千六百六十六話 魔命を司るメリアディと邂逅
<闘気玄装>を残し、すべての<魔闘術>を消す。
魔素の残滓が紅い光となって拡散していく。
闇と光の運び手装備の蓬莱飾り風のサークレットと額当てと面頬はそのままにした。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>がゆっくりとした動きで戻っていた。
炎怒のババラートスの分身体とラマを引き寄せていた、大きな駒。
炎怒のババラートスを屠ることに貢献してくれた<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を触り労るように消した。
すると、敵の魔素を察知。
「人族のような存在に、炎怒のババラートス様が――」
腕が溶岩で構成された二眼四腕の魔族が叫ぶ。
涙を流し叫びながら紅蓮に輝く四つの魔剣の切っ先を見せながら突っ込んできた。
玉砕覚悟か、胸元が膨らんで腰がくびれて、お尻が少し大きい。
憤怒のゼア側の女性将校か。
当たり前だが、炎怒のババラートスも慕われるほどの将軍だったということか。
「にゃご」
「無謀ね――」
「ふむ――」
黒豹は口元に紅蓮の炎の塊を生み出し、炎を吐くか迷う。
ユイとハンカイはそれぞれ対峙した四眼四腕の魔族将校を屠った直後で、間に合わず。
一方、沙・羅・貂は、
「「「<御剣導技>――」」」
逸早く動いたのは、貂か。
無数の尻尾が宙を舞って仙女の衣が見えなくなる。
「器様の手は汚させません――<仙王術・神馬佳刃>――」
貂は神剣に馬のような形の幻影を生み出す。
その馬の幻影を纏う神剣を振るい、魔刃を飛ばした。
と、二眼四腕の魔族は四つの魔剣を盾にして、その馬のような魔刃を防ぐ。
そこに羅が宙空から神剣と両腕を伸ばし、
「――羅仙瞑道百妙技<仙羅・絲刀>――」
を、繰り出す。
無数の糸状の魔刃が二眼四腕の魔族の四つの魔剣と鎧以外の数十カ所に突き刺さった。
続いて沙が、前に出て、
「――ここは素直に死なせてやるのが流儀――<水神の氣>、<水神霊妙剣>――」
を繰り出した。水氣を帯びた神剣が<仙羅・絲刀>で身動きが取れない二眼四腕の魔族の首の下に入り込み、その首を華麗に刎ねる。
頭部が宙空を舞った。沙は神剣を払う動作で、此方を振り返った。
頭部を失った四腕の胴体は体の節々から溶岩の魔力が溢れ出て、壊れた人形のように動かなくなる。
やがて、切断された箇所から噴火したような赤黒い燃えた血飛沫の塊が噴き出ると、その四腕の魔族の体は羅仙瞑道百妙技<仙羅・絲刀>の無数の糸状の魔刃にもたれるように倒れた。
魔素は消えたから倒したか。
沙・羅・貂の連携は速かった。
そこに、闇の獄骨騎の指輪が少し奮えて、
「「「ゴォォォ――」」」
とした振動を伴う沸騎士たちの気概を察知。
同時に、俺たちが駆け下りてきた山から、漆黒と紅蓮の火の玉の群れが現れる。
火の玉の一部が前方に飛ぶ、魔槍か。
火の玉のような魔槍と衝突した蠍頭の四眼四腕と溶岩の岩型兵士は炸裂したように倒れる。そこから現れたのは古の戦長ギィルセルと、沸騎士長と沸騎士と上等戦士の軍団。
『光魔ルシヴァル軍の皆も到着です、流れは完全に此方側ですね』
『おう』
戦歌を響かせながら駆け下り、【メリアディ要塞】の北側に流れ込んできた。
悪夢の女神ヴァーミナ様の軍が戦っていた憤怒のゼアの兵士に雪崩れ込んでいく。
沸騎士長ゼアガンヌとラシーヌが上等戦士軍団をちゃんと率いている。
見事な指揮っぷり。
【メリアディ要塞】の北側の平野には炎怒のババラートスが倒れても撤退せず奮闘していた数百人と数千人の部隊が個別にいたが、それらの部隊を次々に撃破していく沸騎士と上等戦士たちの部隊は強い。
憤怒のゼアの軍の中核と思われる中衛から後衛も完全に崩れ始めた。
北側で暴れていた炎怒のババラートス将軍は倒れ、山越え部隊を指揮していたゾルガーダス将軍を含めた数万の部隊が倒れた現状だからな。
俺たちの勝利の流れは変わらないだろう。
古の戦長ギィルセルが指揮を飛ばし、憤怒のゼアの溶岩兵士たちを囲うように沸騎士たちが動く。
悪夢の女神ヴァーミナ様は、憤怒のゼアの大眷属と激突中。
マグマのような溶岩の礫を繰り出す憤怒のゼアの大眷属か。
その一つ一つが火山弾のように周囲の空気を歪ませながら、悪夢の女神ヴァーミナ様へと襲い掛かる。
更に、ガーゴイル型の将軍が両手を天に掲げ、紅蓮の魔素を集中させていく。
魔素は渦を巻きながら昇華し、溶岩の粒子が宙空を舞い、轟音と共に巨大な溶岩のドラゴンへと変貌を遂げた。
その体表は、天魔結晶のような硬質な鱗で覆われ、黒曜石のような光沢を放つ。外皮の下からは、地底から湧き上がる業火のような紅蓮の輝きが脈動していた。翼を広げれば、その翼膜から滾る溶岩が滴り落ち、空中で魔素の飛沫となって炎の花を咲かせる。
咆哮一つで周囲の大気が揺らぎ、放たれる吐息は大地をも溶かす灼熱の業火と化す。
悪夢の女神ヴァーミナ様は、そんな脅威に対し、
「妾にそのドラゴンの魂を捧げるつもりなのじゃな、名の知らぬ憤怒のゼアの子分ちゃん♪」
と、可愛らしく発言すると――。
魔命を司るメリアディ様の支配力の象徴の紅光が魔夜に戻り、無数の夜雷光虫が目立つ背景となったが、すぐに揺らぎ消え、代わりに巨大な鳳凰と七重宝樹と【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】の背景が、現れた。
それは悪夢の女神ヴァーミナ様が、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】と【魔命を司るメリアディの地】の領域の一部を得たように思える光景だった。
その悪夢の女神ヴァーミナ様は、己の首の傷から大量の白濁とした炎を前方に展開した。
闇の子精霊と伎楽面の半透明な小精霊状の魔族たちが、悪夢の女神ヴァーミナ様を祝福するように周囲に出現している。
すると、腕と足の形の溶岩型のモンスター兵がガーゴイル型の将軍を守ろうと、白濁の炎の波に突撃していく、しかし、触れたものは一瞬で消える。
白濁とした炎は、そのまま大波のように広がった。
液体のようで液体ではない、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】と関連した能力だろう。運命そのものの如く避けようのない速度で溶岩のドラゴンとガーゴイル型の将軍を飲み込んでいく。
白濁の炎は魔界セブドラの大気、生命の根源を焼き尽くすような、魂の深部まで焼き尽くすような印象だ。
ある種の浄化をするような、神々しさを帯びた白濁とした炎。
白濁の炎と地底から湧き上がる溶岩龍の業火が激突し、光輪が広がっていく。
次の瞬間、ドラゴンの鎧のような外皮が白き炎に蝕まれ、存在の根源から崩壊の兆しを見せ始める。
凄まじい……。
『まさに魔界の女神の一柱の神級を超えた魔法かスキルです』
悪夢の女神ヴァーミナ様は強い。
憤怒のゼアか破壊の王ラシーンズ・レビオダが直に悪夢の女神ヴァーミナ様と戦わないとダメだろうな。
しかし、あの白濁とした炎は生命の根源に触れる力を秘めた神格の力、それこそが悪夢の女神ヴァーミナ様の真髄なのかも知れない。
すると、闇の獄骨騎の指輪が振動。
【メリアディ要塞】の右上の宙空に紅色の閃光が交錯し――空間そのものが歪むように古の鎧を纏う巨体が浮かび上がる。そう、あの古の魔甲大亀グルガンヌだ。更に、
「グォォォォォォォォォン」
盛大に鳴いた。
巨大な甲羅からは紅玉の光が迸り、魔界の古き存在としての威容を示す。
周囲の空気が魔力で重く濁り、大迫力の存在感を放っていた。
戦闘型デバイスから、特徴的な大怪獣が現れるようなBGMが流れる。
面白い。人工知能のアルセルマギナは氣が聞く。
続いて、空で戦う闇鯨ロターゼとキサラとヴィーネを見つけた。
キサラは<血魔力>を有した白絹のような髪を靡かせながら<光魔鬼武・鳴華>を発動したようだ。
白銀に近い煌びやかな魔素が渦巻くように重なりつつ、橙魔皇レザクトニアの薙刀とダモアヌンの魔槍を振るい回し、直進――敵の魔剣と衝突か、鎧を切り裂く橙魔皇レザクトニアの薙刀から放たれる橙の閃光が、宙を切り裂くように見えた。<血魔力>も合わさると、紅蒼の閃光に変化している。
キサラと行き交う空域にいた数十人の規模の蠍頭の四眼四腕の魔族たちは、キサラが通り抜けるたびに肉片花火と化していた。
更に、<補陀落>を繰り出す。
<血魔力>を発しながら直進したダモアヌンの魔槍が、大怪獣ごと数十と蠍頭の四眼四腕の体を貫く。
ヴィーネはロターゼと古の魔甲大亀グルガンヌを行き交うように翡翠の蛇弓から光線の矢を射出しまくっている。
光沢が美しい銀髪は美しい。
金髪のレベッカもいた。
城隍神レムランの竜杖からナイトオブソブリンとペルマドンの小形ドラゴンを生み出し、ビーム状のドラゴンブレスを吐いて蠍頭の四眼四腕の体を撃ち抜いていた。
続けて、蒼い勾玉の<光魔蒼炎・血霊玉>を繰り出し、宙空を直進させる。
清浄な蒼から血のような深紅へと色を変えながら、虹を引くように宙空を切り裂いていく勾玉。
その軌跡には血の力が混ざり合い、紅蒼の光芒となって空を染め上げる。
蠍頭の四眼四腕の魔族たちが守る大怪獣と蒼い勾玉が連続的に衝突――。
血の力を帯びた蒼炎は、大怪獣の体を内から焼き尽くしたように、爆心から拡がり、紅蒼の光輪が発生し、大怪獣は破裂するように大爆発、無数の肉塊となって墜落していた。
大怪獣は空軍の空母代わりか。
見た目は、貝柱と海月がミックスしたような巨大なクリーチャーが多い。
貝柱のような繊維質の扉が開き、そこから魔族兵士たちが出入りしていた。
その大怪獣に乗っていた多数の魔族たちも墜落していく。
先程の【メリアディ要塞】の南側での戦いでは、ビュシエが躍動し、あんな見た目の大怪獣を数匹墜落させていたが、レベッカも負けていない、<光魔蒼炎・血霊玉>の威力は凄まじい。
元々の自由に蒼炎を描ける蒼炎弾も強力だったが、骨子を得たような血霊玉の影響で威力が向上しているんだろうか。
そして、空で戦っている<筆頭従者長>ルマルディとアルルカンの把神書に、<従者長>フーに<筆頭従者>メルと<筆頭従者長>ビュシエと、ヴァルマスク家のファーミリアと【星の集い】アドリアンヌと【闇の教団ハデス】のキュベラスたちも視認した。
皆で、古の魔甲大亀グルガンヌの前方にいる敵空軍を倒しまくる。
キュベラスは先程【メリアディ要塞】に乗り込んだように見えたが、再び空に出て戦いを始めたようだな。
【メリアディ要塞】はアムシャビス族に魔命を司るメリアディ様を慕う魔族たちの兵士が多く、健在か。
アドゥムブラリからの血文字がないから、【メリアディ要塞】内部でも戦いが起きているのかと少し不安に思ったが大丈夫そうだ。
敵の空軍には、蠍の頭部を持つ四眼四腕の魔族以外にも、角を生やした頭部に四眼で肌色の翼に四腕の魔族、二眼四腕の魔族、顔面だけのモンスターのような者もいた。
それらを次々と倒すヴィーネたち――。
俺も少し浮遊しながら……溶岩のような素材で体が構成されているガーゴイル型を狙う。
憤怒のゼアの兵士の背に向け、左手の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、ティアドロップ型の<鎖>の先端が、そのガーゴイル型の背を貫いて倒した。
空軍の主力は破壊の王ラシーンズ・レビオダなのだろうか。
時折、今のガーゴイル型のように、体が溶岩のような素材で構成された魔族兵士もいる。
そして地上より空のほうには溶岩系の体を持つ魔族兵士は少ない。
再び、降下――。
まだ北側の平地に残る全身がマグマのような溶岩で構成されている魔族たちに向け――。
両足から<血鎖の饗宴>を繰り出した。
溶岩も沸騰させるように無数の血鎖が消し炭にして倒しまくる、よっしゃ、<血鎖の饗宴>が効く――。
憤怒のゼアの部隊を倒し、ユイとハンカイと黒豹の近くに戻った。
ハンカイは、右手の甲に嵌まる大地の魔宝石を黄色と血色に輝かせながら金剛樹の斧を<投擲>。
宙を乱雑に回転しながら金剛樹の斧が、マグマの体を擁した魔族の体を捉え、その体を貫いては、すぐにターンして、再び、マグマの体を斬る金剛樹の斧。マグマの体を擁した魔族だが、体の再生はしなかった。
ハンカイは、<投擲>していた金剛樹の斧を右手に引き戻し、
「シュウヤ、ここらへんの残党狩りは俺とユイに任せて、さっさと魔命を司るメリアディ様に挨拶してこい」
「おう、そうだな」
「うん、と、もう、ここには、殆どいないけどね」
ユイの言葉にハンカイも笑顔を浮かべてから、
「ふむ、【メリアディ要塞】の安全が確保されたが、北の戦場の戦いはまだまだ。憤怒のゼアの本人も黙って見ているつもりか、裏をかいているのか……」
「ハンカイ、戦場では余計なことは考えず、古の戦長ギィルセルたちの戦いに参加し、まだいる憤怒のゼアと破壊の王ラシーンズ・レビオダの連合軍を確実に倒しきりましょう」
「ふっ、そうだな、死の女神殿に従おう」
ハンカイは金剛樹の斧をユイのイギル・ヴァイスナーの双剣の片方に当てている。
ユイは微笑んで、「ふふ、わたしよりも、血斧の円環を扱う大将軍に従うから」
「……なんだ、その円環に大将軍とは……<筆頭従者長>だけでいいではないか」
「もう、ただのノリなんだから、真面目すぎ」
「ガハハ、冗談か、フッ」
ハンカイも満更ではないような表情だ。
ユイは、
「シュウヤ、破壊の王ラシーンズ・レビオダとクーフーリンとの戦いに乱入する際は声をかけてね、ついていくから」
ユイの言葉に頷いた。
「では、【メリアディ要塞】に乗り込んで、魔命を司るメリアディ様に挨拶してくる」
「ンン、にゃお~」
「うん」
「じゃ、後でな――」
「おう」
黒豹が、体から触手を伸ばし、俺の右腕に絡めてくる。
引っ張るように先に駆けた黒豹に速度に合わせて跳躍――。
黒豹に跨がった。そのまま跳ぶと触手を前方に伸ばし、【メリアディ要塞】の壁に突き刺すと一気に収斂され――壁の深い亀裂から滲み出る魔素の残滓と血の匂い。
黒豹の触手が探りを入れると、その先に開けた空間を感じ取れる。
――そのまま壁の切り目から【メリアディ要塞】の中に潜入。
足下には憤怒のゼアの兵士たちの亡骸が散在し、壁の一部には溶岩の魔力で焼け焦げた痕が残る。
が、その向こうには、アムシャビス族の紅光魔法で浄化された廊下が広がっていた。
黒豹が歩みを緩めて床の匂いを嗅ぐ。
と、壁に施された紅玉の装飾が次々と輝きを取り戻していく。
戦火で傷ついた床面の上には、数体の溶岩兵士の亡骸と共に、朽ちかけた魔装の破片が転がっていた。
しかし、所々で見える天井の紅翼紋様は依然として美しい、戦いの痕跡を帳消しにするかのような荘厳さを放っていた。
――結界のようなモノはもうないようだ。
――黒豹は鼻先をクンクンしながら、幅広な廊下に向かう。
そこにいた多数のアムシャビス族の兵士たちが「「「「な!」」」」と驚くのも束の間――。
戦火の跡を越えて、中央に絨毯が敷かれた大広間へと到着する。
紅玉の魔力に満ちた空間が、先ほどまでの戦場の雰囲気を一掃していた。
天井の光源はシャンデリアか。
紅色の閃光が目映い、紅い勾玉が複数個連なり、それぞれが輝翼紋様式の律動に合わせ脈打っている。幾重にも重なる紅光が、アムシャビス族に伝わる古の祝福紋を床に描きだしていた。
シャンデリアから垂れ下がる光の帳には、紅翼階式を象徴する神聖文字のような魔法の文字が現れて消えていく。
左右に立ち並ぶ太い柱は、アムシャビス族たちの彫像か。
各々の黒翼には紅光の紋様が刻まれ、ドラゴンを従えているアドゥムブラリと似た彫像もある。魔侯爵……とマジで、アドゥムブラリの名と、その家族たちが輝翼紋様式で刻まれていた……なんか感動的だ。
『アドゥムブラリが過去に語っていたことはすべて真実でしたね』
『あぁ……』
『エロいピンポン玉だった頃が懐かしい』
そんなヘルメの念話に思わず笑った。
黒豹も念話に同意するように「ンン、にゃ、にゃ~」と鳴きながら前進。
触手の一部は俺の体に付いているからな。
中央の奥では、アドゥムブラリとルビアとクレインに魔命の勾玉メンノアを取り囲むように多数のアムシャビス族の衛兵、高級将校たちが集結していた。
その最奥地に三眼を擁した魔命を司るメリアディ様が座す、巨大な背もたれ椅子の頂点は冠状で、左右に翼がデザインされている。紅翼王位の象徴だろう。
背もたれには幾重にも紅玉の魔装飾が施され、一つ一つが紅翼階式の根源たる魔命の鼓動のように脈打ち、紅蓮の輝きを放っている。
魔装飾からは〝紅光彫刻〟特有の神秘的な紋様が浮かび上がり消え、その度空間に波紋を生んでいた。
三眼から神々しい紅色の光が放たれ、宝座の周りに立つアムシャビス族たちの影を大広間の床に長く引き延ばしている。巨大な椅子の肘掛けから魔界の古き文字で数々の祝福の呪文が刻まれ、その文字列が微かに発光していた。
「『――待っていましたよ、シュウヤ、セラから遠い魔界によくきてくださいました……』」
魔命を司るメリアディ様の念話と言葉だ。
一瞬で、大広間が静寂に包まれた。
アムシャビス族の将校の一同が、俺を凝視し、胸元に右手を当て、紅玉の魔力に満ちた大広間に儀礼的な会釈を捧げてきた。




