千六百四十四話 【アリゾン平原】の戦い
ゼアガンヌとラシーヌを追ってきた二眼四腕の魔族たちを屠っていくゼメタスとアドモスの後ろ姿を見ながら<闇透纏視>を発動。
<滔天仙正理大綱>を意識し発動。
<闘気玄装>を重ねるように発動。
<黒呪強瞑>を更に強化するように発動。
肩の竜頭装甲を意識し、装備を闇と光の運び手装備に切り替える。
「ングゥゥィィ――」
周囲を警戒しながら、右手に魔槍杖バルドークを召喚。
【アリゾン平原】の地形は巧妙な罠そのものだった。
その名の通り広大な平原が広がっているものの、緩やかな起伏があちこちに存在し、丘と丘が重なり合う場所では自然の要塞のような地形を形成している。
北東から南西にかけての緩やかな傾斜は、一見何の変哲もない平原に見えるが、絶妙な高低差を持つ自然の要塞だ。丘陵の谷間には騎兵隊の突進を阻む天然の防衛線が形成され、特に中央部の三つの丘が作る三角地帯は、周囲を見下ろす格好の観測地点となっている。
弓兵隊の射程圏内に敵を誘い込める要衝か。
これは地形を変化させられる大魔術師級の仕事かもな。
そして〝列強魔軍地図〟で見ているが目に見えて体感している主観視点とクォータービューの視点の差はある――。
腰の魔軍夜行ノ槍業が揺れつつ、
『閣下、左右の丘陵地帯に射手の部隊が展開。数にして左翼に百五十か、それ以上、右翼にも二百ほど。射程距離から見て、おそらく魔弓装備の精鋭部隊でしょう』
『丘を挟んで両翼から挟撃する気か、となれば――』
右目の常闇の水精霊ヘルメの意見は参考になる。
両翼の射手部隊は高所から矢を放つことで広範囲の制圧が可能だが、逆に言えば、一度包囲網の内側に入り込めば射角が制限される。
走りながら、俺を乗せている相棒に、
「――相棒、谷間を縫うように中央突破するぞ。射手部隊の死角に入り込んでから、内側から叩くとしようか」
と、周囲のヴィーネたちにも聞こえるように大声を発した。
相棒は鬣を揺らし頷きながら、
「にゃご!」
と答えた。
『妾たちはいつでも出られるからな』
『了解』
『お弟子ちゃん、戦場なら私たちもいるからね』
『カカカッ、血が滾る、このどこかに心地良い殺氣を放つ武芸者がおる』
『……あぁ、ガンジスも【八峰大墳墓】ではなく魔界にいるかもしれねぇからな』
『破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼアが雇うとは思えないが』
『あぁ、それよりも、殺氣を放つ武芸者は左奥か、弟子よ、魔傭兵集団にも気を付けろ』
『はい』
すると、ヘルメの忠告通り、左側に居た射手連中の一部が、ゼメタスとアドモスだけでなく俺たちにも魔矢を寄越してきた。
風を切る魔矢の唸りが耳を掠める中、相棒は地を蹴る音も立てずに加速。
先端から放たれる紫がかった魔力の残像を見極めながら流れるように避けていく。
<鎖>を放とうと思ったが――。
その魔矢を放った二眼四腕の魔族連中を見ると、既に、二人の眉間と二人の胴体にヴィーネが放った光線の矢とベリーズが放った聖十字金属の魔矢が突き刺さるのを視認。
二人を乗せた銀灰虎と大鹿は、かなり加速している状態なんだが、さすがのヴィーネとベリーズだ。
そして、ヴィーネは〝陽迅弓ヘイズ〟ではなく翡翠の蛇弓を使うようだ。もしかしたら、魔毒の女神ミセア様に、〝わたしたちはここで戦っている〟と知らせているのかもしれない。
俺たちは魔界セブドラだ。
狭間に阻まれている惑星セラに居るよりかは、スムーズに魔力の追跡は可能だろう。
相棒は加速、前進し、ゼメタスとアドモスを追う。
そのまま<血道第四・開門>――。
<霊血装・ルシヴァル>を発動――。
ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬
※霊血装・ルシヴァル※
※光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装※
※首の防御能力が飛躍的に高まり、音声による威圧効果も高まる※
※血魔力時空属性系<血道第四・開門>により覚えた特殊独自スキル※
※<血鎖の饗宴>と高能力が求められる※
※<霊血の泉>が使えるエリアならば、<霊血装・ルシヴァル>から高濃度のルシヴァルフェロモンを発する※
続いて――<霊血の泉>を発動。
エクストラスキルの<ルシヴァルの紋章樹>を意識し、発動――。
一瞬で、俺を乗せている黒猫ロロディーヌごと周囲が、光魔ルシヴァルの血の世界に包まれた。混沌の戦場の【アリゾン平原】に俺を起点に血が拡がる。
更に<霊血の泉>の効果が拡がっている平原のあちこちに、小形のルシヴァルの紋章樹が誕生していく。
皆の目印に成るだろうし、戦場に俺が現れたことを示すことにもなるが、構わない。
今度は右から無数の――魔矢が飛来してきた。
相棒が数十と触手を右に展開してくれた。
その触手から出た骨剣で、複数の魔矢を次々に破壊。
が、数本の魔矢は防げず、俺と相棒に飛来してきたから、<超能力精神>で、それらの魔矢を止めて、宙空で握り潰すように魔矢を破壊した。
魔槍杖バルドークを握る右腕に<血魔力>を込めつつ<握吸>を実行。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの前方に魔槍を待った槍部隊が現れる。
二眼四腕の魔族だから、それだけ得物の数が多い。
ヒョードルとザレアドは加速力を高めながら前進し、槍の間合いに入った直後、跳躍――突き出されていた魔槍を避ける。
と、巨大な蹄で二眼四腕の魔族たちの頭部を踏みつけ潰す。
「げぇッ!」
「――ぐおっ!?」
「くそっ!!」
と、踏み潰すように跳躍を繰り返す。
連続し、二眼四腕の魔族の頭部や肩を踏み潰しまくっていた。
――強い。
二眼四腕の魔族を踏みつけていくヒョードルとザレアドは右奥へと高々と跳躍を行う。
騎乗しているゼメタスとアドモスが、それぞれの得物で斜め右下に居る二眼四腕の魔族たちに向け名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙を振り抜くと、一斉に、魔族たちの首が飛ぶ。
すると、二眼四腕の魔族の魔剣師部隊が、
「仲間たちを踏み潰すだと! くそが!」
「これ以上、進ませるな!」
「「「「「ウォォォォ――」」」」」
大挙として、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスへと襲い掛かる。
大型の馬ヒョードルとザレアドは止まらない。
斜め左にいた二眼四腕の魔族は、ゼメタスを狙うように魔剣の突きを繰り出していた。
相棒は触手を伸ばし、俺も<鎖>でフォロー――。
触手から出た骨剣で、魔剣を弾くと、がら空きとなった腹を<鎖>がぶち抜き倒す。
一方、ゼメタスを乗せたヒョードルは魔力を帯びた馬鎧を煌めかせながら前進を続ける。
他の二眼四腕の魔族の魔槍持ちが、左から右に移動し、ゼメタスを狙うように魔槍を突き出す。
ゼメタスは、その魔槍に合わせ愛盾・光魔黒魂塊を左に突き出し、魔剣の突きを愛盾・光魔黒魂塊で受け流すや否や大型の馬ヒョードルは馬首を右に傾け、体を左へと突き出して、二眼四腕の魔族に体当たりを行う。
「ぐぁ――」
二眼四腕の魔族は体が歪むように窪む。
自らの魔剣の刃が顔に嵌まり込んだまま絶命していた。
ヒョードルは転倒しそうだが、大丈夫か?
と、杞憂だった。
ヒョードルは光魔沸夜叉将軍ゼメタスを乗せたまま一回転し、他の二眼四腕の魔族が繰り出していた魔剣を、四肢の蹄で弾きながら、その体を捉え蹴った反動で、三角跳びを行い、右斜め奥にいた二眼四腕の魔族たちに空中から近づき名剣・光魔黒骨清濁牙を振るい抜いていた。
<月虹斬り>かな。
三人の二眼四腕の魔族の上腕が斬られ、一人の首を刎ねていた。
アドモスを乗せたゼレアドもヒョードルを追うように加速、前進。
ゼメタスの左側をフォローするように名剣・光魔赤骨清濁牙を突き出す。
軍服が他と異なる四眼四腕の胸元を貫いて倒していた。
ゼレアドもヒョードルと同じく止まらない。
やや前に出たアドモスを乗せているゼレアドに、二眼四腕の魔族の魔槍使いが追いすがり、左の胴体を魔槍で狙う。
アドモスは冷静に名剣・光魔黒骨清濁牙を下に向け、その魔槍を剣腹で受け止めた。
すぐに、その名剣・光魔赤骨清濁牙を下から斜め上へと魔槍を払うように振るい上げながら前進した機動力を乗せた名剣・光魔赤骨清濁牙の剣刃が、二眼四腕の魔族の下腹部を捉え、その腹を斜めに斬り裂いて倒していた。
まさに、人馬一体の剣術。
アドモスを乗せたゼレアドは前進。
次の前にいた二眼四腕の魔族が突き出した魔剣の切っ先を愛盾・光魔黒魂塊で受けその魔剣を繰り出した二眼四腕の魔族はスルーして前進していた。
背後にいた俺を乗せている黒馬ロロディーヌはすぐに反応。
「ンンン――」
喉音を発し、首下から数本の触手を、そいつに伸ばす。
追尾するミサイルのように宙を直進する触手の先端から飛び出た骨剣が、首と胴体に突き刺さった。
鎧を着ていない部分を狙ったか。
そして、アドモスが乗る大型の馬ザレアドは左側にいた二眼四腕の魔族たちが突き出した魔槍を受けず、加速しながら斜め前方へと跳躍し、その宙空から名剣・光魔赤骨清濁牙を華麗に振るい抜いた。
宙に弧を描く一閃――。
名剣・光魔赤骨清濁牙から迸る魔線が新たな魔刃に見える。
あれも<月虹斬り>だろう。
二眼四腕の魔族の数体の頭部が輪切りにされて倒された。
ゼメタスを乗せているヒョードルは、ゼメタスが倒すタイミングに合わせて、体当たりを繰り出すことが得意のようだ。
そんなゼメタスとヒョードルに十人ほどがタイミングよく魔槍を突き出してきた。
引き戻していた右手の名剣・光魔黒骨清濁牙と左手の愛盾・光魔黒魂塊で、その槍衾を一手に防ぐ。一部は馬鎧のヒョードルに衝突していたが、効いていない。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスは漆黒の蒸気のような魔力を噴出させると、その魔力が渦巻き、暗雲のように立ち昇る。
ゼメタスとヒョードルが加速し、他の周囲の空気が重くなったように、二人の狭い範囲だけの空間が澱んだように見えた。
波動のようなエネルギーが肌を這うように伝わってくる。
あれは、ゼメタスの<魔闘術>系統<月影走り>を使った効果か?
続けざまに、<夜叉ノ衝き>を繰り出して、名剣・光魔黒骨清濁牙を突き出したままヒョードルが前に加速、複数人を吹き飛ばしつつ加速、前進し、<夜叉ノ衝き>で名剣・光魔黒骨清濁牙が正面の二眼四腕の魔族の体を貫いて倒すまま、ヒョードルの加速に前進に合わせて、その死体を前方に運んでいく。
アドモスを乗せている大型の馬ザレアドも加速、前進。
アドモスの愛盾・光魔赤魂塊と大型のザレアドが着た馬鎧と、次々に二眼四腕の魔族たちが衝突。
魔剣と魔槍の穂先がザレアドに当たるが、馬鎧がそれらの攻撃を寄せ付けない、豪快に、二眼四腕の魔族たちは吹き飛んでいく。
その前方にいる光魔沸夜叉将軍ゼメタスは大型の馬ヒョードルから離れて、前に跳躍していた。
星屑のマントを靡かせながら加速前進した宙空で――。
体を捻りながら回転斬りを繰り出した。
二眼四腕の魔族たちの魔剣と魔槍が名剣・光魔黒骨清濁牙の回転斬りと衝突し、火花を散らしながら次々と弾き飛ばされていった。
同時に金属と金属が激突する轟音が響き渡り、魔力を帯びた刃が幾重にも軌跡を描いていく。ゼメタスはそのまま回転斬りを行い続け二眼四腕の魔族の頭部と上半身を両断し倒した。
大型の馬ヒョードルは、その死体を吹き飛ばしながら前進し――。
ゼメタスの足下に移動していく。
宙空を飛翔していたゼメタスは降下し、余計な動作をせずに大型の馬ヒョードルの背に跨がっていた。
凄い馬術だ。
戦場に立ち込める血煙と魔力の靄。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスを追うように三人の二眼四腕の魔族たちが駆けていたが、その背後から、首をアドモスの名剣・光魔赤骨清濁牙が捉え刎ねている。
地を震わせる蹄の音と、武器が交わる金属音が混ざり合う。
時折、魔力の暴発による閃光が戦場を不気味に照らし出す。
戦いの熱気と魔力が混ざり合い、空気そのものが重く、生暖かいものとなっている。
上に傾斜している高台の五人の二眼四腕の魔族たちが、
「黒と赤の特徴的な魔力といい、あれが魔公アリゾン様に抵抗を続けている、噂の敵将軍か」
「あぁ、まさか打って出るとは、予想外だ」
「……あの勢い、【グルガンヌの森】への誘い込みを捨てるとは」
「背後の、黒髪の魔族が率いる新手の騎兵隊が、いるからか?」
「……いずれにせよ、アリゾン様やゴーモル様に近づけさせるつもりはない、敵将軍が出るなら、素直に狙うまで、あの首級は俺の物だ――」
踏みしめる大地から伝わる振動と、前方で交わされる武器の金属音を頼りに、ゼメタスとアドモスの位置を把握しながら追跡を続けた。
前進している黒馬ロロディーヌと、俺の左右後方に付いてくる皆に、
「――相棒と皆、あの連中を狩りながら、アリゾンたちがいそうなところを探るぞ」
「にゃご」
銀灰虎に乗るヴィーネ、銀白狼に乗るエヴァ、黄黒虎に乗るハンカイ、白黒虎に乗るママニ、大鹿に乗るベリーズとアイコンタクト――。
「「「はい!」」」
「ん!」
「おう」
相棒から離れながら<武行氣>を意識し、発動。
<始祖古血闘術>を発動。
<経脈自在>を発動。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。
<水月血闘法>を発動。
<煌魔葉舞>を発動。
<滔天神働術>を発動。
宙空から二眼四腕の魔族の大太刀使いに近付き、<豪閃>――。
背ごと腰を魔槍杖バルドークで豪快に抜き倒す。
血飛沫を吸い寄せながら転移するような加速力で前進し、もう一人の二眼四腕の魔族の魔剣師の背を魔槍杖バルドークで<断罪血穿>――。
背の上半身が吹き飛び、散る。
千切れた下半身も地面に衝突し、潰れていた。
さすがに氣付いた二眼四腕の魔族の魔槍使い――。
「げぇ、なんだ、あの黒髪の槍使いは――」
構わず、<雷飛>――。
前に転移するような加速力から<魔皇・無閃>を繰り出す。
魔槍杖バルドークを振るい抜いた。
※魔皇・無閃※
※魔皇槍流技術系統:極位薙ぎ払い系亜種※
※豪槍流技術系統:極位薙ぎ払い系※
※龍豪流技術系統:極位薙ぎ払い系※
※<雷飛>が必須※
※魔人武王ガンジスが愛用する薙ぎ払い系攻撃※
二眼四腕の魔族の二つに物別れた死体と魔槍使いの得物が宙空に舞う。
斜め横にいた魔族部隊の大半は黒馬ロロディーヌの体から放たれていた触手から出た骨剣を浴びている。
体が、風孔だらけとなっていた。
ヴィーネもガドリセスに持ち替えて、<血液加速>を活かす剣術で二人を刹那の間に両断して倒した。
ハンカイも「ウォォォ!」と<発豪武波>を繰り出しながら金剛樹の斧を振るいまくり、三人の魔傭兵集団と目される二眼二腕の剣と盾持ちを討ち取っていた。
「ん、シュウヤ――」
と、背後から飛翔してきたエヴァの右手を「おう――」と、左手で掴む。
そのまま<念導力>を発しているエヴァの加速力を活かすように宙空を<武行氣>で共に飛翔し、少し離れた場所で戦っていた大型の銀白狼の背に乗った。
前を駆けながら近付いてきた黒馬ロロディーヌが、「ンンン」と喉音を響かせ、「ワォォン!」と走りながら銀白狼が答えている。
「ん、このまま敵の部隊を喰い破るの?」
「おう、倒せるだけ倒しつつ、アリゾンか、ホルレインを探す、少し浮上するぞ」
「ん、分かった、魔矢はわたしに任せて――」
と、駆けながら浮上した。
前方が窪んだ地帯となった。櫓が複数ある。
エヴァは体から紫の<念導力>の魔力を展開してくれた。
同時に闇の獄骨騎が少し振動している。
そして、眼下を見ながら飛翔した。
ここは、主力部隊が多い。魔公アリゾンと魔界騎士ホルレインの陣か。
大地には無数の魔線、稲妻のような魔力が迸ったような強烈な罅割れが起きていた。
そんな地面にはテントが幾つか張られてあった。
幾つかのテントは炎上している。
<闇透纏視>で魔力の波動を読み取りながら戦況を把握――。
上等戦士軍団も【グルガンヌの森】から打って出たか。
激しい戦いがあちこちで発生している。
異なる魔力が交錯する度に、空気が歪み、色とりどりの光芒が走っていた。
魔力同士の共鳴が、戦場に独特の律動を生み出していく。
と、敵陣は地形を巧みに利用していた。
最も高い丘の背後には補給部隊かな。
その前面には扇状に展開している二眼四腕の魔族部隊があり、中央に密集する魔槍兵、両翼には魔剣兵、そして高台に弓兵隊を配置され、死角のない包囲網を形成されていた。
中央に魔槍兵、両翼に魔剣兵を配し、高台には弓兵隊を据えることで死角のない包囲網を形成している。荷車を要所に配置し、即席の障害物として活用できるよう準備しているのも見逃せない。
が、魔公爵ゼンの部隊らしき存在は、隠れて運用されているか見当たらない。
「敵陣は扇状に展開され、高台の弓兵と前線の槍兵で重層的な防衛線を築いているから、二手に分けるのがいいかもな、丘陵の陰から迂回部隊を送り、敵の注意を分散させている間に主力部隊で正面突破を狙う」
「ん、いいと思う! 密集隊形の敵に対して、分散しながら相互にフォローできるし」
「あぁ、前衛のゼメタスとアドモスの剣術と、後衛からの援護射撃を組み合わせた連携攻撃だが、ロターゼの一発もある」
と、背後にいるエヴァに告げた直後、右側の空にいたロターゼが急降下――。
巨大な櫓ごと複数の魔公アリゾンか魔界騎士ホルレインの部隊を、己の腹で下敷きにして倒しまくる。
ロターゼの突進は、敵陣形の致命的な弱点を突いたか。
櫓を中心とした円形陣地は、上空からの攻撃に対して脆弱。
しかも、密集して展開している部隊は、倒れた櫓の下敷きとなって陣形が崩壊。
その隙を突くように、法魔ルピナスに乗ったサザーが斬り込む。
続いて、フーとブッチとサラとユイとクレインとミスティとキュベラスとメルとシキとファーミリアたちが両翼から切り込み、敵の指揮系統を寸断していく。混乱に乗じて、各個撃破の好機だ。
そのロターゼに乗っていた六眼キスマリが前に跳躍し、四腕を振るい抜く。
そのまま二眼四腕の魔族の二人を一瞬の間に斬り捨て倒していた。
キサラも<血魔力>を込めたダモアヌンの魔槍を<投擲>――。
宙を劈くような音が響くと、血の光を帯びたダモアヌンの魔槍が直進し、二眼四腕の魔族の腕と腹を豪快に突き破る。
と、ダモアヌンの魔槍の螻蛄首から放出されたフィラメントが無数の刃となって、周囲の二眼四腕の魔族たちを斬り裂いていた。
一度に数十人の二眼四腕の魔族部隊が斬り刻まれている。
ダモアヌンの魔槍は直進を続け、四眼四腕の得物を弾きつつ、その腕と頭部を貫き、そのまた背後の二眼二腕の魔族たちを次々と貫通していく。
またも、四眼四腕の得物を弾き、その胴を貫き、更に背後の二眼二腕の魔族たちまで倒していく。
敵陣を貫いたダモアヌンの魔槍、<血魔力>を含んだ<補陀落>を繰り出したようだな。
<血道第二・開門>の<光魔鬼武・鳴華>の影響が、<補陀落>に加わっていると分かる。
凄まじいな。
そして、<血液加速>で高速移動しては、橙魔皇レザクトニアの薙刀を左手に召喚し、それを振るって<刃翔刹閃>を繰り出し、魔公アリゾンの二眼四腕の魔族の兵士の数体を輪切りにして倒す。
その右の横では、魔大剣を持った強者が、ゼメタスとアドモスと戦っている。
魔公アリゾンの眷族らしき存在か。
大型の馬ヒョードルとザレアドは避難するようにアドゥムブラリたちのところに移動していた。
続いて、銀灰虎に乗っていたヴィーネも跳躍し、翡翠の蛇弓から光線の矢を射出。
魔界騎士ホルレインの部隊の騎兵たちを次々と射貫き、倒しながら、長細い岩の上に着地。
黄黒虎に乗っていたハンカイも飛び降りては、前転しながら、大柄の魔槍使いに<鬼颪>を喰らわせて倒していた。
白黒虎に乗ったママニは、大型円盤武器アシュラムを前方に<投擲>。
大型円盤武器アシュラムを斧で防いだ二眼四腕の魔族だったが鹿魔獣に乗ったベリーズが射出した聖十字金属の魔矢は防げず。
眉間を射貫かれたまま倒れていた。
二眼四腕の魔族たちは、頭部や心臓を穿てば、大概は倒れる者が多い。
と、左から曲剣と魔剣が飛来――。
更に、正面から魔槍が飛来してきた。
「左は俺が――」
曲剣を左上に上げた魔槍杖バルドークの柄で弾き――。
左手に出現させた神槍ガンジスで魔剣を叩き落とす。
魔槍は相棒の触手骨剣が弾いていた。
「にゃおぉ~」
「ワォォン!」
「ん、正面は、うん――、皆のフォローをする」
相棒と銀白狼とエヴァの声を聞きながら前に跳ぶように移動する。
曲剣と魔剣を扱う存在は女性魔族か――牽制に《連氷蛇矢》を繰り出すが、あっさりと曲剣から放たれた魔線の群れにより防がれた。
女性魔族は、左の建設途中だった建物の上に立つ。
すると曲剣を俺に向け、
「……貴方……【グルガンヌ大亀亀裂地帯】の鍵を……」
鍵? 闇の獄骨騎のことか。
続きは明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




