千六百三十九話 皆と情報共有にサイデイル
魔命の勾玉メンノアは、白銀と漆黒の鴉を生み出しているルビアの近くに移動し、頭を下げていた。
魔命を司るメリアディ様の<神の子>の絆があるルビアだからな。
同時に、魔命を司るメリアディ様の過去の栄光と現在の故郷を繋ぐ重要な架け橋か。メンノアは母の天魔帝だったメリディア様も知っている。
三眼鏡を通じた過去との繋がりに、魔命を司るメリアディ様の母の天魔帝メリディア様の時代の知識を持つ、それは同時にアムシャビス族が魔界でもっとも繁栄していた時代かな。
この二人の絆は、伝統と革新の調和を体現する存在になりえるか。
ルビアの額の白銀と漆黒の鴉の印が輝くとメンノアの三眼からも光が放たれルビアに当たる。
メンノアとルビアは魔線に繋がると、魔力の相互作用による共鳴が起きたように二人の体からかすかな振動音が響く。メンノアが持つ〝メリアディの三眼鏡〟から白銀と漆黒の小さい鴉の魔力が出ていた。
魔力も増幅している。ここに刻まれていた魔命を司るメリアディ様の魔法陣での誕生の意味を考えると、〝メリアディの三眼鏡〟との共鳴も頷ける。ルビアの存在が触媒となったってことか。歴史的にも両者の力が補完し合う状況だからな。
「「おぉ」」
と、皆が驚いていた。
そこで黙って成り行きを見ていた月霊樹の大杖を持つクナを見ると、
「シュウヤ様、わたしも【グルガンヌ大亀亀裂地帯】に向かいます」
「了解した」
クナは、月霊樹の大杖を仕舞い胸に片手を当て頭を少し下げた。
そこでメルに視線を向ける。
メルは、足首から黒い翼のような魔力を発して、
「総長、【天凛の月】の副長として惑星セラの、【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の運営を切り盛りするのが仕事だと思ってますが、一時的にそれはペレランドラに譲り、わたしも魔界について行きます」
と、発言し、紅孔雀の攻防霊玉を魔刀を掲げた。
他にも肩と腕と右足の太股に新しい装備品が付いている。
あれは、第三王子クリム邸の隠し扉の先にあったアイテム類かな。
貴重なアイテム類はあまり聞かずに【大墳墓の血法院】に急いだが、ま、いつか聞くか。
「了解した、サセルエル夏終闘技祭隊で優勝した景品だった〝紅孔雀の攻防霊玉〟は、やはり、使い勝手は良いかな」
「はい、かなり良いです。思念で自由に形が変化するのは便利です」
頷いた。
そこで、<血魔力>製のハンマーを生み出していたビュシエを見る。
ビュシエも白い蝙蝠に変身する意外は黙ってみることが多かった。
「シュウヤ様、魔命を司るメリアディ様を助けましょう。状況的に、闇遊の姫魔鬼メファーラ様とはまったく異なる」
「そうだな」
「はい、キサラもゴルディクス大砂漠の件が遅れますが、良いのでしょう?」
ビュシエの言葉に、キサラを皆が注視した。
キサラは胸元に手を当て、〝血の魔札エイジハル〟を出現させる。
「はい、当然です。闇と光の運び手のご主人様がいるので、既に、黒魔女教団の再生は成っているとも言えますし、もう目的は達成したと同じこと。更に、ここに浮かんでいる四天魔女は健在です。十七高手の一部も生きている……ふふ、嬉しすぎます……そして、自分のことですが<血道第二・開門>の<光魔鬼武・鳴華>と<血道第三・開門>の<血液加速>を得ましたから、戦いには大いに貢献できる。しかし、魔界の二柱の二神と、悪夢の女神ヴァーミナ様たちを苦しめ続けている諸侯たちの戦いはかなり厳しそうですね。が、わたしたちなら乗り越えられる。同時に、橙魔皇レザクトニアの薙刀のスキルを学ぶ機会になるかもです」
と、キサラらしい素晴らしい語りを聞いた皆が、感激&同意しているように、ヴィーネとエヴァとレベッカたちが拍手をしていた。
ビュシエも、
「ふふ、はい。サシィに魔皇獣咆ケーゼンベルスも呼びたいところですが、バーヴァイとメイジナの地方も諸勢力に備えて守ることが重要。その判断はシュウヤ様に委ねるとして……私も元天魔帝メリディア様と魔命を司るメリアディ様の危機を救う戦いに参加致します。精鋭部隊として破壊の王ラシーンズ・レビオダの本人か、その近衛兵や親衛隊との戦いでは、橋頭堡造りの<血道・石棺砦>は役に立つと思います。更に、魔公アリゾンと魔公爵ゼンと魔界騎士ホルレインとの戦いが予想されている【グルガンヌ湖】、【ホルレイン平原】などの西部戦線の防衛戦構築にも大変役立つと思います。また、白い蝙蝠の偵察部隊としてファーミリアたちと躍動も可能です」
「ビュシエの<血道・石棺砦>は、たしかに、悪神ギュラゼルバンとの【メイジナ大平原】の決戦では、すこぶる役に立った」
「「はい」」
「「「……」」」
ヴィーネとキサラは直ぐに返事をしていたが、皆は、思案げだ。
ビュシエの<血道・石棺砦>があれば【グルガンヌ大亀亀裂地帯】での防衛線構築にも、精鋭部隊による【アムシャビスの紅玉環】突入か、【メリアディの命魔逆塔】か、クーフーリンとの接触試行の際に、破壊の王ラシーンズ・レビオダの精鋭部隊がいるかもだからな。
どこの戦いでも、いきなりの血の石棺を活かした砦が出来上がれば非常に役立つ。
木下藤吉郎の墨俣城を速やかに造り上げたエピソードは面白かったことを思い出した。
そこで、魔剣・月華忌憚の柄に腕を置いていたキッカを見る。
キッカは、
「宗主と傍で戦いに貢献したい思いは他の眷族の方々と同じです。精鋭部隊もゼメタスとアドモスの部隊として、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】での防衛線構築に入るにしても、メリアディ要塞の軍勢に傘下するにも伏兵配置による敵軍誘導をする係にしても、【フルヴァド・ゴウン・ザーメリクスの街】に潜入するにしても、その場その場で判断が求められると思いますからね、ただ、今の現状ならば、【グルガンヌ大亀亀裂地帯】での防衛線構築に立候補しておきましょう、小隊規模の指揮も得意です」
「了解した、閃光のミレイヴァルと波群瓢箪のリサナも現地で出すとしよう」
「はい」
そして、途中から腹を見せるように床で寝ていた銀灰猫と黄黒虎と白黒猫と銀白狼を見やる。
宙空の位置で、体から霧の魔力を発してメンノアの真似していた法魔ルピナスと、背後で皆のことを見守っていたレガランターラと仲間のキュベラスたち、ファーミリアとシキとアドリアンヌにホフマンやアルナードとルンスなどを見回してから、
「皆、残りの十五日以内の作戦の概要は、ある程度理解したと思うが、一旦、外に出ようか」
「「ハッ」」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「「「「了解」」」」
皆の返事には気合いが入っている。
一方、銀灰猫は「ンン、にゅが」と変な声を発するようにあくびをして両前足を前方に伸ばし、
「にゃァ~」
と鳴きつつ後ろ脚を上げたまま背伸びをしている。
背後に居た黄黒猫が、銀灰猫のお尻の臭いを嗅いでから、何かを言うように、俺を見やる。
鼻を膨らませつつ、「ンン、ニャァ」と『おちり、が、くちゃぁぁい』と言うように鳴いている。
「あはは、面白いな、臭いのに止められないってやつか」
「ンン」
と、言うと、黄黒猫はまた銀灰猫のお尻に鼻をつけてフガフガしている。
銀灰猫はイカ耳となって、「……え?」という顔付きとなっては振り向いて、〝なにすんじゃぁ、ぼけぇ〟というように連続的に黄黒猫に頭に猫パンチを繰り出している。黄黒猫は目を細めて、前足を上げようとしているが、銀灰猫の連続的な猫パンチを浴びて、頭を下げては耳を凹ませて腹を見せる。〝ごめんなさいにゃ〟というように謝っていた。
可愛い。一方、白黒猫は我関せずに、ハンカイの足下でゴロニャンコ。
ハンカイに腹を撫でまくられている。
その白黒猫は「ニャォ~」と鳴いて両前足を両後ろ脚伸ばしつつ背伸びをしてからサッとした猫らしい動きで起き上がって、ハンカイから離れて、横に居た銀白狼の頭に頭部をぶつけてから黒豹の後ろ脚に頭をぶつけて先に納屋から外に出ていく。
「ワンッ、ワンッ」
銀白狼は俺を見て鳴いていたが、頷くそぶりをしてからふるふると振っていた尻尾とお尻を見せるように振り返って、先に外に出た白黒猫を追い掛ける。
その様子を見ながら、皆で、ぞろぞろと納屋から庭に足を向けた。
異界の軍事貴族の子鹿は、この場に居ない。
ポポブムたちと一緒に、ミミたちにちょうど餌をもらっていたから、こなかった。
後で合流しとくか……と、考えつつ、「出よう」と発言し、「「はい」」「んっ」とヴィーネとキサラとエヴァと一緒に庭に出た。
魔命の勾玉メンノアもスゥッと浮遊しながら付いてきた。
庭では黒豹と銀灰猫と白黒猫と黄黒猫たちが元気に駆けずり回っている。
メンノアは、
「ふふ、元気な神獣と、魔造虎と異界の軍事貴族たちです」
と発言しつつ、銀灰猫たちを追い掛けていく。
彼女は片手にメリアディの三眼鏡を持っている。
その〝メリアディの三眼鏡〟の殆どは半透明で、二酸化ケイ素を骨格とするシリカエアロゲルで構成されているように見える。それでいて鏡の名あるように正面は鏡があり、三つの勾玉のような物も嵌まっていた。
時折、シリカエアロゲルの中身に毛細血管のような血の流れが起きているのが不思議だった。
そして、俺が知るシリカエアロゲルといえば……。
90パーセント以上が空気で軽い固体で有名だった。
様々な耐熱用のコーティングにも使われていた。非常に断熱性に優れた物質で、この惑星セラがある宇宙次元でもかなり上位にくるほどの素材のはず。
そんな物質を思い出させるほどに、メンノアの持つ〝メリアディの三眼鏡〟は不思議だった。
その〝メリアディの三眼鏡〟を注視しつつ――。
右指に<血魔力>を込めて、右腕を動かし、
『ベリーズにサザーにミスティにベネットにルシェル、合流は可能か?』
『うん、可能~』
『ご主人様、大丈夫です』
『了解、もうもう少し深海のほうを潜って、【吸血神ルグナドの血海の祠】の中で休んでも見たかったけど、もう大広間だから』
『可能です、合流しましょう』
『はい、大丈夫です』
と、血銀行組から血文字を見ながら、キッシュたちを含めた全員の眷族たちに、人差し指に<血魔力>を込め、
『簡単に説明だけしとく、今、魔霧の渦森のゾルの納屋の地面に刻まれていた魔法陣の中央の窪みに〝メリアディの三眼鏡〟を嵌め込むように置いたら、魔命の勾玉メンノアと言う名の、魔命を司るメリアディ様と俺の眷族が生まれたんだ、そのメンノアから、魔命を司るメリアディ様の危機な情報を得て……魔命の勾玉メンノアの使命を聞いた。そうしたことから、ゼメタスとアドモスを呼び寄せ、皆で作戦会議を開いていたところだった。血銀行と、キッシュたちのところにも行くから、その時に、〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体を飲めば分かる』
と、南の【大墳墓の血法院】に居る眷族たちと、サイデイル組と塔烈中立都市セナアプア組に血文字でメッセージを送った。
宙空に浮かんだ俺の血文字は光魔ルシヴァルの眷族たちと同じ時空間を通しリアルタイムに量子エンタングルメントのような現象が起きている。
今も、ミスティたちの目の前には血文字が浮かんでいるはずだ。
ミスティから、
『了解、共同眷族とか驚きね』
『おう、血銀行の中はどうだったんだ』
『あ、うん、<血魔力>を凄い得た。マスターが<始祖古血闘術>などを得て、眷族たちをたくさん造れた理由を体感したわ、もうたらふくね……ぐふふ。後、血大鯱グワンザルクを数百は倒した。それと、血吸真魚リランと金属ノ鯛魔人魚のボボボルマンも現れたの、金属ノ鯛魔人魚のボボボルマンは強かった。でも、魔導人形のゼクスも<混乱眼>と<光魔吸>など使って倒した。サザーたち、皆も活躍したわ。わたしも暗器械で極めて珍しい金属の〝光闇の奔流〟を活かしたミニ鋼鉄矢を撃ちまくって戦いに貢献できた。あと、金属ノ鯛魔人魚のボボボルマンの体を一部溶かすように倒して、その金属ノ鯛魔人魚のボボボルマン一部の金属の回収に成功した。<虹鋼蓮刃>は使わなかったけど、金属ノ鯛魔人魚のボボボルマンは強かった分、面白かったし成長できた。あ、ちゃんと、〝光闇の奔流〟のミニ鋼鉄矢は回収しているから』
頷きつつ『おう』と血文字を送る。傍にいるヴィーネとハンカイとアドゥムブラリとアドリアンヌが、
「ひょっとして、血銀行を探索し続けるほうが、わたしたちのためになりますか?」
「……純粋に<血魔力>だけだからな、吸血神ルグナド様も喜んでいるところでもあるから、俺たちには絶好の修業場所か」
「……あぁ、が、やることはたくさんある」
「ふふ、吸血鬼の特権に聞こえますわよ……」
と、アドリアンヌは声は笑っている印象だが、黄金の仮面から覗かせる錦に輝く瞳は、笑っていなかった。
ファーミリアは少し勝ち誇っている。シキはキュベラスと炎極ベルハラディと骸骨の魔術師ハゼスと高祖吸血鬼のハビラと何かの話をしていた。
続いてサザーから、
『はい、新しい眷族の獲得はめでたいですが、戦になりそうですね、待っています。成長について報告もあります』
と、血文字が来て、ルシェルも、
『分かりました、待っています。血銀行に入っただけでも<血魔力>をかなり得ました。更にモンスターを倒し続けたことで<血道第二・開門>の切っ掛けが掴めそうですし、新スキルも得ています』
ルシェルの血文字が浮かぶ。
その血文字を見ていたクナが、
「ふふ、お弟子ちゃんも血銀行の恩恵を……わたしよりも先に光魔ルシヴァルの<従者長>となってますから第二関門こと<血道第二・開門>の習得は早いと思いますわよ」
と、発言。頷いているとミスティから、
『魔霧の渦森自体に変化は?』
ミスティの血文字に皆が周囲を見回す。
魔命の勾玉メンノアが誕生した際は、地響きに地震が起きていた。
ママニとブッチとフーとキサラとメルとクレインとハンカイは浮遊し、ゾルの屋敷の周囲を見回していく。
サラとレベッカが、出入り口から坂の下に移動していく。
フーが、少し降下してきた。
「――ご主人様、襲撃はないと思いますが、モンスターの数は屋敷を取り囲むように多くのモンスターの気配があります」
やや遅れて、ゾルの屋根の上から反対側を見て居たメルが、
「総長、ゾルの屋敷の周りには大丈夫かと。魔法ギルドの青い結界石が嵌まっている石塔が設置されているので、モンスターは入ってこられません」
「了解した。変わりないならいい、キュベラス、<異界の門>で【大墳墓の血法院】に行こう」
「ハッ」
と、返事をしたキュベラスは少し庭を歩く。
それを見ながら血文字でミスティに、
『ゾルの屋敷は無事だが、魔霧の渦森に変化があったようで、周囲にモンスターが増えた』
と、血文字を送った。
レベッカとサラが右側の出入り口から坂下に下りたであろうところから衝撃音がいくつか響いてきた。
二人は魔霧の渦森に湧いているだろうモンスターに攻撃したかな。
その間にもキュベラスは庭の上空に見た目通りの石の門の<異界の門>を発動させた。
二十四面体の光のゲートとは少々異なる転移のスキルが、<異界の門>。
で、異界の軍事貴族の召喚器の<異界の門>か。
見た目は石の素材だが、生きた獣貴族の召喚獣でもあるんだろうか。最初登場したとき餓鬼のような腕が無数に出現していた。
そして、ジェレーデンの獣貴族を巡る争いがあったことはキサラたちから聞いている。
キュベラスは獣貴族の召喚獣を呼び出し、数多く契約していたようだが……。
サケルナートこと闇神リヴォグラフの大眷属ルキヴェロススに、無数の獣貴族の召喚獣たちを奪われ人質にされて長い間従わされていた。
そして、サケルナートを倒した際に、【幻瞑暗黒回廊】の狭間の地と呼べるの異空間〝異界の館〟に、沢山いるはずだった獣貴族の召喚獣たちは、たったの二体のサージルとケニィだけだった。推測だが、クリムの実験材料として、キュベラスの獣貴族の異界の軍事貴族たちの大半は実験材料の素材として殺されてしまったんだろう。
その結果が、クシュナーの体の組成維持だったり、〝神魔の魂図鑑〟の使い方の改善や魂の維持の魔力に役に立っていたのかもしれないが……。
生きていた異界の軍事貴族の召喚獣、右腕の形をしたサージルは……頭部が無かった不思議人型魔人のイヒアルスの頭部に成っている。
桃色のリスのケニィの異界の軍事貴族は、キュベラスの魔法の衣に変化したままだ。
すると、レベッカとサラが走って戻ってきた。
「坂の下の森の手前に、大きい亜種のガルバウントタイガーと変な形のホワークマンティスの群れが現れていたけど、結界は無事よ。此方に入ってこられない珍しそうなモンスターたちに<光魔蒼炎・血霊玉>をぶちかまして、数体のガルバウントタイガーを粉砕し倒したわ、死骸もそのまま回収しといた」
「うん、<バーヴァイの魔刃>を繰り出して、数体のガルバウントタイガーを倒した」
レベッカとサラの言葉に皆が頷く。
エヴァが、
「ん、亜種に珍しいなら、蒼い毛皮と牙と爪に体は良い素材になると思う」
「そうだな。俺が持つフィフィンドの心臓のこともだが、ラムーに鑑定してもらうのもありか。が、今は、【大墳墓の血法院】に戻って皆と合流しよう」
「はい」
「うん」
その【大墳墓の血法院】に居る合流予定のミスティから、
『ふふ、今、<従者長>フィゴランとエリーゼって吸血鬼たちが、ルルドニアの卵焼きと、ペーモーの黄金鳥の炒め物を作ってくれたから、それを美味しく頂いていたところでもある』
『了解した。では、そちらにキュベラスの<異界の門>を用いて、移動しよう』
キュベラスとファーミリアたちは頷いている。
そこで皆を見ながら、
「では、相棒たち、こちらに、皆も、一旦、【大墳墓の血法院】に戻ろうか。キュベラス、頼む」
「にゃおお~」
「にゃァ」
「ワンッ、ワンッ」
「ニャァ」
「ニャォ」
と、黒豹と庭を掛けていた銀灰猫と黄黒猫と白黒猫と銀白狼が集まってくる。
「はい――」
皆で、一瞬にハイム海の海岸線に近い【大墳墓の血法院】の大広間に戻った。
大広間の右側から中央の円卓のところに向かう。
超がつくほど巨大な水槽に入っている血が大きい波となって、硝子に衝突していた。
何回見ても飽きないほどに超巨大水槽に、血海だ。
その血銀行を見ながら皆が寛いでいる大きい円卓に走り寄った。
そこにいたミスティが、
「マスターたちお帰り~その綺麗な女性が、魔命の勾玉メンノアね」
メンノアはお辞儀をして、
「はい、よろしく、お願いします」
「よろしく、<筆頭従者長>のミスティ。そして、天井の素材の分析に当たらせているのが、新型魔導人形の名はゼクス。イシュラの魔眼にスキャン機能を組み込んで、また強くなったから」
天井を見ると、そのゼクスが頭部の目元から天井の広範囲に向け魔力を照射していた。
巨大なシャンデリアをぶら下げているエメラルドグリーンの塊のような部分と、浮き彫りのヴァルマスク家の歴史が描かれている天井のモザイク画の素材を調べているようだな。
あまり考えていなかったが、【大墳墓の血法院】の健在も結構貴重な素材なのか。
数千年以上続いている【大墳墓の血法院】の建物……。
今もところどろに光を帯びた金属に、大理石っぽい床……。
高度な魔科学技術で造られたような魔機械もあるし、吸血鬼たちが暮らすところには自動ドアもあった。
棺桶は、イメージ通りの吸血鬼だったが、それ以外の家具や飾りなどは、結構近代的な設備が整っているように見えた。
そして、俺たちが最初に海岸線から【大墳墓の血法院】の建物に入った時……。
吸血神ルグナド様の巨大な神像とファーミリア・ラヴァレ・ヴァルマスク・ルグナドの神像が縦に割れた出入り口だった。
あれは凄かった、戦闘機のような大きさのドラゴンたちが離発着可能な格納庫。
多分、ファーミリアたちヴァルマスク家は数千年前に、ドラゴンたちを使役し、使っていんだろうと推測できる。
すると、ミスティが、「マスターたち、成果を見せてあげる~」と発言し、片腕を真っ直ぐ、大広間のだれもいない空間に伸ばす。
手首の暗器械が見えた。<血魔力>が隠っている。
ミスティは、「ファーミリア、床が傷付くけど、大丈夫?」と聞くと、ファーミリアは、「はい、構いません、存分に試し撃ちを」と許可していた。
ミスティは「了解~」と発言すると手首の暗器械から<血魔力>が込められたミニ鋼鉄矢を射出した。
床に突き刺さったミニ鋼鉄矢は見えない。結構な貫通力だ。
「今のは地味だけど、<血魔術・製本>の血のスクロールを活かした飛び道具<血礫>と<血礫・貫通>も覚えた成果なの、暗器械の礫とミニ鋼鉄矢にも<血礫・貫通>は乗るから便利なのよ」
へぇ。
「血銀行の修業の効果か、新スキル獲得、おめでとう。あ、<血魔術・製本>の魔術書をペレランドラに渡すのを忘れてた」
「ん、まだ塔烈中立都市セナアプアで、ザガたちを案内していると思うから間に合う」
「そうだな」
すると、元エルフの弓兵のベリーズ・マフォンが、
「――隊長とシュウヤ、皆もお帰り。そして、メンノア、わたしも光魔ルシヴァル<従者長>の一人よ。名はベリーズです、よろしくね。弓が得意だから。血銀行の冒険で<血弓術・鏃ノ血縛>などを得たの」
と、環双絶命弓を生み出すと一瞬で聖十字金属の魔矢を番えた。
そして、ベリーズのアイコンタクトを受けたサザーが前に出ながら、フルーツのサウススターを右斜めの空に投げつけた。ベリーズは「見てて」と言いながら俺にウィンク、頬にエルフ支族の印が少し輝く。
髪飾りの蝶々も煌めいた。と、環双絶命弓から<血魔力>が内包された聖十字金属の魔矢が射出された。
射出された<血魔力>と光を帯びた聖十字金属の魔矢が、サウススターを突き抜けながら鏃から連なる血の鎖のような幻影の群れを生み出しながら爆発していた。
「「おぉ~」」
「凄いじゃない! 半日ぐらいの時間だと思うけど、新スキルを得たのねぇ――」
サラはそう言いながら、右腕を上げた、ハイタッチを揉める仕種だ。
ベリーズは笑顔で「うん――」と言いながらサラの右腕に合わせ、己の右手を、サラの掌に当ててハイタッチを行う。「「ふふ」」と二人は合わせた両の手でぐわりぐわりとその場で円を描くように回す。
直ぐに二人は腕を離し、揃った動きで拳と拳をコツンと合わせ、手を開き、「「――ふふ!」」と何かを競うように、笑顔のまま互いの指と指を交差させる遊びのような挨拶を仕種を繰り返す。
その遊びのようなコミュニケーション方法は、元冒険者パーティ紅虎の嵐の頃に培ったものだろうな。
一見するとくだらない動きにも見えるが、温かさと親しみを感じて心がほっこりとしてくる。
続いて、小柄獣人のサザーが、
「同じく<従者長>サザーです。よろしくお願いします。剣が得意です」
片手半剣のゲルダーノ咆哮を右手に召喚。
モフモフの長耳をゆらしながら左右にゲルダーノ咆哮を振るう。
一閃、二閃と片手半剣から零れた血の<血魔力>が、血の軌跡を宙空に生む。
サザーは両腕を上げゲルダーノ咆哮の柄と柄巻を活かすような盾技、かち上げを繰り出しつつ、下からゲルダーノ咆哮を振るい上げ、己をも回転する剣技を披露した。
くるくると回りながら上昇したサザーは、垂れた両耳が翼になったようにふわふわ動かしながらの宙空でゲルダーノ咆哮を放って、着地。
と、下段蹴りから右手の掌底を繰り出し、そのまま少し前に出た右手に落下してきたゲルダーノ咆哮を掴む。見事な剣舞だ。
身長はかなり小さくゲルダーノ咆哮のほうが大きいが、それを活かした剣術、飛剣流かな。
皆から拍手。サザーに、
「今の剣舞は、新スキルか、飛剣流のスキルかな」
「はい、血銀行の修業の成果<血現・鮫殺し>です」
「「「おぉ」」」
「見事だ」
「ありがとうございます!」
サザーは血獣隊のママニとフーに片手半剣のゲルダーノ咆哮を見せながら個別に話をしていった。
続いてルシェルが、右手に長い魔杖を召喚してからメンノアに、
「魔命の勾玉メンノア、わたしの名はルシェル。光魔ルシヴァルの総長の<従者長>であり、クナ師匠の弟子でもある。紅虎の嵐では副長を務めていて光属性と雷属性の魔法が得意です。血銀行の修業では、古の吸血鬼が使用していた魔杖を得たので、使ったところ……」
と、発言しつつ<血魔力>を体から放出させると、長い魔仗の先端に雷状の穂先が出現。
それを加速前進しながら突き出しては、長い魔杖を振るう一閃。
「<血雷槍・零式>と<血雷槍・壱式>を得ました」
「「おぉ」」
「ルシェルが接近戦、しかも槍使いに!」
「凄いじゃないの、ルシェルも新スキルを得たなんて、あぁわたしも血銀行に残れば良かったかも」
と発言して肩を落としていたが、ブッチが、
「隊長は、腕に<血魔力>に対応しているラ・グラスという珍しい剣があるからな、ま、いずれ何かしら得られるだろう」
「うん、それもそうね」
「ふふ、はい」
続いて〝血宝具カラマルトラ〟を装備しているベネットが、メンノアに近付き、
「あたいの名はベネット、【天凛の月】で長く活動していた。<筆頭従者長>のヴェロニカの<筆頭従者>の一人、弓と短剣が得意だけども、そこのルンスからもらった〝血宝具カラマルトラ〟と〝ラヴァレの魔義眼〟のお陰で、だいぶオールマイティに強くなったさ。そして、血銀行の中の冒険で、中にいた様々なモンスターを倒しまくって……<血剣ノ急襲>と<血剣・跳弾>得たさ――」
と、ベネットは両手に召喚した魔力を帯びた短剣を見せてから、加速するように前進し、跳躍を行う。
前方に敵がいるように、突き技と下段斬りの連携剣術を披露した後、その短剣を<投擲>――。
<投擲>された短剣は、床に衝突し、斜め上に跳ねて、天井に突き刺さる。
その短剣を両手に引き寄せていた。
「へぇ、最後のは<導魔術>のようだが」
「似ているけど、あくまでも<血魔力>を活かしたスキルの<投擲術>さ」
「そっか、見事だ、皆成長しているし、血銀行は凄いな」
「うん、あたいは強くなった」
「……そうなると、わたしも体感したいところだけど、魔界に行くから!」
ヴェロニカの言葉に頷く。
「分かってる。では、その前に、血銀行組にも、〝知記憶の王樹の器〟を飲んでもらうとしよう――」
「「「「はい」」」」
サザー、ミスティ、ルシェル、ベリーズ、ベネットに〝知記憶の王樹の器〟の俺の記憶入り神秘的な液体を飲んでもらい、記憶を共有した。
そして、血文字でペレランドラに『ペレランドラ、まだ魔塔ゲルハットにいるか?』
『はい』
『なら、ペントハウスにいてくれ、<血魔術・製本>を渡すのを忘れていた』
『分かりました』
「では、魔界セブドラに向かう前に塔烈中立都市セナアプアに戻ろう」
「「了解」」
「「「はい」」」
二十四面体を取り出し、十八面の溝をなぞり記号の色を緑に変えて起動させた。
二十四面体は急回転しながら持ち上がる。
一瞬で面と面が重なり合うと、光のゲート化した。
皆で、その光のゲートを潜ると、一瞬で、【塔烈中立都市セナアプア】の魔塔ゲルハットの屋上のペントハウス内に出る。
背後のパレデスの鏡から、いつものように二十四面体が外れ、飛来。
それを無意識のまま掴み戦闘型デバイスのアイテムボックスに入れて仕舞う。
目の前にはペレランドラと、キッチンにはドロシーとシウが居た。
ザガとボンとペグワースに元【髪結い床・幽銀門】のパムカレたちは下の階だろう。
「シュウヤ様、お帰りなさいませ」
「シュウヤ様、キッチンを借りてます~」
「あ~お兄ちゃんたち!」
シウとドロシーに片手をあげつつ、アイテムボックスから
「おう――さっきぶり、またちょい寄っただけだ。で、ペレランドラ。これがヴァルマスク家からプレゼント。<血魔術・製本>の魔術書だ」
「はい、ありがとうございます、早速――」
ペレランドラは<血魔術・製本>の魔術書を受け取ると、直ぐに魔術書に<血魔力>を込めていた。
一瞬で魔術書は血の魔力粒子に変化し、それがペレランドラの体に流れ込むと、体が煌めく。
ペレランドラは頷きながら……体から<血魔力>を発した。
ロングスカートのスカートと両手首の袖のヒラヒラが靡く。
そのペレランドラは、
「……ふふ、<血魔術・製本>と、血刃のスクロールが作成可能な<血魔術・血刃ノ製本>を覚えましたわ」
「素晴らしい!」
ヴィーネの言葉に同意だ。
「「「おぉ~」」」
「「おめでとう~」」
「おめでとうございます~」
皆も喜ぶ。
「ふふ、<魔念大魚><洗脳魔魚・声><魔殺方魚>を得ているペレランドラは、魔術師としての潜在的な才能があったようですわね」
と、クナの言葉に、皆が頷いた。
ペレランドラは胸元に手を当て、皆に会釈後、
「それもこれも皆様の活躍のお陰です」
「「ふふ」」
ペレランドラは、
「シュウヤ様、これからサーマリア王国か西の【八峰大墳墓】ですか?」
「あぁ、実は魔界セブドラだ。〝炎幻の四腕〟も、サーマリア王国にいるだろう魔神レンブラント様か、その血筋の者へと渡したいが」
「え、はい」
ペレランドラにも〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体を飲んでもらうか。
〝知記憶の王樹の器〟を取り出した。
「あ、記憶の共有ですね」
「おう」
「あ、わたしもそれはわたしも飲んでおきたい~」
「お兄ちゃん、ペレランドラばかりでずるい、わたしもそれを飲むからね!」
と、ドロシーとシウも寄ってきた。
「ふふ、ずるいだなんて」
と、ペレランドラは口に手を当てて笑っていた。
「分かった――」
と言いながら、<血魔力>を〝知記憶の王樹の器〟に注ぐ。
直ぐに〝知記憶の王樹の器〟に神秘的な液体が滲み出て溜まる。
その神秘的な液体に指を入れて記憶の操作を行う、ラムーの顔は見えないように工夫を凝らす――。
そして、ペレランドラに飲んでもらった。
「……なるほど、理解しました。そこの女性が魔命の勾玉メンノアですね。おめでとうございます。しかし、新しい眷族が、まさか、魔霧の渦森で誕生するとは、本当に不思議な縁です……」
「そうだな」
ペレランドラは、〝知記憶の王樹の器〟を受け取る。
ドロシーに、
「では、ドロシーとシウにも、また、俺たちの記憶を得てもらおう、今の場合はペレランドラに合わせての神秘的な液体の記憶だった。今、二人に合わせて、俺の体感できる記憶を操作するから少し待ってくれ」
「はい!」
「うん!」
ドロシーとシウは期待の眼差しを寄越す。
〝知記憶の王樹の器〟に<血魔力>を注ぐと直ぐに神秘的な液体が煌めく。
指を入れて、その神秘的な液体の中に現れている海馬体のような不思議なモノを触るように記憶を操作。
ラムーの顔は見えないようにと、エッチな部分はある程度は残しつつ――。
「ドロシーから」
と〝知記憶の王樹の器〟を渡した。
ドロシーは両手で〝知記憶の王樹の器〟を掴むと、神秘的な液体を覗き込む。
「……ふふ、またシュウヤ様の大事な血を、うふ♪」
と声を高ませつつ〝知記憶の王樹の器〟を傾け、神秘的な液体を飲んだ。
目元が充血し、体が発熱したように赤くなると、倒れ込む。
こうなると分かっていたので、すぐにドロシーの体を支え、〝知記憶の王樹の器〟を右手で掴む。
ドロシーは数回頷きつつ目を開けた「ふふ、すべて、分かりました。皆さんはこれから【グルガンヌ大亀亀裂地帯】に向かわれるのですね」
「あぁ、そうなる予定だ」
皆も頷く。
ドロシーを離し、〝知記憶の王樹の器〟を持ちながらシウの前に移動。
片膝で床を突くように姿勢をさげた。
「シウ、今のように体が少しふらつくから、止めといてもいい」
「大丈夫、ペグワースのおっちゃんたちも飲みたいと思うけど、今は忙しいから、わたしがシュウヤお兄ちゃんたちの記憶を得ておく!」
シウの双眸は力強い。
そこで、ソファに視線を向けてから、〝知記憶の王樹の器〟を背後にいたヴィーネに渡し、
「了解したが、シウ――」
「あっ」
と、シウを抱きかかえて、ソファに運ぶ。
柔らかい背もたれにシウを預けてから、後ろに右腕を回し、背後に居たヴィーネから〝知記憶の王樹の器〟を受け取った。
それをソファにいるシウに渡すが、〝知記憶の王樹の器〟の端っこは持ったままにした。
シウには重そうに見える〝知記憶の王樹の器〟だ。
シウは俺を見て、「ありがと、シュウヤ兄ちゃん、そのまま少し皿を持ち上げて」と発言したシウに頷いて、
「おう」
と〝知記憶の王樹の器〟の端を少し持ち上げ、シウの口に〝知記憶の王樹の器〟の縁を合わせた。
シウは、神秘的な液体を覗き込むように、その神秘的な液体を飲むと直ぐに氣を失った。
〝知記憶の王樹の器〟は仕舞う。
数分後、パッと目を開けたシウは「凄い!」と叫びつつソファから跳躍して、床に着地。
皆を見て、「皆がんばってね、おっちゃんたちに、戦神イシュルル様と戦神ラマドシュラー様の衣装などを細かく伝えて……ううん、このわたしが像を!!」
と、小さい簔を掲げていた。
「……了解した。がんばってこい、ペグワースたちによろしく、あ、ザガとボンには会ったかな」
「うん会った。エンチャントぅ! と挨拶されたから、わたしもエンチャントぅ! って挨拶を返したら、笑って、エンチャントを連発してくれたの、面白かったぁ」
「そっか」
「うん、じゃまたね!」
と、浮遊岩のほうにかけていく。
「ふふ、お昼ご飯を一緒に作ったばかりで、食べていないのに、ふふ、元気なシウちゃん」
ペレランドラの言葉にドロシーも笑顔で、「うん、あとで卵焼きと魚と野菜の炒め物を下に持っていくから」
娘のドロシーの言葉に母のペレランドラは静かに頷いて、
「ふふ、はい、頼みます」
「うん」
「では、ペレランドラ、ここは任せる、俺たちはサイデイルに向かうとしよう」
「分かりました」
と、リビングを歩いて階段を上がる。
ペントハウス内の二階にある部屋を見ながら……。
クレインが、そこの一つの部屋を見て、思い出したように頬を赤らめてくる。
指摘はしないが、可愛かった。
そのまま転移陣ルームに入った俺たちは、サイデイルの転移陣ルームに皆で転移した。
ここは、ちょうど、キッシュが暮らしている地下にある。
階段を上がった先にいるのはキッシュ。
階段をあがった。
「よう、キッシュ!」
「――シュウヤ!」
透明感の高いキッシュの肌は変わらない――。
と、キッシュが、跳び掛かるように抱きついてきた。
そのままキッシュのシトラスの匂いを感じながら、さまざまなことを思い出しつつ横回転。
そうして……。
イチャイチャと談話を繰り返すこと数十分――。
◇◇◇◇
キッシュたちにも〝知記憶の王樹の器〟を飲んでもらい、また、皆と記憶を共有を行ってから、キッシュの屋敷を出た。
城と化しているサイデイルの中心で皆を見る。
「ファーミリアたちとシキとアドリアンヌたちは、このまま付いてくるか?」
ファーミリアは頷いて、ホフマンやアルナードとルンスを見る。
「ついてきますわよね?」
「「ハッ」」
「勿論です」
と、付いてくる。ヴァルマスク家の<筆頭従者>の三人だけで<従者長>たちはここには居ない。
コレクターのシキも、
「私たちもシュウヤ様とついて行きますわ、タイミングが会えば宵闇の女王レブラ様との面会に大魔商ドムラチュアともスムーズに会えるかもです」
「了解した、宵闇の女王レブラ様との面会はまだ先の予定だが、直ぐに会えるかな」
「はい、【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】なら直ぐに。また宵闇の女王レブラ様が所有する惑星セラの東マハハイム地方の傷場から、いつでも魔界セブドラの宵闇の女王レブラ様の所領【宵闇のレブラの地】に進出もできる」
「「「おぉ」」」
「そして、シュウヤ様、私の共同眷族へ筋道ですが……」
「お? なんだ」
「はい、南マハハイム地方の十二樹海の吸血神ルグナド様、知記憶の王樹キュルハ様、宵闇の女王レブラ様の魔界側三神の遺跡群の一つ、【樹海のハーヴェストの泉】、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】と〝血の陰月の大碑〟ですが、そこを私たちでも利用可能に解放をして頂けたら……宵闇の女王レブラ様への手土産になります、共同眷族は許されるかもです」
「ふふ、そうですわね。宵闇の女王レブラ様は既にシュウヤ様を目に掛けていると思いますから……」
と、ファーミリアも微笑みながら発言し、
「同時に吸血神ルグナド様への手土産ですわね、地下の傷場も確保できれば、吸血神ルグナド様への絶対的な貢献となります」
と話を続けた。
シキも「それは、はい」と微笑む。
すると、キサラが、
「……月狼環ノ槍とも関連が深い、双月神ウラニリ、双月神ウリオウ、神狼ハーレイアの神界側の三神の遺跡も近くにあります」
皆が頷いた。
古代狼族を守護する双月神ウラニリ様、双月神ウリオウ様、神狼ハーレイア様の神界側の三神。
古代狼族にとっては譲れない地でもあるか……。
アドリアンヌは、
「そうですわね、シュウヤ様と古代狼族との繋がりと言えば、ホワインも……」
突然話を振られたホワインは瞼から眉毛と頬に掛けて月と狼の印を輝かせながら、胸に手を当て会釈していた。
勿忘草色と黒色の髪は綺麗な女性だ。
更に、ホワインの片目が輝く狼たちの幻影が、サイデイルの地を駆け抜けていく。
<月狼ノ刻印者>と<光の授印>と<光神の導き>が、またも反応した。
※月狼ノ刻印者※
※月狼環ノ槍が認めた相手に魔印を刻める者※
※月狼魔印を得た者は加護を受ける代わりに月狼ノ呪いを受ける※
※光の授印※
※魂に光の授印を刻むことで体の一部分に十字のシンボルマークがつく※
※光属性の攻撃の吸収&無効化を行う。精神耐性も向上。深層精神汚染を防ぎ、自動発動後は鐘の音を鳴らし浄化を促す。自分自身が成長してから、ある一定の条件下で固有光属性スキルを覚える※
※光神の導き※
※<光の授印>と光神ルロディスの影響下にあるアメリの聖眼を見て、祝福を得て、祝福を与え、愛されていることが必須※
※迷いし光の魂たちを直接救う者が魔と縁深き者であることに光神ルロディスが強く興味を抱いた証明※
※光神ルロディスと光の精霊たちの誘いを受けやすくなる※
胸元の<光の授印>が光を帯びる。
月狼環ノ槍はないが、前にも<月狼ノ刻印者>は反応した。
月狼環ノ槍のことでもあり、狼月都市ハーレイアに寄ることも考えたが、今はな。
「皆、ちょい待っててくれ、子鹿も連れてくる。相棒もここで待っててくれ」
「にゃ~」
「あ、はい」
「ん」
「はい」
「分かりました」
と、二十四面体の一面をなぞり起動させて、一人でペルネーテに戻る。
寝室から廊下に出てリビングにいたメイドたちを挨拶してから玄関から庭に出る。
そこで、左側の厩舎にいたポポブムと子鹿とミミたちに近付いた。
続きは明日。 HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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