百六十二話 アイテム鑑定からまったりタイム
休憩を交えて荒野を進んだ俺たち。
途中、沸騎士たちが先行しすぎた。
毒炎狼と酸骨剣士から急襲を受ける。
炎毒の炎をもろに浴びてボロボロになった沸騎士たち。
が、俺たちの新しい武具の実験大会となって、それらのモンスターを殲滅した。
「にゃごおお」
沸騎士のボス気分の黒猫さんが怒った。
両前足の猫パンチを沸騎士たちにバシバシと喰らわせている。
肉球の弾力を受けた沸騎士たち、表情は頭蓋骨だから分からないが、双眸が煌めいた。
「閣下、ロロ様、面目なく……」
「我らは責任をもち、切腹をおこないますっ」
「――我も続くぞ、アドモスッ」
「「ぐぉぉぉぉ」」
本当に腹を掻っ捌いて、魔界に帰っていく沸騎士たち。
お前らは『鉄拳』の義光かよ! とツッコミを入れたくなった。
「にゃ? にゃぁぁ」
黒猫は急に切腹した沸騎士たちを見て、驚く。
触手を俺に伸ばし、気持ちを伝えてきた。
『またきえた』『どこ?』『さみしい』
「ロロ、気にするな、またすぐ戻ってくる」
「にゃあ」
触手を収斂しながら、肩に戻ってきた黒猫さん。
俺の頬をぺろっと舐めてくる。
一方、皆は沸騎士が消えた光景に唖然としていた。
「……あの騎士たち、勝手に死んだの?」
「真面目なんだ、と思う。インターバルが少しあるが、また呼び戻せるから安心してくれ」
「……そう、なんだ」
「ん、不思議……」
「ご主人様、潔い騎士たちなのですね、雄なのですか?」
「どうだろう……雌って感じではないな」
雌の強さを重視するヴィーネらしい問いだ。
そんなこんなで……。
地上に転移が可能な、水晶の塊が鎮座する場所に戻ってこられた。
その水晶の塊をタッチ、無事に地上へ帰還――。
冒険者ギルドで依頼と魔石の精算を済ませた。
依頼達成数は三十六になる。
Bランクのことを聞こうと思ったが、後回しにして、ぞろぞろと奴隷たちを伴いギルドを出た。
皆でスロザの古魔術屋に入り、扉の鐘を鳴らす。
ギルドに出していない大きい魔石はエレニウムストーンとして……。
暇な時にアイテムボックスに納めたいところだ。
そんなことを考えながら――。
階段を下りて……カウンターへと向かう。
そこで、アイテムボックスを操作――。
カウンター上に金箱を出現させる。
「こ、これは――」
さすがの渋い店主も金箱を見て、驚きの顔を見せた。
「店主っ、ふふーん、わたしたちがゲットした金箱よっ」
レベッカが鼻息を荒くするように自慢。
細い腰とお尻を突き出した形。
くっ、いちいち魅力的だ。
「素晴らしい、金箱を直接回収とは……どこかの、有名なトップクラン入りでも果たしたのですかな?」
「ノンノン、違うわ。わたしたちはクランには入っていない。普通のパーティ、無邪気な武器団よ」
店主は首を何回も縦に振る。
レベッカに乗せられたか、更に関心を示す顔色に変わると……。
瞳がギラギラと輝く。
表情が冴えた店主は、俺をチラッと見ては、レベッカを見て微笑む。
「それはそれは、その名を覚えておきましょう。では、この金箱の中身の鑑定をご希望なのですね?」
「うん、後ろのカッコイイ彼に聞いて、うちのリーダーだから」
レベッカはウィンクをしながら腕を伸ばし、話をバトンタッチしてきた。
「はい。では、リーダーの方、鑑定はどのアイテムを?」
「まずは、仲間たちが持っているアイテムから……」
そうして、仲間と奴隷たちが装備していたアイテム類を鑑定してもらう。
レベッカが持つ赤黒い魔宝石を持つ長杖。
見た目通り火属性の杖で炎を産み出すことに長けている。
名前がグーフォンの魔杖というユニーク級アイテム。
第五階層の水晶体へ帰る時に、火球、炎柱、火炎の壁を連続で使用していたのは見ていた。
それから、三人の美女たちが髪に装着中の貝殻の髪飾り。
魔法威力上昇と魔力消費軽減効果があり、中々にレア度が高いアイテムだった。
ユニークではない普通のマジックアイテムだが……。
お洒落にも使えて性能のいいマジックアイテム。
値段はその分跳ね上がります。と、スロザはファッションにも詳しいのか力説。
ピアスの耳飾りと貝殻の水着も名前はなく普通のマジックアイテム。
効果は装着すると泳ぎが速くなるらしい。
俺は説明を受けている間……。
貝殻の水着を彼女たちへ着せて写真を撮っては、即席バレーボール部を作って、けしらかんおっぱい重力審査会を作って、海馬へとおっぱいさんを永遠の記憶として残したい。
とか、不埒なアホなことを妄想していた。
「……シュウヤ? 貝殻をじっと見てどうしたの?」
レベッカが俺の視線を見て不思議に思ったらしく、聞いてきた。
「あ、あぁ、いや、その、泳ぎが速くなるなんて素晴らしいなと」
「ふーん、この貝殻も一応は防具のようだけど……シュウヤ、またエロイことを考えていたんでしょう?」
ハハ、ばれてーら。
「まあね、レベッカにも着て欲しいかな、と」
「この貝殻を?」
「そう、貝殻だけ」
「……変態」
「ん、レベッカは着ないの? わたしはシュウヤが望むなら着てもいい」
「おぉっ」
さすが、エヴァ様、天使の微笑で大胆にも着てくれると言ってくれた。
「ちょっ」
レベッカは驚いてエヴァを見る。
「ご主人様、今、着替えますか?」
『閣下、このような貝殻がお好きなのでしたら、わたしも身につけますが』
ヴィーネとヘルメがそう言ってくる。
少し混乱しながらも嬉しくなった。
『ヘルメにも今度着てもらうよ』
『はい』
念話でヘルメに告げてから、ヴィーネとエヴァのほうを見る、
「二人が着てくれるなら嬉しい」
「ちょっと、待ってよ……負けないんだからっ――わたしも着るわよっ」
レベッカは焦ったような仕草と顔つきで、着る宣言をしてくれた。
「おぉ……」
だが、レベッカの場合、隠す……。
「あーーっ、何か、変なことを想像していたでしょ!」
「ん、えっちぃな、シュウヤ」
「ご主人様……」
「ゴッホン、まったく、いちゃいちゃと……次の鑑定に移ります……」
ダイハード的な渋い禿げ店主に注意された。
皆、黙った。
世界一ついてないマクレーンから45口径の銃を向けられたくはないからな。
続いてエヴァのアイテムの鑑定に移る。
彼女が選んだインゴットは、緑皇鋼という魔力浸透度が極めて高いレア金属。この間、銀箱から手に入れた鉱物より確実にグレードは上らしい。
売れば大金になるとか。
因みに、俺が彼女の首に掛けて上げた真珠のネックレスは魔法防御上昇の効果があるマジックアイテムだった。
続いてヴィーネの品を鑑定。
彼女が選んだ腕輪は、闇属性と風属性の魔宝石が埋め込まれてある。
スロザは、
「これは素晴らしい、伝説級、名前はラシェーナの腕輪。魔法威力上昇効果、更には、闇の魔宝石からはハンドマッドという腕型の小さい闇精霊を数体呼び出せますし、風の魔宝石からは風属性の透明な盾を任意の場所に出現させることができます」
「おぉ、やはり、優秀だったか」
「ん、帰りの戦闘でもかなり効果的だった」
「うん、あの闇の手たちが敵を押さえていた奴ね」
エヴァとレベッカは素直に称賛している。
「ありがとうございます。これで、ご主人様や皆さまに貢献できるでしょう」
ヴィーネも嬉しそうだ。
次は奴隷たち。
ママニが装備する金色に輝く薄い鎖帷子には名前はない。
が、身体能力引き上げ、物理防御上昇、魔法防御弱上昇の効果が掛かっていた。
喉輪は、声質を高める効果と、物理防御弱上昇効果。
面頬にも、物理防御弱上昇と魔法防御弱上昇の効果。
武器の黒鎖と繋がる大型円盤武器にはアシュラムという名前があった。
この武器も帰りがけに使っていたのを見て知っているが、モーニングスター系の鎖を用いて大型手裏剣を直接ぶつけるといったやり方や、<投擲>系に使える武器でもある。
盾にも使えてかなり優秀な武器だ。
見た目は大型手裏剣だが、キャプテンアメリ〇風といえば分かりやすいか。
フーが装備している銀糸のワンピースは物理防御弱上昇と魔法防御上昇。
黄土色の魔法石が嵌まる短杖は、土系統の礫、土槍を詠唱なしで使っていた。
優秀な短杖だと思っていたが……。
やはり、鑑定してもらうと、バストラルの頬という土精霊の名がつくアイテムだった。
サザーの蒼い服はプロロングルスという名がつく小さい洋服。
効果は身体速度弱上昇、物理防御弱上昇効果が掛かっているらしい。
だから、少し動きが速くなって見えたんだな。
サザーが背負う魔法の剣。
その一対の青い長剣にも名がついていた。
イスパー&セルドィン。
水の双子妖精たちの名前らしい。
切れ味抜群の長剣の通り、魔法効果も切れ味を増す効果があるとか。
『ヘルメ、店主は水の妖精の名前を述べているが、知っているか?』
『いえ、多種多様に精霊や妖精も存在してますので、知りません』
続いて、ビアの防具は全部名無しの普通のマジックアイテム。
古代ローマの兜は物理防御弱上昇。
上半身に装着した大きいハーフプレートも物理防御弱上昇。
下半身を守る佩楯が、物理防御弱上昇と魔法防御弱上昇の品だった。
方盾も物理と魔法の防御弱上昇が掛かっているとか。
「こちらの赤ぶどう色の鞘を持つシャムシールの黒剣はユニーク級で、名がシャドウストライク。刀身が黒いだけに闇属性の力を持つ者が魔力を込めれば、闇のオーラを発生させて、身体能力を弱上昇させる効果があります」
ビアは闇属性は持っていないはず?
が、もともとが、強力な切れ味を持つ巨剣だと思うし、彼女には、ちょうどいいだろう。
ヴィーネと属性が合うが、重いから無理か。
続けて、麦わら帽子、大小ある冷蔵庫、植木、短槍も鑑定してもらう。
冷蔵庫は見た目通り魔石がエネルギー源で、中に入れた物を冷やせる魔道具だ。
これはオークションに出せば、かなりの高額で売れると言われた。
が、俺の家に置く予定、売らなかった。
小さいほうは、第二王子にでも売りつけてやろう。
続いて植木を鑑定していくと、
「おぉ、これも伝説級です。神話級に近いアイテムですよ。千年の植物、わたしはこのタイプは初めて見ました。見た目は植木ですが、魔力を与え続けると成長するとあります。これほどの品なら地下オークションで売られるべきかと思われます、わたしも買い取りたいです。大商人にも伝がございますから紹介しますが、どうしますか?」
渋い店主は珍しく少し興奮した口調だった。
「いや、必要ない。これは売らないと思う」
第二王子にも売らない、自分の家に設置するかもしれない。
「……そうですか、残念です。続いて、この短槍を鑑定しますね……これは、雷属性の効果を持つ短槍です。刃に使われている金属は雷状仙鋼と云われている未知の金属で、雷状ヶ原で三百年間鍛え上げられた、特殊金属らしいです。名前は雷式ラ・ドオラ。雷神の名前がついていますが、伝説級ではなくユニーク級ですね。刃先には雷系の魔力が込められています」
雷属性だけ、痺れる効果とかはないのか。
微妙だ。魔槍杖もあるし、登録して使うかはわからない。
「次の、麦わら帽子は身体能力がアップして身体が少し柔らかくなるようです」
柔らかく? まさか麦わらだけにゴ〇人間?
「柔らかくとは?」
「単に、極僅かですが柔軟性が上がるということです。武術街、闘技大会に出場する方には人気が出るかもしれません」
それだけか。
今度、王子のとこへ持っていこ。
続いて、額縁、短剣、釣り竿、農民フォーク、黒鋼インゴット、黒光りする矢束、小さい丸盾、黒い波紋を持つ両手斧、守護者級が持っていた蒼い光を帯びたフランベルジュを鑑定してもらった。
「額縁は、マジックアイテム。名はありませんが、額縁の重さを減少させる効果があるようです。魔法絵師専用アイテムですね」
店主がカウンターの端へ置くと、レベッカが触ってチェックしていた。
「――やっぱり、これも無理かぁ」
「レベッカは魔法絵師じゃないだろう?」
「うん、成りたかったんだけどね」
レベッカは苦笑いをしていたが、明らかに残念という顔だ。
「次の品は、小さい丸盾。これはユニーク級、名はクリゴーの咆哮。効果は挑発効果の弱上昇と物理防御弱上昇ですね。短剣は雷精霊ボドィーの息吹が掛かっているだけの、属性が雷属性のマジックアイテムです。この釣り竿は魔界の釣り人が使っていた物らしいですが、名前はなし。効果は魚が僅かに吸い寄せられやすくなるだけです。ピッチフォークは名前はなし、黄金の持ち手に刃が白金でできた超高価アイテムですね。魔法効果は不明です。ありきたりですが、幸運が訪れるとか、かもしれません。少なくともマイナス効果はありませんね。次の黒いインゴットは魔柔黒鋼、この金属もレア金属の一つですね。魔金細工師、鍛冶屋には喉から手がでるほどに欲しがられる金属です。五十本の矢束はユニーク級。闇の精霊サジュの祝福が掛かっています。名はサジュの矢、この矢を喰らった相手に一時的に暗闇効果を与えるようです」
釣り竿はボンにあげよう。
黒金属はエヴァが選択しなかったけど彼女にあげるか?
それとも、ザガにあげるか、それとも、ミスティに、あ、ミスティは俺の家がどこにあるか知らないか。
ま、宿経由でいずれ来るだろう。
盾は売るか、矢は、ママニに持たせるのはありかな。
「……次のこの両手斧の名はデグロアックス。魔界の魔将デグロが魔界大戦時に愛用していたとされる代物らしいです。伝説級。筋力上昇効果は絶大ですが、敏捷性減少効果があります……。呪いの品の第二種危険指定アイテム類と同類ですね。次のフランベルジュはユニーク級、名前はウォルド。剣刃で傷を負わせると、僅かですが、氷による追加ダメージを与える魔法が掛かっています。水の精霊ウォルドの加護を得た魔法剣ですね。ユニーク級ですが優秀です」
伝説級だが、呪い効果でいまいちな両手斧か。
フランベルジュは想像通りかな。
「ありがと。これで、だいたい鑑定してもらったかな」
鑑定料をカウンター上に置いた。
「はい」
店主は金を受け取っている。
「あとは……ピアスの耳飾りだが、欲しい人はいる?」
「ん、いらない」
「わたしもいらないわ」
「耳に穴はあけたくないです」
エヴァ、レベッカ、ヴィーネはいらないらしい。
奴隷たちは何も言わないが、まぁいらないだろ。
「ママニたちは、ピアスは? 丸盾は使いたいか?」
「要らないです。短剣と鎧にアシュラムで十分です」
「わたしもいらないです」
「僕も同じく」
「我もいらん」
ということで……。
金箱ごと、ピアスの耳飾り、額縁、小さい丸盾、宝石、金塊、銀塊を纏めて買い取ってもらった。
農民フォークも結構高く売れた。
すべて合わせると莫大な金だ。
その場で金貨を分ける。
皆アイテムボックスに急いで金貨を入れていた。
それにしてもこの店主……意外に、金持ちだ。
狭いとはいえ、こんな一等地に店を構えているのも頷ける。
大商人とも繋がりがあるようだし、噂通りの大物なのだろうか。
「店主は渋い顔に似合わず、金持ちねぇ」
レベッカが俺の気持ちを代弁してくれた。
「えぇ、はい、〝コレクター〟には負けますがね」
レベッカと会話する主人が鷹揚に語った瞬間、
「……ブブバッ」
何だ? 変な言葉が店主の腰辺りから聞こえたような……。
「はは、気にしないでください」
「そ、そうですか」
店主は珍しく焦った顔色を浮かべている。
腰辺りに禍々しい魔力が漏れているが、指摘はしなかった。
因みに……ポーチ型のアイテムボックス、銀糸のワンピース一着、魔力を帯びた釣り竿、大量にある魔柔黒鋼は俺がもらった。
今度、この黒インゴット、銀ワンピース、釣り竿、ポーチ型のアイテムボックスをザガ&ボン&ルビアの店に行った時にでもあげようかな、と。
この間は忙しそうだったから話さなかったが……。
家を買ったことも報告しときたいし。
王子用に……。
麦わら帽子、小型冷蔵庫、デグロアックスの両手斧、ウォルドの魔法剣辺りを持っていこうか。
鑑定と買い取りを終えたイノセントアームズこと、俺たちは、ほくほくとした満足した表情を浮かべながら、スロザの店をあとにした。
皆で、俺の家へ戻る。
◇◇◇◇
仲間たちは装備類を外し、リビングルームでくつろぎタイムとなった。
奴隷たちにも来てもいいんだぞと話したが……。
『大部屋と庭のお掃除をします』と、丁重に断られママニを先頭に離れた。
高級奴隷だけに戦闘以外でも働くつもりらしい。
その際に、今回の特別報酬の金貨だ。と、高級奴隷たちへ金を配る。
彼女たちは拒否らずに、敬礼をしながら受け取ってくれた。
戦闘だけで十分なんだが、今度、専門のハウスキーパーでも雇うか。
メイドさん。へへ、綺麗な女のメイドさんを……。
くつろぎながら、卑猥な妄想をしていると、
「……ねね。わたし、歩いている途中で、怖くなってきちゃった」
レベッカだ。
弛んだ表情で椅子に深く腰掛けながら話していたが、途中で、怯えた表情に変化させていた。
「どうして?」
「だって、凄い大金なんだもん。金貨はアイテムボックスの中に入れてあるけどさ……生まれてこのかた、こんな大金を持ち歩いたことなかったから……」
そりゃそうか。
依頼と金箱を含めて、宝石、金塊と銀塊だけでも、もの凄い大金になったからなぁ。
「心配なら俺が預かってもいいんだぞ?」
「あ、シュウヤなら安心かも」
「俺は歩く銀行じゃないから、すぐに下ろせないかも?」
少しふざけて言う。
「ふふ、わかってるわ。でも、シュウヤなら安心して預けられる。これほど安全な聖魔銀行はこの世に一つしかないと思う」
「ん、確かに、レベッカに完全同意」
「そうですね、ご主人様ですし、襲い掛かってくる泥棒は全員が、股間を潰されて死ぬでしょう」
彼女は前の出来事を覚えていたらしい。
「それで、俺が預かるか?」
「ううん」
「レベッカ、ギルドの銀行と聖魔銀行に、倉庫街にある有名商会の荷物預かり店も信用できる」
レベッカの隣にいるエヴァが、真面目に助言している。
「そうね、ただ、さっきと言葉が矛盾しているけど、大金を持ち歩く感覚も味わいたかったの……バカみたいでしょ」
「ううん、そんなことない。わたしも店の売上金を持ったとき、そんな感じだった」
微笑む二人。
そういや、彼女たちにお茶とか出していなかった。
アイテムボックスから、水差しに入っている黒い甘露水を出す。
そこに、ヴィーネが気を利かせて、ゴブレットを出してきてくれた。
「あ、黒い甘露水?」
「飲んでいい?」
「そそ、どうぞ。前に飲みたいと、言っていただろ」
「うん、ありがと、わたしが入れるね」
レベッカが二つのゴブレットへ黒い甘露水を注ぐ。
「ん、頂きます」
エヴァはゴブレットを口へ運び飲んでいく。
「美味しい」
「うん、お代わりが欲しいかも」
「いいよ、全部飲んで」
まだ大量にあるしな。
レベッカは空になったゴブレットへ甘露水を入れていた。
「これ、色々な物に合うのよね。紅茶の砂糖代わりとか」
「ん、料理にも」
「うんうん」
そこからはお菓子の旨い店がどこにあるとか、大鳥の卵料理が美味しい店がとか、あそこに何があるとか、今度わたしの店にきて、とか、ヴィーネも会話に加わり、完全なガールズトークが始まっていく。
俺は一人……。
膝の上で寝ている黒猫を撫でながら黙って話を聞いていた。
……時間的に昼過ぎか。
くつろいだところで腹が減ってきた。
鍋を迷宮の中で食ったきり何も食べていなかったし……。
昼飯でも作って、ランチタイムとしゃれこむか。
皆も腹が減ってないか、話を邪魔して聞いてみよ。
「――なぁ、盛り上がってるとこ悪いが、皆、腹は減ってないか?」
「ん、減った」
「わたしも美味しそうな食事の会話をしてたし、食べにいきたいなーって思ってたとこ」
「はい。わたしもお腹が空きました」
同じだ。
「それなら、外に食べに行くのもいいけど、俺が何か作ろうか?」
「うんうん、いいねー、どんな料理なの?」
レベッカが身を乗り出して、楽しげな顔を見せながら聞いてきた。
「まだ決めてないが、肉系と野菜を使った料理かな」
パンもあるし、ハンバーガー的なもんでいいだろう。
「ん、楽しみ」
「ご主人様、この間の?」
エヴァは微笑み、ヴィーネがそう聞いてくる。
「そう。似ている料理。んじゃ向こうで作ってくる」
「手伝うわよ」
「ん、わたしも」
「わたしもです」
三人とも手伝いたいらしい。けど、必要ないな。
「料理的に三人も必要ないが、それじゃ、キッチンルームにある調理机の上に食器と、こっちの机にゴブレットとかを用意しといてくれ」
「了解」
「ん、わかった」
「はい」
「にゃ」
皆、納得顔。
先にヴィーネが動き、エヴァも車椅子を変形させて、食器棚へと移動していた。
「あ、わたしもっ」と、レベッカも続く。
黒猫も反応。
皆が動くからか、真似をするように彼女たちの足下をいったりきたりしている。
しかし、三人で食器を持っても仕方ないと思うが、まぁいい。
俺は微笑しながらキッチンに向かった。
◇◇◇◇
新しく手に入れた冷蔵庫を取り出して設置。
魔石もセット。
野菜、フルーツ類、卵などの食材を冷蔵庫の中に入れておく。
竈に火をつけて、油を敷いたフライパンを二つ準備。
調味料とスライスしたパンもこっちの調理机に用意してっと。
彼女たちが調理机の上に大きな皿を多数、並べてくれた。
彼女たちに対して笑顔を向けてから……。
卵、小麦粉、玉葱、トマト系の野菜、レタス系の野菜、隠し味用に黒い甘露水も用意。
トマトと玉葱を細かくスライス――。
続いて、一緒に、適量の水と塩を合わせてフライパンに――。
どばっとかけて、まぜて、まぜて、ぐつぐつと煮込んでいく。
「シュウヤの手さばきが、凄いのだけど」
「ん、この間の鍋料理で、実力は折り紙つき」
この世界に折り紙があるのかと考えながら、
ルンガ肉のあまりを使う。
挽き肉を大量に作り、黒い甘露水少々と、卵と少量の小麦粉を混ぜ合わせていく。
「にゃ」
肉を混ぜているのが不思議なのか、黒猫が足を伸ばして一緒に混ざろうとしてきた。
「ロロちゃんっ」
すかさず、レベッカが黒猫を抱きしめていた。
後頭部にキスをお見舞いしてから、胸前に抱っこされている。
「はぁ~、癒やされる。なんて可愛いのっ」
「ん、次はわたしの番」
「ロロ様が、おもちゃに……」
とかヴィーネも言っているが、黒猫の肉球をさり気なく揉んでいるヴィーネさんだ。
さて、料理に集中しないと。
前はキャベツを使ったが、今度は刻んだ玉葱だけだ。
ハンバーグのタネを幾つも作った。
煮込んでいたトマトと玉葱のソースはいい感じ。
水分が飛んでこってりとしたトマトソースが出来上がっていた。
短剣の剣先を赤いソースへと突っ込む。
赤くなった刃先を舌でねっとりと舐めて味の確認。
うむ。殺し屋気分で刃をぺろ~りと、変顔を浮かべて舐めていく、
「舌を切らないでよ? でも、変顔だけど、味は美味しそうね」
「ん、トーマーのいい匂い」
トマトではなくトーマーなのか。
何気にカルチャーショックだよ。
だが、シンプルなトマトソースは完成だ。
よし、今度は違うフライパンでハンバーグを焼く。
焦げないように気をつけて、蒸すことをイメージしながら何個もいい感じに焼いていく。
焼けた肉汁をトマトソースと混ぜてソースを完成させた。
最後にパンとレタスの上にハンバーグを乗せて、作ったトマトソースをかけて出来上がりだ。
三つの皿の上にできたハンバーガーを用意。
「運びます」
「頼む」
「ん、行こう」
「楽しみね、リビングで食べましょっ」
料理を盛った皿を持ちリビングに皆で向かう。
各自、皿を自分が座る位置へ並べていく。
「食べるわよー」
「ん、肉料理、楽しみ」
「ご主人様っ、唾が自然と出てきてしまうぞ」
ヴィーネは少し素になっていた。
「食べようか、タレと肉は美味いと思う」
「いただきますっ」
「ん……美味しい」
「……パンが硬いけど、肉と汁が合わさっておいしい」
「にゃおん」
よかった。味は大丈夫みたいだ。
三人と一匹が喜んで食っている様子に満足。
黒猫は口髭あたりが赤くなっていた。
「……シュウヤは?」
「あ、今、食べるよ」
「おいしいんだから、温かいうちに食べちゃわないとっ」
何故か、レベッカは母のように偉ぶる。
そんなレベッカには返事をせず、皆と一緒に食べていく。
「……うまい」
ハンバーガーというより、ハンバーグだが、まぁこんなもんだろ。
途中、メロンのようなフルーツも出して、皆で食べながら、黒い甘露水に氷を混ぜたジュースを皆で飲んでいく。
こうして和気藹々と楽しく午後のひと時を過ごしていった。
「それじゃ、そろそろ日が暮れるし店に戻る」
「あ、わたしも一緒に家に帰るわ」
エヴァとレベッカは背伸びをしながら、椅子から立ち上がる。
「了解、送ろうか?」
「ううん、さっき少しレベッカと話していた店に寄るから」
「そそ、ね」
エヴァとレベッカは仲良くお買い物らしい。
「分かった。それじゃ、また迷宮へいく時に、誘うよ」
「うん、時々というか……毎日、暇だったらこの家に来ていい?」
「おう。前に言ったじゃないか。いいってな。あ、鍵がなきゃ困ることもあるか。この鍵を渡しとく――」
懐から家の合い鍵を取り出し、レベッカとエヴァへ投げて渡した。
「――ありがと」
「――ん、わたしもできるだけ、来たい」
レベッカとエヴァは鍵を受け取った。
「遠慮なく来い。店の仕事に影響がでないようにな」
「ん」
エヴァは天使の微笑をみせる。
リビングの外へ車椅子を動かしていった。
遅れてレベッカもエヴァの車椅子を後ろから押すように進めていく。
「それじゃあねー」
レベッカはエヴァにごにょごにょと語りかけて笑わせると、「せーの!」と声をかけると、「ん!」と、エヴァの声が響く。レベッカは車椅子を後ろから押すことを楽しみながら、小さい階段を乱暴に下りていった。
エヴァは仰け反るような姿勢で振り返る。
驚いた顔付きだったが、レベッカを見て笑っていた。
二人はそのまま仲良く笑い合いながら中庭を進む。
何か、本当に楽しそうだ。ほっこりする。
大門を開いて見えなくなった。
さて、風呂経由でメルたちに会いに【迷宮の宿り月】へ向かうか。
カザネが接触したいとか。その件を進めるのは……。
少し、億劫だが仕方あるまい。
「……風呂に入り、迷宮の宿り月に向かう」
『閣下、わたしにいってくだされば、お掃除します』
『いや、すまんな、今回は普通に入る』
『はい』
ヘルメとの念話はすぐに終わらせる。
「わかりました。食器を片付けて掃除をしておきます」
「おう、まかせた」
ヴィーネは笑顔で頷く。
大きなお盆にトーマーのタレが残った皿とゴブレットを重ねてキッチンルームに運ぶ。
彼女にこんな雑用はさせたくないな。
やはり、メイドのような存在を雇うか。
武術街だから泥棒は少ないと思うが、一応は、家に誰かいたほうがいいだろうし。
泥棒が来たら来たで面白そうだが。
キャットウーマンとか、美人な泥棒、大歓迎だ。
野郎の場合は悪・即・斬。
いや、悪・即・突か。
「にゃお」
「ロロ、風呂に入るぞー」
黒猫は尻尾をふりふり振ると、歩いて俺についてきた。
一緒に樹板の螺旋階段を上り、二階からベランダ経由で塔の中にあるバスタブルームに移動。
装備類を脱いで、バスタブで横になりながらお湯を入れた。
黒猫は跳躍してバスタブに乗り込む。
「にゃおん、にゃっ」
狭い縁に乗ろうと、変な挑戦を繰り返していた。
滑ってはバスタブの中に落ちて、お湯に濡れる姿が面白く、とても可愛い……。
「……ロロ、変な挑戦を止めるぞ、体を洗うからな」
「にゃおあ」
いつもと声質が変わる黒猫さん。
滑っている黒猫の首上を掴んで、抱っこ。
頭部のお毛毛をチュッとしてから、鼻先をツンと突いて、石鹸を使い、あわあわの力で、相棒の胴体をゴシゴシと洗ってあげた。
「ンンン」
相棒も慣れた調子だ。
だが、不満そうに、後ろ脚でバシバシと俺の太股を蹴りつけてくるが、我慢したった。
俺もフルチンダンスを実行しながら、体を洗い、さっぱりパンパンしてから――。
お湯に浸かる。
――ふぅぅ。
いい湯だなぁと、前世の頃を思い出し、歌を思い出す。
少しまったりしてから外へ出た。
皮布で体を拭いて身なりを整える。
黒毛が濡れて体が痩せて見えた黒猫さんだったが――。
ふさふさな黒毛を皮布で拭いてる最中に黒猫は走って逃げてしまった。
「――ロロ、先に一階にいってるからな」
「ンンン」
相棒は喉声のみの返事。
ベランダの先、屋根へ上っていく。
黒猫なりの遊びがあるんだろう。
近所の野良猫やら、おしっこ&擦りつけの匂いによる縄張り争いはあるはずだ。
と、黒猫がゴルディーバの里でも行っていたであろう争いを想起した。
微笑みながら……。
ティア型のアーチを潜る。
暖炉スペースを抜けて、螺旋階段を下りた。
一階へ戻った。
「ご主人様、出発なさいますか?」
「ヴィーネも風呂に入っていいぞ。少し汚れてるが、陶器桶には、まだお湯が入ってるから」
「あ、すみません、では、急いで入ってきます」
「おう」
ヴィーネは走って螺旋階段を上っていった。
そのまま中庭へ出る。
風呂上がりだが……まぁ、いいや、軽い訓練をやっとこ。
訓練場の中庭の中央に移動。
そこで、深呼吸――。
ふぃぃぁ~と、変な気合い声を発しながら、外套を勢いよく左右に開く。
風を感じるように両腕を左右へ伸ばしてからの――。
魔槍杖を右手に召喚。
シャキーン。
と、音が鳴った気分となった。
視線を鋭くし、石畳へ睨みを利かせた瞬間、腰を沈め体全体の捻りを意識した機動のまま、魔槍杖を前方へ押し出し<刺突>を繰り出す。
――紅い穂先が虚空を穿つ。
そこで、体重を前方に傾けることを意識したステップワークの確認をしながら――。
左手に魔剣ビートゥを召喚。
斬り上げ、斬り下げ、を魔剣で実行。
魔槍杖による薙ぎ払いで敵の胴体をぶち抜く想定。
くるくると体を横回転。
爪先と踵の体重移動、指先の爪までも、魔力の配分を意識する。
そのまま中庭から大門近くまで移動。
足を意識して、回転をストップ。
魔剣を消し、風槍流の技術を使って両手持ちの魔槍杖へと移行させながら魔脚で、石畳を強く蹴りっ跳躍――大門近くの壁に足をつけたところで、その壁を走る。
イメージは忍者。
重力に抗えるぎりぎりの勢いで壁を走り抜け、壁を蹴った。
身を捻りながらの三角飛び。
隅にある芝生の地面へ魔槍杖を振り下ろし、紅斧刃を芝生と衝突させたっ。
芝生が捲れ、土が弾け飛ぶ。
ヤバッ、調子に乗って寸止めせずにぶち当てちゃった。
急ぎ捲れた土をかき集めて、強引に埋め立てを行う。
――ふぅ、こんなもんでいいだろう……。
訓練はこの辺にして、奴隷たちの様子でも確認しておくか。
中庭を歩きながら魔槍杖をくるくる掌で回転させてから仕舞う。
大部屋の扉を押し開いて、中に入ると、奴隷たちは中央の机に集まって談笑していた。
机に食事の跡が見える。
だれかが作ったらしい。
この部屋の奥に調理場があるからな。
「あ、ご主人様」
フーが最初に気付く。
他の奴隷たちも俺に気付いて、一斉に立ち上がると走りよってくる。
「よっ、皆は食事を終えたところだったのかな」
皆、リラックスした面持ちだ。
装備品は軽い物しか装着していない。
「はい! 掃除を終えたので、皆で休んでいました」
「はいっ」
「そうです」
「そうだ」
蛇人族のビアは、相変わらず口から長い舌を伸ばして奴隷らしくない口調で話してくる。
「そか、そこにある食材もこのままだと腐るだろうから、本館にある冷蔵庫に食材を入れて自由に使うといい」
「ありがとうございます」
「主人は気が利く、素晴らしい」
「はい、わたしたちは幸運です、命を救ってもらい、装備まで……」
メイドについて少し、彼女たちに聞いてみるか。
「なぁ、メイド的な使用人を雇おうと思うんだけど、お勧め的な商会は知っているか?」
「はい」
金髪のエルフ、フーがいち早く挙手をしながら答えてくれた。
「それは?」
「商会から推薦紹介してもらうのも一つの手ですし、使用人ギルドというものがあります。そこなら、様々な使用人たちが登録していますので、すぐに雇い入れることが可能です」
へぇ、使用人ギルドか。
商会からの推薦もいいかもしれない。
例えば、キャネラスに紹介してもらえれば……。
この間の【ユニコーン奴隷商館】で働いていた銀髪の渋顔使用人……。
モロスさん。
彼のような執事を紹介してもらえるかもしれない。
「わかった。お前たちを扱っていた【ユニコーン奴隷商館】のキャネラスに紹介してもらえれば、それなりの使用人を紹介してもらえるのかな?」
「はい。それは確実でしょう」
フーは力強く説明してくれた。
すると、
「――ご主人様っ」
「ヴィーネ」
彼女は少し焦った顔を浮かべて寄宿舎の入り口に立っていた。
「どうした?」
「あ、い、いえ、見当たらなかったので、不安に……」
置いてかれたと思ったのか。
銀仮面は装着しているが、まだ少し銀髪が濡れていた。
「大丈夫だよ、ヴィーネを置いてはいかないさ」
「はいっ」
彼女は素直にほっとしたような笑顔を浮かべる。
可愛い顔だ。
「迷宮から直だし、疲れているなら寝ていいんだぞ?」
「いえ、必要ありません。迷宮内で休憩を取り寝ましたし、大も小も済ませました。何より、わたしはダークエルフ。この程度は負担になりません。きつい時はハッキリと言いますので」
彼女は少しプライドが傷付いたのか、不機嫌気味に答えていた。
「そっか」
留守は奴隷たちに任せるとして、
「お前たち、俺たちは外に出かける。この家の留守を頼んだぞ。本館で、食事も自由にするといい」
「分かりました」
「はい」
「承知した、食う」
「お任せください」
ビアの食うと喋ったことが気になったが、まぁいいさ。
俺とヴィーネは踵を返して寄宿舎を出る。
中庭から大門へ向けて歩いていると、
「ンンン、――にゃおおん」
黒猫だ。
本館のほうから、俺たちが歩く中庭に走り寄ってくる。
「遅いぞ、ロロ」
「にゃ」
黒猫は俺の足に頭をすり寄せる。
やや遅れてヴィーネの足にも小さい頭を寄せていた。
耳と首後ろに胴体と尻尾も当てていく。
甘えるのが上手な黒猫。
「ロロ様……」
ヴィーネは嬉しいのかパンティが見えそうなぐらいに両膝を曲げた。
姿勢を低くしながら黒猫の頭部を撫でていた。
「……外へ出るぞ」
と、言いながらもヴィーネの悩ましいゾーンを、俺の視線が捉えていたのは……。
神のみぞ知る。