア様の言葉の真実性を証明するかのように、古代の魔力が研究所全体を包み込んでいった。



続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版も発売中。

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― 新着の感想 ―
【グルガンヌの森】のどこかだろう。 ルグファントだろうってか、グルガンヌだともう目にしてる可能性が…
>〝光紋の腕輪〟を利用して会話していた。ファーミリアたちに渡すのは確定だ。血文字が使えない者たちが優先かな。 あ~まだ眷属化出来てない同盟勢力に渡すのは有り。
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