千六百二十七話 ハンカイ<|筆頭従者長《選ばれし眷属》>になる
<光魔の王笏>の発動によって全身から大量に放出されていく煌びやかな血はハンカイを瞬時に飲み込む。
凄まじい痛みが全身を走る。
が、この痛みこそ、眷族を造る醍醐味――。
ハンカイは落ち着いた様子で立ち泳ぎから普通に石畳に着地した。
腹と両手の甲に嵌めている大地の魔宝石は光魔ルシヴァルの血を浴びても平気のようだな。
俺の光魔ルシヴァルの大量の血は大海の荒波を彷彿とする勢いで周囲に展開されていく。
同時に<血道第五・開門>を実行――。
血ノ錫杖が真上に出現。
その血の錫杖は、硬質な鐶の音を鳴り響かせる。
その硬質な音色は、俺たちを祝福するようにも感じた。
その血の錫杖は煌びやかな血の流れに乗るようにハンカイの回りを巡ると、波紋を生み出す。
鐶の金属の環を模した音波か?
幾つもの波紋を生み出し始めた。
その波紋はハンカイに衝突していく。
波紋と衝突した体に光の筋が入り、そこから光が漏れていた。
体から光が漏れているハンカイは、苦しそうな表情を浮かべながら、口と鼻から大量の空気と銀色と半透明な泡を大量に吐いていく。
途中から血の呼吸に成れたように表情を切り替える。
目力は強い、微動だにしない。
佇まいからして武人を醸し出す。
その間にも、ハンカイが吐いた銀色の泡は、皆が眷族と成った時と同じく子宮を模りハンカイの体を囲った。
ハンカイは血を全身で吸うように両腕を拡げる。
周囲の血がゆっくりとハンカイに流れた。
徐々に血を得たハンカイは魔力が倍増していく。
血のシェアは順調だ。
血の流れは速いところと遅いところが出来てくる。
遅いところは海洋深層水の如くゆっくりに見えた。
すると、極めて小さいルシヴァルの紋章樹が出現。
ルッシーのような血の妖精も出現。
大量の小精霊と水鴉の群れが出現した。
やや遅れて少し大きい腰に注連縄を巻く小精霊が出現。
その腰に注連縄を巻く小精霊は皆を指揮し始め先頭を進みながら踊り始めた。
<光魔・血霊衛士>の簡易版も出現。
隊列を組みながら前進し、腰に注連縄を巻く小精霊を先頭にマスゲームを行っていく。
血妖精ルッシーたちは平泳ぎを行うグループと、クロールを行うグループに分かれマスゲームに加わる。
多数の血霊衛士と宿曜師の格好の血妖精ルッシーは集団で早歩きを行い、盆踊りを行うグループと近くで交差していた。
リズミカルに位置を交換し、挙動にズレがなく、皆、動きが揃っている。見事な集団体操を見せてくれた。
なんかの劇を見ているようで面白い。
七福神が乗るような宝船に乗った血妖精ルッシーも居た。
血妖精ルッシーと小精霊たちは似ているが、微妙に違う。
すると、血の錫杖が血の流れに逆らいながら浮上。
またもや、血の錫杖の鐶からリズミカルな金属の音が響きまくった。
黄金角を思わせる計算式の図形と波形がいたるところに発生。
外に居るキサラもダモアヌンの魔槍をギターに変化させて、三味線風に弾き成らしていく。
――<魔謳>も披露。
ハスキーボイスで鼻歌も混じる。
シャナとイモリザの歌声も加わった。
リズム感の良いボイスパーカッションと成った。
――シャナのブルースの高揚感、そのグルーブがたまらない――。
血の錫杖のリズムと絶妙に合う。
小さいルッシーたちは血の世界の中を踊りまくった。
宿曜師の格好のルッシーとルッシーが腕を組み肩車を行うルッシーたち。
あはは、あれはアドゥムブラリを<筆頭従者長>にした時と同じ。
そんな風に踊りに踊るルッシーたちを見ていると自然と俺もリズムを刻んで踊った。
なんかこれも祭り――。
――儀式的印象だ。
神仏や祖先をまつる、儀式、特定の日を選んで、身を清め、供物をささげて祈願、感謝、慰霊などを行う。
供物を捧げるってのは、古代のユダヤっぽさがある。俺の知る古代日本の歴史にも色々な儀式があったなぁ。と、思い出した。
眷族ではない【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の面々は、驚きのまま、俺とハンカイの様子を見て居た。
眷族たちには慣れっこだな。
エヴァとレベッカとユイは手を振っていた。
ヴィーネとキサラは、魔槍斗宿ラキースと橙魔皇レザクトニアの薙刀を上げていた。
片手を上げて応える。
エトアとラムーとハミヤは仲良く歩きながら血の水面に近付いていた。
シキとファーミリアとキュベラスとヒョウガとドマダイとイヒアルスと炎極ベルハラディたちも寄ってくる。
血の世界はフォースフィールドの壁が外側にあるように留まり続けている。
恍惚めいた表情を浮かべているファーミリアは、俺の血に触れそうに指を伸ばそうしている。
止めようと腕を上げたが、ファーミリアは口に両手を当ててから少し浮遊すると喜んでしまった。
勘違いで喜んでしまった。
そのまま光魔ルシヴァルの血の世界に入ってこようとしたから、そのファーミリアの近くに移動すると、ルンスとホフマンとアルナードにファーミリアは止められている。
良かった。
直ぐにメルとヴェロニカとクナとレベッカとヴィーネとユイが動いて興奮状態のファーミリアを押さえていた。
ヴェロニカは直ぐに血の海の中に居るハンカイを見てから腕を振る。
〝早く眷族化を済ませて〟と言っているような感じだ。
頷いた。ヴェロニカも血の欲求は同じかな。
そして、今の俺たちを俯瞰で見たら庭の中心に丸い血の海が出来ているように見えるはず。
もう夜になりかけの時間だが、血の海は透けながらも目に優しい光源のような輝きを放っているから、皆の様子はキサラたちが音楽を奏でているように手に取るように分かる。
視界は真っ赤に染まってはいない。
空からでも目が良いなら、この光が分かるかな。
夕暮れから月が出るまでの間の暗闇の美しい夜空を見上げた――何事もない。
視線を下げハンカイの様子を見ると、そのハンカイの防具以外の素肌の体に刻まれている光の筋と腹と両手の甲に嵌まっている大地の魔宝石から黄色魔力が零れ始める。
と、血の流れが加速。
光魔ルシヴァルの血が、凄まじい勢いでハンカイの体に流れ込む。
と、腹と両腕に嵌まっている大地の魔宝石がこれでもかと強く輝きを放った。
次の瞬間、その大地の魔宝石から無数の閃光が発生した。それが血の世界を駆け巡り、血霊衛士と小精霊たちを貫いていく。
貫かれた血霊衛士と小精霊は光の粒子となってハンカイに吸収された。
ハンカイから出た閃光は血の海を抜け宙空に拡がる。
血の世界に残った閃光の一部は、光の粒子状と成って血の世界と融合しつつ光と闇の渦を無数に発生させていく。
それらの渦は陰陽太極図のような模様に変化。
陰陽太極図は重なって、巨大なルシヴァルの紋章樹を模った。
それがハンカイと重なった。
そのハンカイはルシヴァルの紋章樹と重なる自分をよりも、外を見て驚いている?
思わず振り向く――。
と、え? ハンカイの庭に出た無数の閃光は神々しい戦士のドワーフと男性戦士の幻影に変化していた。驚きだ。
ハンカイは幼い頃に氏族の中から特別に選出を受けて……。
秘術賢魔師の特別な秘術系付与魔法によって、体の三カ所に大地の魔宝石の移植を受けていたんだったよな。
それともブダンド族たちの幻影?
ラングール王国の特殊部隊の隊員の魂たち?
お父さんのリチャの幻影だったら驚く。
大地の魔宝石だから、大地の神ガイア様の幻影?
その神々しいドワーフたちと男性の幻影は星になるように夜空に散る。そのまま本当の星になったように光の魔力粒子となって飛来してきた。
血の世界をメテオの如く貫き、ハンカイの体に突入していく。ハンカイは光の魔力粒子を体に受けるたび、体が跳ねて、凄く痛そうに見えた。
げ、あまりの痛さから、時折、氣を失っていた。
助けたいが、助けてはダメと理解した。
刹那、血の錫杖の鐶から、また不思議な音色が響き、
『――ブダンド族リチャの息子ハンカイ!』
『偉大な兄弟たちに想い、エルフたちに復讐を!』
『【ベファリッツ大帝国】に殺された皆の仇!!』
『ラングール皆――』
『が、俺は、大切な恩と仲間を得た、皆俺は――』
と、音色に合わせたようにハンカイの心の声、過去の声も混じりハンカイの心の声が響いてくる。
ハンカイの体に流れ込む血の流れが加速。
ハンカイの心を感じて、俺も熱くなった。
血の流れが加速感を増し、激流と成ると、ルシヴァルの紋章樹の幹が、氣を失ったままのハンカイとの重なりを強めた。
と、<光魔の王笏>を意味する模様がハンカイの前に出現し、それが再びハンカイの体に突入――。
ハンカイは目覚めた。
血の錫杖が消える。
大地の魔宝石がルシヴァルの紋章樹の浮き彫り状に変化。
ルシヴァルの紋章樹の幻影はハンカイと重なりつつ光魔ルシヴァルの血を大量に吸い上げて成長し、上方へと伸びながら幹の一部が樹の門のように変化しつつ洞を造り出す。
ルシヴァルの紋章樹の洞か。その奥へ奥へ進むハンカイの幻影が、出現しては消えてを繰り返す。
ルシヴァルの紋章樹の奥の細道か。
と、その洞に巨大な相棒がエジプト座りで出現し、眼力を強めつつつ、此方を、って……裸の俺とヴィーネが手を繋いで、それを見ている幻影も出現し消える。
面白い。
すると、ルシヴァルの紋章樹は一気に色付きながら枝を左右へ伸ばし銀色の葉と花を無数に誕生させる。周りに銀色の葉と花以外にも極彩色豊かな植物が咲き乱れた。
樹の屋根の天辺は太陽を思わせる明るさ。
まさに陽。
樹の根の真下は、月を思わせる暗さ。
まさに陰。
葉と花から銀色の魔力の波が太陽のプロミネンス的な動きで放出され、銀色の魔力の粒子を周囲に散らす。
太陽を彷彿とさせる樹の屋根と幹と枝から迸っている魔線はハンカイと繋がっていた。
マリオネット的な魔線は、キッカ、キサラ、ビーサ、サシィ、ビュシエ、アドゥムブラリたちと同じ。
ルシヴァルの紋章樹の根っこがハンカイの体と足と両手に絡まり始める。
ルシヴァルの紋章樹の深淵を意味するような暗さを持つ根っこ。
対称的にルシヴァルの紋章樹の幹と枝と葉が非常に明るい。
すると、大地の魔宝石がルシヴァルの紋章樹の銀色の葉を取り込み、ハンカイの腹に新しい花の模様を造り出した。
現実のルシヴァルの紋章樹を思わせる幻影が、またもハンカイと重なる。
その幹から榊のような棒が出た。
その榊のような棒を掴み、それでハンカイの体を祓い撫でていく――祓われる度に恍惚とした表情となったハンカイの体に刻まれていた光の筋が消えて、無数の血の筋が生まれ消えた。
その消えゆく血の筋から、血の線と不思議な乱数表のような奇妙な羅列が出現し、周囲の空間に穴を空け散り消える。
と、お祓い棒のような銀色の葉と万緑の葉が付いた榊のような棒が俺の魔力を吸ってから、ハンカイに直進し、ハンカイの腹の大地の魔宝石の中に入り込む。
次の瞬間――。
ルシヴァルの紋章樹の幹と万朶に――。
<筆頭従者長>を意味する大きな円に、
第一の<筆頭従者長>ヴィーネ――。
第二の<筆頭従者長>レベッカ――。
第三の<筆頭従者長>エヴァ――。
第四の<筆頭従者長>ユイ――。
第五の<筆頭従者長>ミスティ――。
第六の<筆頭従者長>ヴェロニカ――。
第七の<筆頭従者長>キッシュ――。
第八の<筆頭従者長>キサラ――。
第九の<筆頭従者長>キッカ――。
第十の<筆頭従者長>クレイン――。
第十一の<筆頭従者長>ビーサ――。
第十二の<筆頭従者長>ビュシエ――。
第十三の<筆頭従者長>サシィ――。
第十四の<筆頭従者長>アドゥムブラリ――。
第十五の<筆頭従者長>ルマルディ――。
第十六の<筆頭従者長>バーソロン――。
第十七の<筆頭従者長>を意味する大きい円――。
類縁関係と派生関係などを意味するように枝分かれた樹状図として出現していく。
光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹が展開された。
第六の<筆頭従者長>のヴェロニカの名を刻んでいる円の縁から別の線が系統樹として、小さい円へと繋がっていた。
その小さい円の中には<筆頭従者>メルと<筆頭従者>ベネットの名が刻まれてある。
第十六の<筆頭従者長>バーソロンの名が刻まれている円の縁からも線が系統樹として小さい円に繋がっていた。
その小さい円の中には、<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノの名が刻まれてあった。
それとは別の小さい円がある。
<従者長>カルード――。
<従者長>ピレ・ママニ――。
<従者長>フー・ディード――。
<従者長>ビア――。
<従者長>ソロボ――。
<従者長>クエマ――。
<従者長>サザー・デイル――。
<従者長>サラ――。
<従者長>ベリーズ・マフォン――。
<従者長>ブッチ――。
<従者長>ルシェル――。
<従者長>カットマギー――。
<従者長>マージュ・ペレランドラ――。
<従者長>カリィ。
<従者長>レンショウ。
<従者長>アチ。
<従者長>キスマリ。
<従者長>ラムラント。
続いて、光魔騎士などの名が刻まれている円が出現。
光魔騎士デルハウト、シュヘリア、グラド、ファトラ、ヴィナトロス。
バミアルとキルトレイヤの木彫り、ナギサ、ミレイヴァル、<古兵・剣冑師鐔>のシタン、ヘルメとグィヴァ、<魔蜘蛛煉獄王の楔>の蜘蛛娘アキ、クナの本契約の魔印のような模様と、悠久の血湿沼ナロミヴァス、闇の悪夢アンブルサン、流觴の神狩手アポルアの魔印も系統樹に刻まれていた。
まさに、光魔ルシヴァルのデンドログラム。
ハンカイは、そのルシヴァル紋章樹を吸うように徐々に融合を果たしていくと、紋章樹の太い幹が呼吸をするように隆起。
ハンカイの呼吸の度に、生きとし生ける物の意味があるように周囲の銀色の葉が生まれて散る。
系統樹としての<筆頭従者長>の新しい十七の<筆頭従者長>の円の中に、生々しい動きでハンカイの名が古代語で新しく刻まれた刹那――。
周囲の血とルシヴァルの紋章樹はハンカイが吸い取って消える。
ハンカイは倒れ、寝台に突っ伏した。
ハンカイに寄った。
「ハンカイ、大丈夫か」
「……あぁ、耳が、聴力を弄れるのか、凄いな……あ、大丈夫だ、俺は……」
と、立ち上がる。
双眸の瞳に<血魔力>が宿りながら血を流していた。
「血……匂いが……あぁ……これが光魔ルシヴァル……<筆頭従者長>の能力……戦闘職業が、<血剛双斧師>に変化した」
「<血剛双斧師>か、とにかく<筆頭従者長>に成った。これからもよろしく頼む」
「……もちろんだ」
「早速――」
戦闘型デバイスから処女刃を取り出し、ハンカイに手渡した。
「ふむ、では、これが処女刃、たぶんだが、一瞬で終わる。そこで直ぐに始めるとしよう」
「了解」
ハンカイは処女刃を腕に嵌めて石畳を出た。
「ご主人様とハンカイ、おめでとうございます」
「閣下、新しい眷族、おめでとうございます!」
「ん、おめでと、ハンカイもこれで、家族、血の兄妹」
「うん、よろしくハンカイ、血文字を早速覚えないとね」
「おう、戦場帰りのルマルディとアルルカンの把神書から血文字の利便性を自慢されていたからな」
ユイたちとセナアプアでルマルディの仇関連を片付ける際に、少し活動していた時か。
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」
ハミヤが、
「シュウヤ様……」
「どうした」
「あ……はい、吸血鬼と分かっては居ましたが、改めて、光魔ルシヴァルが吸血鬼なのだと、ですが!! 光の吸血鬼なのだと認識を強めました。そして、大地の神ガイア様も出現していたように見えました」
光の吸血鬼か。
まぁ、光魔ルシヴァルだからな。
「あぁ、そうだな……」
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