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千七百二話 <神秘の光雨>のスキル獲得とメイラとエラリエースの決断

 エラリエースを見るメイラの瞳に宿る決意の色が、かつての記憶と重なって見えた。

 エラリエースの姿を認識し、強めるたびに、その瞳が微かに揺れたのを見逃さなかった。

 この場で必要なのは剣を交えることではないが、大丈夫か?

 表情は厳しいが、エラリエースが偽りの死から蘇ったいま、正直にすべてを語るしかないだろう。エラリエースは裏切り者ではない、敵側に光属性の<血魔力>を提供することに貢献する結果になっても、エラリエースはエラリエースのままだ。


 <血道・刃瑠馬怒>の反動がまだ体内を駆け巡っているが、今は冷静さを保たねば。


 と、そんなことは杞憂と語るように振動した堕天の十字架が律動しつつ<血魔力>と共に光の魔力が迸る。柄から血濡れた触手が出ているが自然と発火している。


 そのまま堕天の十字架から出ていく内包されていた<血魔力>と光の魔力が、輝きを強め、無数の小精霊(デボンチッチ)と天道虫の幻影を生み出す。それらが螺旋状に絡み合い、珠を持つ龍が天を昇るように上昇し、螺旋に回転する綺麗な女性を模りながら、紅色の閃光を放っている空に突き抜けて、風孔を明けた。


 ――蒼白いスプラッシュが起きて閃光が発生。

 閃光は、光の粒子となって紅色の空へと溶けていった。


 突如、天から降り注ぐ蒼い光の階梯が出現する。

 その光は針のように細く、しかし確かな意志を持つかのように、紅に染まった空を貫いていた。

 大気そのものが共鳴するように震え、光の階梯の周囲には神韻を帯びた魔力の結晶が浮かび上がる。

 立体的な<光の授印>の絵柄が天界からの使者のように、蒼い光の階梯の上を優雅に降下し、高度の高い場所に留まる。


 その動きには厳かな儀式性が宿り、周囲の魔力場そのものが畏怖の念を示すかのように静まり返る。

 絵柄は完璧な均整を保ちながら、<古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナーの絆>と<光神の導き>と<旭日鴉の導き>と<聖刻ノ金鴉>を意味する模様も正確に追加され、俺の胸に刻まれている<光の授印>の印と瓜二つ。

 

 堕天の十字架が再び強い光の魔力を放つ。

 その輝きは宙空に留まる<光の授印>と呼応し、久遠の時を超えた再会を果たしたかのように融合していく。


 オーロラのような光の帳が戦場を包み込み、その神秘的な輝きは、古の聖なる力が現世に顕現したことを告げているかのようだった。天道虫の幻影を含む雨のように降り注ぐ光は、憤怒のゼアの軍勢へと降り注ぎ、その一滴一滴が浄化の力を帯びていた。

 天道虫の幻影を伴う光と、天道虫の幻影に触れた敵は闇の穢れが洗い流されるかのように、蒼白い輝きと共に消えていく。

 それは単なる攻撃ではなく、世界の理に基づいた浄化の儀式に見えた。

 

 人工的に〝魔神殺しの蒼き連柱〟か〝神殺しの蒼き連柱〟が起きたような印象だ。

 が、途端に蒼い光は縮まった。

 

 メイラたちから歓声が上がる。

 神界騎士団の方々は動きを止めた。

 皆、エラリエースの存在に氣付いているが、エラリエースへの注意は消えた。


 左手に握る堕天の十字架は律動を強めて光を放ち続ける。

 その光は、嘗ての己のこと示しているようにも感じられた。


 しかし、あの時に交渉の場にいたレガトゥスは見当たらない。

 神界騎士団は【バードイン迷宮】にいた方々とは、だいぶ異なるメンバーたちだ。

 メイラは妹のことを考え【ヴェナリア特務機関】から離れたか?

 だとしたら、正解だが、その妹のエラリエースの魔力が不安定に揺らめくのを感じながら静かに前に出る。


「ンン」


 相棒も前に出ながら、皆が戦う様子を見た。

 ビュシエとエヴァとキッカが、新手の大魔術師(アークメイジ)と似た四眼四腕の魔族を倒している。敵方の損害のほうが大きい。


 黒狼馬ロロディーヌは【メリアディの命魔逆塔】の前で暴れている魔界騎士の姿を見ていた。


 動きを止めたメイラと神界騎士団の背後では光神教徒ディスオルテかも知れない三眼二腕の光剣使いに、二眼四腕の仙女とアーバーグードローブ・ブーと似た神界戦士団たちがガラディッカと呼ばれている四眼六腕の魔族と、憤怒のゼアの眷族たちと魔剣型のモンスターと激戦を繰り広げている。

 カラディッカの巨大な腕が縦横無尽に動き、二眼四腕の仙女の聖槍の攻撃を往なす。

 アーバーグードローブ・ブーと似た神界戦士の金属の手が持つ巨大な光大剣も振るわれたが、その光剣も蹴り跳ばしていた、ママニの大型円盤武器アシュラムを右腕の手が掴むと、逆にママニに投げ返す。ママニはキャッチしたが、勢いに吹き飛んだが、グィヴァの<雷裳陣>に包まれて事なきを得ていた。

 と、()()の神剣が、ガラディッカの硬い皮膚に神剣が食い込むが、あまり効いてないか。()()が退くと、ガラディッカは前進、()を追い掛けたが、光神教徒ディスオルテかも知れない三眼二腕の光剣使いの光剣の斬撃を背に浴びる。

 

 ガラディッカは硬い皮膚に傷が付いたが、振り向きざまの巨大な拳が、三眼二腕の光剣使いの腹に向かう。それを三眼二腕の光剣使いは目の前でクロスさせ防ぐ。

 

 グリダマは、あの四眼六腕のガラディッカ様と呼んでいたから十層地獄の王トトグディウスの大眷属がガラディッカだろう。


 すると、天から十字架の蒼い光がグリダマの頭部が消えた辺りを強烈に差す。


 その十字架の蒼い光の出本は、先程堕天の十字架から迸った光の魔力が貫いた孔からだ。

 蒼い光は小さく細いから、蒼い針が、魔命を司るメリアディ様の支配する紅の空を貫いたようにも見える。


 と、その孔から蒼くて細い光の階梯が、滑らかな動きで、俺の前まで伸びてきた。

 立体的な<光の授印>の絵柄が、蒼くて細い光の階梯の上を進み降りてくる。

 

「「「おお?」」」


 先程も思ったが、その<光の授印>の絵柄は、<古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナーの絆>と<光神の導き>と<旭日鴉の導き>と<聖刻ノ金鴉>を意味する模様も正確に追加されて、俺の胸の<光の授印>の印と、本当に瓜二つだ。


 堕天の十字架から、またも強い光の魔力が迸る。

 降りて宙空に浮いていた立体的な<光の授印>の印と、その堕天の十字架の光の魔力が重なった。

 

 ピコーン※<神秘の光雨>※スキル獲得※


 途端に周囲にオーロラのような光が展開され、一部が雨のように憤怒のゼアの眷族とモンスター兵士に降り注ぎ、憤怒のゼアのモンスター兵士たちが数を減らしていく。


 おぉ、光属性の広範囲攻撃スキルか。


「「「「おぉ、奇跡だ」」」」」


 <神秘の光雨>の神秘的な現象を垣間見た神界騎士団の方々が騒ぐ。

 古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラーの近くで戦う、明櫂戦仙女ニナとシュアノたちも、<神秘の光雨>に氣付いたように、戦線の押し上げが強まった。


 と、闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備の外骨格甲冑の胸元のパーツが外れ横に動きインナーが露出した。


 ハルホンクも氣を効かせたように、インナーを消す。と胸の<光の授印>が露見した。身に着けていた〝霊湖水晶の外套〟を仕舞った。

 

 メリディア様の秘石も浮きながら後頭部に逃げるように移動していく。


 胸に刻まれている<光の授印>が輝きを放つ。

 その胸の表面から煌めく魔線が宙空に出て立体的な<光の授印>と重なった。


 途端に、


『――光と闇の導きし者シュウヤよ、ペルソナの無念をよくぞ晴らしてくれた……そして、十層地獄の王トトグディウスの第十地獄層と九と八の地獄層を貫いた、そなたの正義の光は、本物の中の本物……また、そなたの<光闇の奔流>は地獄の炎をさえ扱えるということだ。その光魔ルシヴァルの真理は、我にはない。が、それ故に成せることもある。そなたの魔界諸行往生にこそ、我にはない真の光が研ぎ澄まされていると分かる……そなたの……光……と、真の正義に光あれ――』

 

 ピコーン※<魔界諸行>恒久スキル獲得※

 

 神秘的な光神ルロディス様の声だ。

 しかも恒久スキルを得ることができた。


 神格云々ではない魔力の底上げ効果。

 すべての属性に対する若干の優位性を得られ、魔界を歩くたび、あらゆる修業効果がプラスに働く効果などがあることを理解できた。


 <魔界諸行>には、他にも色々と効能があると、感覚では理解できるが……。

 ステータスで確認しないと理解できない。


 途端に、光の現象は消えた。

 闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備も元に戻る。

 

 メイラさんと神界騎士団の一部は唖然としていた。

 そのメイラさんが、


「ガラセメ、今の奇跡を見ましたね?」

「あぁ、光に包まれ、胸元の神韻、神印は……あぁ、メイラの言葉以上だろう、本当だった」

「はい、【バードイン迷宮】と同じ、否、それ以上です。そして、あの方が光魔ルシヴァルのシュウヤ様です。闇を有してますが光側の正義の心を持つ」

「そのようだな、ディオルテも納得するだろう」

「そうだといいのですが」

「ふむ」

「あ、皆、防御陣とディスオルテ様たちの守りと牽制もしてください!」

「「「おう!」」」


 戦神教団の樹海支部のメンバーと似た戦士と僧侶軍団は一斉に左右と後衛に移動し、得物を構え、並びながら防御の円陣を展開した。

 左と後方に多い憤怒のゼアのモンスター兵を近づかせない。

 <神秘の光雨>を喰らった死骸は蒼白い光を放っているが、その死骸を踏みつけ潰しながら少し前に出ていた。死骸から仄かな天道虫の幻影が現れながら消えていくと、その死骸があったところから清らかな風が発生した。風は見えるから分かるが、光属性をかすかに含んでいる。


 <神秘の光雨>は浄化の効果もあるようだな。


 と、その遠い先に大魔術師と似たローブを着た新手が大規模な氷の魔法を繰り出して、眼球のモンスターを倒していた。どこの勢力か不明だ。

 とりあえず、メイラさんに、


「メイラさん、久しぶり」


 声を投げかけると、銀髪の騎士メイラさんは俺とエラリエースを見やり、

 

「はい、シュウヤさんに、エラリエース……しかし、セブドラの地で、まさかあなたと再会することになるとは」


 嬉しそうだが、複雑そうな表情だ。

 メイラさんの声音には、懐かしさと緊張が混ざり合っていた。エラリエースの方へちらりと視線を向けるが、すぐに俺へと戻す。


 メイラさんは俺とエラリエースと、エラリエースが抱えている神剣ピナ・ナブリナを見ると慈愛に満ちた表情のまま片目から涙が零れ、すぐにもう片方の目からも涙を流し、微笑む。


「姉さん……」


 メイラさんは頷いた。

 そして、


「妹をエラリエースを、あなたは守ってくれたのですね」


 その言葉に、エラリエースが前に出ようとする気配を感じた。

 黒狼馬ロロディーヌは「にゃお」と小さく鳴き、触手を優しく広げて彼女の動きを制する。今は姉の言葉を聞くべき時だ。


「守ったというより、共に戦い、共に進んできただけです」


 俺の言葉に、メイラの瞳が微かに揺れる。

 その背後で、神界騎士団の陣形がわずかに緩んだように見える。

 エラリエースも泣きそうだ。

 すると、アーバーグードローブ・ブーと似た厳つい戦士と頭が丸坊主の方々の一部が前に出て、


「グリダマを討伐してくださってありがとうございます、では、戦いが続いているので失礼する――」


 と一部が後退し、俺たちを囲う円陣が少なくなる。

 戦場の喧騒の中、姉妹の再会という運命の糸が絡み合おうとしている。


 黒狼馬ロロディーヌは【メリアディの命魔逆塔】を凝視、警戒するように喉の奥で「ンン」と唸り声を発し、触手を緩やかに展開させていく。その動きに呼応するように堕天の十字架から光精霊ミューロランの残響が波紋となって広がった。グリダマとの激戦の余韻を感じながら――。


 <水神の呼び声>と<闘気玄装>と<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>と<血道・魔脈>を維持して、他は消す。

 体から放出していた膨大な魔力を魔槍杖バルドークが吸い寄せる。

 闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備の一部のハルホンクの衣装は布のような部分だったが、そこが揺らめきながら魔力を吸い上げていた。

 

 すると、ヴィーネとキサラとレベッカが、すぐに寄ってきた。


「ご主人様、今の現象は、その堕天の十字架を用いたということは……」

「おう、あのラムーの鑑定結果に載っていた人物たちがここには勢揃いか」

「ん」


 レベッカは黙ってエヴァとヴィーネと共に頷いてエラリエースを見ていた。エラリエースは少し強張った表情だ。

 それが、また胸を刺す。

 エラリエースの周囲に展開される魔力の渦が微妙に波打つ。

 メイラに、


「メイラさんと神界騎士団の方々は、俺たちが敵ではないと認識した動きと思うが、よろしいか?」


 と発言し、堕天の十字架を下げながら、一歩前に進む。

 メイラの表情からは、敵意は感じられない。

 真剣に言葉の一つ一つを受け止めているように見える。


「はい、私は元よりそのつもりです、先程の現象を見ている皆も同じだと思います、ただ、今は戦いの最中で、緊張感も高い」


 メイラの言葉に頷いた。

 

「姉様……」


 エラリエースの声が、戦場の喧騒を切り裂くように響いた。

 一瞬、周囲の戦いの音が遠のき、その一言に込められた想いだけが空間を満たしていく。

 彼女の体から漏れ出す不安定な魔力の波動が、姉妹の間の空気を微かに震わせ、魔力線となって揺らめいていた。

 メイラの肩が震える。その僅かな動きに長年封印してきた感情が溢れ出そうとしているのが見て取れた。姉妹の魔力が共鳴するように、周囲の大気が脈動を始める。


「エラリエース、私は……」


 言葉を探すように、メイラは一瞬目を閉じる。

 その間にも、姉妹の間に張り詰めた魔力の糸が、幾重にも重なりながら織りなされていく。再び開かれた瞳には、確かな決意の色が宿り、その瞳から零れ落ちた涙が、魔力を帯びて煌めいた。


「姉さん、だめ、私が! 皆さん、私の名はエラリエースです」


 震える声に力を込めて告げる言葉は、戦場に立ち込める死の気配さえも押し返すかのように響き渡った。

 エラリエースの周囲に渦巻く魔力が、その決意と共に大きく脈動する。一部の者が、エラリエースの名を聞いて表情を険しくする。

 エラリエースは胸元に手を当て、姉を見てから、神界騎士団の方々を見て、


「もう、偽りの死の中に留まることはできません。シュウヤ様の元で活動を続けます」

「答えは出たな、では、私も同胞の騎士たちよ。これまでの忠誠に感謝する。しかし今、この場から、私も新しい道を選ぶとしよう」


 その言葉と共に、メイラは一歩、また一歩と俺たちの方へと歩み寄ってきた。神界騎士団の面々からどよめきが起こる。


「え、姉様!」


 エラリエースが駆け寄ろうとした瞬間、黒狼馬ロロディーヌの触手が素早く展開され彼女の周囲を守るように配置される。

 そのエラリエースを守護する際の触手の動きには、慈しみの感情さえ垣間見える。その展開は決して性急ではなく母が子を包み込むような優しさを湛えながら、同時に鋼の如き強さを秘めていた。

 まさに神獣として、相棒としての複雑な存在性を体現していた。


 メイラの歩みは確かだった。

 彼女は魔力を纏いながら敵意なく近づいてくる。

 その姿に、神界騎士団の動揺が広がっていった。

 かつての上官であるメイラの選択が、戦場の様相を大きく変えようとしていた。

続きは明日。HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

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