千六百三十一話 ナロミヴァス<筆頭従者長>となる
ナロミヴァスに続いて、銀灰猫、法魔ルピナス、ハウレッツ、銀白狼、黄黒猫、そして白黒猫が玄関前に現れる。
アルルカンの把神書と絡んでいた黒猫とポポブムが、
「にゃお~~」
「プボォプボ~」
と鳴き声を上げて、呼ぶ。
銀灰猫たちは中央の石畳にいる俺たちを見ながら歩いていたが、
「にゃァ~」
「ニャア」
「ニャォ」
「パキュル~」
「ワンッ」
「ぐもぅ~」
と鳴き声を発し、すぐに厩舎前へと移動していった。
すると、背後の正門にラファエル、エマサッド、そしてベニーが着地した。
見回りから帰ってきたか。
宙空に浮遊していたフーとヴェロニカが、その警邏組のベニーたちに手を振っている。
ベニーたちは俺たちに軽く会釈し、傍に居た【血月布武】の【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の若い衆に指示を出した。
良い行動と態度だ、ベニーたちも【天凛の月】の最高幹部のようなものだな。
すると、芝生にいるエトアを皆で囲む。
「おめでとうだ、エトア。これで俺たちは血の家族」
「はい、ハンカイさんは、わたしのお兄ちゃんですね」
「……な、俺がお兄ちゃんか、ハハハ、良い……」
と、ハンカイは恥ずかしそうな表情を浮かべて髭を掻いていた。
続いてクナが、
「ふふ、おめでとうエトアちゃん、<罠鍵解除・極>は、わたしたちを強くします。あ、今度は箱を開け……あ、今は止めておきますわ」
と、クナは罠解除が必要な怪しい箱を出したが、手首に美しく絡まっているチェーンのアイテムボックスに仕舞っていた。
第十八の<筆頭従者長>のクナもアイテム持ちだよなぁ。
ホムンクルスの偽クナにしてやられたせいでかなり減ったとは思うが、アイテム類は豊富に持つ。
過去の地下オークションの常連で、十二樹海の南方に流れている八支流のジング川とアルゼの街に近い【名もなき町】の【闇の妓楼町】などで色々と買い物していたし、闇のリストの人材たちとのコネから入手した珍しいアイテム類に各セーフハウスにもチェストはあるだろう。
エヴァが、
「ん、新<従者長>! これでエトアも新しい家族!」
「うん、血文字を覚えてから、ラムーと一緒に冒険者登録にも行こう、パーティ名は〝イノセントアームズ〟だからね」
「ふふ、はい」
「ふふ、優秀な鍵開け&罠解除師でもあるエトアの加入は大きいです」
「ラムーのアイテム鑑定士もね」
と、レベッカとキサラとユイが語る。
「「「はい」」」
「ふふ、ありがとう」
エトアも嬉しそうだ。
「ん、イノセントアームズの冒険は、まだ先だと思うけど、風のレドンドたちと約束した地下探索?」
「そうなるか」
「はい、六面六足のエレファント・ゴオダ商会のSランク依頼の、マハハイム山脈地下【古エルフの大回廊】の探索ですね」
ヴィーネの言葉に頷いた。
続いて、【ベルガット】と【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の若い衆が、
「「「「「「おめでとうございます」」」」」」
と、エトアを祝福していく。
そして、アドリアンヌととシキとメルが、
「羨ましいですが、微笑ましい~」
「ふふ、おめでとうございます、いずれは私も宵闇の女王レブラ様に許可を……」
と、シキは俺にウィンク。
宵闇の女王レブラ様に挨拶したいところ。
一度魔界セブドラに戻った際かな。
メルは、
「ふふ、おめでとうございます。エトアの加入は光魔ルシヴァルの発展に繋がる」
と、その副長らしい言葉に皆が頷いた。
一部の【血月布武】の若い衆たちが拍手している。
ファーミリアが、
「うふふ、皆さんの眷族増加に血銀行の修業が貢献していると分かるのは、とても誇らしい氣分です」
「……そうね、〝血宝具カラマルトラ〟と〝ラヴァレの魔義眼〟といい、ファーミリアとヴァルマスク家に感謝よ」
メルの感謝の言葉にファーミリアは満足そうに頷いた。
傍に居るヴェロニカも、〝血宝具カラマルトラ〟を装備し、
「――うん、ふふ、ルンスのお陰、わたしの〝血宝具カラマルトラ〟はメルとベネットを強化した。<血魔術・導装甲冑・零式>と<血ノ従者強化>と<血魔術・導具>と<血魔術・壱式>と<血魔術ノ理解>も得ることができた。ベネットは血銀行で更なる強化に挑んでいるし、凄い♪」
ヴェロニカの言葉にメルたちが頷き、ルンスに視線を向けた。ルンスは瞳を潤まして微笑む。
やはり、普通のお爺ちゃんにしか見えなくなってきた。
そのルンスは、
『はい、宗主のシュウヤ様も〝血宝具カラマルトラ〟を装備したら新たなスキルを得て、<筆頭従者長>たちに恩恵が回るかもしれません。しかし、宗主様の器の大きさと眷族たちとは異なる。ファーミリア様が〝血宝具カラマルトラ〟を装備した時は、アルナードとホフマンと私にも血の甲冑が展開されました。しかし、今のような多数スキルを得られるような恩恵はなかった』
と、語って、ヴェロニカが〝血宝具カラマルトラ〟を装備した時に得た恩恵の数々には驚いていたな。
メリッサも、
「シュウヤさんとエトアさんに、皆さん、眷族化おめでとうございます。あ、わたしも眷族化を……」
頷いたが、ルビアとラムーとシャナもいるからな。
エトアは、
「はい、皆さん、ありがとう!」
「良かったわねぇ~エトアちゃん~」
「「エトアさん」」
エトアは二の腕に処女刃を嵌めたまま、近くにいたシャナとルビアと魔族殲滅機関の二桁の速滅リヨと刹滅コガと抱き合った。
仲良くなったのか。
ナロミヴァスと闇の悪夢アンブルサン、流觴の神狩手アポルアたちは、庭の騒ぎに参加はせず、その皆と会釈し、会話をしながら歩いてきた。
広い庭には小屋や魔造家など色々と建物が増えたが、手狭には感じない。
ナロミヴァスはシャルドネ・フォン・アナハイム侯爵と挨拶し、キーキとサメの【鬼鮫】とリヒターの【ゴリアテの戦旗】のメンバーたちと西の戦場での結果などを話している。続いて聖鎖騎士団の重騎士たち、団長ハミヤ、パーミロ司祭、キンライ助祭、魔族殲滅機関のレングラット、チャンヴァル、ケキミラと他の隊員たちと次々と挨拶を交わしていった。
聖鎖騎士団の重騎士たちは庭の左に造った三階建ての家や各自の魔造家、テントや、ミスティの工房とママニたちの寄宿舎で休むことが多いようだ。
ナロミヴァスたちは、【闇の教団ハデス】のキュベラスたちとも挨拶した。
ナロミヴァスはキュベラスとイヒアルスの威圧感にたじろいだが、俺を見て冷静さを取り戻し、深呼吸して頷くと、キュベラスとイヒアルスと握手を交わした。
魔人ナロミヴァスは、黒の預言者の一人として、ペルネーテの【悪夢の使徒】のベラホズマ・ヴァーミナのペルネーテ支部を率いていた。
その同じ肩書きの黒の預言者だった魔人キュベラスは、実質【闇の教団ハデス】の盟主のような立場だった。
ナロミヴァスとキュベラスはそれなりの付き合いがあったと思うが……間には、キーラとクリムにクシュナーとサーエンマグラムとサケルナートが入っていたからそこまでの親密度ではないようだな。
そして、ドマダイたちを初めて見るなら、たじろぐ気持ちは分かる。
ドマダイの巨大な頭部や、イヒアルスの失った頭部が異界の片腕のサージルと融合し、片腕が頭部だ。
完全に見た目はモンスターで怪物だからな。
皆と同じようにびびりまくるのは当然だ。
ヒョウガの六眼を持つ豹獣人がまともに見える。
ナロミヴァスたちは、そのヒョウガ、モスヒート・バンデル、飛影ラヒオク、炎極ベルハラディ、豪脚剣デルの魔人たちと会釈し、会話をしていく。
その様子はあまり見られない光景だろう。
続いて、ヴァルマスク家のファーミリアとアルナードとルンスに<従者長>たちと挨拶していた。他の吸血鬼たちは【大墳墓の血法院】に戻ったままでもうここには居ない。
更に、シキと霊魔植物ジェヌと骸骨の魔術師ハゼスと高祖吸血鬼のハビラたちもナロミヴァスたちと華麗に挨拶し会話をしていた。
次に【海王ホーネット】のブルーと魚人たちと、【シャファの雷】のギュルブンとナキュとメンバーたちと、【星の集い】のホワインとファジアルたちと【白鯨の血長耳】たちとも挨拶していく。
そうしてから、ナロミヴァスと<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスは、此方に足を向けた。
俺の傍に居るクレインたちは〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んでいる。
最後に飲み終えたキスマリが、
「――主、今ままでの流れを理解した……」
「あぁ、怒濤の展開目白押しだったろ」
「ふっ、そんな気軽に語っていい内容ではない、というか本人だからいいのか……」
と、六眼が面白く動きながら細い顎の下に左上腕の指が数本置かれる。その仕種は女性らしさがある。
キスマリも戦士で、筋肉マッチョなところがあるが……。
乳房はあるし、腰はくびれてお尻も柔らかい。
ようするに、ぼんきゅっぼん。
と、考えてつつ笑いつつ、
「はは、おうよ」
キスマリは、
「しかし、キュベラスにアルケーシスとの絡みに、<異界の門>が便利すぎる! ルーク国王と宮廷魔術師サーエンマグラムの怪物っぷりが凄まじい! 悪者のクリムが可愛く見えたぞ……そして王都グロムハイムの王宮最下層の王の隠し部屋の光の女神イリディアの展開も痺れた。更にだ、血銀行がハイム海と繋がっているとは! 地下の大動脈にも通じているのではないかと愚考する! 【吸血神ルグナドの血海の祠】の復活も面白い……そうした何もかもが【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の成果……とにかくめでたい!」
と、興奮しながら語る。
六眼が少し血走っていた。
そのキスマリは<従者長>として戦場で活躍してくれていた、感謝だ。
そのキスマリは、「主、これを返す」と、〝知記憶の王樹の器〟の器を返してきた。それを「おう」と言って受け取った。腰と胸ベルトに紅馬騎士団の軍旗と真新しい徽章を得ていた。
公爵から褒美でももらったか。
すると、ナロミヴァスたちが、そんな会話を行っている俺たちがいる石畳の訓練場にやってきて目の前で片膝をついて頭を下げた。
「「「「――閣下」」」」
「おう、頭をあげてくれ」
「「「「ハッ」」」」
少し頭を上げたナロミヴァス、アンブルサン、アポルア、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスを見ながら、
「戦場での活躍はクレインたちから血文字で聞いていた」
クレインたちも頷く。
ナロミヴァスたちは、
「はい、父上たちを救うことに成功しました。紅馬騎士団の損傷率は三割で、部隊としては壊滅に近い状況でしたが、なんとか近隣のリムラ補給基地と提携している馬商人から馬を補充し、部隊の体制を整えました」
「その紅馬騎士団はペルネーテに待機かな」
「本体は、父上と共にペルネーテの西の出入り口を占拠中です、そこで青鉄騎士団と衛兵隊、冒険者たち、そして【血月布武】の一部と合流&休憩し、兵を私邸と抱えていた傭兵商会から雇い入れています。そのお陰で、西の【オセベリア大平原】へと直ぐに出発できる体制は整えています。また一部は白の九大騎士の大騎士序列第六位レヴァン・ラズトグフォンが率いて王都グロムハイムに向かっています。部隊を割ることに将校から反対意見がでましたが、私がそう指示を出しました」
「了解した、では立ってくれ、<筆頭従者長>に迎える前に、〝知記憶の王樹の器〟で記憶を共有してもらう――」
「ハッ」
とナロミヴァスたちが立ち上がった直後、
「やった!」
とエトアの喜びの声が響く。
石畳の訓練場の南の芝生側に居る皆も、
「ふふ、エトアも<血道第一・開門>を!」
「またもや<血道第一・開門>を一瞬で覚えたか!」
「またもやおめでとうございます!」
「第一関門突破が早すぎる~」
「わたしたちは苦労したんだけどね~」
ハンカイが、此方を見て、
「シュウヤ、やはり〝知記憶の王樹の器〟の効果説が濃厚か?」
「あぁ、飲めば飲むほど<血魔力>を体内に少しずつ取り込むわけだからな、その可能性が高いか」
「「「はい」」」
エトアは、<血魔力>を込めた指先で、『シュウヤ様、これが血文字、<血道第一・開門>こと第一関門を無事に覚えました。そして、全身を駆け巡っていく<血魔力>の操作が、魔力操作をこれほど向上させるとは、思わなかったです!』
そのエトアに、
「おう、基本は大事だ」
「はい、普通の<魔闘術>の質も上昇しましたが、<血魔力>とはまた別系統でもあると分かります」
「そうだ。<血魔力>は魔力と同一視できるが、別種でもある」
「キサラ様たちが詳しい魔点穴は難しいです」
「俺も当初はまったく理解できず。<魔闘術の心得>は得ていたが、今から思えば、知らず知らず強引に魔力操作を行っていたと分かる。だからこそ基本の<魔闘術>も難しい、体の魔点穴ごとに異なるかと思いきや重なっているところもあるんだからな」
「……はい」
「エトアの仙妖魔系統の【仙妖闇鬼オウガ・子闇精霊アウサス】だから、体と内臓類は、人族とは異なるだろうな。キッカの正経、魔脈、経脈と呼ばれる十六経の間を縦横に走る魔導脈に近いかもしれない」
「はい」
「今はそんなに気張らず、<血道第一・開門>の獲得を喜ぼうか、そして、おめでとう、これで離れても遠距離通信が可能となった」
「はい!」
エトアからナロミヴァスと皆を見て、
「では、ナロミヴァスを<筆頭従者長>に迎え入れる前に、〝知記憶の王樹の器〟の俺の記憶入りの神秘的な液体を飲んでもらう。<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスもだ」
「はい」
「分かりました」
ナロミヴァスと<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスとママニは立ち上がった。
ナロミヴァスに、記憶入りの神秘的な液体が入っている知記憶の王樹の器を渡した。
ナロミヴァスとルヴァロスは〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲むと、少しふらついたが、氣を取り直し、
「……なるほど、ルーク国王を糾弾から討伐する流れは……痺れる。【幻瞑暗黒回廊】の戦いも氣になりますね。ですが、もう王都グロムハイムは安全、危機は去った……素晴らしい歴史的事象です……まさに閣下こそが、真の英雄……オセべリアを治めるべく器を持つ王の中の王……」
「ナロミヴァス、オセべリア王国の王は俺ではない」
「ハッ、少々口が滑りました」
「……閣下、これを」
と、ルヴァロスから〝知記憶の王樹の器〟を返される。
「おう、では、ナロミヴァスを眷族にしようと思う」
すると、クレインが俺をジッと見て双眸に魔力を溜めつつ、
「……四人連続の眷族化……ふむ。先程から<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>の胸甲と鈴懸と不動袈裟風の装備を維持したままか……そして、まったく消費した感がない面だ……本当に<血魔力>を、タフだねぇ」
クレインは俺の眷族化で能力が落ちているのを見定めているようだな。が、俺自身が分かっているが、大丈夫だ。
「おう、<血魔力>は大量に得ている。光の女神イリディア様や光の女神カーナディア様の効果、または王宮の最下層にあった<聖刻ノ金鴉>と<光の授印>が連動し得た<古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナーの絆>を得たことでも、成長に繋がっている」
クレインたちは頷いた。
「……改めて、王都グロムハイムの王宮最下層に出現した【異形のヴォッファン】の軍隊たちと、血銀行の修業効果も相当なモノだったと分かるさ、ね。安心したよ……そして、新しい<始祖ノ触枷>が不謹慎すぎる……それでヴィーネたちは少し楽しんだようだねぇ……その記憶はなかなか……」
と、クレインは語尾の部分でキサラとヴィーネをジト目で見る。
ヴィーネとキサラは微笑んでいたが、クレインの視線を受けて少し視線が泳ぐ。
と、サッとした動作で橙魔皇レザクトニアの薙刀と魔槍斗宿ラキースを片手に召喚し、頷くと、
「ヴィーネ、シュウヤ様の<断罪刺罪>と、〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟と黒魔女教団に伝わっている重さが売りの<刃翔鐘撃>の違いを説明します――」
「――はい」
槍修業モードに移行していた。
まさに、血の姉妹といいたくなるほどの阿吽の呼吸。
クレインは俺を責めるように見てくるが、
「ふふ、いつかのお楽しみにしとくさね、エヴァ、血銀行に入らなかったのかい――」
「ん、先生、わたしもシュウヤの傍で戦ったから成長している」
クレインは石畳の訓練場から芝生側にいるエヴァの傍に移動した。
ルマルディも、
「シュウヤ様とナロミヴァス、がんばってください」
「おう」
「ハッ」
ルマルディはバックステップを行うように俺たちに笑顔を見せつつ後方に浮遊していく。そのまま旋回し、厩舎の前ではしゃいでいるアルルカンの把神書と黒猫と銀灰猫たちのところに移動していく。
そして、ナロミヴァスを見ながら――。
目の前に血の錫杖を生み出す。
「では、<光闇の奔流>などを内包した<光魔の王笏>を使用する」
「ハッ」
<光魔の王笏>を発動した――。
大量の血が全身から放出された。
体に痛みが走るが我慢だ――。
一瞬で俺の光魔ルシヴァルの血はナロミヴァスを飲み込む。半径三十メートル以上を血の領域に変えた。
俯瞰で見たら丸い半円の形に保たれた血のゼリーにも見えるかも知れないな。
真横の視点なら横長の水槽の中に溜まった血に見えるかもしれない。
ナロミヴァスは空気を吐き大量の泡を吐きながらも立ち泳ぎを行うと銀色の魔力粒子を吐き出し始めた。その銀色の魔力粒子はナロミヴァスを囲うように子宮を模る。
と、ナロミヴァスへと流れ込む血の流れが加速した。
同時に血ノ錫杖から鐶の音色が響いた。
その血の錫杖はナロミヴァスの体に流れ込んでいる血の流れに乗らず、回りを巡りながら鐶を鳴らし続ける。鐶から無数の波紋を発生させて、その波紋をナロミヴァスに衝突させていく。
皆と同じ、ナロミヴァスは波紋を体に受けるたび体に光の筋を造ると、キサラたちが演奏を奏で始めた。
ダモアヌンの魔槍をギターに変化させている。
それを器用に弾くキサラはロックスターに見える。
和風の三味線ロック――。
キサラは歌も上手い、ハスキーボイスは心地良い。
シャナの歌声とイモリザの歌声も合う。
三人の歌声が光魔ルシヴァルの血に共鳴したように小さいルシヴァルの紋章樹が出現。
と、ルシヴァルの紋章樹は消えていく。
その血の中に<光魔・血霊衛士>の簡易版たちが出現。
ルッシーの血妖精の集団も出現。
七福神が乗るような宝船に乗った血妖精ルッシーも出現。
大量の小精霊と水鴉の群れが出現。
やや遅れて腰に注連縄を巻く小精霊が出現した。
すると、腰に注連縄を巻く小精霊が、宙を舞う血の錫杖を右手に引き寄せた。
キサラとイモリザとシャナが奏でる曲調に合わせてマスゲームが開始される。
光と闇を意味する陰陽の図が皆で模っていた。
その陰陽の図のまま宙空を行き交う、小精霊たち。
集団で規則正しく移動を繰り返しながら、今度は、何かの絵画を現す。
光の女神イリディア様と光の女神カーナディア様の幻影がモチーフか?
え? ナロミヴァスの肖像画か?
続いて、オセベリアらしき勇者の格好をした腰に注連縄を巻いている小精霊が出現した。
それが動きまくる。ナロミヴァスの祖先たちの活躍を描いているつもりなのか。
アロサンジュ家の家系図のようなマスゲームも展開されていく。
と、腰に注連縄を巻いた小精霊は俺と似た姿を模った。
回りの小精霊と血妖精と血霊衛士たちは、ヴィーネやエヴァにレベッカたちの姿に似せてきた。その俺の格好を真似た腰に注連縄を巻く小精霊は、皆を率いて、【異形のヴォッファン】の軍隊と似た血霊衛士と小精霊たちを倒しまくるマスゲームに移行していた。
その戦いで勝利するように、腰に注連縄を巻く小精霊は血の錫杖を振って打ち鳴らした。途端に、腰に注連縄を巻く小精霊以外が整列しつつお辞儀を始める。
幕のような物が左から右に流れて、それらの幕に皆が捕まって消えていく。
キサラたちの音楽も途端に止まる。
俺たちが起こした現象だが劇の一場面を見ている氣分になった。
幕が開くような演出の後――。
一転して、水鴉たちが血の海の中に出現し増殖したと思いきや、黄金角を思わせる計算式の図形と波形に変化しつつナロミヴァスの体に突入していく。
小精霊と血の妖精ルッシーたちもパパッと現れ消えると陰陽太極図と似た光と闇の幻影に変化しつつナロミヴァスに突入を始めた。
ナロミヴァスに流れ込む血の勢いが加速するとナロミヴァスの体が浮遊し、金色に包まれた。
次の瞬間――ルシヴァルの紋章樹の幻影が真上に出現。そのルシヴァルの紋章樹の無数の枝葉から魔線が放出され血の世界の中に弧を描きながらナロミヴァスの体に吸着されていった。
ナロミヴァスは人形劇のマリオネットで操られるような印象と成る。
ナロミヴァスは前を歩きつつ角を有した魔族に体を変化させた。
直ぐに人族に変化し、魔族に戻るを繰り返していくたびに大量の血を取り込んでいるナロミヴァスは<血魔力>を倍増させる。更に、魔族と人族の姿に変化を繰り返す速度を上げると、その体に新しい光魔ルシヴァルの意匠が増え、紳士服に戦闘服の防護服も変化が起きた。
魔族の体にも変化が起きていた。
胸の装甲が増え、関節部が細くなり、背が伸びている。
光の筋も筋肉鎧のような物も増えた。
魔族らしさが薄まって顔にも陰影が増したか端正な顔立ちが更に磨かれていった。
金色の髪が、これでもかと輝きを帯びながら長い金髪が背に靡いていく。そんな、ザ・漢と成ったナロミヴァスの前に<光魔の王笏>の印が浮かぶ。
と、変身は止まった。
ナロミヴァスに付いていた魔線が消える。
ルシヴァルの紋章樹の幻影が一気に色づいた。
幹に太陽を思わせる輝きを生み出しながら、その幹が太く縦に伸び太い枝を左右に生む出し続けて成長し、枝に無数の銀色の葉が誕生し花が咲き乱れた。
銀色の葉と花以外にも、極彩色豊かな植物も咲き乱れていく。
樹の屋根の天辺は太陽を思わせる明るさ。
まさに陽。
樹の根の真下は、月を思わせる暗さ。
まさに陰。
葉と花から銀色の魔力の波が太陽のプロミネンス的な動きで放出され、血の世界に閃光を起こす。
銀色の魔力の粒子は周囲に散らす。
太陽を彷彿とさせる樹の屋根と幹と枝から迸っている魔線と魔力の波がナロミヴァスの体と繋がった。
ルシヴァルの紋章樹の根っこがナロミヴァスの体に絡み付くと、ナロミヴァスの体が半透明と化す。
半透明なナロミヴァスはルシヴァルの紋章樹に身を委ねると鎧に光の粒が集結し陰陽の図が造られる。
刹那、眉毛から闇の炎が斜め前に噴き上がる。
と、その炎の色合いが血色が混じり出す。
そのままルシヴァルの紋章樹と重なった。
ルシヴァルの紋章樹の根っこがナロミヴァスに絡み付いた。
更に、ルシヴァルの紋章樹とナロミヴァスが重なっている幹から榊のような棒が飛び出た。
それを掴んで、ナロミヴァスの体を祓い撫でる。
祓われる度に恍惚とした表情となったナロミヴァスの体に無数の血の筋が生まれては消えた。
更に血の線から数学染みた暗号のような文字が迸っては消える。
と、榊のような棒はナロミヴァスの体に取り込まれた。
ルシヴァルの紋章樹の幹と万朶に――。
<筆頭従者長>を意味する大きな円に、
第一の<筆頭従者長>ヴィーネ――。
第二の<筆頭従者長>レベッカ――。
第三の<筆頭従者長>エヴァ――。
第四の<筆頭従者長>ユイ――。
第五の<筆頭従者長>ミスティ――。
第六の<筆頭従者長>ヴェロニカ――。
第七の<筆頭従者長>キッシュ――。
第八の<筆頭従者長>キサラ――。
第九の<筆頭従者長>キッカ――。
第十の<筆頭従者長>クレイン――。
第十一の<筆頭従者長>ビーサ――。
第十二の<筆頭従者長>ビュシエ――。
第十三の<筆頭従者長>サシィ――。
第十四の<筆頭従者長>アドゥムブラリ――。
第十五の<筆頭従者長>ルマルディ――。
第十六の<筆頭従者長>バーソロン――。
第十七の<筆頭従者長>ハンカイ――。
第十八の<筆頭従者長>クナ――。
第十九の<筆頭従者長>を意味する大きい円――。
ルシヴァルの紋章樹と幹と無数の枝と葉の合う位置に、類縁関係と派生関係などを意味するように枝分かれた樹状図として出現していく。
芸術的に、光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹が展開される。
第六の<筆頭従者長>のヴェロニカの名を刻んでいる円の縁から別の線が系統樹として、小さい円へと繋がっていた。
その小さい円の中には<筆頭従者>メルと<筆頭従者>ベネットの名が刻まれてある。
第十六の<筆頭従者長>バーソロンの名が刻まれている円の縁からも線が系統樹として小さい円に繋がっていた。
その小さい円の中には、<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノの名が刻まれてあった。
それとは別の小さい円がある。
樹の造形が生かされた意匠が非常に美しい。
<従者長>カルード――。
<従者長>ピレ・ママニ――。
<従者長>フー・ディード――。
<従者長>ビア――。
<従者長>ソロボ――。
<従者長>クエマ――。
<従者長>サザー・デイル――。
<従者長>サラ――。
<従者長>ベリーズ・マフォン――。
<従者長>ブッチ――。
<従者長>ルシェル――。
<従者長>カットマギー――。
<従者長>マージュ・ペレランドラ――。
<従者長>カリィ。
<従者長>レンショウ。
<従者長>アチ。
<従者長>キスマリ。
<従者長>ラムラント。
<従者長>エトア。
続いて、光魔騎士などの名が刻まれている円が出現。
光魔騎士デルハウト、シュヘリア、グラド、ファトラ、ヴィナトロス。
バミアルとキルトレイヤの木彫り、ナギサ、ミレイヴァル、イモリザとツアンとピュリンの木彫りとフィナプルスの彫り、<古兵・剣冑師鐔>のシタン、ヘルメとグィヴァ、<魔蜘蛛煉獄王の楔>の蜘蛛娘アキ、クナの本契約の魔印のような彫りの模様は消えていない。
しかも、大きい円と小さい魔線が繋がっていた。
悠久の血湿沼ナロミヴァス、闇の悪夢アンブルサン、流觴の神狩手アポルアの魔印も系統樹に刻まれているが、第十九の大きい円と魔線で繋がった。
まさに、光魔ルシヴァルのデンドログラム。
ナロミヴァスは、そのルシヴァル紋章樹を吸うように徐々に融合を果たしていくと、紋章樹の太い幹が呼吸をするように隆起し、呼吸の度に、生きとし生ける物の意味があるように周囲の銀色の葉が生まれて散りつつマントの形と成っては消えている。
ナロミヴァスの能力を意味する?
系統樹としての<筆頭従者長>の新しい十九の<筆頭従者長>の円の中に、生々しい動きでナロミヴァス名が古代語で新しく刻まれた刹那――。
周囲の血とルシヴァルの紋章樹をナロミヴァスが吸い取ると、ナロミヴァスは前掛かりに俺に何かを言うように手を出して、倒れた。
そのナロミヴァスに寄って、
「ナロミヴァス、大丈夫か」
「はい、閣下……」
ナロミヴァスの手を握った。
そのナロミヴァスは俺を上目遣いで見つめてくる。
頷いて、引っ張り上げた。
ナロミヴァスの顔が目の前だ、美男子すぎる、鼻が高い。
ナロミヴァスは俺の手をギュッと握り胸元に近づけ、俺と顔を更に近づけてきた……碧い目に<血魔力>が内包されて、<魅了の魔眼>を得たように怪しく煌めく。
このナロミヴァスと戦った時は睨み合う調子だったんだよな。
ナロミヴァスのイケメンぶりはアドゥムブラリに負けていない。
そのナロミヴァスから少し距離を取った。
ナロミヴァスは頬が朱に染まっている……。
盛大に逆水平チョップで、ツッコミをしたかったが……。
斜め右を浮遊しているヘルメさんを見て癒やされた。
そして、
「ナロミヴァス、処女刃を渡しておこう――」
「ハッ」
処女刃を取り出し、手渡した。
直ぐにナロミヴァスは二の腕に処女刃を嵌める。
「エトアたちのように<血道第一・開門>を直ぐに得られるかもだな」
「はい」
すると、ヴィーネたちが、
「ご主人様とナロミヴァス、<筆頭従者長>おめでとうございます」
「ん、十九番目の大眷属の誕生、今日は凄い、シュウヤは本当に大丈夫?」
「シュウヤ、どうなの?」
エヴァとレベッカが寄って、心配してくれた。
「大丈夫だ――」
と笑顔を向けた。
「「……」」
「ん、シュウヤやっぱり調子が悪い?」
レベッカとエヴァとヴィーネは顔を見合わせてから、
「……ご主人様……」
「うん、少し、今までだったら、唇がどうとか言って、キスを求めてくるのに」
「ん」
実は、一瞬、ふざけて唇がどうとかやろうと思っていたが、たまには、と、真面目な調子で応えたことがまずかったか。
「大丈夫だって、ほら――肩の竜頭装甲!」
<銀河闇騎士の絆>を意識し、発動。
「ングゥゥィィ」
と、防護服をダークな印象に変化させた。
<パディラの証し>を胸元に付ける。
「あ、<パディラの証し>の〝闇に輝く紋章入りのバッジ〟ね。<銀河闇騎士の絆>も獲得していた」
「時魔神パルパディとも邂逅して、シュウヤは認められていた」
「はい、<光闇の奔流>の黄金比を有した光魔ルシヴァルを陣営に引き込もうと狙っているようでしたね」
キサラの言葉に頷いた。
〝異界の館〟でサケルナートを倒した際に、突如乱入してきた時魔神パルパディ。
その時魔神パルパディは、
『……かのフォド・ワン・ガトランスマスター評議会……我が銀河での作戦を次々と潰されてきた……チッ、希少なバイコマイル胞子にエレニウム因子を持つ最良の素材を……お前たちに先を越されたが……ふっ、黄金比は、我ら闇騎士こそが輝く。それはお前も知っているだろう……コモンセンスのアオロよ、ふふふ、ははは、やがて、その銀河騎士も、我らの闇騎士となるのだ……ふはははは!』
と念話を寄越し空間に発生させていた亀裂ごと消えた。
闇に輝く紋章入りのバッジと魔杖レイズと魔杖ハキアヌスなどはその時に入手した。
その衣装のまま、
「だから、元気もりもりだ。ということで、ルビアも眷族に迎え入れよう」
「え!」
ルビアは口を両手で塞ぐ。
両目から涙を流し始めていた。
「ふふ、よかったですね、ルビア」
「ルビアもか、シュウヤも本当に大丈夫そうだし、そうなると血銀行などで得た恩恵は計り知れないわね……」
「はい……」
「そうですね、血銀行は血海でしたし、吸血神ルグナド様もご主人様を受け入れていた、そう、母なる海のように……」
ヴィーネの詩のような語りに、皆が静まる。
キサラが、頷きながらナロミヴァスが<血魔力>を操作しているのを見て、
「……これでオセべリア王国は盤石ですね」
クレインも、
「あぁ、一世紀は盤石さね、エルフと同じく見た目の年を取らないから、二世紀はいけると思うが、それ以降は、フェードアウトしないと怪しまれるよ」
クレインの言葉に皆が頷く。
「ねぇ、ナロミヴァス、<血魔力>を操作しているけど」
「あ、はい、皆様の会話を聞いていました。閣下、これを――」
と、処女刃を返された。
「ナロミヴァスもやはり<血道第一・開門>は一瞬で覚えたか」
ナロミヴァスは胸元に手を当て、頭を下げてから、
「はい」
と返事をして頭を上げつつ、右手の指に<血魔力>を込める。
その指で、
『――皆様、先程、<血道第一・開門>を得た<筆頭従者長>のナロミヴァスでございます、よろしくお願い致します――』
と皆に血文字を送っていた。
続きは明日。
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