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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1713/2029

千七百十二話 アムシャビス族秘密研究所の封印扉

 憤怒のゼアとの激戦の名残、無残にひしゃげた柱や抉れた床が、激闘の凄まじさを物語る。しかし、それらですら古代アムシャビス族の叡智が築き上げたこの空間の神秘さを損なうことはない。〝霊湖水晶の外套〟を消す。

 闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備を止めて、髑髏模様の外骨格甲冑を消す。右肩にポンッと竜頭が出て、その肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識し、魔竜王素材と牛白熊の素材を活かすとしようか――。

 

「ちょっ」

「ん」

「にゃご」

「ご主人様の、大事なパオーンは、わたしが――」

「はは、ハルホンク、スースーするズボンを先に衣装チェンジしてくれ、アーゼンのブーツも」

「ングゥゥィィ」


 相棒が、俺のキンタマを見ながら変な声を発し、爪をキラリと光らせてきたから少し怖かったが無事に黒のズボンとアーゼンのブーツを装着した。

 

 黒と紫と白のインナーと――。

 ゲージの厚いシャツも装着。

 胸元が少し左右に開けるタイプ、釦と金具に胸ポケットが付いている。

 

 そのまま封印扉を見ながら地下層を見学――。

 地下層全体を見渡せば、そこはまさに神代の技術の結晶。


 辛うじて建材としての原形を留めている太い柱には、今なお、微かな魔力が流れ、紅玉色の光を放つ複雑な魔法陣が静かに脈打っている。壁面には、見たこともない古代文字が刻まれ、天井には星々を模した無数の魔石が淡い葉脈のような光を瞬かせている。


 神秘的な地下層、アムシャビス族の秘密研究所の封印扉は、広間の中央奥、一段高くなった場所に存在する。


 封印扉の高さは、二十メートルは超えているか……。

 幅も大きい、途轍もない威容を誇る。


 ダンテの長編叙事詩『神曲』に登場するような作りだ。

 『地獄の門』を想起した。


 素材は青銅のようで、銀と金に緑の光沢が帯びた金属か。

 表面には、アムシャビス族特有の流麗な曲線と幾何学模様が緻密に、そして大胆に彫り込まれている。


「アムシャビス族の古代の叡智です」

「あぁ」


 魔命の勾玉メンノアの言葉に皆が感心する。

 その紋様は生きているかのように微かに脈動しているようにも見えた。


 扉の中央やや上部には、大人の頭ほどの大きさの八面体の水晶体がはめ込まれている。

 近づくと、その水晶体の輝きが変化した。

 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させて加速し、前進――。

 ――なるほど、見る角度によって内部の光の屈折が複雑に変化し、万華鏡のような、幻想的な光景を生み出しているのか。


 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を解除した。

 近くにいけば詳細が分かる。


 そして、戦闘の最初から中盤まで憤怒のゼアが皆の攻撃を受けながらも、一歩も動かなかったところだ。

 

 その封印扉の手前の巨大な階段は、踊り場的で、祭壇のような印象、その小形広場の床は憤怒のゼアの火脈アクセスを受けた証拠と見られる、巨大なフルグライトの傷が階段と床に広く浸透している。それは葉脈を思わせ、芸術的だ。

 

 溶けた鉄や床素材が隆起した地面とも繋がっている。

 その周囲の隆起した床も、封印扉と階段を目指そうとしているような形だが、芸術的な盛り上がり方だ。


 憤怒のゼアの眷族だったであろう岩石、化石もある。

 当たり前だが、リアリティが高い。


 ヴィーネたちは一部の憤怒のゼアの眷族の彫像を破壊しながら、アムシャビス族の秘密研究所の封印扉に到着した。


 相棒の近くに浮遊していたラホームドは上昇し、寄ってきた。

 エヴァは、

 

「ん、憤怒のゼアも大きかったけど、封印扉も大きいし、魔力に溢れている」


 エヴァの言葉に頷いた。

 そして、ラホームドは、


「主様、〝神魔の魂図鑑〟を出してくだされば、<大脳血霊坤業>を用いて、健全な幻魔ライゼンを魔力の塊を、封印扉の、そこの窪みのたくさんある孔、多孔の中心に差し込めまする。また、我が手伝わなくとも、我を使役した主様ですから、<神魔乾坤術>で、幻魔ライゼンの魂を用いて、封印扉を開けられるはずですぞ」

「了解、普通に〝神魔の魂図鑑〟を使う、何かあったらラホームドにメンノアも、補佐してくれ」

「承知」

「はい、シュウヤ様ならあっさりと開くはずですよ」

「ンン」


 黒猫(ロロ)は、封印扉の下を両前足で猫掻きしている。

 爪は立てていないが、その両前足の動かし方は、


〝ここ開けろにゃ~〟


 と言うような勢いだ。


 なんか、前にもあったような氣がする。

 皆、相棒の可愛い動きに笑っていた。

 

「ふふ、ペルネーテの【迷宮の宿り月】の玄関扉を思い出した。表と裏には、今もロロちゃんの傷が残っている?」


 レベッカの言葉にヴィーネたちが頷く。


「残ってるだろうな」

「ん、でも、封印扉、ドキドキする」

「「はい」」


 その時、背後から魔力の気配。ヴェロニカ、ハンカイ、キサラ、アドゥムブラリ、そしてルビアにマモモルとバフーンとエトアにクナと黄黒虎(アーレイ)に乗ったラムーがやってくる。


 地下層の出入り口に、まずヴェロニカの姿が現れ、次いで他の面々も姿を見せた。


「でも、この重そうな封印扉だけど、簡単に開くものなの?」


 レベッカはメンノアに聞いていた。

 メンノアは、


「はい、開くはずです」


 静かな確信に満ちた声で答える。

 その言葉に呼応するように胸元の、元天魔帝メリディア様の魂の欠片が宿るネックレスの秘石が、小さく上下に揺れた。


 レベッカは、


「憤怒のゼアは開けることに苦戦していたようだけど、それほどの封印扉ってわけね、納得」

「はい、他の宇宙次元のハルモデラの次元軸にも通じる封印扉ですからね」


 ヘルメの言葉に頷いた。

 皆も、ヘルメの言葉に、気合いが入ったようにキリッとした表情に変化した。


 勝利の余韻はあるとは思うが封印扉の先は、未知数だからな。

 

 そして、ミスティがヘルメとグィヴァとヴェロニカとキサラとハイタッチ、エトアとルビアとクナとラムーと黄黒虎(アーレイ)が仲良く、勝利を祝う。

 

 ミスティは、レベッカともハグをしてから、エヴァに、


「あ、開ける前に、これ、エヴァの魔導車椅子に合うはずよ」


 と、回収していただろう様々な金属のインゴットをプレゼントしていた。


「え、緑皇鋼(エメラルファイバー)白皇鋼(ホワイトタングーン)が多いけど、黄緑魔鋼(ハイマルスチール)虹柔鋼(レインボースチール)も含まれている? 他にも色々と、あ、もしかして……」

「ふふ、うん、憤怒のゼアの残骸。わたしたちが攻撃した金属の刃も不思議に融合している。()がほしがるような、神々の残骸になるのかな、アムシャビス族の秘密研究所の壁材に極大魔石とも混ざり合って、塊になっていたから、それをちょちょいと、ね」

「ん、<金属融解・解>?」

「うん、ふふ」

「凄い! 氣付かなかった!」

「エヴァ、激戦だったんだから、普通は氣付かない」

「ん、ふふ」

「ンン」


 レベッカとエヴァが笑うとミスティも微笑んだ。

 黒猫(ロロ)もミスティの足に頭部を寄せていた。

 ヴィーネとユイとヘルメたちもそれを見て感心している。


 もう何度目かってぐらいだが、イノセントアームズたちの勝利の後の光景は、いいもんだ、ほっこりする。


「後、上の戦場でも、ちょいちょいいい物を拾ったわ。魔道具に金属の古いパイプのような物を溶かして回収した。後で、ラムーに全部鑑定をお願いしてもらう予定」

「ん、超優秀な<従者長>のラムー!」

「うん」

「ふふ、忙しくなりそうだ」

 

 ラムーの言葉にミスティは頷いて、「楽しみ~」と発言。


 そして、既に始まっているが、色々と金属の蘊蓄会話を開始していく。

 クナも呼び、封印扉の周囲の金属が混じる素材の分析を始めていた。

 

 すると、キサラが、


「シュウヤ様、勝利おめでとうございます。そして、それが封印扉! 魔霧の渦森から始まった冒険もついに終盤ですね」

「あぁ」


 キサラを迎えるように両手を拡げた――。

 キサラは「ふふ」と微笑む。白絹を思わせる前髪が少し揺れている。


 ゴルディクス大砂漠に向かう前に、とんでもない大仕事となった。まさか、魔命を司るメリアディ様を助け、その母メリディア様の魂の欠片も救うことになるとはな。


 キサラは嬉しそうに笑みを浮かべるとダモアヌンの魔槍を消して「はい――」と抱きついてくる。


 ……チャンダナの香りを得ながら……。

 俺の知らないところで、たぶん、苦労する戦いがあっただろうと想いながら、ぎゅっとキサラを抱きしめた。

 

「シュウヤ様……」


 キサラは小声で俺の名を語りつつ両腕に力を込めてきた。細い腕だが<筆頭従者長(選ばれし眷属)>だから、力が強くて、薄着なこともあり、痛かったが、キサラのおっぱいをじかに感じて嬉しくなったから良しとする。


 そのキサラは、両腕の力を緩めて、体を離し、


「破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの二神を討伐したことは、依頼主の魔命を司るメリアディ様も喜んでいるはず」


 キサラの言葉に皆が頷く。

 魔命の勾玉メンノアも、胸元に手を当て、涙ぐむ。


 キサラも蒼い瞳は少し潤んでいた。


 そのキサラに、


「キサラも上では、乱戦だったと思うが」

「はい、ガラディッカは強かった、光神教徒ディスオルテもかなり強いですね」


 すると、ハンカイが、


「あぁ、あの六腕は、強いな。十層地獄の王トトグディウスの大眷属の炎は強烈だった。俺たちと神界騎士団の攻撃を往なしていた」

 

 と、発言。キサラは頷き、


「魔翼の花嫁レンシサと、その部下二名も、強かった。ガラディッカと憤怒のゼアの眷族から同時に他方から攻められても、すべて、防御し反撃を行っていた」

「あぁ」

「光神教徒ディスオルテも、光剣か聖剣をクロスさせると、十字架を頭上に浮かばせて、すべての攻撃を防ぎ反撃に、<光穿>を思わせる、剣ですが、突きを周囲に繰り出していました。そして高速に光る卍の形をした遠距離攻撃も繰り出していました。あ、エラリエースとメイラさんも無事で良かった。そして、メイラさん、わたしの名はキサラです。<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人」

「はい、光魔ルシヴァルの最高眷族の一人ですね、ヴィーネさんたちと同じ」

「そうです」


 そこにレベッカが、


「キサラ、おつかれ様、戦場は広かったから、細かい情報共有も、〝知記憶の王樹の器〟で可能になれば、皆も楽になるんだけどね」

「はい、レベッカも憤怒のゼア戦、お疲れ様です。そうですね、わたしも、古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラー付近の戦いは遠くから見る程度でしたから、後方にも見知らぬ強者はいたように見えたので氣になってました」

「へぇ、後方でも戦いが」

「はい、ハミヤとファーミリアたちが活躍してました」


 レベッカとキサラの言葉にヴィーネたちが俺をチラッと見て頷いていく。

 吸血鬼(ヴァンパイア)集団と聖鎖騎士団団長ハミヤだから、本来ならば、一緒に行動するなんてありえないが、俺たちと共にとんでもないことをしている。


 そして、淫魔の王女ディペリルの動きが氣になるが、地下には降りてきていない。

 

 そこで、ヴェロニカたちを見て、


「〝知記憶の王樹の器〟も<血魔力>を得るたびに輝きを強めているから案外、成長すれば各自の記憶も皆が共有できるようになるかもだが……まぁ、記憶操作がかなり特殊だからな、今は期待薄と認識しておいたほうがいいだろう。そして、俺を通しての記憶共有ができる、それだけでも十分ありがたい、知記憶の王樹キュルハ様に感謝しとこう」

「「「はい」」」


 ハンカイたちに、


「ハンカイに、ヴェロニカとアドゥムブラリとルビアも、地上での乱戦をよく戦い抜いてくれた」

「おう」

「あぁ、圧巻な展開だぜ」

「はい」


 アドゥムブラリは、封印扉を見ていたが、


「十層地獄の王トトグディウスの大眷属ガラディッカと魔翼の花嫁レンシサは強かった。魔剣タイプを屠って、幾つか、その大本の壊れているが、魔剣は回収済みだ」

「おう、アドゥムブラリが使っていいし自由にしていい」

「了解、一部はミスティに渡したから、エヴァ――」

「ん、ありがとう。今度溶かしてみる」


 アドゥムブラリは頷き笑顔を見せる。

 折れた魔剣も溶かせば、いい素材に成り得るか。

 

 ヴェロニカは、


「総長、もう聞いたと思うけど、魔翼の花嫁レンシサとガラディッカは逃げたわよ、【メリアディの命魔逆塔】のほうから〝魔神殺しの蒼き連柱〟が発生して、すぐぐらいに」

「おう、ある程度ハンカイから聞いた」

「うん、後、【メリアディの命魔逆塔】の出入り口は完全に、近神界騎士団と、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスと魔界沸騎士長たちが占拠した。大きいドラゴンがいたけど、ゼメタスたちが寄ったら上昇していったわ」


 ハープネスはヴェロニカを凝視し、


「あぁ、それは、俺の魔竜ハドベルトだ。感覚はある程度離れていても共有ができるから、周囲を旋回させながら、淫魔の王女ディペリルが消えた辺りを探らせている」

「へぇ、って、貴方だれ」


 ヴェロニカが睨む。


「あぁ、放浪の魔界騎士。黄金貝魔海の西方の竜牙島出身の魔界騎士ハープネス・ウィドウだ、よろしく」

「わたしの名はヴェロニカよ、総長、シュウヤ様の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人で――」


 と、足下に血の大剣を生み出す。


「……<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のヴェロニカか、よろしく頼む」

「ハープネス、わたしはキサラだ。<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人」

「ラムーです、<従者長>で、昔は魔鋼族ベルマランでした」

「ほぉ……金属の兜か、噂に聞いたことがある。なるほど」


 ハープネスは、魔鋼族ベルマランを知っていたか。


「わたしはクナですわ。光魔ルシヴァルの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>で、あり、大魔術師と呼べるかもです」

「わたしはルビア、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人」

「わたしは、エトアです、<従者長>です。魔界騎士ハープネス・ウィドウの名は各地の酒場で聞いたことあります。竜騎士でもあるとか」


 エトアは結構な長生きさんだからな。


「わたしは水精霊マモモルですよ、ハープネス」

「わたしは地精霊バフーンです、ハープネス、魔命を司るメリアディ様側の魔界騎士として認識しました」


 ハープネスは皆の一度の紹介少し面食らい、胸元に魔槍を置きながら、両手を上げて、


「……あぁ、竜騎士で、まぁそれでいい、そして、魔命を司るメリアディとは争うつもりはない」

「「「「はい」」」」


 ヴェロニカは、ハープネスの魔槍を見て、


「了解、放浪の魔界騎士は、総長と共闘していたようね。その得物は、優れた魔槍そう……」

「おう、魔槍ナーガシェルだ」


 途端に、ヴィーネの翡翠の蛇弓(バジュラ)が揺れる。

 ヴェロニカもすぐに氣付いたようで、ヴィーネとハープネスを見比べるように視線を動かすと、


「へぇ……もしかして、ヴィーネと争ったの?」


 俺は頭部を振るうと、ハープネスが、


「おぃぃ、余計な、争ってないからな。魔毒の女神ミセアと、その眷族たちを屠った影響が少しオカシイことになっているだけだ」


 ヴィーネが、


「……そうだったのか」


 と発言。ヴィーネの冷たい眼差しにハープネスは視線が泳いで、俺を見てくる。何をしろと、まさにしらんがな、だ。

 ヴェロニカが空気を察したが、笑ってから、


「上は安全、そして、細かい報告よりも、その封印扉を優先よ、先に開けちゃいましょう」


 そのヴェロニカの言葉に心で拍手。

 激しく同意しているレベッカの表情が面白い。


 つられたようにエヴァがうんうんと頷いて、小鼻の孔を少し拡げていた、エヴァの可愛らしい癖は、前と変わらない。


 その皆に視線を送ってから、段を上がり、封印扉の前で――。

 〝神魔の魂図鑑〟をアイテムボックスから取り出した。


 古の魔力が込められたその書物に素の魔力と<血魔力>を流し込む。すると〝神魔の魂図鑑〟はひとりでに頁を開き、いつもの幻想的な光景を再び映し出した。


 天の川のように流れる、神秘的な光の川にも見える、その川面には無数の星々を思わせる、魂の輝きが揺らめいている。


 頁の上部には、


 デルミヤガラスの魂魄:欠損

 パミツゲレウの魂魄:欠損

 ムテンバードの魂魄:欠片

 ドイラの魂魄:欠片

 モモランの魂魄:欠片

 オセベリアの魂魄:欠片

 ハルフォニアの魂魄:欠片

 サーマリアの魂魄:欠片

 レドソークの魂魄:欠損

 クリムの魂魄:欠片


 失われた魂、魂の欠片の情報が、悲しげな光を放ちながら浮かび上がる。

 そして、その下に、丸い輝きを伴って、


 :ライゼンの魂魄:健全

 :ロレファの魂魄:健全

 :ハネアの魂魄:健全

 :アルディットの魂魄:健全

 :リーシャの魂魄:健全

 :リミエッタの魂魄:健全


  ラホームドが渇望していた、妹たちの魂を含む、健全な魂の情報が現れる。

  更に、菱形の黒い輝きの下には、


 :スレーの魂魄:不浄

 :アルグロモアの魂魄:不浄

 :ディフェル魂魄:不浄

 :フェルア魂魄:不浄

 :コヒメリア魂魄:不浄

 :ラマラ魂魄:不浄

 :アマツ魂魄:不浄


 浄化が必要な、不浄なる魂の情報が記されていた。

 ラホームドの妹たち、リーシャとリミエッタの名が、『健全』の欄に確かに刻まれている。その文字は希望の光のように優しく輝いていた。


 直近で俺が倒した魔術王ゲーベルベットは、この〝神魔の魂図鑑〟を見た時、


『……幻魔ライゼンの魂に、神と魔に関係した魂に、死天使と似た不浄なる魂を感じる……その書物は、魔界四九三書か? もしくは、極門覇魔大塔グリべサルの秘鍵書、魔法都市エルンストに関わる魔法書か……否、メリアディの命魔逆塔に関わる魔界四九三書か? そのような貴重な魔法書をどこで入手し、ん……、実験体を取り込める<死霊術>や<召喚術>に<古代魔法>の魔法技術も高いからこそか……。なるほど、左の大通りの半分を占める列強な骸骨軍もお前の……古の理に基づいた上等兵以上の骸骨騎士たちか。膨大な漆黒と紅蓮の魔力で構成されている……悪神ギュラゼルバンなどが使った悪業髑髏軍礼、死吸髑髏軍礼に近い能力か』


 と、分析していた。

 死天使と似た不浄の魂が、この名前の魂に存在する。

 死天使と呼ばれるような存在がいる?

 または、『――闇の異空間か、闇と時空属性の大魔術師(アークメイジ)なら、ラデオンやグレイホーク家との戦いを思い出す』とも語っていたから、グレイホーク家の誰かの魂がここにいるんだろうか。


 死天使系に、グレイホークか。

 黒髪の大魔術師(アークメイジ)のレイン・グレイホーク。

 白い貴婦人こと【九紫院】の離脱者、大魔術師ミッシェル・ゼレナードと共にいた子供のアドホックもグレイホーク家だった。


 ゼレナードは<死天使系(ア・ゲラデェ)魔法円(フグルゥ・ロ)>という魔法、呪文を唱えていた。


 そして、〝魔法紋・グレイホークの証人〟の魔法誓約書を持つ大魔術師キュイジーヌも思い出したところで――。


 〝神魔の魂図鑑〟の中で、幻魔ライゼンの健全な魂を意識して、目の前に聳え立つ、封印扉を凝視した。

 

 八面体の水晶体の周りにも複数の多孔がある。

 多孔を中心に八つの窪みが等間隔に配置され、それぞれに異なる色の宝石が埋め込まれ、深紅のルビー、深い青のサファイア、鮮やかな緑のエメラルド、黄金色のトパーズ、紫のアメジスト、橙色の琥珀、真珠色のムーンストーン、そして漆黒のオニキスかな。

 それらの宝石は意思を持っているかのように、ゆっくりと明滅を繰り返していた。


 その八つの宝石の下、扉の中央部、やや下よりの所には直径三十センチほどの円形の窪みがあり、窪みの回りにも孔が多い。表面の凹凸具合に、足のツボを連想した。

 

 この封印扉を踏みつけたら健康器具に良いかもな。

 と、考えてしまう。


 直径三十センチほどの円形の窪みの底は深い闇に包まれて見えず、ぽっかりと口を開けている。


 この〝多孔〟に、幻魔ライゼンの魂を魔力の塊として送り込むのか。

 

「では、開ける!」


 〝神魔の魂図鑑〟に魔力を込める。

 <神魔乾坤術>を意識して、発動した。

 続いて、図鑑から幻魔ライゼンの健全な魂を取り出すように意識すると、〝神魔の魂図鑑〟から幻魔ライゼンの健全な魂が出現した。


 その幻魔ライゼンの健全な魂を多孔の窪みにへと運ぶようなイメージをすると、自然と、窪みに入り込む。


 途端に、窪みが封印扉の中に吸収されて消えた。

 八面体の水晶体の下にダイヤル錠が浮き上がり、自動的に回り始める。


 古の魔法文明が紡ぎ出す音が、水晶の共鳴のように澄み渡って響いてきた。封印扉から半透明な楽譜と羽根ペンも浮かぶと、淡い魔力が構成する鏡のような物が浮かぶ。


「閣下、その環の鏡に手を当て魔力か、<血魔力>でも良いですから送ってください、そして、羽根ペンで、シュウヤ様の文字を封印扉の表面に刻んでください。文字はなんでも」


 と、メンノアの言葉通りに魔力の鏡に手を当て魔力を送る。

 そして、羽根ペンを掴み、シュウヤと表面に文字を書くと、自然と、文字は染みこんで消えた。羽根ペンも消える。途端に、俺の魔力が封印扉に浸透したように、光魔ルシヴァルの紋章樹が、表面に刻まれて、その形を活かしたような多孔が封印扉に増えた。


「「「おぉぉ」」」


 へぇ、多孔のデザインはこの封印扉を開けた者たちの魔力が関係しているのか。


 すると、ゆっくりと音を響かせながら開いた。

 重低音を響かせながら風と魔力が発生――。

 髪の毛が持ち上がって、鼻や口が少し広がって、風を飲み込むような勢いで、両頬が、ぶあぁぁと揺れに揺れたが、清々しい気分となる――。


「「「――わっ」」」

「「おぉ」」

「あいたぁぁ」

「って、強風すぎ――」


 レベッカがスカートを押さえる仕種を取る。


「「「開いたァァァ」」」


 半透明な魔法の通路が、奥へと続いている。

 通路は、クリスタル状で、透けている。横幅はかなり広い。

 透けた床には清らかな水のような魔力が流れている。

 かなり綺麗だ……。


「「「わぁ……」」」

「素敵……」

「美しい通路……」


 俺もだが、ルビアたちも感動している。

 

「……行こうか」

「にゃおぉ~」


 相棒が先に、その魔法の通路に足を踏み入れた。

 途端、音が響く。

 半透明だった床は、相棒の肉球の印を出現させている。

 黒猫(ロロ)の瞳に光と闇の交錯する神秘を映し込んでいた。

 肉球が床に触れるたび、その足跡は古代の神獣の血脈を目覚めさせるように輝きを帯び、浄化の道筋を示す星座のように連なって続いていく。

 

 その光跡には、神界の加護を思わせる温かな魔力が漂っていた。


 魔法の床の匂いを嗅いでいる黒猫(ロロ)は俺を見て、「ンン、にゃ」と鳴いてから、振り向いて、先をトコトコと進むたび、音楽が鳴り響く。


 ハープの音、だれかいるのか?

 それにしても黒猫(ロロ)の足跡が、可愛い。

 

「なんかロマンティックね」

「ん、音といい風に魔力も、聖なる風のような印象」

「あぁ……」

「はい、魔法の道を黒猫が進む、絵になります」


 レベッカたちの言葉に同意だ。

 ヴィーネも微笑んでいる。


「ふふ、はい」

「閣下、〝輝翼紋様式〟の通路があり、広間に通じているはず」


 メンノアの言葉に頷いた。

 と、少し笑いながら早速、足を踏み入れた。

 途端に、またハープの音楽が響く。


 クリスタルを連想するテーマだ。と、周囲に、幻想的な、そのクリスタルが無数に浮かぶ。右から左に、左から右に流れゆく七色に光と旋律が、洗練されすぎていて、魔界ではなく神界を連想させる……。

 

 皆が入りきると、周囲の煌びやかな魔力が集積して背後の封印扉が閉まる。その前方に、光魔ルシヴァルの紋様が浮かぶ。


 魔命の勾玉メンノアが、


「シュウヤ様、その紋様に触れたら、この扉は開くはずです。光魔ルシヴァルに連なる者なら、内側からなら、開けられるはず」


 メリディア様の秘石も上下に振動した。

 マモモルとバフーンが通路の雰囲気の変化を感じ取ったように、それぞれの精霊特有の気配を放ち始めた。


「了解した」


 振り返り、廊下を進む。

 神々しい音楽に合わせるように、天井の魔法陣が強く輝く。

 床の半透明な魔法の通路は、奥に続くように伸びていき左右に複数の通路が出現した。真っ直ぐ通路を進むにつれ、音楽はより一層、荘厳さを増す。


 儀式の始まりを告げているかのような印象だな。

 【アムシャビスの紅玉環】もそうだったが、音楽家の魂でもハープを奏でているんだろうか。


 それにしてもクリスタルといい、壁面の模様が凄まじい……、

 

「シュウヤ様、これは〝輝翼紋様式〟の一種ですね」

「そのはずだが、俺も見たことないぜ」


 メンノアとアドゥムブラリの語りにルビアが、


「不思議とどこかで見たような氣がします」

「魔命様の記憶でしょう」

「はい、ルビア様の中に密かに伝わっているはず」


 マモモルとバフーンの語りに皆が、注目した。

 メンノアは優しげに頷いていた。

 

 皆で魔法の廊下を進むと、さらに複雑に、精緻になり、放たれる紅色の光も、一層、力強さを増していく。


 ルビアとアドゥムブラリが、その『輝翼紋様式』の前で立ち止まった瞬間、メンノアの三眼が煌めき、


「閣下、この紋様は、アムシャビス族の『翼紋結界』の一種で、大きな力を持つはずです」


 その言葉が響くや否や、ルビアとメンノアとアドゥムブラリの間に紅の魔線が走り、その魔線は織物のように複雑な模様を描き始めた。

 同時に、首に掛けたメリディア様の秘石が、かつてないほど強く共鳴し始める。


 秘石から放たれる光は次第に人型を成し……。

 そこには、幻影となった魔命を司るメリアディ様と、元天魔帝メリディア様が浮かぶ。


「「おぉ……魔命を司るメリアディ様――」」


 マモルルとバルーンが喜びながらルビアの近くで片膝で床をついて頭を下げる。

 

 メリディア様とメリアディ様の両者は、儀式用の衣装に身を包んでいる。母のメリディア様と娘のメリアディ様は幻影のまま抱き合った。


 とても、嬉しそうだ。

 離れた二人は、威厳に満ちた態度で、俺たちを見て微笑む。

 その幻影は朧げながら、前方を指し示すような仕草を見せる。

 導きに従うように、俺たちは先へと進んだ。

 通路の壁面に刻まれた『輝翼紋様式』は、一歩進むごとに新たな生命を得たかのように輝きを増していく。その光は単なる魔力の発現ではなく、アムシャビス族の魂そのものが結晶化したかのような深い律動を帯びていた。紋様の一つ一つが呼吸するように明滅し、古の魔法文明が遺した叡智の数々が今まさに目覚めようとしているかのような予感を漂わせていた。


 相棒の黒猫(ロロ)は、いつの間にか、歩調を緩め俺の傍らに並んできた。その大きな瞳には、この空間の神秘が映し出されているようだ。


 通路の左右に広がる壁面から、突如として魔力の波紋が走る。

 そこからアムシャビス族の歴史を物語る壁画が次々と浮かび上がっていく。それは単なる絵ではなく、古の記憶そのものが具現化したかのような生々しい輝きを放ち、見る者の魂に直接語りかけてくるような深い存在感を持っていた。


 同時に、光の壁画と闇の壁画が交互に現れる。

 それは、見る角度によってその姿を変えていく。


 光の天使のような存在が魂を浄化する様子と、闇の悪魔のような存在が魂を破壊する様子が鏡写しのように描かれていた。


 光と闇の幻想敵な壁画を見ながら空間の中を進んでいくと突如として視界が広がる。


 先に、床から天井へと伸びる柱が存在した。


 純白の光を放つクリスタル状の柱は、天界の至宝を思わせる神々しい輝きを湛え、対をなす漆黒の闇を纏う柱からは深淵の底から這い上がってきたような禍々しい気配が漂っていた。

 それらは交互に並び立ち、魂の浄化と破壊という、二つの力の永遠なる均衡を象徴しているかのように感じた。世界の根源に関わっていそうな印象もあるから氣が引き締まる。

 柱から放たれる波動も何か、不思議だ。


「波動を感じます……」

「はい、この場に足を踏み入れる者の魂をはかっている?」

「……あぁ」

「そうだな、浄化と破壊の狭間で揺れ動く生命の真理を語りかけてくるような感じだ」

 

 そのクリスタル状の柱の前と、左右の端には魔法陣が浮かび魔道具と本棚が幾つ点在している。

 

 宝箱のように見えるチェストが数個積まれ、武器と防具のような品も飾られてある。書棚と机には、と、少女の幻影、小さい翼があるからアムシャビス族の少女か。


 勉強しているのかな。

 そのアムシャビス族の少女の幻影は消える。

 すると、ハープネスが、


「ひゅぅ、チェストは宝箱か? あの中に貴重な代物がある?」

「自由に取ってくれとは言わないが、何があるか分からんぞ?」

「あぁ、それはそうだが、暫くは物色に時間がかかりそうだ。では報酬を探すとして、自由に選ばせてもらうぜ?」

「おう」

「選んだ後一応、シュウヤ殿に聞くから安心してくれ」

「了解」

「シュウヤ様、霊魔宝箱鑑定杖を使い、鑑定を次々にしておきます」

「おう、頼む」

「罠があったら解除しますので」


 エトアの言葉に皆が頷いた。

 そして、中央の光の柱に近づく。


 温かな波動が体を包み込み、心が浄化されていくような感覚に襲われる。一方、闇の柱からは、凍てつくような寒気が放たれ、一瞬で体温を奪い去られそうな冷たさを感じた。


「おぉ……これは、もしかして魂の浄化が可能な施設か」

「はい、同時に、すべてに、ハルモデラの次元軸に関係があると推測できます」


 メンノアの言葉に呼応するように、魔命を司るメリアディ様と、メリディア様の幻影が柱の前で立ち止まる。

 その姿は儚げでありながら、確かな意思を持って俺たちを導いているように見える。


 マモモルが、「はい。魂の浄化が可能なところ」

 バルーンが、「はい……」


 と発言。マモルルの精霊の周りには微かな水滴が宙に浮かび、その一滴一滴が月光を帯びたように輝きを放つ。一方、バフーンからは大地の鼓動を思わせる、重厚な魔力の波動が広がっていく。


 すると、空間に小さな光の球体が舞い始めた。

 それは浄化された魂の欠片――精霊たちだ。しかし、その中には黒く歪んだ、禍々しい気配を放つ球体も混ざっている。破壊された魂の成れの果て、悪霊の存在だ。


「ご主人様、あの精霊と悪霊、何かを伝えようとしているように……」


 ヴィーネの言葉が途切れた瞬間、精霊と悪霊が交錯し、一瞬の光芒を放って消えた。その閃光は、魂の持つ二面性を如実に物語っているようだった。


 黒猫(ロロ)は「にゃ……」と小さく鳴き、その大きな瞳で光と闇の交錯する様を見つめている。相棒の肉球が残す足跡は、まるで浄化の道筋を示すかのように、淡く光を放ちながら続いていく。


「でも、静かですね」

「ん、この静けさ、何か……」


 エヴァとレベッカの囁くような会話が、通路に響く荘厳な音楽と混ざり合う。


続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版、発売中。

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― 新着の感想 ―
>魔翼の花嫁レンシサとガラディッカは逃げたわよ、 逃げ足の早さはさすが。
厳重に封印されていたということは、どれも貴重な品ばかりだろうし、鑑定が滅茶苦茶楽しみ‼︎ アンシャビス族や幻魔ライゼンに関係する品は、ありそうだが、他にどんな品があるのか…。 風の精霊ナイアの浄化に…
どんなお宝があるか楽しみ! それにしても新たな女神が生まれたのにスキル獲得や女神がどこにいったか全く話に出てこないので地味に気になります!スキルは置いといたとしても女神がどこに行ったのか気にならない…
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