千六百八十三話 破壊の王ラシーンズ・レビオダと激戦に魔槍杖の進化
巨大な地下水脈が砕かれ、古の力を湛えた水氣が満ちてくる。その水氣は紅蓮の血の光に反応し、神代の記憶を呼び覚ますように地下空間を揺らめかせていた。
『魔神とサシ勝負とか、お弟子ちゃんのやることは途方もないけど、わたしたちもいるからね』
『うむ、使い時は弟子に任せよう沙・羅・貂は空にいる以上は、我らがシークレットウェポンとなろう』
と、雷炎槍流のシュリ師匠と飛怪槍流のグラド師匠は俺を和ませようとしているようだな。
『はい、しかし――魔神の一柱であろうと、槍使いとしての誇りを持って、真っ向勝負で挑ませていただきます』
『ふふ、うん、私は見守るから、がんばって』
『カカカッ、サシの勝負を好む、その気概こそ、我らの弟子であり、仲間の魔界九槍卿の漢じゃな』
『あぁ、任せよう。俺たちの戦いは魔城ルグファントだ』
『そうだな』
『ふむ、破壊神の魂がほしい』
『セイオクス……素直に見守ってるぞとか、言えよ』
『フハハ』
魔軍夜行ノ槍業の八人師匠たち念話に和んだ。
すると――周囲が輝く。
天蓋に穿たれた巨大な孔と古の石柱群が、俺の血の輝きを受けて生命を得たかのように脈動し始めた。その血色の光は〝霊湖水晶の外套〟に触れるたび、幾重もの虹紋を描き出し、地下遺跡全体が生きた魔法陣のように輝きを放った。
破壊の王ラシーンズ・レビオダの周囲の水氣は、闇と白銀の魔力に触れて汚染でもされたようにぶくぶくと泡立ててどす黒い液体に変化していた。
『……』
左目の棲まうヘルメから何かを感じた。
念話を伝えるかどうか迷うほどのわずかな心の乱れか。
『……ここって、〝水の根泉〟に近い……』
と、右目に棲まう闇雷精霊グィヴァも地下に反応。
ヘルメとグィヴァの様子から、上で戦っているだろう水精霊マモモルと地精霊バフーンのことを思い出しつつ横を歩いて、破壊の王ラシーンズ・レビオダを見ながら、周囲を見ていく。
この血の光源は血色のダマスカス鋼のような紋様を発している。
宙空と天蓋と石柱に小形のルシヴァルの紋章樹の幻影も生まれていた。
<霊血の泉>により小形のルシヴァルの紋章樹の幻影は分かるが、ダマスカス鋼の紋様は未知だ。
【アムシャビスの紅玉環】の地下に眠る古の力と、俺の血が反応している? 更に、地底の地層の亀裂から紅の稲妻のような閃光が発せられ、岩肌から幾つもの魔文字が輝き浮かぶ。
メリディア様や魔命を司るメリアディ様の力が、まだ作用しているのか。
【メリアディ要塞】の壁や柱に刻まれていたアムシャビス族最高位の翼紋回路と似た魔法の仕組みが、破壊の王ラシーンズ・レビオダと俺の影響で、作動した?
長い戦争で廃れているとはいえ、嘗ての天魔帝メリディア様が愛した土地が【アムシャビスの紅玉環】だろうし、その地下にも、それ相応の地下遺跡はあってもおかしくないだろう。
『……ヘルメ、考えがあるなら聞くぞ』
『はい、閣下、無数の水精霊の数からして、地脈と魔脈次元の結節点に、〝水霊の深淵〟のようなモノが棲み着いているような予感がします。わたしとグィヴァを、そこに送ることで、新たなる水精霊と似た存在の水霊と、本契約が結べるか、わたしたちが、その水霊の何かを吸収し、強くなれるかもです、ですから、少し離れても? いずれにしても、破壊の王ラシーンズ・レビオダに一泡吹かせられるはず』
一瞬、躊躇う。
二人を失うリスクは計り知れないが、このままでは勝機はないからな。
『了解したが、二人とも手早く頼む』
『『はい!』』
左目から液体状のヘルメが俺の肌を伝いながら両足から地面に消えていく。
右目から雷状の魔力のグィヴァも頭部から胴体を抜け、俺の体を痺れさせながら両足から消えていた。
破壊の王ラシーンズ・レビオダも俺に合わせて横を歩きつつ周囲を見ていたが、
「『ん? お前の両目の魔力が極端に減り、地下に蠢く……なにをした?』」
「さあな」
氣付いたとは思うが……。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは背の翼を広げるように見上げ、
「『……応えぬとも予想はつく、その眉間に浮かぶ蒼白い魔印は神界に纏わる<闘氣>系統か<仙魔術>か。そして、この古き地に、己の<血魔力>を活かす<神域>か<支配領域>に、または<聖域>などを複合的に展開した作用だろう……お前は、神界の力が解せぬが、ますます吸血神ルグナドを彷彿させるな――』」
と言いながら前進し、背の一翼を鋼鉄の拳にしながら、左腕を突き出すように突き出してくる。
魔槍杖バルドークのノーモーションで<魔仙萼穿>を繰り出す。
その拳と紅矛が衝突――火花が散り衝撃波が発生。
ドッとした音と共に拳に押されながら、後退した。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは、
「『またも、我の<破神拳>を防ぐか――』」
と、言いながら右上腕の手が握る黄緑色に光っている魔剣を突き出す。
魔槍杖バルドークを下げ、柄で黄緑の切っ先を叩くように防いだ。
続けての魔剣の突きを神槍ガンジスの柄で防ぐ。
破壊の王ラシーンズ・レビオダの攻撃を受け止めるたび、周囲の空気が轟音と共に震え、地下水脈から吹き出す水しぶきが氷のように凍てついていく。
「『ハッ、やるな、<徐・破突>を吹き飛ばすとは――』」
余裕で語る破壊の王ラシーンズ・レビオダ目掛け、左手が握る神槍ガンジスに魔力を込めつつ同時に振るう<血龍仙閃>を繰り出した。
左から右に向かう双月刃で破壊の王ラシーンズ・レビオダの右上下腕と背に腹などを狙う――が、レビオダは、左上腕の魔剣を上げ、左下腕の魔剣と右下腕の魔槍を斜めに出して方天画戟と似た穂先に衝突させてきた。
<血龍仙閃>を連続して防ぎ、甲高い硬質な音が響きまくる。
流れるまま神槍ガンジスの蒼い槍纓の毛が蒼い魔刃と化した。
――無数の蒼い魔刃が靡くように展開。
「『小賢しい――』」
破壊の王ラシーンズ・レビオダの三腕の手が持つ魔剣と一腕の手が持つ魔槍が、蛇のように上下に動くと、尽く、槍纓の蒼い魔刃は弾かれていく。
「『優れた武器のようだが、読み切れば、たいしたことはない――』」
と、語ると、背の一部が巨大な拳に変化し、それがレビオダの頭部を越えて迫った。
俄に神槍ガンジスを下げた。
魔槍杖バルドークを上げつつ二槍をクロスさせる。
巨大な拳の攻撃を防ぐが――また吹き飛ばされた――。
石柱に幾つかぶつかったが、幸い、地下空間は広い――。
――<武行氣>を意識し再発動。
全身から噴出した魔力を推進力にしつつ、<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を発動させて、周囲の水氣を水神由来の<滔天魔経>の奥義に取り込むように――衝撃波を完全に殺した。
そして<水月血闘法>を活かすように地面を蹴って加速。
「『また、加速、チッ、速い――』」
魔槍杖バルドークを横に寝かせたまま左を駆け――レビオダの側面から<髑髏武人・鬼殺閃>――レビオダは背の一部と左下上腕の魔剣と右下腕の魔槍で、薙ぎ払いの<髑髏武人・鬼殺閃>防ぎつつ右上腕の魔剣で俺の首を狙ってきた。
その突きを神槍ガンジスの柄で防ぐ――。
が、破壊の王ラシーンズ・レビオダは三枚の翼を刃に変えて、俺を狙ってきた。
最初の刃は、右半身を後退させて避け――。
続けざまに迫る背の刃は、左半身を後退させて避け、次の背の刃を跳躍して避けるが宙空の俺に四腕の魔剣の切っ先と魔槍の穂先が迫った。
それを魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを胸元に上げ、二つの柄で切っ先と穂先の強烈な<刺突>系統を防ぐ。
そのまま力で破壊の王ラシーンズ・レビオダに押されて――六枚の翼の刃が迫った。己を守るように<血鎖の饗宴>を発動。
両腕から湧き上がる無数の血鎖は紅蓮の蛇のように蠢きながら六枚翼の刃へと伸びていく。血鎖は刃を貫くたび、古の血の律動を奏でるように共鳴し、空間そのものが血の色に染まった。
「『なんだと――』」
驚く破壊の王ラシーンズ・レビオダへと、無数の<血鎖の饗宴>の血鎖が向かうがレビオダから紅と白銀の魔力が膨れ上がり、無数の血鎖を防ぐと爆発。
爆発と共に血飛沫が飛ぶ。
血飛沫が結構な衝撃で闇と光の運び手装備と〝霊湖水晶の外套〟に衝突してきた。
と、血鎖が閃光、輝きを放ちながら一部が消えかかる。
精神力に魔力などが、ごっそりともっていかれた。
即座に<血鎖の饗宴>を消すとレビオダの体へと紅と白銀の魔力が収斂されていく。
そのレビオダは、
「『<破壊界・紅雲>で完全に潰せない血鎖か、が!』」
と、四眼の内、三眼から閃光を発しながら右下腕の魔槍を突き出す。
更に魔剣を振るってきた。
魔槍突きを、魔槍杖バルドークの紅斧刃と紅矛の間で受けながら回転させて、柄で魔剣の一つ、二つの突きを防ぎ、左上腕の魔剣を神槍ガンジスで受け止めたと思ったら――「げぇ」と痛すぎる、左上腕の魔剣の剣身が途中から消え、右後方に剣身だけが転移し、右肩を貫いていた。
「ハッ――」
と、破壊の王ラシーンズ・レビオダは嗤いながら、体から魔力を発して右下腕の魔槍と、左下腕の魔剣と右上腕の魔剣を突き出してきた。
構わず、両手の魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを下手投げで<投擲>――。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは驚き「なんだァ?」と魔槍と魔剣の三つの得物の突きを止め、盾にして魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの<投擲>を防ぐ、その刹那を狙い、<超能力精神>――。
「『ぐ!? 魔線がない拘束魔力、<魔技>系統だな。だとしても、我を拘束できるほど……ん、なるほど、この膨大魔力を有した斧槍、否、魔槍杖か、我ノ魔力を吸ってくる……』」
破壊の王ラシーンズ・レビオダに魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで×の字を描く形となって動きを封じた。
それを見ながら、あえて前傾姿勢で前に出た。
<始祖古血闘術>を発動させ肩の竜頭装甲を意識――。
『ハルホンク、魔剣を喰え――』
と伝えた刹那、魔剣に貫かれていた肩の竜頭装甲は、
「ングゥゥィィ――」
といつもの鳴き声を発し、その魔剣を喰らうように吸収し
「――ウマカッチャン、ゾォイ!」
と元の竜頭に戻しながら豪快に叫ぶ。
「『な!?』」
得物を失い驚く破壊の王ラシーンズ・レビオダは<超能力精神>の拘束を無理やり解き、魔槍杖バルドークを払うように、右上腕の魔剣を突き出してきた。
その魔剣の突きをルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬の<霊血装・ルシヴァル>で噛み付くように避けながら間合いを詰める。
懐に潜り込んだ刹那――。
破壊の王ラシーンズ・レビオダに強引に張り付いていた魔槍杖バルドークを戦闘型デバイスへと吸収させるように仕舞いつつ――。
両手に白蛇竜小神ゲン様の短槍と雷式ラ・ドオラを召喚した瞬間、<水極・魔疾連穿>を繰り出した。
「『チッ――』」
両腕がブレるほどの速度で突き出す――白蛇竜小神ゲン様の短槍と雷式ラ・ドオラの連続突きが、破壊の王ラシーンズ・レビオダの上半身と神槍ガンジスに決まる。
――レビオダの上半身に風孔が空いた、ぶれにぶれた神槍ガンジスを仕舞う――。
「『ぐぇァ』」
破壊の王ラシーンズ・レビオダから血飛沫と毛が舞う
やや遅れて、魔剣と魔槍と背が防御に回る、白蛇竜小神ゲン様の短槍と雷式ラ・ドオラの連続突きと、それが衝突しまくった。
が、完全には<水極・魔疾連穿>を防げない。
四腕にも切り傷を負うと背の一部を湾曲させたまま己を覆うと勢いよく後退した。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは追ってこない俺を見て、怒りを露わにし、背の翼の防御構築を解除し、その翼を拳状に変化させて地面を叩く。
「くそが! 我に傷を……しかも、転技魔剣ギラトガをドラゴン型の武装魔霊に食べられてしまうとは……」
「……ドラゴンか、覇王ハルホンクの名は聞いたことがないのか?」
破壊の王ラシーンズ・レビオダが興味を覚えたように四眼が煌めく。
「『ほお! それならば聞いたことがある……異次元の金属小人を召喚し、鍛冶屋として己を鍛えつつ、魔皇の称号を何人も喰らった、かつての覇王ハルホンク……だが、旧神の食う食われの螺旋を司る〝深淵ノ星〟に飲み込まれたと聞くが、槍使いと融合を果たしていようとはな!』」
興味を持ったか、多少は時間が稼げる。
両手の武器を消した。
ヘルメとグィヴァが地面から現れる兆しは、まだない。
右手に魔槍杖バルドークを召喚し、右に移動しながら魔草ムラウラカラルとキュラバラル魔酒をまた食べて飲む。そのまま消費の大きい<魔闘術>系統の<根源ノ魔泉>を基軸に、複数の魔闘術を重ねながら戦いを継続しよう。
魔力の奔流が体内を駆け巡り、筋肉と骨格を軋ませる。
制御は容易ではないが、ここで途切れてはすべてが水泡に帰す。仲間たちの想いと共に、この力を最後まで紡ぎ上げねば。
同時に<血道第一・開門>の血と<生活魔法>の水を体から流し続けた。
先程の憤怒のゼアの閃光を防いだ<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から膨大な魔力は得ているから、ちょうどいい。
そして<経脈自在>と<血脈冥想>と<滔天内丹術>を意識し、発動させ、体内の魔力を調整するが、漆黒と紅蓮の魔力の<沸ノ根源グルガンヌ>の漆黒と紅蓮の魔力が、相克する二つの大蛇のように体内で絡み合い、血脈と経脈という魔力の河を荒々しく流れていく。その力の奔流は、全身の魔点穴を目覚めさせ、制御の糸を手繰るたびに神代の力が肉体を焦がしていく。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは、新たな魔剣を左上腕に召喚。
が、それごとすべての武器を消して、長い魔杖を召喚し、真上に召喚し、跳躍、上空で消えたが、閃光が発生し<闇透纏視>で、破壊の王ラシーンズ・レビオダの位置を確認――。
その消えたところにいる、巨大な魔法陣が展開された。
その虚空に浮かび上がっている魔法陣は、幾重もの輪環を重ね、その円周には破壊神の古代文字が脈打つように輝いている。
「『――槍使い、<滂沱魔星堕とし>を味わってもらおうか!』」
と、巨大な魔法陣に囲われ、四方八方から半透明な網と共に隕石のようなモノが降りかかってきた。
俺を肩の竜頭装甲ごと捕らえるつもりのようだな。
即座に足下に<始まりの夕闇>を展開させる。
すぐに<闇の次元血鎖>を発動。
「『……まだ、そのような小細工が……』」
周囲の闇世界の空間から次元属性を持つ紅い流星雨のような<闇の次元血鎖>の群れが出現し直進、無数の半透明な網と隕石のようなモノを貫き、巨大な魔法陣を裂いた。
鏡が割れたようなシンバル的な音が盛大に響き渡った直後――。
地面の一部も<始まりの夕闇>ごと、紅蓮の<闇の次元血鎖>が、<滂沱魔星堕とし>のすべてを穿ち裂く。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは後退し、白銀の霧状の魔力を周囲に撒いて、<闇の次元血鎖>を相殺しながら天蓋に両足を付けると右上腕に鋼の魔槍を召喚し、それを<投擲>してきた。
「『これを喰らえ――』」
鋼の色合いだった魔槍は真っ赤に変色しながら穂先が大きくなる。
その魔槍の軌道を予測しながら、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、横に移動し、真っ赤な魔槍の横へと、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を衝突させた。
弾き上げると右の空間が歪む――。
そこから転移し現れた破壊の王ラシーンズ・レビオダの蹴りが、空気を切り裂く音と共に迫る。
先程見た蹴り――。
<滔天魔瞳術>を発動しながら前に飛び込む機動で、その蹴りを柄で弾きながら避け、魔槍杖バルドークを押し出し、振るおうとしたが、破壊の王ラシーンズ・レビオダは、「ハッ、我に魔眼系は無駄だ――」と転移、俺の背後に魔素を察知。
即座に<仙魔・龍水移>を実行し、転移。
破壊の王ラシーンズ・レビオダの背後を取るが、破壊の王ラシーンズ・レビオダは体がブレると右に移動から左右上腕に召喚した魔大剣の一閃を振るってきた。<光魔血仙経>を発動し、加速し、速度を上昇させて、ソレを避ける。
「生意気な加速力だ――」
と、魔大剣を踵の裏で蹴る破壊の王ラシーンズ・レビオダは、右上腕と左下腕に召喚したクナイのようなモノを<投擲>――。
魔大剣を魔槍杖バルドークの柄で防ぎながら後退し、クナイを避けた。
クナイから閃光が迸ると、そこから黄色い魔糸が俺の手足にくっ付いてきた。
急激に魔力を失う――。
<魔闘術>系統封じか!?
「『ここだ!』」
――氣付いたら、腹をぶち抜かれ、天蓋に衝突し、埋没するように巨大な一撃を受けた。
遅れて痛みがやってくると、体の傷は消えていて闇と光の運び手装備などが遅れながら腹の孔を修復していた。<血道第五・開門>――<血霊兵装隊杖>を発動。
血の錫杖が真上に浮かび、闇と光の運び手装備が輝きを増すと、周囲のまだ無事だった石柱から滴る水滴が、戦いの波動を受けて宙に浮かび上がり、血の錫杖の魔力に反応するように赤く輝いていく。
即座に<霊魔・開目>を意識し発動。
続いて<血道第六・開門>――。
<血道・明星天賦>を発動。
<血道・九曜龍紋>を発動。
<煌魔・氣傑>と<黒呪強瞑>と<魔仙神功>を発動――。
左手に神槍ガンジスを召喚――。
――体中の血道・魔脈と連結している魔点穴が熱く滾る。
<魔仙神功>の真髄が全身の神経網に染み渡っていく。
無数の開いた毛穴から<血魔力>が溢れ、深紅の霧となり、蒼白い光へと変化。
『「また急激に魔力に、血の龍はなんだ!?」』
天蓋の岩を蹴るように横に移動した。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは背の翼を拳に変化させながら、俺がいたところを攻撃している。その破壊の王ラシーンズ・レビオダに目掛け――。
右足の踏み込みから<破壊神ゲルセルクの心得>を発動。
――<握吸>を発動。
左手の神槍ガンジスで<光穿・雷不>を発動――。
「『な! 血の龍が絡む破壊神に光神ルロディス!?』」
突き出た神槍ガンジスから不可思議な血の龍と天道虫の幻影が現れ散る。
破壊の衝動を得ているような血の龍と天道虫はブレて互いに爆発。
神槍ガンジスの穂先は振動しつつ、破壊の王ラシーンズ・レビオダが四腕から出した魔槍と魔剣を穿ち破壊――。
「『ぐっ、この得物さえ――』」
レビオダは、神槍ガンジスの双月刃の穂先を四腕で掴もうとしたが、それをぶち抜く神槍ガンジスは、その体に突き刺さった、
「『げぇ――』」
続けて八支刀の光が連なるランス状の雷不が神槍ガンジスの真上に出現。
神々しい輝きを放つ八支刀の光が破壊の王ラシーンズ・レビオダに降り注ぐ。
光神ルロディスの涙が紡ぐ天命の糸を思わせる貫きの群れと、一閃の光の奔流が、破壊の王ラシーンズ・レビオダと背後の空間を切り裂いていくと、レビオダは背の翼を前に展開させて、己を守ろうとした。
その背の翼ごとランス状の雷不が突き抜けた。
破壊の王ラシーンズ・レビオダは神槍ガンジスを引き抜こうとしていたが、その体が爆発、内臓と血肉などを撒き散らすように細切れとなって消えていく。
が、すぐに淡い色と紅色の閃光を発しながら細切れにされた体が融合し元の鷹の頭部の四眼四腕の体と成ると神槍ガンジスを奪おうと六枚の翼を伸ばしてきた。
<握吸>で神槍ガンジスを引き寄せ――。
<雷飛>を実行――。
魔槍杖バルドークで<魔皇・無閃>を繰り出すが、破壊の王ラシーンズ・レビオダは四腕から半透明な防御魔法を展開させて、一閃を防ぐ。
破壊の王の四眼の睨みが強まった。
破壊の王の四眼からは神代の威光が漏れ出し、その圧迫感は空間そのものを歪めるかのようだった
その圧倒的な存在感に緊張が走る。
が、ここで怯むわけにはいかない。
仲間たちの想いを背負って立ち向かう覚悟を決めた。
「『――認めよう、お前は強い――』」
と、破壊の王ラシーンズ・レビオダの念話と言葉が響くと、体がぶれた。
右と左に分身した破壊の王ラシーンズ・レビオダから蹴りが迫る。
それを神槍ガンジスの穂先で地面を突いて避けながら魔槍杖バルドークで<龍豪閃>を放ち、右の分身の蹴りを斬りつけ、横回転移動で、破壊の王ラシーンズ・レビオダの分身を至近距離から<血鎖の饗宴>で蜂の巣にして倒した。
<血鎖の饗宴>の血鎖を消しながら、後退――。
すると、本体の破壊の王ラシーンズ・レビオダの足下に亀裂が走る。
そこからヘルメとグィヴァの半透明な手が現れ、破壊の王ラシーンズ・レビオダの両足を拘束。
「『げぇ、なんだ、この手は精霊!?』」
亀裂が拡がると、水と紅蓮の魔力が湧き上がり、それが紅の刃となって破壊の王ラシーンズ・レビオダを下から貫いた。
結晶のような紅の刃は、地下水脈に封じられていた数多の水霊たちか? 刃から数多の意思を感じる。
ヘルメとグィヴァの精霊の力が触媒となり、地脈そのものが魔神を討つための剣となったのだろう。
レビオダは一瞬で、三腕を残し四肢が消えて背の半分を失う。
更に、天蓋から閃光が走った。
水精霊マモモルと地精霊バフーンが自らを槍状の武器と化して、その破壊の王ラシーンズ・レビオダの頭部を貫く。
続けて、天蓋から神威が滲み出すような閃光が降り注ぐ。
虚空が溶解するかのように歪むや否や、そこから魔槍が出現。それは悪夢を司る女神の意志そのものが具現化したかのような威容を放つ。その魔槍が白銀の軌跡を描くように破壊の王ラシーンズ・レビオダの魔印に向かって螺旋を描く。
その空間軌道には禁忌を思わせる呪いのような魔印と文字が刻まれていく。
女神ヴァーミナ様の悪夢の力が編み込まれている、魔神の再生を阻む狙いか。
一方で、魔槍ハイ・グラシャラスと似た魔槍は、地下を斜めにくり抜き止まると白濁とした液体を撒き散らしながら悪夢の女神ヴァーミナ様の姿を模った。
「――フハハ、間に合った。槍使い、今だ、破壊の王ラシーンズ・レビオダの体を見よ」
と、悪夢の女神ヴァーミナ様が指摘したように、破壊の王ラシーンズ・レビオダの体は脊髄の一部と半分の脳と連なる魔印だけ、膨大な魔力を有したままだが、獣の形をした魔印が怪しく揺らめきながら点滅していた。徐々に回復しているが、四方に移動しているヘルメとグィヴァと、マモモルとバフーンの他に、大柄の精霊が、糸状の魔法をその破壊の王ラシーンズ・レビオダの獣の形をした魔印に衝突させて、弱らせている。
<脳脊魔速>を発動。
ヘルメたちの位置を見て――。
魔槍杖バルドークに膨大な<血魔力>を込めてから――。
<破壊神ゲルセルクの心得>をもう一度意識し、発動――。
心臓が高鳴り、体中の血が沸き立つような感覚に包まれながら、魔槍杖バルドークを握り締めた刹那、心臓がドクンと跳ねた――<血魔力>が体から噴出。
<魔闘術>の奥義が血脈を通じて目覚め、古の記憶のようなモノが肉体の深奥から蘇ってくる。
この魔槍杖バルドークの一撃にすべてを――。
師匠たちから受け継いだ槍の道と、共に戦った仲間たちの想いが、魂の深部で共鳴を始めたように体が自然と動き――<闇穿・魔壊槍>を発動。
血の嵐が起きたように<血魔力>が周囲に吹き荒れる。
不可解な加速感を得ながら魔槍杖バルドークごと直進――。
<破壊神ゲルセルクの心得>が要因の半透明な魔力が体から溢れ、<血魔力>を飲み込みながら魔槍杖バルドークの穂先の<闇穿>の紅矛が、内臓と骨などを創り出していた破壊の王ラシーンズ・レビオダの体に突き刺さり――。
紅斧刃が竜の口のように腹を食い破った刹那――。
魔槍杖バルドークの真横の空間が歪む。
その歪んだ空間から<ザイムの闇炎>を思わせる猛炎と神威の半透明な魔力が噴出し、ドリルの形状の先端が細まっている螺旋壊槍グラドパルスが出現――。
圧縮された空気が外に放出されたような音が周囲に拡がった。 耳朶に聴骨、三半規管や後頭部が揺れるような感覚を受ける。
その螺旋壊槍グラドパルスの穂先のドリルが<闇穿>の魔槍杖バルドークを瞬時に越えて、破壊の王ラシーンズ・レビオダの肉体ごと魔印を貫いた。
魔槍杖バルドークから『カカカッ』と不気味な声が響く。
破壊神ゲルセルクと連動しているように<血魔力>を有した魔印が発動し、魔印が血の錫杖を魔槍杖バルドークに呼ぶようにくっ付いた。
怒号喇叭を鳴らす螺旋壊槍グラドパルスは、血の錫杖と魔槍杖バルドークと呼応するような不思議な喇叭を響かせてきた。
破壊の王ラシーンズ・レビオダの血肉と骨と臓腑を攪拌し撒き散らす。
一部を蒸発させながら突き進み、地下洞窟を斜め下に造り上げてから閃光を発して俺と繋がるように、消える。
螺旋壊槍グラドパルスが突き抜けた痕跡が凄まじい。
血の錫杖が付いた魔槍杖バルドークは振動している。
辺りも連動しているように振動。
魔界セブドラが揺れた。
虚空に〝魔神殺しの蒼き連柱〟と〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟が交互に起きまくる。
ピコーン※<血道第七・開門>※恒久スキル獲得※
※<血霊魔槍バルドーク>※スキル獲得※
血の錫杖と魔槍杖バルドークが破壊の王ラシーンズ・レビオダの血肉を吸い取ると――その血の錫杖と魔槍杖バルドークが紅色の閃光を発しながら爆発。鱗を周囲に撒き散らし、ぐわりぐわわりと回る――。
途端に、宙空の蒼白い閃光と紅い閃光を貫くように真っ直ぐ真上に直進してから一回転しては、俺に向け、飛来してくる――。
眼前を通り過ぎて、地面に突き刺さった。
地下水脈から吹き出す水しぶきが血に染まり、古の魔文字と共鳴するように輝きを放つと、地面に突き刺さった魔槍杖バルドークの柄からも血のような紅色の紋様が這い上がるように広がっていく。その模様は古の言霊を紡ぐかのように脈動し、太古の血脈が目覚めたかのように律動を強める。
その律動は地下遺跡の魔文字と共鳴し、より深い紫紅色へと昇華していく――。
破壊の王の血を吸収した魔槍杖は、より原初的な力の形態へと変容を遂げ、その存在自体が空間を歪ませるほどの威力を帯びていた。
古の言霊が紡ぐ魔力の奔流は、地下水脈の深部まで響き渡り、遺跡全体が生命を得たかのように震えていた。
神代の兵器が本来の姿を取り戻すかのようにも見えるのがなんとも。
腰の魔軍夜行ノ槍業が揺れ、『見事じゃ……』飛怪槍流のグラド師匠が褒めてくれた。
「――閣下! ついに、破壊の王ラシーンズ・レビオダを討ち果たしましたね!」
眼前で繰り広げられた奇跡のような光景に、声が震える。
「ああ、これも皆の力があってこそだ」
続きは、明日、HJノベルス様「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中。
コミック版も発売中。




