百六十八話 邪神・迷宮都市の真実※
ヴィーネは寝ている。
俺とは違い眠気は普通にあるようだ。
<真祖の系譜>を得たが、本家の俺とは違うのだろう。
いや、まだ慣れてないだけか? 何かの精神疲れかな。
徐々に俺のようになるのかもしれないが。
それじゃ、能力を確認だ。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:水神ノ超仗者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業: 魔槍血鎖師
筋力22.9敏捷23.5体力21.2魔力26.9→25.9器用21.0精神29.2→28.2運11.3
状態:平穏
魔力と精神の値が減っている。
これは俺の一部がヴィーネに流れた証拠か。
スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>
恒久スキル:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適合>:<血魔力>:<超脳魔軽・感覚>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<水の即仗>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<従者開発>new:<大真祖の宗系譜者>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>new
まずは<ルシヴァルの紋章樹>をタッチ。
※ルシヴァルの紋章樹※
※光魔ルシヴァルの神秘たる古代生命樹の大本であり光と闇の奔流※
※光魔に連なる者たちの成長を促し、繁栄を約束された者たちが主人の影響を受ける※
タッチをしても説明はでない。
象徴的な言葉だけで詳しくは分からないが、まぁいい。
次は<従者開発>。
※従者開発※
※従者の身体の色合いを変化させる※
※そして、<筆頭従者長>と<従者長>の身体へ、それぞれ専用のマークを刻むことが可能※
※<筆頭従者長>は色鮮やか。しかし、<従者長>は地味な色合いとなる※
ヴィーネに一回試したな。
続いて、各種スキルが融合した<大真祖の宗系譜者>をタッチ。
※大真祖の宗系譜者※
※ルシヴァルの紋章樹と真祖の力により因果律を歪め吸血神ルグナド系の<眷属の宗主>を超越した光魔ルシヴァルの血を持つ系譜者※
※多大な精神力を必要とするが、新たに選ばれし眷属の<筆頭従者長>を七人、更に<従者長>を二十五人増やせるだろう※
※スキル使用時に<筆頭従者長>及び<従者長>を意識すれば選択可能※
※<筆頭従者長>及び<従者長>に対して遠隔から血文字の連絡が可能となる※
色々とこっちのは分かりやすい。
<筆頭従者長>と<従者長>の違いは何だろう。
<従者長>をタッチ。
※従者長※
※<筆頭従者長>より初期の強さが全体で一ランク下の能力値だが、成長幅は変わらない※
※本人の努力次第で<筆頭従者長>を超える能力を得られる可能性もあり※
なるほど、能力は劣るが、努力次第で<筆頭従者長>を超えられるんだ。
そこでステータスを消す。
<筆頭従者長>が七人増えて合計十人まで。
<従者長>を二十五人……俺の眷属が増やせる。
そして、遠隔のメッセージも使えるようになったと。
でも、他になってくれる人はいるだろうか、エヴァ、レベッカに話をしたら、どうなるかな……。
特に、レベッカは……ヴァンパイア?
変態の化け物なんてお断りよ! とか話してきて引いてしまいそうだ。
まぁ、考え過ぎかもしれないが、これは後々……。
さて、もうそろそろ朝だ。
二階のベランダで涼むか――。
そっと動いてヴィーネを起こさないように……。
廊下から螺旋階段を上り、板の間の暖炉スペースを抜けて、ベランダに出た。
外は薄暗く、少し空が曇っているようだ。
小さいロッキングチェアの椅子と机が用意されてある。
これは多分メイドたちが置いてくれたのだろう。
気が利く彼女たちだ。
テーブルの上にはアカンサス、カトレアに似た花々を挿した花瓶が置かれてあった。
そんな綺麗な花の邪魔にならないように、アイテムボックスから黒い甘露水入りの水差しを机の端に置いてから、椅子に身を沈めた。
まったりと外の景色を見ながら甘い時を過ごしていく。
朝方の微風に頬が撫でられているようで、気持ちがいい。
今日は何しようかな。
第二王子に小さい冷蔵庫を売りにいくか。
プレゼントを渡しにザガのとこにいくか。
Bランク試験か、新たに手に入れた地図の鑑定か。
エヴァたちが来たら、迷宮に潜りにいくのもいい。
いっそのことゲートの存在を明かして、みんなで、あの浅瀬とみられる場所へ海水浴に行くのもいいかもしれない。
皆、貝殻水着を着てくれると言ってくれたし……へへ。
――はぅあっ。
精霊ヘルメが、変な妄想をしていた俺に対してツッコミを入れるように、ベランダの上に浮きながら登場。
「――閣下、何をしておいでなのですか?」
「ヘルメか、びっくりさせるなよ」
「すみません、中庭にある大きな木へ水を撒いていたら、閣下が現れたのが見えたもので」
「そっか。最近はいつも外にいるが心境の変化でもあったのか?」
「はい、新しいポーズを開発するのに、色々な方とお話をするのも一興かと思いまして。それに、ここは大きい樹木が二つもあります。水撒きは好きですから」
「なるほど」
そのタイミングで、こないだ手に入れた千年の植物を思い出した。
ヘルメは青い実が欲しいと言っていたからあげよ。
アイテムボックスから千年の植物を取り出す。
「あ、それは」
「そそ。一個、この実が欲しいと言っていたからね」
「閣下……なんてお優しい」
ヘルメは全身の黝い葉っぱ皮膚で漣のようにウェーブを起こしていた。
俺はそんな期待を寄せるヘルメに対して笑みを意識。
千年の植物の植木から生えた青い実を摘み取る。
それを精霊の彼女へプレゼントしてあげた。
「では」
ヘルメはさくらんぼを口に含むように食べていく。
「おぉぉぉぉ」
うはぁ、びっくり、ヘルメがムンクの叫びポーズ。
もしかして、不味かった?
「どうした?」
「魔力が、物凄い内包されてますぅ。匂いも芳醇すぎて魔力が濃厚なのですぅ。閣下の魔力とは一味違う、未知の果実! 素晴らしい、感動です。なんという甘さ、心地よさ。心が大地に溶けてしまいそうです……」
美味しすぎたのか、ヘルメ……目がヤヴァイ。
眼球の周りに青と赤の筋が……。
興奮しているのか黝葉と蒼葉の皮膚も、細かなウェーブを繰り返して渦を巻いている。
そのまま腰が折れそうなぐらい捻る独特のポーズを行っていた。
「そんなに美味しいのか、あ――」
実がなくなった枝のところから、また新しい青い実が生えていた。
千年の植物か。不思議だ。
これ、魔力を与えれば成長するらしいが……。
「また、生えてきましたね……」
「ヘルメ、勝手に食うなよ? あげるときは俺が手渡す」
「……分かっております」
ヘルメの目がまだ興奮状態だったが、俺が訝しむ視線を送ると、収まっていた。
「……よし、これに、魔力を与えてみようと思う」
「はい」
両の掌で挟んだ千年の植物へ魔力を直接与えてみた。
その瞬間、千年の植物の葉が光り、幹と実も光りだす。
「ちょっ」
光った小さい幹が横に少し膨れて、唇が形成。
その唇から白い息のような蜘蛛の糸を囁くように吐き出す。
さらに、幹を左右に揺らし踊る。
不思議すぎる踊りだ。
墓場で華麗なステップを踏んで踊るゾンビのような、あの有名なダンスのようなノリだ。
枝葉の先が、斜めに伸ばされてヒューと音を立て、停まる。
「蜘蛛糸?」
白い蜘蛛糸は千年の植物の表面を囲い、蜘蛛の巣が張ったようになる。
また音楽が掛かったように、幹は踊り出した。
「……これは奇怪な動きですね」
「あぁ、怪しい踊り。MPが吸い取られるようだ」
「MP? 分かりませんが、不思議です」
「魂が吸い取られる的な意味合いだよ」
「何ですと! 閣下の魂を……この植木、美味しい実でしたが、水に埋めますか?」
ヘルメさん……本気だ。
水に埋めるって沈めるってことかな?
「いや、埋めないから」
「はい……」
「……オレヲ、ウメルダトゥ……ナマイキナ、セイレイメッ!」
「ちょっ、喋ったっ!」
「わぁぁぁっ、怖いっばけものっ!」
ヘルメも十分怖いと思うがツッコミは控えた。
「ヴィーネが喋るといっていたが、本当に話すとはな、しかも見えているのか?」
「オウYO、ミエテル、ゼェ、ベイビィ!」
なんなんだ、このテンションは。
「もしかして、俺の魔力で育った?」
「オウオウ、オマエハ、オレノ、チチィ、イェイッ。オレ、コドモ、ベイベェッ、イェッ」
蜘蛛の巣に絡まったような植木の枝が奇妙に動き、枝でバッチグー的な動きを繰り返す。
「……」
「……」
この時、何が起こったか分からなかった。
軽い気持ちで魔力を注いだら、子供の木を……生んでしまった。
しかも、樹木だが、変なラッパーの植木。
助けを求めるようにヘルメへ視線を向けるが、彼女は目を泳がせ無言。
俺はしょうがなく、喋る植木と見つめ合う。
「……名前とかあるのか?」
「オレハ、オレ、イェイッ、ナマエ、クレYO!」
「サウザンドプラントという名前があるような気がするが……違うのか?」
「オレハ、オレッ」
踊りながら答えている。
埒が明かないので、多少、強引にやるか。
「古き名とか無いのかよ……お前は何だ?」
魔闘術を身に纏い、魔力を少し放出。
三白眼的な気分で睨みつけ、手に持つ植木を潰す勢いでプレッシャーをかけた。
ラッパーな植木はピタッと踊りを止めて、幹と唇を震わせて、樹皮を擦るような音で話していく。
「……オオォォ、チチィ、コウフン、スルナ、オレ、ジャシン、ツナガリ、アルYO」
なんだとっ? 邪神と繋がりがあるだと……。
迷宮の宝箱に入ってたから関係があるのか?
「お前は、俺の敵か?」
「NO、オレ、チチノコドモ、イェイッ!」
本当かよ。
「……その邪神の名は?」
「シテアトップ」
発音が変わった瞬間、植木の表面に掛かっていた蜘蛛の巣が宙へ浮かび出した。
「なんだ?」
「閣下、なんでしょうか。攻撃の意思は感じられませんが……」
蜘蛛の巣は円を作り薄い膜で覆われた。
薄い膜はテレビの白黒映像のようなものを映し出していく。
少しずつ、カラーになってきた。
円の中に映っていたのは、十尾を持つ巨大虎。
「ようっ、人族、お前が千年の植物を起動させたようだな」
巨大虎は気軽な調子で画面の向こうから話し掛けてきた。
牙が目立つ大きな口だが、喋っているリップシンクも合う。
「あなたは邪神シテアトップですか?」
「そうだ、十天邪神が一つ、邪神シテアトップだ。そんなことより、お前、本当に人族か?」
「まぁ、そうだな」
邪神といえども見分けはつかないか。
俺が持っている十天邪像シテアトップと関係があるのだろうか。
「ほぅ、千年の植物が自ら、オレの名前を話す時は、死ぬ間際のはずなんだがな。まだ、ぴんぴんと、動いてやがる……もしや、魔力を直に受けて鞍替えしやがったか? ったく、そんなおかしな奴でも、地上へ送れる貴重な小間使いの一匹なんだがなぁ」
シテアトップの大虎は視線を下へ向けて植木を睨んでいた。
邪神の手駒か。こないだ倒した奴も関係するのか?
「それはヒュリオなんとかと関係あるのか?」
「そいつの名を知っているとなると、迷宮に深く潜り込んでいる一流の冒険者か……」
「いや、深くは潜り込んでいない。魔宝地図で五階層には潜ったが」
その言葉を聞いた邪神シテアトップの巨大虎は十本の尻尾を動かして、頭を支えて考えるポーズを取る。
「……なるほど、宝から、その千年の植物を得たのか。そういうことか」
「勝手に納得されても、意味不明なんだが」
「……フン、生意気な小童が! だが、千年の植物を手なずける魔力の持ち主だ。……ヒュリオクスに洗脳された手駒じゃないんだろう?」
邪神は怒鳴るが、あまり怒気は感じない。
「あぁ、違う。あの人型生物の脳を乗っ取っている寄生蟲と話したことがあるからな」
「話しただと? それで洗脳されてないとなると、お前……魔界の神々に連なる眷属系か? それとも、神界の僕か?」
「なんだそりゃ。魔界と神界から、そんな奴らがこの地上に来ているのか?」
「……ふはははは、おもしれぇ。何もしらねぇで無限の世界と繋がる迷宮に入り浸っているのかよ。しかも世界の一部である俺様と対等に会話をしてやがる。これだから、地上はおもしれぇぇぇぇっ」
偉いハイテンションだな。
この邪神は……。
「詳しく教えてくれるとありがたいのですが、邪神様」
少し皮肉った感じで聞く。
「いいだろう。この迷宮都市は我々が住む広大なる邪神界と繋がっているんだよ。地上と一体化し繋がっている、といったほうがいいか。だから、遥か古、数千、数万、幾星霜とセラ側に比較的、近い次元界である魔界と神界からの使徒たちと邪神界の勢力は延々と争っている……」
……繋がっているか。
もしや、ペルネーテの周囲、地面に埋まっていた黒いのは……。
黒き環の一部?
昔、ロロディーヌの前身でもあったローゼスの精神世界での話に出てきた迷宮都市とは、ここのことだったのかもしれない。
「神界、魔界、以外の次元界はあるのか?」
「次元界は複数存在する。他の次元界に連なる者と争ったことは数回程度しかねぇな。だから、昔から魔界、神界、に連なる神々や精霊から愛された奴らが……本人が知らず知らずのうちにこの迷宮に来ることになり、我々の迷宮へ挑んでいるのさ。まぁ、そのお陰で餌である魔素を大量に得てはいるのだが、それを掻っ攫い、俺たち邪神を潰そうとしているのが、神界、魔界の連中なんだよ。ま、俺たちは潰れねぇけどな……」
この迷宮都市には神々や精霊から何かしらの加護を受けた者たちが集まりやすいと。
どうやら、俺もその一人らしい。
……遥か古代から続く三つ巴の争い。
他にも次元界は存在するから、四つ、五つと、複雑怪奇な眷属同士での争いがあるのか。
途方もない壮大な話だ。
「……なるほど。俺がその神たちの手駒だったら?」
「……手駒なのか?」
「駒ではないが、色々と関わってはいるぞ」
その瞬間、虎邪神は態度を変えた。
尻尾は膨れ上がって双眸を紅色が縁取る。
虎邪神らしい凶悪そうな顔貌へと変化を遂げた。
「なんだとぉ、駒じゃねぇか! なんでそんな奴が、ここにアクセスできたんだァ? てめぇ……どこの次元界だ?」
「二つの次元界と聞いた神界セウロスと魔界セブドラの神となら話をしたことがある」
「何ぃ……相反している神々と対話だァ? 何なんだおめぇは! 嘘じゃねぇだろうな。人やダークエルフにはアホなホラ吹きもいるからなァ?」
虎邪神は驚きつつも動揺したようだ。
乱杭歯を見せつけるように口を広げて喋っていた。
十本の尻尾を広げたり閉じたり忙しなく動かしている。
それより十天邪像のことを聞くか。
アイテムボックスを起動――。
像を取り出す。
いつ見ても気持ち悪い像だ。
「――おい、それをよく見せろ!」
邪神はいきなり豹変。
蜘蛛の膜へ虎顔を近付けて、ドアップ顔を俺に晒す。
像を見せてやった。
「……まさか、灰拭きから蛇が出るとはな……お前、俺の駒に成らないか?」
「駒かよ、何だ突然。これの名前通り、お前と像は関係するのか?」
大型の虎は尻尾を揃えては、急に姿勢を正していく。
「生意気な態度だな。が、そうだよ、関係するとも。その十天邪像を持つということは、俺の駒になる適性があるということだ。だからここにアクセスできたんだな? お前、本当に人族か?」
適性があるやつに自然にいきつく呪いのアイテムか?
「……人族かも知れない。そして、駒なんていやだ」
「かも知れないだと? くっ……数千年が経ち、やっと見つけた奴がこんなひねくれた奴とはな……」
邪神シテアトップは表情に翳りを見せると愚痴るように話す。
「そんなのはシラネェよ。俺にとっては邪神だろうが、魔界の神だろうが、神だろうが、我が道をゆく。すべてを喰らってでもな」
目に力を入れて、邪神を射殺すように睨みつけながら話していた。
「……お前、良いな。神と関係があると言ったが、どこの神にも染まっていないのか? 人如きが神々の精神と渡り合うことなど聞いたことがないが……」
向こうからは魔素を視るといった魔眼系や探知系のスキルは使えないようだ。
あの言い方からして……。
俺の人族っぽい見た目だけで判断しているだろうと思われる。
俺が光魔ルシヴァルだとは気付いてないと仮定はできた。
「……なんども言うが、俺は俺だ。だから駒にはならんぞ」
「わ、分かった。それでは駒ではなく協力ではどうだ?」
おっ、急に弱気になった。
どうやら、この邪像は、こいつには重要なアイテムのようだ。
「協力か、ならもう少し、あの迷宮について教えてもらおうかな」
「いいぞいいぞ、なんだ」
「それじゃ、まずこの千年の植物はどうして宝箱に入っていた?」
十本の尻尾をくるくると回しながら虎邪神は口を動かしていく。
「……俺から漏れた力の一部が迷宮に浸透し、宝箱の中に生まれ出たり、迷宮に生えたりするんだよ。これは俺だけじゃねぇ、邪神界に住む神々の影響も関係している。遥か古代から、人族、ドワーフ、エルフ、ダークエルフ、ハイエルフ、エンシェントドワーフ、ハーフドワーフ、その他、適性があり、力のある者たちへ自然と千年の植物が向かうようになっているのさ」
邪神の大型虎は流暢に語る。
「それには特別な実があるからな。魔力を増やし回復を促す。ポーションの原材料にもなるだろう。人型なら効果は薄いが若返り効果もある。専門的な若返りの秘薬には勿論、敵わないが、これらのアイテム目当てに、地上の遠い地域にもこの千年の植物は散らばっている」
だから、地下で生活しているダークエルフたちの手にもあったということか。
「お前は植物の力もあるのか?」
「ふっ、木の力ともいえるだろう。神界のガイア、サデュラ、魔界の知記憶の王樹キュルハの力では、ないからな。邪神シテアトップ様の力だ」
ガイアとサデュラとも会話をしたことがあるが……黙っとこう。
「木の力であんな植物を生み出せるのか?」
「そういうことだ。我に協力したら、木、植物を操る力を授けてもいいぞ」
何だと! 欲しい。
「協力とは何をすればいい?」
「おっ、人族らしい反応だ。まずは、邪神ヒュリオクスの眷属をぶちのめして欲しい。迷宮の中にある我が神域を侵す邪獣セギログン、お前たちと同じ人族、パクス・ラグレドア、ほかにもヒュリオ以外の邪神たちの眷属がいたりするが……とりあえず、目障りなこの二つを滅してくれたら、我が能力を授けよう」
本当かねぇ、ていよく利用されるだけのような気がする。
「邪神が邪神をなぜ攻撃する」
「単純明快、単に敵だからだ。【邪神界ヘルローネ】だろうが【魔界セブドラ】だろうが、神界セウロスだろうが、お前と同じ理由で、俺以外はすべてが敵なんだよ」
邪神界はヘルローネという名前なのか、ペルネーテと少し似ている?
「迷宮が邪神界となると、出現しているモンスターもお前らが生み出している?」
「そうでもあり、そうでもない。さっきも話したが、広大なる世界と無限なる世界が繋がり、様々な要因でモンスターが湧いているのだ」
曖昧な言い方だ。
「それで、この都市に住んでいる人族……パクス・ラグレドアという奴は、俺と同じ冒険者なのか?」
「そうだ」
「頭が洗脳されているだけ?」
「……眷属の使徒と成り、永いから洗脳の段階は超えているだろうな。脳と融合した別の種へ進化を果たしているだろう。邪神ヒュリオの一部の力を自らの欲望のために使い、人知れず、自らの眷属を増やしているはずだ……」
融合した新種となると、人魚シャナの歌声も無理か。
「人々に蟲を寄生させて、部下を増やしていると?」
「そうだ。無実の者、何も知らぬ者も、いつのまにか取り込まれていることもあるだろう」
マジかよ。
「そんな奴が冒険者をしているのか? もう既に国の中枢とかに入り込んでいるんじゃないのか?」
「……表の活動ならありえるかもしれんが、その可能性は低い。冒険者を多数引き連れている姿を、俺の眷属が迷宮内で見かけている。それに、洗脳場所としては迷宮内が一番都合がいい。ヒュリオクスとの連絡も取りやすく、襲いやすい」
多数……大手クランの一つか。
蟲に取り付かれた集団。
俺にはカレウドスコープがあるので判別は付くだろう。
「……しかし、そいつを殺したとして、本当に木を操る力が宿るのか? 俺は属性は持ってないぞ」
「邪獣を含めてな、属性は関係ない。俺の力を受け継ぐんだ。異質なお前なら丁度いいだろう? ガイアやサデュラが見たら、激怒するかもしれんがな?」
シテアトップは邪神らしい鋭い牙を見せる。
ニカァッと邪悪な笑みだ。
俺はガイア、サデュラの神々に恩を売ったから怒られることはないと思いたいが……。
こればかりは分からない。
さて、こいつのいう通りに邪魔者を倒したとして、果たして、この邪神がどんな得をするのか、その辺もしっかりと説明してもらうか。
「……すべてを倒して、能力を得られたとしよう。その後、お前はどんな得をするんだ?」
「お前に話をした条件の一つ、邪獣を倒すことに関係がある。五階層の一部に我々邪神たちの神域である遺跡があるのだが、そこにヒュリオクスの放った邪獣が住み着いたのだよ。俺の邪像が汚されているのだ……この煩い邪獣を倒してくれたら、神域が解放される。そこでお前へ能力を授けてやれる」
五階層……こないだの通りがかった寺院みたいな場所か。
「……解放とはなんだ」
「お前が持っている、十天邪像を我が邪像の足もとにある鍵穴へ嵌め込めば、特殊部屋が開かれる。神域の部屋の中には秘密の直結ルートがあるのだ。そして、その選ばれし者が使う特別な十天邪像の鍵を使い、地下にある封印扉を開けるごとに、俺の力の一部が迷宮へ循環する。俺様の邪神界での力が増すということだ」
「ほぅ、その秘密の直結ルートとは?」
「迷宮深くへ直接繋がる特殊水晶体がある部屋のことだ。行ったことがなくても、地下の十、二十、三十、四十、五十にある特殊水晶体がある部屋へ飛べるようになるだろう」
その特殊水晶体を利用すれば、簡単に深く潜れるのか。
「お前も冒険者なら、メリットがあるはずだ。一気に未知の世界、未知のマジックアイテムが待つ深部へ直でいけるのだからな」
……ピンポイントで欲と好奇心を刺激してくる。
未知の世界、未知のマジックアイテムには非常に興味がそそるね。
地下深くに潜った名声はハッキリいってどうでもいい、マジックアイテムのが興味がある。
金も儲かりそうだし。
「確かに……それで条件を達成したら、どこで力を授けてくれるんだ?」
「迷宮の内部だ。五階層の遺跡、我の像が汚されている場所で授けてやろう」
「了解した、はっきりとした約束はできないが」
「……舐められたもんだな。もし来るなら、五階層の迷宮内部にはお前一人で来い」
「それは無理だ」
「な、なんだとっ……」
「俺には仲間がいる。だったら、この話はなかったことに」
「ま、まてぃ、早まるな。了解した。数人だけお供を許そう……」
大型虎の邪神は耳を凹まして可愛げある顔になる。
怪しいが、こいつが裏切ったら、ぶちのめしてやればいい。
「……数人か、約束は守れない」
「ふん、まぁいい、待っているぞ――」
その瞬間、蜘蛛の細かな糸でできた円膜は萎びて縮小していく。
元の植木へ纏わり付く蜘蛛糸に戻っていた。
「オワッタ、ゼェ、ベイベーィ」
また植木が喋りだした。
「閣下、邪神と手を結ぶのですか?」
ヘルメは植木を無視。
心配そうな顔を浮かべて聞いてくる。
俺も植木を無視してヘルメを見た。
「そうだ。あの虎なら協力してもいいだろ、ま、敵対したら潰す。が、そんなことより、蟲のほうが厄介だ。この地上で仲間を増やしているなら、今後、他の冒険者たち、いや、俺の仲間たちにも脅威になる可能性がある。それに美人さんの冒険者が洗脳したり蟲の眷属化とか忍びないだろう」
「最後の言葉はいまいち納得はできませんが、前に奴隷の頭に寄生していた気持ち悪い蟲が複数ですか……しかも、閣下でしか判別できないとなると、少々、手ごわそうです」
ヘルメは黝葉と蒼葉の全身皮膚を尖らせながら、語る。
葉先も器用に動かせるらしい。
精霊として無意識で、葉を動かしているだけなのかも知れないが。
「……取り憑いている者たちのすべてを倒すわけじゃない。パクス・ラグレドアという名の有名冒険者を暗殺すればいいだけだ」
「はい、邪神との約束は二つのみでしたね」
「そうだ。俺には【月の残骸】がいる、迷宮に向かう冒険者のパーティ、または大きなクランを率いている存在ならば、簡単に情報を拾えるだろう」
「……さすがは閣下、すべてを計算済みなのですね」
「たまたまだ、持ち上げるな」
「はいっ」
もう朝だ。雲が晴れて明るい。
あ、虹が二つ、浮かんでいる。
二つの巨木から半円形を象りながらすっぽりと屋敷を包む。
ヘルメが水を撒いていたお陰かな。
「ダブルレインボー」
「はい、綺麗ですね」
ヘルメが虹を見つめながら語る。
黝葉と蒼葉のグラデーションが一段にも増したように見えた。
「おう。ヘルメも綺麗だ」
「閣下……」
自然と漏れ出た言葉に、ヘルメは満足気に微笑む。
寄り添ってきた。
彼女の背中に手を回す。
ヘルメのいい匂いを感じながら、一緒に虹を鑑賞――。
そのまま自然と、濃厚なキスを行っていた。
◇◇◇◇
さて、まったりとしたくつろぎタイムはここまでだ。
そろそろ一階に戻ろう。
「にゃおん」
おっ、ロロが起きてきた。
「よっ、おはよう」
黒猫は口を広げて欠伸をすると、首元から俺へ向けて触手を伸ばしてくる。
『遊ぶ』『腹減った』『空飛ぶ』『腹減った』
「遊びたくて、腹が減って、空を飛びたいんだな。それじゃ、まずは食事からだ。メイドたちはまだ早朝だから起きてないだろうし、適当に食うか?」
「にゃあん」
黒猫は甘えたような声を出すと、頭を椅子に座る俺の足へ摺り寄せてくる。
そのカワイイ行動に微笑みながら、アイテムボックスから肉と野菜を取り出し、床に置いた。
出された肉と野菜を勢いよく食べていく黒猫。
食ってる食ってる。頭を撫でたくなるけど我慢しよ。
さて、【月の残骸】の店へ向かうか、メルかベネット辺りを捕まえないと。
千年の植物のような邪神と交信できるもの、まぁそれは無理として、携帯のような通信機系のマジックアイテムがあれば便利なんだがなぁ。
まぁ出回ってない以上、望めない。
メイドたちには悪いが、俺も適当に胃袋へ汁物でも入れて朝飯にするか。
黒猫が食い終わり、ヴィーネが起き次第出発だ。