千六百九話 クシュナーの復活
「……そんな」
ハーフエルフの女性は両手に持っていた筆記用具とメモを挟む道具を落とし、両膝から崩れるように床にお尻を付け、項垂れた。
「……君の名はアマリアさんで良いんだよな?」
と聞くと、涙を流していたアマリアさんは、
「……はい」
と返事をした。
「アマリアさんも、先に出た女性たちと同じく、降伏したと判断するが?」
「……はい……え、わたしを殺さないのですか、ここでなぶり殺しに……」
「俺は殺さない」
「では、他の方が、私を殺すということですね」
なんかの流れか、とツッコミたくなるが、ここでそうだ冗談を言いたくなったが、せずに、
「それは分からない、降伏するかと聞いている」
「……降伏します」
「了解した、立ってくれ。俺の名はシュウヤ、皆、第二王子ファルス殿下側で動いている」
「はい……」
アマリアさんは頷いて立ち上がると両手を上げた。
そのアマリアさんに、
「第三王子クリムの側近だったのなら俺たちがここに来た理由は分かるな?」
「はい、王子の作戦は失敗、クリム様は負けたのですね……そして、あの槍使いでしょうか」
逆上しないところを見ると、頭はあまり弄られていないか?
「そうだ」
と、肯定すると、アマリアさんは瞳を震わせる。
どんな風に言われていたのやら、一方的なレッテル張りか。
「名はシュウヤ、相棒の黒猫も知っているなら、背後の施設内に居る」
と、言いながら顎を右にクイッと動かし、「アマリア、君もここから出てもらう」と分厚い鋼鉄扉の裏側と出入り口に向ける。
アマリアさんは、「はい」と頷いてトボトボと俺の横を通り地下施設の中央に出た。
さて、少し個室を物色――。
殺風景で窓ナシ、冷蔵庫のような魔道具と、椅子と机と寝台が二つのみ。
天上に光源の魔道具と換気扇のような魔機械が設置されている。
冷蔵庫のような魔道具は回収しとくか――近付いてチェック――。
上にアンテナのような形の魔機械が付いている。
冷蔵庫は横開きか、開けると、中にはハムと卵とチーズとパンの食材と銀製の筒と半透明な筒が数個並んで納まっていた。
半透明な筒の中の液体は貴重そうな魔法の液体か。
蓋を閉める。冷蔵庫の横から二つ銅の棒が出ていて、先端に渦を巻くように螺旋状のコイルが出来ていて、そこから魔力が発せられていた。
更に極大魔石のような膨大な魔力を有した小さい塊が、ソケット状の溝に複数個嵌まり付いている。
無数の十円玉と似たコインの銅と銅線が繋がってソケット状の周りに浮いていた。
磁界を発生させている?
極大魔石と、磁石の力と超伝導と磁界の作用が、冷蔵庫の電源かな。その冷蔵庫に触りながら、戦闘型デイバスに仕舞った。
:ル・クルンの魔杖×1
:蛇神チャスラの魔槍×1
:幻魔ノ腕輪ボックス×1
:幻獣アゲロンの腰ベルト×1
:魔造小箱×1
:爆弾ポーション×5
:鋼魔革ヴィム・ループボックス×1
:神槍ケルフィル×1
:異界蜘蛛ブルルヴェイチュの大鎌×1
:アルケーシスの死体と装備×1
new:闇神リヴォグラフの骨杖×1
new:闇炎魔王宝石×1
new:魔刀リヴォルスターの残骸×1
new:バビィリナスの魔法力袋×1
new:イゾルガンデ式・皇級冷蔵庫×1
ゲルダーノ咆哮はレベッカが持ち、闇神ノ封筒は、メルに渡したからもうないな。そして、冷蔵庫はイゾルガンデ式か。
名は西にある迷宮イゾルガンデか、そこの迷宮産かな。
近くには【八峰大墳墓】、またの名を【八大墳墓】の師匠たちの墓場がある。
ファーミリアの自宅、【大墳墓の血法院】にお邪魔して、樹界などで用を足したら西に向かうか、そして破壊しないとな。
そしてイゾルガンデ式・皇級冷蔵庫は武術街の自宅か。
サイデイルの自宅か。
魔塔ゲルハットのペントハウスか。
バーヴァイ城にも置ける。
持ち歩いて〝魔造家グルカファントム付き〟の魔造家の中に置く方法もいいか。
〝魔造家グルカファントム付き〟のアイテムに戻した際は、魔造家の中に格納されたままのはず。
だがアイテムボックス自体が冷蔵庫代わりだからなぁ。
そして、二十面相の聖魔術師の仮面を置く台の〝黎明の聖珠仮面台〟の拠点装具を思い出す。
拠点装具も効果があるだろうから、いつか、キャンプを行う時に〝黎明の聖珠仮面台〟を置こうか。更に小さい台代わりにイゾルガンデ式・皇級冷蔵庫を使うぐらいかな。
さて、戻るか、シェルターの部屋から出た。
――地下施設の様々な物がなくなっていた。
粗方、皆が回収したか。
まさに、伽藍堂――。
キュベラスが破壊した大きい壊れていた硝子容器も回収されている。
アマリアさんと軍服を着た二人の女性たちは後頭部に両手を当て、両膝を床につけた体勢となってメルとクナとエヴァから尋問を受けていた。
クリドススは軍服を着ている女性の首に、魔双剣レッパゴルの切っ先を向けている。今にも処刑ができる立ち位置だ。
キュベラスたちは、なんとも言えない表情でその様子を見ている。
キュベラスたち【闇の教団ハデス】は俺たち側に付いたが、状況が変われば根本から変わっていただろうからな。
エヴァは、アマリアさんたちの手を触りながら一人一人の話を聞いている。エクストラスキルの<紫心魔功>で心を読んでいるだろう。
レザライサたちに近付くと、レザライサが、
「槍使い、この者たちは許すのか?」
「許さないが、今すぐ殺すことはしない、降伏したからな」
「……オセべリアの民を殺してきた大戦犯クリムの子飼いだぞ?」
レザライサの怒りを滲ませた言葉。
迫力があるから怖い、が、その気持ちは当然、ファルス殿下が王に成る際には、厳しさも必要だろう。が、矛を納めた相手が、この三人だ。
今後のオセべリア王国ため一つの道を示せるかもしれない。
その想いで、
「張本人のクリムは死んだんだ。子飼いの責任も重大だが、その責任の取らせ方も色々ある」
と、少し間を空けた。
皆が頷く。
「……【外部商会】の最高幹部ペイシェルと西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンと魔法ギルドのテツ・リンドウと共に、このアマリアさんと二人の証言内容は、第三王子クリムが犯していた無数の犯罪を世に知らしめる重大な証言となるはずだ。その証言と、物的証拠などは今後のファルス殿下、否、ファルス王の正当性を揺るぎない物に変えるだろう。また、それらを隠さず真実を国民に伝えられたらオセべリア王国の民たちは、今まで通りの嗣続の王ではないのか? と、異なる目で見るだろう。ある程度は感謝し、敬意を示す者も増えるはずだ。勿論……他国よりの民やルサンチマンが詰まった民たちには、絶好の王族を責める機会となる。貴族や王族に不満を持つだろう。が……そうなったとしても、それはそれで、オセべリア王国を内から盛り返すチャンス、弱者の立場に立てるファルス殿下の施政の見せ所となるはずだ」
と語ると静まった。
善意の民意を汲み取る専制君主は最高だからな。
ファルス殿下も色々と皆のための行動へと移れるはずだ。
クリドススは魔双剣レッパゴルを揺らす。
レザライサをチラッと見ていた。
レザライサは暫し、俺を見ながら呆けてから、瞬きを繰り返し、
「……まったく、その知見はどこから……が、そうだな……うむ。光魔ルシヴァルが示す一つの正義の道か」
と発言してから、隣に居るファスとクリドススに目配せを行う。
暗に指示を受けたクリドススは魔双剣レッパゴルを下げていた。
ヴィーネたちは胸元に手を当てて俺に会釈する。
「「「……」」」
そこでエヴァに、
「三人だが、どうだろうか」
エヴァは、頷いて、
「ん、皆、死にたくないだけ。刃向かうつもりは微塵もない。家族たちのことを考えていた。三人とも<魔手術>で体が強化されている。アマリアは予備の体のホムンクルスのことを知っているけど、ホムンクルスは造れない。クリムから魔機械に表示されている数値のメモを取るように指示を受けていた。アマリアは<錬金術>が得意でポーション造りが得意。クリムのような器用さはない、クリムに感謝していたけど、クリムのことを怖がっている面もあった。だから大丈夫と思う」
エヴァの語りを聞いた三人の女性たちは驚いては、強張る。
「「……え」」
「……心を……」
エヴァは頷いて、「ん、黙っていてごめんなさい。そう、私は心が読めるエクストラスキルを持つ、嘘を付いたら見抜いていた」
と語ると、三人は息を呑む。
「「「……」」」
レザライサは、
「……では、見なかったことにしようか。しかし、アマリアと二人は、槍使いシュウヤと【天凜の月】の皆に感謝するんだな? お前たちは重大な戦争犯罪人だ。この場で斬り捨てが妥当、最低で絞首刑、しかも、街中を晒し歩いてからの国民たちの目の前でのギロチンによる処刑台での死刑がちょうどいい。国民のガス抜きにもなるから支配者には好都合だ。今回の、槍使いのやり方は特例だ」
と脅迫気味に語ると、アマリアさんたちは青ざめながら、
「「「……」」」
沈黙した。レザライサは、
「返事はどうした? 死にたくないのないのなら感謝の言葉ぐらい寄越せ、わたしの氣が変わり、ここで魔剣ルギヌンフを振るい抜いたとしても、そこの槍使いシュウヤは止めることはないだろう」
と喋り、俺を見つめてくるレザライサは少し微笑む。
【白鯨の血長耳】の盟主の言葉だが、冗談か。
三人には冗談には聞こえないとは思うが、頷いた。
直ぐに、軍服を着ている女性の一人が、
「あ、ありがとうございます! シュウヤ様に【天凜の月】と【白鯨の血長耳】の皆様! 知っていることはなんでも喋ります」
と言うと、隣の軍服を着ている女性が、
「は、はい! 感謝です! ファルス殿下に忠誠を誓います」
と発言。隣に居るアマリアさんも頷いてから、俺を見て、
「はい、私も命を取らないでいてくれているシュウヤ様たちに感謝します……」
と述べる。レザライサは頷き、クリドススに視線を向ける。
クリドススは、
「アマリアさんと二人とも命拾いしましたね、ただし、【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の目は貴女たちを見ていることをお忘れなく」
と、発言してはユイをジッと見た。
ユイはかすかに頷き、微笑む。
クリドススの視線には色々な意味がありそうだ。
「「「はい」」」
そこで地下施設を見回してから、アマリアさんを見て、
「〝神魔の魂図鑑〟を入手した、使い方は知らないか」
「……クリム様は魔力を込めてましたが、それぐらいしか分かりません」
「了解した、クシュナーの体に魂を戻せるかどうか、試すだけ試すか、皆もいいかな」
「ん」
「うん」
「「「はい」」」
「やるべきだろう」
「あぁ、賛成だ」
「呪いのような物はないようですからね」
「おう、では――」
アイテムボックスに仕舞ったアス家のクシュナーの体が入った硝子容器を取り出して、足下に置く。
そして、右目の横にあるアタッチメントを触った。
直ぐにカレウドスコープが機動した。
パチッと音は成らないが、そんな印象のまま視界が高精細化。
クシュナーの体を縁取っている線の上にある▽を押すようにスキャンを開始。
いつもの数値が出ては――。
内臓類は失っていない。
心臓も無事だ。邪神の類いの蟲もナシ!
よし――。
そして半透明な袋のバビィリナスの魔法力袋も戦闘型デバイスのアイテムボックスから取り出した。
そのバビィリナスの魔法力袋に入っている〝神魔の魂図鑑〟を取り出した。
タイトルは共通語ではない、異世界文字か?
不思議な文字で神魔の魂図鑑と描かれてあるのかな下にルシヴァルの紋章樹のような系統樹が描かれ、光を帯びている葉と花が詳細に描かれてあった。これは魂が保存されていると、簡易的に現す光かな?
どことなくカバラ数秘やセフィロトの木を連想した。
早速、〝神魔の魂図鑑〟に魔力を込める。
と〝神魔の魂図鑑〟が振動し、魔力が伝搬してきた――。
開くと、見開きは半透明で薄い紙で何も描かれていない。
※称号:覇戈神魔ノ統率者が躍動※
ピコーン※<神魔ノ魂使い>※恒久スキル獲得※
おぉ、やった称号効果が効いたか。
<神魔ノ魂使い>の恒久スキルを得た。
半透明の薄紙に、アガスティアの葉を連想させるような葉の模様が生まれると、〝命の数は天によって定められ、万物の因果は巡る、が、神仙の生命の精髄は異なる〟と、文字が揺れ動きながら浮かび上がった。そして、頁の真上に魂と魄を象徴する模様が現れ、健全さや不浄などの言葉が次々と出現し、美しい川の流れも魔力で形作られる。
端では滝のような流れとなって水飛沫のように魔力が塵となり、魔力の塵は星々の光に吸収されるように消えていく。
幻想的な光景が真上に展開された。
その幻想的な川に星々を意味するような銀河系の一部が背景に生まれる。
と、表面の川に不気味に形を変えて黒い色に輝きを発した四角い形が現れ――。
その下に、
デルミヤガラスの魂魄:欠損
パミツゲレウの魂魄:欠損
ムテンバードの魂魄:欠片
ドイラの魂魄:欠片
モモランの魂魄:欠片
オセベリアの魂魄:欠片
ハルフォニアの魂魄:欠片
サーマリアの魂魄:欠片
レドソークの魂魄:欠損
クリムの魂魄:欠片
次に丸い輝きが生まれて、その下に、
:クシュナーの魂魄:健全
:ライゼンの魂魄:健全
:ロレファの魂魄:健全
:ハネアの魂魄:健全
:アルディットの魂魄:健全
菱形の黒い輝きの下、
:スレーの魂魄:不浄
:アルグロモアの魂魄:不浄
:ディフェル魂魄:不浄
:フェルア魂魄:不浄
:コヒメリア魂魄:不浄
:ラマラ魂魄:不浄
:アマツ魂魄:不浄
と、ずらっと表示された。
「「「「おぉ」」」」」
「皆、見えているな?」
「「はい」」
「「凄い!」
「うん、けどクリムの魂魄の欠片があるわね」
「だから、必死にここに戻ってきたのか、保険はそれ?」
「だろうな、では、早速、クシュナーの体の復活を試みる」
「「「はい」」」
クシュナーの魂魄のところに指を当て、クシュナーの体に戻れと念を込めると一瞬で、丸い輝きと、刻まれている文字が消える。
直ぐに丸い輝きは〝神魔の魂図鑑〟を通り抜け、硝子容器の中にいるクシュナーの体に移動しクシュナーの体の中に入った。
と、クシュナーは目を覚ました。
魔機械が点滅し、硝子容器が自動的に開く。
クシュナーはムクッと起き上がる。
よっしゃ、復活成功!
神魔の魂図鑑を閉じてアイテムボックスに仕舞う。
クシュナーは、
「……ん? 皆はどこだ? あ、ここは……なっ」
と、自分が裸と気付いたクシュナーは、左手を上げながら右手で股間を隠す。
急いで毛布をクシュナーに出し、
「これで、そして、貴方はアス家のクシュナーさんですね」
「あ、あぁ、そうだが、君は?」
「俺はシュウヤ、貴方を救った者です」
「救った……あ……私はクリムに騙され……」
「はい、そのクリムは倒しました。ここは安全です。そして、妹さんも生きています」
「あ!! ディアのことを、私はいつからここに……」
と、立ち上がる。
クシュナーは、眩暈とかはなく毛布で体を隠しながら立った。
「普通に歩けるようですね、その硝子容器の中に保存されていたんですが」
「……あぁ……これは、クリムの錬金術師としての腕前は聞いていたが、ここまでの……」
「あ、はい」
ミスティは感動で涙を流しながらペレランドラとカットマギーとカリィに血文字を送りまくっている。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




