千六百八十四話 憤怒のゼアとの戦闘
2024年12月22日 22時43分 加筆&修正
<魔闘術>系統をすべて解除した。
呼吸を整えるようにポーションを飲む。魔槍杖バルドークの進化は実感できる。
紫紅色の柄が美しい魔槍杖バルドーク。
ジィィンと音を響かせた時、その振動は心臓の鼓動と共鳴するかのように体中に広がっていく。
柄の内部から紅光が発せられ、それが生き物のように脈打ちながら魔印を浮かばせていった。
表面には先程散っていた竜鱗の細かな粒が、夜空の星屑のように浮かぶ。
魔印は、アムシャビス族の輝翼紋様式と似た印象で、土地の【アムシャビスの紅玉環】の魔力をも吸収した証拠か。
柄の内部を、紅光と紅の稲妻と血の<血魔力>に漆黒と紅蓮の炎などが行き交うと、紅の稲妻のような魔力が外に迸り魔印を輝かせていく。
<紅蓮嵐穿>や<魔狂吼閃>を起こした時に発生する魑魅魍魎たちを彷彿する。
後端が魔竜王の頭部か、細まった竜魔石を飲み込むような上顎と下顎のデザインに変化していた。その柄を掴む。
柄の中に指と掌が埋没したような――。
新しい俺の手や腕となったような感覚を覚えながら<握吸>で握りを強めた。金属らしく硬いが軟らかさもあった。
喩えるなら、ドラゴンの装甲鱗と、その裏側に付いた肉を一緒くたに掴んでいるような、と余計か、単に硬くてやっこいだけでいっか。
<握式・吸脱着>を使い、少し手放した。
魔槍杖バルドークの柄が掌の中で自然と浮かび<握吸>で握り直す。新しい柄だが、馴染む。
魔槍杖バルドークはスキルの<血霊魔槍バルドーク>としても使える。
魔竜王槍流技術系統の新しいスキルの範疇。
突きと払いの新スキルも得られるだろう。
と、魔槍杖バルドークを引き抜いた。
ヘルメたちに見せながら横に振るう。
――紅矛と紅斧刃が少し変化している。紅矛が鋭くなっている印象だ。
波紋が美しい。柄は紅斧刃の幅の太さは闇遊の姫魔鬼メファーラ様と魔皇メイジナの強化の名残もある。
「「おぉ~」」
新しい精霊は片膝で地面を付いたまま頭を下げている。
そして、水霊、新しい精霊の名が気になる。
「頭をあげてください、貴女の名は?」
「名は様々、古の水霊ミラシャンなど様々に呼ばれていました」
「ミラシャンさん、助けてくれてありがとう」
「あ、こちらこそ! ヘルメちゃんとグィヴァちゃんに、封印を解除していただき助けてもらいましたので」
「そうでしたか、それで水霊とは精霊と同じなのでしょうか」
「はい、古の名、水の精霊の一種です」
頷くと、悪夢の女神ヴァーミナ様が、
「憤怒のゼアはシャイサードと槍使いの眷属たちと戦っているぞ、ゼアも破壊の王ラシーンズ・レビオダが滅したことは理解したはず、撤退するだろう。潰すなら急ぎ戻ろうか」
「了解しました。皆、聞いたな? 戻ろうか。ヘルメとグィヴァは両目に戻ってくれ」
「「「「はい」」」」
両目にヘルメとグィヴァを格納してから<武行氣>を意識して浮上する。
<魔闘術>系統の<闘気玄装>と<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動しながら悪夢の女神ヴァーミナ様たちと共に天蓋の巨大な孔を潜り、地下遺跡と地下水脈の綺麗な光景を見ながら地層と崩落している岩の群れを吹き飛ばしながら突破した――。
皆は体が炎系統で構成されている様々な魔族の空軍と戦っている。
憤怒のゼア側の空軍が殆どか――。
左側に向かいながら<血道第一・開門>を意識し、血を体から放出させる。
続けて<仙魔奇道の心得>と<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を連続発動。
破壊の王ラシーンズ・レビオダ側の四眼四腕の魔族の数は極端に少ない。
先ほどの鋼の六枚の翼を有した眷属らしき存在は見えないからヴィーネたちが倒したと分かる――憤怒のゼアはすぐに見つけた。
シャイサードたちと皆が戦っている。
憤怒のゼアは、炎系統の武具を生み出しながら臨機応変に戦っていた。
炎の衝撃波と空中から地上にかけて炎の壁を造り出す。
自らが戦う眷属を選ぶような戦い方だ。
ヴィーネとミスティとユイとキサラとヴェロニカとキッカとハンカイとルマルディとアルルカンの把神書とビュシエとサラとメルとママニと黒豹たちは各自連携しながら憤怒のゼアの眷属を倒し、憤怒のゼアが造り出した炎の壁を消し飛ばしながら、憤怒のゼアに近付こうとしたが炎に阻まれる。
遠目から<バーヴァイの魔刃>などを当てていくが、憤怒のゼアはあまり効いていない。
シャイサードの分身体が憤怒のゼアの逃げ道を防ぐように戦いを仕掛けても、憤怒のゼアは相手しないように距離を取る。
あの戦い方だときりがないな。
一方、悪夢の女神ヴァーミナ様の軍の大半は近くを離れ、アムシャビスの紅環の周囲に集まっていた。
と、憤怒のゼアは、シャイサードの前に転移したかと思いきや、消えて、シャイサードの背後に転移し、炎の魔剣を連続的に宙空に生み出しながら二腕の両腕を振るいシャイサードに炎を喰らわせていた。
シャイサードは翻弄される。
左右からアドリアンヌとシキとキュベラスとファーミリアたちも憤怒のゼアに攻撃を仕掛けていくが、憤怒のゼアは体の炎の中に消えたように姿を消す。
と、かなり離れた場所に炎の塊を出現させ、塊が憤怒のゼアの人型に変化を遂げ、現れる。逃げるようで逃げていない。眷属を召喚しては、逃げる時もある。
その憤怒のゼアの背後に神獣が回った。
憤怒のゼアが、その黒豹の背後に転移し、黒豹の尻尾を掴むと振り回して、皆へと投げ飛ばす。
皆は散開して、憤怒のゼアに<バーヴァイの魔刃>などを繰り出していった。
黒豹も反転し、すぐに紅蓮の炎を吐くがあまり効いていない。
神界系の燕の形をした炎が、憤怒のゼアの炎と体を切り裂く程度か。
キサラたち眷属衆も本気で攻めているが、時折放たれる炎の波のような遠距離攻撃は範囲が広く威力も高いようで、皆、あまり近づけないでいた。
と、目の前に転移してきた憤怒のゼアが――。
体から炎を発してきた。
大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚して、炎を防ぐまま<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を直進させた。
その憤怒のゼアの側面に回り込む――。
<勁力槍>を意識すると憤怒のゼアは前傾姿勢を取りながら体がブレた。
右と左に現れるが、炎の残像を残し消える――。
背後からの炎の魔剣の突きを真横に飛翔し避けると――
「<残楼炎剣>を避けるか。そして、消耗もさほどないようだが、お前が、破壊の王ラシーンズ・レビオダを倒したようだな――」
と言いながら炎の魔剣から相棒のような紅蓮の炎を宙空に生み出す。
紅蓮の炎が渦を巻くように広がり、空間そのものが歪むような熱量を帯びていた
俄に後退し扇状に拡がった炎を避ける。
と、その憤怒のゼアの背後にヴィーネの光線の矢が突き刺さった。
背から緑色の閃光が発せられたが、憤怒のゼアは炎の殻を脱ぐように体を増やし、その緑色の閃光ごと、古い己の体を取り込むと、前方に加速前進――。
「<魔皇・炎衝突剣>――」
連続的に炎の魔剣を突き出してきた。
<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>と<仙魔・暈繝飛動>を発動――。
<仙魔・暈繝飛動>の発動と共に、体の周りに立ち昇る霧は、白い炎の粒子を含んで渦を巻く。
それらが守護の印となって俺を守るように展開し、周囲の風に乗る。
※仙魔・暈繝飛動※
※仙王流独自<仙魔術>系統:奥義仙技<闘気霊装>に分類※
※使い手の周りに霧と白炎を発生させる※
※魔法防御上昇、物理防御上昇、使い手の精神力と体力の回復を促す※
※仙王流独自<仙魔術>の様々な仙技類と相性が良い※
<水月血闘法・水仙>を発動――。
※水月血闘法・水仙※
※独自<闘気霊装>:<水月血闘法>系統:奥義加速避け※
※霊水体水鴉などの<血魔力>で本体を追尾する幻影、または分身を作る※
※熟練度の高い<魔闘術>が必須で、<水月血闘法>と<水月血闘法・鴉読>も必須※
風に乗りながら炎の魔剣の連続攻撃を分身と血の分身で避け続けた。
<水月血闘法・水仙>によって生み出された分身たちは、水面に映る月影のように揺らめきながら、本体の動きに呼応し舞い踊る。
血の分身は紅い霧となって散りながら、また新たな形を作り出していった。
加速した憤怒のゼアは炎を発しながら魔剣を足下から生やしてくる。
その炎を避けつつ、伸びてくる魔剣のすべてを魔槍杖バルドークで斜めに流すと同時に――。
魔槍杖バルドークで<髑髏武人・鬼殺閃>を繰り出す――。
が、憤怒のゼアは後退し、<髑髏武人・鬼殺閃>を避けてきた。
次の瞬間、<血霊魔槍バルドーク>を意識し、発動。
右腕ごと前に出た魔槍杖バルドークの穂先が紅光を放った。
そこから紅蓮の炎を纏ったような血霊状の魔槍杖バルドークが飛び出て、前へと大きくなりながら直進し標的へと突き進んでいく。
憤怒のゼアは「な!?」と、驚きのまま両腕の炎の魔剣で防ごうとしたが、防げないと思ったのか、体を溶かすように炎を発した。
その炎は、虚空を焼き尽くすような威圧感を有した異質な炎――。
炎と炎の層が空間を歪ませ炎の壁を作る。
その炎の壁は生きているかのように蠢き、近づく者の精気すら吸い取ろうとしていた。
魔槍杖バルドークから放たれた<血霊魔槍バルドーク>は、血の気配を纏いながら意思を持つかのように蛇行し、空気を切り裂く轟音が響き渡りながら、憤怒のゼアが繰り出した炎と交錯――轟音が響き渡ると、<血霊魔槍バルドーク>は炎の層をぶち抜き、時空が歪むような衝撃が走る。
憤怒のゼアの瞳に浮かんだ驚愕の色が、一瞬の静寂を作り出す。
後退すると、新しい魔槍杖バルドークを凝視しながら、ハンカイが繰り出した太い金剛樹の斧の<投擲>を己の体から太い炎の柱を生み出して、防ぐ。
そして、俺を見て、
「……ハッ――」
と、炎の残像を目の前に大量に生むと、転移を繰り返す。
憤怒のゼアの姿は、炎の残像となって虚空に溶けていく。
一つ一つの残像が意思を持ったかのように蠢き、無数の炎の精霊が舞い踊るかのような幻想的な光景を作り出していた。
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