千七百一話 グリダマと激戦に十層地獄の王の焦り顔
2025年1月8日 15時15分 修正、皆の戦い描写を加筆。
この反応、四腕で巨大な十字架を持つ大柄の魔族はグリダマか。
堕天の十字架の柄から漏れ出る闇と紅蓮の炎、そして光る<血魔力>が、武器自体が怒りを表すかのように脈動している。
相棒は前進し、たじろいでいた大柄の魔族を置いていく――。
と、燃えた柄から生え出た触手が、過去の記憶を伝えようとするように手に絡みつき、強い怒りと殺気を伝えてきた。
左手が握る堕天の十字架には、光神教徒ペルソナにエラリエースの血も混じっていると分かる<血魔力>だからだろう。
心は冷静を保とうとしているが十字架は激しく脈動している。
そして<握吸>は発動していないが、グリップ力が増した。
ついでに<握吸>を発動すると、柄から軋む音が響く。
が、すぐに血道・刃瑠馬怒状態の堕天の十字架に宿る光神教徒ペルソナの血継を受け継ぐ魔霊から怒りを感じた。
右手に握る魔槍杖バルドークと衣服の肩の竜頭装甲が少し揺れた。
刹那、首に付着した黒狼馬ロロディーヌの触手から、
『てき』、『つおい』、『あいぼう』、『おく』、『ほのお』『つおい、の、おおい』『あいぼう』、『しゅき』
断片的な念話だが、相棒の意図は心に直接響いてくる。
警戒しながらも温かな想いを込めた言葉の数々に、自然と力が漲る。
途端に血道・刃瑠馬怒状態の堕天の十字架の怒りが静まる。
堕天の十字架の表層に展開されていた炎が生命を得たかのように光の炎へと変容し、血の触手までもが聖なる光に包まれていく。
新たな光の紋様は装甲となって堕天の十字架の柄に刻まれていく。
武器に宿っている血継武装魔霊ペルソナの記憶からも温かさを感じた。
そのペルソナの記憶には、光神ルロディス様と親好が深かった光精霊ミューロランらしき魔力が内包されていると分かる。
まさに、光と闇、堕天光闇十字流だろう。
すると、先程の大柄な魔族が、
「――【メリアディの命魔逆塔】には行かせぬ!」
と俺たちの進行方向を潰すように動きながら四本の腕を動かした。
黒狼馬ロロディーヌも右に少し移動し、奥の【メリアディの命魔逆塔】を見据える。
大柄の魔族は、血濡れた十字架を右上腕の手に握り直し、左上腕に血濡れた魔斧と左下腕と右下腕の手に血濡れた魔槍を召喚すると、
「光の<血魔力>に、その光と闇を有した十字架は、神秘の十字架なのか?」
と、聞きながら血の塊を飛ばしてきた。
「ンン」
黒狼馬ロロディーヌが喉声を発し、横に移動――。
不意打ちの血の塊を避ける。
大柄の魔族は「ハッ、反応がいい魔獣だ、そして、騎乗している黒髪の槍使い……お前は何者だ?」
と、血濡れた十字架から、またも連続的に血の塊を飛ばしてくる。
黒狼馬ロロディーヌは右斜めに出て、左斜めに上昇し、複数の血の塊を避けた。
そこに右から光の礫が、その大柄の魔族へと向かった。
神界騎士団の方々の遠距離攻撃か。
大柄の魔族は、「ディスオルテどもシツコイ――」と血濡れた十字架と血濡れた魔槍を振るい、雨あられと飛来している光の礫を潰しながら後退する。
神界騎士団の方々と俺たちに向け複数の血の塊を飛ばし、更に血濡れた魔斧を<投擲>し、俺たちの行き先を封じるように回り込むと、俺たちに向け、直進、血濡れた魔槍を突き出してきた――。
黒狼馬ロロディーヌは「にゃご!」と文句を言うように口を広げ炎を洩らしながら体から複数の触手を大柄の魔族へと差し向ける。触手から出た骨剣が煌めいていく。
直進してきた大柄の魔族は「チッ」と舌打ちしながら動きを止め血濡れた魔槍を引き、血濡れた十字架を振り回し防御の動きを取り、ガトリングガンから放たれゆく銃弾の勢いで繰り出された触手攻撃をひたすら防ぎまくり、手の骨剣と衝突した魔斧と十字架と魔槍が削れる勢いで火花が散った。
押されている大柄の魔族はだが、冷静に宙に浮かせた血濡れた魔斧を操作し、光の礫の遠距離攻撃を防いでいた。
神界騎士団のメンバーたちが、何かを叫ぶが聞こえにくい。
そして、光の礫を先程から繰り出しまくっている神界騎士団の方々に光神教徒ディスオルテ本人がいるなら大物か。
それとも惑星セラの方かな。
教皇庁中央神聖教会の第八課の魔族殲滅機関の一桁の強者って線もあるが、さすがに魔境の大森林の傷場を超えての可能性は低いか。
大柄の魔族は、更に血濡れた魔斧を複数召喚すると、その血斧を俺たちに飛ばしてきた。
相棒は加速し、前に出て最初に疾風の如く飛来してきた二つの魔斧を避けた。
二つの魔斧は生きているように急回転し、【メリアディの命魔逆塔】側から追跡してきた――。
俄に魔槍杖バルドークと堕天の十字架を回すように斜め前に突き出し、二つの魔斧を穂先と柄で弾く。
が、弾いた魔斧が宙空に壁でもあるかの如く跳ね返ってくる。
<鎖>の迎撃を意識したが、『あいぼう』と念話を寄越した黒狼馬が、「にゃごぁ」と鳴きつつ、頭部と首と胸元から複数の触手を伸ばし、その触手の先端から飛び出た骨剣が二つの魔斧を突き刺すように弾く。
続けざまに複数の触手が上から下へと撓り、先端の骨剣が、連続的に飛来してきた他の魔斧を叩く。
魔斧の群れは大柄の魔族へとブーメラン機動で戻った。
そのまま俺を乗せた黒狼馬ロロディーヌは【メリアディの命魔逆塔】に向かう――と光の礫が飛来。
相棒は後退し、また飛来、宙空に上昇、周囲を見た。
光の礫は三眼二腕の光剣使いの遠距離攻撃か。
他にも二眼四腕の神界側の仙女と、アーバーグードローブ・ブーの戦士たちと、神界騎士団の人族の見た目の騎士と戦士たちから、無数の光の礫が飛来してくる――。
「いいぞぉ、神界騎士団ども、初めて役に立つ行動を取ったな!」
大柄の魔族の喜ぶ野太い声が苛つかせる――幸い光の礫は、大柄の魔族に向かう数が多いが――。堕天の十字架が苛立ちを怒りの力に変えているように<血魔力>を有した触手が柄から生えてくる。
同時に、血が沸騰するような感覚に襲われた。
が、それは一瞬のみ――。
神界騎士団からしたら皆が敵に見えるだろうし、俺たちは沸騎士軍団の首魁だ、敵に見えるのは当然。
黒狼馬ロロディーヌは「ンン、にゃ、にゃおおぉ~」と神界騎士団の方々に何かを語るように大きな声を発しつつ――。
無数の触手を右側に展開し、光の礫のすべてを弾きながら旋回を続けた。
相棒の可愛い声は戦場には似合わないが、光の礫の他に――光剣と光の鉄球などが飛来してくる。
向こうさん方もプロだ、俺のように可愛い~と考えても攻撃を止める存在はいない、え? 数人の女性騎士たちは、光の礫と光剣などの攻撃を此方に向けるのを止めていた、少し感動――。
相棒のラブラブパワーは強いか。
たんに神界の橙色の戦神イシュルル様や戦神ラマドシュラー様の魔力を感じただけかな。
そんなことを考えつつ<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出し、相棒の触手の骨剣による防御の負担を和らげた。
が、【メリアディの命魔逆塔】の前方の奥側から炎の魔刃が飛来した。
相棒は四肢を体内に格納させるように香箱姿勢となって、魔刃を避けた。
炎の魔刃を寄越したのは、魔界騎士と戦う憤怒のゼアの眷族たちの一部か。
それら憤怒のゼアの眷属たちは俺たちを見るように溶岩の体の一部を変化させ、陣形を変化させた。
変化させた体を分離させてグニョリと炎の刃に変化させると、その炎の魔刃を飛ばしてくる。
端から見たら可愛い体勢かもしれない黒狼馬ロロディーヌは体勢を元に戻し、左に飛び、右に飛ぶ。
ブーメランのような炎の魔刃を避けた。
光の礫も飛来してくるから、それを避けつつ触手を伸ばし、そこから出た骨剣で光の礫を防ぐ。
相棒は複数の触手を上下左右に展開させながら、上昇し、複数の遠距離攻撃を弾きつつ華麗に避けた。
そこに大柄の魔族が繰り出しただろう、血の刃の塊も飛来――それを受けずに急降下しながら避けた。
更に、憤怒のゼアの眷族たちが、次々と俺たちに炎の刃と炎の矢のような遠距離攻撃を寄越してくる――。
バレルロールを連続的に行いながら、憤怒のゼアの眷族目掛け《連氷蛇矢》と<光条の鎖槍>を繰り出す――が、非常に厳しい、ゼメタスとアドモスの突撃を防ぐだけはある――。
ヘルメが繰り出した《氷槍》が右端に見えたが、だれに繰り出しているのか把握もできないほどの遠距離攻撃の嵐――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を引き寄せて、複数の遠距離攻撃を防ぎまくりお陰で、魔力を得ていくが――。
十字砲火を浴びている歩兵の氣分だ――。
「ンン」とかすかに喉声を発した相棒は口から炎を洩らしている。
相棒も同じ氣分か。
『シュウヤ様、いつでも外に出ますので』
『主、我もいる』
『おう、だが、まだだ。憤怒のゼアが控えている現状は、ミラシャンとシュレはシークレットウェポンとして運用だ』
『はい!』
『承知!』
俺の意を汲んだ黒狼馬ロロディーヌは加速力を高めた。
神界騎士団の方々を無視するように、
「にゃごぉ」
と、口から紅蓮の炎を前方に吐きながら前進を続け、複数の遠距離攻撃を強引に潰しながら【メリアディの命魔逆塔】に向かう――『ナイスだ、それでいい――』「ンンン」喉声のみの返事だが、『わかってるにゃ』と言っていると理解できる。
が、すぐに大柄の魔族が回り込んで来やがる。
そいつの血濡れた斧が飛来――と同時に神界騎士団の方々からも光の礫が飛来してきた。
焦燥感が募る。中々進めない――。
ロロディーヌは左右に跳ぶように遠距離攻撃を避けまくるから、ついでに戦場の状況を把握していく――。
同時に装備を闇と光の運び手装備に切り替え、〝霊湖水晶の外套〟を羽織った。
「ングゥゥィィ」
『ふふ』
肩の竜頭装甲も合わせインナーを変化させる。
右手の爪の古の水霊ミラシャンも〝霊湖水晶の外套〟に合わせ連動し、爪を淡く輝かせ、爪先から水飛沫を飛ばす、と、水飛沫は甲の真上に集結し、小形の積層とした魔法陣が出来上がった。<水晶魔術師>としての効果か。
これはこれでバックラー的のパリィに使えそうだな――。
相棒は空を飛翔するように旋回機動に移る。
――アドゥムブラリとキスマリは溶岩の体の憤怒のゼアの眷族と戦っていた。
フォローに<鎖>を射出し、溶岩の体をぶち抜く、<鎖>は地面に突き刺さった刹那、アドゥムブラリが偽魔皇の擬三日月を振り抜き、溶岩の体を両断。そこにキスマリが<黒呪仙三刀破>を繰り出し、突き出した魔剣ケルと魔剣サグルーと魔剣アケナドから黒い魔刃が吹き荒れると、溶岩の体のすべてを貫く。
憤怒のゼアの眷属だった存在は、漆黒と赤の閃光を発し溶けず蒼白い輝きとなって塵と化した。
血の臭いに魔族とモンスター兵の死骸の臭いが結構な臭さだ――。
翡翠の蛇弓から光線の矢を射出するヴィーネ。
憤怒のゼアの大眷属の体に光線の矢を多数ヒットさせて動けなくしていた。
先程、ゼメタスとアドモスに斬られ吹き飛んでいた憤怒のゼアの大眷属は生きている。
そこにハンカイの湾曲した斧大剣の新・金剛樹の斧の<大嵐旋斧>が憤怒のゼアの大眷属の体に決まる。
更に、ユイがイギル・ヴァイスナーの双剣の<聖速ノ双剣>を喰らわせて、憤怒のゼアの大眷属を斬り刻むが、憤怒のゼアの大眷属の飛び散った破片が個別に動いて反撃を開始しているように回復力が異常だ。
ゼメタスとアドモスにメルが、花嫁衣装の魔翼の花嫁レンシサと対峙。
ゼメタスとアドモスの名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙の<月虹斬り>をレンシサは軽々と避ける。
メルの閃脚を活かした速度から紅孔雀の攻防霊玉を刃に変えた一撃も避けたレンシサは、何かを語ると、ゼメタスとアドモスとメルの動きを封じる。レンシサは、憤怒のゼアの大眷属に突っ込んだ大柄の部下が用意した柱に乗って高々と移動したが、そこにエヴァのサージロンの球を喰らって吹き飛ぶ。が、それはレンシサの分身体だった。
レベッカと光魔龍レガランターラとフーとエラリエースたちは憤怒のゼア側の眷族と魔剣の剣精霊のような存在と戦う。
憤怒のゼアの軍勢のモンスター兵たちは、レベッカの蒼炎弾を喰らうと一瞬で消えていた。
<従者長>フーは<鴇ノ白爪突刃>を繰り出して、憤怒のゼアの眷族を斬り刻み、回復をさせずに屠る。
と、<血魔力>を纏う銀色の爪を振るって、銀色の爪から<バーヴァイの魔刃>を飛ばし皆をフォローしていた。
大柄の魔族にも<バーヴァイの魔刃>を飛ばしている。
金髪を靡かせながら華麗に戦うフーを見て、魅了された【鴇の宝玉】を得たフーは頗る強い。
が、皆の攻撃を華麗に往なした花嫁衣装の魔翼の花嫁レンシサも目立つか。
部下の柱と剣を扱う仁王像と似た大柄魔族の二人を引き連れながら、角あり六腕の魔族と戦いを始めていく。
憤怒のゼアの大眷属は魔翼の花嫁レンシサの前から伸びた雷状の鞭に捕らわれている。
そこに俺たちを見ていた女性魔族ともう一人の女性魔族が前に出て、雷状の魔力が放出された細長い魔剣を振るい、憤怒のゼアの大眷属に致命的な剣撃を浴びせていた。
ゼメタスとアドモスは、魔剣型の新手と戦っていた。
そこに銀白狼に乗ったサラと――魔造超生物の〝法魔ルピナス〟に乗ったサザーと――魔界沸騎士長のボラニウスとラメガノンたちが加勢していく。
魔剣型は沙・羅・貂たちを彷彿させる動きで速く硬いから苦戦している。ラシーヌも援護の円月輪のような魔刃を繰り出している。
古の魔甲大亀グルガンヌと骨鰐魔神ベマドーラーの近くでは――。
憤怒のゼアの軍勢と、上空から大型のトロールのようなクリーチャーを召喚している大魔術師のような魔族に、魔剣の群れと、沸騎士長ゼアガンヌとクナとルシェルとアドリアンヌとファーミリアとシキとキュベラスたちと沸騎士軍団の数千が戦っている。
そこに、魔犀花流一門の五百名を率いる〝巧手四櫂〟のズィル、インミミ、イズチ、ゾウバチと、明櫂戦仙女ニナとシュアノの神界側の南華仙院の戦士団が突撃を開始、こちらは俺たち側が超絶有利か。
大型のトロールのようなクリーチャーはピュリンの骨の弾丸を喰らって頭部が破裂して倒れていた。
大型のトロールは、魔肉巨人ドポキンアの姿と少しだけ似ているが別の魔族か本当にモンスターか。
鬼魔人傷場と鬼魔砦の前に激戦を思い出した――。
ふと、大厖魔街異獣ボベルファと魔皇獣咆ケーゼンベルスが居ればと、考えてしまう。
そして、神界騎士団とニナとニュアノたちが鉢合わせれば神界騎士団は此方側に付くと思うが、如何せん戦場は広く混沌としていて、そこら中に敵がいる状況だからな。
しかし戦況が好転し続けたらチャンスか。
戦場を把握している間にも血濡れた魔斧を<投擲>してくる大柄の魔族は、俺たちの動きを封じるように動くから、
「相棒、神界騎士団が氣になるが、俺たちを阻む大柄の魔族を狙うか」
「にゃ――」
俺の意を汲んだ相棒は後退し、連続的に飛来してくる血濡れた斧を避けた瞬間、後脚で地面を強く蹴る――。
神獣の膂力を見せつけるような勢いで加速前進――。
が、その相棒の加速に合わせ、飛来してきた血濡れた魔斧――。
すぐに相棒は触手骨剣を前方に向ける、俺も魔槍杖バルドークと堕天の十字架を前に出して、血濡れた魔斧を弾きつつ前進。
相棒は大柄の魔族が退かないように触手骨剣を繰り出し続けて、大柄の魔族に向かう。
大柄の魔族は、「ハッ、近づいたところで――」と言いながら血濡れた魔槍と血濡れた十字架を巧みに動かす。
触手骨剣の連続突きを防ぎながら、血濡れた十字架の真下から斜め上に連なり上昇してくるようなノコギリ状の魔刃を繰り出してきた。
その地面から直線状に巨大なノコギリが生えてくるような魔刃により、触手骨剣が左右に弾かれていく。
が、相棒は橙色の魔力と漆黒と紅蓮の炎を体から噴出させる。
自然と俺も<沸ノ根源グルガンヌ>を発動、連動しながら加速した黒狼馬ロロディーヌは斜め前に移動し、前進。
相棒の体から噴出している橙と漆黒と紅蓮の炎が、直線状の巨大なノコギリを削りながら大柄の魔族に近づいていく。
「なに!」
間合いを詰めた瞬間――。
大柄の魔族の胸をぶち抜こうと魔槍杖バルドークを突き出す。
<血刃翔刹穿>を繰り出した。
大柄の魔族は血濡れた十字架を掲げ、魔槍杖バルドークの紅矛を受け止めた瞬間、紅矛と紅斧刃から<血魔力>が吹き荒れるように無数の<血魔力>の魔刃が前方に飛び出た。
血濡れた十字架と<血魔力>の魔刃が幾つも衝突し、大柄の魔族の上半身にも<血魔力>の魔刃が突き刺さるかと思いきや、大柄の魔族は血濡れた十字架を消し、左に跳ぶように避けた。
その左に跳ぶ大柄の魔族を追うように「ンン」と喉声を発しつつ相対した相棒は触手骨剣を大柄の魔族に向けていた。
大柄の魔族の得物が、蛇のように動く、血濡れた魔槍の柄と穂先により、触手骨剣は絡め取られるように防がれた。
黒狼馬は「にゃご――」と口から直線状に炎を吐く。轟音と共に、熱波が周囲を包み込む。
「なっ!」と驚く大柄の魔族、その顔色を見るように黒狼馬ロロディーヌから跳躍――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動。
<血道第七・開門>――。
<血霊魔槍バルドーク>を発動。
魔槍杖バルドークから紅光と紅の稲妻と血の<血魔力>に漆黒と紅蓮の炎などが行き交う。
そのまま<始祖古血闘術>と<経脈自在>を発動。
加速しながら左手首の<鎖の因子>から<鎖>を発動させ、敢えて真上に展開させる――。
大柄の魔族は眼前から前方にかけ、煌びやかな魔法の盾を生み出しつつ後退し、相棒の紅蓮の炎を防ぎ続け、炎から突き出てくる触手骨剣の連続攻撃をも血濡れた十字架と血濡れた魔槍を上下に動かして防いでいた――。
その大柄の魔族の頭上から天誅と言わんばかりの魔槍杖バルドークを振り降ろす――<血龍仙閃>を繰り出した。
大柄の魔族は、「――連携に氣付かないとでも?」と言いながら血濡れた魔斧を真上に幾つか召喚し、振り降ろしの<血龍仙閃>を防ぐ。
血濡れた魔斧が幾つが吹き飛び破裂、火花と破片が散る。
途端に、左手に持つ堕天の十字架から神々しい血継武装魔霊ペルソナの幻影が発生した。
血継武装魔霊ペルソナの一部は光の粒子となって周囲の空間を浄化するようにグリダマを襲った。
「げぇ!」と驚いたグリダマの動きが一瞬止まった隙を突くように真上から下に直進していた<鎖>が光を帯びながら、その大柄の魔族の左肩を捉えた。大柄の魔族の左上腕が内側に潰れたように曲がり、左上腕が握っていた魔斧も落下。
宙空に展開されていた複数の血濡れた魔斧が消えた。
更に、相棒の無数の触手骨剣が、その大柄の魔族の体に突き刺さりまくる、鎧と衣服に分厚い体を貫く鈍き音が響きまくると、紅蓮の炎をもろに浴びて吹き飛んでいく――。
「げぇあぁぁ――」
紅蓮の炎を浴びて一部は石灰化し塵と化していくが、悲鳴を発しているように回復が速い――。
<水神の呼び声>――。
<滔天神働術>――。
<滔天仙正理大綱>――。
水神アクレシス様を周囲に見せるように水神系の<魔闘術>系統を発動。
<血道・魔脈>と<光魔血仙経>と<覇霊血武>を連続的に発動しながら前進し、大柄の魔族との間合いを潰す。
踏み込みから血道・刃瑠馬怒状態の堕天の十字架を突き出し、<魔仙萼穿>を繰り出した。
大柄の魔族は「くっ」と反応し、血濡れた魔槍の柄を盾にした。
堕天の十字架の<魔仙萼穿>は防がれた。
右手の魔槍杖バルドークを少し動かすと、大柄の魔族はコンマ数秒後、血濡れた十字架と片足から魔法の膜を発生させていた。
その動きを見ながら
「……お前が、グリダマか?」
と、大柄な魔族に問うと、血道・刃瑠馬怒と化している堕天の十字架から殺気が高まったように軋むような音を響かせる。
同時に堕天の十字架から光精霊ミューロランの魔力の残響が波紋のように広がった。
大柄の魔族は嘲笑を浮かべ、「ハッ、お前も忌々しい神界連中と同じなのか?」
「同じかもしれない、で、グリダマなのか?」
大柄の魔族は四眼の一つの片目を大きくさせる。
額から右目と頬にかけ亀裂が走り、その長い亀裂から、地獄を連想するような炎が吹き荒れると、そこから無数の餓鬼小人のような気色悪い者たちが現れた。餓鬼小人は亀裂を拡げ縮めつつ、一部の小人たちは魔界セブドラの大氣に触れて蒸発するように消えていた。
その大柄の魔族は、
「……過去の名などどうでも良い、我とガラディッカ様が、あの塔のすべてをもらう……」
と、発言。
やはり、ラムーの言っていた通りだな。
脳裏に蘇る鑑定の記憶。
かつて光神ルロディスに仕えながらも、十層地獄の王トトグディウスの力に堕ちた光神教徒グリダマの成れの果て。
神話級の聖なる武器が、今や魔の力に染まっているという事実は、この戦場の複雑さを象徴しているか。
堕天の十字架を構えていると、「にゃご――」と、黒狼馬ロロディーヌが触手骨剣を繰り出していく。
大柄魔族は巨大な十字架を振り上げると、その動きに呼応するように、グリダマの額の亀裂から地獄を連想するような炎と、上下に連なった餓鬼小人がグリダマの周囲を行き交うとグリダマの体から噴出していた<血魔力>と融合し、それが渦を巻きながら成長し、巨大な血と漆黒と紅蓮を有した炎の竜巻を形成する。
強風が発生してきた。竜巻の内部では、無数の餓鬼小人が蠢き、地獄の業火が渦巻いている。
――<血魔力>を持っているが、やはり、堕天の十字架の能力も得ているようだな。
グリダマを守る血の竜巻に触れた触手骨剣が弾かれながら骨剣が燃焼し収縮していた。
今までに見たことのない燃焼具合だ、黒狼馬ロロディーヌは「にゃごぉ……」と唸り声を発し、触手骨剣を引っ込め、体内に収斂させる際に、橙の魔力に触手と骨剣が触れるとジュッと蒸発したような音を響かせていた。
グリダマは、その様子を見ながら、右側で神界騎士団の方々の一部が四眼六腕の大柄魔族と他の魔族と戦い始めたことを見て、
「ハッ、ディスオルテたちが我を攻撃せず、ガラディッカ様に手を出すとは……信じられないが、それほどの存在感が、お前たちにはあるということか、そして、その忌々しい記憶を……我を逆撫でさせる……」
と、言いながら四眼で俺を凝視。否、堕天の十字架か。
瞳から憎しみが溢れでている。
グリダマは、堕天の十字架の光神教徒ペルソナの魂の欠片、血継武装魔霊ペルソナを感じ取っているようだな。
そして、ガラディッカ様とは、四眼六腕の大柄魔族、角ありか。
ガラディッカは<闇透纏視>のような魔眼を発動したと分かるが、構わず、今はグリダマだ。
深呼吸をするように<魔闘術の仙極>を発動――。
力を強めて腰を沈め、両手の握りを再度、強めるように<握吸>と<勁力槍>を発動。
グリダマは右足を下げ、体を開きながら横に移動した黒狼馬ロロディーヌを凝視、
「……この獣、神界の獣なのか? 槍使いと同じく魔界の力もあるようだな……」
「あぁ、その通り、俺たちは神界と魔界に通じている」
と、返すとグリダマは、四眼を膨らませるように眼球に血筋を作り、
「……愚かな。魔界に通じて、我を邪魔してくる神界連中とも通じている……クソな間者とは、哀れだな。そして、神と魔の力を併せ持つなど摂理に反することだ! が、そんな哀れな半端者のお前も第八地獄を体感すれば、真の地獄の炎を体感できる。十層地獄の王トトグディウス様の素晴らしさを理解できるだろうて――」
と、嘲笑しながら巨大な血と漆黒と紅蓮を有した炎の竜巻を寄越してきた。
嘲笑する理由が理解不能だ。
竜巻の中から餓鬼小人と地獄の業火が飛び出るように灼熱の風が吹き荒れる。
肌を焦がし、息苦しさが襲ってくるが、タイミングを見て――。
再び、<血道第七・開門>を意識し発動――。
冷静に<闇透纏視>で漆黒と紅蓮の炎の竜巻とその奥のグリダマの魔力の流れを見据えつつ魔槍杖バルドークで――再び<血霊魔槍バルドーク>を繰り出した。
右腕ごと前に出た魔槍杖バルドークの穂先が紅光を放った。
そこから紅蓮の炎を纏ったような血霊状の魔槍杖バルドークが飛び出て、前へと大きくなりながら直進し巨大な血と漆黒と紅蓮を有した炎の竜巻に突入し、その炎のすべてを吸収すると、膨大な炎を撒き散らしながらグリダマに直進――。
<血霊魔槍バルドーク>は、血の気配を纏いながら意思を持つかのように蛇行しながら退いたグリダマを追う、そのまま<血霊魔槍バルドーク>は空気を切り裂く轟音を響かせながら「げ――」と後退したグリダマの体をぶち抜くと、背後から鮮血が噴き出しながら咆哮が轟く。
<血霊魔槍バルドーク>は閃光を発し神霊を現すように綺麗な女性を模りつつ魔力の嵐となって魔槍杖バルドークに収斂された。グリダマの巨体は頭部だけとなる。
と、グリダマの生首、頭部が、「……げぇ――」と最期まで喋らせず――。
前に出ながら、十層地獄の炎を発している血道・刃瑠馬怒状態の堕天の十字架を振り上げ<血龍仙閃>を繰り出した。
紅斧刃と似た斧刃が、グリダマの頭部を通り抜け、一気に真っ二つに処した。刹那、血道・刃瑠馬怒状態の堕天の十字架とその<血龍仙閃>が通り抜けた空間から轟音が響き渡る。
更に、「ぇ、こり、十層地獄の――」グリダマの切断された頭部から餓鬼小人が噴出しつつグリダマの頭部は奇妙に喋る。
即座に<血道・刃瑠馬怒>を解除――キィィンと音を響かせながら堕天の十字架はハルバード状態から光を帯びた十字架に戻る。
<破壊神ゲルセルクの心得>を意識、発動。
体内の魔力が一斉に共鳴する。神々しい閃光が空間を切り裂くように広がり、堕天の十字架から<杖楽昇堕閃>を繰り出した。
光と闇が交錯する中、左から右に移動した堕天の十字架から血継武装魔霊ペルソナの美しい女性の幻影が浄化の光を纏って出現し、グリダマの左右の頭部を包み込むように捉えた刹那、十字架の閃光を放った堕天の十字架がグリダマの左右の頭部を捉え、骨と肉を潰しながら左右に分断した頭を再度くっ付けるように潰し、破裂させ、そこにいた餓鬼小人ごと血肉を潰す。
宙空に亀裂が走るが、続けざまに左から右へと<杖楽昇堕閃>の二回目の堕天の十字架が、わずかに残った脳漿と頭蓋と魔力粒子を潰すように捉える――。
途端に魔力粒子の一部が亀裂の中に逃げていく――。
血継武装魔霊ペルソナの幻影が、その粒子をも逃さないと言うように神々しい閃光を発した。
堕天の十字架から閃光が迸り、亀裂に突き刺さる。
刹那、ズゥンと鈍い音が亀裂の奥から響く、亀裂の奥にいた魔獣の頭部が左右に割れ、消え、眼球が爆発、十層地獄の王の姿の右腕が光に塗れながら消えていく様子が点滅しながら覗かせる、十層地獄の王らしき存在は、「『お前……槍使い……』」と神意力を有した念話と言葉を寄越す。
即座に、魔槍杖バルドークを神槍ガンジスに変化させ、構えた直後、十層地獄の王の表情に焦りが見えたところで、亀裂は消えた。
勝ったと思った刹那、背後から複数の聖なる光が迫ってきた。
「エラリエース!」
振り返ると、光翼を広げた神界騎士たちがこちらに向かってきている。
その中に、見覚えのある銀色の髪を持つ女性の姿があった。
あれはメイラ! 一瞬、息が止まる。
風に靡く銀色の髪、あの凛とした佇まい――間違いようのない姿だった。
エラリエースの姉が、この混沌とした戦場に姿を現すとはな。
今までの偽りの死の上に成り立っていた脆い均衡が、一瞬にして崩れ落ちたか。。
近くにきていたエラリエースの表情が強張る。
姉との再会は喜ばしいが、最悪な形か? が、そんなことは言ってられない、姉のメイラさんが迫害されるなら、俺たち側に来てもらえば良い。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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