百五十九話 魔槍血鎖師
「……」
炎毒に苦しんでいた戦士は安心するように眠っている。
助かってよかった。
笑みを意識しつつ――掲げた魔竜王の蒼眼を懐へと仕舞った。
魔法効果倍増と無詠唱を誤魔化したつもりだが、さて。
ポーションを浴びた盗賊系の男は、俺が持つ蒼眼を物珍しそうに見つめてきた……。
一応は誤魔化せたかな。
ま、ばれてもいいが。
「ビンスを救ってくれてありがとう。わたしの名はドリー。クラン【草原の鷲団】を率いています。貴方の名前を教えてください」
背が高い女性ドリー。
弓を懐に抱く姿勢で丁寧に頭を下げた。
彼女には、無詠唱だとバレている可能性が高い。
しかし、野暮なことは聞いてこなかった。
「……名はシュウヤです、パーティ【無邪気な武器団】を率いています」
「イノセントアームズ……そうですか、シュウヤさん、ありがとうございました。……これが、お礼の金貨です」
最低料金の金貨か。
その間に、ボソッと小声で〝聞いたことが無いパーティだ〟と、呟く声が聞こえた。
【草原の鷲団】のメンバーたちは俺たちを訝しむ。
当たり前か。
聞こえないフリだ。
「どうも、我々はこれで」
「――どこへ向かわれるのでしょうか。我々はこれでも六大トップクランの一つ、何か役に立つ情報を渡せるかもしれません」
そう言うことなら……。
「……あの二つの塔の下にも、ここと同じようなモンスターは湧くのでしょうか」
「勿論、湧きます。近付けば近付くほど、数が増えて……塔の前には十天邪像の遺跡もありますし、邪神系の未知なるモンスターも湧いています。遺跡は迂回すれば大丈夫ですが、問題は塔入り口の付近に湧く守護者級の死皇帝でしょう。一緒に出現する可能性が非常に高い死霊騎士と死霊法師も強力なモンスターです。もし塔へ向かわれるのでしたら、注意してください」
ドリーさんは丁寧に説明してくれた。
「ありがとう。では」
「はい、お気をつけて」
会釈してから【草原の鷲団】のキャンプから離れた。
ドリーさんは手を振ってくれる。
俺も片手を上げてから踵を返した。
皆のところへ戻る。
「話は聞いていたな?」
「ええ、沢山湧こうが、その都度、魔法を喰らわせてやるわ」
「ん、わたしも頑張る」
レベッカとエヴァは互いに視線を交わすと表情を引き締めて粛然と襟を正す。
ヴィーネも頷きながら口を開く。
「守護者級が近くで湧く可能性がある以上、周りの安全確保を優先ですね」
「そうだな、精霊ヘルメや闇の獄骨騎を使うか。地図の周りを手当たり次第狩るのもいい」
『閣下、嬉しい……』
ヘルメのことは無視。
「少し前に説明を聞いたけど、精霊様とその沸騎士たち? を使うのね」
レベッカは指に嵌めた髑髏の指輪を興味深そうに見ながら聞いてくる。
「あぁ、その予定だ」
『いつでもお呼びください』
『分かっている』
指輪を眺めながらヘルメと念話していると、
「にゃお」
肩で休む黒猫が一鳴き。
俺の肩をトントンと肉球でタッチング。
「どうした?」
俺が聞くと、尻尾の先っぽを俺の鼻に寄越す。
触手の先端は塔のほうに向いている。
『早く狩りに行くにゃ』
と、催促しているのかな? と推測。
「とりあえず、あの塔を目指すか」
「ンン」
相棒のふにゃ系の微かな喉声が可愛い。
その相棒にアイコンタクト。
一緒に歩く。
「了解」
「ん」
「行きましょう」
「「はっ」」
皆、それぞれ気合が入った。
暫く進むと、ドリーが話していたように、石門と小さい壁に囲われた寺院のような遺跡が見えてきた。
石門から続くのは、幅の広い下り階段だ。
階段の先は暗くて分からない。
が、その奥から、いかにも、何かが出てきそうな気配はある。
掌握察で探る……しかし、ここからじゃ地下にある魔素は感じられない。
不請顔のレベッカが、
「寄り道をする気?」
「いや、どんなのかなと見ただけだよ」
この地下遺跡に邪神系の未知なる敵が出現するのか。
フーを洗脳した小型蟲を操る邪神に連なる大型蟲が出てくるかもな。
「ん、ドリーさんが忠告してくれた」
エヴァも不請顔だ。
あの遺跡は気になるが、皆の意見に従う。
今は地図を優先だ。
「迂回して進もう」
「うん」
俺たちは壁を迂回。
数度の休憩を挟んで西の先にある二つの塔を目指した。
途中、毒炎狼、酸骨剣士、骨術士が数多く出現。
それらのモンスターを順調に倒した。
夜が明けた頃、二つの塔の入り口が見えてきた。
巨人の口のような石の扉か。
塔の真下のフィールドでは、他の冒険者たちが骨戦士と骨魔道師と戦っている。
見たことがないモンスターだ。
あれが守護者級か?
俺は二つの指を二つの塔に向けて、
「この辺の骨は殲滅したようだ。しかし、あそこで戦っているのは守護者級か?」
「骨は骨ですが、今までとは大きさが違います」
ヴィーネは額に手を当てながら話していた。
すると、エヴァが本を広げて、
「ん、あの黒と黄色の法衣を着ているモンスターが死皇帝」
と、記述の部分に指を差し、ニコッと微笑む。
そして、
「骨の馬に騎乗している騎士が死霊騎士。前が開いた青い法衣を着たモンスターが死霊法師。魔物本にはそう書いてある」
見ながら教えてくれた。
「エヴァの買った本が役に立ったな。ありがと」
「ん、役立った、嬉しい」
やべぇ、連続的な天使の微笑だ。
紫色の瞳もレベッカの蒼色の瞳に負けないぐらいの魔力がある……。
エヴァの魅力にハートを鷲掴みされたところで、問題の死皇帝をもう一度見る。
「……あの死皇帝は杖槍を持つ。ゆらゆらと浮かびながら黒い魔法の斬撃を繰り出しているし、強そうだ……」
「うん。前衛の戦士は一流ね。あの後光を帯びた盾持ちの戦士が巧みに防いでいる。けど、あのモンスターは強い。後衛の魔術士にも槍を投げるように黒の突技が飛んでいるし、正直、怖いわ……」
レベッカの顔色は青ざめていた。
あれはやっかいそうだ。
後衛は距離を置いてもらう。
戦うとしたら俺が最初に、あのゴージャス骨野郎たち三体を担当しよう。彼女たちを守る。
「ん、レベッカ、シュウヤがやっつけてくれるから、大丈夫」
エヴァはレベッカの不安を払拭するように励ましていた。
少しプレッシャーを受けたが。
「それもそうね、わたしはわたしの仕事をする。シュウヤ、頑張ってね」
レベッカは可愛らしくにっこりと微笑む。
めっちゃ可愛いからドキッとしてしまう。
「……おう」
そんなやりとりをしていると、守護者級と戦っていたパーティが逃げ出した。
えぇぇ……まじかよ。
盾役の戦士の人を置き去りにして、他のメンバー全員が踵を返して、こっちに来やがる。
そんな残された盾戦士目掛けて、黒と黄色の法衣を纏った死皇帝が長柄武器を振り上げた。
先端が湾曲した長柄武器から――。
闇の衝撃波が発生。
同時に、特殊な闇フィールドが円状に広がった。
その場に残った盾戦士にも、当然闇魔法が包む。
モンスターが繰り出したであろうフィールド魔法の影響下に入った。
影響を受けて、動きが鈍った盾戦士。
骨馬に騎乗した死霊騎士が、その戦士を狙う――。
ランスを抱えて突進する死霊騎士。
骨馬の勢いを乗せた強烈なランスチャージを戦士へと衝突させた。
ヤバイかな。
と思ったが、強烈な後光を発した盾持ち戦士は、そのランスチャージを受けきっていた。
やるなぁ。
と感心するが、体勢を崩した。
そこに死霊法師が青い法衣を広げた。
その青い法衣から氷の礫が幾つも発生し、氷の礫の群れが戦士に飛翔していく。
体勢を崩した戦士に氷礫が突き刺さる。
いくつか防げずに血が舞う。
だが、戦士は盾を使い後退。
三匹のモンスターから集中砲火を浴びても致命的な攻撃は防いでいた。
表情は確認できないが、あの戦士は孤軍奮闘だ。
俺は、逃げているメンバーに怒りを覚えながら、
「なぁ、あれは、もしかして置き去りか?」
「そ、そうみたいね……」
「ご主人様、どうしますか」
ヴィーネの問いには、勿論、
「あのカッコイイ戦士は助けたい。俺が口火を切る。最初に敵愾心を俺に集中させるから、ヴィーネ、レベッカ、エヴァは後方に徹して回避を優先。状況を見て、遠距離攻撃を開始しろ」
声の調子を強めて指示を出した。
「はいっ」
「分かったわ」
「ん」
俺は仲間たちの顔を見て、笑顔を意識しつつ頷く。
続いて、奴隷たちへと厳しい視線を向けた。
「お前たちは仲間の援護を徹底しろ。今回は魔宝地図に備えての前哨戦と思え、前線には無理して出るな。フォローに徹しろ、いいな?」
ジェスチャーを交えて真剣に語った。
仲間のために投資をして得た戦力だ。
こんなとこで死なれちゃ困る。
「はいっ」
「わかりましたっ」
小柄獣人のサザーと虎獣人のママニはすぐに了承。
「畏まりました」
エルフのフーも頭を下げて話している。
「我も突撃したい」
蛇人族のビアが口から蛇舌を伸ばしながら一人、俺の言葉に否を唱えてくる。
「お前は武装騎士長らしく、その頑丈な身体を使い、仲間の魔法使いを優先して守れ」
「主人っ、我の父のような痺れる物言いだっ。承知したぞっ。武装騎士長の名にかけて魔法使いを守ろうっ!」
ビアは、双眸を散大させ興奮。
胸にある三つのおっぱいの左右を触ってから、お辞儀すると、フーではなく、レベッカの近くへ移動している。
それを確認してから黒猫へ視線を向けた。
「ロロッ!」
「にゃおっ」
指示を受けた黒猫は直ぐに反応。
力強い四肢を持つ馬と獅子に近い神獣の姿へ変身。
俺の腰に触手を巻きつけてから、背中の上に乗せてくれた。
イリアスの外套を開いて、右手に魔槍杖バルドークを召喚。
<導想魔手>も発動させた。
同時にロロディーヌの手綱触手の先端が首筋にぴたりと張り付く。
相棒ロロディーヌと感覚を共有した。
「行くぞっ」
「ンンン――」
相棒の声が響く。
恒久スキル<神獣止水・翔>を実感。
一気に荒涼とした原野を爆進していく。
一騎駆けで、駆けに駆けた。
そう、呂布にでも成ったかのように。
いや、姉川の戦いで有名な単騎駆けの本多忠勝か?
そんな偉大な武将たちに思いを馳せながら――。
途中、怪我を負っていた逃げてきた人たちには視線を合わせない。
「あっ、たすけっ――」
そんな言葉が耳を通り抜けていた。
無視して、二つの塔の入り口に向かう。
巨大な石扉の間だ。
神獣ロロディーヌも俺の気持ちを受け取って、頭部の形を少しだけシャープに変形。
黒豹か、黒鷹っぽい――。
速度を上げて一気に進む。
――孤独な戦士はまだ生きていた。
顔は青年、大柄だ。
問答無用――。
その青年戦士へと<導想魔手>を送った。
細い魔線の先に伸びた歪な魔力の手が、戦士の体を掴む。
青年戦士の盾と鎧が<導想魔手>の指の形に凹む。
構わず掴んだ青年戦士を黒いフィールドから引っ張り出す。
無事に黒いフィールドから戦士を助け出すことに成功。
距離が少し離れた箇所で、その戦士を投げ捨てた。
助けた戦士は受け身を取りながら――。
転がりが収まったところで、顔をこっちへ向けた。
青年戦士を無視する形で<光条の鎖槍>を発動。
<光条の鎖槍>は宙を切り裂くような勢いで死皇帝をあっさりと貫通し死霊騎士と死霊法師の胴体をもぶち抜いた。
「「「グォォォォォ」」」
悲鳴に似た叫び声が響く。
耳朶が震えた気がした。
<光条の鎖槍>は光属性だ。
ナチュラルに効いたらしい。そして、<光条の鎖槍>の後部は分裂しながら瞬く間に光の網と化す。その光の網と絡まった死皇帝と死霊騎士と死霊騎士は身動きが取れない。
助けた青年戦士は――。
何が起きているのか分からないといったように、驚愕な表情を浮かべていた。
そこで魔素の反応を感じ取った。
魔素の反応は骨馬に乗った死霊騎士。
赤黒いランスを脇に抱えている。
<光条の鎖槍>を喰らった痕の穴。
黒い胴体に痛々しく残っているが光網から抜け出たらしい。
が、骨馬に騎乗しているから敏捷性が高いようだ。
俺たちに向かってくる。
その背後には死皇帝と死霊法師。
ゆらゆらと宙で揺れながら俺のことを追う姿を確認。
<光条の鎖槍>はあまり効かないのか?
見た目といい光属性だし、効くと思ったんだが……。
ま、一応は俺に集中させることに成功かな。
そう思考していると……。
神獣ロロデイーヌが死霊騎士に向けて触手骨剣を向かわせる。
見事に骨馬の前脚を貫き破壊。
当然乗っていた死霊騎士は物の見事に地面と激突。
地面と衝突した死霊騎士は頭部と上半身の一部が欠けつつ骨馬と絡み合う。
骨馬は無残にも魔石と骨の残骸と化した。
骨馬に騎乗していた死霊騎士はタフ。
頑丈な下半身の力で立とうとするが、首が背中側にねじ曲がっていた。
真後ろへ歩き出す。
その滑稽な姿に少し笑ってしまう。
さて、笑う暇はなし――。
ランスにはランスを。
変な意気込みから、右手に持った魔槍杖を脇に抱えた。
「ロロ、速度を出せ――」
「にゃごあ」
神獣の黒馬ロロデイーヌは俺の意思を汲み取る。
地面が爆発するような勢いで駆けた。
ロロデイーヌによる全速力的な四肢の躍動だ。
不思議と向かい風はキツくない。
<神獣止水・翔>が進化している最中なのか?
黒馬か黒獅子かメラニズム溢れる神獣魔力粒子は出せるらしい。
視界には粒子の外に飛び出た形の魔槍杖の先端にある紅矛が風を切り裂く鏃の先端にでも成ったかのような紅き流線が発生していた。
一瞬で首が折れ曲がった死霊騎士との間合いを詰めた。
魔槍杖のランスチャージの紅矛が黒い鎧の中心を穿った。
死霊騎士は、くの字に折れ曲がり、紅矛が黒い鎧を簡単に突き抜ける。
そのまま死霊騎士の胴体が左右へ引き裂かれていた。
二つに分かれた死骸は地面を転がる。
死骸の残りカスからは、大きな魔石が現れていた。
走りを止めた馬獅子型黒猫が大人びている流線形の顔をくるりと動かしながら上向かせて、
「にゃごおおおぉん――」
仕留めた喜びからか、荒野に響くように吠えた。
誇らしげな獣の声。
カッコイイ。
ロロディーヌとの合体技ともいえるランスチャージで死霊騎士を仕留めると、ゆらゆらと浮かびながら近付いていた死皇帝と死霊法師が怒ったような形相を浮かべる。
「ゴゴッゴゴゴォォォーー」
「ゴォォォォーー」
独特の怨念を感じさせる叫び声を出していた。
何を言っているかは分からない。
だが、黒と黄色の煌びやかな法衣を纏った死皇帝が法衣を変化させた?
法衣の黒色の部位が妖しく光った瞬間、その黒い部分から無数の触手を発生させてきた。
神獣ロロデイーヌに騎乗している俺をピンポイントに狙ってくる。
黒触手の動きは――速い。
馬獅子型黒猫も触手には触手といったように反撃、今まで六本の触手しか見せていなかったが、触手を分散させて迎え撃っていた。
だが、向こうの触手の方が圧倒的に数が多い。
数は追い付かない。
馬獅子型黒猫の触手はあんな動きもできたのか、と感心している間にも、迎撃できずに捌き切れなかった黒触手が俺にも向かってきた。
直ぐに馬獅子型黒猫から跳躍。
頭にきた触手を避けるが、着地後の隙を狙うかのように、集中して黒触手が迫ってきた。
魔槍杖で宙に八の字を書くように迫る触手を斬る。
斬った黒触手は紅斧刃に触れるとじゅあっと蒸発音を立て消えていた。
だが、次から次へと黒触手が迫ってくるのは変わらない。
地面を踏む爪先を意識したステップを踏みながら素早く避けても、黒触手たちは追尾してくる。
しつこい、無数の蛸とイカを相手にしている気分だ
そこに死霊法師が氷の魔法を連射してきた。
<導想魔手>の魔力手と<鎖>を盾に変化させて、守勢に回り、氷礫を弾き躱しては避けていくが、これはさすがに全てを捌ききれない。
外套に当たったところは紫の火花が散り、脚の一部、右腕の一部に氷礫が突き刺さる。
――いてぇぇぇ。
が、痛がってはいられない。
直ぐに<光条の鎖槍>を発動、連射。
五つの光線のような光槍群は一直線に迫る黒触手を貫きながら死皇帝と死霊法師へ向かう。
死皇帝と死霊法師の胴体に光槍が直撃、眩い青白い閃光を発生させながら貫いていく。
やっと、氷礫と触手の雨が止んだ。
「ギュオオオォォ」
「ギュウウウウ」
死皇帝と死霊法師は光槍から分裂した光網に囚われて苦しみの声をあげる。
だが、死皇帝が黒い杖槍を掲げた瞬間、自らを包むようなどす黒い丸円が発生。
続けて、死霊法師にも黒い丸円のエフェクトが掛かる。
その瞬間、こいつらを貫いていた<光条の鎖槍>が消失していた。
だからか。
さっき俺が放った光槍も、死皇帝が持つ、特別な魔法かスキルにより防がれたらしい。
そんな感想を持った瞬間、距離を取っていたロロが馬型からグリフォン型の巨獅子型黒猫に変身していた。
巨獅子型黒猫は大きな口を広げ――炎ブレスを吐き出す。
火炎の嵐といえる炎の大波が荒野を蹂躙した。
巨大な死皇帝と中型サイズの死霊法師も炎の巨大津波に飲み込まれる。
荒野の地面が溶けている……。
空間、あらゆるモノが蒸発していく感じに見えた。
もの凄い熱波を感じるが、この炎ブレス、指向性がある。
俺の周りには届いていない。
『さすがは、ロロ様です。王級を超える炎……怖い』
視界に現れた常闇の水精霊ヘルメは、水だけに、顔が青ざめている。
怒濤の炎の波が収まり静まると死霊法師の姿が消えていた。
蒸発したのか跡形もない。
だが、死皇帝は生き残っていた。
焼き爛れた大きい頭蓋骨と真っ赤に燻っている全身スケルトンの姿を晒している。
しかし、すぐに再生していく。
身にまとっていた法衣も再生して黒から真っ白い色に変化していたが、手に長杖を持つ姿に戻っていた。
『ロロ様の炎でも生き残るなんてっ、なんてタフなのでしょう! 閣下、わたしも出撃しますっ』
『おう』
俺の左目から螺旋状にヘルメが放出。
空中で水状態から人型へ姿を変身させながら、蒼い両手から氷礫の魔法を死皇帝へ向けて放っていた。
更に、遅れて到着した仲間たちの攻撃も始まる。
レベッカの火球が骨頭に直撃。
ヴィーネの光線矢が肩に刺さる。
エヴァの紫色のオーラ魔力に包まれた金属の円月輪が胴体を斬る。
フーの土礫が骨足に刺さる。
ママニの鉄矢が胴体に刺さる。
ビアの投げ槍が骨足に突き刺さっていた。
死皇帝は次々と連続攻撃を受けた。
頭蓋骨が溶けるように燃え、光線矢により緑蛇が肩に浸透した瞬間、爆発。
肩は吹き飛ばされ、骨足は無数に穴が空き、白い法衣が破れ、中身の骨格の全身に円月輪により無数の斬り傷が生まれていく。
こりゃ、効いたな、ん?
その波状攻撃が効いたのか死皇帝は奇声をあげると、急にくるくると魔力を放出しながら回り出した。
何だ? 風か?
同時に三百六十度の周囲へ向けて、衝撃波のような風魔法を展開させてきた。
俺と黒獅子型黒猫は距離を取り、その魔法から離れる。
精霊ヘルメも空を飛ぶように離れて仲間とは反対方向へ着地。
その場から死皇帝へ向けて氷魔法を放っていた。
しかし、風魔法が障壁になっているのか、ヘルメの氷礫は死皇帝に届かず、障壁に弾かれている。
その障壁風へ向けてレベッカ、エヴァ、フーも魔法を飛ばしヴィーネも光線矢を射出しているが、障壁風に当たっても弾かれるか吸収されるようで、障壁風は消えなかった。
死皇帝の周囲にある障壁風の内部では、風刃が激しく舞っているらしい。
地面の四方八方が巨大な鉤爪に抉り取られたように、線状の傷跡が幾つも発生。
あの場に残っていたら切り刻まれていた。
しかも、もうダメージは回復している。
ゴージャスな法衣は緑色に変化を遂げていた。
――すげぇな。さすがは守護者級だ。
尊敬に値するほどタフで強い。
鉄壁の守り。が、同時にあの障壁風の内側からは……。
俺たちのいる外へ向けての攻撃はできないらしい。
少し様子見だ。
死皇帝は骸骨顔の眼窩に宿る一対の闇の瞳が……。
赤く縁取られて光る。
その闇と赤の視線は俺を睨んでいるように感じた。
奴隷たちも遠巻きの位置から死皇帝へ向けて、拾った石を投げたり遠距離攻撃を始めていたが、障壁風に防がれた。
いつまで、あの鉄壁風は続くんだ……。
ん、待てよ。<鎖>なら通じるか?
横に走りながら左手を振り上げて<鎖>を射出。
狙いは頭だ――。
弾丸を超える速度の<鎖>――。
障壁風をあっさりと突き抜けて死皇帝の頭部に直進。
そのまま<鎖>は死皇帝の頭蓋骨を貫いて、粉砕。
障壁風も止まった。
すげぇな、この<鎖>。確実に成長を遂げている。
「おぉ」
「凄い」
「やったわね」
仲間と奴隷たちから歓声が上がるが、ところがどっこい――。
死皇帝はまだ生きていた。
頭部が粉砕されても、まだゆらゆらと浮かび長杖を掲げている。
「まだ、生きているの!?」
レベッカが驚く。
確かにしつこい。だが、これならどうだ。
<血魔力>を意識すると同時に<血道第二・開門>。
両手を翳す。
――血を意識。
両腕の皮膚から血を放出。
同時に<鎖の因子>から派生した最強技の一つ。
<血鎖の饗宴>を発動させた。
※ピコーン※
※<魔槍血鎖師>の条件が満たされました※
※戦闘職業クラスアップ※
※<魔槍闇士>と<鎖使い>が融合し<魔槍血鎖師>へとクラスアップ※
※ピコーン※<血道第三・開門>※恒久スキル獲得※
※ピコーン※<血液加速>※スキル獲得※
※ピコーン※<始まりの夕闇>※スキル獲得※
※ピコーン※<夕闇の杭>※スキル獲得※
※エクストラスキル<鎖の因子>の派生スキル条件が満たされました※
※ピコーン※<血鎖探訪>※スキル獲得※
※ピコーン※<闇の次元血鎖>※スキル獲得※
おぉぉ、マジか。
新しい戦闘職業にスキルを獲得。
そのクラスアップとスキル獲得音と共に、左右の手から無数に出た血鎖は死皇帝の全身を囲う。
血鎖は三百六十度のあらゆる箇所から一斉に死皇帝を貪り喰うように貫き刺して血鎖の囲いを小さく縮小してゆく。
死皇帝は大きな竜の口にでも包まれたように全身を貫かれながら折れ曲がり圧縮圧殺されるように丸型へ圧し潰されている。
魔法を発動途中だった長杖も血鎖によって、あっという間に潰れて残骸となっていた。
この光景に、皆が皆、怯えたような表情を浮かべている。
そう、死皇帝ではなく。
俺に対して、皆、恐怖の感情を持っているようだ。
<分泌吸の匂手>を使わずとも分かる。
やりすぎたか……。
薄々気付いていると思うが、新しいスキルと言い訳しとこ。
※ピコーン※<因子彫増>※恒久スキル獲得※
わお、今、死皇帝が死んだらしい。
タフな守護者級にも驚くが、同時に<鎖>系の新スキルを獲得したことにも驚きだ。
<鎖>を多用したからか、相手が強かったからかは、分からないが……。
このスキルを使えば<鎖>をもう一つ増やせる。
すると、死皇帝の魔石と思われる極大魔石が地面へ落ちてきた。
俺は<血鎖の饗宴>を<鎖>を扱うように消失と意識。
瞬時に無数の血鎖たちは虚空の彼方に消え去った。
腕からの夥しい量の出血もぴたりと止まる。
「――にゃおん」
一鳴きした黒猫だ。
姿は子猫の姿に戻り、可愛く走っては肩に跳躍してくる。
「ロロ、さっきの触手の数は凄かったな、いつの間にあんなことができるようになっていたんだ?」
「ン、にゃ?」
黒猫は首を傾げていた。
この反応だと触手のことはあまり意識している訳じゃなさそうだ。
「ご主人様っ、その両腕は! お怪我を? 今回復薬ポーションをっ」
「あぁ、ヴィーネ、これは大丈夫。今――ほら、飲んだから傷は消えてるし」
胸ポケットから取り出した回復薬ポーションを飲みながら、笑顔を浮かべて誤魔化す。
別にヴィーネにはヴァンパイア系とバレているので、大丈夫なのだけど一応仲間にはまだ言っていないので、そんな軽い芝居をする。
レベッカとエヴァも俺のもとへ走ってきた。
奴隷たちも遅れて続く。
レベッカが心配そうな顔を浮かべると、
「ほんとに大丈夫?」
彼女の蒼い瞳に蒼炎がちらつく。
「あぁ、平気だよ」
安心させるように笑顔を浮かべる。
「シュウヤ、さっきの凄かった! しゅしゅしゅしゅーっと、紅い鎖、新しい技?」
エヴァは紫の瞳を輝かせて、黒髪を揺らしながら、必死に黒いトンファーで血鎖を再現しようとしていた。
「そそ、これで守護者級は倒せたな」
「ん、魔石を回収しないと」
エヴァは天使の笑顔で頷く。
奴隷たちは気を取り直したかのような顔を浮かべ、互いに顔を見合わせる。
自分たちの仕事を思い出したかのように、急いで回収作業へ移っていた。




