千六百六十話 魔槍ハイ・グラシャラスと金漠の悪夢槍
皆と〝知記憶の王樹の器〟の記憶の共有を図ってから暫しの雑談の後、皆が骨の玉座に集結。
そのまま常闇の水精霊ヘルメを纏うように――。
古の魔甲大亀グルガンヌの巨大な骨の玉座に座った。
と、床が少し上昇した。
「閣下、何かスキルを?」
「いや、自然とだ」
骨の玉座の左右から亀と骨の形をした骨が無数に生まれて宙空に向かうと、それぞれが連結し巨大な楕円の枠となった。その枠の中に魔法の膜がパッと拡がり張った。
その膜に前方の遠くに、紅き閃光を発している【メリアディ要塞】と、渓谷が映る。
無数の夜雷光虫が漆黒の空を彩り、天の川のような光の帯を描く。
それぞれの虫が放つ微かな光は、古の魔法書に記された星辰の輝きのように神秘的な光芒を放っていた。
その光は、時折激しく明滅し、天空の精霊たちが舞踏を繰り広げているようにも見えた。
「美しい」
「はい」
「戦いが行わせている現場だというに、ここからでは、本当に美しいです……」
エトアの感動している言葉に頷いた。
皆が情報を共有できるシステムも当然備えている。
そのまま、古の魔甲大亀グルガンヌに意識を傾けると、
「――グォォォォォォン」
盛大な鳴き声を合図に出発、前進。
グルガンヌの頭部は揺れない。
【グルガンヌ大亀亀裂地帯】に埋まって神殿だった頃とは異なる。
すると、俺の体に液体状の半身を纏わせ水の外套と化していた常闇の水精霊ヘルメが――ゆらりと半身を女体化させながら細い右腕を前に伸ばし、
「――ふふ、勇ましい古の魔甲大亀グルガンヌちゃんです!」
指先からピュッと水を放出させる。
水は放物線を描き、大きい黒猫ロロディーヌのお尻辺りにヒット。
相棒の尻は少し輝いた。
大きい黒猫ロロディーヌは尻尾を下ろして左右に振っている。
「「ふふ」」
『はい!』
『うむ!』
『『ふふ』』
右目に宿る闇雷精霊グィヴァと、左手の掌の中の異空間に棲まう沙・羅・貂たちも同意しては笑うように念話を寄越してくれた。
「にゃおおお~」
「にゃァァ~」
「ワォン! ワンワン――」」
「ニャァ」
「グモゥ~」
「ニャォ~」
銀灰虎と銀白狼と黄黒虎と白黒虎と大鹿たちだ。古の魔甲大亀グルガンヌの頭部の最先端の縁際で前方の戦場に向け吼えている。
皆、これから戦いだにゃお~と言い合っているのかな。
そして、俺とヘルメが座っている骨の玉座の前に立つのは六眼キスマリと光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモス。
横に魔命の勾玉メンノアも立ち、胸元に手を当てながら静粛に頭を下げていた。
彼女の目的の【メリアディ要塞】が目の前だからな。
キスマリはゼメタスとアドモスに嫉妬したようで、先程揉めていたが、俺の近くで一緒に並び立つことを許可したら笑顔満面となっていた。
ゼメタスとアドモスの光魔魔沸骸骨騎王の強さと出世には、六眼キスマリも目を見張るものがあったんだろう。
その、古の魔甲大亀グルガンヌの骨の玉座のある広大な頭部で戦装束に身を包んだ眷属たちが厳かに並び立つ。
<筆頭従者長>は左に一列に整然と並ぶ。
【天凛の月】の最高幹部の戦闘装束にムントミーの衣服のヴィーネ、レベッカ、ユイは首の神鬼・霊風を装着させている金属製のマスクホルダーに、イギル・ヴァイスナー装備だ。
双剣と胸甲と右腕の防具と脚絆のような腿当てと足防具が似合う。
アドゥムブラリとエヴァとミスティとルマルディとキッカも、各が光魔ルシヴァルの<血魔力>を纏っている。
研ぎ澄まされた殺気が漂っていた。
右の列にキサラ、ヴェロニカ、ビュシエ、クレイン、クナ、ハンカイ、ルビアが並ぶ。
一糸乱れぬ整列を保っている。各々の体から発せられている<血魔力>に装備が脈動しているようにも見えた。
眷属たちの纏う<血魔力>は、それぞれが異なる色相を帯びながらも、光魔ルシヴァルの血脈を示すように共鳴し合っている。特にヴィーネの【天凛の月】の装束からは、月光のような清冽な魔力が滲み出ており、その魔力の波紋が周囲の空気を浄化していく。その波紋は幾重にも重なり合い、まるで月の光が水面に映るような神秘的な輝きを放っていた。
神鬼・霊風のマスクホルダーから漂う呪文は、古の魔術書から紡ぎ出されたかのような韻を踏んでいて、一つ一つの言葉がユイの<血魔力>と共振しながら、神秘的な魔法陣を空中に描き出していく。
マスクホルダー自体が魔力の導管となり、装着者の魔力を増幅させる機能を有しているようだ。
そのイギル・ヴァイスナーの双剣に流れる<血魔力>は、生きた血管のように脈打ち、その律動はユイの心拍と同期するかのように光と闇の魔力を循環させていた。
光と闇という相反する力を内包しながら、光魔ルシヴァルの血脈によって完全な調和を保っている。
時折、剣身から放たれる青白い閃光は、光神ルロディス様の加護と死神ベイカラ様の愛が交錯する瞬間を象徴するかのようだ。
まさに光魔ルシヴァルの血脈を継ぐ者だけが扱える神秘的な力の表れか。
が、双剣と装備類は聖戦士の光を魔界に放つように、光属性の魔力が一部の闇属性に反撥し火花を散らしている箇所もあった。
ユイは<ベイカラの瞳>を合わせて<聖速ノ双剣>を使っていたからな。死神ベイカラ様に愛されているが、光神ルロディス様にも認められている? それとも、俺の眷族、光魔ルシヴァルだからかな。
その左右の背後に<従者長>のママニ、フー、サザー、サラ、ベリーズ、ブッチ、メル、ベネットなどが並んでいる。
アルルカンの把神書はルマルディの真上で、相棒たちがいるほうを見ているように本の表紙を向けていた。
戯れたいようだな、が、ルマルディに先程、アルルカンの把神書の尻尾を押さえるように、平織の紐のしおりを引っ張られて並ぶように急かされていた。
シャナはヴィーネとルビアとエトアとイモリザの背後。
氷竜レムアーガの幻影を足下に発生させ続けて、氷の翼を己に纏わせたり、ヴィーネとルビアとエトアとエラリエースとハミヤとイモリザに纏わせてみたりと、色々と試しながら、女子同士きゃっきゃと、はしゃぐ。
これから大事な戦いだ。身を守る新しい術を試すのは当然。
その両列の間には、まるで儀式の通路のように一定の空間が保たれ、骨の玉座から真っ直ぐに伸びる赤絨毯が敷かれているかのような錯覚すら覚える。
この空間は、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスがちょうど並んで通れる幅を持つ。
そして<従者長>サザーの真上に法魔ルピナスが浮いている。
最近はサザーと法魔ルピナスはコンビを組むことが多いが、何か切っ掛けがあったのだろうか。
ファーミリアとシキとアドリアンヌとミレイヴァルとフィナプルスとキュベラスたちも、ヴィーネたちの背後に立っている。
古の戦長ギィルセルと古の祭事長バセトニアルに、ゼアガンヌとラシーヌと数十人の魔界沸騎士長たちも左右に並び立っていた。
ゼアガンヌとラシーヌと数体の骨騎士と数百の沸騎士も背後にずらりと、暗夜の帷子のように広がっている。
当然、闇鯨ロターゼは少し目立つか。
あの体格で魔公アリゾンの大部隊相手に大活躍してくれた。
タルナタムも先程の戦場では、おおいに躍動してくれたが、今は獄星の枷ごと戦闘型デバイスの中だ。
それにしても、ここから皆の様子を見ると壮観だ。
古の魔甲大亀グルガンヌの頭部という広大な空間の中で、完璧に秩序を保ちなが出撃の時を待つ軍団として息づいている。
鬼魔人たちの大厖魔街異獣ボベルファと合流したらとんでもない軍隊の誕生か。
沸騎士軍団と上等戦士軍団は、背後の甲羅の上の神殿の内外にて、豪快に光魔ルシヴァルの凱歌を歌っている。
かすかな骨振動が起きているように、微弱な振動が伝わってくるほどの声量で、壮大な歌声だと分かった。
総勢、一万人は超えているかな。
更に、このコントロールユニットには、まだ皆に説明していない秘密がある。
〝知記憶の王樹の器〟の記憶入りの神秘的な液体を飲んだ皆は、ある程度理解しているはずだが、古の魔甲大亀グルガンヌの深部に潜ることを意識したら、骨の玉座ごと内部に転移が可能。
しかし、まだ使っていない。実際の目で古の魔甲大亀グルガンヌの内部を確認し探検もしたいが、それは後回し。
古の魔甲大亀グルガンヌの内部では、大厖魔街異獣ボベルファのような施設があり、<沸ノ根源グルガンヌ>と連動した沸騎士たち関連の深い施設と【グルガンヌの滝壺】と通じる何かがあると分かっている。
その古の魔甲大亀グルガンヌの奥と、この頭部と甲羅の上の神殿の内外で、沸騎士軍団と上等戦士軍団たちは、復活が可能なことも理解できている。
そして、沸騎士長ゼアガンヌだが、ゼメタスとアドモスが光魔魔沸骸骨騎王に進化した際に強くなったようだ。
古の祭事長バセトニアルと古の戦長ギィルセルもゼアガンヌと同等ぐらいか、やや優るぐらいと認識した。
三人はそれぞれをライバル視しているような態度も先程見受けられた。
三人は、マッスルポーズ的に、胸元の胸筋で喋るように、漆黒と紅蓮の炎を胸元から放出させて、その放出具合を競っていた。思わず笑ってしまったが、本人たちは至って真面目だったから、あまり笑わずに見守っていた。
同時に、三人の眼窩の炎が、それらの挙動に合わせ明滅し、眉毛のような骨が微妙に前後、そして頭蓋骨に罅が入り、自然と治ることを繰り返していたから、尚のこと面白かった。
そして、ゼアガンヌは、傍にいる十人規模の魔界沸騎士長たちより漆黒と紅蓮の炎の魔力の噴出力は高い。
やはり、光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスがじかに産み落とした眷族がゼアガンヌだからな。
ゼメタスとアドモスがアニメイテッド・ボーンズとプレインハニー効果と魔のコインを【グルガンヌの滝壺】に落として産み落としていた。
先程、エヴァは、
『ん、シュウヤ、ぼあぼあの出力差で、沸騎士と骨騎士たちの強さがある程度分かるの』
と、教えてくれたが、本当にそうらしい。その際、ゼメタスとアドモスはエヴァに褒められて、すごく嬉しかったのか、ぼあぼあとした漆黒と紅蓮の炎をハートマークに変えていた。
ゼメタスとアドモスは光魔魔沸骸骨騎王となっても俺の気質は同じだ。
その時、エヴァとアドゥムブラリとハンカイとツアンたちと魔煙草を少し吹かして笑っていた。
そんな数分前の出来事を思い出しつつ――。
紅き閃光に導かれるまま【メリアディ要塞】に近付くと、途中から、魔命を司るメリアディ様の<空の篝火>が闇に飲まれていく様子が見て取れた。
それは、まるで、古の世界の秩序が崩壊していくかのようだった。
暗闇の中で夜雷光虫たちの放つ光の帯は、最後の希望を象徴するかのように煌めいている。
この地域の支配権を象徴する魔命を司るメリアディ様の<空の篝火>と<アムシャビスの紅光>が闇に沈むか……。
無数の夜雷光虫が漆黒の空を彩り、まるで天の川のような光の帯を描いている。
それぞれの虫が放つ微かな光は、夜空に散りばめられた星々のような神秘的な輝きを放っていた。
闇の量を見て、不安が込み上げる。
かつての栄光を象徴する光が消えゆく様は、魔界の歴史の1ページが暗闇に呑み込まれていくかのようだ。
が、その美しさに目を奪われずにはいられない。この光景は、かつて【源左サシィの槍斧ヶ丘】で見た蛍の群れを思い起こさせるが、【メリアディ要塞】の南側では、魔矢の応酬が凄まじく、対戦車ミサイルを思わせる魔法の杭弾が、轟音と共に大地を揺るがす。空気が震え、地面が呻くような振動が伝わってきた。
今は魔命を司るメリアディ様の救出が最優先――だ。
敵には、魔矢を射出できる連射スキル持ちが多いのか魔矢が行き交う。
左の丘の周囲では死体が山積みだ。
数が多くてどちらか分からないが、【メリアディ要塞】を囲むように破壊の王ラシーンズ・レビオダの空軍が、魔矢と様々な魔法を打ち続けている。
魔法の結界は敗れた?
「アムシャビス族の者たちの死体が多いな。二眼四腕の魔族と二眼二腕の魔族に四眼四腕の魔族、魔傭兵も多数雇われているようだ……お? 左の崖は【セウンの昏光】か、重要な【メリアディ要塞】を見据えられる重要な土地だが、そこを敵に蹂躙されたか、あ、あの四枚翼は!」
アドゥムブラリが腕を差す。
その前方の【メリアディ要塞】の堀と前方の塹壕が並ぶ凹凸が激しい平野だったところで、大柄の四眼四腕の骨魔族と四眼四腕に四枚翼を持つミラガ・ママラが戦っていた。
【メリアディ要塞】の一部は巨大な孔が空いて破損している。内部もここから見えているように、喰い破られてしまったか?
「……そんな、<魔命石防巨壁>が破られている。最終防衛の<魔命八卦の陣>は大丈夫のようですが……北と南でこれでほどの打撃が……」
魔命の勾玉メンノアが絶句している。
「あぁ、では、急ぐとしよう。ヴァーミナ様の軍もいずれ北側から攻め入る。そして、【メリアディ要塞】内の魔素の数は多く動いていない。だが、外では、見ての通り動きまくっている。戦場の主体は、堀や塹壕の前後の陸と空だろう」
「はい」
「ん、わたしたちは魔弓を扱う部隊を襲撃?」
「そうだな。光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスに合わせ、光魔ルシヴァル軍の沸騎士と上等戦士軍団とエヴァたちは魔公爵ゼンの部隊を殲滅させろ、その後、【メリアディ要塞】入りがスムーズに行かない場合は、古の魔甲大亀グルガンヌが全員を回収し、俺と相棒の挙動に合わせ、破壊の王ラシーンズ・レビオダの空軍を薙ぎ倒しながら、【メリアディ要塞】の北側に向かう、悪夢の女神ヴァーミナ様の軍と連携を取ろう」
「「承知!」」
「がってん、承知の助!!」
「ん、ふふ、分かった」
ツアンから<光邪ノ使徒>イモリザに変化し、いきなりの、ひょうきんな言葉にひざからくずれそうになったが、しない。
「「「はい」」」
「空の軍には、わたしたちが行きましょう」
「はい、ルマルディに合わせます。ご主人様、空から援護しますので」
「おう、ヴィーネは皆のことを守ってあげてくれ」
「分かりました」
そこで、魔命の勾玉メンノアに、
「魔命の勾玉メンノアは、眷族の何人かを連れ、空中の囲いを一点突破し、【メリアディ要塞】に入れ、で、魔命を司るメリアディ様に、俺たちがきたことを知らせておいてくれ、俺と相棒は、闇の獄骨騎の指輪が反応している大柄の骨魔族と戦おうと思う」
「はい、ミラガ様を助けてください、お願います!」
「了解、では相棒、行こうか、アドゥムブラリはどちらにするかは己の判断で決めろ、ヘルメは左目に戻ってくれ」
「はい!」
と、常闇の水精霊ヘルメは人型から瞬く間に液体状にスパイラル状態で左目に突入してくる。
「にゃごぉ~」
大きい黒猫も気合いを入れて鳴き声を発した。
アドゥムブラリは、
「了解した、魔命の勾玉メンノアの囲いの突破に貢献しよう」
「おう」
「我も突撃しようか、先陣はもらう」
六眼キスマリの言葉に頷く。
「法魔ルピナスに乗って空軍を助けます<バーヴァイの魔刃>で敵を斬る!」
サザーは見かけによらず、頼もしい。
キサラはダモアヌンの魔槍を右手に出して、
「シュウヤ様、背後から付いていきます」
と、頷いた。
「おう、俺たちは、敵将を狙っていけばいい」
「「はい」」
すると、ハンカイが、
「空は飛べるようになっているが、俺も下から行こう。アーレイも足下にきているからな」
先の戦いでもハンカイを乗せていた黄黒虎はハンカイの足下に移動していた。
頷いた。
「シュウヤ、わたしも前に出る」
ユイが前に出て得物を見せてくる。
「おう。そして、ゼメタスとアドモス、兵の運用は任せる」
「「ハッ」」
「では、いつものように臨機応変に、全軍出撃!」
「グォォォォォォォォォン」
古の魔甲大亀グルガンヌも盛大に鳴いた。
甲羅にいる沸騎士軍団と上等戦士軍団たちから、法螺貝から吹かれたような掛け声と勇ましい戦歌が響きまくる。
「「「「おう!」」」」
「「「行きましょう」」」
「ん、勝つ!」
「うん、絶対に!」
「フハハ、先陣は我が! 敵を斬り捨てる!!」
<従者長>六眼キスマリが先に飛び降りていた。
光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスが不満そうに、体から漆黒と紅蓮の炎を噴出させる。
――ハハッ、勇ましいキスマリらしい。
相棒の背に跨がりつつ、右手に魔槍ハイ・グラシャラスを召喚。左手に金漠の悪夢槍を召喚。
両手で<握吸>を発動、握りを強めた。
神々から頂いた魔槍から古の力が体内へと流れ込んでくる。
握りを強めるたびに金漠の悪夢槍と魔槍ハイ・グラシャラスから魔力が伝搬し、俺の魂と共鳴したように不思議な音を響かせる。
<血魔力>も自然と漏れて出て、周囲の空気を震わせていた。
そして、ヴィーネたちとアイコンタクト。
皆、目力は強い。
相棒との呼吸を合わせながら、戦場に目掛け、その魔槍ハイ・グラシャラスの穂先を向けた――。
その一瞬に、すべての覚悟と決意を込め、
「では、突撃!」
<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>を意識し、発動。
風が己を押し上げるように風に乗った――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>。
<血道第四・開門>――。
<霊血装・ルシヴァル>を発動。
ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬を装着。
<血道第三・開門>から<血道第四・開門>へと至る過程で、体内を巡る魔力が螺旋を描くように加速する。血管という血管が青白く浮かび上がり、その中を流れる魔力が脈動のように律動を刻んでいく。
霊血装・ルシヴァルの神々しい輝きは、まるで月光のような純白の光芒を放ちながら、漆黒の血気と交わっていく。
『ふふ』
左目の常闇の水精霊ヘルメの魔力が、全身から立ち昇る<血魔力>の炎と交ざり、新たな力が融合した証のように、蒼と紅の二色の渦を描いて揺らめきを起こす。
体内の血脈を巡る魔力の流れが加速度的に高まっていく。
『おぉ、これは……<精霊珠想>?』
『ふふ、<精霊珠想・改>ですよ!』
更に、霊血装・ルシヴァルの神々しい輝きが漆黒の血気と交わり、全身から滂沱の血を活かしたような<血魔力>の炎が立ち昇る。
周囲の大気中に漂う魔素が、<血魔力>に反応して結晶化していく。
近くにいる夜雷光虫たちの放つ光と共鳴し、星屑のような輝きを放ち、戦場に散りばめられた魔力の結節点を浮かび上がらせていく。
闇の獄骨騎も連携している。
続いて、闇と光の運び手の装備を展開させた。
<仙魔奇道の心得>と<無方南華>と<始祖古血闘術>と<魔闘術の仙極>と<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>を発動。
それぞれの<魔闘術>系統から発せられた魔力が宙空で交差し、複雑な紋様を描き出す。
特に<滔天神働術>の発動時には、戦神イシュルル様と水神アクレシス様の加護が共鳴し合う。
※滔天神働術※
※滔天仙流系統:恒久神仙技<神仙召喚>に分類※
※戦神イシュルルの加護と<水神の呼び声>の水神アクレシスの強い加護と高水準の霊纏技術系統と<召喚闘法>と<魔力纏>技術系統と<仙魔奇道の心得>が必須※
※水属性系統のスキルと水に纏わるモノが総体的に急上昇し、水場の環境で戦闘能力が高まり、功能の変化を齎す※
※酒を飲むと戦闘能力が向上※
「ンンン、にゃご~」
古の魔甲大亀グルガンヌから飛び降りた瞬間、血魔力が全身を包み込む。
風切り音が耳元で鋭く唸りを上げる中、急降下する体に重力が容赦なく襲い掛かるが、その圧力すら魔力の糧へと変換していく。
魔弓兵は、俺に向け魔矢を放つが、遅い――。
右手の魔槍ハイ・グラシャラスに<血魔力>を収束させた刹那、槍身の古代魔紋が蒼炎のように輝き始める。<龍豪閃>を発動した刹那――。
相棒ロロディーヌの魔力と己の<血魔力>が共鳴し、双龍が舞うかのような魔力の渦を魔槍ハイ・グラシャラスの周囲に巻き起こす。
その渦は、夜空に輝く夜雷光虫たちの光をも取り込むかのように膨れ上がり、槍先から放たれる魔力の波動となって、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】を駆けるような白龍となって宙を翔けた。
敵の魔弓兵が放つ魔矢は、魔力で研ぎ澄まされた感覚の中では、蜜の中を進むかのようにゆっくりと見える。
その首を跳ねる瞬間、血飛沫が月光を受けて、一瞬だけ紅玉のように煌めく。
そのまま前進し、左にいた二眼四腕の魔族が跳び掛かってきた――。
左腕に血魔力を込める。
瞬く間に<血魔力>が左手から金漠の悪夢槍に伝搬し包む込むや否や下手投げで<投擲>を実行し、瞬時に展開された<血魔力>と金釵の模様の糸が、直進する軌道を制御する。
二眼四腕の魔族の腹部を貫通した瞬間、金漠の悪夢槍に仕組まれた呪いの紋様が暗黒の輝きを放ち、敵の体内で魔力を爆散させた。
すぐに金漠の悪夢槍を左手に<握吸>で引き寄せ、握り直しながら加速、前進し、目立つ四枚翼持ちが戦っている骨魔族に近付いた。
そして、
「一騎打ちかもしれないが、乱入させてもらうぞ?」
魔槍ハイ・グラシャラスと金漠の悪夢槍を構えた瞬間、両腕を伝う魔力の脈動が、まるで古の竜脈のように蠢き始める。握り締めた柄から伝わる鼓動は、かつて【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】に棲まう何かか?
四眼四腕の魔族は、四枚翼の魔命精霊牙のミラガの魔剣を魔弓一つで豪快に弾き、横に移動し、俺を見る。
闇の獄骨騎の指輪をはめている俺を見て、
「お前は……」
その間にも、左目に宿るヘルメと相棒ロロディーヌの魔力が共鳴しているように、俺たちの力が一つとなって渦を巻くように真上に放出されていく。
その渦は夜雷光虫たちの星屑のような輝きを吸い込みながら陰陽太極図のような光と闇の炎に変容していく――。
その陰陽太極図のような光と闇の炎は、まるで古の竜が天空で舞うかのように渦を巻きながら夜雷光虫たちの光を吸収していく。
『ふふ、閣下のこれは、金漠の悪夢槍と魔槍ハイ・グラシャラスの装備効果に光と闇の運び手が呼応していることも関係があるかもですね』
『はい、そして、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】とも関係があるかもです』
右目にいる闇雷精霊グィヴァも念話を寄越す。
なるほど、神々の金漠の悪夢槍と魔槍ハイ・グラシャラスか、悪夢の女王ベラホズマ様と悪夢の女神ヴァーミナ様に感謝しようか。ヴィナトロスにも感謝だ。
続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版も発売中。




