千六百一話 橙魔皇レザクトニアの薙刀の鑑定と王都グロムハイム
屋上から、闘技場の真下の通りを見やる。
前とは違い、朝方の闘技場周りは静かだった。
「もう朝ですね~。昨夜の【御九星集団】と【髑髏鬼】との激闘と〝魔造家グルカファントム付き〟のお試しは数時間ほどの感覚でしたが」
「あぁ、工房も見たからな、魔造家の庭も結構広い」
「はい、グルカファントムちゃんも可愛かったです」
「ヴィーネもグルカファントムを気に入ったか」
「ふふ、はい」
魔造家の鍵を戦闘型デイバスから取り出す。
と、キーホルダーのようなグルカファントムをモチーフにした漆黒の鳥の人形に魔力を込めた刹那、人形はグルカファントムに成長し、屋上に着地した。此方を見たグルカファントムは、
「ギュュ~」
と、挨拶してくれた。
薄緑の虹彩に黒い瞳が綺麗だ。
早速、「にゃ~」と鳴いた黒猫が、グルカファントムの頭部に乗っていた。
そのグルカファントムに、
「背に乗っていいかな」
「ギュォ~」
グルカファントムは綺麗な歯を見せて了承すると、姿勢を下げてくれた。
早速、そのグルカファントムに跨がり乗る。
ヴィーネに手を差し向け、
「ヴィーネも乗る?」
「はい!」
と、ヴィーネの手を掴み引っ張る。
ヴィーネは俺の背に密着するように乗ると腰に手を回してくれた。
ヴィーネの巨乳の柔らかい感触を衣服越しに得られて嬉しかった。
「ふふ、ご主人様の背をこうして――」
と発言しては、おっぱいを押し付けてくれた。
ヴィーネは、ギュッと両腕の力を強めて、頬も背に押し当ててきた。
「ンン、にゃ、にゃおぉ~」
黒猫はグルカファントムの後頭部の耳の匂いを嗅いでから、寝そべる体勢となり、ポポブムに乗っている時と同じようにグルカファントムの首下や胸元に触手を当てていた。
「「あぁ~」」
「次、グルカちゃん予約~」
「翼とお腹の筋肉が可愛い~」
「「はい!」」
「ん!」
「「ふふ」」
「鞍がないですが、フィットしてそうですね」
「おう、魔造虎と似た感じだからな、黄黒猫や白黒猫のように、大きさもある程度弄れるようだ」
「はい」
キサラの言葉に頷きながらヴィーネの手を触ってからグルカファントムの背に手を当てて、
「グルカファントム、ここを軽く一周してくれるか?」
お願いをするとグルカファントムは頭部を少し上下させ「ガォ~」と鳴いて屋上を一周してくれた。
ノッシノシ、四肢が前後すると、背の筋肉がもごもごと動く。
馬に乗っている感覚に近い機動で楽しくなってきた。
「ふふ、楽しいです」
ヴィーネも同じ氣分か。
「「「わぁ~」」」
直ぐにエトアたちがグルカファントムの隣に走り寄ってきて、ハシャギながら、グルカファントムの漆黒の翼と腹周りを触りまくる。
グルカファントムも嬉しいのか、長い尻尾で皆の体を触りまくっていた。
ふと、そんなグルカファントムを見てから、背後に居るヴィーネに、
「魔造家の畑に池だが、このように鍵に格納した状態だと、畑で育てていた食材はどうなるのかな、池の魚たちは生きているから大丈夫なんだとは分かるが」
「畑に種を撒いたら育っているはず。勿論、サイデイルの畑とは異なる成長速度のはず。あの灰色の世界の境界線が分からない異界の土地で【幻瞑暗黒回廊】だから育つ野菜や果物、それに似合う種があるかもですね」
「へぇー」
と、屋上の縁際を一周。
闘技場に出場する方々らしき強者を数人見かけたが、この間のお侠な女商人マーガレットさんは見かけない。血文字で、クレインに、
『そちらはどうなっている、地下オークション第二部が終了したが』
『公爵の指示の元、麾下の兵士たちが動いて、軍馬を補充し直し、再編していたさ、ゆっくりと徒歩ペースで【迷宮都市ペルネーテ】に向かっている。明日には付くと思うさね』
『明日か、了解』
『それよりもオークション後にいきなり罠の【幻瞑暗黒回廊】の異界に転移し、そこで起きた戦いは本当なんだね?』
『あぁ、本当だ。待ち伏せされていたが、なんとかな』
『ふむ、キーラは強かったとエヴァが何回も、今も血文字で教えてきたさ、あ、最初の闇神リヴォグラフの魔界騎士たちとモンスター軍団はシュウヤがいたからしのげたとも聞いたさ』
『あぁ、宙空戦だな、灰色の世界の境界線が曖昧で、またそこが恐怖だったが、サケルナートことルキヴェロススが利用していた異界の館と同じような異空間は【幻瞑暗黒回廊】には造りやすいのかも知れないな』
『……なるほどねぇ、【幻瞑暗黒回廊】の異世界か……魔塔ゲルハットにも通じている』
『おう、空での戦いでは、<魔軍夜行ノ槍業>の師匠たちに出てもらった。乱杭歯のモンスター軍団は、臭い魔刃を繰り出してきて、視界が飛び、脳が灼ける感じがして、かなりヤヴァイ相手だった。集団では個の魔界騎士より強いといえるか。そして、そこがキーポイントだったかな』
『ほぉ……あなどれない雑魚とはねぇ、シュウヤが苦戦するとは想像しにくい、実は闇神リヴォグラフの重要なモンスター集団だった説を考えてしまうねぇ』
『……それはありえる。どちらにせよ結構な戦いだった。キーラも強くてな、【御九星集団】の最高幹部たちと【髑髏鬼】の盟主と最高幹部の紅のアサシンたちもあなどれない相手だった』
『ふむ、エヴァもファルス殿下とシャルドネたちを守りながらの戦いで、少し緊張したとも血文字を今も送ってきたぞ』
『あぁ、エトアとラムーたちも居たからな。そして、ロロと互角に戦った巨大な猪もいた』
『……それを聞くと結構ギリギリな戦いだったのかい? ファーミリアたちも居たのだろう?』
『いたが、【ベイカラの手】の最高幹部を一人で倒した隻眼の魔剣師などが強かった。ユイとヴィーネとミスティとゼクスに、アドリアンヌとファーミリアとレベッカとレザライサやヴェロニカにキュベラスの皆が活躍したってことだ。俺もフォローしきれていないところはアドゥムブラリたちに任せていた』
『なるほど、では、総合力で、二つの闇ギルドと激しい戦いを【血星海月雷吸宵闇・大連盟】が制した、ということなんだねぇ』
『おう、そうなるな』
『それにしても見事さね、大手闇ギルドを二つも潰したことになる』
『あぁ、凄まじい結果だ。【天衣の御劔】がまだ残るが』
『ふふ、そいつは逃げたか、倒されているはずさね、そして、褒めるのは速い氣がするが、一先ずの大勝利さ、おめでとうさね』
『おう、ありがとう』
『では、これから直ぐに王都グロムハイムに乗り込むのか?』
『その予定だ、向こう側が此方の情報を得る前に叩く、【天凛の月】の勝利、ファルス殿下の勝利は近い』
クレインの血文字に頷くと、そのクレインが、
『わたしたちも王都グロムハイムに行くから足を残しておいてくれると助かる』
『了解、銀灰猫と黄黒猫と白黒猫と法魔ルピナスをおいておこう、そして、新しく買った〝魔造家グルカファントム付き〟のグルカファントムは俺たちが利用する』
『なんだい、その魔造家グルカファントム付きとは……』
『その名の通りの魔造家で一軒家。川は、環境に寄って付くのか付かないか不明だが、付くなら池と繋がる仕組みかな。畑と庭と池と工房付いている。スペシャルな魔造家。キーラたちを倒した灰色の異空間の土地で、鍵に魔力を通したら、その魔造家とグルカファントムが現れたんだ。皆で、その魔造家を見学しつつ大広間で少し寛いでは皆と庭を散策して工房も見学した。炉は鍛冶と錬金が可能。ザガもクナもミスティも褒めていたから、遠出した時の拠点に、あの魔造家は使えるはず。池には多種多様の魚が棲んでいたから、釣りも楽しそうだ』
『へぇ、随分と面白そうなアイテムを競売で買ったんだねぇ』
『あぁ、神仙蛙ペルガンテイルの楽譜も面白いかもだ、そして豪魔無限の蜂蜜は女性陣には嬉しいアイテムだから、クレインも試してみるといい』
『あぁ、エヴァが嬉しがっていたさ、蜂蜜は美味しいと聞いたさ』
『そのようだな、俺はまだ食べてなかったや』
『はは、シュウヤらしい。落札した中には魔槍があると聞いているさね』
『〝八尖魔迅両刃槍〟だな。実戦では、魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを頼って試さなかったが、〝八尖魔迅両刃槍〟は二人の魔界八賢師が製作した代物だから、かなり使えるはず』
『それは当然さね、魔槍杖バルドークはもとより神槍ガンジスは武器破壊があるからねぇ、敵が用意した罠の中だ、そんな状況では、頼りになる武器を使うのは必然さ』
『そうだな。他の落札した〝桃源ノ魔狐レイズナーの朱剋筆〟などもあるが、それは追々試していくつもりだ』
『うむ、氣になる品ばかりさね、硝子容器に入ったエルフもまだ調べていないんだろう?』
『まだだ。オセべリアの事変が終わり次第だな、では、また後で――』
と、血文字を送っていると背後から、大騎士レムロナと魔人キュベラスが、
「西方フロング商会はかなり前からペルネーテに侵入をし続けていたのだな」
「はい、ラドフォード帝国側の西方フロング商会や【外部商会】は庶民に紛れてますから、白の九大騎士、騎士団、衛兵隊に【白鯨の血長耳】も、その残置諜者を見破ることはなかなか難しい」
「ふむ、蜥蜴の尻尾切りだったか」
「はい」
といった会話をしていた。
直ぐ背後にきていたアドリアンヌが、
「シュウヤ様、下の通りで、サウススターをマーガレットから買ったと聞いています」
「おう、お世話になった。アドリアンヌの商会の関係者だったんだな」
「はい、鰻にサウススターなど、ラドフォード帝国が支配する西の各都市と近郊で採取可能な新鮮な食材をオセべリア王国の各都市に輸送、販売している商会が、マーガレット商会です」
「そのようだな、鰻は氣になる」
カソビの街の米料理に鰻料理は結局食えなかったからな
「ふふ、鰻料理は、癖になるほどの美味しさですわ、様々な種類がいるようで、大鰻ポポロンと、大地ノ極鰻ボレアントは、至極の鰻肉だそうで、食べたら大地の神ガイアから一時的な加護が得られるという噂があります。私は、南周りでラドフォード帝国側に帰還する時、古代遺跡バーミリオン近くのボレアントの街のマーガレットの店で、よく、それらの鰻料理を食べていました」
近くに居るホワインは頷いている。
「「「へぇ」」」
「いつか食べてみたいわね」
「あぁ」
「鰻は大地のエネルギーを吸収しているから、人々にスタミナを齎すと、冗談風に語っておいででしたが、冗談ではなさそうな雰囲気ですね」
ヴィーネとまったりしていた時の会話を覚えていたか。
「はは、覚えていたか」
「はい」
「ん、にゃ~」
「では、皆、武術街の自宅に行こうか」
「「「「はい」」」」
「「「ハイ!」」」
「「うん」」
「「「了解~」」」
「ん」
「家に帰ろ~」
「ヴィーネ、グルカファントムに飛んでもらうが、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です!」
グルカファントムもそんな高度は出さないと思うが。
高所恐怖症のヴィーネの許可が出たところで、
「よし、出発~」
「ギュ!」
グルカファントムは屋上の縁で跳躍すると、跳ぶ、そのまま滑空――。
ギュンッと金玉がキュッと絞まったような感覚を受けた。
「きゃ」
かすかな悲鳴を発したヴィーネは、己の顔を、俺の背に押し付けるように両腕の力を強めていた。
――通り沿いを低空飛行で駆け抜けた。
「ンン、にゃおお~」
黒猫が橙色の炎と赤い炎を発している触手を前方に伸ばしてグルカファントムに指示を出す。
大通りに出て、その大通りを右折しては直進すると、直ぐに左の商店街の間にある武術街の出入り口、の門が見えた。
その門の真上を超えて通りを進む――。
自宅の正門が見えて、その正門の屋根の上に建てたばかりの建物を越えて自宅の庭に到着――。
グルカファントムは石畳の上に着地した。
「ギュォォ~」
すると、厩舎の前でミミたちと遊んでいた銀灰猫と銀白狼とポポブムも寄ってきた。
メイド長イザベルとアンナとクリチワも寄ってきた。
ヴァルマスク家の吸血鬼たち、やってくる。
グルカファントムからヴィーネと共に降りた。
「ン、にゃお~」
黒猫はグルカファントムから降りず、頭に乗りながら、触手の先を銀灰猫たちに向けている。
グルカファントムは直ぐに触手の指示通りに体の向きを厩舎側に向けていた。
「「皆様が帰ってきたァァ」」
「ワンッ!」
「閣下ァ~」
「御使い様~」
ヘルメとグィヴァも低空を飛翔しながらやってきた。
ヘルメとグィヴァとハイタッチをしながらハグ。
ヘルメの指先からは、球根のような<珠瑠の花>の輝く紐が発生し、母家のほうにもまで伸びている。
母家の前では、<血道・石棺砦>の石棺に両膝の頭をつけたまま体が<珠瑠の花>で拘束されている【外部商会】の最高幹部ペイシェルと西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンとテツ・リンドウがいた。
傍にはバドマイルの魔棍棒を持つビュシエと神剣ピナ・ナブリナを持つエラリエースとパーミロ司祭とキンライ助祭が居る。
ゴリアテの戦旗のリヒターと隊員に、シャルドネの諜報組織【鬼鮫】の隊員も居た。
そして、パーミロ司祭とキンライ助祭は片手に神聖書を持っていた、テツ・リンドウたちに説教でもしていた?
「よう、ヘルメとグィヴァ、留守番ありがとう」
「はい、テツ・リンドウたちを殺しに現れる者は現れなかったです」
「キッカも手柄を上げましたし、盗賊ギルド【ベルガット】と【幽魔の門】にシャルドネの諜報組織【鬼鮫】などが付いていますからね、警備は万全です」
「キッカが手柄を?」
「はい」
モラマンたちを捕らえたようにかな、手柄をあげたキッカが傍にくる。
「宗主、ペイシェルが吐いた情報通り、外部商会の幾つかあったセーフハウスをすべて洗ったところ、一つのセーフハウスにいた【グムラファの闇の一党】の連中がまだ居ました。戦闘となって、隊員と最高幹部メメラジアを仕留めました。盟主グムラファは、既に私が過去に屠った覚えがあるので、【外部商会】のオセべリア王国におけるラドフォード帝国の特殊工作機関【無頼】の工作は完全に防いだことになります。更に、オセベリアの王ルークが、自国の民を犠牲に権勢を強める作戦を行った重要な証人としてリンドウとペイシェルとモラマンは、王国裁判にて証言する約束をしました。その代わりに命は奪わない約束です」
司法取引のような感じか。
「おう、色々とありがとう、さすがの塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドマスターだ」
「はい!」
キッカとヴィーネたちに、
「裁判はフーから、コネが重要と前に聞いているが、さすがに王国裁判は異なるか」
「はい、ですが、さすがに形式だけでしょう、ご主人様もそのはずでは?」
「あぁ、そうだな、悪いが、一々待っていられない」
「シャルドネ様~」
あ、アオマーだ。
シャルドネは買ったばかりの彼女をペルネーテに残して何か任務を任せていたか。
そこに黒猫を乗せたグルカファントムが、厩舎前にいた皆を引き連れて戻ってきた。
「ンン、にゃおぉ~」
「ギュゥ~」
「にゃァ」
「ワンッ」
「プボプボォ~」
「パキュルルゥ――」
「にゃァ」
「グモゥ」
銀白狼と銀灰猫を抱き上げてキスの乱舞。
――ポポブムに乗っては抱きついた。
降りては、子鹿に餌の紙をプレゼント。
法魔ルピナスの頭頂部の二つの頭鰭を撫でてあげた。
「ご主人様~漆黒のドラゴンを入手したのですね、わたしに鼻キスをしてくれました!」
と、ミミが嬉しそうに語る。
「おう、地下オークション第二部で入手した。魔造竜と呼べるドラゴンで、魔造家の鍵にフィギュアとして付くことで持ち運びもできる」
「凄い! ヴァルアの騎魔獣と似たアイテムでもあると!」
「おう、地下オークション第二部の結果だが、後で皆と共に〝知記憶の王樹の器〟で記憶を共有してもらう」
「あ、分かりました! うふふ~」
と、ミミは嬉しそうに胸元に手を当てて隣にいるイザベルたちと会話をしていく。
「神獣様ァァァ」
「「「「英雄たちの帰還!」」」」
「「――光と闇の光魔ルシヴァルたちに栄光を!」」
「「「――栄光を!!」」」
「「「「――ファーミリア様」」」」
「「「――シキ様」」」」
「「「「――総長」」」」
「「「――アドリアンヌ様」」」
ヴァルマスク家の<筆頭従者>アルナード、<筆頭従者>ホフマン、<筆頭従者>ルンス、<従者長>と<従者>の吸血鬼たちが、ファーミリアと俺たちに頭を下げると直ぐに片膝の頭で石畳と芝生をついて、頭を垂れてきた。
続いてシキのコレクターの部下たち――。
霧魔皇ロナドと骸骨の魔術師ハゼスと、吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラ様の合同眷族でもある高祖吸血鬼のハビラ、漆黒アロマと霊魔植物ジェヌ。
聖鎖騎士団の重騎士たち――。
パーミロ司祭とキンライ助祭――。
魔族殲滅機関の一桁、レングラットとチャンヴァルとケキミラたち。
魔族殲滅機関の二桁の灰銀デュモル・ゲラルド、猛火ラビンラン・ケスファンビン、速滅リヨ・アスシッド、夷剣ヤン・ムエシチオン、刹滅コガ・モザリランザたち。
オセべリア王国の白の九大騎士の兵士たち。
それらの仲間たちが石畳と芝生に集結すると、その皆が片膝の頭を石畳に突けて頭を下げてきた。
ファルス殿下とシャルドネまで、片膝の頭を地面に突けて、頭を垂れてくる。
それはさすがに……。
「閣下、ここは受け入れましょう。ここは閣下が買った土地です」
「はい、オセべリア王国の王は、いずれはファルス殿下ですが、今は第二王子ですから、頭を垂れるタイミングは今しかないとの判断かもですよ」
と、常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァのもっともな言葉に頷いた。
ヴィーネとメルも頷いてから「「はい」」と胸元に手を当てていた。
「そうだな」
<筆頭従者長>のビュシエとキッカも頷いていた。
警邏から帰ってきたフィナプルスとミレイヴァルとレガランターラとマルアとベニーやカズンたちも集まってくる。
皆に、
「もう血文字で色々と情報を得たと思うが地下オークション第二部は無事に終了した。その後、キーラの罠が発動したまま【幻瞑暗黒回廊】の異界に転移し、そこで【御九星集団】と【髑髏鬼】の全幹部と闇神リヴォグラフの【闇神異形軍】の所属先が不明な魔界騎士三名と、般若顔の頭部&歯のモンスター軍団との大規模な戦闘となったが、それら敵集団のすべてを殲滅させた。俺が持つ戦利品は――」
橙魔皇レザクトニアの薙刀を右手に出す。
「おぉ~オレンジの魔刃は魔槍グドルルと似ていますね」
「おう、魔力を通したら意識があったんだが、ラムー鑑定を頼めるか」
「はい――」
ラムーは、橙魔皇レザクトニアの薙刀に霊魔宝箱鑑定杖を向ける。
霊魔宝箱鑑定杖から魔力が放出されて、橙魔皇レザクトニアの薙刀に、その魔力が当たると、橙魔皇レザクトニアの薙刀が煌めきを発して、
「はい、神話級、魔界セブドラの橙魔皇レザクトニアが大本ですね、嘗て支配していた王宮の中で、大魔神官ベノアゴゴに裏切りに合い、心臓部を穿たれてしまったようですが、その時胸に装備していた橙命アロトシュの力冥宝天使ペンダントと己の魂が融合し、武器と化しながら、時空極魔転石の力で魔界セブドラの闇神リヴォグラフが支配する【闇神リヴォグラフの闇渦の領域】に転移したようです。装備したら<橙炎魔力>が扱えるようになり、魔皇レザクトニアが愛用していた薙刀武術が学べるようになるようです。呪いはありません。魔皇レザクトニアの意識が使い手次第では目覚めるようですね。他にもスキルが覚えられるようですが、鑑定にはでませんでした」
「へぇ、魔皇レザクトニアは目覚めるのか。キサラ――」
「あ、はい」
キサラは橙魔皇レザクトニアの薙刀を受け取った。
「あ、レザクトニアを察知できるなら、キサラも使い手の資質があるということだろう。俺は魔力を込めたら、レザクトニアの念話が聞こえてきた」
キサラは既に橙魔皇レザクトニアの薙刀に魔力を込めていたようで、ジッとと、橙魔皇レザクトニアの薙刀を見ては、薙刀から出ている橙色の炎を見ていた
「……たしかに、意識があるようですね、わたしでも使えるようです」
「おう、他にも鑑定に入手した品を調べるなどやりたいことはあるが、王都グロムハイムに先に向かう」
「「はい」」
「そこで、ヴァルマスク家の皆には悪いが、〝知記憶の王樹の器〟で俺を共有してもらおうか」
「「「「「――ハッ」」」」」
「「「「「分かりました!」」」」」
「「「「「承知!」」」」」
「「「はい!」」」
ヴァルマスク家以外の皆に〝知記憶の王樹の器〟で記憶の共有を行った。
魔人キュベラスにも飲んでもらった。
最後の魔人キュベラスはふらついたから、直ぐに寄って抱きしめる。
そのまま〝知記憶の王樹の器〟を戦闘型デバイスに仕舞った。
「シュウヤ様……の……すべてを理解しました。バフラ・マフディの言葉は信じないでくださいね」
「お、おう」
と、返事はしたが、既にキュベラスの美しい表情に魅了されている。
ま、美しいもんは美しいからな。
「では、キュベラス、クレインやナロミヴァスがここに来る前に王都グロムハイムに向かう。王都グロムハイムの【闇の教団ハデス】が利用していたセーフハウスに<異界の門>を利用した転移は可能かな?」
「はい、可能です」
と直ぐにキュベラスは振り返り、皆から少し離れた庭のところに<異界の門>を召喚した。
「「おぉ」」
「あれが、召喚の魔道具でもある異界の軍事貴族」
「そう、無数の魂、魔素を犠牲にするようだけど、儀式も使って、あの<異界の門>からヴァルアの騎魔獣を召喚できていた。そして、【幻瞑暗黒回廊】の異界の館や灰色の異空間に転移が可能となる、かなり便利な転移魔法ね」
とレベッカが、キュベラスの<異界の門>をあまり知らない者たちに説明していた。
疲れているかも知れないファルス殿下は、ファーミリアから丸薬とポーションをプレゼントされていた。
そのファルス殿下に、
「では、皆、王都グロムハイムに行こうか、殿下も強行軍気味だが、よろしいか?」
「無論だ、父に、はっきりと告げる。王権は私が頂くと!」
「「おぉ」」
「……ふふ、殿下の戴冠式には、公爵家アロサンジュ家も参列することでしょう」
レムロナは胸元に手を当てながら語る。フランたちも頷いていた。
メルは、
「中央貴族審議会や寡頭支配グループも、数々の証拠と証言があれば、頭が良い者ほど、直ぐに納得するでしょう」
と発言。
寡頭支配グループか……。
「ヘルメとグィヴァも、その拘束している者たちを連れて付いてきてくれ」
「「はい」」
「では、黒猫にグルカファントム、行こうか、銀灰猫たちはクレインたちと共に後からくるといい」
「にゃァ~」
「ワンッ」
メルたちと共にキュベラスの<異界の門>の門を潜った。
一瞬で、景色が開けた、ここは高層の屋上か。ハンカイたちと共に少し歩いた。
銀灰猫と銀白狼たちは居ないが、結構な大所帯だ。
第二王子ファルス殿下を守るレムロナとフランは勿論、レグ・ソールトとコジロウも居る。
ヘルメが連れているテツ・リンドウにペイシェルとモラマン。
【闇の教団ハデス】のキュベラスとヒョウガと炎極ベルハラディ。
イヒアルスたちは武術街だ。
シキとファーミリアにアドリアンヌとダクラカンの聖剣を持つハミヤに魔族殲滅機関の隊員たちも居る。そして、ここは庭園を擁した屋上だからパーティを行えそうだ。
そのまま端に移動した。通りを挟んだ先には、水をたたえた堀を擁した大きい城がある。
左からぐるっと大きい城を囲う堀の石垣は美しい。
城の敷地には、モスクと似た建物とシンメトリーの尖塔が幾つもあり、天辺にはオセべリア王国の印の飾りが幾つもあるように見えた。
一見は西洋風だが、石垣といい日本とイスラムの建築物も交ざっている印象だ。白銀に輝いている建物もあるし、美しい。王宮、宮廷は確実にあの城の中か。
それにしても、街並みが綺麗だ。
ここが、王都グロムハイム……。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻ー20巻」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




