千六百六話 クリムの<腐ノ石魔喰>と王太子殺しの犯人
クリムは右や左に移動し、皆の攻撃を避けまくっていた。
すると、闇ノ淫魔獣グレバロスが消えた宙空に、いつの間にか、闇の炎を発した厳つい骨杖と、闇の炎を発している勾玉が浮かんでいた。
ルーク国王の闇ノ淫魔獣グレバロスが気色悪すぎて装備品の把握はできていなかったが……すると、ヘルメとグィヴァたちの近くでダクラカンの聖剣を振るいミミズ状の怪物を斬り捨て貴族たちを守っていた聖鎖騎士団団長ハミヤが、
「シュウヤ様、それは闇神リヴォグラフに纏わる危険な物です、回収は止めておいたほうが!」
と注意をしてくれた。
必死なハミヤの訴えに頷いた。
キサラが着地し、グィヴァの前に居るラムーはもう霊魔宝箱鑑定杖を向けていた。鑑定済みか。
「了解した、ラムー、鑑定結果はどんな感じだった?」
「はい、闇神リヴォグラフの骨杖と闇炎魔王宝石ですね、どちらも第一種危険指定アイテム類です。闇属性が必須……多数の女性の魂が生贄にされていて怨念が渦を巻いている。骨杖は握っただけで精神に不調をきたし、無数の大悪霊ブゥラァや幽体シャプシーなどを呼び寄せる。使用し、耐性を得たら闇属性が強まり闇神リヴォグラフの大眷属の候補と成り、眷族モンスター生成の秘術を学べるように成るようで、<暗黒魔力>、<暗黒ノ地平>、<暗黒ノ御使い>、<呪神ノ豊穣>、<暗黒雲降臨權ノ花>、などが学べて、使えるようになるようです。闇の賢者石リヴォグラフと連動する効果があるようですが……詳しくは、分かりませんでした」
「ありがとうラムー、危険すぎるが回収しとくか――」
「へぇ、鋼の兜を被った女性は戦士だと思ったけど、鑑定士でもあるのか、意外の連続で面白いな!」
クリムの言葉は無視して――。
戦闘型デバイスには無魔の手袋があるが触らず――
闇神リヴォグラフの骨杖と闇炎魔王宝石に近づき、戦闘型デバイスのアイテムボックスの中へと吸収するように回収した。
そこで皆から逃げつつ戦っているクリムを見た。
逃走を狙っているようだが、アドゥムブラリたちも巧みに背後を付いている。
消費の多い<四神相応>は少し維持しよう。
クリムに蒼い左手首を翳し――。
<青龍ノ纏>に<青龍ノ心得>と<青龍蒼雷腕>の魔力を<鎖の因子>に集結させるまま<鎖>を射出――。
<鎖>は青龍の魔力が宿ったように梵字が点滅しながら放電を起こしているように雷状の魔力を周囲に放ちながら直進した。
クリムは<鎖>の速度に反応し右に跳ぶ。
<鎖>を避けたクリム。宙空に浮かびながら、
「当たらなければ、ただの飛び道具」
と発言。そのクリムに<鎖>を射出した。
クリムは目の前に腐った死体の男女を召喚してきた
ゾンビか?
「「え?」」
俄に<鎖>を止める。男女の腐った死体は貫かず。
「あれ、意外だ――」
クリムの言葉の後、ゾンビ的な男女は口からゲル状の謎物質を吐き出しつつ「「うげやぁぁぁ~」」と奇怪な声を発し、前進し、途中で止めていた<鎖>のティアドロップ型の先端へと、突入してしまう。
腐った死体の男女は自らの胸を<鎖>に貫かせてきた。
途端に<鎖>の梵字が消えて、光を有した魔力に浸食される。
マジか、<鎖>の石化が始まった。
急いで<鎖>を消す――。
念の為、両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。
<鎖>は普通に射出可能で、梵字の光を有しているから安心感を覚えるが、クリムは目の前に石の盾を生み出し<鎖>を弾くと後退し、柱に両足をつけながら此方を見て、
「……槍使いの両手首から自由に射出が可能な、便利そうな鎖は……光と闇の属性に超硬度の鋼鉄でもあると……<腐ノ石魔喰>も通用しないのは驚きだ。そして、その槍使いの両腕が僕にあれば、僕はもっと強くなれる……」
「あ? ご主人様の両腕を欲するとは! ふざけるな――」
クリムは横に跳ぶ。
ヴィーネの怒りの言葉と共に放った月迅影追矢ビスラを避けた。
続けて、
「主の体を実験台か、主は腕を生やすことができるから、交渉次第では可能か? が、お前は主の大事な友を殺している側だしな――」
と言いながらアドゥムブラリが放った<魔矢魔霊・レームル>を避けるクリムは、動きが速い。
柱と壁を<魔矢魔霊・レームル>の魔矢と月迅影追矢ビスラが突き抜ける。天井の一部が崩落してくる。
その崩落した瓦礫とクリムを狙うように相棒が「にゃごぉ~」と鳴きながら紅蓮の炎を吐いた。
クリムはさすがに紅蓮の炎を喰らいたくないようで、距離を取るように横に移動し、空高く逃げようとしたが、ヴィーネは、そのクリムに「――逃がしません」と言いながらクリムの逃走経路側に移動しながらクリムに陽迅弓ヘイズに番えた月迅影追矢ビスラを射出していく。
クリムは笑いつつ、斜め左下に急降下、玉座と床があったところに着地し、
「――そこの漆黒の魔獣の炎は嫌だけど、美人なダークエルフに狙われるのは嬉しいなァ、あ、君の標本をモデルにした魔造兵は、売れそうだな!」
上昇しては、月迅影追矢ビスラを屈み避けながら宙空を前進し、次の月迅影追矢ビスラを、魔杖の放射口から伸ばした魔刃で真っ二つ。
「反吐がでる! お前はここで死ね――」
ヴィーネは怒りのまま、次の月迅影追矢ビスラを射出した。
クリムは横に移動し軽々と月迅影追矢ビスラを避けた。
すると、月迅影追矢ビスラから月の形をした魔力の幻影が出て、クリムへと吸い寄せられるように向かう――。
クリムは魔杖の赤い魔刃を横に振るった。
そこから赤い魔刃を生み出し前方に飛ばし、月の幻影を切断すると、サザーたちに向かった。
サザーは身を捻って避ける。
地面と衝突した赤い魔刃は爆発。
クリムは、
「――さて、そろそろ、父と宮廷魔術師サーエンマグラムとサケルナートが結託してオセベリア王国を私物化していたってことで、この戦いを終わらせないか? 後、王の手ゲィンバッハと中央貴族審議会の貴族共と【魔術総武会】に各魔法学院に責任を取らせてさ、どうだろう?」
惚けた印象で語りながら周囲に小形の魔法の盾を無数に出現させる。ファルス殿下は、
「終わらせる? 何を言っている。お前たちが始めたことだろう!」
「……しつこいな、ファル兄、僕に恨みでも? あ、他に恨みをもった者がいるのかな、ペルネーテの民たちは様々にお世話になったからなぁ、恨まれてもしかたない……」
「恨み!? どの口が! 私の命を狙ったのはお前だ、クリム! お前も父と同じ闇神リヴォグラフの大眷属なのだろう? そして、ガルキエフを殺したのは、お前たちの仕業だ!」
「あぁ、そうだった、レル兄ついでに狙っていたんだった。ペルネーテの転覆はあまり賛成しなかったんだが……」
「レル兄ついで?……」
「……うん、王太子、最強のレルサンは僕が殺したよ、気持ち良かったなぁ、僕をコケにした最強の兄を倒せて最高の氣分だったァ」
「「え?」」
「えぇ」
「な!?」
「ん」
「……嘘だ」
と皆が驚く。ファルス殿下は愕然としている。
「……ずっと前に予想してたけど……」
ユイの言葉に頷いた。
「……王太子殺しか、竜魔騎兵団が居るはずだし、【オセベリア大平原】の戦場では……」
ナロミヴァスたちとは、ニアミスか?
グリフォン丘、ドラゴン崖は、その名の通り、入り組んだ地形も多い、平原ならば、クレインやママニにルマルディが到着する前後か……。
クリムは、
「槍使いも疑ってる? ほら、これが証拠~♪」
と、クリムは右手に槍と小さいドラゴンの人形を見せる。槍は、白銀に金細工に螺鈿細工もあるかなり神々しい。
ドラゴンも白銀の人形で、グルカファントムとは色が違うが、キーホルダーっぽさなら似ている。
あ、王太子レルサンが騎乗していた……。
「槍は、神槍カーナディア。ドラゴンは、あのアルディットさ、オセべリア王国の守護聖獣!」
「……うごぇぇ……」
ファルス殿下は吐いた。
レムロナたちは唖然としていたが、直ぐにファルス殿下を支えていた。
というか、俺も驚いたが……キュベラスを見る。
キュベラスは目が泳いでから、胸元に手を当て頭を下げた。
知っててもそりゃ言いにくいか。
クリムに、
「高・古代竜をアイテム化か、そんなことが可能なのか」
「可能さ、魔造生物系スキルも多種多様だからね」
クリムの言葉に、ヴィーネを見た、
「ご主人様……はい」
「魔造生物は、その通りですわね、異界の軍事貴族にも似たような技術は使われている」
クナも同意。
キュベラスとミスティとファーミリアとシキとアドリアンヌも頷く。
クリムは、
「竜魔騎兵団第一軍団も全滅させた。帝国の黒髪隊の仕業で仕込んでいたんだけど、もう色々とバレてしまったようだね」
と、語ると、皆が沈黙。
ファルス殿下は泣きながら、
「……お、お前は……闇神リヴォグラフの眷族か……」
「あぁ、なんでだよ、父と一緒にしないでくれ、しかし、【闇の八巨星】で【八本指】も役立たずだ、ネチネチと僕が責められるし――」
と横に移動し、ベネットの聖十字金属の魔矢を避けるクリム。
そのクリムは、
「あ、でも、王国に武人ありと言われたガルキエフを倒したのなら、上々だったってことかな」
「……ひとでなしが……」
「ハハハ、情はあるよ、大騎士スレーの鬼武者アマツは二十三代目を保存してあるし、鬼武者ラマラとフェルアも、その魂の一部、オリジナルと強化前も別々に〝神魔の魂図鑑〟に保管してあるんだ。復活は自分が選んで可能だし、年老いたversionも開発しているから、スレーもフェルアも感謝してくれているんだ」
と言いながら、先程と同じ腐った死体を周囲に生み出し、王の間に新たな怪物たちを誕生させる。
動きはミミズ状の怪物よりは鈍いから大丈夫と思うが――。
「うひゃ」
「きゃぁ――」
「腐った死体攻撃とか止めてよ――」
「げぇ!」
「毒を撒き散らす死体を召喚か!」
「うげぇ」
「動く死体を生み出すな――」
「――召喚ではなく、クリムは、<ネクロマンサー>系の錬金術師に高度な<魔手術>を扱う、その技術の応用で、瞬時に動く死体を生み出しているのでしょう――」
クナが語りながら月霊樹の大杖を振るい、腐った死体の頭部ごと頭から胴体を潰して倒していた。普通に鈍器としての威力が高い。
キュベラスも、
「――はい、クリムは、様々な死体だけでなく生きた人々を捕まえては自分の魔手術の実験道具に使っていました――」
と両手に持つ魔杖を振るって壁際をうろうろ進んで貴族たちを襲い始めた腐った死体を切り刻む。
クナはルシェルが魔法を使おうとしたのを止めて、俺をチラッと見てから、月霊樹の大杖を突き出す。
複数の腐った死体の頭部を貫いて倒していた。
動きはぎこちないが、<刺突>か?
と、俺にウィンクを行うクナは俺に、いいところを見せたいようだ。
可愛い、そのクナは数体の腐った死体を薙ぎ払いながらクリムへと月霊樹の大杖から魔刃を飛ばしては、目の前の腐った死体の頭部を月霊樹の大杖の先端で潰すように吹き飛ばし、
「――ぐふふ、クリムは、サケルナートことルキヴェロススにキュベラスと闇神リヴォグラフの大眷属たちと取り引きをしていたのなら、貴重な素材を色々と持っていそうですわ――」
と、嬉しそうに語ると、キュベラスは、
「はい、確実に……異界の軍事貴族たちもサケルナートことルキヴェロススとクリムにいいように使われたようです。また、王宮から少し離れた敷地に第三王子クリム邸があります。そこの地下には大規模な施設がある。私とアルケーシスは、その地上の庭によく呼ばれていました」
お?
クリムを見ながらキュベラスに、
「へぇ、そこにクリムの本体が居るとか?」
「それは分かりません、ホムンクルスの研究結果は秘密にしていることが多かった。そして、鬼武者アマツと鬼武者ラマラの反吐が出る自慢話を良く聞かされていた」
「キュベラス――余計なことを!」
皆の遠距離攻撃を避けまくっていたクリムが怒ったように、キュベラスに向け赤い魔刃を繰り出し、腐った死体と無数の紫と緑のポーション瓶を投げてきた。キュベラスは赤い魔刃を両手に握る魔杖で斬り捨てる。
続いて、周囲に浮かばせたいた魔杖を直進させた。
無数の魔杖の放射口から伸びている赤と橙の魔刃が、飛来してきた腐った死体たちを貫き、続けて、紫のポーション瓶を斬る、と宙空で爆発を繰り返す。
腐った死体の破片が散るが、黒虎が紅蓮の炎を吐いて、その肉片のすべてを燃やす。
「マスター、クリムは前にマスターが倒したクリムと瓜二つだから、その施設の本拠地に襲撃を掛けたほうがよくない?」
「そうだな、今のクリムも本物ではない?」
「ん、ありえる」
「冥界シャロアルに通じているネクロマンサーや死体使いは己の体も実験台にして分身体を遠隔操作ができます。更に、魔科学の高度な技術者が己の体を魔改造する話は無数にあります、体と脳と魂と意識と密接に関係している生体魔力のコントロール方法は多岐に渡ります」
「はい、小形の魔道具を死体の頭部に付け、死体を操作する魔法、魔術、小形の魔虫を媒介しつつ生きた人族を遠隔から操作する技術もあります」
アドリアンヌとクナとキュベラスとシキはかなり詳しそうだ。
すると、王の間の出入り口から、
「閣下、渡り廊下にも居たミミズ状の怪物を倒しました。このまま貴族とこの証人たちを退かせ、グロムハイム城から出ておきます!」
ヘルメの言葉に、
「了解した、後で合流しよう」
ヘルメとグィヴァとハンカイとメルとベネットが傍に居る。
ベネットは王の間の右隅の<暗黒魔力>の粘体から現れているミミズ状の怪物を弓から射出した聖十字金属の魔矢で射貫き爆発させて倒していた。
「「はい」」
「聞きましたね、退きますよ皆さん――」
「「「「「はい!」」」」」
ヘルメたちが生き残った貴族と白の九大騎士の騎士たちに指示を出すと一斉に退き始めた。
クリムの背後を断っているヴィーネとアドゥムブラリが、
「ご主人様、そこのクリムはわたしたちが!」
「おう、では、キュベラス、そのクリムの自宅、施設の場所まで案内してくれ」
「分かりました、こちらです」
「ロロと皆、行こうか!」
「「「「はい」」」」
「――行かせるか!!」
クリムが、ヴィーネとアドゥムブラリを振り払うような加速で、キュベラスに向かうが、キュベラスも速い。
もうグロムハイム城の穴から外に出ていた。
「ンン――」相棒の触手を握りながら俺たちもグロムハイム城の王の間の横から外に出る――。
クリムは鬼形相を浮かべて、空から付いてきた。
クリムの背後を飛翔しているヴィーネが翡翠の蛇弓を構えている。
その翡翠の蛇弓から光線の矢を射出し、クリムの背を狙う。
が、クリムは背に目があるように光線の矢を避けていた。
クリムは冷静か?
否、怒ったまま、俺とキュベラスに魔刃を飛ばしながら加速をしてきた。
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