千六百五十八話 光魔ルシヴァル軍の凱歌
漆黒と紅蓮の炎の道を滑るように上昇したが、途中から、<武行氣>を活かすように古の魔甲大亀グルガンヌが用意してくれた炎の道を外れ、古の魔甲大亀グルガンヌを再度見るように、横を巡る。
大地からは魔力の渦が幾重にも重なって立ち上り、渦が時折、紫電のように閃き、大地と繋がり魔力の水性の花のようなモノを咲かせているところを再確認した。
戦場独特の美しさと不気味さが、この光景を荘厳なものにしている……。
美しさと不気味さを併せ持つ戦場独特の雰囲気か……。
「ンンン、にゃおお~」
黒虎も上等戦士軍団の骨騎士たちの一部を甲羅の上に戻しながら付いてくる。
「「「「「おぉ~」」」」」
古の魔甲大亀グルガンヌの頭部と甲羅の上から歓声が上がる中、アルルカンの把神書が開かれた。頁に刻まれた古代文字が浮かび上がり、宙空で光を放ちながら破裂。
その魔力の粒子が瞬く間に集まり、巨大な鮫の頭部となって宙空を舞う。
鮫の頭部たちが描く軌跡は何かの迎撃用のスキルのように見える。
すると、ファーミリアが、その巨大な鮫の頭部の一つに<龕喰篭手>を伸ばす。
ガントレットと怪物が融合し、ハンマーフレイルのような<龕喰篭手>の攻撃が、巨大な鮫の頭部を貫く。
と、鮫の頭部は爆発し散って、その魔力粒子で、『あるじ・お・か・え・り・な・さ・い』と魔法の文字が発生していた。
アルルカンの把神書、お洒落だ。
ベリーズとベネットとシキとアドゥムブラリも、それぞれの武器とスキルを使い、アルルカンの把神書が創り出した芸術の鮫の頭部を射貫きまくって、爆発させて、魔法の文字を組み上げていく。
衝撃の度合いで、文字が変化し、意味のある言葉を創り出すと、褒美として、アルルカンの把神書が何かを出しているようだ。
なにかのパズルゲームっぽくて面白そう。
「ンン、にゃご~」
相棒も空を飛翔しながら、アルルカンの把神書の面白いことに何か言っている。
と、古の魔甲大亀グルガンヌの頭部にいる巨大な闇鯨ロターゼも宙空の爆発と魔法の文字に合わせ、噴水のような水とドット絵と似た魔力のオナラを宙空に放出させて、喜びを露わにしていた。
と、喜ぶ皆に俺の左下を飛翔していたヘルメが、
「ふふ、まだ戦いはあるのですが、皆が面白いです。では、わたしも皆に勝利の舞です!」
元気に楽しげに発言し、伸身宙返りから水飛沫スピンを行う。
全身から蒼が基調のグラデーションが美しい水飛沫を発生していた。
スピンの速度を徐々に落としつつ、白鳥の湖のダンスを踊るダンサーのようにゆっくりとした腕先の動きから横や斜めを美しく飛翔していく、と、上昇し、横回転を行う。またも綺麗な水飛沫が周囲に迸った。
完全オリジナルのスケートテクニックのような印象のダンスを何度も披露していく。
常闇の水精霊だから可能な挙動のダンスが大半だが、普通の人族でも可能なダンスを交ぜるからセンスの高さを感じられた。
ヘルメは昔から踊りが得意だった。
お、長細い片足を悩ましく上げ、胸元で、片足の膝裏を両手で抱えながら回転する。
背筋が伸びているし、柔らかい体、あ、水の液体になれるんだから、当然か、にしても非常に美しい……。
衣の端が上向きスカートのヒラヒラも回転に合わせて宙を泳ぐ。
肌と密着したインナーの衣装と水模様のパンティも見えていた。
デルタゾーンの縁際が揺らめき、大事な秘部が見えそうで見えない、魅惑度が非常に高い。
エロいが芸術性が非常に高くて、毎回だが、感心しかできないな。
そのヘルメは大量に水飛沫を発し、古の魔甲大亀グルガンヌごと沸騎士と骨騎士と眷族たちに水飛沫をかけている。
常闇の水精霊ヘルメならではの皆への奉仕のつもりだろう。
「「「「「おぉぉ~」」」」」
その極めて芸術性の高いヘルメの勝利の舞に合わせるように――。
深呼吸をするようにすべての<魔闘術>を消す。
魔煙草を吸いたくなる衝動を抑え、<武行氣>を発動――。
全身に魔力の推進力を得て加速すると、<血魔力>の霧が周囲を包み込む。
<血道第一・開門>と<沸ノ根源グルガンヌ>と<根源ノ魔泉>を連続で発動させ、その力を体中に巡らせていく。
足裏に血の<血魔力>を集中させ、氷上を滑るかのような感覚を得ながら――。
イナバウアーを意識しつつ宙空へ舞い上がり――。
<魔手太陰肺経>の呼吸法を実践する。
両腕で幾重もの弧を描きながら、<魔戦酒胴衣>のスキルを発動。
肩の竜頭装甲が呼応し「――ングゥゥィィ」と、低く唸り、闇と光の運び手の装備を竜頭の口に引き寄せた刹那、魔戦酒胴衣の素材が全身を包み込んだ。
芳醇な酒の香りを漂わせる武道着のような衣装を成し、胸には陰陽の印と槍、酒の印が浮かび上がる。光と闇の魔力が渦を巻くように交錯していく。
その動きに合わせるように<闘霊本尊界術>と<空数珠玉羅仙格闘術>のスキルを重ねていく。
恒久スキルの力が体の芯まで染み渡っていくのを感じる。
更なる力を求めて闘霊本尊界レグィレスのネックレスに<血魔力>を注ぎ込む。十個のクリスタルが漆黒の魔力と<血魔力>を吸収していき、中の数珠玉と酒器が融合して両手に籠手が形成される。
そこで<無方南華>を発動させた――。
※無方南華※
※魔犀花流技術系統:基礎※
※魔犀花流呼吸法:基礎※
※南華仙院流呼吸法:基礎※
※<魔闘術>技術系統:基礎※
※全身の毛穴が開き、南華魔仙樹と北華魔仙樹と魔仙大神樹を取り込めて、体の細胞すべてが呼吸を行い周囲の魔力を取り込めることで食料が必要なく、あらゆる<魔闘術>系統の性能を急激に上昇させる※
※華毒、鋼羅毒、執無夢毒、蜘蛛薔薇毒など無数の毒の無効化※
※南華仙院の技術と魔犀花流の技術の根幹で大いなる下地、<樹惺天翔>と<無方咒>など様々に学べるようになるだろう※
※〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の刺繍から学べる<無方南華>は特別※
※魔杖槍犀花を強め、<幻甲犀魔獣召喚術>の性能を上昇させる※
この<無方南華>は全身の皮膚の毛穴が開いた感が出て、体が異常に柔らかくなる。同時に大気の魔力を自然と吸収もしてくれる。神界由来の<魔闘術>系統、そのまま体を柔らかくしたような動作から、<魔経舞踊・蹴殺回し>を実行した。
宙空で回転蹴りを繰り出してから、拳の武器と籠手を消し、素手に成る。
そのまま素手で、<光魔形拳>から<無式・蓬莱掌>を立て続けに披露し、身を捻る動作から<姫魔鬼式・肘刹衝>と、<玄智・陰陽流槌>を交互に繰り出す。
陰陽太極図のような魔力の水を周囲に発生させながら――古の魔甲大亀グルガンヌの頭部の硬い床の上を滑るように――骨の玉座の近くにいる眷族たちに近付いていった。
黒虎とヘルメも着地している。
と、骨の玉座から伸びていた魔線が【メリアディ要塞】の立体地図に変化している。
そこに、アドゥムブラリとゼメタスとアドモスたちが集まっているが、黒虎から降りたゼアガンヌとラシーヌたちも向かう。
上等戦士軍団の一部、リーダー格の骨騎士の数体も付いていた。やはり、骨重騎士←骨騎士←骨戦士などの位がありそう。俺も<沸ノ根源グルガンヌ>を得たことで、彼らとの繋がりが、闇の獄骨騎の指輪と共に、根幹として組み込まれたようだが……まだちゃんと把握ができていない。
と、銀髪が綺麗なヴィーネが前に出て、右腕を横に伸ばしつつ「――ご主人様とロロ様お帰りです」と出迎えてくれた。
<闘霊本尊界術>と<空数珠玉羅仙格闘術>を終了させて、拳の防具を消す。
そのヴィーネの手とタッチして、
「ん、お帰り~」
エヴァともタッチ、
「シュウヤ、お帰り! 魔公アリゾンを倒したところは見ていたからね、無数の槍を活かして倒しきるところが凄かった~」
「そうさね、アリゾンの出方を窺いつつも、要所を突く、見事な戦いっぷりだったさ――」
レベッカとクレインの手を順繰りにタッチしながら玉座付近で、身を翻し、背を預けるように骨の玉座に座る――。
自然とジャストフィット、骨の玉座は、座る者の体に合わせて微細に形を変える不思議な性質を持つようだ、その周囲には、漆黒と紅蓮の炎が渦を巻き、古代の力が宿る場所はここだと言わんばかりに猛る勢いで上昇していた。
それにしても潰裂強度の高い骨の玉座と分かる。
そこにエヴァが、
「ん、大勝利!」
と、抱きついてきた。
ミスランの法衣素材と魔竜王バルドークの素材を活かす七分袖シャツとズボンに変化させた。
「ふふ、シュウヤの体がじかに感じれて嬉しい」
エヴァは俺の胸元に顔を埋め込むようにギュッとしてくれた。
「おう」
「ん」
と、エヴァは背後にいるレベッカにバトンタッチするように交代。
「シュウヤ――」
と、玉座に座りながらレベッカを抱きしめた。
レベッカの細い項とハイエルフの耳が可愛い。
ほんと、細い体でよくやってくれている。
エヴァと同じく、ありがとう――。
と、気持ちを込めてレベッカを抱きしめ続けた。
レベッカの後は、ユイが、俺の右手を触りながら健気にアピールしてきたから、少し強引に抱きしめてあげた。
そのまま<筆頭従者長>と<従者長>たちとハグをし合い、光魔ルシヴァルらしく<血魔力>の交換をしては喜んでもらった。
ヘルメが素早く《水幕》を周囲に展開。
水幕の向こうで、エヴァの吐息が漏れ始めると、その声に呼応するように、レベッカとユイの甘い声も重なっていく。
筆頭従者長たちの白い肌が、漆黒と紅蓮の炎に照らされて浮かび上がる。
「あっ……シュウヤ、もっと……」
「んぅ……私も、お願い……」
<血魔力>が交換される度に、皆の体が淡く光を放ち、艶めかしい雰囲気を醸し出していく。
相棒のロロディーヌはいつものように呆れた短い時間の情事は甘美な時間となった。
◇◇◇◇
たっぷりと<血魔力>を与えられ、火照った表情を浮かべる眷族たちを見た。
ラムーは兜は外していない。
レベッカとサラは俺の右手を悩ましく触り、まだ求めてきていた。
キサラとミレイヴァルとママニとルビアとラムーとルマルディとフィナプルスとフーとサラとエトアとヴェロニカとベネットと魔命の勾玉メンノアとサザーとメルとルシェルとクナとハグをしてから<血魔力>を交換して、喜ばせてあげてから、立ち上がった。
クナとルシェルとヴィーネとベネットとキサラとミスティは、体をくねらせながら俺の太股などに、手を当て〝続き……を、して?〟
と、言わんばかりの妖艶な雰囲気を醸し出すが、常闇の水精霊ヘルメがシュッと水飛沫を皆に当て、全身を綺麗にしていた。
皆も気を取り直す。
ヘルメらしいが、途中まで皆の情事を隠すように《水幕》を周囲に展開してくれていた。
そのルシェルは長い魔杖ハラガソの獲得話の際に盛り上がって、白い太股とお尻を優しく揉みしだき、マッサージを兼ねたエッチなことを楽しんだから、まだ余韻が残っているのか、トロンとした表情を浮かべて、俺を見続けていた。
悪いが、それは後だ。
「皆も、それは今度な」
「ふふ、はい」
「はい!」
ルシェルもハッとして氣を取り直す。
「「「はい」」」
そして、俺たちとは少し離れた位置では……。
聖鎖騎士団団長ハミヤ――。
吸血鬼のホフマン――。
シャナ――。
闇鯨ロターゼ――。
エラリエース――。
アドリアンヌ――。
キュベラス――。
ハンカイ――。
炎極ベルハラディ――。
威風堂々のタルナタム――。
アドゥムブラリ――。
腕が消えているレグ・ソールト――。
吸血鬼のアルナード――。
宵闇の女王レブラ様の大眷属シキ――、通称コレクター。
<光邪ノ使徒>ツアン――。
吸血神ルグナド様のセラ側の<筆頭従者長>のファーミリア――。
ブッチ――。
<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロス――。
イヒアルヒ――。
光魔魔沸骸骨騎王ゼメタス――。
光魔魔沸骸骨騎王アドモス――。
ヒョウガ――。
吸血鬼のルンス――。
【星の集い】のアドリアンヌ――。
片腕が無いコジロウ――。
その多士済々のメンバーに……いつの間にか復活していた古の祭事長バセトニアルと古の戦長ギィルセルたちと一緒に、【メリアディ要塞】の立体地図を凝視し、そこから放たれる青白い光が、集まった面々の表情を浮かび上がらせていた。
漆黒と紅蓮の炎が静かにたなびく中、重要な作戦会議が進められていく。時折、地図の一部が明滅し、要所となる場所を示すように光を放つ。
「――破壊の王ラシーンズ・レビオダも、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】の天魔帝メリディアの封印を破るため、そのためにメリディアの魂の打波を狙い、【アムシャビスの紅玉環】で魔力を蓄積していると聞いています。ですから、今回のシュウヤ様の行動で、敵側の計画が大きく狂ったはず、【メリアディ要塞】の戦いにも変化が起きているかもです」
と、会議を行っている。
「この古の魔甲大亀グルガンヌが、古代骨沸魔神グルガンヌの化身ならば、そうですな」
「この古代の力のグルガンヌを利用しようと目論んでいた破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアの野望を打ち砕いたことなるのか」
「あぁ、魔命の勾玉メンノアは、二神で共鳴を起こし、【魔命を司るメリアディの地】や【グルガンヌ大亀亀裂地帯】に大規模な次元の歪みを引き起こす可能性を指摘していたからな」
「そうだな、古の魔甲大亀グルガンヌの周囲には、次元の境界線が可視化される現象が発生している」
「ふむ、天魔帝メリディア様が残した封印の真相は、メンノアが言うには、戴冠式だけではない、次元干渉能力を封じるため、古に聞く【メリアディの命魔逆塔】の研究を破壊神と沸騎士の命脈を持つ者に盗まれたことにも起因していたはずと、そうしたことも、幾星霜とした時間の流れと大戦争が起きるたびに支配者が変化し、地形も変わる影響か……不透明なことが多すぎます。と、語っては既にグルガンヌの命脈は外に出て、シュウヤ様とも深い繋がりがあったようですからね、と、先程も言っていたぞ」
「あぁ、【メリアディの命魔逆塔】は、俺が知る限り廃れているはずだが、今も使えるなら……」
「ほぅ、どんなことが行われていたのだ」
ハンカイが興味をもってアドゥムブラリに聞いていた。
アドゥムブラリは、
「可動していたのは、メンノアでも知らない時代だ。俺も噂で聞いて少し探った記憶がある……俺が魔侯爵として活動していた時代では、既に土砂などが埋まって施設もあるかどうかの場所が【メリアディの命魔逆塔】だった。噂では、特殊機能として、魂の浄化に破壊の二重性があり、他にも、次元干渉能力に、意識の保存や消去システムなど、当時のアムシャビス族の最高峰の研究者たちが、様々な魔法を研究していた。古代の魔法陣の複合体で、生命力と魔力の変換装置であり、次元間の歪みを利用した構造が【メリアディの命魔逆塔】だったと聞いている」
「……ほぉ」
「「「……」」」
「過去は過去だが、古の魔甲大亀グルガンヌの利用など、権力争いの差異は、どちらにも言い分はありそうだな」
ハンカイの言葉に、アドゥムブラリが渋い顔色を頷いていた。
シキは、
「……塔の力を使った魂の操作が二神の目的の範疇として、メリディア様の意識の消去を行いながら、天魔帝メリディアが残した秘術、魔法技術を使い、新たな力の解放を狙っていると予測はつきますわね、その次いでに、この【グルガンヌ大亀亀裂地帯】を古代の力も諸侯が争っている間に根こそぎ頂くつもりだった?」
シキの意見は鋭い。
皆が納得するような表情を浮かべていた。
そのような議論から破壊の王ラシーンズ・レビオダや憤怒のゼアが何を狙っているのか議論を重ねていた。
ファーミリアは、その議論はおざなりで、俺と俺の体から迸る<血魔力>の噴出具合を悩ましく見ていた。
まだ、光側の血が入っている光魔ルシヴァルの血は与えることは今はできない。
だから、悪いなと思うが……。
暫くは我慢してもらおう。
そして、先程もチラッと見たが、立体的な【メリアディ要塞】の地図か。
真下には、古の魔甲大亀グルガンヌの頭部の地面から突起物が出て、その先端からホログラムっぽい魔力の波動が宙空に展開されている。
魔力の波動が光学模様の【メリアディ要塞】の映像をクォータービューで展開していた。
生きている古の魔甲大亀グルガンヌが自動的に【メリアディ要塞】の立体地図を出してくれたのかな。
戦闘型デバイスの表面に浮かんでいる小形のアルセルマギナも、その立体的な地図に興味を覚えたようで、ジッと見ていた。
そんな会議の場に、火照り気味のエヴァたちと近付いた。
ゼメタスとアドモスが振り返り、
「「閣下!」」
「よう」
「シュウヤ様は、二人の諸侯に魔界王子テーバロンテと悪神ギュラゼルバンをも倒したことになる、本当に凄まじいことだと思います!」
「「「「「はい!」」」」」
キュベラスと、魔術師スタイルの炎極ベルハラディと、豹獣人の六眼ヒョウガと、巨人な顔のドマダイと、頭部が、右腕の形をしたサージルという名の異界の軍事貴族のイヒアルスなど、主に【闇の教団ハデス】側のメンバーが一斉に返事をしてくれた。
「旦那、ナイスな戦いでした!」
「待ってたぜ」
「次は【メリアディ要塞】攻めだな」
「「「「「「大閣下!!」」」」」」
ハンカイたちと、光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスと古の戦長ギィルセルと古の祭事長バセトニアルと、沸騎士軍団の五人の厳つい魔界沸騎士長たちに、ゼアガンヌとラシーヌと上等戦士軍団の骨騎士たちも、挨拶してくれた。
そこに、
「にゃおぉ~」
「ニャァ」
「ニャオォ~」
「――神獣にお前たちも噛み付くなァァァ~」
「にゃァ~」
「ウォン!!」
「グモゥ~」
大型の馬ヒョードルとザレアドの近くで寝転がって、アルルカンの把神書と遊んでいた黒虎と黄黒虎と白黒虎と銀灰虎と銀白狼と大鹿も寄ってくる。
まずは、ゼメタスとアドモスに、
「ゼメタスとアドモス、相棒も何百と救ったようだが、上等戦士軍団は無事に回収できたようだな」
「「はい!」」
二人の気概は高まっている。
進化した甲冑から細かい漆黒と紅蓮の炎のような粒子を噴出させていた。
ゼアガンヌとラシーヌは軽く会釈してきた。
そこで、復活している古の祭事長バセトニアルと古の戦長ギィルセルを凝視。
二人は幻影と同じく、ゴツい骸骨と鋼のような素材で体が構築されているような印象だ。
バセトニアルは少しだけ縦長の頭蓋骨兜かな。
魔術師っぽい身なり。
眼窩の炎には、個性が現れか、漆黒と紅蓮の炎以外にも紫色の小さい焔が存在していた。
そのバセトニアルとギィルセルに、形が変化した闇の獄骨騎の指輪を見せて、
「……二人の復活は先程かな」
バセトニアルとギィルセルは頷いて、
「ハイッ、大閣下の闇の獄骨騎の指輪に、我、バセトニアルの骨の一部が付いた刹那、古の魔甲大亀グルガンヌ様と、大閣下とゼメタスとアドモス様とゼアガンヌたち、すべてと繋がりを得ての復活です――」
バセトニアルが元気に語る。
と、沸騎士軍団たちが一斉にザッと音を響かせ胸元に手を当て挨拶をしてくれた。
渋い、続けて古の戦長ギィルセルが、
「同じく、古の祭事長バセトニアルの復活に合わせの復活です、何度倒れようとも、グルガンヌの森のグルガンヌの催事場と、グルガンヌの滝壺と、古の魔甲大亀グルガンヌ様の下で、復活も可能。また、大閣下の闇の獄骨騎とも縁を得ています。魔界セブドラ側限定ですが、ゼメタスとアドモスのように自由に我らを呼び出せまする」
外骨格の甲冑から零れる漆黒と紅蓮の魔力の質が極めて高い。雰囲気からしてギィルセルもかなり強そうだ。
「はい」
バセトニアルも同意していた。
皆、頷いていた。
「了解した、それは良い、ゼメタスとアドモスと共に戦力として期待しよう」
「「ハッ」」
「では、改めて、古の魔甲大亀グルガンヌの戦力確認をしつつ、悪夢の女神ヴァーミナ様とその援軍と合流しようか、あ、氷竜のフィギュアを拾ったんだが、アリゾンが持ってた」
と、ゼメタスとアドモスたちに氷竜のフィギュアを見せる。
「アリゾンの氷竜……」
「閣下、それは噂に聞くハレゼレルを氷漬けにしたこともあったとされるアイスドラゴン、氷竜レムアーガの品かと……」
「【アリゾンの氷竜列城】の鍵か、レムアーガを召喚できるようなアイテムか……」
と、光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスが、ラムーを見る。
銅色の兜と甲冑が似合うラムーは、既に霊魔宝箱鑑定杖を掲げて、鑑定を終えていた。
そのラムーに、
「この氷竜のフィギュアの鑑定結果を頼む」
「はい、伝説級、氷竜レムアーガの魂が封じられている。フィギュアのアイテム化にした存在、製作者は、魔公アリゾンではないようですね。また、魔力を通すことで、氷竜レムアーガと契約が可能のようです。ただ、どのような結果になるかは不透明。また、アリゾンには持っているだけで、氷竜レムアーガの特性の一部を強引に引き継げるスキルを持っていたようです」
「「「おぉ」」」
「ご主人様、氷竜レムアーガの魂と契約をなさるつもりで?」
「俺ではなく、シャナだな、氷竜レムアーガをプレゼントしよう」
「え!」
と、氷竜レムアーガのフィギュアをシャナに渡した。
「……ありがとう、伝説級、秘宝だと思います、そして、歴戦の皆様もいらっしゃるのに……私が得ても……」
「いいんだよ、シャナは、現在光魔ルシヴァルではないから強化しときたい」
俺の言葉の後、皆が頷いた。
ゼメタスとアドモスは沈黙、興味なさそう。
ゼアガンヌとラシーヌは羨ましそうに見ている。
シャナは嬉しそうに微笑んで、
「……はい! 嬉しいです。あ、でも、私が契約できるかどうか……」
と、すぐに肩を落としていた。
「できると思う。人魚として能力は高い、戦闘の時に、魔声を使い活躍していた」
褒めるとシャナは少し照れて、
「……はい」
恥ずかしがる。
そのシャナの近くには羊皮紙が大量に落ちていた。
沸騎士たちの歌の詩か、なるほど、冒険者でもあったが、歌い手として、【迷宮の宿り月】で長く活動していたからな。
とりあえず、ゼメタスとアドモスに、
「アリゾンの【アリゾンの氷竜列城】だが、歴史は?」
「氷竜レムアーガの一族たちを倒した際に、魔公アリゾンが建てた城のはずですぞ」
「はい【アリゾンの氷竜列城】は、魔公アリゾンが本拠地にすることが多かった。魔界騎士ホルレインや悪夢の女神ヴァーミナ様などと諸勢力と戦う時に利用していた」
教えてくれた。
〝列強魔軍地図〟を見ると、載ってたな。
【フルヴァド・ゴウン・ザーメリクスの街】の西南か。
「へぇ、城には貴重なアイテムとかあるのかな」
「あるはずです。また、戦力となりえる二眼四腕の魔族ザーメリクスが多く暮らす地方。しかし、魔公アリゾンへの忠誠心は高いので……」
「二眼四腕の魔族ザーメリクスたちには主君を討った俺への反感が高まっているか」
「はい」
「……」
ゼメタスは肯定し、アドモスは沈黙。
そこで、再度、ラムーやエトア、ヴィーネとキサラとクナとミスティとアドリアンヌとシキとファーミリアを順繰りに見てから、
「シャナが行う予定の氷竜レムアーガとの契約だが、忌憚なく意見を聞いておきたい」
「大丈夫です。呪いはありません。ただ、契約が可能かどうかだけかと」
「大丈夫でしゅ、罠もなかった、召喚が可能なら結構な戦力になります!」
ラムーとエトアの言葉に頷いた。
エトアは緊張がほぐれると普通の口調に戻るようだな。
ヴィーネは、
「ふふ、シャナが無理ならわたしたちが使えば良いのです」
「そうですね、ただ、闇鯨ロターゼのように実体化として扱えるとは思いません」
「そうですわね、魔公アリゾンも戦いでは、召喚用に使っていなかった。魔力は吸われると思いますが、シャナでも契約は可能と思われます」
「うん、単純にシャナが強化できれば良いと思う」
「そうですわね、どちらにせよ、マイナスはない、戦力増加は良いと思います」
「ふふ、コレクション的にはほしいですが、シャナさんも冒険者として、華が咲くと思います、あ、イノセントアームズも強化されますし、から、賛成です」
シキの言葉に皆が頷いた。
ファーミリアも
「異論はありませんわ」
と、簡潔。
シャナは頷いて、
「では――」
氷竜レムアーガのフィギュアに魔力を通した。
刹那、シャナの体に霜のような氷の魔力が走る。
シャナは魔力をフィギュアに吸われたようだったが、すぐに体に魔力が逆流し、魔力を得たようだ。
シャナの瞳に氷の紋様が浮かび、
「……凄い……今までにない……力……氷竜レムアーガと契約できちゃいました」
シャナの顔色には、戸惑いと期待が入り混じったような色があった。
シャナの足下に氷の魔法陣が生成され、シャナは浮遊しつつ氷竜レムアーガをモチーフとした氷の刃を創り出していた。
喉下の歌翔石が少し輝いて、そこから魔線が氷の魔法陣に繋がって、「アァ……」と何かシャナの声に反応するようにドラゴン、竜紋といったほうがいいから、魔法の文字が生まれて、氷状の衝撃波のようなモノが前方に飛んでいた。
驚き、
「ん、凄い!」
「おぉ、おめでとう!」
「ん、やった!」
「やったじゃん~」
「はい!」
と、レベッカとエヴァと握手をするシャナ。
ペルネーテ組だから嬉しいか。
にしても意外だ、シャナの人魚としての能力か。
これから氷竜レムアーガとの連携が強まれば、氷竜レムアーガの故郷を調べたら、シャナの能力が強まるとかあるのかな。
「「「「おめでとう~」」」」
「はい!」
「ふふ」
そこで皆に、
「……では、シャナ、【アリゾンの氷竜列城】に興味はあるとは思うが、今のところスルーしよう。先に魔公アリゾンと魔界騎士ホルレインの残党を完全に駆逐し、悪夢の女神ヴァーミナ様の援軍と合流し、【メリアディ要塞】はその後だ――」
その言葉に、会議場の空気が一変する。
「「「「ハイッ」」」」
「「「はい!」」」
「「「「「オォォ~」」」」」
沸騎士たちの声が谺する。
と、立体地図の周囲に集まっていた面々が一斉に背筋を伸ばした。
漆黒と紅蓮の炎が、その場の緊張感に呼応するかのように強く揺らめく。
光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスが前に進み出て、古の祭事長バセトニアルと古の戦長ギィルセルと沸騎士長ゼアガンヌとラシーヌを見つめる。
二人の甲冑からは、これまでにない強い魔力が漏れ出していた。
一瞬の静寂が流れ――。
「これより、沸騎士軍団の再編を行う!」
ゼメタスの声が響き渡る。その声に呼応するように、古の魔甲大亀グルガンヌの体表から漆黒の炎が吹き上がった。
「うむ! 行う!」
アドモスの声が重なり、今度は紅蓮の炎が大きく上昇する。両方の炎が交差する様は、まるで軍の再編を祝福するかのようだった。
バセトニアルとギィルセルの眼窩の炎が強く輝き、
「ハッ!」
「ハイ!」
ゼアガンヌとラシーヌも胸元を叩いて、
「承知!」
「はい」
沸騎士たちの体が一斉に光を放ち、その瞬間、軍歌が始まった。
バセトニアルとギィルセルとゼアガンヌとラシーヌが返事をして、
「オォォ――グルガンヌの血脈よ、我らが誓いを――」
「進めよ、漆黒の炎の道を――」
「魔槍よ、魔剣よ、我らの誓いを――」
と、甲冑が共鳴するような低い唸りと共に、沸騎士たちの歌声が響き渡る。
漆黒と紅蓮の炎が歌に合わせて揺らめき、音に反応するかのように渦を巻いていく。
その渦は次第に古の魔甲大亀グルガンヌの全身を取り巻いていった。
「古の時より続く魔神の血統――」
「我らが主、光魔ルシヴァル閣下に誓いを――」
「漆黒の炎と共に進みゆかん――」
骨の玉座の周囲で燃え盛っていた漆黒と紅蓮の炎が、歌声と共に上昇し、円を描くように舞い始める。火の玉の幻影も周囲に出現し、それらは沸騎士たちの甲冑の間を縫うように漂っていく。骨騎士たちの甲冑からも同じ光が放たれ、両者の魔力が混ざり合って新たな輝きを放っていた。
古の魔甲大亀グルガンヌの頭部が上向き、
「グォォォォォォォォォン!」
と、沸騎士たちの歌声に重ねるように盛大な咆哮を響かせる。
その咆哮は【グルガンヌ大亀亀裂地帯】全体に轟き渡り、大地そのものが共鳴するかのように振動した。
すると、足元の地面から魔力のグルガンヌの軍旗の模様が浮かび上がり始める。
続けて古代文字のような複雑な紋様も、地面に走るように刻まれ、古の契約の証のように輝きを放ち始めた。
沸騎士軍団の甲冑の隙間からも同じ光が漏れ出し、その光は次第に強さを増していく。光魔ルシヴァルの紋章樹が浮かび上がり、その枝葉が広がるように魔力の紋様が地面一面に拡がっていった。足下の古の魔甲大亀グルガンヌと骨の玉座からも同じ紋様が発生し、まるで新たな契約の証のように輝きを放つ。
「魔戦の世、剣と槍の宴よ――」
「我らの誓い、永遠に響け――」
「グルガンヌの名の下に――」
荘厳な歌声が響き渡る中、沸騎士たちの甲冑が一斉に漆黒と紅蓮の炎に包まれ、次々と形を変えていく。
炎は甲冑の表面を這い回り、光魔ルシヴァルと古の魔甲大亀グルガンヌを合わせたような紋様を刻み込んでいくかのように見えた。
ゼメタスとアドモスの号令の下、新たな軍の編成か。
背後の甲羅側にいる沸騎士と骨騎士たちも、力を有した者と槍部隊と剣と盾の部隊に分かれて一列に並ぶところも良い。
「光魔ルシヴァル軍の凱歌を悪夢の女神ヴァーミナ様にも聴かせるがよい!」
光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスの渋い声が響く。
そこで振り返ると、前方に悪夢の女神ヴァーミナ様が率いる軍の一部が見えてきた。
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