千六百三十五話 ユイの剣技とレグとコジロウと合流
『やりましたね、光の剣技まで学べるとは思いませんでした』
『エルフの魔剣師って印象でしたが、イギル・ヴァイスナーの双剣は格好良かった』
『おう、そうだな』
ヘルメとグィヴァの念話に応えていると、
「「「「おぉ!」」」」
と、一斉に歓声があがった。
すると、レベッカが、
「シュウヤ、今の幻影は、イギル・ヴァイスナーの幻影よね」
と聞いてくる、頷くと、近くに居る聖鎖騎士団団長ハミヤと重騎士たちが、
「「「またも奇跡が!」」」
「すげぇ、聖戦士の剣技を獲得」
「〝黄金聖王印の筒〟を為し得たシュウヤ様は、まさに聖者で聖王、聖戦士の生まれ代わりだ!」
「「「聖者様!」」」
「「「聖王様!」」」
と、興奮した様子で叫ぶ語る。
そして、王の間に次々と白の九大騎士の騎士たちが集まってくる。
貴族たちはもう居ない。近くに居るユイたちに、
「皆、<光聖・迅双剣>を会得した。先程の光景を見ていたから分かると思うが、この剣技は光の属性を帯びた聖戦士イギル・ヴァイスナーの双剣技、驚異的な速度を活かす突きと払いの剣舞だ」
と、伝えた。
「「おぉ~」」
「やりましたね」
「ユイも、この双剣を試してみるか」
「うん」
ユイが頷いた。そのユイにイギル・ヴァイスナーの双剣を渡した。
ユイは、受け取った双剣の柄を見てから左手と右手で柄を握り、速やかに振るう。
片目が隠れる位置まで振りかざされた左手に持つ双剣の刃が陽光を浴びて鋭く閃光を放つ。
と、煌めくまま右手が握る双剣で突きを繰り出し、流れるように金が混じる鋼の柄と銀のハバキの煌めく。
左手の双剣が返すように一閃が振るわれる。と、右手の双剣が上向くや、突如として切っ先の軌道が下に向かう――。
それは双剣の刃が双頭の蛇の牙の勢いに見えた――。
イギル・ヴァイスナーの双剣が動くたび、複雑に光が織りなす残光が生まれては大気に混じるように消える――。
光を帯びている反った双剣は陽が反射していて綺麗だ。
一呼吸後、ユイは、動きを止めた刹那、片方ずつ握っている双剣に<血魔力>を込める。
と、目力が増し瞳孔が収縮し、鋭い眼光を生む――絶殺の意思が瞳に宿ったかの如く、双眸が白く煌めいた。その冷たさを帯びた白い淡い光はユイの殺意を映し出した鏡のようにも見える。冷気が肌を刺すようにも感じた。
すると、光だけの属性に反応した双剣と波紋の文字が輝く、波紋から冬の朝霜のような魔力が零れ落ち、大気に消えていく。
「あっ――」
ユイは何かを得て、少し加速し、右腕を振るい左腕で突く。
イギル・ヴァイスナーの双剣から空気をも切り裂くような鋭いジィィンとした音が響く。
刃から光の波紋が少し浮き、刃がブレていた。
そのブレた双剣の刃の上に薄らとした風の刃もあるように見えた。
ユイはニコッと笑顔を浮かべつつ右腕を上げ、
「剣のスキルを覚えた! 名は<聖速ノ双剣>。双剣を振るう速度が上昇するようね、闇属性に強いし、風の剣も出現し、触れた相手にダメージを重ねる。なかなか強力」
「おお! 早速か、ユイが使うならしばらく預けておくよ」
と、ザガとボンが修理した鞘もユイに渡した。
「うん、ありがと」
と、ユイはイギル・ヴァイスナーの双剣を鞘に仕舞う。
その鞘と双剣を胸ベルトの長いベルトの剣帯に嵌め込み、それを背負っていた。肩口に双剣の柄を覗かせる。
ユイは両腕をクロスしながら背に回した両手で双剣の柄を握り、一気に引き抜いた。刃が空を切る音が鋭く響く。
イギル・ヴァイスナーの双剣がユイを認めるかのように、陽光が双剣を通してユイを照らした。その瞬間、ユイの両目から白銀の霧が立ち昇り、ジリジリと焼け焦げるような音が響いた後、すぐに消えた。
死神と光神の相反する力で何かが生まれるかもな、そのままユイは横回転しながら双剣を背中の肩口の鞘に華麗に納めた。
と、イギル・ヴァイスナーの双剣を鞘ごとアイテムボックスに消す。
背に装着させた位置に寸分狂わずイギル・ヴァイスナーの双剣を再出現させた。
ユイが持つアイテムボックスもかなり優秀だな。
しかし、死神ベイカラはイギル・ヴァイスナーの双剣と光神ルロディス様に聖戦士のイギル・ヴァイスナーのことを氣に喰わないか。
「ユイ、古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナー鎧装備も使うかな? 何か光系のスキルを得られるかも知れない」
「うん、使わせてもらう」
肩の竜頭装甲を意識し、古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナー装備を外す。
光を帯びた白銀の装備一式が床に落ちる。胸甲、右腕の防具、脚絆のような腿当て、そして足防具。
ユイはすぐにそれを拾って、手早く装着していく。
それを見ながら、蓬莱飾り風のサークレットと額当てと面頬装備の闇と光の運び手の装備に切り替えた。
そこで、皆と会話していたザガとボンに、
「ザガとボン、早速の修理をありがとう。で、もう聞いていると思うがルビアたちを眷族にしたんだ」
「うむ、今、ルビアから少し話を聞いて驚いたが、嬉しかったぞ」
「エンチャッ、エンチャント!」
ボンは、俺の近くに寄り、右腕を上げ、『シュウヤ、よくやった~』と言うようにサムズアップを繰り返す。
そのボンとザガに、
「そうなんだ、ルビアを<筆頭従者長>に迎えた。ザガとボンの眷族化も行いたいが、さすがに能力ダウンもあるから今度でいいかな」
と言うと、ザガはニカッと歯を見せるように笑顔を浮かべて、
「勿論だとも、その気持ちだけで、どれほど嬉しいか」
と発言、鎧とエプロンが融合した職人用の防護服の上掛けをアイテムボックスにしまった。
金具がズレて金属音を立てる。
「エンチャント~」
ボンは両手を振りながら喜びつつ、ルビアの近くに移動し片腕と片足を交互に上げつつ「エンチャ、エンチャァ~、エンチャントゥ!」と楽しそうなダンスを行った。
「ふふ、ボン君、わたし、<血魔力>も扱えるんです! 見てて」
「エンチャ?」
「ふふ!」
と、ルビアは額の紋様を輝かせた。
額から淡い白銀と漆黒の鴉が生まれる。スキルを得ていたようだな。
「エンチャントゥゥ!」
「「「おぉ」」」
淡い白銀と漆黒の鴉はそんなに大きくない。
ルビアの回りを巡ってから、ヴェロニカとメルとナロミヴァスとハンカイの顔の真横を通り、アドリアンヌとアドゥムブラリに寄っては鳴き声を響かせ、ファーミリアとビュシエに寄る。
ファーミリアは白い鴉とビュシエは白い大きい蝙蝠に変身すると、二匹の白銀と漆黒の鴉はひっくり返ったように驚いて、ルビアの近くに移動していた。
「ふふ、この二匹は、魔命を司るメリアディ様が、わたしの体に知らず知らずの内に内包させていたようです。下級精霊のベウガとウルウです。実体化させると、様々な攻撃にそれぞれの方法で反応して、わたしを守ってくれるようです。半透明となって偵察もできる!」
「防御用だったのか」
「はい」
「「「へぇ」」」
「おぉ、光魔ルシヴァルの眷族化とは進化を促すのだな……」
ザガも感心しながら語る。
「あぁ、個人差があるが、ルビアは結構特別なこともあるかな」
「ふむ……」
「「「はい」」」
『ですね』
ヴィーネとキサラとメルはすぐに肯定し、ヘルメは念話を寄越す。
神子、<神の子>で直に魔命を司るメリアディ様と繋がっている。
下級精霊のベウガとウルウの白銀と漆黒の鴉が防御に特化した精霊たちなら、二剣流の隙を補うには最適かもしれない。
と、考えながら〝知記憶の王樹の器〟を取り出した。
速やかに己の<血魔力>を〝知記憶の王樹の器〟に送り込む。
器から液体が湧き水のように滲み出て、神秘的な液体はすぐに溜まった。
その神秘的な液体に指を入れ、指から血の<血魔力>を送る。
血の<血魔力>の見た目は、輝く血、鉄分にヘモグロビンの血だが魔力も加わることで、霧状にも変化することがある<血魔力>――。
その血が神秘的な液体に触れた瞬間、まるで宇宙の中心で超新星が爆発するかのような眩い閃光が走る。
次々と生まれる光の渦はやがて不思議な形に――そう、海馬体を思わせる神秘的な器官だが……。
海馬体と言っているが、この記憶を弄れるモノの見た目は、DNAとRNAに神経的な細胞、またはウーパールーパーの細胞にも見えるかもしれない。
その海馬体のような不思議なモノを触り、いつものように記憶を操作した。
ペルネーテの武術街の自宅の庭で起きた眷族化の儀式の記憶を入れて、その記憶の操作を……魔鋼族ベルマランの掟は維持してラムーの顔は俺だけが見られるようにと――速やかに終えた。
その俺の記憶入りの神秘的な液体が入った〝知記憶の王樹の器〟を、ザガに――。
「――ザガ、【大墳墓の血法院】の血銀行の出来事……海の底のような海溝の手前に一瞬で建設された【吸血神ルグナドの血海の祠】の事象と眷族化の流れの、少しの間の記憶入りだ」
「おう、了解――」
ザガは〝知記憶の王樹の器〟の縁際を口に運ぶ。
俺の記憶入りの神秘的な液体を飲み込むザガは、喉が輝くと、全身の皮膚の血管が一瞬だけ浮かび上がった。ゼロコンマ数秒の間だが、俺には見えた、そして、ザガの大脳付近の魔力が活性化していると<闇透纏視>で理解できた。
魔察眼よりも高度な魔眼の能力は、皮膚を透かし、内臓など魔力の流れが事細かく見ることができる。
幻影もある程度なら見破ることもできるのが、<闇透纏視>でもある。
ザガは、頷いた。
俺の記憶入りの神秘的な液体を飲んでも倒れるようなことはなく、俺を見て、
「なるほど……魔命を司るメリアディ様とも再び邂逅とは……そして、ルビアを<従者長>ではなく、よく<筆頭従者長>に迎え入れた。嬉しいぞ……そして、エトアとナロミヴァスとハンカイとラムーとクナも一気に光魔ルシヴァルの家族が増えたのだな、それしても眷族のたびに様々な演出があるのは面白い、ラムーは一族の歴史、存亡を体感できたような氣分となった……」
と、語りつつ〝知記憶の王樹の器〟をボンに渡していた。
魔鋼ベルマランの兜を被っているラムーをチラッと見ていたが、あまり氣にしていない。
「おう、ラムーの魔鋼族ベルマランたちの歴史も相当だ」
ザガは「あぁ」と頷く。
ボンは神秘的な液体を覗き込みながら「エンチャント……」と不思議そうに呟いていた。
恍惚めいた表情だし、魅了されているような雰囲気だ。
ボンも〝知記憶の王樹の器〟の俺の記憶入りの神秘的な液体は何度も飲んでいるが、あの神秘的な液体の見た目は海馬体のようなモノを起点に万華鏡が可愛く見えるほど不思議に美しく変化しているからな。
そのボンは〝知記憶の王樹の器〟を傾け口に縁を当てると、一気に飲む。
と、ボンは「……エンチャント!!」と元気な声を発して、頷いてから、俺に〝知記憶の王樹の器〟を返してきた。
それを戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞う。
ボンは、そのままルビアの下に移動して、ルビアをハグしては持ち上げ、
「エンチャッ、エンチャント!」
と『凄い、凄い~』と言うように何度もエンチャントを叫んでいた。
ルビアも「ふふふ、ボン君おろして~!」と笑って楽しんでいた。
ザガとボンに、
「二人とも、これから魔霧の渦森に向かうんだが、付いてくるか?」
と、聞くと、ザガは皆を見て「ふむ……」と頷く。
ボンは俺たちの話を聞いていたのか、ルビアを優しく降ろすと、踊るような足取りで俺の近くまで来て、嬉しそうに「エンチャントぅ~」と声を弾ませる。
意味は『一緒に行く~』だろうな。
相棒の黒猫も「にゃおお」と鳴いて、ボンの片足に猫パンチ。
「エンチャ~」
ボンは、その足を叩いていた黒猫を両手を下に出して、捕まえようとしたが、黒猫は「ンン」と喉声を発して、尻尾を立てながら華麗に逃げていた。
ザガは、そんな様子を見て「ガハハ」と笑ってから「相変わらず賑やかだな」と発言。そして、俺をジロリと見てから、
「……魔霧の渦森の炉とザガの工房はシュウヤの記憶で見ている。使える物も既にミスティが持ち帰ってはシュウヤの工房で、皆と色々な金属の組み合わせを試しているから、どうせなら試作型魔白滅皇高炉が見たい。ボンもいいな?」
「エンチャント!」
頷いて、
「了解した。王国最高の白銀魔連二式皇高炉ラメゲゲよりも試作型魔白滅皇高炉のが優秀かもしれないが、どう思う?」
「それは実際に触ってみないと分からんぜ、あ、それとファルス殿下には、王国最高の白銀魔連二式皇高炉ラメゲゲを自由に使っていい証しでもある〝黄金の鍛冶獅子勲章〟をくれたんだが……」
「エンチャント~」
〝黄金の鍛冶獅子勲章〟かぁ、ボンも片腕を上げて喜ぶ。
ザガもはにかむ。
「勲章とは凄い、おめでとう!」
「うむ、オセべリア王国主催の〝最高の鍛冶師大会〟で優勝した際にもらえる勲章でもある。俺は優勝していないのだがな……」
「いいじゃないか、ファルス殿下も俺の記憶を見て体感している。魔槍杖バルドークの重要性を体感しているからな、そして、どちらにせよ最高の鍛冶屋にかわらん、ザガとボンが居るから、今の俺がある――」
魔槍杖バルドークを右手に召喚。
そして、肩の竜頭装甲を意識し、全身を魔竜王バルドークの一式装備に変化させた。
ザガとボンはジッと、俺を見て、装備を見ては、瞬きを繰り返し、
「……ふっ、魔竜王バルドークの品か……ありがとう……シュウヤ」
「……エンチャ……」
ザガとボンは魔槍杖バルドークを改めて見て、少し泣きそうになっていた。
皆も、拍手して、
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
「ん、最高の鍛冶屋と付与魔法師!」
「はい、魔槍杖バルドークを生み出したザガとボンは、わたしたちも救ったと同じですからね!」
エヴァとヴィーネの感激している言葉に頷いた。
「「「「はい!」」」」
「「「「素晴らしい、鍛冶屋にザガ!」」」」
「「「〝黄金の鍛冶獅子勲章者、ザガ!」」」
と、<筆頭従者長>のレベッカ、<筆頭従者長>のエヴァ、<筆頭従者長>のヴィーネ、<筆頭従者長>のキサラ、<従者長>のサラ、<筆頭従者長>のヴェロニカ、<筆頭従者長>のハンカイ、<筆頭従者長>のクレイン、<筆頭従者>のメル、<従者長>のエトア、仲間のシャナ、<筆頭従者長>のナロミヴァス、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロス、<筆頭従者長>のクナ、仲間のキュベラスとドマダイとイヒアルスと炎極ベルハラディ、光魔ルシヴァルの眷族の闇の悪夢アンブルサンと流觴の神狩手アポルアたちが、次々とザガたちへと祝福の言葉を述べていく。
「にゃおお~」
相棒の黒猫も鳴いている。
「エンチャント~」
「ピュゥゥ~」
「ワンワンッ」
「にゃァ~」
荒鷹ヒューイはザガとボンの周りを祝福するように飛んでいた。
銀白狼と銀灰猫も、ザガとボンの足下に移動して己の頭をザガとボンの足にぶつけて甘えていった。銀白狼は姿が大きいからザガとボンは押されていた。
銀白狼の背にのし掛かって喜んでいたザガに、
「白銀魔連二式皇高炉ラメゲゲを試すなら、ここに残るか? それとも塔烈中立都市セナアプアの魔塔ゲルハットに来るならすぐに送ることができるが」
「白銀魔連二式皇高炉ラメゲゲは十分だ。塔烈中立都市セナアプアに送ってくれ、商売上手なペレランドラや、ペグワースたちにも挨拶をしておきたい」
「了解した、では魔塔ゲルハットに送るとしよう」
「エンチャント~」
ボンは相棒たちと躍るようにコミュニケーションを取っていたが、此方を見て、『good!』と言うように親指を立ててくる。
そんな皆を見ながら魔槍杖バルドークを消して、指に<血魔力>を込めた。
そのまま魔塔ゲルハットに居るかもしれないカットマギーたちに血文字を送る。
『今からザガとボンを魔塔ゲルハットに送るから、だれか、ゲルハットの施設を案内してあげてくれ』
戦闘型デバイスのアイテムボックスから二十四面体を取り出した。
球体の二十四面体を右手の掌で回しに回し、十八面を表にして止めた。
そのまま左手の指で十八面の鏡の記号をなぞる。
と、なぞった窪みが緑色に変化した直後、二十四面体が急回転しながら浮上して閃光を放ち、折紙のように面と面が折り畳まれた一瞬で光のゲートと化した。
面と面が折り畳まれるところで時空を貫く穴を作り、アインシュタインローゼン橋のように2点間を直接つなぐことを想像してしまう。
と、魔塔ゲルハットのペントハウス内にいたカットマギーとペレランドラがゲートの先に映る。
カットマギーとペレランドラは笑みを見せつつ、
『ふっ了解したさ』
『お任せを』
続けて、塔烈中立都市セナアプアにいるカリィとレンショウの血文字も、
『了解~』
『承知しました』
と浮かぶ。
すると、ファルス殿下が走ってきたように肩で息をしながら現れた。
魔人レグ・ソールトとコジロウ・オガミは、ファルス殿下の横に居た。
ちゃんと、護衛を務めている。
アス家のクシュナーとディアはいないか。
ファルス殿下とレグとコジロウは駆けよってきた。
「シュウヤ! 戻っていたのか、勲章と褒美があるのだが、忙しいのだな……」
「「ご主人様――」」
ファルス殿下は少し淋しそうに語るのが、なんとも。
レグとコジロウは俺の前で片膝で床をついて頭を下げてきた。
「はい、殿下、勲章ならば、このナロミヴァスとその父アロサンジュ公爵に授けるのがよろしいかと。オセべリア王国を救った英雄です、レグとコジロウもご苦労さん」
「「ハッ」」
レグとコジロウは気合いが入っている。
ファルス殿下は、ナロミヴァスを見て、
「うむ。ナロミヴァス、【オセベリア大平原】の戦いは聞いている」
ナロミヴァスは少し頭を下げ、胸元に手を当てて、
「ハッ、父上はペルネーテにて待機しております」
と語ると、ファルス殿下は頷いて、
「うむ、アロサンジュの紅馬騎士団は重要な戦力。帝国も打撃を受けたことは確実だから、大丈夫ではあるが、竜魔騎兵団の第一を失ったのは大きな痛手。その影響もあり、第二軍団と第三軍団を王都に集結させている。第一青鉄騎士団の一部は王都グロムハイムに残し、第一~第三旅団をリーリア海岸のヘイタル要塞から【緑竜都市ルレクサンド】を見据えるように進軍させている」
と語った。
「はい、だからこその、父の紅馬騎士団なのですね」
「そうだ。【オセベリア大平原】を東から見据えた位置がペルネーテ、リムラ補給基地と太古都市ルルザックにも軍は居るが、現存の紅馬騎士団の突進力は随一だからな」
ファルス殿下の言葉を聞いたナロミヴァスは嬉しそうに微笑み、「ハッ」と返事をしていた。
「そして、レムロナを中心に白の九大騎士を建て直しの最中だ」
レムロナとフランは頷く。
「はい、このナロミヴァスは閣下の許しを得てますので、暫く、オセべリア王国に協力致します」
「うむ、そうしてくれると助かる、シュウヤもありがとう」
「はい、大騎士として当然の仕事」
「ファルス殿下、私たちもここに居る」
レザライサの言葉だ。
「先祖から世話になっているレザライサたちには、申し訳ない気持ちなのだが」
「なあに、いつも通りだ、約定は続いている。今後も世話をかけさせてもらうさ」
「フッ、では、いつも通りの取り決めだ、レザライサ、報酬は此度の活躍あるから、倍々の上乗せとなる、期待しておけ」
「ふふ、了解です」
「そして、もう地下オークションの邪魔はもうさせないから安心しろ」
「ハッ」
「「はい」」
レザライサとクリドススとファスたちも返事をしていた。
ファルス殿下は、俺を見て、
「先程まで一緒だったメルから【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の概要は聞いているし、リズたちにもメモらせてあるし、私兵の者に情報を伝えてある。だからもう王都グロムハイムは【天凛の月】の庭と思ってくれて構わない。鉄角都市ララーブインも【血月布武】の庭と化すだろう。その辺りはメルたちの仕事だからとやかくは言わないが」
「ふふ、王が闇ギルドの仕事についてはもう語らないほうが良いかと思いますよ」
と、メルが冗談的に語る。
「はは、たしかに、が、闇があっての光だろう?」
「「ふふ」」
「そうですね」
レムロナは肯定しているが、少しファルス殿下を責めるような視線だった。
ファルス殿下は『わかっている』と言うように笑顔を見せてから、
「……今のこの場に居る皆の前ならなんでも話ができる。もうしばらくは、そのような氣分でいさせてもらうぞ」
と俺を見てきた。
頷いてから、アイテムボックスからガルキエフの遺体が入った棺桶を取り出し、
「殿下、このガルキエフの遺体を」
「あ、そうであったな……」
と、棺桶に手を当て、黙祷するファルス殿下。
ファルス殿下は、棺桶から手を離し、
「ありがとう、シュウヤ、ガルキエフは国葬を行う」
「はい」
直ぐにレムロナとフランが続いた。
オセべリア王国の騎士たち衛兵たちもガルキエフの遺体が入った棺桶に手を当てていく。
ファルス殿下たちに、
「では、ゲートで塔烈中立都市セナアプアから魔霧の渦森に向かいます」
「うむ、便利だな、あ、レグとコジロウを返そう」
「あ、いいんですか?」
「あぁ、シュウヤたちは頼りになるが、いつまでもおんぶに抱っこではな、そして、どこぞのだれかに、暗殺されたら、敵討ちを頼むぞ」
「「「――陛下!」」」
「「殿下!?」」
と、レムロナとフラン以外の白の九大騎士の騎士たちがファルス殿下を責めるように大声を発していた。
「はは、皆の守りに期待しよう。それにグレートナイト・オブ・ワンのレムロナよ、王の護衛と親衛隊も一から組み直すと言っていただろう」
「それはそうですが……」
「いいのだ、シュウヤにはシュウヤたちの道がある。武術街の自宅のメイドたちは眷族化をしてないのだ、あそこの守りの要の紺碧の百魔族だけではな?」
「あぁ、はい、アジュールと会話を?」
「うむ、コジロウとレグの実力を我がたしかめようと、私の前で模擬戦を始めたのだが、聞いていないのか」
「聞いてませんでした」
と、自宅にいた皆に視線を向けるが、ホフマンとエラリエースたちは両手を左右に伸ばすだけ。
コジロウは、
「アジュール殿は強い、五十合は打ち合いましたが、時間の無駄と分かりましたので、引き分けにしていただきました」
「はい、私も戦いましたが、打ち合いだけになりました」
と、コジロウとレグが語る。
「了解した。アジュールの眷族化も考えてはいたが、ま、次回だな」
「ふふ、眷族候補はいっぱいですからね」
「ん、全員眷族にしたら、シュウヤが干からびちゃう」
「ははは、たしかに」
と、干からびるの言葉に、地下を放浪した時を思い出す……。
あの頃とは雲泥の差だな……。
しかし、よくあの地下から生きて相棒にアキレス師匠に出会えたよなぁ。
と、考えてから、
「では――」と、言いながら皆の顔を見回しつつ「ゲートに潜ろうか」と発言し、
「……聖鎖騎士団の皆と一部の魔族殲滅機関の隊員たち、また直ぐに会うかもだが、その時は直ぐに集合できるようにしといてくれよ」
「「「「ハッ」」」」
「「分かりました」」
と、レグとコジロウに皆をゲートへと促す。
「パキュ~」
「ピュゥ~」
荒鷹ヒューイはヴィーネの背について法魔ルピナスは俺の頭上から付いてきた。
そのままゲートを潜り、一気に光が収束するようにゲートペントハウス内だ――。
ペントハウスの広間、大きな窓からは屋上と空の景色が見渡せる。屋上にある植物園は馴染みの空間だ。
「お帰りなさいませ」
「盟主!」
「あ、ボクの盟主♪ お帰り♪」
左にペレランドラと右にカットマギーとカリィも居た。
ペグワースたちは一階で『すべての戦神たち』の神像造りに専念かな。
ナミとリツにパムカレたちも居ない。
その三人に、
「ただいまだ。皆、そして、だれでもいいからボンたちに、地下の試作型魔白滅皇高炉の案内を頼む」
「了解しました」
「了解です!」
「分かった♪」
と三人で案内するようだ。
ザガとボンは俺とカリィたちを見て、
「ふむ、俺はザガだ、そこの女性がペレランドラだな、よろしく頼む」
「エンチャント~」
と、挨拶すると、ペレランドラが、胸元に手を当て、
「はい、ザガとボンちゃんですね、こんにちは、そこの浮遊岩のエレベーターに乗って地下に行きましょう」
「分かった、では、ルビアよ、また今度だ」
「エンチャント!」
「はい、ザガさんとボン君、また、会いましょう!」
「ルビアちゃん、一緒にがんばろう~」
「はい!」
ルビアは念願だったようだからな、今後は俺たちに付いてくるんだろう。
そのルビアはエトアと意気投合している。
「ザガさんとボンさん、ゲルハットには三つのコアがあり、地下防衛機構があるんですよ、危険な【幻瞑暗黒回廊】が通じていますが、守られている。そして、魔塔ゲルハットの一階と二階の簡易的な街についても教えてさしあげますわ」
「あぁ、床屋があるんだったな」
「エンチャントぅ!?」
と、ボンが偉い反応している。
ボンの目は輝いていた。
両手を振りながら、エトアとルビアと黒猫の悪戯に対抗している。
その仕草は相変わらずの愛らしさだ。
そして、ボンの髪形は天然パーマだからな、付与魔法が上昇するような特殊な髪薬に、髪形をセットしてもらうかもだ。
と、考えつつ、皆を見て、
「では、俺たちは魔霧の渦森だ」
「「「はい」」」
「ンン、にゃおぉ~」
「にゃァ~」
「ニャァ」
「ニャォ」
相棒たちが先を走り、ペントハウスの巨大な窓硝子のところに向かう。
爪で、硝子のドアを引っ掛けそうだったから急いでそこに向かいドアを開けた。
先に「ンンン」と喉声を発した黒猫と「にゃァ」と鳴いた銀灰猫が飛び出た。
黄黒猫と白黒猫も追うように屋上を駆けた。
その皆が一斉に巨大な姿になって斜めに上昇していく。
 




