千六百九十三話 レムファルトとの戦いに【幻瞑暗黒回廊】から
ミラシャンの声には怒りが込められていた。
レムファルトは蠢く薔薇の防御層越しに三つの瞳で此方を冷徹に見据え、
「ミラシャンか。封印から解放されたとはな――」
声には嘲りが含まれていた。
瞳は古代の魔術師としての威厳と狂気を宿しているようにも思えた。
「愚弄するつもりですか!」
そのミラシャンの体から放たれている水氣の魔力は無数の水晶の魔刃に変化、それが吹き荒れていく。彼女の激情が<水晶魔術>に現れていたが途中で不自然に魔刃は縮んで散った。星詠み崩しの陣形が作用している証拠か。
古の水霊ミラシャンは「このような星詠み崩しの陣形があろうとも!」と強氣に発言し、両腕を広げると、目の前に水の結晶のような無数の魔刃を生成し、それらをレムファルトに飛ばした。
レムファルトは、「ハッ、愚の骨頂――」と、嗤いながら薔薇の防御層を展開させ後退し、同時に四本の腕の手で印を結ぶ。そのレムファルトの周囲に半透明な魔獣と女性と爺さんと複眼の塊が召喚された。
半透明の魔獣と女性と爺さんと複眼の塊は、それぞれ特徴のある動きを行いながらミラシャンが創り出した無数の魔刃を吸収していた。
複眼の塊は触手の群れと奇怪な文字を幾つも生み出し、ミラシャンの無数の刃を己の体に取り込んで、半透明の複眼に魔力を集積させていく。
と、その複眼の中に、別次元と思われる地獄変相のような光景を覗かせてきた。
『閣下、薔薇の防御層を含めて召喚された存在は、複眼の塊を除き、皆、精霊です。女精霊は、風と土ですが不自然に融合し、複眼の塊と共にレムファルトの右下腕の腕環と魔線が繋がっています。風と土の女精霊と複眼の塊は連携してくるかもです』
『魔獣は炎精霊ハチャララ、爺は闇雷精霊トムム。風と土の精霊の名は分かりません。複眼の塊も不明。もしかしたら旧神の類いかもです』
『複眼の塊は、群生旧神の何かと推測しますぞ』
ヘルメとグィヴァとシュレゴス・ロードが教えてくれた。
『了解した』
風と土の女精霊に炎精霊ハチャララと闇雷精霊トムムは分かるが、旧神とはな。
複眼の塊は己の体に別世界の出入り口を持つような印象だから、そう言われたら納得できる。
古の水霊ミラシャンは攻撃を止め、
「……結界があるからとはいえ……私の<水晶魔嵐刃>を尽く……」
と喋りつつ、俺に視線を向ける。
視線の意味は『こいつヤヴァいです』と認識した。
大精霊使いレムファルト……憤怒のゼアよりも危険か?
闇と光の運び手ダモアヌンブリンガー装備の上に〝霊湖水晶の外套〟を羽織る。
レムファルトは薔薇の防御層を背の四枚の黒い翼から漆黒の魔力を噴出させて、俺たちを見ながら旋回機動に移り、【力と魔命の魔塔】の最上階を離れた。
魔槍杖バルドークを構え直す。
胸元のメリディア様の秘石が前後に振動。
敵意をレムファルトに向けていると分かる。
黒虎ロロディーヌの相棒も「ンン」と喉声を発し、レムファルトを追うように旋回を開始。
俺も、その黒虎とミラシャンとアイコンタクトをしながらレムファルトを見るように旋回機動に移った。
レムファルトは半身のまま薔薇の防御層を維持して俺を見ながら相対し、
「しかも、本契約か。剣と槍を扱う黒髪の男は<精霊使役>を持つようだな」
俺の<精霊使役>指摘してきた。
そこに、
「にゃごぁぁ――」
と、相棒が紅蓮の炎を吐き出した。
炎は薔薇の防御層に衝突し、焦げた花弁と血肉の香りが立ち込めていく。
花弁は分かるが、血肉とはな、と、レムファルトの四本の腕が一斉に動いた。
「愚かな!」
背の漆黒の魔力が集束し、相棒の紅蓮の炎を押し返す。
炎精霊ハチャララの獣は、体から炎を発生させながら弧を描く機動で黒虎に向かった。黒虎は紅蓮の炎を止めながら上昇――。
黒い天鵞絨のような毛を有した大きい黒虎がダイナミックに飛翔する。
その四肢の足裏の大きい肉球が魅惑的だ、なんか肉球の匂いを感じた。
と、腹の薄毛から桃色の乳首が見え隠れ。攻撃を誘う動きと分かる。
その黒虎の体から伸びた触手は生命を宿したかのように蠢きながら先端に骨剣を形成し、その骨剣が炎精霊ハチャララの炎の体を容赦なく突き抜いた。虚空に描かれた軌跡には、神獣の威厳が漂っていたが、すり抜けるのみ。効いていないが、途中から橙と漆黒と紅蓮が混じる触手骨剣に変化を遂げると、途端に炎精霊ハチャララは宙空で串刺しとなりながら半透明から本当の体を得たように鮮明になり大量の血飛沫のような魔力を体から噴出させて遠くへと吹き飛んでいく。
そんな炎精霊ハチャララに「にゃごぁぁぁ――」と鳴いた黒虎は口からビーム状の橙と漆黒と紅蓮が螺旋状に絡まる炎を吐いた。
一直線に伸びゆく橙と漆黒と紅蓮が螺旋状に絡まる炎が、傷だらけとなった炎精霊ハチャララの体を捉えると消し飛ばした。
「なに!? ハチャララが消滅させられた……」
レムファルトは驚愕し、風と土の女精霊と闇雷精霊トムムも動揺を隠せない様子で、その半透明の体を激しく揺らめかせた。
『『お見事!』』
『おぉ、戦神と魔神の古代のグルガンヌの力を活かした炎を隠し球に!』
俺もだが、ヘルメとグィヴァとシュレゴス・ロードも相棒の新必殺技とも呼べる混合炎に驚いた。
すかさず、<鎖型・滅印>を発動――。
同時にレムファルト目掛け、《連氷蛇矢》を無数に放つ――。
<雷光ノ髑髏鎖>を発動──。
闇の獄骨騎の力が両手首に集まり、闇雷の<鎖>となって迸っていくが、レムファルトは後退し、薔薇の防御層と精霊たちの魔法陣で防ぎきった。
ミラシャンも「いきます!」と呼応し<水晶魔術>の水晶状の魔刃と粘液のような液体を大量に両腕の先に宙空に発生させ、レムファルトたちに繰り出す。
途端に、幾重にも重なり蠢いていた薔薇の防御層が光を帯びながら変容を始めた。無数の花弁が渦を巻きながら上空へと舞い上がり、生命が宿ったかのように脈動する魔力の中から、神々しい威厳を湛えた巨大な女性が浮かび上がった。
その体躯は血の色を帯びた薔薇の花弁で形作られ太古の女神が現世に顕現したかのような荘厳さを纏う。
その両腕は優美な花弁の渦となって広がり、土と風の女精霊と雷と闇の爺精霊を慈母のように包み込んでいく。その存在感は、此方の魔力すら押し返すような威圧感を放っていた。
その薔薇の女巨人を思わせる存在に紅蓮の炎が衝突するが、
「にゃごぁ!」
相棒の紅蓮の炎も両腕で防いでいた。
その両腕が溶けていくが、凄まじい防御力。
薔薇の女巨人は、俺の《連氷蛇矢》と<鎖>の遠距離攻撃のすべてを防ぐと、
「『――古の水霊ミラシャンたち、主には手は出させません――』」
と神意力を有した言葉と共に薔薇の紋様を周囲に幾つも発生させて、衝撃波を飛ばしてきた。
衝撃波を<超能力精神>で潰すように防ぐ。
すると、風と土の女精霊と闇雷精霊トムムが、レムファルトから離れ、薔薇の防御層を越えて宙空から前進し、
――風弾と礫と、霧が混じる闇雷刃を繰り出してくる。
俄に大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、それらの飛び道具に向かわせ、風弾と礫と、霧が混じる闇雷刃と衝突。
その大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から衝撃音が響き渡ると、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の裏側から魔線が俺に延びて体に付着し、膨大な魔力を得た。
が、大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は、レムファルトが生み出したであろう無数の<導想魔手>のような群れに襲われた。
連続的に横へ横へと弾き飛ばされていく。
急いで、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消し、即座に<仙魔奇道の心得>を意識し、発動。
<水月血闘法>を発動。
続いて<メファーラの武闘血>を発動――。
飛来してきたレムファルトが繰り出した、超強大な魔剣の攻撃を仰け反って避けるまま<始祖古血闘術>を発動し、後退したが、背後に殺氣――。
即座に降下し、首を狙っていただろう、黒い刃を避けた。
レムファルトは追撃してくる。半身のまま魔槍杖バルドークを掲げ、盾にし、レムファルトが振り下げた大きい黒い刃を防ぐ――衝撃で背後に吹き飛ばされた。
レムファルトが「チッ、<神威狩り>を防ぐとは――」とまたも連続的に四腕の手が持つ巨大な鎌刃を振るってくる。
魔槍杖バルドークを前に出し、鎌刃の斬撃を柄で防ぐ。
が、鎌刃の勢いに押された、背後に迫った魔塔の壁を蹴って上昇しながら<滔天魔経>を発動させた――。
「また加速力を上昇させる!?」
下からレムファルトの声が響く。
俺がいた魔塔はレムファルトたちが繰り出した無数の魔刃と、薔薇の女巨人が繰り出した強烈な殴り攻撃を喰らって派手に崩壊していく。
風と土の女精霊と闇雷精霊トムムから風弾と礫、霧が混じる闇雷刃が飛来してくる。
レムファルトは四本の腕を交差させるように動かし、<血想剣>を思わせる水魔力と風魔力を纏った<導魔術>を展開。無数の魔刀と魔剣が虚空に浮かび上がり、意思を持つかのように俺たちを取り囲んでは、水と風の刃が雨あられと降り注いできた。直後、駆けつけたアルセルマギナたち眷属の<バーヴァイの魔刃>が、レムファルト、そして風と土の女精霊と闇雷精霊トムムを襲った。
アルセルマギナは魔銃を連射していた。
レムファルトと風と土の女精霊と闇雷精霊トムムは散開と集結を繰り返しながら、<バーヴァイの魔刃>を避け、眷族たちではなく俺に向かってきた。
その眷族たちに、炎の蛙魔族と四腕の魔剣師の部隊が襲い掛かっていく。
まだ周囲の魔塔には敵部隊は多いか。
「グォォォォォォォォォン」
背後から古の魔甲大亀グルガンヌの鳴き声と波動も轟いてきている。
光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスが率いる沸騎士軍団の一部が敵の部隊と衝突したようだ。
皆の奮闘を期待しつつ――。
<光魔血仙経>と<沸ノ根源グルガンヌ>を連続発動――。
魔剣の<投擲>と風弾と礫、霧が混じる闇雷刃をすべて、避けていく。
速度に余裕を得たところで、
『ヘルメ、グィヴァ、シュレ、レムファルトは強い。外に出てもらうが、憤怒のゼアを念頭にしつつレムファルトのすべてを仕留めに動くつもりだ。そして、もう少し、注意を引きつけてから、外に出てもらう』
『『はい』』
『承知!』
と、念話で作戦を伝えながら――。
両手首の<鎖の因子>からの<鎖型・滅印>を発動。
<鎖>を伸ばしては消して、また伸ばしつつ鋼の柄巻を左手に召喚し魔力を通し、放射口から青緑の魔刃を生み出し、そこから<バーヴァイの魔刃>を発生、遠距離攻撃を繰り出す。両手首の<鎖の因子>の印からも<鎖>を射出させて、<鎖型・滅印>も発動。
タイミングを狂わせるように<鎖>を連続で敵に射出し、牽制の距離を稼ぐ。
レムファルトが召喚した、複眼の塊は<バーヴァイの魔刃>を食べるように吸収していた。
あれは厄介だなと、《氷命体鋼》を発動し左腕をレムファルトたちに翳す。
そして烈級の《氷竜列》を発動した。
指先から上咢と下咢に大量の氷の歯牙を生やす氷の龍頭の群れが発生し、それらが一瞬で数体の氷竜へと連なるように進化しつつ直進した。
斜め下から追跡してきたレムファルトたちへと、その《氷竜列》が、カウンター気味に衝突すると思われたが、相棒とミラシャンの相手をしていた薔薇の女巨人が、横殴り的に、薔薇の防御層を皆の前に連続的に発生させ《氷竜列》に衝突させてきた。
無数の薔薇が咲き乱れていく。
『閣下の氷竜列は烈級を有に超えているのに、それを防ぐ薔薇の大精霊は強い!』
『はい、植物系の魔神とも繋がりが深い大精霊かも知れませんよ』
ヘルメとグィヴァの念話に同意だ。
薔薇の防御層は凍りつき崩れ去るが、《氷竜列》の無数の氷竜の群れが消えた。局所的にダイヤモンドダストを残し、そのダイヤモンドダストを越えてくるレムファルトたち。
<始祖ノ古血魔法>の<水血ノ断罪妖刀>や《王氷墓葎》などもあるが、左側からベイホルガの頂を振るうヴェロニカの姿も見えたこともあり、広範囲に及ぶ《王氷墓葎》の選択を消す。
王級:闇属性の《暗黒銀ノ大剣》は直線状に打ち出せるから狙うならコレだろう。と考えつつ――《氷命体鋼》を終わらせる。
左右の目と左手にいるシュレゴス・ロードに、
『シュレはヘルメとグィヴァよりも先に外に出た直後、<旧神ノ暁闇>をいきなり使い、星詠み崩しの陣形の淀みを拡大させるか、結界を弱まらせろ、その後、ヘルメとグィヴァは、風と土の女精霊と闇雷精霊トムムをレムファルトから引き剥がすように戦ってくれ、複眼の塊も引き寄せてくれたら嬉しいが、無理ならいい』
『わたしとグィヴァで、閣下とトムファルトをタイマンにもっていかせるのですね』
『そうだ、頼む。魔軍夜行ノ槍業の師匠たちにも出てもらうかもだ』
『任せてください!』
『はい! 必ずや、御使い様にトムファルトを!』
頼もしいシュレと常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァたちに期待を込めつつ、
『シュレ、左手から出るタイミングは三、二、一、GOだ――了解したな?』
『ハッ』
フェイントで三、一とか、やりたくなったが自重した――。
『三、二、一、GO!』
左手から出たシュレゴス・ロードは一瞬で上半身を男前の人型に変化させると、口から半透明の蛸の足を大量に放出し、
「『――シュレゴファッザッロッガァァァァァァァ』」
と、鮮烈な光と闇が周囲に拡がるや否や硝子が罅割れる音が空間から響き渡る。
鉛の鉄球が体中に付着していた感覚が消えた。
俺を追ってきたレムファルトは驚愕している。
すぐに腰ベルトと繋がり尻に付いている魔軍夜行ノ槍業へと魔力を伝えた。
「なんだと――」
「「え!?」」
「主様の結界が!?」
「……」
敵の精霊たちが驚く中、斜め右上に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を再召喚。シュレゴス・ロードは耳飾りの蛸から桃色の波紋を精霊たちに繰り出しながら<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の背後に移動した。
レムファルトと風と土の女精霊が即座に反応し、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に風の礫や魔力の腕を衝突させてくる。
シュレゴス・ロードは迂回し、小形のテトラポット的な桃色の魔力の塊を宙空に撒いて、それらの一部を爆発させ精霊たち攻撃を加えていく。
即座に、王級:闇属性の《暗黒銀ノ大剣》を繰り出した。
魂の深奥から呼び覚まされたように、眼前から漆黒の魔力が渦巻く。
と、黒銀の刃が浮かび上がり、冥界にあるような闇魔力を纏いながら輝き増幅させて直進していく。
その暗黒銀ノ大剣の刃が、薔薇の女巨人が展開した防御層に触れると暗黒と銀光が交錯する閃光が迸った。
防御層は一瞬だけ抗うように輝きを放つも、《暗黒銀ノ大剣》の前では脆い薔薇の花弁のように砕け散っていく。
──闇の王級の魔法は、薔薇の女巨人精霊の運命を断ち切るように、その女巨人の腹を豪快にぶち抜いた。衝撃は背後へと伝搬し、複数の魔塔が闇の波動に飲まれたように崩壊していく、闇の軌跡には冥界の闇のような魔力に満ちあふれていた。
その間に左右の目からヘルメとグィヴァが出た。
そして、
『シュリ師匠、連携に合わせてあまり突っ込まずに、レムファルトの注意を引く程度にしてください』
『ふふ、分かったわ』
魔軍夜行ノ槍業からシュリ師匠が出ては、出現させた雷炎槍エフィルマゾルを握る。
ヘルメは、風と土の女精霊と闇雷精霊トムムに向け、両手から<滄溟一如ノ手>を繰り出した。
グィヴァは<闇ノ塊石炮烙矢>を繰り出す。
<滄溟一如ノ手>と<闇ノ塊石炮烙矢>は、風と土の女精霊と闇雷精霊トムムが繰り出した風と土の多重の魔法陣と雷状の霧に防がれてしまう。
が、<珠瑠の花>に掛かった風と土の女精霊と闇雷精霊トムムはヘルメに引っ張られ、レムファルトから離れた。
グィヴァは身を捻りながら、「<雷狂蜘蛛>――」を発動、両手の先端に魔法陣を生成する。その魔法陣は暗い輝きを放つナガコガネグモに変化を遂げながら分裂し増殖しつつ複眼の塊に連続的に衝突を繰り返した。
<血道・魔脈>と<魔仙神功>を発動させる。
魔力の律動が血脈を駆け巡り、体内で渦を巻く古の力が目覚めた。
左手の霊槍ハヴィスが共鳴するように微かに震え、シュリ師匠と共に暗雲を切り裂くように急降下しレムファルトへ――。
「くっ」
レムファルトは<魔仙神功>の威力を察したか、六枚の漆黒の翼が不吉な輝きを放ち、それぞれが折れ曲がりながら禍々しい刃となって飛来してきた。
虚空に描かれる軌跡には血のような色を帯びた魔力が渦巻く。
迫り来る漆黒の刃群に構わず<血道第七・開門>――。
魂の最深部から湧き上がる血の律動が太古の魔竜を目覚めさせるかのように全身を貫く――。
血管を流れる魔力は心臓の鼓動と共鳴し、様々な古の力が轟音と共に覚醒し、渦を巻く魔力は右腕と魔槍杖に収束した。
そのまま魂の深淵から湧き上がる力と共に<血霊魔槍バルドーク>を解放するように発動――。
刹那、魔槍杖バルドークの柄から『呵々闇喰』の文字の魔印が浮かぶ。
と、穂先の紅矛と紅斧刃からは魔竜王のドラゴンと血の龍、そして髑髏と阿修羅の幻影が具現化し、柄からは<血魔力>が滂沱のごとく吹き荒れる――。
その魔力の嵐は、レムファルトの放った漆黒の刃群を呑み込み、時を巻き戻すかのように己の<血魔力>と共に全ての幻影を吸収していく。
魔槍杖バルドークは吸収した力を昇華させ、血と紫、銀、金が交錯する新たな<血魔力>となって俺の体内へと還流してきた。
ピコーン※<覇霊血武>※スキル獲得※
左手の霊槍ハヴィスで<戦神流・厳穿>を繰り出す。
レムファルトは「チッ」と舌打ちしながら四つの手に魔杖を召喚。
その左右下腕の魔杖からエネルギー刃を放出させて、霊槍ハヴィスの<戦神流・厳穿>を防ぐが、シュリ師匠の<雷飛>を使用した、雷炎槍エフィルマゾルの雷炎槍源流<雷炎豪刃把>は防げない。
レムファルトの黒い翼の半分と、左上腕の肩から胸が焼け焦げたように風穴が空いた。
覚えたばかりの<覇霊血武>を発動。
肩の竜頭装甲ハルホンクが「ングゥゥィィ」と古代の竜の咆哮のように呼応し、魔槍杖バルドークから溢れ出る魔力が液体の鎧のように俺の体の節々を包み込み第二の皮膚のように一体化し、魂の深層で古の力と共鳴しながら霊槍ハヴィスで<暁闇ノ跳穿>を実行――し、逃げようとしたレムファルトの右肩を穿つ。
すかさず、右手が握る魔槍杖バルドークで<紅蓮嵐穿>を発動――。
<血魔力>を吸い上げる秘奥が宿る魔槍杖バルドークは虚空を裂くように次元の境界を超えて直進――軌跡は冥界の門が開いたかのような魔力の嵐となり、レムファルトを穿ち、そのまま前方の魔塔ごと地面を抉り取る――膨大な魔力を得た。
振り返ると、レムファルトの足が虚しく落下してきた。
シュリ師匠はふんわりと幻影の足で着地。
シュリ師匠の頭部と両腕以外は、光の体で、魔軍夜行ノ槍業とわずかな魔線で繋がっている。
「勝ったわねって、あそこ……」
と、シュリ師匠が指摘した場所、崩壊した壁の向こうには漆黒の骨と黒い金属が囲う……魔法の膜は、
「あれは【幻瞑暗黒回廊】か? 光が漏れ出している」
その【幻瞑暗黒回廊】から転がってきたのは見慣れない特殊装備を身につけた者。以前ビーサやハートミットが見せてくれたものに酷似している。
銀河騎士専用簡易ブリーザーと似た装備か?
宇宙海賊【八皇】の一人の艦長ハートミットのような存在が、なぜ……。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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