千六百二十話 フーの成長とホフマンの真実にキサラへスキル返還
「ん、<血影ノ銀爪瞬刃>の白銀の爪の硬度はどの程度?」
「はい、氣になります」
エヴァとキサラの言葉にフーは、
「はい、皆さんの武器で試しますか?」
と語りながら、皆に向け体を開く動作を取り、<血魔力>と影のような魔力を体から噴出させた。その魔力は、瞬く間にフーの頭上で鴇を模ると降下しフーの体と重なった。
次の瞬間――フーの金髪は光を帯び、陽が髪に触れたかのよう黄金のグラデーションが現れる。長耳がピクッと少し動いた。
虹彩の緑がかった黒真珠のような環に幾筋もの陽と彗星のような光条が走り光芒の煌めきが増していくと、両手の指の爪が白銀色に変わりながら刃状に伸びる。
フーが<血影ノ銀爪瞬刃>のスキルを発動したか。
元々美しいフーだったが、これまで以上に美しく見えた。
フーに魅了されながら右手に白蛇竜小神ゲン様の短槍を召喚し、フーに近付き、
「では、俺が試そう――」
白蛇竜小神ゲン様の短槍を突き出す。
杭刃を、フーの右手の十本の指から伸びている、数本の白銀の爪に衝突させていく、キィンッ、キィィンッ、キィンと連続的に硬質な音を響かせた。<血影ノ銀爪瞬刃>の白銀の爪は、かなり硬い。
フーは、蛇腹が踊り持ち上がっている白銀の爪を棚引かせるように右腕を引きながら、その白銀の爪越しに俺を見て、緑がかった瞳を輝かせ、
「――ご主人様、もう少し強く突きか払いのスキルを打ちこんでください。模擬戦でも構いません、わたしの体に宿った【鴇の宝玉】の新たなる力が光魔ルシヴァルの潜在能力を引き上げてくれたので!」
フーの言葉に頷く。
と、フーから、フーが進化したと表すように血とシトラスと不思議な香りが重なったいい香りが漂ってくる。
<握吸>を発動させて白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄の握りを強めた。
「了解した、では、模擬戦をしよう。そこの右の広場で――」
「はい――」
フーはいきなり重心を下げると前進し、右手を突き出す。
「いきなりか――」
更に、左手を振るってきた。
右手に持つ白蛇竜小神ゲン様の短槍を少し下げ、弾く。
左手に召喚した神槍ガンジスで、フーの左手の五本の指の白銀の爪の斬撃を、横に流すように弾く。が、そのフーの突きと払いの威力に押されて後退――。
フーは力も増している。
「――<鴇ノ白銀爪突刃>と<鴇ノ白銀爪斬>を覚えました――」
「おぉ――」
と、驚きながら、すかさず横にステップを踏み<双豪閃>――。
左手の神槍ガンジスの方天画戟の初撃は防がれるまま、半身から体が独楽に成ったかの如く、両足の爪先を軸に横回転を行いながらの、回転連続斬りの<双豪閃>は続く。次の右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍による斬撃も防がれた。
そのまま両腕を伸ばしたまま跳躍――上向かせた体勢で<双豪閃>の回転斬りを続けた。
フーは背中から影と<血魔力>を噴出させつつ両腕で、十字ブロックを造る。
両手指の白銀の爪で己の体を守った。
フーは身を守りながら<双豪閃>の勢いのまま宙空から押し出す俺の力の前に後退――構わず、十字ブロックを上から叩き付けるように白蛇竜小神ゲン様の短槍と神槍ガンジスの穂先を衝突させていく――。
守りは堅い、白銀の爪と連続的に衝突しまくっている<双豪閃>はすべて防がれた。着地際――フーは右の瞳を緑に光らせる。
と、重心を下げた刹那――地面を蹴るように前に出た。
左腕を斜め下から突き出す。胸狙いか、ハートブレイクショットの如くの軌道の突きを繰り出してきた――その突きを白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄を盾にして防ぐ。が、少しズレて顎先に爪先が当たりそうになった。フーは構わず、跳躍を行って左腕を下から上に振るってきた。俄に、神槍ガンジスの石突側をわずかに斜に構えた。
下から首を狙うような白銀の爪の斬撃を柄で防ぐ。
フーは宙空から回転の流れるまま白銀の爪の連続斬りを繰り出してくる。
神槍ガンジスの柄で白銀の爪の斬撃を数十と弾き止めた。
頭上で無数の火花が散る。フーは横回転に移行しながら両腕を振るう――。
両手の十本の白銀の爪の斬撃乱舞――それを白蛇竜小神ゲン様の短槍と神槍ガンジスの穂先と柄で受けきりながら後退――。
「「「おぉ」」」
「フーの戦闘能力が飛躍的に上昇しましたね」
「……アルナードの闘法に近いですな」
「はい、フーさんは光魔ルシヴァルの<従者長>ですが、底が知れませんわね」
「はい」
皆の感想に同意だ。フーに、
「――硬度は高い、が、それ以上に動きが良い、もっと打ちこんでこい」
フーは笑みを浮かべ着地し、体から影と血の<血魔力>が融合したような魔力が噴き出ていた。
「はい!」
フーは前進し右腕を突き出す。鴇の幻影も発生させていた。
白銀の爪の長さはマチェーテ的だが、中々のリーチがある。
五つの<刃翔刹穿>を思わせる突きを、神槍ガンジスの穂先で受けて防いだ。
「いい突きだ――【鴇の宝玉】秘宝と噛み合ったか」
フーは前進し、
「――ふふ、はい! 私と融合した鴇の根源が、吸血鬼と光魔ルシヴァルと、エルフのはるかな過去から受け継がれていた様々なモノを捉えたようです――」
と、語るフーは左腕を突き出す。
その左手の白銀の五本の爪の<刺突>を思わせる突き技を白蛇竜小神ゲン様の短槍で防いだ。
「――へえ、先程の体が浮いていたが、あの時かな」
「はい、灼熱の鎖が全身の筋肉と骨に喰い込み脊髄と肌と肉が焼かれるのを感じました――それにより広大な武の世界に誘われた――」
と、凄まじい連続突き――。
勢いに押された、フーは、
「五感から知覚できる事象を把握するたび――鴇の魔力の加速が増す――」
軽快に語りながら突きから払いを繰り出す。
それらの流れるような連続攻撃を、白蛇竜小神ゲン様の短槍と神槍ガンジスで受け止めて、神槍ガンジスで<牙衝>を繰り出す反撃――。
フーは半身のまま少し退く、更に<魔仙萼穿>と<血刃翔刹穿>を繰り出した。
フーは白銀の爪を上下に動かし<魔仙萼穿>と<血刃翔刹穿>を受けて避けてくる。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先から飛び出た血刃もフーは後退しながら両腕を左右に動かし、両手の十本の指の白銀の爪で、血刃を払い斬り右に移動していく。
「――見事だ、急激に成長したな」
フーを半身の左回りから追い<血道第三・開門>。
――<血液加速>――。
続いて<水月血闘法>を発動。血の分身を造りつつ加速しながら連続的に神槍ガンジスと白蛇竜小神ゲン様の短槍で<血穿>を繰り出した。
フーは両手の白銀の爪を再生させながら<血穿>の突きを防ぎつつ、
「――はい! 【鴇の宝玉】と融合したお陰で……古の吸血鬼たちとエルフの種の記憶の源泉を感知できる、複数の囀りも――その冗舌しがたい、裏に潜む諸力に秘めたる世界の核心を、少しだけ得たような――<従者長>の感覚器が妙なる霊魔の足跡を辿れるような――」
と、フーは反撃――。
体から鴇の幻影を発して、右腕と左腕を交互に突き出し、白銀の爪を迅速に連続的に突き出してきた。
血の分身を活かし、その白銀の爪の連続攻撃を避けきる。
が、フーは、本体の俺の速度に追いつき、
「これが、ご主人様の高み――」
両腕の白銀の爪を突き出してきた。
その白銀の爪の攻撃を神槍ガンジスと白蛇竜小神ゲン様の短槍で受け止める。
「見事だ、<水月血闘法>を破ってきた、もう一度、来い!」
「はい――」
フーは再度、連続的に左右の腕を突き出す。
両手の指の白銀の爪の突きを右に移動し避けてから、白蛇竜小神ゲン様の短槍でフーの胴体に<刃翔鐘撃>を繰り出した。
フーは半身で左手の白銀の爪を掲げるように盾にして白蛇竜小神ゲン様の短槍の重い一撃を防ぎながら横回転を行う。
白蛇竜小神ゲン様の短槍を往なすように後退したが直ぐに前に出て、電光石火に右腕を突き出す。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄で、その<刺突>のような突き攻撃を防ぎつつ――神槍ガンジスで下から上へと<血龍仙閃>を繰り出した。
フーの視線は俺の二槍流を追えている。
左手の人差し指と中指から伸びている白銀の爪を構えた。
俺の昇竜を思わせる<血龍仙閃>を防いできた、見事だ――
<魔闘術の仙極>と<闘気玄装>を発動。
斜め前に出ながら白蛇竜小神ゲン様の短槍で<雷穿>。
フーは横にステップし避ける。
――そこを狙う、神槍ガンジスの石突の<龍豪閃>をフーの左脇に衝突させたかに見えた――。
「きゃ――」
と、可愛い声を発したフーは左手の白銀の爪を下げて脇を守る、<龍豪閃>を防ぐ。
が、少し隙がある――逃さず、白蛇竜小神ゲン様の短槍の力の<龍豪閃>――。
「あぅ――」
と、石突に横っ腹を殴られるように白銀の爪の数本が湾曲し折れると体をくの字の体勢にしながら斜め後方に吹き飛んだ。
フーは背から鴇の形をした影と血の<血魔力>を噴出させると片足の裏で地面を突き衝撃を殺すと消える。
否、後方に転移か――<血影ノ瞬鴇>だったか。
俺の<仙魔・龍水移>を見ているだけはあるが、それは分かりやすい――振り返りつつ刹那の白銀の爪の突きを神槍ガンジスの柄で受けた。
次の白銀の爪の突きも――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄で叩くように弾き返した刹那、フーは「え!」と驚きの声を発した。その驚きを隠せないままのフーは、俺の腕に視線を集中させるのを把握しながら、右手に魔槍杖バルドークを召喚し、首裏にその柄を通す。馴染みの風槍流――。
――左へと移動しながら風槍流『案山子通し』を行いつつ爪先半回転を行い――ぐわり、ぐわわりと横に回りつつ穂先の紅矛と後端の石突を連続してフーに送り込む。
<血影ノ瞬鴇>の転移攻撃を俺に往なされたフーは少し動揺する素振りを見せつつも<豪閃>と<双豪閃>の連続薙ぎ払い攻撃を防ぐ――。
<髑髏武人・鬼殺閃>を織り交ぜた薙ぎ払いも避けてきた。
そのフーの隙を狙い、足下を狙うように連続で<髑髏武人・鬼殺閃>を用いる。
フーは両手の指から伸びている白銀の爪で魔槍杖バルドークによる下段と中段の流れるような攻撃乱舞を防いでくるが、すべての突きと斬撃は防げない。
フーの戦闘装束の腕と足の衣服が斬られ散る。腕も斬ったが、浅いか。
白銀の爪と衝突を繰り返す魔槍杖バルドークの連続攻撃に耐えている白銀の爪だったが、さすがに傷だらけで凹凸が目立つ、その白銀の爪に影と血の<血魔力>が付くと一瞬で元通りになった。白銀の爪はかなり頑丈で再生力も有しているか、十分に実戦で使えるな。
――そこで一旦、退くとフーも退いた。
「お見事! 最後は、閣下の連続攻撃を耐えていましたし、フーも見事ですね、【鴇の宝玉】はフーに合うということでしょうか」
「はい、ありがとうございます、皆さん、この<血影ノ銀爪瞬刃>の白銀の爪は結構頑丈です!」
フーの言葉に皆が拍手。
「ん、凄い、フー!」
「「「はい!」」」
「「「うん」」」
「にゃ~」
「爪のスキルの攻撃は自然に見えたし、【鴇の宝玉】で始祖の十二支族家系図に載っているような吸血鬼の祖先たちと繋がったってことでもある?」
「はい、他にもエルフの種の記憶の源泉を感知しました」
「凄い!」
「はい、フーのエルフ支族たちの知見も得られるとは素晴らしい秘宝が、【鴇の宝玉】ですね!」
「ふふ、フーが一気に強くなりました!」
「あぁ、そのようだ」
皆が寄ってくる。フーはヘルメから祝福の「ぴゅぴゅ」をしてあげます!
水飛沫を浴びていた。皆からも<血魔力>を浴びては、どんちゃん騒ぎとなった。
ビール掛けのような勢いだな。
フーは笑顔満面だ。とても嬉しそうな表情を浮かべながら、皆とハグを繰り返す。
サザーは「えいっ」とフーの背に抱きつき、そのままフーは「ふふ――」とサザーをおんぶしながら走り回っていた。「ンン、にゃおぉ~」と黒猫も一緒に走っていく。そのまま暫しの談笑となった。
◇◇◇◇
落ち着いたところで、ホフマンが、
「では次は私の品。キサラ様とシュウヤ様に皆様、この<血魔力>を有した魔札〝血の魔札エイジハル〟と〝ルグナドの灯火〟を差し上げまする」
「了解した、キサラ」
「はい――」
ホフマンに会釈したキサラは円卓に近付いた。
〝血の魔札エイジハル〟を手に取り、俺を見た。
キサラの蒼い双眸は少し奮えているよう見えた。
期待と不安、嘗ての仲間への想いがあるんだろう。
キサラに向け頷いた、キサラは〝はい〟と、かすかな声を発してから――。
〝血の魔札エイジハル〟に<血魔力>を通した。
直ぐにダモアヌンの魔槍にも、〝血の魔札エイジハル〟を触れさせる。
己の修道服と似た戦闘衣装の<姫魔鬼武装>にも当てていた。
続けて、腰ベルトに紐で括られてぶら下がっている百鬼道の魔界四九三書と匕首の聖なる暗闇と数珠にも〝血の魔札エイジハル〟を当てていった。
その〝血の魔札エイジハル〟の真上に血の幻影が幾つも浮かぶ。
四天魔女の幻影と、黒魔女教団の高弟たちの姿に関係者たちだろう。
キサラは「……皆の姿が……生きている……でも、ううん……」
と肩を振るわせつつ呟く。
キサラは俺を見た、涙を流していたが拭ってから微笑み、
「……シュウヤ様、四天魔女は健在です。十七高手も何人か生きています」
「「おぉ」」
「良かったな、その方々を追跡し勧誘しよう。黒魔女教団の再生は楽だ」
キサラはゆっくりと頷いて、
「はい……」
と言うと、〝血の魔札エイジハル〟を仕舞った。
「キサラ、ソファで少し休むか?」
「ふふ、大丈夫です。次の〝ルグナドの灯火〟を試します」
「了解」
キサラは灯心を要した洋燈にも見える〝ルグナドの灯火〟に魔力を通す。
一瞬で、灯心に血の炎が点いた。キサラと俺も含めて一定の範囲に居る者たちの<血魔力>が増加したか、自然と体の内から<血魔力>が湧くような感覚を得た。
特にキサラの<血魔力>の増加が顕著だ。未知な<血魔力>もある。
そのキサラは、
「凄い……<血道第二・開門>と<血道第三・開門>を一気に得ました」
「<血道第二・開門>の<光魔鬼武・鳴華>と<血道第三・開門>は……ご主人様が愛用している……<血液加速>です!!」
「「「「「おぉ」」」」」
「ん、凄い!」
「はい、キサラ、おめでとう」
「キサラ、やったわね! ふふ」
「「キサラ、おめでとう!」」
レベッカたちが拍手しながら歓声を発し、キサラを祝福していく。
皆の歓声と褒める気持ちは分かる。
血道のスキルは中々覚えられるスキルではないからな。
「良かったな、キサラ!」
「はい!」
とキサラは抱きついてきた。
シャツだから、キサラの柔らかい体をダイレクトに感じて嬉しかった。
音にしたら、ぷにゅん、ぷにょん、ぷよよん、ぼよよーんではないな。
とか考えて笑ってしまう俺は阿呆だ。
そして、サイデイルで、この巨乳を……さんざん揉み拉いたことを思い出すが、愛があるままキサラを抱きしめていると、エロい気持ちは自然と消え愛があるがままただ抱きしめていた。愛しいキサラの背を撫でてから、離れた。
すると、アドゥムブラリが、
「<筆頭従者長>の中で血道のスキルに逸早く目覚めたのは、キサラが最初とはな」
「あぁ」
皆、興奮しているが、ホフマンが、
「キサラ様の<血魔力>、<血魔術>、血道が進化したようで、嬉しいです。そして、わたしがシュミハザーを送った理由などを説明をしたいのですが」
「あ、はい」
「そうだな」
と、皆が聞く姿勢となる。
ホフマンは俺とキサラから、ファーミリアをも見てから、
「わたしの名はホフマン、メルキオール・ホフマンとして他の世界で生きた前世の記憶を持つのです……」
と、俺の知る地球、ヨーロッパから転生直後から現在に至るまで語る。
波瀾万丈と、簡単に片付けられない物語。
マリアンヌの愛した女性の命を得てしまうなんて、そりゃ壊れる気持ちも分かる。
元々の終末論者に拍車がかかったんだろうな。
ただ、<脳切血盗>で他の人の脳を切断し、能力を得るはヤヴァいだろ。
転移者、転生者狩りで凄まじい能力を得ていたことも告白したホフマン。
神が治めるような、理想の国にするために己が吸血鬼としての能力を駆使して千年王国の救世主に成らんと邁進していた時があると告げると傍に居るアラギヌスたちの肩が震え始めていた。
ファーミリアたちは驚いていた。
もしかして、初めて語ったのか……。
腐った世を正したい想いからこその、千年王国か。
ホフマンは、途中から片膝の頭で床を突き俺に頭を下げてきた。
その千年王国の実現が夢だと語り、
「<ヴァルプルギスの夜>と<堕天・イステの歌>を使い、悪魔として活動していた時期もありました。それも私の一面でしょう。同時に、何百と未来を垣間見てきましたが、未来を変えられるとも知りました。そんなおりに槍使い、光魔ルシヴァルのシュウヤ様と黒猫様、神獣様の存在を知りました。未来が読めない光魔ルシヴァル……非情な面がありながら人族を守る優しさを持つ……私はそのシュウヤ様を知り、正直、心が爆発しそうな想いがありました。ですから<シュミハザーの棺桶巨人>を送ったのも、その強さと真理をはかるため、千年王国の救世主は、私ではなくシュウヤ様なのかと密かに考えての行動でした。今にして思えば私が救世主などと考えることが愚考の極みですね……そして、その結果が、<神剣・三叉法具サラテン>の沙・羅・貂様たち、アドゥムブラリ様、四天魔女キサラ様、サイデイルの精霊樹になった邪霊槍イグルードなどです。そのすべてが、シュウヤ様のためになった……ですから、真の平和、犯罪のない……戦争という罪が怨念と罪を呼び、罪が世界を覆い世界の秩序を作る、戯画染みた悪という悪剣と金銀が、この世の秩序であり、悪剣金がこの世のすべて、それら悪の世を、完全に駆逐、否定ができる尋常ではない強さを持つ唯一無二の存在がシュウヤ様である……と、その希望をシュウヤ様たち、光魔ルシヴァルに見出した次第です……」
と、ホフマンは途中から肩を振るわせ嗚咽しつつ真情を吐露する。
血の涙も流していた。そこまでの想いか……。
「「「……」」」
「……吸血鬼の苦しみは分かる。でも、敢えて突っ込むわ、犯罪をなくし理想を目指すのは尊い。でも、自分が悪魔のようなことをしたらダメだと思うけど……」
「……はい」
「平和のため、貪欲に強さを求めた理由だとしても、人の苦しみから快楽を得るような感覚を得たらダメだと思います」
レベッカとキサラが語る。ヴィーネは、
「綺麗ごとを言うわけではないですが、転生者や転移者はシュウヤ様と同じような立場の方々、勿論、心情はまったく異なりますが、それでも欲望のまま殺しまくるのはどうかと思います。違う方法もあったのでは?」
「……はい、ごもっとも……しかし、吸血鬼ですからな……」
血を得ることでの快楽的なモノはあるから、皆、納得していた。
ヴィーネは、
「はい、すべての否定はしません、わたしはダークエルフ、魔導貴族の女子として生まれましたから、地下世界では、ホフマンがしてきたことは、温いほどですからね、地下は非情なる世界。そして、偉大な目的を達成するために残虐な行為をする、それは極自然な行為と永い間認識して生きていましたから、その点も理解できます。ただ、現在は不偏不倚で過不及のないご主人様や皆様の知見を聞くことで、その偏った考え方は変化しました」
「……ダークエルフの地下社会は壮絶と聞いていますが……」
ホフマンの言葉にヴィーネは頷いた。
そして、俺を見て、
「はい、それも真実、人は生まれながら罪を背負うや、様々な弁証法に、両建てを行い民族を争わせることで支配者に責任の所在が回らないように仕向ける、そうした腐った論理の打波には、中庸さが大切だと。そうした言葉と社会の事象を、ご主人様から学び、色々と考えるようになりました、その点からも深い感謝が溢れてくる、ご主人様は様々なことで、わたしを成長させてくれた」
ヴィーネの熱い想いは伝わってくる。
「なるほど、私も……シュウヤ様を知ることで……」
と、語ると真っ直ぐな眼で俺を見てきた、暫し間が空く。
ホフマンの双眸は少し充血している。ホフマンは、
「……すべてが変わったのです」
と、切なく語った。
「「「……」」」
だからか、サイデイルの混沌の夜の時にも加勢してくれた。
シュミハザーも俺と戦った時、何かおかしかったからな。
すべてに納得だ。
すると、ホフマンは立ち上り、右手の指先に小形の魔力の刃を造ると、その魔力の刃を額に当て、
「キサラ様にスキルを戻します」
反対の手から魔力を発して、その力で再生を遅らせると、自分の頭蓋の表面を切り裂く。更に、その切り裂いた頭蓋の一部がめりめりと音を響かせて捲れていくが、怖すぎるだろと……脳が露わになった。
脳を晒すと、脳の一部から粘液に包まれているような繊維質の塊を取り出し、左手に移していた。その繊維質の塊は神々しい輝きを放つ紙片に変化。
ホフマンは、その紙片をキサラに差し出しながら笑みを浮かべる。
頭蓋骨が捲れてるがな、とツッコミを入れたかったが、しない。
ホフマンは直ぐに己の頭部を元に戻した。少し安心を覚える。
キサラは、そのホフマンではなく輝く紙片を見ながら、
「それは……」
と、呟いていた。
「はい、私が強引にキサラ様から得たスキルです。そのスキルの紙片を握って魔力を込めるだけで、キサラ様のスキル情報が伝達され、元に戻る。直ぐに、元通りの感覚を得るはずです。受け取ってください」
「「「おぉ」」」
キサラの虹彩が揺れながら瞳孔を散大させ収縮させて、唾を飲む。
「……分かりました」
と、キサラのハスキーボイスから、何かしらの決意を感じた。
キサラは、スキルの紙片を受け取る。
俺を見てきた。
「シュウヤ様……」
「大丈夫」
キサラはかすかに〝はい〟と返事をしてから、己の掌の上にある輝きを放っている紙片を凝視。
その紙片に魔力を送った。
紙片は瞬く間に魔力粒子となって、キサラの手の中に吸収されるように消える。
一瞬で、キサラの体から<血魔力>が噴出した。
キサラの<血魔力>、素の魔力が倍増したと理解できる量だ。
「「おぉ」」
皆も驚いている。
キサラは、
「……凄い」
と呟きながら、右手にダモアヌンの魔槍を召喚し、それを左に右へと振るう<刃翔刹閃>系の連続スキルを繰り出していた。
「昔のスキルですが、成長したお陰で、何か別のスキルに感じます……」
「キサラ、失ったスキルを得たんだな?」
「はい」
「「「「おぉ」」」」
「ふふ、四天魔女キサラの復活ですね!」
「ん、おめでとう、キサラ、良いことだらけ」
「はい、歴史的にも……はい……」
ヴィーネは少し涙ぐむ。
「うふふ、ホフマン、前にも受け入れると言いましたが、あ、いえ……これからずっとシュウヤ様の指示に従うのですよね?」
「はい、従いまする」
「では、もう仲間です。これからも宜しく」
「はい、こちらこそ……」
エヴァが、すぐに拍手。皆も拍手を行った。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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