千五百九十三話 キーラが用意した罠
人型に限定されると思うが<闇透纏視>と<闇魔伝秘孔針>なら体の麻痺を狙えるか。
「では、失礼致します――」
【大鳥の鼻】の盟主バメルとガイはこちらを見て全員に謝罪するように頭を下げた。 【大鳥の鼻】の他の幹部たちも武器を下ろし、仕舞うとキサラたちに頭を下げる。
ヴェロニカは出口付近からファルス殿下の前に移動し、ガイを含む【大鳥の鼻】の幹部たちは地下オークション会場の出口から廊下へと、すごすごと退散した。
以前ポルセン、アンジェ、ルル&ララ、ロバートはガイとヨミと戦って随分と翻弄されたようだが、これでやり返せた。ガイに至っては面目を完全に潰した形だ。
だが、肝心のキーラと紅のアサシンたちは残っている。<闘気玄装>など<魔闘術>系統は維持。【御九星集団】と【髑髏鬼】の連中は逃げず、此方を窺うように見ている。不気味だ。念の為、足下に<血魔力>と生活魔法の水を撒いた。カザネのように霧か転移で逃げようと思えば逃げられるはずだが、逃げず、俺たちの行動を待っている印象……外の闇神リヴォグラフの眷属たちと連動する氣だと思うが……。
そして、戦いを予期しているようにアシュラー教団の方々は全員が退いている。
武術街を襲ったようだが、闇神リヴォグラフの眷属たちとの連動も限定的か。
すると、【雀虎】のリナベルが前に出て、
「【天凜の月】の盟主、俺らも先に帰らせてもらうぜ?」
「あぁ」
「そして、キーラの【御九星集団】とは今夜限りだ」
「了解したが、キーラと繋がりがあったのか」
「そりゃ土地柄の関係性もあるからな。が、俺たち【雀虎】はラドフォード帝国とオセべリア王国の戦争には関わっていない」
とリナベルが語る。
巨大な闇ギルドの一つが【雀虎】だ。
しかし、【軍港都市ソクテリア】はあまり知らない。聞いた範囲の知識だ。
ペルネーテから遠い南の王都グロムハイムよりも遠い都市が【軍港都市ソクテリア】。アジュールが海側の都市を渡り歩いた中の一つ。
〝皆なら知っているかな?〟 との思いでヴィーネたちを見た。ヴィーネは、
「【軍港都市ソクテリア】はラドフォード帝国が支配する港の都市です、オセべリア王国とは敵対している。今夜限りと宣言しましたが、何かしらの便宜と協議の上での発言かもですよ。【御九星集団】はラドフォード帝国とサーマリア王国にも通じている」
「はい」
「にゃ~」
メルと相棒も同意。ファルス殿下たちも頷く。
コジロウとソルは何も言わず王子の前後に立っている。
三百六十度、足下と天井さえも守るように頭部を動かしまくって視野を確保していた。
「ぴゅぅ~」
と、ヒューイは鳴いてから王子側を一周してラムーの背についた。
<荒鷹ノ空具>でラムーの翼と成る。
何も言わずに何かを感じたか?
【雀虎】のリナベルは、
「……もう一度言うが、【緑竜都市ルレクサンド】や【迷宮都市ペルネーテ】などの争いには参加していない。地下オークション開催は絶対だ。珍しい品に大金を得る良い機会を失いたくないからこその事前の会合だ。そして、中立ルールは守ってきたんだが……」
と、リナベルは語りつつキーラを睨む。
虎獣人らしい鋭い視線だ。
暗に、キーラ側は陰で中立を破っていた、暗躍していたと言いたいんだろう。
「それに【天凛の月】だけでなくお前たちは【シャファの雷】とヴァルマスク家にシキのコレクターも仲間に引き込んだ。そんな【天凛の月】と戦う理由はない。更に言えば、去年の天凜堂で起きた影翼旅団との一件でお前たち側に回っただろう」
「あぁ、そうだったな」
「うむ」
レザライサも発言していた。
リナベルは、俺たちを見て、
「おう、それに虎獣人の同胞が、シュウヤの眷属に居るっても大きいか」
「ママニだな」
「そうだ。そして、ゴーモックのおっさん経由からも様々に【天凜の月】の情報を得ているからな、争う理由はない」
「豪商のゴーモックか、虎獣人の特異体でもあるとか」
「そうだ。グランドファーザーのゴーモック。俺はおっさんと呼んでいる。槍使いの盟主とは一度は会わねばなるまいて、と、前に語っていたが……では、俺たちは退かせてもらうぜ」
「了解」
ゴーモックさんか。
ポポブムに乗って旅をしている時にゴーモック商隊のテントは度々見かけていた。
ゴーモック商隊は、キャラバンのように大陸を跨いで活動している。
普通の大商会を超える規模なはずだ。
相当に大きいんだろう。
と、【雀虎】のリナベルにトクマンなどの最高幹部たちは会釈をして速やかに出入り口から廊下に出ては階段を上がる音を響かせてくる。
すると、【ベイカラの手】のガロン・アコニットが、
「シュウヤ殿とユイ様、俺たちは【天凜の月】側に付きます。そして、キーラ側と背後で蠢いている闇神には退いてもらいましょうか……」
と語ると、【ベイカラの手】の最高幹部と共に【髑髏鬼】と【御九星集団】の囲いを始める。
【御九星集団】最高幹部と目される魔剣師の二人が前に出た。
頭巾を脱いだ片方は隻眼か。
「ハッ、黙って退いとけばいいものを……死神ベイカラの手どころか、王国の耄碌爺の犬になりさがっているクズ共……それで、漁夫を狙っているつもりなのか、哀れだな」
と、渋い夏侯惇のような方が発言。耄碌爺とは海軍大臣のラングリード侯爵か。
その隻眼の人族っぽい方と四眼四腕の魔族の二人の【御九星集団】側が、アコニット側の【ベイカラの手】に近付いて、四眼四腕の魔族が左右の上腕が握る魔剣の切っ先を向けていた。
隻眼の魔剣師はまだ無手のままか。
するとアドリアンヌとファーミリアが前に出て、
「この狭いところで戦う氣ですの?」
「そもそもキーラ、何か発言したらどうなのです? そして、先程どこのだれに連絡をしたのかしら?」
キーラとコンマイが前に出て、
「ふふ、ここはアシュラー教団が用意した地下ですからね。少しだけの間が必要なんですよ。そして、コンマイ、アスール、メメラトは、そのままですが、マブラスとターチル? 【ベイカラの手】など無視しなさい。そのまま【髑髏鬼】と同様に手出しはしないでくださいね? 干渉は終えてますから直に発動です」
「「「「「ハッ」」」」」
「「「はい、キーラ様!」」」
と、キーラが発言すると両手から蒼白い魔力が発生し、宙空に亀裂が入った瞬間、地下の一部が切り取られたように灰色と赤黒い世界のどこかに転移した――。
当然に階段は消えている。
ここは【幻瞑暗黒回廊】のどこかか?
――皆の無事を確認したが、【御九星集団】と【髑髏鬼】の人員を囲っていた【ベイカラの手】の人員たちの体の半分が切断されていた。
【ベイカラの手】の盟主アコニットは驚愕し、
「げぇ、アドクルたちが!」
「なんてことだ、キーラめが――」
「ふふ――」
と、キーラが楽しそうに腕を上げて、
「マブラス、死神の信奉者たちに、本当の死をさしあげて」
と、マブラスという名の隻眼の魔剣師に指示を飛ばす。
人型の隻眼のマブラスは、
「ハッ」
と、両手に二振りの魔剣を召喚、その魔剣が蒼白く輝いた刹那――。
体が前にブレ、加速前進し――両手に持った蒼白い魔剣を振るいぬく。
一瞬で、目の前の【ベイカラの手】の最高幹部の魔剣師の首と右肩が飛んだ。隻眼の魔剣師のマブラスは前進し、体が横にズレる。
と、残像が発生した刹那、左右前に居た【ベイカラの手】の最高幹部の二人の体が、長柄の武器を持ったまま真横にズレると四つの肉塊となって倒れていく。
マブラスの魔剣師はかなりの使い手か。
「――くそが!」
「ベラガまでもが!」
「かかれ!」
アコニット以外の数名の【ベイカラの手】の人員が、隻眼の魔剣師のマブラスに突撃をかますが、マブラスは両腕を上げて、
「お得意の死神系の召喚術に骨魔将、お? 出したか、だが――」
と言いながら【ベイカラの手】の最高幹部たちを見て、顔に傷の紋様が走ると、加速、前進し迅速な袈裟斬りから逆袈裟を繰り出し、【ベイカラの手】の最高幹部が生み出したばかりの骸骨系の騎士モンスターごと、最高幹部の一人を真っ二つ。
隻眼の魔剣師マブラスは振り返らず、直進し、【ベイカラの手】の最高幹部たちを次々に斬り刻む。
「くっ……」
アコニットは驚愕のまま狼狽えて少し後退していた。
ユイとエヴァとレベッカも驚いて、
「なんてこと」
「【ベイカラの手】をたった一人で……」
「ん、ユイなら大丈夫」
「うん」
「でも、ここはどこ?」
レムロナとフランたちは、その背後に居る。
「陛下、私の背後に」
「うむ」
「ここは【幻瞑暗黒回廊】でしょうか」
「キーラもまた時空属性持ちということだ」
「アシュラー教団の地下施設の結界を事前に破っていたの? 先程の小形の魔法陣生成は外との連携を取るために使用していたと思ったけど、空間に作用するための魔法陣だった?」
「はい、多分そうでしょう」
レベッカたちがナイトオブソブリンとペルマドンを浮かせながら語り、ラムーの前に浮かばせている。
そのラムーが、
「シュウヤ様、キーラのアクセサリーと衣服の装備の名前が、〝地底神トロドの髑髏指輪〟、〝異界ノ指輪〟、〝魔神ソールの双刃〟、〝炎神エンフリートの指輪〟、〝淫魔の王女ディペリルの指輪〟、〝空切ノ間〟、〝転移ノ異空〟、〝闇神ノ左位の耳飾り〟、〝魔炎神ルクスの腕環〟、〝魔装天狗バゼルマウアーの上衣〟などでした。鑑定は失敗することも多く――」
と、殺気――。
キーラが指輪から髑髏の弾丸を寄越してきた。
直ぐに闇壁を左に生み出し、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、髑髏の弾丸を防ぐ。
「キーラめ!」
クリドススが魔双剣レッパゴルを構え前に出て叫ぶ。
「……そこの鉄仮面を被った女、魔族か……」
と、怒りを滲ませて語るキーラ。ラムーの鑑定が氣に食わなかったか。
レザライサは、
「ハッ、【天凜の月】の者に手を出したか。しかし、ここが【幻瞑暗黒回廊】か? だとしてもキーラ、わたしたちをここに誘拐か……ん、空間が途切れているから、ルキヴェロススが造り上げていたような異界の館の異空間か?」
と、レザライサは言い、後退していたクリドススと、半身でレザライサと目を合わせていたファスと頷き合う。そのファスは左手を翳していたが、クリドススがファスに何かを語ると、腕を下げた。
腰の鋼が連結した鞭を右手に持ちながら、レザライサと少し距離を取った。
シャルドネとサメとキーキとファルス殿下は円陣の中心に居る。
円陣を組むのはコジロウとレグとフーとキサラとベリーズとサラとエトアとラムーだ。エヴァが少し後退しアドゥムブラリが皆を守るように〝偽魔皇の擬三日月〟を宙空に放っている。
【御九星集団】には隻眼の魔剣師マブラスの他にもコンマイが居るが、キーラを先に仕留めたほうが早いかな。そして、もしここが【幻瞑暗黒回廊】ならセンティアの手を意識すればなんとかなるだろう。
と、考えた刹那――。
「ほぉ、あっさりと成功したかキーラ」
と、頭上から声が響く。
「ふふ、はい、闇神リヴォグラフ様……」
キーラが頭を下げる。
やはり、ここはキーラが用意した罠か。
灰色の空に真っ赤な双眸と黒い目元だけが浮いていた。
闇神リヴォグラフの幻影か、本体ではないだろう。
と、そこから大量の闇状の礫が飛来してくる。
<鎖>と同時に《氷命体鋼》――。
――烈級:水属性の《氷竜列》を発動した。
指先から上咢と下咢に氷の歯牙を生やす氷の龍頭が発生――。
《氷竜列》の龍頭は一瞬で複数の氷のドラゴンに成って、複数の闇状の礫を喰らうように衝突し、すべての闇状の礫を消し飛ばした。
刹那、【髑髏鬼】の紅のアサシンが、俺たちに向け突進し、ヴィーネとユイと激突。
「ご主人様、こいつは――わたしたちが」
「うん――」
一瞬で、数十と剣戟音が響いた。
紅のアサシンは<血魔力>と似た魔力に覆われている魔刀を扱う。
<血層>のスキルを使用しているようだが、ヴィーネとユイと打ち合えているからかなり強い。
「わたしもいるのよ!」
と、レベッカは蒼炎弾を、近付いてきた【御九星集団】と【髑髏鬼】の最高幹部たちに繰り出す。
エヴァが複数の金属の刃を<念導力>で操作し、【御九星集団】と【髑髏鬼】の最高幹部たちに繰り出していた。すると、真上の真っ赤な双眸と黒い目元が崩れると、そこから闇神リヴォグラフの眷属らしき存在が降下してきた。
「上は俺が対処しよう、皆はキーラの【御九星集団】と【髑髏鬼】たちに気を付けてくれ――」
「にゃご~」
相棒の声を聞きながら<武行氣>で浮遊しつつ義遊暗行剣槍とコグロウの大針を消す。
同時に魔槍杖バルドークを右手に召喚。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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