百六十一話 未知の守護者級
<血液加速>を発動。
足皮膚から出た血が魔竜王のグリーブを覆う。
不思議と俺の血は地面に付着しない。
グリーブの足裏へ血が集まる。
地面を蹴った――こりゃ凄いっ、速度が倍だ。
<脳脊魔速>には劣るが、魔闘脚よりは確実に速い――前傾姿勢で突撃――。
窪んだ眼窩にオレンジの光を灯す大型の骨騎士へ近付いていく。
黒い甲冑の表面を刻む魔法の文字が目立つ。
脇から太い骨腕が上腕二つと下腕二つ生えている。
その合計四つの骨腕が握るフランベルジュのような蒼い光は長剣。
あれが、メイン武器か。渋い。
ま、使わせるつもりはない。
唯一無二の魔槍血鎖師としての、力を示してやろう。
大型の骨騎士は異常な速度で近付く俺を警戒。
上腕のフランベルジュを胸前でクロスさせる。
下腕が握るフランベルジュは下がった。
二重にクロスした防御の構えを取る。
崩してやろう。
魔槍杖の穂先で、大型の骨騎士の胸を突くような、フェイントを行う。
そして、<光条の鎖槍>を連続で発動――近距離からの五つだ――。
更に両腕で<鎖>を同時展開――《連氷蛇矢》も放つ。
大型の骨騎士は、上腕と下腕の四つの骨腕が握るフランベルジュで五つの<光条の鎖槍>を上手く弾いてきた。
――こいつは守護者級なだけはある。
だが、<鎖>と《連氷蛇矢》は防げていない。
弾丸と化した<鎖>が二つ胴体と太い骨腕に突き刺さった。
<鎖>は大型骨騎士の足と胴体を侵食するように絡む。
そこに《連氷蛇矢》が直撃――いや、しなかった。
水の魔法はすべて黒い甲冑に弾かれて、消失。
まっ、そんなことは、
「――かまやぁしないっ!」
<鎖>が絡み、身動きがとれない大型の骨騎士に吶喊。
前傾姿勢で間合いを詰めた。
槍圏内に入った瞬間――。
地面に足跡が残るような速度で踏み込む――。
と同時に<闇穿・魔壊槍>を発動。
闇を纏う魔槍杖は独特の唸りをあげる――。
最初の<闇穿>――。
紅と黒の流線となった悪魔のような矛が、大型の骨騎士の魔法文字が目立つ甲冑を、いとも簡単にくり貫く――ズニョラリといった音は聞こえないが、大型の骨騎士の背中にまで魔槍杖の矛が突き抜けた。
更に壊槍グラドパルスが出現。
回転しながら直進する壊槍グラドパルス――。
魔槍杖の上から<闇穿>を追い越す勢いで前進する
壊槍グラドパルスが大型の骨騎士の胴体を捉えた刹那――。
大型骨騎士の左上半身がくり貫かれ消えた。
「グォオォォオオッ――」
一瞬で左上半身を失った大型の骨騎士。
仰け反り倒れながら苦し気に叫ぶ。
半身だが、叫ぶという、まさにザ・モンスターだ。
壊槍グラドパルスは大型骨騎士を突き抜けると消えていく。
だが、これからだ。
<血液加速>を解除。
<始まりの夕闇>を発動――。
瞬く間に、俺の周囲から闇が発生。
意識とリンクした闇夜――。
<始まりの夕闇>は、地を這う晦冥な闇の亡者のごとく、荒野の迷宮を侵食するように蠢きながら広がった。
地面に転ぶ大型の骨騎士を闇夜の次元フィールドが包む、いや喰らう。
――闇だ。力を感じる、闇の底知れぬ力だ……。
真っ暗な闇世界、次元世界の構築。
こみ上げる力に、フ、ハハ、
「アハハハ、フハハハハッ――」
気分が高揚し、嗤う。
まさにヴァンパイアの力だ。
俺の顔は完全にヤヴァイと思われる。
まぁいい。
そして、闇の地面に転がる、大型の骨騎士を見た。
スキルを使わずとも視界がクリアだ。
頭蓋骨の眼窩にあるオレンジの光が揺れ動く。
どことなく光が小さくなって見えた。
精神汚染が始まっているのか?
まぁ、相手も骨の、いや、闇属性系のモンスターだ。
抵抗はしているんだろう。
そんな骨野郎へ<夕闇の杭>を躊躇なく発動。
闇の世界から出た<夕闇の杭>は大型の骨騎士の背中を持ち上げる。
その背中を貫通していく無数の<夕闇の杭>は大型の骨騎士の胸元から飛び出ていった。
ハハハハハッ、串刺しどころじゃないな。
が、さすがは守護者級と思われるタフさ。
<夕闇の杭>に貫かれても、眼窩のオレンジの光は微かに残っている。
「お前もタフなのは間違いない。だが、サヨナラだ――」
<闇の次元血鎖>を発動。
意識とリンクする闇世界から紅い流星雨のような血鎖が無数に現れる。
血鎖は、鏡が割れたような音を何度も響かせながら闇の世界を引き裂くと、迷宮の元の世界を覗かせる。変化が面白い。
勿論、大型の骨騎士も血鎖によって、引き裂かれて闇夜の世界へと消えてゆく。
視界は完全に普通の迷宮エリアへ戻った。
大型の骨騎士が持っていたフランベルジュが一本、地面に落ちているだけ……。
魔石がない。闇の次元フィールドを発生させて巻き込むように倒すと、全部を巻き込んでしまう可能性があるのか。まぁ、魔石はいつでも採れるし、いいか。
落ちている剣だけでも回収しようか。
ヴィーネか、サザーか、ママニなら使えるだろうし、第二王子に売るのもいいだろう。
蒼い光を帯びたフランベルジュをアイテムボックスの中へ入れておく。
そこで、仲間たちの様子を見た。
まだ金箱の付近で戦っている。
死霊騎士、酸骨剣士、骨術士がまだ大量に残っていた。
だが、一匹残っていたはずの死霊法師がいない。
さすがに、あの凍った礫を連射してくるモンスターは優先的に倒されたようだ。
宝箱から離れた位置では、黒獅子と似た神獣ロロディーヌが活躍。
吹き飛ばした酸骨剣士と骨術士たちを触手骨剣で突き刺し倒しては、噛みついて、骨を食べていた。
歯茎が丈夫なロロディーヌ。
俺も、宝箱の近辺の乱戦に混ざってモンスターを殲滅するか。
<始まりの夕闇>は使わない。
完全に魔族の高祖ヴァンパイアの技だからな。
<闇の次元血鎖>だと、魔石もなくなっちゃう。
今は控えておこう。
んだが、<血液加速>は発動する。
これは、考察通り魔闘脚と同じレベルで使えた。
時々、使いわければ、速度の微妙なタイムラグでフェイントに使えるだろう。
強敵相手ならば、必ず効くはず。
そんな、まだ見ぬ強敵を想像しながら、
「皆――守護者級は片付けたぞっ!」
と、叫び――。
走り幅跳びをするような体の動きから、魔槍杖を縦に振るった。
――骨術士を紅斧刃が真っ二つ。
「おぉぉ」
「――さすがはご主人様っ」
腕を振り魔槍杖の角度を微妙に変えつつ、皆の様子を確認――。
いた、酸骨剣士たちだ――。
出る――一歩、二歩ではなくっ、前方斜めに――浮き上がるような加速から――。
その酸骨剣士の吹き溜まりへと――。
魔槍杖を振るう――同時に、爪先を意識しての、半回転――。
刹那、魔槍杖を振った空間から前方にかけて、紅い疾風と化した風が見えた気がした。
一度に数匹の酸骨剣士を屠った。
更に、念のため――。
左手首の<鎖の因子>マークから<鎖>を射出する。
長く伸びた<鎖>を操作しつつ前衛に出ていない、フーとレベッカ用に障害物の大盾を造る。
その魔法使いの前には沸騎士たちがいるから、必要はないかもしれないが――。
そこからは完全に殲滅戦へ移行した。
さすがに、前線で奮闘する大きな盾持ちの蛇人族のビアは怪我を負っていた。
だが、フォローする虎獣人のママニと小柄獣人のサザーが回復薬ポーションをビアに投げて、フォローに回る。
ビアの傷はすぐに回復。
更に、サザーとママニが見事な動きを披露。
右、左に交差しながら武器を振るう。
上下にずれて、互いの攻撃のタイミングを合わせるように前進と後退を繰り返す。
それは、何年も連れ添ったコンビのようだ。
酸骨剣士と死霊騎士を牽制しつつ倒す。
サザーが素早い動きで、放物線を描くような剣刃をくねらせる軌道をみせながら酸骨剣士の右手を切断する。
冒険者というより熟練した剣術者の動き。
酸骨剣士たちを翻弄しては、確実に倒していく。
後方にいたエヴァも紫の魔力で包んだ金属針群を酸骨剣士に衝突させた。
酸骨剣士は全身が針鼠のように針だらけとなって倒れる。
レベッカも距離を取った位置から――。
ビアを囲っていた酸骨剣士に火球を衝突させた。
レベッカは、魔法使いとしての戦術眼が高い。
前衛をタイミングよく助けている。
俺と相棒のパーティを組んでいたときも素晴らしかったが、やはり、魔法学院で成績がよかったと自慢していた言葉に嘘はないと分かる。
ヴィーネも後衛の射手として確実に正確に攻撃を加えている。
翡翠の蛇弓を構える仕草は超絶に渋い。
弓道の衣装を着せたい。
骨術士に光線矢が突き刺さると、その 骨術士は爆発。
続けて、骨術士の股間にも、光線矢が刺さる。
金玉はないが、見事に、骨術士の下半身を吹き飛ばした。
そして、最後に残っていた死霊騎士へ向けて構える。
レーザーの弦を引く、仕草が、また、格好いい。
両腕にオーラを纏う。
翡翠の蛇弓を構えるダークエルフだ。
死霊騎士を速度を生かして囲む虎獣人のママニと小柄獣人のサザーの間を、一直線に、ヴィーネが放った緑の光線矢が飛翔していく。
死霊騎士を乗せた骨馬に光線矢が突き刺さった。
射抜かれた骨馬は嘶きを発しながら地面と衝突。
乗っていた死霊騎士も地面とキス。
死霊騎士の上半身は地面と激しく衝突した勢いで消滅していたが、皆の集中攻撃を受けて、倒れた骨馬と同時に死霊騎士は骨屑と化した。
――よーし。
金箱の周りに湧いたモンスターのすべてを倒した。
「やったぁぁぁぁぁぁぁ」
「倒したっ」
「おおぉぉぉぉ」
「当然ですっ」
「やりましたわっ」
「にゃおおん」
レベッカと奴隷たちはハイタッチ。
凄い喜びようだ。
常闇の水精霊ヘルメと黒猫も喜ぶが、その喜ぶ様子は、いつもと、変わらない。
エヴァも車椅子を変形させて、
「ん、やった」
と、セグウェイタイプで前進しながら喜んでいる。
「――ご主人様っ、やりましたねっ」
従者のヴィーネも俺の隣に走り寄ると、膝を地面に突けて頭を下げていた。
「あぁ、やったな」
沸騎士たちも側にくる。
皆、無事だ。
「閣下ァ、最初は活躍しましたぞっ」
「我ら沸騎士、最後は防御に徹していました」
「おう、ご苦労さん」
ビアは身に着けているブラジャー付きの簡易鎧がぼろぼろになっていたが……。
「閣下、作戦は無事に終わりました」
「おうよ。ヘルメも魔法を沢山撃っただろう。消耗したんじゃないか?」
「はい。ですので……」
「分かっている。おいで」
「はい!」
水状態へ変化したヘルメはスパイラルの放物線を描いて俺の左目に収まった。
『ごくろうさん、魔力をあげよう』
がんばったから、ご褒美だ。
いつもより、おおめに魔力をヘルメに注ぐ。
『あぁぁっん、う、嬉しいですっ』
『よし、こんなもんでいいだろう』
『あ、ありがとうございます』
常闇の水精霊ヘルメの声は、いつになく濃厚で高い声だった。
さて、あの金箱の中身を確認しよう。
「鍵がかかっているか」
「ご主人様、わたしが調べてみますか?」
ヴィーネが顔を上げて、そう言ってきてくれた。
「頼む」
「はいっ」
ヴィーネは金色に輝く宝箱へと近寄っていく。
「にゃあ」
ヴィーネのあとを追う黒猫さんだ。
「ご主人様、わたしたちは素材と魔石の回収を行います」
虎獣人のママニだ。
奴隷たちを代表したつもりなのか、そんなことを話してきた。
「わかった」
奴隷たちは、それぞれに、大きい袋を持つとママニに続く。
モンスターの死骸と魔石の回収を行ってくれた。
気が利くやつらだ。
「ご主人様っ、罠を解除して、鍵も開けました」
おぉっ。さすがヴィーネ。
この間、銀箱を開けた時よりも、少し時間が掛かっていたが、金箱の鍵も罠も解除するとは、やはり、素晴らしい鍵開けスキルを持っている。
罠を外す知恵というか器用さもだが、基本の能力がズバ抜けているからこその鍵開けスキルなんだろう。
俺も大きい金箱の下に向かう。
「ンン」
大きい金箱の蓋に頬を擦り当てている黒猫。
「ロロ、開けるから退いてな」
「にゃお」
黒猫は鳴くと、匂い付け作業を止めてくれた。
「――よくやってくれた、ヴィーネ」
大きい金箱の横で、片膝をついているヴィーネへ労いの言葉を話す。
「はいっ、ご主人様の役に立てて、嬉しいです」
ヴィーネは顔を上げて、銀色のフェイスガード越しに優しい視線を向けてくる。
「凄いわ、鍵と罠を外す作業を見ていたけど、本当に優秀ね」
レベッカもヴィーネの手腕に感心していた。
「ありがとうございます。鍵開け、罠解除はそれなりに経験しておりますので」
「経験かぁ」
「ん、ヴィーネ優秀」
エヴァも宝箱の側に来ると、ヴィーネを褒めている。
前に、ヴィーネの心を読んで警戒を促していた視線ではない。
心を開いているんだろう。
「よし、鍵も開いたし俺が開けていいか?」
「もち、の、ろん、で、勿論よっ」
「ん、当然」
「はいっ」
美女三人からの許可も出たし、開けるか。
大きい金箱の上蓋を持つ。
と、背後から小声でレベッカが、鼻血がでそう、とか呟いていたが、聞こえないふりをしとく。
――金のずっしりと重い上蓋を開ける。
さっそく、きらびやかな魔力光に輝く品々が目に飛び込んできた。
キタキタ、来たよっ、キターッ。
巨大な物体。これは後にして……。
まぁ焦らずに見ていこうか、まずは武器系から。
一対のお揃いの青い鞘付きの長剣、巨大な赤ブドウ色の鞘に収まるシャムシール系の黒剣、黒鎖と繋がっている手裏剣のような大型円盤武器、波紋が黒い両手斧、刃先が黄色い短槍と短剣、赤黒い魔法石が埋め込まれてある長杖、黄土色の魔法石が埋め込まれてある短杖、黒光りする鋼の矢束、なぜか農民フォーク。
防具系も見ていこう。
大きい方盾、小さい丸盾、麦わら帽子、黒い魔法文字が刻まれたハーフプレート、薄っすらと金色に輝く鎖帷子、銀糸のワンピース三着、子供サイズの薄い蒼服、貝殻のような髪飾りが数個、貝殻の水着が十セット、真珠のネックレス、黒と白の魔法石が埋め込まれてある腕輪、ピアスと思われる耳飾り、ローマ兵が被るような兜、戦国武将が身に着けるような喉輪と面頬、鉄板のような佩楯。
後は新品の解読されていない魔宝地図、ポケットが大きい胸ベルト、紐付きの小型のポーチが二つ、釣り竿、宝石類と、金塊、銀塊、大量にある濃緑のインゴットと黒鋼のインゴット。
次は意図が不明な盆栽のような植木鉢、絵が収められる大きな額縁。額縁は魔法絵師の人を見ているから知っているが、植木鉢とは……。
そして、ある意味一番目立つ、中型冷蔵庫と小型冷蔵庫。
王子のとこにあった。
宝箱のサイズも大きいが、この冷蔵庫もかなり大きい。
ま、金箱だから、なんでもありだな。
だが、見た目が、やはり俺が知っている冷蔵庫とはかけ離れている。
魔石を収める部位がついているし、見た目も岩の表面のようにごつごつして窪んでいる箇所があった。
禍々しい魔力はどれにも感じないので、呪い系統はないと判断。
植木が見た目的に怪しいが……まぁいいや。
と、宝箱を開けて雑感をつらつら考えていると、仲間たちは後ろでじっと待機している。
「あれ、見ないの?」
三人の美女へ顔を向けて話す。
「あ、うん、最初は一人でじっくりと見たいのかなーって」
「――見る」
エヴァはそう簡潔にいうとセグウェイタイプの状態で、金箱に手を掛け中身を覗いた。
「あっ、エヴァ、ずるいっ」
エヴァに少し遅れてレベッカも金箱へ顔を突っ込む。
「では、わたしも」
ヴィーネは淡々としながら、金箱に近寄りみた。
「わぁ……」
「ん、凄い……」
「こ、これは……」
まぁ分かる。
量と質が銀箱の時とは比べ物にならないからな。
「また、魔宝地図があるじゃない。凄すぎるわ、金箱」
「ん、鑑定しないと分からない」
「はい。エヴァ様のいうとおり、鑑定次第といったところですが、金箱からなので、死に地図の可能性が大です」
「それは少し残念。でも、鑑定をするんでしょ?」
レベッカは俺に話を振る。
「あぁ、すぐに鑑定してもらうかは分からないが、まぁそのうちにな」
「うんっ、また一緒にやりましょうね」
「おう。だが、今は、そのお宝をどう分ける?」
「……ゴク、そ、そうね、前と同じように欲しいの言ってもいい?」
はは、いうと思った。
「いいよ。俺たちはイノセントアームズ、もう大事な仲間だからな」
笑いながら話す。
「やったぁぁ」
レベッカは、凄く嬉しそうな顔を浮かべてはしゃぐ。
エヴァも天使の微笑みでレベッカを見ていた。
ヴィーネは宝箱の中身を凝視している、気になったものでもあるのだろうか。
「ヴィーネ、どうした?」
「はい、この植木鉢に生えている特殊な木。伝説のアイテムかもしれません。【第八位魔導貴族サーメイヤー家】が所持していたとされる“生きて喋る植物”の可能性があります」
伝説っ!?
確かに魔力を宿しているし、植木は少し動いている?
あ、枝も少し動いた。そこには小さい青白い実が生えている。
『不思議なアイテムですっ』
精霊ヘルメも興味があるのか、宝箱の中を平泳ぎの形で足を動かしながら言っている。
「ヴィーネ、この植木、名前とか分かるの?」
「確か、名前は千年の植物」
「千年か。どんな効能があるんだろ」
「成長をすれば、喋り、動けるようになるとか。生えている実を食べれば魔力を増やすとも伝えられています。青い実から作られる秘薬は魔力回復薬としても、魔力を増やすアイテムとしても高く売買されていました。魔導貴族サーメイヤー家が富豪なのはこれがあるからと聞いていました」
ヴィーネは流暢に語る。
鑑定屋ですか? と、ツッコミが入るほど。
『そのようなアイテムなのですね。確かにあの実は美味しそう。閣下、今度、外へ出るときにその実をください』
欲しいのか。
複数個、生えているから一個ぐらいはあげてもいいけど。
『考えとくよ、暇になったときに話してくれ』
『はい』
そういえば、これヴィーネの過去話に少し出てきたな。
要するに超越者な盆栽だ。
「……そんな代物なら自販機代わりに、この植木は家に置いておこう」
置いたときにヘルメに一個あげればいいかな。
「じはんき? が分かりませんが、いいですね」
「ん、植木すごい。ヴィーネ、物知り」
エヴァは宝箱を見ていたが、ヴィーネの話に反応していた。
「えーっと、これと、額縁も、もしかしたら使えるかもしれないけど、これもいいな、わぁ、ねっくれす……」
その隣にいたレベッカはいつも通り目が$マークになって宝箱を物色している。
だが、その嗜好はハッキリしていて好ましい。
「さ、俺たちも選ぼう」
「はい」
「ん」
この中で一番欲しいのは……。
あまり使わないと思うが、刃先が黄色い短槍かなぁ。
いや、植木鉢か。伝説だし。
レベッカの興奮が鎮まったところで、
「……それで、決まったか?」
「うん」
「決まった」
「はい」
美女三者の目はそれぞれの目的の品一点へ注がれている。
「それじゃ、レベッカから」
「――これっ」
レベッカの白い指が差したのは赤黒い魔法石が埋め込まれてある長杖。
やはり、この杖か。
「エヴァは?」
「んっ」
エヴァの細い手が伸びた先には濃緑のインゴットがあった。
また鉱物系か。
「ヴィーネは?」
「はいっ」
ヴィーネの青白い指先が差したのは黒と白の魔法石が埋め込まれてある腕輪。
「わかった。各自、希望のアイテムを取ってね。鑑定する前だが、試すだろうし」
皆、手に取って身に着けていく。
「俺はこの植木と短槍を貰っとく」
二つの品は俺のアイテムボックスへ直行。
短槍は使わないかもしれないから、その時はビアにでも渡すか、ただの投げ槍アイテムにするか。
「さて、まだまだあるが、どうするか」
エヴァも首を縦に振る。
「ん、沢山ある」
宝箱にあるポーチと胸ベルトをみて、予想しながら話す。
「そうだな、このポーチと胸ベルトはもしかして、アイテムボックスか?」
「あっ、そうみたい」
「はい、確かにそうだと思われます」
三つあるし、彼女たちに渡しとこうか。
「それじゃ、三つあるし、ヴィーネ、エヴァ、レベッカ、アイテムボックスを取っていいよ」
「えええ、いいの?」
「シュウヤ、ふとっぱら。でもわたし持ってる」
腰の辺りにある小さい銀製の筒容器を見せる。
「エヴァは持っていたな」
「ご主人様、よろしいのですか?」
レベッカとヴィーネは遠慮している顔だ。
「いいよ。仲間だ。パーティとして持っている人が増えればそれだけ回収も多くできる」
「ん、確かに、レベッカとヴィーネが持つのは賛成」
エヴァも同意。
二人へアイテムボックスを持つことを勧める。
「じゃ、貰っちゃうわね……わたし、イノセントアームズとして、頑張るから」
レベッカは遠慮勝ちにポーチを手に取ると、掲げながら宣言していた。
「では」
ヴィーネは胸ベルト型のアイテムボックスを取る。
「……わぁ、これもこれも入っちゃう。すごい」
「これが、アイテムボックス」
二人とも、手に持っていたアイテムを入れたり出したりしている。
俺が持っているアイテムボックスとは根本的に違うようで、彼女たちが持つポーチと胸ベルト型のアイテムボックスは容量とか詳しい表示は出ないようだ。
後は、貝殻のような髪飾りが数個と真珠のネックレス。
これも美女たちにプレゼントしよう。
髪飾りを取る。貝殻の水着は何も言わずにスルーしといた。
「それじゃ、三人ともこっちにおいで」
ヴィーネ、エヴァ、レベッカは近寄ってくる。
彼女たちの綺麗な髪に貝殻の髪飾りを挿していく。
「あ、ありがと」
「ん」
「嬉しいです」
三人とも、なんとも言えない照れた顔を見せるので、俺も照れてしまった。
「この真珠のネックレスはどうしようか」
「じゃんけん、ぐーちょきぱーですか?」
ここでもじゃんけんは同じか。
「了解。勝負よっ、エヴァ、ヴィーネ」
「ん、負けない」
エヴァはレベッカとヴィーネの足や腕をさりげなく手で触っている。
なるほど……負けたくないらしい。
「わたしもですっ。ご主人様の愛を独り占めしてあげます」
一人、ヴィーネの意気込みに違うお熱が入ってるが、聞こえない振りをした。
「せーの、じゃん、けん」
「ぱー」「ぐー」「ちょき」
あいこか。
「もう一度よっ」
「ん」
「はい」
結局、二回引き分けがあり、やっぱり最後にエヴァが勝った。
「ん、勝ったっ」
「悔しい、負けてしまいました……」
「エヴァ、強いわね」
「それじゃ、これはエヴァの物、エヴァ――」
車椅子に座るエヴァに抱きつくように首に真珠のネックレスをかけてあげた。
「あぁ……」
後ろからヴィーネとレベッカの溜息が聞こえる。
「……シュウヤ、ありがと――」
ちゅぱんとやっこい感触がっ。
「はうあっ」
頬にちゅっとされちゃった。
驚いて、エヴァを見る。
エヴァはうっとりと紫の瞳で見つめて、頬どころか顔を真っ赤に染めていた。
「ああああ」
「なんって、卑怯なっ」
レベッカとヴィーネは叫んでエヴァを睨む。
鼻の下を伸ばしながら、エヴァから離れた。
「ご主人様、後で、わたしも……」
「ちょっ、エヴァに続いて、ヴィーネまでも、みせつけてくれる気なのね……わたし、だって……」
非常に照れくさい空気になったので、話を切り替える。
違う話題を振った。
「ところで……後の宝は、高級戦闘奴隷たちに分けちゃっていいか? 【スロザの古魔術屋】での鑑定前だけど」
少し、間が空く。
さすがにいきなり変えすぎたか。
「……わたしは構わないわ」
微妙にスルーされた形のレベッカはいじけながらも話に乗っていた。
「ん、わたしも」
「ご主人様に従います」
レベッカとエヴァは特には反対しなかった。
高級奴隷の戦闘を間近で見ているから素直に戦力アップは歓迎なんだろう。
よし、許可を貰ったので、あいつらが装備できそうなのを出していく。
「それじゃ出しておく」
一対のお揃いの青い長剣、こいつは剣士系のサザー。
シャムシール系の黒色の幅広な長剣はビア。
短剣、黒鎖と繋がっている手裏剣のような大型円盤武器、この二つの武器は器用そうなママニに。
黄土色の魔法石が埋め込まれてある短杖は魔法使いのフー。
防具は大きい方盾、サイズが大きいハーフプレート、鉄板のような佩楯、ローマの兵がかぶるようなコリント式ヘルムをビアに。
薄い金色に輝く鎖帷子、喉輪、面頬はママニ。
子供サイズの薄い蒼服はサザー。銀糸のワンピースをフーへ。
それらの品を外へ出す。
んじゃ、この金箱ごと回収しちゃおっと。
蓋は冷蔵庫にぶつからず、あっさりと閉じられた。
この金箱も特殊だな。
そこで、アイテムボックスの格納を押しておく、
「んじゃ、この金箱からアイテムは全部取り出さず、地上の【スロザの古魔術屋】で、また出すとして、今はこの金箱ごと回収する――」
……糞重いが、片手で持てた。アイテムボックスへぶち込む。ちゃんと入った。
前の銀箱は全部取り出して消えちゃったけど、回収はできた。
「片手だけで、凄い」
「ん、怪力……」
そんな二人の言葉は無視して、奴隷たちの様子を見た。
もう素材と魔石を集め終わっていたようで、一ヶ所に集合している。
各自、持っている袋が膨らんでいるのが分かった。
視線を向けると、奴隷たちは集まってくる。
「ご主人様、集め終わりました」
また、ママニが代表して話してくる。
奴隷たちはもっていた袋と背嚢から素材を渡してきた。
「――おう、ありがと」
大きい魔法袋ごとに纏めてアイテムボックスへ放り込む。
「よし、お前たちにも報酬がある」
「ほ、報酬ですか?」
「僕たちに?」
ママニと小柄なサザーは驚いて聞いてくる。
「え」
エルフのフーも同様に目を大きくしていた。
「我にくれるのか?」
蛇人族のビアだけは平然と、口から蛇舌を伸ばし話していた。
「そうだよ、こっちに来い」
地面に分けて置いたアイテム群を見せてやった。
「にゃあ」
黒猫がさり気なく混ざり、アイテムに猫パンチをしているが無視。
「わぁぁ」
「こ、これは……」
「こんなに」
「我好みの盾があるっ」
軽く使えそうな理由を説明しながらアイテムを渡していく。
奴隷たちが身に着けている様子を満足気に見ながら、
「いい感じにサイズもぴったりだな。前に装備していた物は俺が預かっておこう」
アイテムボックスに入れておく。
「こんな装備を……ご主人様っ、ありがとうございます」
最初に挨拶したのが、虎獣人のママニ。
薄い金色に輝く鎖帷子を胴体に着込み、背中に弓と矢筒、腰に短剣を複数、首に喉輪、顔に面頬を装着したママニの姿は、まさに虎の武者。
手には黒鎖と繋がる大型円盤武器を携えている。
「ご主人様っ、ありがとう。わたし、がんばります」
フーは銀糸のワンピースを着て、黄土色の魔法石が埋め込まれてある短杖を、胸に抱き寄せるように持っていた。
「ぼくもっ、ご主人様へ永遠の忠誠を」
サザーは子供サイズの蒼服が似合う。一対の長剣は背中に装着していた。
大きさ的にギリギリだな、彼女は背が小さいから大太刀のような感じに見えてくる。
「我は幸せだ。最高の主人である」
ビアは一番見た目が変わった。兜のサイズはぴったりと嵌まっている。
上半身には大きいハーフプレートを着込み、右手にはシャムシール系の黒剣を握り、左手に大きい方盾を持つ。
下半身には連なる蛇腹を守るように鉄板のような佩楯が覆っていた。
ただでさえ、丈夫な皮膚持ちが完璧な前衛騎士となってしまった。
ま、これで怪我を負いやすい彼女も、より硬く、怪我をしにくくなると思われる。
「皆、似合っている。さて、あの塔の上も気になるが、目的の魔宝地図は済んだ。地上へ戻ろうか」
皆にそう話し掛けてから歩き始めた。
塔以外にも邪神の遺跡が少し気になるが……。
寄り道はせず。
水晶の塊の転移可能なエリアまで進む。
皆で、新武器を試しつつ戦術を練りながら――。
モンスターを狩り進めて来た道を戻った。




