千六百八話 神魔の魂図鑑
2024年10月7日 14時04分 いろいろと加筆。
鋼鉄扉の先に居る魔素は生き残りか。
が、それよりも、神槍カーナディアと高・古代竜のアルディットは……クリムのアイテムボックスごと体を穿ったから無理かな……。
<紅蓮嵐穿>が通り抜けた位置をもう一度見たが、熱気に塗れている。
「にゃ~」
黒猫も、鋼鉄扉の背後にある空間に居る魔素たちに氣づいたようだ。その頑丈な扉は、銀行の金庫のような扉か、核シェルターや潜水艦のハッチを連想させる。硝子容器を観察していた全員も厚い扉の向こうにあるであろう魔素の存在に氣がついたようで表情が変わっていく。
鋼鉄扉の中にいる者の魔素は三人分か。
上の、屋敷にいたキュベラスに倒された戦闘メイドたちの同僚か?
それとも大騎士スレーの本体か?
クリムのホムンクルスがいるのか?
掌握察と<闇透纏視>を使っても、魔素は人の形しか分からず、その量は不明だ。
鋼鉄扉の上の壁には、トーラス状に魔力を放つ振動計のような魔機械が埋め込まれている。鋼鉄扉と連動する仕組みなら開けた途端に爆発とかありそうだが、どうなんだろう。
アドゥムブラリが偽魔皇の擬三日月の斧を宙空に浮かばせつつ、
「扉の奥にいる魔素は、クリムとは異なる魔素か」
「あぁ」
と、返事をしつつキュベラスたちに、
「キュベラス、そこの魔素は誰か分かるか?」
「トイハース家のアマリアでしょう。王族クリムの補佐をしていた。庭で会話したことは覚えています。商会クリムパラダイスの代表補佐も兼ねている上級顧問です。<錬金術・解>などのスキルを持っています。元は寄子の貧乏貴族でしたが、クリムに見初められてトイハース家を救う形で第三王子付きになった。更に護衛の大騎士スレーたちと同様に魔改造が施されているはず。クリムが倒れたことで上にいた戦闘メイドと同じく、逆上し襲い掛かってくる可能性があります」
キュベラスの言葉に皆が武器を召喚。
アドゥムブラリが、
「クリムの信奉者なら逆上はありえる」
と、発言。
すると、レザライサが、
「分厚い扉だ、爆破を想定している? 触れるか魔力を通すか、取っ手を回すかしたら、そこの鋼鉄扉の部屋以外の地下施設を爆破させる仕掛けが施されているかもしれない」
「中に隠れたのはそのためか?」
「あぁ」
と皆と見回してから、
「キュベラスはどう思う」
「ありえますね」
「ん、爆発が起きても、わたしたちなら痛いだけで大丈夫」
「うん、それは当然。けど念のため、それに爆発が起きた場合貴重な素材が失われるのは勘弁よ」
レベッカの言葉にエヴァは、ハッとして、
「ん、あ、うん、分かった」
周囲の硝子容器を見やる。
黒猫は近くの硝子容器の表面に両前足を乗せて中身を覗き込んでは、「ンン、にゃ、にゃお」と鳴いてから俺を見てきた。
ネームプレートを見るとアス家のクシュナーか。
青年のまま、生きているように眠っているが……。
「……アス家の長男、クシュナーのオリジナルか。やはり犠牲に、あ、魂があれば復活は可能なんだろうか」
クナとキュベラスたちが寄ってくる。
クナは、
「クリムが語っていた〝神魔の魂図鑑〟があれば魂が保存されているはずですから、それを見つけ使えれば復活の可能性はあります……しかし、栄養源としての魔力の液体は、この容器に満ちている限り。このオリジナル素体のクシュナーがどの程度保てるか、これがアイテムボックスに入れば良いのですが……」
「試すか」
「はい、アイテムボックスも様々ですから」
クナの言葉に頷きつつ――。
クシュナーの体が入った硝子容器を触り、直ぐに戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞うと、硝子容器は消えるようにアイテムボックスに入った。
「よし!」
「やりました!」
「「はい!」」
「後で、〝神魔の魂図鑑〟を探そう」
「はい」
「そして〝神魔の魂図鑑〟がなかったらの話だが、クシュナーの体を得られただけでも良しとしようか、ディアには俺が話す」
「ん、シュウヤ……ディアには、ミスティとわたしもちゃんと伝える」
「うん……辛いけど、真実は伝えないと」
「まだ学生だ、優しい嘘でもいいんだぞ」
「ディアの立場なら?」
「知りたい、ただな、センティアの手の使用に、兄想いの気持ちを受け止めていたからな、イジメもあったようだし、ショックすぎるだろ、先生側が誘拐に加担し、友情を利用した殺しだ、クリムが酷すぎるが……」
「……うん」
「ん、皆で支えよう、後、ドロシーたちもいる」
「「……」」
「ですが、〝神魔の魂図鑑〟がここのどこかにあるかもです!」
「にゃ~」
キサラの言葉に頷く。
相棒は鳴いてから、鼻をくんくんとさせながら地下施設を歩き始める。
「では、話を戻すが、鋼鉄の扉を調べるのは最後だな」
「了解しました」
「「「はい」」」
皆の返事に頷いた。
キサラは、血文字をグロムハイム城付近に居るビュシエに送っている。
「クリムたちが、残したであろう貴重品!」
「キュベラスにファーミリアとシキたちもほしいアイテムがあるのなら、クナやメルたちと相談しながら回収してくれていいからな」
「ふふ、はい、ありがとうございます。シュウヤ様のお気遣いには、愛がありますわ」
「はい、嬉しさと共に何か、こう……ごほん」
と、シキが語りながら俺をチラッと見ては恥ずかしそうに微笑む。
「なんだ、シキ」
「い、いえ、では、この、一つの空の硝子容器回収させていただきますが、宜しくて?」
「おう、とりぶんは皆で決めてくれ、ま、この量だ、一つ二つ増えてもいいだろ」
「分かりました」
「じゃあ、私も、この魔機械と空の硝子容器を回収しちゃう」
ミスティの言葉に頷いた。
「おう、溶かす以外に、有効活用できそうなのか?」
「それは難しいかな、クナは?」
「はい、回収しますが、溶かす以外の技術の流用は、現時点では、不明なことが多すぎます」
クナの言葉にミスティたちは頷く。
「大騎士スレーの鬼武者アマツの、二十三代目に鬼武者ラマラとフェルアのホムンクルスも研究の積み重ねだから無理そうかな」
「はい、大本の巨大容器は破壊されていますし、中身の液体も鑑定で、どの程度表示されるか、すべての素材が表示されたとしても、それを維持するのは中々……再現も難しい」
「そっか、メンテナンスにも、クリム独自のスキルが必須の場合もあるのかな」
「はい、多分。一応サンプルに<血魔力>を有した魔法の液体は少し回収しましたので、複製を重ねることはできる。それを少しずつ培養すれば……チャンスはあります。ですが、今、ここにあるホムンクルスは今後、役に立つかどうかは不明です……オーダーメイドすぎる」
「ホムンクルスの素体についても研究はしたいですわね」
「はい、ですが、保存用の魔法の液体も固有のスキルが使われているのなら、解析をしても再現は難しい」
「なるほど、ただの秘薬ではない……」
皆が頷く。
「容器に満ちている赤が基調の魔法の液体は<血魔力>も使われているようですが、吸血鬼の私たちとは異なります」
「はい、クリムは光属性なども利用していた」
「魔道具と魔機械に組み合わせも複雑そうです」
ファーミリアとシキたちの言葉に頷く。
「あぁ、別段急いでいない、皆のために役立てるようになる可能性が秘めているなら、アイテムボックスに保存しとけばいいさ、皆も回収していいぞ、〝神魔の魂図鑑〟を探しながらな」
「はい、では、回収だけしときます」
「「はい」」
「【天凜の月】や皆のためだ。ゼッタの錬金商会も成長できるだろうし、できればオセべリア王国の民たちに、技術を還元できるようにしてくれたら、新しい王も喜ぶだろう」
「ん、シュウヤらしい」
「ふふ、はい」
「総長らしい~」
「うん、皆の【天凜の月】のため!」
「はい、すべてを【天凜の月】とシュウヤ様に捧げます。それは皆のためにも通じる」
「「はい!」」
キュベラスが片膝の頭で床を突き、頭を下げる。
近くに居た炎極ベルハラディたちも続いた。
【闇の教団ハデス】のためにも魔界セブドラで、闇神ハデス様を救出しときたいな。キュベラスたちに寄り、手を差し出す、
「キュベラスたち、立ってくれ」
「「「ハッ」」」
キュベラスの手を握り、引っ張って、「きゃ」と少しキュベラスを抱きしめた。
「……ちょっと~? なにしてん!」
安定のレベッカのツッコミを避けるように爪先半回転を実行し、キュベラスから離れた。
ミスティは、
「ふふ、楽しそうだけど、マスター、そこに並ぶ硝子容器と魔機械は無事な物と中身は、もう一通りメモってメルに渡したからね」
羊皮紙に色々と書いたか。
「おう、了解だ。ミスティも回収戦に参加していいぞ」
「うん――」
ミスティは薬品類の棚に向かい、「この貴重なルルポリメル液をいただく~」と言いながら回収し、「壊れていない硝子容器と魔機械を一つ回収しておくから~」と硝子容器と魔機械を手に取り回収しては、細長い足を華麗に上げてダンスしつつ、「ふふ、マスターの好きな~」と腰を横に悩ましく振っては、ミニスカートのひらひらを少し触って、また横回転しながら、「『神魔の魂図鑑』があるかもしれない本棚を探そう!」と発言、そのまま本棚へと移動した。
キュベラスが、「ミスティさんは研究者気質かと思いきや、ダンスもできるのですか~」と言いながら薬品棚に移動して、ミスティは、
「精霊様の様々なダンスはマスターの記憶から得てるからね~」
と、会話していた。
アドリアンヌ、シキ、アドゥムブラリ、メルたちもそれぞれに化粧品の効果の話をしながら、巨大な薬品棚から様々な薬品と魔機械を回収していた。クリムは、化粧品の研究もしていたのか?
クナに、
「しかし、クナならホムンクルスの研究が得意だから、魔導人形などにも流用が可能になるかなと思ったが違ったか」
「ふふ、研究はたしかに。しかし、恥ずかしながら私は、私の自意識に飲まれて捕まっては、ゾルたちにいいように弄ばれてしまった」
辛い記憶を呼んでしまったか、クナに近付いて、
「すまん過去を思い出させたか」
「ふふ、大丈夫です。ただ、ネクロマンサー系の<死霊術>も多岐に渡るのです……」
「ほぉ~」
「知っているだけで、<紅ノ魔源>、<塩培魔腎臓術>、<不死研究>、<魔王ノ根源>などがありますし、<錬金術・解>と<召喚術>に己の魔力と精神力……また神話級や伝説級の書物を含む様々なアイテム類。逆絵魔ノ霓や朱雀ノ星宿ですわね、また、それを媒介にする様々素材と……水や鉄分と血肉、その配分の微妙の差で……結果が異なることがあるのです」
なるほど、科学の実験を思い起こさせる。
「難しいとだけ理解できた」
「ふふ、ホムンクルスを維持するための魔法の液体の再現もできたとしても時間がかかりますから。また、それが、このホムンクルスたちに合うかどうかも不透明。また、ホムンクルス研究の積み重ねはクリム独自の技術……わたしが行った研究は、わたしを実験台にして培った技術です。クリムはナロミヴァスから得ていた多種多様の種族を実験台にし、優秀な個体を選別し、異界の軍事貴族の動物や魔道具、幻獣類なども利用していた。土台が異なる」
クナの発言に皆が神妙な表情を浮かべていく。
頷いたが、クリムはクナ以上のマッドサイエンティストか。
「そっか、ま、先程も言ったが、クナと皆のためになるなら回収しようか、だが、クリムと同じようなことは絶対にしないからな」
「はい、命は大事にですね」
「そうだ、無理強いなどもナシ」
「はい、ゾルの資料を基にミスティとザガにボンにエヴァとアドリアンヌやシキやファーミリアに、魔皇メイジナ様とレンが持っていた竈神ググアントート様の竈とサキナガ錬金大釜に、<筆頭従者>ソフィーの【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】と【煉極組】の<煉丹闘法>の知見があれば、人々の生命を犠牲にしない、新しい<死霊術>のような技術が学べるかもですね、ふふ」
「うん、皆の技術、協力して平和を目指すのは最高ね! けど、わたしには、ちんぷんかんぷん~」
「ふむ、私も分からんな」
「はい」
「なんとなく想像できますが、難しい~」
レベッカに、レザライサとキサラとヴィーネもクナの語りは理解できないか。
「うん、クナの話を聞いていて、レンの峰閣砦の私室にあった不思議な鍋に色々な具材を入れて、それを巨大なスプーンで、ごちゃごちゃ掻き回して<血魔力>をぶっこめばできそうなイメージをしちゃった、ふふ」
「ん、ふふ」
「ふふ、天才肌のレベッカさんなら、それで秘薬が造れそうですわね」
「でしょ~? ふふふ」
腰に両手をおいて胸を張るレベッカが面白い。
「ンンン――」
すると、相棒が匂いを嗅いでいた場所から駆けて戻ってくる。
と、片足を上げて肉球を見せて、「にゃ、にゃ~」とレベッカとクナに何かを語る。
「「ふふ」」
「ロロちゃん、クナの言葉を理解できたの!?」
「ん、ロロちゃん、魔雅大剣をシュウヤに運んだだけ?」
と、黒猫はエヴァの指摘に落下してきた地面の穴に突き刺さっていた魔雅大剣を見やると、その魔雅大剣に触手を伸ばし絡ませて俺の足下に運んできた。
それを掴んでから魔雅大剣を戦闘型デバイスに仕舞う。
「ンン、にゃ?」
と、黒猫はレベッカの左足に頭部を寄せていく。
「うぅ、ロロちゃん~」
「にゃ~」
黒猫は尻尾をピンと立たせ鳴きながらレベッカの手に頭突きをしてからレベッカの撫で撫でを避ける。
天の邪鬼な黒猫は、「ンンン」と喉声を鳴らしながら壁のほうに向かった。
先程と同じ場所か、何かを見つけたか、そこに移動した。
「ンン、にゃ」
黒猫が前足で、数回地面を叩く。
絨毯か――その場に近付いて、黒猫の頭部を撫でてから絨毯を捲ると木製の古い蓋が見えた。鍵がついているが、これなら普通に壊せる――。
と、<握吸>で鍵を握りながら取っ手を引っ張ると上蓋ごと取れた。
中身はビニール袋のような袋に入った本が、お? 早速つかんで上げて、クナたちに、
「おい、皆、この本を見つけた、どうだろう」
「え」
「わ! それが〝神魔の魂図鑑〟!?」
「そうかもだ、クナ、分かる?」
「分かりませんが、見るからに、〝神魔の魂図鑑〟だと思います」
「「「おぉ~」」」
「その半透明な魔袋も、かなり高級品よ」
「なら、〝神魔の魂図鑑〟か」
「うん」
「意外な隠し場所ねぇ、というかロロちゃんお手柄!」
「ンンン、にゃ」
と、鳴くと、相棒は駆けた。
少し壁際の高い棚の上に跳躍してから黒猫は、
「にゃおおぉ~」
とドヤ顔を示しつつ鳴いていた。
はははは、ドヤ顔を許そう。
皆が拍手している。黒猫は満足したのか、その場で、ドテッとスコ座り。
後ろ脚を上げて、その脚先を舐め始めた。
だが、鑑定がまだだからな。
キサラが、
「ラムーはまだここには来てませんので、傍に居る眷族たちに血文字で呼びます――」
「了解した」
◇◇◇◇
鋼鉄扉を時折見ながら、物色を続けること数分。
ラムーがフーたちと一緒に降りてきた。
「シュウヤ様、鑑定が必要と」
「おう、これだ」
と、ビニール袋のような魔法袋に入った〝神魔の魂図鑑〟を見せる。
ラムーは直ぐに霊魔宝箱鑑定杖を掲げた。
「はい、神話級、名は、〝神魔の魂図鑑〟です。魂をグループごとに保管が可能とあります。魔力を込めたら、解放する神魔の魂図鑑に入っている魂を選択し、解放が可能。解放先も、色々と指定が可能のようで、例えば、神魔魔造体を用意すれば、魂をそこに入れることも可能のようです。また魂の出し入れは、その魂魄次第と使用者の能力次第と、ありますが、よく分かりません」
「「おぉ~」」
「やったじゃない、アス家のクシュナーは復活できる!」
「ん、良かった」
「「あぁ」」
「ホムンクルスや素体は大事にしていたクリムですから、クシュナーの魂が入っていることは確定です、はい!」
「やったわね、ファルス殿下に悪いけど、今日一番嬉しいかも」
ユイの言葉に素直に頷いた。
「うん、ディアの悲しむ顔は見たくなかったから」
「……うん、すっごく嬉しい……」
レベッカは涙ぐんでいる。
ミスティたちももらい泣きするように涙ぐんでいた。
はは、ミスティはディアの先生だからな。尚のことか。
ラムーは、鋼鉄扉を見て、
「あの先にだれかが?」
「あぁ、鋼鉄扉だが、罠があるかなと」
「罠はないと思います。鑑定では、頑丈な魔剛扉とだけです」
「お、では、開けますか」
「「はい」」
「アマリアがいるはず」
「ンン」
キュベラスの言葉に、レベッカが、
「アマリアは、第三王子の側近のようだし、クリムが恩人ならシュウヤを恨むはず……」
「敵となるなら、わたしが処分しましよう」
「副長、そういう仕事ならわたしが、やるから」
ユイは微笑を浮かべ鞘に納まったままの神鬼・霊風を持ち上げつつ語る。
メルは胸に手を当てユイに頭を少し下げて、
「はい、ありがとうございます」
「にゃ」
相棒はさきほどから鋼鉄扉を前足で叩いている。
ヴェロニカは、
「アマリアが洗脳されているなら、解けているかも?」
「ん、降伏したら受け入れる?」
エヴァは受け入れるつもりがあると分かるが、皆の顔色には、ノーの文字が見えた。
獅子身中の虫になりかねないからな。
クナは、
「ふふ、アマリアですが、<魔手術>が脳に施されているなら魔薬を用いた実験台に使えますよ。また、ホムンクルス用の魔法の液体のレシピ、魔機械の使い方など、アマリアがクリムのホムンクルス技術の一端を知るのなら、わたしの知るホムンクルス製作とは異なるので、新たな知見を得られる機会になりますし……アマリア次第ですが、個別に雇いますか?」
「アマリア次第と言いたいが、クナ、寝首を掻かれるぞ?」
「ふふ、絶対に逆らえないようにしますから」
クナは<星惑の魔眼>を発動していた。<魅了の魔眼>は俺も内包しているからなんとも言えないが、
「戦わずに済むならそうしたいが、敵となれば普通に倒す。同時に捕まえて問答無用の実験素材とするようなこともナシだ、俺たちの下で働きたいと言ったのなら、クナに任せよう」
「ふふ、はい」
「ん、クリムに絶対的な忠誠心を持つなら、襲い掛かってくるかも」
「あぁ、それでも最初はな」
「ん」
「ご主人様、鍵開けが必要ならわたしたちでも開けられるかもです」
頷いて、
「まずは普通に俺が触ろう。ラムーを信じているが、一応は守る準備をしとこう」
「にゃお~」
「使者様たちがんばれ~」
と、黒猫とイモリザは、俺たちの背後に並ぶ。
「了解したが、イモリザも守りを意識しとけ」
「はーい♪」
「あぁ、闇神リヴォグラフと通じていたのなら、先程のモンスターが生まれるなんてこともあるかもだ」
アドゥムブラリの言葉にメルたちは周囲の壁を見やる。
「はい」
「そうですね、あれは、シャナの人魚としての力が作用した結果かもしれませんが」
「ん、人魚は海神セプトーンを信奉している、神界セウロスの神々」
「「あぁ」」
「そうだったな」
と皆が語ると、ヴィーネはガドリセスに魔力を通す。
ガドリセスから伝搬した赤い魔力を体の表面に纏った。
先程は翡翠の蛇弓と陽迅弓ヘイズを使い分けていた。
月迅影追矢ビスラの月の形の幻影にはどんな効果があるんだろう。
翡翠の蛇弓の光線の矢も威力は高いと思うが、そのヴィーネは、ガドリセスを少し上げて微笑むと後退した。
そのヴィーネに、
「鍵開けが無理でも、エトアがいるからな」
「グロムハイム城近くに居ると思われるエトアを呼びますか?」
「罠や鍵開けが必要なところを見つけたら呼ぼうか、そして戦いの準備をしておこう」
「うん」
「ん」
「「「はい」」」
キュベラスととエヴァとアドゥムブラリはヴィーネの位置に下がる。
ミスティとクナとヴェロニカとメルたちも後退。
金属製の扉の取っ手を掴み、右に取ってを回すと、金属製の扉がガチャッと音が響いて、普通に開けられた。
「「ひぃ……」」
「……」
中にいたのは女性たち。
お揃いの軍服を着て右手に魔刀を持つ。右の女性は武器を持たず、筆記用具の先端と紙を挟める用箋挟みを武器代わりに此方に向けている。
少し背が高い、金髪に眉毛は細い。
双眸は薄緑色で鼻筋が高く、美人さんだ。
長耳だが、少し短いからハーフエルフかな。
可愛らしい。
白衣ではないが研究者を感じさせる衣装だ。
「魔刀で戦うなら戦うが、無理なら降伏しろ」
「……」
「降伏します」
二人は魔刀を床に捨てて此方に両手を上げながら歩いてきた。
「貴女は、筆記用具とメモ帳で俺たちと戦うのか?」
「……こ、殺されるぐらいなら、た、た、戦ってやる!」
「無理はするな、降伏して、外に出ろ」
「……クリム様は……」
「死んだ」
「え……」
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コミックス1巻~3巻発売中。




