千六百三話 国を根底から揺るがす重大な告発
ファルス殿下と共にぞろぞろと俺たちは白銀のグロムハイム城の高石垣と、その堀に溜まる水の流れを見ながら跳ね橋に向かう。
王都グロムハイムのグロムハイム城は、河岸段丘気味か、台地の突端かな。
城の高いところではハイム川とハイム海を見下ろせるだろう。
俯瞰で見れば分かるが、今はこのまま進む。
「――ファーミリア、王都グロムハイムには、ヴァルマスク家のセーフハウスはあるのかな」
「――はい、ファルス殿下たちは氣を悪くすると思いますが、ここは狩り場で、餌場ですからね。しかし、<異界の門>のような異界の軍事貴族は持っていませんので、今はとある理由もあり、転移はできません。今出たばかりの【闇の教団ハデス】のような魔塔のような高層建築物ではなく低い建物、横の広さはあります」
「――そっか、王都グロムハイムに近い海岸線に、ヴァルマスク家の本拠の【大墳墓の血法院】があるんだよな」
と周囲を見ながら発言した。
「はい、今回の事象が終わったら私たちの棲み家を見に来ますか?」
「おう、見学させてもらう」
「はい! あぁ、<フォーラルの血道>が使えたら皆さんを瞬時に【大墳墓の血法院】に案内できますのに……」
「――<フォーラルの血道>とは、吸血鬼独自の転移術?」
「はい、〝血の銀行〟の能力の一つ。この王都グロムハイムと近隣で、前は使えていました。しかし、魔界セブドラの【フォーラルの血道】は闇神リヴォグラフに占領されて血の根源の大クリスタルの力は遮られている。狭間越えて血の銀行に作用する能力は封じられたままで、転移ができないのです」
と、掘に流れる水の流れを見やるファーミリア。
「そうだったのか」
「――はい、変身能力があるので、転移はあまり必須ではないですが、<フォーラルの血道>があるから、南マハハイム地方で長きに渡り、陰で活動できていた理由の一端です」
と、ファーミリアは歩きながら語る。
「「「へぇ」」」
「ヴァルマスク家と仲良くなって新しい情報が次々に出てくるのは面白いけど、ヴァルマスク家も苦労しているのね……」
「――ふふ、人族からしたら、血を吸う怪物が私たちですから、それぐらいが丁度良いのでしょう」
「――でも、噂に聞くヴァルマスク家の本拠地にお客の立場で行けるって、今までにないことだと思うと、怖いけど、なんか楽しみ」
「ん、普通では絶対に入れないし、近づけない」
「……血法院……」
と、歩いているヴェロニカが呟く。
白猫の件があるからな。振り向いたファーミリアは、
「ヴェロニカ様もできれば……」
「うん、絶対に行く。スロトお父さんのことは許さないけど、ううん、許す。未来のためだからね」
「はい、ありがとう」
「うん、ファーミリアも<筆頭従者長>の女帝の一人として一族を守るためにずっと規律を維持してきたんだと思うから、ただ、これからは色々と一緒にできたらいい」
「ふふ、はい」
ヴェロニカとファーミリアと笑みを交わす。
良かった。
と、背後に居る<筆頭従者>のルンスを見やる。
ルンスは頭巾を深くかぶっていたが、直ぐに頭巾を外しヴェロニカに頭を下げてから、
「はい、ヴェロニカ様……我の住み家兼研究室を開放いたします。そこで労を惜しまず研究していた<従者長>と<従者>の強化が可能な〝血宝具カラマルトラ〟と〝ラヴァレの魔義眼〟を使う<血魔力>の<血魔術>のすべてをお見せしましょう……そして、その血宝具カラマルトラとラヴァレの魔義眼を差し上げまする」
「まぁ~」
「「え!」」
ファーミリアとアルナードとホフマンが驚いていた。
「……秘密に血宝具を譲ってくれるなんて……分かったけど、いいの?」
「はい、我がしてきた行為は、罪深い……それで今までのことを許してもらおうとは思っておりませぬが、ヴェロニカ様の光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>としての<血魔力>を多大に活かせる<血魔術>の技術発展の手伝いができればと……」
「「おぉ」」
ルンスの言葉に皆が驚いていた。
ヴェロニカは俺とメルとベネットを見ては、頷き合う。
すると、驚いていたアルナードが、
「……では、ヴェロニカ様、血法院では、ヴェロニカ様の血魔術が発展しうるだろう【鴇の宝玉】を用いる<血魔術>の一端を披露します。その際に<血魔術>のスクロール、略して血のスクロールの作り方などを伝授できればと考えています」
「「おぉ」」
「アルナードもありがとう」
「では、私はキサラ様とシュウヤ様の役に立つと思われる〝血の魔札エイジハル〟と〝ルグナドの灯火〟使い、黒魔女教団の探索に協力しましょう」
「ホフマン、その〝血の魔札エイジハル〟と〝ルグナドの灯火〟は?」
「〝血の魔札エイジハル〟に魔力を通し、他のアイテムに触れさせれば、そのアイテムの関係者、過去に触れた者たちの血が追跡可能となるアイテムです。また〝血の魔札エイジハル〟の真上に、血の幻影として、追跡する者たちが出現し、思念操作で、選択ができる。六秘宝の一つ。〝ルグナドの灯火〟は、<血魔力>、<血魔術>などの<血道・>系のスキルやアイテムを強化するアイテムです」
「便利そうなアイテムだ」
「はい、血の幻影が出現とは、凄いですね、では、黒魔女教団やダモアヌンの魔女たちの追跡も可能」
キサラの言葉に皆が頷く。
戦闘型デイバスのアクセルマギナが幻影、ホログラムをアピールするように回る。
ファーミリアは、
「ふふ、光魔ルシヴァルの皆さんを案内できることを楽しみにしています、が、今は……」
と、発言し、跳ね橋の前で止まり振り返る。
「そうだな、ルーク国王たちの対処が先」
「「「はい」」」
跳ね橋は、鋼と木材で造られており、かなり頑丈そうだ。その跳ね橋を皆で進む。
跳ね橋には、他にもグロムハイム城に向かう商人と兵士たちも居る。そのまま斗形の虎口と言える守りが頑丈そうな正門から堂々と中に入った。
衛兵たちが、腰の魔道具を光らせながら駆けよってくるが、ファルス殿下を見た途端に、
「ひゃ~」
「お、王子――」
と、驚きのまま足を滑らせるように急いで片膝の頭で地面を突いて頭を下げてくる。
続けて白の九大騎士の甲冑を身に着けた騎士の数人も寄ってくる。
腰には黒呪の探知魔道具と似た魔道具が点滅していた。
それらの騎士たちは衛兵と同じく片膝の頭で地面を突きファルス殿下とレムロナに頭を下げていた。
「衛兵と白の九大騎士の騎士たちの反応を見ますと、やはり王族の関係者に魔族が居ることは、皆が知るところのようですね」
「あぁ、あの魔道具は優秀だが、魔族の血筋は人族の中に多いこともある。だから、珍しいことではない」
「そうですか」
「ん、南マハハイム地方は、だいたいが魔族の血が入っている」
「あぁ、濃いほど貴族になるとか、皆から聞いていた」
ミスティは頷く。
「その通り」
「南マハハイムの三カ国はだいたい、その血筋と聞く」
ハンカイの言葉に皆が頷いて、
「「はい」」
「王都グロムハイムの正門は開いたままなんですね」
ファルス殿下は、頷いて、
「中に兵舎もあるからな、が、何かの招集があったのかも知れぬ。王の間に通じている中央門の大扉も開いたままだ」
と、腕を奥へ向けた。
皆で歩き噴水の間を通り、登城道の階段を上がる。階段はコの字に折れ曲がっている。
左右の石垣の上には、櫓と歩廊があり、そこに居る白銀の鎧を着た射手と魔法使いたちが此方を見ていた。
だが、何事もない。
「守りは万全ですね」
「王都グロムハイムが戦場になることは滅多にないが、訓練の成果だろう……そして、慣例を無視しての入城の私たちだが、レムロナも居るから、まず止められる心配ないと思っていい。王の間にいる父上たちと直ぐに対面となるだろう――」
と、階段を先に上がったファルス殿下が語る。
「了解しました」
「「「はい」」」
レムロナとフランも半身のまま俺をチラッと見て頷くと、階段を上がった。
エトアとラムーも俺の直ぐ背後から続いた。
モラマンとイシェルとテツ・リンドウを連れているヘルメとグィヴァが上昇し、俺たちの斜め上を飛翔しながら向かう。
モラマンは氣を失ったままだ。
ヴィーネとメルとヴェロニカとレベッカとエヴァとミスティとクナとサザーとフーとエトアとベリーズとアドゥムブラリたちも階段を上がる。
ファーミリア、シキ、アドリアンヌ、キュベラスたちの【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の皆が続く。
結構な大所帯だが、兵士たちに襲われることは皆無。
なんか気持ちいい。
右腕の戦闘型デバイスに内包されているアクセルマギナが城の内部を進む俺たちに合わせて重厚なBGMをかけてくれた。階段の素材は段階ごとに高級に成っていた。
石灯籠のような彫像も増えてくる。
戦神ヴァイスの像が多い。
次点で、光神ルロディス様の像かな。
あ、禿げた爺の像も右端に合った。
懐かしい、ヘカトレイルの魔竜王討伐依頼の集合場所の広間に合った賢人ラビウス像と同じだ。
あ、イヴァンカに似た戦女神像もある。イヴァンカに似て、美人さんだ。
「♪ アクセルマギナちゃん、氣が効く~」
「はい♪ ふふ、使者様音頭♪」
「にゃ~」
イモリザと黒猫が楽しそうにステップを踏みながら階段を上がっていく。
と、イモリザと黒猫は競争でもするように石灯籠と石像の上を連続的に跳躍し、石像の上を跳びはねていく。イモリザは、最後の高いところの頭部が欠けた神像の上に着地しながら左腕を上げて、右足を斜め下に伸ばしての片足立ちで、ポージングを行う。
頭部が欠けた神像は、光神ルロディス様か、戦神の女神様の像かな。
魔霧の渦森のココッブルゥンドズゥ様の像な訳がないだろうし。
「イモリザ、気持ちは分かるが、今は大人しくな」
「はーい、いずれは、ここは使者様のお城に?」
「ならんから」
「ふはは、イモリザとやら、シュウヤの城でいいぞ」
と、ファルス殿下が冗談を言うと、イモリザは本気にするぞ……。
案の定、イモリザは、
「え! わ~、やった! 使者様~ここの城の地下に怪しい場所があるような氣がしますから探検しましょう~」
ファルス殿下はイモリザの冗談を聞いて突然真剣な表情になった。
フランとレムロナも静かに頷く。
ありふれた話かもしれないが、もしかすると城の地下にはダンジョンがあるのだろうか。その質問はせず、上り坂のコの字型の階段を上っていく。王都グロムハイムの城は、その名に恥じない難攻不落の構えだな、俺たち登城者は、城の高層部から丸見えだ。銃眼のような穴から此方に向けられている魔杖は、まるでライフル銃や重機関銃のように見える。
トーチカに手榴弾を投げ入れる兵士の姿が思い浮かんだ。
「……」
「にゃ~」
登城道を登り終え、花壇のある石畳の廊下と緩やかな階段をいくつか上った。柱のある門を抜け、広々とした中央門が開いている大扉の前に立った。
相棒を肩に乗せたまま、グロムハイム城内に足を踏み入れると、何かの魔法の膜を通り抜けたような感覚を得た。
前方の左右にいた衛兵がザッとした動きでハルバードを掲げ、ファルス殿下に敬礼していた。一瞬、結界に反応した兵士たちが攻撃を仕掛けてくるかと、鋼の柄巻を久しぶりに右手に召喚したが、何事もない。
【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の皆が入っても結界は作動しない。
皆で、大ホール的な広場を進む。足音が響きまくる。
大理石かな。
「この石はホルカーバムの高級な石材だ」
「へぇ」
というか、ファルス殿下にグロムハイム城の解説させるとか贅沢かな。
すると、そこの左側を歩いていた白の九大騎士の兵士が、「殿下――」とザッとした動きで、敬礼。
ファルス殿下は、
「うむ、ご苦労」
「ハッ!」
兵士は、腰にぶら下がる魔道具が点滅していたが、腕を下げると、大ホールをそそくさと歩き始める。
次の白の九大騎士の兵士もファルス殿下とレムロナに「殿下と大騎士様!」と言って敬礼、ファルス殿下とレムロナが応えると、その兵士は会釈してから腰の魔道具を叩いてから進む。
ファーミリアとヴァルマスク家の皆はホッとした表情を浮かべながら共に巨大なホールを歩いた。幾つか長い通路を進む。
出会う白銀の鎧を着た衛兵たちがファルス殿下たちを見ると、片膝の頭で床を突くように頭を垂れていた。
先程と同じくレムロナとフランに気付いた者も挨拶をするように会釈をしている。兵士たちに俺たちを疑う者はいない。
衛兵や白の九大騎士の兵士たちの態度からオセべリア王国第二王子ファルス殿下の威光を感じられた。
【闇の教団ハデス】を知る者もここには居ないようだな。
闇神リヴォグラフの眷族を知るのは、上層部の一部のみか?
ファルス殿下は幅広の階段を差して、
「あの階段を上がるとオセベリア王国の王たちの彫像が並ぶ渡り廊下だ。そして、その先が王の間がある。そこに父上がいるはずだ……」
「分かりました」
「はい、やはり、何かの招集が掛かったようですね、少し兵士たちが慌ただしい」
レムロナの言葉にフランたちが頷いていく。
ファルス殿下も、
「ふむ、ペルネーテの事情と西の戦場で紅馬騎士団が結果を残したことを、さすがに知ったか?」
「そうかもですが、今さらですね」
と、俺は発言。
「そうだな、行こう」
「「「「「「はい!」」」」」」
階段を上がり、踊り場を左に曲がり、渡り廊下に足を踏み入れた。
王たちの像は結構詳細に造られてある。
ペグワースたちのような職人ががんばったんだろう。
ルーク国王の像に日射しが当たっている。
と、俺に合わせて光が強まった?
胸の<光の授印>の十字架が光っていたが、光神ルロディス様が現れるようなことはなかった。
初代の王様も当たり前だが、オセベリア。
ファルス殿下と何処となく似ているのは氣のせいか?
五世代に亘るオセベリア王たちか。
ルーク国王は除外して、皆をリスペクト――そのまま渡り廊下を過ぎると、王の間が先に見えてきた。
赤い絨毯が敷かれている。思わず、【アーカムネリス聖王国】を思い出した。
あの王の間に入った直後、結界が鳴り響くってことはないだろうな。
「ファルス殿下、王の間には特別な結界とかは……」
「あるにはあるが、氣にする必要はない、襲われたらシュウヤたちの出番だ。守りは頼むぞ、私の守護大騎士シュウヤ……」
と、ファルス殿下も緊張しているようだ。
「あ、はい」
左右の扉は開かれている。
赤絨毯が敷かれた王の間には結構な数の白の九大騎士の兵士たちが居た。さすがにアクセルマギナもBGMを止める。
王の間から響くがやがや音が、なんかの舞台会場に思えてくる。
そのまま王の間に入った。
奥にルーク国王らしき存在が見えた! 豪奢な椅子に座っていた。
ここからだと輪郭は把握できないが、身なりは豪華だと分かる。
手前には、大臣らしき爺たちも並ぶ。高級貴族たちも多そうだ。
少し緊張してきた……<闇透纏視>を使う。
居た……怪しい、げ、王の近くの側近の中にクリムも居るじゃねぇか。
空で戦った時と同じ面だ、端正な顔立ち、ん、魔族とはっきりと分かる存在も近くに居た。クリムは俺たちにまだ気付いていない。
「あの奥に居るのが、ルーク国王か」
「そうだ、父上……」
「「はい」」
「右に居るのが、宮廷魔術師サーエンマグラム……」
レムロナたちの声を聞きながら皆で進む。
絨毯と左右に柱が並ぶ、かなり広い。天井も吹き抜けか。
シャンデリアの光源が、俺たちを照らしていた。
ファルス殿下を追い越し先に進む。
すると、白の九大騎士の方々が絨毯を進む俺たちに気付いて、
「「あ」」
「え? ファルス殿下?」
「え? なんでここに」
「「どういう……」」
「殿下――」
「あ、ファルス殿下に、レムロナ様も」
と、白の九大騎士の兵士たちの間を裂くように皆で絨毯の上を直進した。
ざわざわが激しくなる。
小走りでルーク国王に近付いた。
ルーク国王は俺たちを見て、目を見開いている。
クリムもさすがに気付いたか、周りに会釈し、女性と共に後退しようとしていたが、隣に居た魔族に止められると、そのままその魔族に女性と共に押されるように俺たちの前に近付いてきた。
キュベラスたちが前に出て、
「――シュウヤ様、あの王の隣に居る魔杖を持った男と女が、闇神リヴォグラフの大眷属ドクルマズルとルビコンの仮の姿です! 宮廷魔術師サーエンマグラムは階段の手前に居る男です」
と発言。キュベラスたちを凝視する宮廷魔術師サーエンマグラムは、
「な、黒の預言者の魔人キュベラス……」
と、呟きながら動揺するように、たじろぐ。
「「なに!?」」
王の前にいたハルバード持ちが、俺たちに向け、穂先を向けてきた。
「「げぇ!?」」
「「なんだ!」」
「ファルス殿下、なぜ、ここに……」
王の左右に居る女性と男性も魔杖を持ちながら顔を見合わせていた。
ドクルマズルとルビコンはどちらも中性的な顔立ち。
「ファルスか……なぜ、ここに」
椅子に座ったままのルーク国王がファルス殿下にそう聞いていた。
ルーク国王の背中から<暗黒魔力>が吹き荒れている。
「……父上、私もオセべリア王国の第二王子です。そこに居る第三王子クリムと同じように、父上が私をペルネーテから呼び寄せたのではないでしょうか?」
ファルス殿下は小芝居を続けるつもりか。
王はファルス殿下の言葉を聞きながら、俺たちを見て、ヘルメが縛り上げている西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンと【外部商会】の最高幹部ペイシェルの姿を見て驚いていた。テツ・リンドウは手元に残していた。
メルたちは、武器を持ちながら左右に展開した。
「「「……」」」
「――ファルス殿下、レムロナも、どういう風の吹き回しでしょうか」
「陛下を御守りしろ――」
「「おう!」」
と、白の九大騎士の重騎士らしき二人の男性が話しかけてきた
白の九大騎士たちの一部がルーク国王の前に並び、一部が、メルたちを囲う。
レムロナが、
「そこの金髪の顎髭の方が、白の九大騎士の親衛隊の隊長グレートナイト・オブ・ワンのタングエン・ロンベルジュで、隣が、親衛隊の副長で、王の護衛騎士トマス・シェフィールドです」
強そうだが、ヴィーネたちなら大丈夫だろう。
ハンカイが金剛樹の斧を向けて、
「オセべリア王国の大騎士序列一位を、この目で見るような立場になるとはな……そして、シュウヤの敵ならば、俺の敵……」
と発言。
ユイは「うん……ハンカイは」と発言し、「あぁ」と頷いていたハンカイ。
ユイは俺をチラッと見てから「……」全員を<ベイカラの瞳>でマーキング、完了の合図を指先で示す。
軍隊用語ではないが、ユイと俺のいつもの合図だ。
そのユイは、闇神リヴォグラフの大眷属ドクルマズルにも指先を向けている。
攻撃となったらそいつは〝まかせた〟と指先で合図。
頷いたユイ。問題は闇神リヴォグラフの眷族とクリムか。
クリムと魔族を見ながら、
「相棒、クリムとあの魔族は要注意だ、そして、殿下を頼む」
「にゃ」
肩から降りた黒猫は殿下の近くに移動した。
クリムの前に居る魔刀を浮かばせている魔族はかなり強そうだ。
ファルス殿下を守る立ち位置を取りつつ、不意打ちの<鎖>か魔法か<光条の鎖槍>に、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は用意しとこう。
が、俺が直に盾になるほうが手っ取り早いな。
ファルス殿下は、
「……どうもこうもない、タングエン・ロンベルジュ、おまえたちは退いてもらおう。それとも父上たちに洗脳されているのか?」
「え? なにを」
「血迷ったか!?」
「にゃご」
黒猫は白の九大騎士の隊長に文句を言うように鳴いている。
ファルス殿下は、
「お前たちでは、話にならない、父上! 私の命とペルネーテの騒乱、戦場での自国の民、軍隊を犠牲に作戦を実行したのは父上でしょう! その重罪の証拠はここにある!」
「なに!?」
ルーク国王は椅子から立ち上がりつつ、ファルス殿下の腕が差す方角を見やる。
ヘルメは<珠瑠の花>で縛っているモラマンとペイシェルを宙空に浮かせてから直ぐに引き寄せる。
「この男と女は、ラドフォード帝国側の【外部商会】の最高幹部ペイシェルと西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンです。かれらの取り引きの証拠は揃っている。しかも、父上のルーク国王の王印が入った書類と、中央貴族審議会の印が刻まれた書類に、キュベラスの署名と【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の名が入った封筒もあります!」
「「……」」
ファルス殿下の国を根底から揺るがす重大な告発を聞いた、周囲の高級貴族に白の九大騎士の騎士たちが騒ぎ出した。
一部の貴族たちはルーク国王の裏切りを知っていた者もいたのか、睨む者も居た。
「父上、なぜ、闇神リヴォグラフに魂を売ったのですか!! それにラドフォード帝国側を我が国に誘い込み、クリムと共に私の命を狙うとは!!! 王でありながら国を売る売国奴!!!」
「……黙れ……下郎が!」
「下郎は貴方だ! 父上! 否、父とはもう呼ばない! だいたい、そこの二人はだれだ。いつの間にか王の隣に居座っている! そして宮廷魔術師サーエンマグラム、お前もだ……闇神リヴォグラフに魂を売ったお前も重罪だ! 売国奴め!」
宮廷魔術師サーエンマグラムは、
「……ハハハ……」
と笑い始めた。
「何がおかしい!」
「第二王子ファルス殿下は、ストレスで頭がおかしくなったようですな、王の御前で、このようなどんちゃん騒ぎを起こして……」
そこで俺が、
「ハハッ、滑稽だな宮廷魔術師とやら、そして、頭がおかしくなったか。いかにも、工作員がいいそうな言葉だなァ? 人を見下すようにな、クズが、お前の裏切りはもう筒抜けなんだよ」
「……なんだと、お前は……」
「はい!」
と、ヘルメが<珠瑠の花>で縛っていた魔法ギルドの裏切り者、テツ・リンドウを出した。
「この女はテツ・リンドウ、魔法学院ロンベルジュの教師、【魔術総武会】のペルネーテ支部、ペルネーテの魔法ギルドの役員で副マスターだ。このテツ・リンドウは、【魔術総武会】の三十人委員会の空き椅子を狙って、サケルナートと共謀し、闇神リヴォグラフ側に寝返ったことはすべて白状している。そのサケルナートは魔法ギルドの役員であり、本会議に懲罰委員会にも所属し、魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問だったが、実は闇神リヴォグラフの大眷属ルキヴェロススだった。そのサケルナートとの連絡が取れていないことに、お前たちは不思議に思っていたんではないのか?」
「……」
宮廷魔術師サーエンマグラムは後ずさりつつも、鋭い視線でクリムたちを見やる。
クリムの前に居た魔族はサーエンマグラムの視線に合わせたように俺を見た刹那、殺気をよこす――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>――。
即座に右手に魔槍杖バルドークと左手に魔杖レイズを召喚。
魔族は前進し魔刀を振るってきた、それを魔槍杖バルドークの穂先で防ぐ。
魔杖レイズに魔力を込めた。
「チッ、反応がいいねぇ……お前が、例の槍使いか」
<滔天神働術>――。
<魔闘術の仙極>――。
<煌魔葉舞>――。
<魔闘術>系統を発動しながら、魔槍杖バルドークで魔刀を押し込む。
「皆、闇神リヴォグラフ側だけを仕留められればいいからな!」
「「はい!」」
と言いながら前に出て、魔杖レイズで魔族の腹を狙うが、魔族は退いた。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻ー20巻」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




