千六百七十一話 門番とは心外だ……この<四魔具術>の使い手
古の魔甲大亀グルガンヌは静かに飛行しながら速度を落としていく。その巨体が魔夜の闇を切り裂くように進む中、魔視界に映る地上の光景が徐々に鮮明となっていった。
敵陣営の簡易的な櫓が四方に建ち、その周囲では憤怒のゼアの空軍が展開している。炎のグリフォンと炎のドラゴンの背に跨った兵士たちの体からは業火が立ち昇り、夜空そのものを焦がすかのような熱気を放っていた。
「まだ破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼア側の軍隊は、俺たちには氣付いていない」
己の声が古の魔甲大亀グルガンヌの内部に響く中、ヴィーネが前に進み出た。
「はい、体から業火を発する兵士たちは警戒しているように見えますが、索敵能力はそこまで高くない。この高度からなら、私たちの気配は届かないはず」
夜雷光虫の微かな輝きが、古の魔甲大亀グルガンヌの半透明の外殻を通して柔らかく室内を照らす。その光の中、皆が静かに頷いた。アドゥムブラリとファーミリアは周囲の各部屋を見学していたが、すぐに寄ってきた。
その時、マモモルとバフーンの精霊たちが俺の前に立ち、その姿から漂う精霊特有の水氣と土氣の魔力によって空間に温度差が発生し、揺らいでいた。
「魔命様の生存と復権をかけた大事な戦いです。シュウヤ様に判断は委ねます」
マモモルの声は静かだったが、その言葉には揺るぎない決意が宿っている。水の魔力が波打つように、その意志の強さを示していた。
「はい、私たちは分身体ですが、ある程度は戦えます」
バフーンも同意するように頷く。
土の精霊特有の細かな土と岩が漂っていた。
フーが興味深そうに見ている。
『ふふ、この二人は、分身体で、魔命を司るメリアディ様が許して閣下の下に寄越したのですから、二人と<本契約>で眷族にしちゃうのもありかと思います』
『ふふ、はい』
「了解した」
と、マモモルとバフーンに答えつつ……。
右目と左目に棲まう常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァの思念に、
『それは氣が速いような……』
『ふふ、魔命を司るメリアディ様なりの氣遣いかと思いましたが……』
『はい、御使い様は、武人ですからね、普通の褒美に目もくれないからこその、褒美かと思いますよ』
『そうだったのか、本当に道案内してくれるだけかと思ってたよ』
『ふふ、今はそれで良いんですよ、閣下とわたしの出会いもエッチなことでしたが、あやふやでしたでしょう?』
『それは、まぁ、そうなのか』
ゴルディーバの里での修業の毎日の故の……。
欲望を発散した朝チュンをしたら、ヘルメは池と共に朝には消えていたからな。
懐かしいことはさておき、
『……マモモルとバフーンは徐々に受け入れよう。それで、少し先と思うが、精霊繋がりの件がある』
『わたしたちのことでしょうか』
『風の女精霊ナイアだ』
『あぁ、トフカの遺品が入った魔法袋ですね、回収してましたが……トフカが死んだことで……』
『その浄化を【メリアディの命魔逆塔】で狙う?』
『そうだ。【メリアディの命魔逆塔】には、魂の浄化と破壊の二重性に、次元干渉能力と、意識の保存や消去システムがあるようだからな』
『なるほど、今は破壊の王ラシーンズ・レビオダが再稼働させているとの予測もありますね』
『そうだ、あくまでも予測、リスクが伴う以上はやらないかもしれない』
『はい、その際はマモモルとバフーンちゃんにも相談しましょう』
『そうですね』
ヘルメとグィヴァとの思念をそこで終わらせた。
そして、光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスに、古の戦長ギィルセルと古の祭事長バセトニアルにも視線を向けると、
「戦を仕掛けるならば、私たちを用いてくだされ」
「はい、我らは、閣下たち即応部隊の囮として【魔命を司るメリアディの地】の南方にて暴れることも、また一つの作戦になりまする」
「光魔ルシヴァル軍が南方に出現したとなれば、二神も注視せざる得ませんからな」
それは一理あるな、頼もしいゼメタスとアドモスの語りだ。
黒兎シャイサードに視線を向けると、
「光魔魔沸骸骨騎王の意見も良い案だな。神たちに主導権を握らせず、我らで攻める。更に言えば、ヴァーミナ様は魔界回廊をまだ使用していない。それ故、敵の感知網にヴァーミナ様が率いる大軍の魔素が、引っ掛かっている可能性が高い。それの陽動にも使える案となるだろう。が、しかし、今、目の前の敵は無視し、迅速にエルフィンベイル城に移動し、クーフーリンが生きているなら接触すべきだろう。現状、古の魔甲大亀グルガンヌに氣付いていないんだからな。その場合を仮定すると……多分、俺たちを追跡しているヴァーミナ様たちの軍と、今、目の前にいる破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの軍が衝突することになるだろう。その流れから光魔魔沸骸骨騎王たちが述べたように二神が、悪夢の女神ヴァーミナ様の軍に注視せざる得ない状況となるはずだ、それに伴い、【魔命を司るメリアディの地】の【アムシャビスの紅玉環】、【エルフィンベイル魔命の妖城】、【一角獣の谷】、【エメイン・マハの古城】、【魔命妖精シーマークの森】、【メリアディの命魔逆塔】、【怒りの憤雀馬岩連山】、【紅光の霧】、【紅玉環の大峡】などの各地域の軍に隙が出る可能性がある」
すると、シャイサードの予測に合わせたのか、古の魔甲大亀グルガンヌが軍の予測分布図を魔視界に映し出す。
〝列強魔軍地図〟とは異なるがこれは分かりやすい。
【魔命を司るメリアディの地】の各地に移る破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの軍の予想位置があちこちに存在して、頭が痛くなるが、古の魔甲大亀グルガンヌの空中移動なら、ステルス機能もあるし、移動は可能か。
そして【エルフィンベイル魔命の妖城】は破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの軍に囲まれているが、完璧ではないとも分かる。
その各軍営の予測分布図を見ながら、
「そうだな、メンノアはどう思う」
「はい、眼前に拡がる【トーチマス平野】に展開している敵軍は回避し、左斜め先の【エルフィンベイル魔命の妖城】に向かいましょう。もうバフィマウト平原を過ぎ、ミラミンノガ大森林に入っていますから、すぐですよ」
そのメンノアの言葉に頷いた。
「今は、無駄な争いは止すか」
「はい」
ヴィーネたちにも視線を向けると、
「はい、スルーで行きましょう。元天魔帝メリディアの魂の欠片を守り続ける大将軍ですからね。また、二神の行動には、ご主人様が述べられていたように、裏があるように思えます。破壊の王ラシーンズ・レビオダにとって、【アムシャビスの紅玉環】で魔力を溜めることが何よりも重要だからこその、この戦いなのかもです」
ヴィーネの言葉にキサラたちも頷いている。
憤怒のゼアよりも、支配欲、強さを目指す破壊の王ラシーンズ・レビオダのほうが分かりやすいか。憤怒のゼアも強さを求めているからこそ、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】の【メリアディ要塞】を攻めたんだと思うが……。
そこで、皆を見て、
「では、迂回して、クーフーリンがいるエルフィンベイル城の近辺に向かおう――」
古の魔甲大亀グルガンヌは静かに旋回を開始し、敵の軍営と空軍から離れて、森側に出ると直進していく。
「ンン」
「ンン、にゃ」
「ぐもぅ」
「……ワォン」
「……」
相棒たちは魔視界に映る光景に夢中だった。
その黒猫はトコトコと歩き、何もない魔視界の裏側を調べていく。
黄黒虎と白黒猫も子鹿と銀白狼も魔視界を見上げながら壁際の何もないところを見ては、正面に回り込んで、外の景色と、古の魔甲大亀グルガンヌの内臓世界の違いを楽しんでいる。
はは、TVの裏に世界が拡がっていると勘違いをした猫と同じだな。
可愛い。
一方、アルルカンの把神書と闇鯨ロターゼは、ぷかぷかと宙空に浮かんでは、魔視界に映る光景を眺めていた。
超巨大ディスプレイの魔視界に映る光景は、一面森だらけ。
森林を低空で飛行していく古の魔甲大亀グルガンヌ――。
レーダー網を掻い潜る戦闘機を彷彿とさせる機動か。
Gや振動は皆無だが、巨大ディスプレイのような魔視界に映っている光景は、迫力満点だ――四肢の穴周りの毛が蠢くと月光に濡れた蜘蛛の糸のように虹色の輝きを放ち始める。
その光は漆黒の鱗が這うように広がると、巨大な体躯が霧のように揺らめき、次第に世界そのものと溶け合っていく。
と、毛がカーテン状に舞った刹那、古の魔甲大亀グルガンヌは半透明と化した。
ステルスモードも可能か。
「ん、わたしたち、今、半透明と化した?」
「あぁ、なった」
「隠密も可能な古の魔甲大亀グルガンヌちゃんは凄いですね」
「ふふ、古の魔甲大亀グルガンヌちゃん、ありがと~」
エトアが肉と骨の壁に手を当てながら、お礼をしている。
そして、エラリエースやハミヤとシキとファーミリアとルマルディたちと会話していたメルが、
「総長、古の魔甲大亀グルガンヌは格納力が高いので、元天魔帝一派の軍を受け入れることも可能ですね」
「あぁ、そうなる可能性もあるか」
「はい」
続いて、ハンカイたちが、
「……強者のクーフーリン、アムシャビス族の気質、素直に受け入れるとは思えんぜ?」
「そうだな、永く持ちこたえてきた自負はあるだろう」
そのハンカイとアドゥムブラリの言葉に頷いた。
そして、メンノアが、
「相当な強さを持つ大将軍がクーフーリン、プライドが高い、志しを持つ方とも言えます。魔命を司るメリアディ様たちとの連携話、そのすべてを断っていました」
と、発言。
続いてアドリアンヌが、
「魔命を司るメリアディ様よりも、元天魔帝メリディアを信奉しているからこその粘り強さもあると思いますわね」
そうだな。
次にキュベラスが、
「もののふなら、シュウヤ様と気概が一致しそうではあります」
その言葉にアドゥムブラリたちが頷く。
クナとミスティが
「ふふ、武人の血が騒いで、シュウヤ様に戦いを挑むかも知れませんわよ」
「それはあるかもねぇ、頭が脳筋で、プライドも高いなら、尚のこと」
ミスティの言い方に少し笑う。
「ンンン――」
と鳴く相棒の声に応え、魔視界の光景を見つめた。
前方の夜空を彩る夜雷光虫の光が、魔命の領域特有の紅の霧と交わり、幻想的な色彩の帳を織り上げていく。
霧の向こうにエルフィンベイル城の姿が浮かび上がるが、その城壁は既に破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの軍勢に包囲されていた。
城から此方にかけて、森と建物が幾つか点在していた。
古の魔甲大亀グルガンヌの甲羅から漂う魔力が、この地の古い力と共鳴するのを感じる。アムシャビス族の血を引く者たちの魂が、今もなおこの地に眠っているのだろうか。
「ンンン――」
黒猫は肩に戻ってくる。
「では、俺と相棒に、少数でエルフィンベイル城に乗り込むとしようか」
「「「はい!」」」
「マモモルとバフーンにルビアとメンノアにアドゥムブラリは共に行こう。他の皆は、古の魔甲大亀グルガンヌの戦力として、破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの軍と戦ってもらう」
「一緒に行きます」
「了解しました!」
「おう」
「一万は超えている沸騎士と上等戦士軍団の指揮はゼメタスとアドモスに任せよう」
「「「「「はい!」」」」」
「「お任せを!」」
「では、古の魔甲大亀グルガンヌの頭部に戻るとしよう――」
<沸ノ根源グルガンヌ>を使用した。
魔力の渦が体を包み込み、一瞬で古の魔甲大亀グルガンヌの頭部へと転移する。
黒猫は肩から離れて、床を駆けてから大きい黒虎へと変化を遂げた。
同時に、背後の甲羅のほうから、一万を超える沸騎士と上等戦士の軍団たちの氣合いを込めたようだ、漆黒と紅蓮の炎が吹き上がっていく。歌は声は戦場が近いこともあり、声はあまり発していない。
同時に、古の魔甲大亀グルガンヌ越しに、この地の古い力と共鳴するのを感じた。
アムシャビス族の血を引く者たちの魂の中に、沸騎士軍団の古の百人沸騎士長ガズバルのような存在がいる?
今もなおこの地に、鍵として、眠っているのだろうか。
体から<血魔力>を発して前へと出た。
相棒の黒虎ロロディーヌは姿勢を屈めた。
古の魔甲大亀グルガンヌとの魂の共鳴が、その姿をより凛々しく見せている。
骨の玉座に座りながら肩の竜頭装甲を意識し、闇と光の運び手装備を意識し、
「ハルホンク、闇と光の運び手だ」
「ングゥゥィィ!」
蓬莱飾り風のサークレットと額当てと面頬を展開した。
闇と光の運び手用の甲冑もかなり渋い。
同時に<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>を意識した。
風の魔力を感知し触るように纏う。
魔猫の幻影が見えたような氣がした。
「ンン、にゃお?」
先の黒虎も見えたようで、疑問げに鳴いている。
そこで骨の玉座から立ち上がる。
駆けて跳躍――前にいる黒虎の背に跨がりながら触手手綱を片手で掴んで、相棒の背に太股がジャストフィット。
すると、横に黄黒虎に騎乗したハンカイが付いた。
ハンカイは、金剛樹の斧を掲げ、
「シュウヤよ、<無影歩>はナシで突っ込むのだろう?」
「そうなる、突破と囮は俺の役目」
「ならば、付いていく、囮の囮は俺の役目、邪魔な将校は俺が相手しようか」
ハンカイが武将らしい笑顔を見せる。
俺も右手に魔槍杖バルドークを召喚し、
「おう、頼む。一点突破が無理なら背を預ける」
「ふっ、友と神獣の背は俺が守ろうか」
すると、その横にヴィーネが、
「ご主人様、背後はわたしがいますので」
「グモゥ~」
大きい鹿魔獣ハウレッツが黄黒虎を押しのける。
その大きい鹿魔獣ハウレッツに騎乗しているベリーズが環双絶命弓を掲げ、
「――うん、わたしたちがいる」
「ん、皆、出たがり」
エヴァが俺の前に出た。
魔導車椅子に座ったままだが、既に<念導力>で浮いている。
「臨機応変にね」
最近冷静なレベッカは左にいる。
「おう、相棒、出ようか!」
「ンン、にゃご――」
駆けて、一瞬で、古の魔甲大亀グルガンヌの頭部から離れた。
夜雷光虫が漂う魔夜の宙空を直進し――。
夜雷光虫が鈍く光って見えるほどに霧が立ちこめる【エルフィンベイル魔命の妖城】に向かった。
林が立ち並ぶ街の関所にいた敵集団の一部が、俺たちに反応。
魔獣に乗った四眼四腕の魔族たちが<魔闘術>を纏いながら近づいてくる様は、なかなかの迫力だ。
その魔獣に乗った四眼四腕の魔族が近付きクロスボウを構えた。
――俺は、<魔闘術>系統の<闘気玄装>を発動。
黒虎と<血魔力>を分け合うように<血道第一・開門>を意識すると瞬く間に、全身の毛穴から滲み出る血霧が相棒の漆黒の毛並みを朱に染め上げた。
その血の共鳴に応えるように、相棒の体内から立ち昇った橙色の魔力が太古の炎のように燃え盛りながら、小さい燕の形に舞う。
<メファーラの武闘血>を重ね掛けると、血管を這う魔力が世界の理そのものを歪めていく。
時間の糸が引き裂かれ、世界そのものが朧げとなる加速域へ──。
「怪しい者、近付くと射つ!」
無視して突っ込むと――。
「――敵襲!」
と、発言しながら矢を放ってきた。
<血道第一・開門>が朱の霧の中で、敵の動きは緩慢に見えるばかり。
相棒には当たらない――。
そのままそのクロスボウ持ちに近付いた黒虎に合わせ、魔槍杖バルドークを意識、と魔槍杖バルドークが反応を示す。
紅の斧刃が竜の息吹のように脈動した。
そのまま<龍豪閃>――。
魔槍杖バルドークの紅斧刃が、竜の呼吸のように脈動し、刃に宿った紅斧刃の<龍豪閃>の一閃がクロスボウを構えた四本の腕と、その持ち主の首もろとも一掃した。
関所を飛び越えると、魔矢が飛来――。
相棒は体から無数の触手を前方に繰り出した。
それぞれの触手からにゅるりと出た骨剣が魔矢を貫き、その魔矢を番えていく者たちの体を次々に貫いていく。
一撃一撃に古の魔甲大亀グルガンヌの力が宿っているかのように、骨の断面には漆黒の紋様が浮かび上がっていた。
着地際にも魔槍杖バルドークの<戦神流・厳穿>を繰り出し、敵の魔剣師と魔槍使いが突き出した魔剣と魔槍を弾きながら、魔剣師の肩口を穿ち、すぐに上げた魔槍杖バルドークの石突で、魔槍使いの穂先を払う。
相棒は触手を四方八方に伸ばしつつ、両前足の爪を、魔槍使いに繰り出しながら前進し、「ぐえぇ――」見事に魔槍使いの胸元を穿ち、強引に体を吹き飛ばしていた。
俺たちは、倒れゆく敵の間を縫うように直進した。
背後からユイとハンカイにマモモルとバフーンとヴィーネの気配を感じつつ――。
街道の暗がりと、光源を手に生み出していた四眼四腕の槍兵たちが、
「外から敵襲だ――」
「チッ、速いぞ――」
「クーフーリン側の新手が外からだと!?」
「ありえねぇが――」
と、それらの攻撃を魔槍杖バルドークを左から右に動かし払い、相棒の両前足が迅速に突き出て、その一人を爪先で仕留めながら魔槍杖バルドークで<刃翔鐘撃>を繰り出し、右の槍兵の腕を穿つ――。
黒虎は少し跳躍しつつ四方に触手を伸ばし、槍兵たちの足に絡めて、転倒させて、その転倒させた首に触手の骨剣を滑り込ませ、倒しつつ前進し、また跳躍――。
前方に並ぶ射手の一列に<血龍仙閃>――。
左から右へと電光石火の魔槍杖バルドークの紅斧刃が、四眼四腕の射手の首を刎ねた――。
壊れた荷車を破壊するように着地。
――【エルフィンベイル魔命の妖城】はまだ少し先だ。
相棒は前に出る――。
大柄のハンマー持ちに近付くまま、その頭部を魔槍杖バルドークで<豪閃>――。
頭からかち割って勝利――。
続けざまに、視界に捉えた右斜め前方にいた魔剣師に向け竜魔石に魔力を送る。
柄から<血魔力>が伝搬した隠し剣が発動し、如意棒の如く、氷の剣が伸びた。
突然の隠し剣に、対応できない
四眼四腕の魔剣師の眉間を氷の剣は貫いた。
前進し、城下町に突入した。
――バリケードが幾つもある。
石畳の隙間から、何かの気配が漂うと、夜雷光虫の光を浴び、淡い紫電となって街並みを彩っていた。
――結界の作用か?
が、闇を纏う建造物群が魔夜に溶け込むように立ち並んでいる――。
栗石が敷かれた街道の両脇には魔力で固めた塀が闇を抱え込むように建ち、壁の隙間からは漆黒の魔力が染み出していた。
古のアムシャビス族が築いたであろう防壁には、幾重もの魔法陣が刻まれ、今も僅かに魔印が蠢いている――。
所々に浮かぶ光から、相棒が反応し、触手骨剣を繰り出す。が、そこには何も無し――文字は、魔城が発する魔力に反応しているのか、僅かに夜雷光虫の光を捉えては放つように、淡い紅光を帯びていた。
瓦礫の下から漏れる魔力か。
防壁同様にアムシャビス族の技術が使われているようだ。
と、相棒が戦いのために出していた四肢の爪に触れた石畳と瓦礫から火花が散った。
背からでも感じ取れる漆黒の魔力に、瓦礫の下の何かが共鳴しているように思えた。
闇に溶け込むような黒い戦痕と、所々に燃え上がる業火の向こうには、魔石で造られた砦が幾つも、かつての監視拠点として建てられた名残を示していた。
立ち昇る紅い霧が街並みを侵食し、魔力結晶が埋め込まれた石畳の隙間を伝うように漂う。
夜雷光虫が闇の中で瞬きながら、その紅霧に触れては儚い光の粒を散りばめていく。
――街並みの奥から漂う戦いの気配に、その光の粒は不規則に明滅し、纏わり付く紅の霧は濃淡を帯びた律動となって揺らめいていた。
――バリケードがここにも――。
魔槍杖バルドークの<髑髏武人・鬼殺閃>――で破壊するように薙ぎ払い、進むと、またもバリケードがあった。
魔獣の死骸のバリケード――。
死骸は魔鎖と壊れた魔道具が何重に絡んで、バリケードとして構築されている。
砕かれた魔具の欠片が、黒い影となって散乱し、重層的に築かれた防衛線が道を遮っていた。
素材は、何かの魔族の骨と魔石か?
古い魔壁材を組み合わせたそれは、かつてはどこかの遺跡に封じられていた何かの念が込められていそうだ。
と、そこに魔獣の轟き音と共に風が発生。
相棒は斜め横に出て駆けていたが徐々に速度を落とした。
そこの中心から、銀色の<魔闘術>を纏った四眼四腕の魔族が寄ってきた。
明らかに強者の雰囲気だ――。
<闇透纏視>を使用した。
『魔力の淀みが少ないですね、破壊の王ラシーンズ・レビオダか憤怒のゼアの眷族、雇われ魔傭兵に、いずれにせよ、強者』
『最低でも千人長、魔王級の魔力を有しています』
ヘルメとグィヴァの念話に頷いた。
銀色の<魔闘術>は、月光を帯びた水銀のように揺らめいている。
破壊の王ラシーンズ・レビオダの魔印が周囲に数個浮かぶと、魔族の徽章が連動しているように煌めいていた。
その四眼四腕の魔族が乗る魔獣からは、古の血を引く者特有の威圧感が漂っていた。
魔槍杖バルドークが血を求めるように振動が起きた。
やはり、相手は、只者ではないな。
その四眼四腕が、
「ほう……血道、<血魔力>……吸血神ルグナドの一派を率いた魔界騎士が来訪か……」
低く響く声には、古の魔甲大亀グルガンヌの血統を誇るような威厳が滲む。
四本の腕それぞれが異なる武具を構え、その一つ一つから凄まじい質の高い魔力が脈動している。
魔剣、魔槍、魔斧、そして魔鎖、そべてを小刻み揺らしつつ操作していた。
己の分身のように変幻自在か。武器の扱いが上手い四眼四腕が、
「この【エルフィンベイル魔命の妖城】の主を仕留めようと待っていたが、とんだ珍客よな」
四種の魔具から放たれる魔力の波動が、己の<血魔力>と共鳴するように感じられた。
「……クーフーリンを待っていたのか、そして破壊の王ラシーンズ・レビオダ陣営の門番のような存在か」
と、聞くと、相手は、「門番とは心外だ……」と発言し、四眼を細め、四腕の武器が月光の下で銀の軌跡を描く。
四本の武具から放たれる魔力は生きているかのように蠢き、互いに呼応し合いながら、より強大な力へと昇華している。
威厳を湛えていた。
「……この<四魔具術>の使い手、古の四兵魔将ヴィクタリオスがな」
その名を聞いた瞬間、相棒の体内の魔力が反応を示す。
口から紅蓮の魔息を吐いた。
古の四兵魔将か、破壊の王ラシーンズ・レビオダの配下か。
魔槍杖バルドークが竜の呼吸のように脈動を刻む中、背後から、ハンカイが黄黒虎を前に出し、
「シュウヤ、こいつは俺が――」
黄黒虎の背で構えるハンカイの声には、戦士としての昂ぶりが滲んでいた。
「待て」
と、一言で制する。
この戦いは、己が受けるべきものと直感していた。
魔槍杖バルドークが、ヴィクタリオスを求めている。
「分かっている」
ハンカイは渋々ながらも黄黒虎と共に右へと移動した、
戦場の機微を読む者同士の無言の了解が、夜雷光虫の光に照らされた空間に漂っていた。
俺と相棒は左から前に出た。
四兵魔将ヴィクタリオスは<魔闘術>を強めていく。
周囲の空気が一瞬凍りついたかと思うと、四種の武具それぞれから異なる属性の魔力が迸り出す。魔剣からは業火が、魔槍からは氷霜が、魔斧からは嵐が、そして魔鎖からは深淵の闇が立ち昇る。
<闇透纏視>でその魔力の律動を読み取ると、その調和の美しさに思わず息を呑む。
四種の属性魔力は互いに反発することなく、むしろ呼応するように一つの魔法陣を形作っていく。その技術は、古の四兵魔将の名に相応しい完成度を示していた。
ヴィクタリオスは月光を帯びた銀の魔力に全身を包まれたまま、己を見据え、
「ほう、二眼二腕だが、魔眼持ち、俺の<四魔具術・魔界混成陣>が見えるのか?」




