千六百九十二話 【力と魔命の魔塔】での戦い
薄紅色の魔力膜が侵入者を拒むように蠢く中、メリディア様の秘石から放たれる光が歪んだ空間に新たな秩序を描き出すが、陣形の影響は強く、空気そのものが重みを帯びたように変化する。
不可思議な浮遊感の後、全身に鉛の重りを付けられたかのような重圧が襲いかかった。周囲の空気は粘性を帯び、掌握察の範囲は極端に狭まる。立ち込める紅い霧のような魔力は渦を巻いていた。
力の<魔闘術の仙極>と水神アクレシス様にホウシン師匠由来の<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を即座に発動させ、この重圧への抵抗を試みる。
予想外にも<魔闘術>系統への影響は比較的軽微だったが、頭部を周回していたメリディア様の秘石が突如、胸元へと引き寄せられるように付着した。
〝星詠み崩しの陣形〟は、今のメリディア様には少々荷が重いか。
チェーンが首に巻き付くと、闇と光の運び手装備のサークレット、額当て、面頬とメリディア様の秘石が魔線で繋がり、新たな魔法の膜が髑髏模様の外骨格甲冑の表層に形成された。
どことなく《氷命体鋼》を連想させる。
『閣下、〝星詠み崩しの陣形〟とは、速度の低下と魔力減退など複合的な効果を侵入者に与えるようですね』
『御使い様の右目にいるわたしにも、重さのようなモノを感じますから、〝星詠み崩しの陣形〟は強力な陣形ですね』
『おう』
『主、我の<旧神ノ暁闇>を使えば、一時的に周囲の星詠み崩しの陣形を無効化できる予感がある』
『お、ナイスだ、シュレ、もし強者との戦いに移行したら、緩急の差として利用しようと思う』
『了解した』
「シュウヤ様、私もついていきます」
「はい――」
「宗主――」
背後からエトアとラムーとキッカの声が響く。
「おう、背後と皆の援護も頼む――」
「「はい」」
「了解――」
「にゃお~」
相棒は少しだけ口から炎を吐いては体を振るわせる。
星詠み崩しの陣形の影響がいやなんだろう。
神獣猫仮面を装着していたが、外していた。
星詠み崩しの陣形は、敵反応を鈍らせる効果もある。
様々に悪影響を与える結界か。
左にいる〝陽迅弓ヘイズ〟を出したヴィーネは、
「星詠み崩しの陣形の影響が少し厄介そうですが、左側の四腕と炎蛙を追います――」
<血魔力>をわずかに体から放出させて<魔闘術>系統を強めていた。
「了解」
右にいるユイとハンカイを視認しながら室内戦を想定し、左手に鋼の柄巻のムラサメブレード・改を召喚し<握吸>を実行――。
柄巻の握りを強め魔力を込めると、放射口から青緑色の魔刃が唸りを上げて伸びた。その青緑の魔刃から熱を感じた。
慣れてはいるが、プラズマのような魔刃は触れたら即座に燃える。
右手の魔槍杖バルドークも<握吸>で握りを調整。
血霊衛士を倒してきた頭部が燃焼している四腕の魔剣師たちと、溶岩の体の憤怒のゼアの眷族たちは、
「敵が侵入してきたぞ!」
「ここで仕留める!」
「複数でかかれ!」
と、叫び、四腕の魔剣師は柱と瓦礫の影に隠れた。
炎の蛙魔族は異なる、散開し、一部は左右の魔塔の高台に移り散弾銃と似た両腕を此方に向けてきた。
銃口は複眼のような見た目。
奇妙な銃腕、奇怪な内臓のような素材で構成されている銃腕器官か。
クリーチャー型の憤怒のゼアの特殊部隊だろう。
その銃口器官が奇妙に膨らむと、複数の弾丸と業火が飛び出し、重低音が轟いた。
業火は憤怒のゼアと関係していると分かるように炎の蛙の頭部に吸い込まれて消えていた。
<雷光ノ髑髏鎖>を意識、発動――。
両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。
雷光と梵字に輝く<鎖>は複数の弾丸と奇妙な銃口器官を貫き、そのまま炎の蛙魔族の体に刺さったところで上昇させる、そのまま<鎖>の先端は、燃焼している蛙頭をも貫いた。
<鎖>を消す。
「ミゲーが!」
他の炎の蛙魔族が<鎖>で倒した仲間の名を叫びつつ奇妙な銃口器官から魔弾を射出してきた――。
ドローンを正確に撃ち抜いてきたが、避けられる速度――。
無数の弾丸を見る間もなく、相棒は前へと躍り出た。
黒虎は神獣特有の優美さで瓦礫を蹴ると、その体から漏れ出る橙色の魔力は、微かな痕跡を宙空に残しながら魔塔の中層へと一直線に伸びていく。一瞬の閃光のように漆黒の影が高く舞い上がり――あっさりと魔塔の中層に消えた。
「「――げぇぁ」」
「――黒虎だと!?」
「ひぇあぁぁ」
魔塔の内部から響き渡る悲鳴に、相棒の戦いの余波を感じ取る。
〝星詠み崩しの陣形〟など、黒虎には何の影響もないのだろう。
むしろ、相棒の神威の前では、この古代の魔法陣など無力と言わんばかりだ。
魔塔の中層から伝わってくる振動と悲鳴が、相棒の圧倒的な力を物語っていた。
左右からドドッと重低音、魔弾の飛来が続く。
<武行氣>と<闘気玄装>を維持し、<黒呪強瞑>を発動――。
前後にステップを踏んで、複数の魔弾を避けてから<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動、加速、速度を上昇させ前進し、右に跳ぶ。再度、飛来してきた複数の弾丸を避けた。
大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は必要ない――。
次々と飛来する魔弾を前進しながらすべて回避――。
魔塔三階へと続く瓦礫から滑り降りてきた炎の蛙魔族が腕を翳すより早く、左腕から<光条の鎖槍>を五発放った
炎の蛙魔族は驚愕に目を見開いた。
その片腕の奇妙な銃口に、二つの<光条の鎖槍>が突き刺さって直進し、奇妙な銃口を貫き腹に刺さった。
他の二つの<光条の鎖槍>も、炎の蛙魔族の胸に刺さり、一つの<光条の鎖槍>は炎の蛙魔族の頭部に突き刺さる。
炎の蛙魔族は、鎖槍の後部から放たれた光の網に包まれ、悲鳴を上げる間もなく仰け反った、そこを――鋼の柄巻のムラサメブレード・改が閃く。
<飛剣・柊返し>の青緑色の魔刃が、光の網に包まれた蛙魔族の体を袈裟斬りに両断する。飛び散った体液が床に焼け付き、濛々とした煙が立ち上る。
「ミゲーたちに続いてバイラまで殺されたぞ!」
敵の叫び声が響く中、握りしめた魔槍杖バルドークが血の律動を刻み、その反応が全身に伝わる。武器が意志に応え、昂ぶりを共有しているようだ
槍と共に戦ってきた経験から、この律動は新たな力の目覚めを予感させる。
「あの魔剣と槍持ちの魔剣師を殺せ!」
「「「おおう――」」」
瓦礫を左足の裏で蹴り、右へと跳躍。岩壁に両足を突けるように着地する。壁を伝う振動から敵の位置を把握しながら<武行氣>を全身に巡らせた。
足下から魔力を噴出させ、壁を蹴って上昇、体が宙空を切り裂くような感覚と共に魔塔の二階へと突入する。
――闇と光の運び手装備がわずかに共鳴し、動きが一瞬滑らかになるのを感じた。
ノーモーションで、近くいる魔族の胸へと<血穿>の魔槍杖バルドークを伸ばす。
<血穿>の発動と同時に魔槍杖バルドークから広がる血の波動が視界を朱に染めた。
穂先が相手の胸を貫くと新たな力の胎動を感じ取った。
と、そこに四方八方から飛来する魔弾の軌道を<闇透纏視>で捉えながら、退く、天井から降り注ぐ魔弾が、床を抉り、壁を焦がしていく。
焦げ付いた石材の臭いが鼻をつき、熱風が肌を焼くように通り過ぎた。
降りしきる魔弾の間を縫うように、前進し、横に跳び、すべてを回避し、身を捻るように爪先回転を行ってから後退し、魔塔の外へ――。
そこでも高い場所から魔弾が飛来、それらを避けつつ、右にいた炎の蛙魔族に近づく。が、腕銃から射出された魔弾が飛来――。
それを魔槍杖バルドークの柄で防ぎながら、更に間合いを詰める。
そして<血龍仙閃>の薙ぎ払いでそいつを仕留め、隣にいた、炎の蛙魔族を右回し蹴りで<蓬莱無陀蹴>で吹き飛ばし、横回転機動の半身から左足で裏で地面を蹴って身を捻りながら跳ぶ――。
<武行氣>で飛翔し、散弾のような魔弾を避けつつ、その魔弾を撃っている炎の蛙魔族を凝視、また飛来してきた魔弾を<雷飛>を実行し、前身して避け、一気に、その炎の蛙魔族に近づくまま魔槍杖バルドークを豪快に振り降ろす<魔皇・無閃>――。
銃腕を掲げ、己を守ろうとしている炎の蛙魔族は、
「――来るなァァ」
と叫ぶ。その銃腕と炎の蛙魔族の頭部を真っ二つ。
魔槍杖バルドークが血の律動を刻むように脈打ち、その反応が手のひらから全身へと伝わっていく。
魔槍杖バルドークが、俺の意志を感じ取り、戦いへの昂ぶりを共有していると分かる。
そして、槍を構えながら、寄ってきた四腕の魔剣師たちに穂先を向ける。
「「……」」
威圧されたように四腕の魔剣師は動きを止めた。
瞬間、周囲の魔力の流れが一変する。
即座に<雷飛>――から前進し、<髑髏武人・鬼殺閃>。
※髑髏武人・鬼殺閃※
※髑髏武人ダモアヌン槍流技術系統:薙ぎ払い※
※轟槍流技術系統:極位薙ぎ払い※
二人の四眼四腕の魔族が反応する前に、その炎の頭部を魔槍杖バルドークの紅斧刃が消し飛ばした。
頭部をなくした首から大量の血飛沫が舞う。
穂先に吸い寄せられる血の魔力が生き物のように蠢きながら宙を染め上げていく。それは死神の大鎌が描く軌跡のように美しいが、冷徹な殺気を帯びていた。
新しい紅矛と紅斧刃が血を吸わずに柄へと流れ、柄が血を吸う――力の源を得た魔槍杖バルドークは生命を宿した血脈のように脈打つ、その律動が使い手の俺の意識と共鳴したように心臓が高鳴ると『カカカッ』と笑い声を響かせてくる魔槍杖バルドーク。
深い次元での融合を果たしていくような感覚か……。
そして――周囲にいるユイとハンカイとヴィーネの<筆頭従者長>たちの動きが<霊血の泉>を使わずとも手に取るように分かる。
この【力と魔命の魔塔】の内外で、繰り広げられる戦いは死神の舞踏のように美しくも残酷だ。相手の動きを読み、反応し、倒していく――この感覚は何度経験しても新鮮さを失わない。
メリディア様の秘石が胸元で微かに震える。
この反応は、何か重要な存在の接近を告げているのかもしれない。
と、わずかに感覚が昂ぶったお陰か、掌握察が冴えた。
飛翔し、魔弾を避ける。
<血魔力>が体内を巡り、動きが研ぎ澄まされていく――。
飛翔しながら魔弾を回避し、宙空から瓦礫の山の炎の蛙魔族との間合いを詰めた刹那、魔槍杖バルドークで<血刃翔刹穿>を繰り出した
右腕ごと槍になったように突き出た魔槍杖バルドークから<血魔力>が吹き荒れ、新しい穂先から血の穂先の幻影が多重に重なりながら前に突き出て、炎の蛙魔族の銃腕と胸を貫いた。
<血霊魔槍バルドーク>は発動していないが、恒久スキル的にも使えるということか。
魔槍杖バルドークの穂先から無数の血刃が迸った。
「ぐぇぁ」
と、炎の蛙魔族は片方の銃腕で己の胸を叩くように魔槍杖の柄へと衝突させてくるが、魔槍杖バルドークはビクともしない。
炎の蛙魔族は逆に己の胸の傷を拡げ血飛沫が周囲に胸の表面から滲み出てくるのみ――。一方、その魔族の胸を突き抜けている魔槍杖バルドークの穂先から前方に迸っている無数の血刃は床と柱の一部を貫きまくっていた。
あれよあれよという間に前方の床と柱は穴だらけとなって紅と蒼の岩盤が露出していた。
複数のクレイモアの地雷を炸裂したような印象だ。
幸いに、アムシャビス族らしき存在は見当たらない。
すぐに魔槍杖バルドークを強く引き内に回転させ、<握式・吸脱着>を発動、柄から手が離れ、引き戻る魔槍杖バルドークの紅斧刃が、髑髏と漆黒と紅蓮の炎を波紋から発生させつつ、炎の蛙魔族の胸の上部と炎の頭部の顎を斬り裂いた刹那、<握吸>を発動させ柄を握り直し、振り上げる。
魔槍杖バルドークの紅斧刃が炎の蛙魔族の頭部を真っ二つ。
その魔槍杖バルドークと、闇の獄骨騎と胸の瓊玉のような秘宝の欠片から出ている魔線と漆黒と紅蓮の炎などの魔力が連なって宙空に魔竜王と美しい女性の姿が交互に現れていく。
と、残りの下腹部の死体をジャンピングニーで蹴り跳ばし――。
<血道第一・開門>を意識し、体から血の<血魔力>を周囲に散らしながら【力と魔命の魔塔】の内部に足を踏み入れた――。
魔塔内部の空気は埃と古い石材の匂いで充満し、天井からは砕けた硝子が零れ落ちる。足音が反響する広い空間で、敵の気配が影のように蠢いている。破壊された床からは紅と蒼の魔力を帯びた岩盤が露出し、その上を血の魔力が這うように広がっていく。
左右から「「「死ねぇぇ」」」と迫った四腕の魔剣師。
「そこだ!」
続けて、正面の穴ボコだらけとなったところに、炎の蛙魔族の群れが着地してきたところを把握――。
即座に左手が持つムラサメブレード・改を正面の炎の蛙魔族に<投擲>――魔槍杖バルドークを消す。
右手に血魔剣を召喚し、爪先半回転を前後に使う。
四腕の魔剣師との駆け引きの中で、<闇透纏視>を使う。
無数の可能性が閃光のように脳裏を駆け抜け、捉えた死角から致命的な隙が見えた――相手の四本の腕から繰り出される魔剣の軌道を読み、微細な間合いの狂いに勝機を見出す。
周囲に六浄魔剣セリアス――。
蒼聖の魔剣タナトス――。
エヴィオスの魔広剣――。
六浄魔刀キリク――。
源流・勇ノ太刀――。
セル・ヴァイパーを召喚し――。
<血想剣>を発動した。
<血想剣>の六浄魔剣セリアスと蒼聖の魔剣タナトスが、右からの突きと払いを弾く――。
<血想剣>のエヴィオスの魔広剣で迅速に<黒呪仙炎剣>を繰り出し、一人の四腕の魔剣師の胸を貫く。
<血想剣>の六浄魔刀キリクで<飛剣・柊返し>を行い、四腕のもう一人の魔剣師の胸と頭部を斜めに斬り捨て、二人の魔剣師を倒した。
ほぼ同時に、<血想剣>の源流・勇ノ太刀とセル・ヴァイパーと蒼聖の魔剣タナトスと六浄魔剣セリアスで、守りに入る。
左の魔剣師が四腕を伸ばす、その手が握る魔剣の突きを弾き、防ぐ――。
もう一人の魔剣師は、四腕に持つ魔剣で俺の足を狙う薙ぎ払いと頭部を狙う突きを繰り出すが、その払いと突きも<血想剣>の源流・勇ノ太刀を盾に利用し防ぐ。
無数の金属音と火花が舞う中――。
俺自身が、左前に出て左腕を振るった。
ブゥゥゥゥンと音が響くムラサメブレード・改で<超翼剣・間燕>を繰り出し、四腕の魔剣師の左足を斬ると、相手がうめき声を上げる
更に、右手の血魔剣で<飛剣・柊返し>を行う。
足を斬りつけた魔剣師の右上腕と胸を斜めに撫で斬る。
間髪容れず、二人の四腕の魔剣師が魔剣を、
「――チェスト!」
「――こなくそが!」
振り降ろされた魔剣と払われた魔剣の斬撃を、<血想剣>の源流・勇ノ太刀と六浄魔刀キリクで防ぐ。
即座に<血想剣>の六浄魔剣セリアスと蒼聖の魔剣タナトスとエヴィオスの魔広剣を二人の魔剣師に直進させる。
「ぐっ」
「この血の<導魔術>の剣術は――」
<血想剣>の六浄魔剣セリアスと蒼聖の魔剣タナトスとエヴィオスの魔広剣に混乱している間に、前傾姿勢で、左の四腕の魔剣師との間合いを零とした。直後、肩を内に移動させる勢いでムラサメブレード・改で<水車斬り>――。
青緑のブレードが魔剣師の胴体を真っ二つ。
直ぐに風槍流『異踏』を行い横移動――。
血魔剣で<黒呪鸞鳥剣>を実行――。
四腕の魔剣師は四つの魔剣で、宙空に浮きながら自律的に動く<血想剣>の六浄魔剣セリアスと蒼聖の魔剣タナトスと源流・勇ノ太刀のセル・ヴァイパーの突きと薙ぎ払いを防いでいる――が、俺の、動きには対応できていない、血魔剣の袈裟斬りから始まる突きが決まり、続いて、連続斬りの<黒呪鸞鳥剣>をもろに浴びて、体が細断されたように細切れ状になって散った。
刹那、真上から殺氣――。
胸元の<霊魔・開目>と<闇透纏視>と<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させつつ<血想剣>を解除し、魔剣類を戦闘型デバイスのアイテムボックスに格納させながら後退した。
俺がいた床が弾けるように爆発。
大量の粉塵と共に衝撃波が発生――。
胸元のメリディアの秘石が紅色の閃光を発生させ、粉塵に向かうが、俺は、<武行氣>を意識し、衝撃波を避けるように左に迂回した。
メリディア様の秘石から放たれている閃光が粉塵に人型を映し出すのを見ながら床と瓦礫を蹴って低空を飛翔して<握吸>――。
先程<投擲>した柄巻が血濡れていたムラサメブレード・改を引き寄せ消す。魔槍杖バルドークを右手に再召喚。
土煙が漂うところからまた殺氣――。
その土煙から大きい鏃が、にゅるっというように飛び出て飛来してくる。
「にゃご!」
相棒の声が魔塔の高いところから響く。
と、土煙のところを相棒の紅蓮の炎が展開された。
『ひぃ』
『神獣様も少し本気ですが、それほどの相手!』
『あぁ』
自然とバックステップ。
【力と魔命の魔塔】の一階層と二階層の一部が溶けた。
ここの魔塔の破壊は相棒に任せるかと、そのまま後退し、魔塔から外に出た。
が、次々と上空斜めから魔塔の最上階か――そこから大きい鏃の遠距離攻撃が連続的に飛来してきた。
――咄嗟に右に移動し、避ける。
大きい鏃が地面と衝突し爆発――。
爆風を<無方南華>と<無方剛柔>を意識し発動させて無効化させた。
そのまま<武行氣>の魔力を体から発し、強い推進力を足下から噴出させ、上昇しながら、依然と、飛来が続く、大きい鏃の遠距離攻撃を避けつつ魔塔の屋上に近づいた。
そこには黒虎がいる。
「にゃごぁぁ――」
と、紅蓮の炎を大魔術師風の男に繰り出していた。
大魔術師風の男は、三つの瞳を冷酷に光らせ、四本の腕を構えている。
背には黒い四枚の翼が広げられ、異様な威圧感を放っていた。
蠢く薔薇の魔法防御層は相棒の紅蓮の炎に焼かれ、表面は黒く焦げ付き中層まで溶け落ちている。
周囲には焼け付いた薔薇の甘く焦げ臭い匂いが立ち込めていた。
黒虎は強くなっているし、それを防ぐのは確実に大魔術師級だ。
たぶん、古代アムシャビス族の大精霊使いレムファルトか。
俺の考えが伝わっているように、胸元のメリディア様の秘石が振動した。
すると、
「シュウヤ様、そいつが、古代アムシャビス族の大精霊使いレムファルト!」
と、古の水霊ミラシャンが飛来してきた。
【魔連結塔】の中心、サミトト大魔塔を破壊を終えたか。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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