千七百十三話 元、天魔帝メリディア様の復活
浄化と再生に破壊か。
メリディア様の秘石が上下に動く。
フィフィンドの心臓を使い、復活はここで行えるんだったな。
元天魔帝メリディア様は、近づけば自分で行えると語っていた。
あの柱の前に近づけば……と、光と闇の柱を見ていると、
クナが、「シュウヤ様――」と俺の名を呼びながら、両手を拡げて、キサラたちと躍るように周囲を見ていく。
クナは、
「ふふ、シュウヤ様の<筆頭従者長>になれて本当に良かった。最高潮の気分ですわ、あ、エッチなことは省いてですが、グフフ――」
と、クナらしい発言をしては、足を止めた。
そのクナに、
「おう、めぼしい品があるならクナも見たらいい」
「はい、もう既に幾つか目を付けています――」
クナはヘルメとグィヴァと手を繋ぎながら、柱と魔機械のような魔道具が並ぶ広場のようなエリアを回っていく。
そのヘルメとグィヴァから離れたクナは、俺の前にきて、
「シュウヤ様、そして、皆さんもメンノアたちも察してはいるかもですが、少し前に、こちらに行きましょう――」
誘導された。
左側をぐるっと回っているヘルメたちもこちらに飛来してくる。
背後からヴィーネたちが続いた。
エトアとラムーたちは左側の宝箱を物色中。
レベッカもそこにいたが、「メリディア様を復活させる氣ね、それは近くで見る~」と発言しては、こちらによってくる。
近くで武器や宝箱の中身を見ていたハープネスが、
「おぉ? 復活?」
と、疑問げにこちらを見る。
さすがに興味を覚えるか。エトアとラムーとミスティもこちらによってきた。
さて、右前にいるクナに、
「そこの中央は、たしかに魔法の祭壇、実験室にも見えなくない」
「はい、まだ名匠マハ・ティカルの魔机のように、完全ではないと思いますが、魔法に関することですから、だいだいは察しがつきますわね」
その言葉に頷いた。ヴィーネたちも頷いている。
メリディア様の秘石も振動が強まった。
キサラは、
「中央の巨大な柱と魔機械は魔神具のような魔道具に見えますし、金属のワイヤーと魔力の魔線で繋がって連結している。更に、【アムシャビスの紅玉環】の中央部の天辺と下部から魔力が迸っていましたが、それと同じように、魔力が激しく行き交っている。重要だと分かります」
キサラが指摘したように……。
透けた硝子状の中を行き交う魔力と魔線は、凄まじい量だ。
同時に、磁界共鳴を起こしているように上下左右に広がっている。
無線電力伝送、非接触電力伝送も行えそう。
と、ニコラ・テスラの人類に貢献した研究を思い出した。
同時に私利私欲、権力欲に驕れたまま、優れた研究を握り潰し、己のためだけに利用している欲に塗れたクソ連中を思い出した。
クナもまた闇と光を知る側。
そのクナは体から<血魔力>放出している。
金色の瞳も煌めいて、プラチナブロンドの髪も靡いていた。
とても嬉しそうで、良かった。
「フフ、ここはまさに神秘の叡智ですわ」
「おう、では、フィフィンドの心臓を出して、メリディア様の復活を行うか」
「はい、では後で風のナイアとトフカ関連を行いますか?」
「あぁ、そうだった、それは後で」
「ついに、魔命様の母君の復活! 協力しますので」
「はい! 私も、右側の土の魔印が浮かぶ位置に移動します――」
ルビアの傍にいる水精霊マモモルと地精霊バフーンが、俺たちから少し離れて、水氣に満ちた柱と土氣に満ちた柱の前に移動していた。
足下は、薄らと魔法陣が敷かれ、宙空に浮かぶクリスタルのような幻影も二人の属性に似合う形だった。
メンノアが、
「クナ様の知見は素晴らしい、では、わたしはシュウヤ様が立つ位置の横でフォローします」
「はい、メンノア様にそう言っていただけると嬉しいですわ」
「わたしも、お婆さまの復活を手伝います――」
メンノアとルビアは共に中央に向かう。
五大元素を意味するような形のクリスタルはあちこちにある。
ヘルメは「ふふ、閣下、ここですね~」と、左前の大きい魔法陣と柱の前に移動した。魔法陣の縁を魔法の膜が覆う。
天井と床と柱から透けているチューブのような物が無数に出て、ヘルメと繋がった。機械式や光学式のモーションキャプチャーのマーカーが付いているように見える。
中央に移動したルビアは興奮し、
「ふふ、皆で協力できる仕組み……そして、魔命を司るメリアディ様とお婆さまと、その親類に魔法のエキスパートたちが、昔、ここにいたと分かります」
「はい」
メンノアが静かにルビアの言葉に同意していた。
アドゥムブラリもヘルメの地続きの魔法陣の中に入っている。
ルビアは、また前に出て、両手を拡げながら、周囲を見回す。
周囲のクリスタルの形をした魔力の幻影を触ると、金色の髪が帯びる。彼女の頭部付近に浮いていたメリディア様と魔命を司るメリアディ様の幻影は消えている。
ルビアはスキップしては、時折、こちらを振り向く。
黒猫も楽しげにステップを踏むルビアに続く。
まだまだ少女の年齢だし、ハープの音源に合う。
ここにボンがいたら、同じことをしていたかなと、ボンの姿も想起した。
メンノアが、
「皆様、メリディア様の復活に貢献しましょう」
と、発言。
「はい~」
メンノアは前の床に足を踏み入れる。
足下に小形の魔法陣が自動的に展開される。
メンノアの回りに水晶と魔法のディスプレイ画面が浮かび、魔力のメーターが出現していた。
グィヴァが、
「御使い様、わたしも手伝います、あの雷と闇のところから呼ばれたような氣がしましたので――」
グイヴァは右端の雷状魔印が浮かぶ柱に近づいていく。
天井から半透明の膜かカーテンのような物がグィヴァの回りで蠢く。
有線状のチューブ硝子の中に基板が埋め込まれているような細い物がグィヴァの体に付いていた。
『わたしも手伝います』
『了解』
爪から古の水霊ミラシャンが飛び出て、水氣に満ちた床と柱と魔法陣のところに移動している。ヘルメたちと同じく魔法の膜が囲い、天井と柱と床から出た透けたチューブが体に付着している。
そのミラシャンは、
「準備できました」
クナたち、皆が頷いた。
「クナ、俺の記憶を得ているから分かっていると思うが、メリディア様は自分で行えると語っていたが」
クナは頷いて、周囲を見てから、
「はい、その手伝いです。それに、わたしは、ここの魔法施設の体感をしておきたい」
頷いた。
クナは、
「シュウヤ様には、しかるべき場所、すぐ目の前の中央、ルビアたちがいるところで、メリディア様の秘石を掲げもらいます」
「了解した」
「はい、では、まず――」
クナは手のひらを上に向け、そこから金色の魔力の糸を紡ぎ出していく。
その糸は宙空で複雑な幾何学模様を形作り、やがて立体的な魔法陣となって広がった。
「シュウヤ様、こちらの魔法陣は、アムシャビス族の<紅玉魔法陣>を基にした<空間魔法>の変形です。メリディア様の魂の受け皿として機能するはず」
プラチナブロンドの髪が魔力に反応して揺らめく中、クナは両手を交差させ、<血魔力>を纏った指先で空間を切り裂くような動きを見せる。その軌跡には金色の光が残り、やがてそれは六芒星の形を成して回転し始めた。
「ふふ、これで一つの仮の準備は整いました。シュウヤ様が秘石を掲げる際、この魔法陣が魂の定着を補助するはず……そして、フィフィンドの心臓がどうなるか不明ですがメリディア様の残りの意識がどうにかするでしょう」
「その通り、でもいったいこれほどの知見を……」
クナは、メンノアの言葉に「ふふ」と微笑み、唇に人差し指を当て、
「メンノア? それはシッですわ」
楽しそうに語る。金色の瞳は煌めいている。
魔法陣から放たれる光が周囲の空気を染めていく。
そのクナの仕草には<筆頭従者長>としての誇りと、魔法を操る者としての優雅さが滲んでいた。クナの背後に浮かび上がった半透明の羽はアムシャビス族の古の魔法の痕跡を帯びているかのようだった。
「ふふ、閣下~わくわくします~楽しみです」
「はい、御使い様、雷の精霊ちゃんに闇の精霊ちゃんがたくさんいて、あっうぅ~ははっあう~」
魔法陣の中にいるヘルメとグィヴァも笑いながら手を振っていた。
グィヴァは、雷の魔力によって体が時折崩壊している。
ヘルメは水が満ちた柱の中にいるようにも見えた。
グィヴァは、ネオンの嵐に包まれていて、体中がスプラッシュ状態だから、心配になるが、元々が、雷で電気のような物だから平気か。
「では、そろそろですね。ヘルメ様とミラシャン様とグィヴァ様に、水精霊マモモル様と地精霊バフーン様が移動したように、わたしも、柱と柱の間の床にある、皆の魔法陣が連結した、あの円系の魔法陣に移動しますので!」
クナの言葉に頷いた。
そのクナは、
「では、シュウヤ様、ルビアとメンノアの前の床に移動を、そして、その手前に浮いているクリスタル状の魔法陣に手を当ててください」
「了解――」
ルビアとメンノアとアイコンタクトしつつ歩いた。
黒猫も移動してきたが、クナに触手を伸ばし、頬とおっぱいに先端が平たい触手を当て、
「ふふふ~、ぁん、ふふ♪ はい、ロロ様もシュウヤ様と同じように手伝ってくださっていいですわ」
「にゃご~」
と、触手を収斂させる黒猫は俺の足下に移動してきた。
ほぼ同時に、胸元のメリディア様の秘石が上下に動く。
閃光が、メンノアとルビアとアドゥムブラリと水精霊マモモルと地精霊バフーンに強く当たっている。
宙に浮かぶクリスタル状の魔法陣へ、そっと手を伸ばした。
指が触れた瞬間、指先から迸る魔力がクリスタルに流れ込み、眩い光を放ち始めた。
胸元のメリディア様の秘石が心臓のように力強く鼓動を刻み始める。
その振動は、研究所だけでなく、魔界セブドラ全土、いや、ハルモデラの次元軸にまで影響を及ぼしているかのようだ。途端に半透明な台が浮かび、その台が徐々に色付いてくる。
書架台と小さい台が生まれ出た。
「シュウヤ様、その書架台は、魔造書、魔法書、奥義書などを置くと、自動的にシュウヤ様の補佐を行ってくれます。〝神魔の魂図鑑〟などを置くのも良いでしょう。では、メリディア様の秘石を掲げてください。フィフィンドの心臓のタイミングもお任せします」
クナの説明の間にもドクン、ドクンと、秘石の鼓動がさらに激しさを増していた。
それに呼応するように、光と闇の柱が交互に明滅し、それぞれのエネルギーを放出している。光は浄化を、闇は混沌と破壊を象徴していると分かる。
「了解した――」
と、メリディア様の秘石を先に掲げた。
ネックレスのメリディア様の秘石は煌めいた。
ネックレスからメリディア様の秘石を取り出し、高く掲げる。秘石は眩い光を放ち、研究所全体を照らしているかもしれない。
ルビア、メンノア、ヘルメ、グィヴァ、そして他の者たちの魔法陣も共鳴し、その輝きを増していく。
皆の頭頂部が紫または白に輝く。
眉間がインディゴに輝いた。
喉が青く輝く。
胸の中心が緑に。
みぞおちが、黄色に。
下腹部、臍の下がオレンジに。
尾骨付近が赤に。
ヘルメたちの顔色が変化。
宇宙意識との結びつきや精神的な悟りを得ているような不思議だ。
煌めいていたメリディア様の秘石が自然と中心の柱の中に入る。同時にフィフィンドの心臓を出す。
途端に、中央部の柱のすべてが、太陽の核を思わせる強烈な光を放ちながら輝き出す。
四角い箱は陽炎のように揺らぎ、輪郭を失いながら、光の粒子となって消え去った。残されたフィフィンドの心臓は、それ自体が小さな太陽であるかのように、内側から脈打つ光を放っている。
その輝きは、瞬く間に七色のオーロラへと姿を変え、螺旋を描きながら天井へとのぼり詰めていく。柱を中心に広がった魔力の波紋は、まるで意思を持つ生き物のようにうねり、床を、壁を、空間そのものを呑み込まんばかりに広がっていった。
突如、視界が激しく揺らぎ、景色が歪む。先程まで存在していたはずの壁や天井は、まるで薄い膜のように引き伸ばされ、その向こう側に、星々が渦巻く宇宙空間が垣間見える。ハルモデラの次元軸を彷彿とさせる、その壮大な光景に、思わず息を呑んだ。だが、それも束の間、目映い光が視界を覆い尽くし、<闇透纏視>でさえ、この光の前では無力だった。
視界がぼやけたが、フィフィンドの心臓の周囲はぼやけていない。
フィフィンドの心臓は意志を持ったかのように躍動し、輝かしい魔力と宇宙的な魔力、その波紋の上を不規則なリズムで跳ね続けているのは見えた。
その背景に一瞬だけヘルメたちの姿が見えたかと思うと次の瞬間には陽炎のように揺らめいて消え、代わりに星々の海が広がる。あぁ、また消えた。またしても宇宙的な視界に切り替わった。
封印扉の先の、俺たちがいる秘密研究所の光景。
そして、星々が煌めく、深淵なる宇宙空間。まるで二つの異なる宇宙次元が、互いの存在を確かめ合うように交差し、溶け合っている?
更にそれだけではない。
無数に分岐した世界が、上下左右、あらゆる場所に万華鏡のように出現し始めた。
無数の小さな鏡の中に映し出された、それぞれ異なる時間軸を歩む、俺たちがいる秘密研究所の光景。そして、それを見つめる俺たち自身も、また別の鏡の中に映っている。鏡の中の鏡、そのまた鏡の中の鏡……。無限に続く連鎖が、脳を、精神を、根源から揺さぶってくる。
これは一体、どういうことだ……?
眩暈にも似たくらくらとした感覚が、思考を奪っていく……。
世界の境界線が曖昧になったということか。
首の頚椎、脳か、アイスを急に食べてズンッとした痛みに近い脳幹が揺れて、松果体が熱い!?
フィフィンドの心臓が跳ねるたび、俺たちがいる宇宙次元、魔界セブドラの次元が強まるように空間が振動し、アムシャビス族の秘密研究所の空間に戻る。ヘルメたちの姿を見て安堵感を得た。
だが、再び、空間が激しく揺らぐ――。
巨大な地震が起きているかのような衝撃とか――。
体全体を襲う。空間がブレる、歪む、溶ける――。
無数の小さな鏡の中に映し出される、それぞれ異なる選択をした、俺たちがいる秘密研究所の光景。それを見ている俺たちがいるこの空間も、また別の鏡の中に映っている。
これが、ハルモデラの次元軸と魔界セブドラの繋がりなのか。
刹那、メリディア様の秘石が吸い込まれた柱があった場所から、深淵に潜む、とてつもなく膨大な魔力を感じた。
輝かしい魔力と宇宙的な魔力の閃光が至る所に発生。
と、視界がぼやけるが、宇宙的な、え、フィフィンドの心臓が、俺に導かれるかのように跳ねながら寄ってきた。フィフィンドの心臓は、輝かしい魔力の波紋と宇宙的な魔力と触れると、フィフィンドの心臓が跳ね始める。それは、これから始まる儀式を囃し立てるかのように思えた。
その心臓の周りに、エメラルドのような宝石が、まるで星屑が集まるように集結し、四角いタブレット状の面に、古代文字で書かれた文字盤が浮かび上がる。
周囲の柱から伸びた魔線が、その文字盤に吸い込まれるように繋がっていく。それは魔界セブドラの宇宙次元とハルモデラの次元軸を繋ぐような印象を抱かせる。
タブレット状の文字盤の中央には、心臓の形に窪みが出来ており、そこにフィフィンドの心臓がパズルのピースがはまるように、ぴったりと嵌まった。機械音と近いが、何かの次元音、喩えようのない音を感じた。リズムが強まる、あぁ、心臓音か。
その心臓が力強く律動を起こす。
と、文字盤が眩い光を放ち、メリディア様の秘石から放出された無数の魔線が、まるで生きているかのように絡み合いながら、柱へと引き込まれていく。
そして、その柱から、すべてを飲み込むような漆黒の闇が広がる。異空間か?
漆黒の闇の中に、一瞬、宇宙船の司令室のような、最新型深宇宙探査船トールハンマー号にあるような司令室が映る。
そのような近未来的な空間が見えたかと思うと、再び漆黒の闇に変化する。
その漆黒に宇宙船の司令室的な異空間が一瞬見えたが、また漆黒に変化。すると、その漆黒の闇の中心から一点の光が超新星が爆発した瞬間のような輝きを放ちながら出現する。
宇宙放射線を心配させるほどの、輝き。
星の誕生を思わせる、まばゆいばかりの光は、紡がれた糸のように広がり、螺旋を描きながら、空間全体を優しく包み込んでいく。すると、その漆黒の中で一点の光が中心から放たれる。
それは星の誕生を思わせる鮮やかさで、その光は紡がれた糸のように広がり、螺旋を描きながら空間全体を包み込んでいく。
と、視界は元通り。アムシャビス族の秘密研究所となって次元が安定した。
柱に溢れていた光の渦が一点に収束するように集中すると、光は女性を模る。
半透明な魔力のヴェールが包む、半裸のアムシャビス族の女性か。
半透明な魔力のヴェールが静かに消えていく。
その女性、メリディア様の姿がより鮮明になった。
頭部から下腹部まで皆と同じように輝いている。
各々のチャクラを意味するような光は、より深い輝きを帯びていく。
頭頂部の紫色の光は、より濃密になり、宇宙の深淵を思わせる深みを帯びていた。
眉間のインディゴブルーは星々の瞬きのように明滅し、喉のブルーは大海の深さを感じさせる輝きを放つ。
胸の中心の緑は生命力に満ち溢れ、みぞおちの黄色は太陽のような温かさを、下腹部のオレンジは夕陽のような懐かしさを、そして尾骨付近の赤は大地の力強さを象徴するように輝いていた。
メリディア様は、
「フィフィンドの心臓は本物、本当に、皆さんのお陰で……」
言葉が、柱と魔法陣が共鳴し、その振動は床から天井まで生きた楽器のように響き渡る。
魔法陣の紋様は、より複雑な幾何学模様を描き始めた。その模様は古代アムシャビス族の叡智そのものが具現化したかのように、絶え間なく変化を続けていた。
ルビアは両手を胸の前で強く握り締め、祖母の姿に釘付けになっていた。
瞳からは大粒の涙が零れ落ち、その一滴一滴が魔力を帯びて、床に落ちる前に光の粒子となって消えていく。感情の高ぶりが<血魔力>となって全身から溢れ出し、金色の髪が風もないのに揺らめいていた。
ルビアは、
「お婆様……本当に、本当に……」
震える声で何度も繰り返す。
メリディア様は優しく微笑みかけ、その表情には、元、天魔帝としての威厳と、慈しみ深い祖母としての温かさが同居していた。研究所を見渡す眼差しには深い懐かしさが滲み、その瞳に映る光景は、幾千もの思い出と重なり合っているようだった。
柱から放たれてゆく虹は、生命のベールのように、メリディア様の周りで優しく渦を巻く。
同時に、ハープの音色が変化し、高らかな弦楽の響きから、より柔らかな木管楽器のような音色へと移り変わっていく。その音は空間全体に溶け込み天界の祝福の歌のように響き渡った。
その姿は神々しく、天界の彫像のように完璧な均整を保つ。
瞑られた瞳は深い眠りを示すように静かで、長い睫毛が僅かに震えている。
胸元には、かつてのメリディア様の秘石だった欠片が、生命の源のように嵌め込まれていた。
その欠片は鼓動を刻むように光を放ち、徐々に大きな菱形へと成長していく。
心臓の鼓動のような律動とともに、その瞳が開かれた。
瞳の奥には、悠久の時を超えた魂の輝きが宿っていた。
「あぁぁ……」
その声は天上から響く鐘の音のように、空間全体に共鳴していった。
「メンノア……ルビア、そして、シュウヤ様に皆さん……復活できました。メリディアです……」
「「「「おぉ」」」」
クナの体から放たれる<血魔力>は、感動と興奮を反映するように波打っていた。
両手を胸の前で重ね合わせ、金色の瞳を輝かせながらプラチナブロンドの髪が魔力に揺らめく中で静かに息を呑む。復活の瞬間を目撃する喜びと畏れが、その表情に交錯していた。
ルビアは小声でこくこくと頷いて「お婆様……」と呟き、目に涙を浮かべながら両手を軽く震わせている。
純粋な感動と魔命の血を引く者としての深い感慨が滲んでいた。
ヘルメは、より一層、水の精霊としての本質を顕わにする。
水の柱のような魔法陣の中で揺らめき、体は完全に透明となり、内部で渦巻く水流が虹色の光を放ちながら水流と一体となったかのように泳いでいる。
それは、水そのものが意志を持ったかのよう、優美な舞いを披露していた。
一方、グィヴァの体から放たれる雷は、より繊細な模様を描き出していく。
雷の魔力に全身を包まれては、散る、紫電は蜘蛛の糸のように細かく枝分かれし、その一つ一つが独自の律動を刻んでいた。
時折、体が霧散する瞬間には、雷そのものが空間を歪ませ、異次元への入り口が開きかけているかのような錯覚すら覚える。体の再構築を繰り返していた。闇雷の精霊としての本質が露わになり、紫電を帯びた姿は荘厳ですらある。
それでいて、その表情には子供のような無邪気な喜びが浮かんでいた。
メンノアは三眼を見開き、古の魔法文明の叡智が今まさに具現化しようとする瞬間を、畏敬の念を込めて見守っていた。その姿からは、アムシャビス族の遺産を受け継ぐ者としての誇りと使命感が感じられた。黒猫は耳をピクピクと動かし、大きな瞳に映る光景を一瞬たりとも見逃すまいとしているかのよう。時折小さく「にゃ」と鳴く声には、古の神獣としての威厳と、愛らしい猫としての好奇心が同居している。
メリディア様は柔らかな微笑みを浮かべながら、
「懐かしい空気、秘密研究所の封印扉はシュウヤ様たち、あ、憤怒のゼアを……倒されたのですね」
と、発言して、一歩を踏み出すごと半透明な衣装が新しく加わっていく。
その仕草には、元、天魔帝としての威厳とアムシャビス族の優美さが同居していた。
懐かしむような眼差しで研究所を見渡すと、その瞳に深い感慨の色が宿る。
「この研究所は、私が幼い頃から親しんだ場所。メリアディと共に、たくさんの時を過ごしました」
その声には、魂の欠片として過ごした記憶と、実体を持って感じる現実が重なり合う複雑な響きがあった。周囲の魔法陣は、主の帰還を喜ぶかのように、より深い輝きを帯びていく。
「お婆様!」
ルビアの声は元氣だが、少し震える。
メリディア様は優しく腕を広げ、駆け寄ってきた孫を抱きしめる。
二人の間を金色の魔力が優しく包み込み、失われていた時を取り戻すかのように温かな光を放つ。
「ルビア、あなたも随分と成長しましたね」
「あ、わたしのことを……」
「はい、遠い遠い気配の先、狭間により阻まれていましたが、命が育まれる瞬間は分かります。そして、魔命を司るメリアディの母ですからね、その魂を通じて見守っていたのです」
祖母の言葉に、ルビアは小さく頷きながら涙を流す。
その様子に、メンノアも目頭を押さえている。
クナは頷いて、この神聖な瞬間を静かに見守っていた。
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