千五百八十六話 闇神ハデスのステッキと<闇神ハデスの愛>
ゴルゴダの革鎧服の肩の防具が肩の竜頭装甲に変化し、
「ングゥゥィィ」
とハルホンクも満足したように鳴いた。
そして、左手の運命線のような傷に棲まう沙が、
『器、見事に<紅蓮嵐穿>のような新・必殺技を獲得したな?』
『おう、<コード・ディヴァニティ>を意識し、<銀朱螺旋槍ディヴァニティ>を使用し、<刺突>系の<魔仙萼穿>スキルを使用したら、<闇神螺旋槍・一式>を得た』
沙に思念で応えながら闇神ハデスのステッキを振るう。
『うむ! そこの壁をぶち抜くかと思ってぞ』
『ふふ、ここの内部は結構な広さで良かったですね』
左手に棲まう沙と羅の思念に頷きつつ
『あぁ、貫きそうになったら強引に止めたさ』
『闇神ハデスのステッキの先端が<銀朱螺旋槍ディヴァニティ>の使用で銀と朱の螺旋槍の形状に変化し、その銀朱螺旋槍で、空間ごと敵を穿つ<魔槍技>でしょうか』
貂の念話に頷きつつ、
『あぁ、そうだ』
『加速力からして時空属性もありそうでした。闇神ハデス様は<暗黒魔力>と時空属性を持つのでしょう、また、その闇と時空の属性が【闇の教団ハデス】の盟主に必要だった?』
『そうかも知れない』
バフラ・マフディは時空属性持ちか。
『ふむ、器と共についてきた定紋からも闇の刃のような物が出ていたような感覚があったのだが、気付いたか?』
『へぇ、気付かなかった』
沙が指摘してきたが、【闇の教団ハデス】の定紋からも闇の刃が出ていたのか。
『妾は左手に居る、俯瞰で見ていたわけではないから、異なるかもじゃ』
『あぁ』
頭上を旋回する【闇の教団ハデス】の定紋は、朱色と漆黒の輝きを放ちながら魔竜王の胸部の小さな装甲とゴルゴダの革鎧服の端に吸い付くように固定、吸着された。
その魔竜王とゴルゴダのハルホンクの新しい防具に付いた定紋は、まるで元から装着されていた紋装飾として施されていたかのような具合で、かなりの完成度だ。
戦闘型デイバスに仕舞った<パディラの証し>の〝闇に輝く紋章入りのバッジ〟と少し似ているかな?
これはこれで<銀河闇騎士の絆>と合いそう。
「ンン――」
「ご主人様――」
「シュウヤ様――」
「「シュウヤ!」」
「シュウヤ様が闇の騎士様に!!」
「ふふ、すべてのものは衣装よ! 神々が魔界騎士に欲しがるのも納得できます!」
「まさに新戦闘職業の<闇の御使い>!」
黒猫の相棒と眷属たちとファーミリア、そしてシキがそう言いつつ近づいてきた。
床は<闇神螺旋槍・一式>の影響で一直線に削られて破片が散らばっている。
皆はその傷跡と破片を華麗に避けながら、破片を蹴散らし、ファーミリアはサンスクリットの血霊剣を振り回し破片を切り裂き、更に<龕喰篭手>を発動して床を平らにするように近付いてくる。
床は大理石や黒曜石のような素材だから流れのまま訓練してしまったが、修理に相当な費用が掛かりそう……。
ま、【闇の教団ハデス】の盟主は俺、この施設も俺の物だから放置でもいいかな。
床に自動修復機能があるように思えるほど、魔力を有しているが……。
ないなら、後で、キュベラスたちに修理の代金として、大白金貨を上げとこう。
そして、皆に、闇神ハデスのステッキを見せつつ、
「――<銀朱螺旋槍ディヴァニティ>を発動させて<刺突>系統の<魔仙萼穿>を繰り出したらバフラ・マフディが使用していた<闇神螺旋槍・一式>の奥義、魔槍技を獲得できた。事前に体感していたことも大きいかな、距離間も幅も想定通りだった」
と、風槍流『右風崩し』の構えの基本から闇神ハデスのステッキこと、銀朱螺旋槍ディヴァニティを前方に繰り出す<刺突>を数回行う。
重心を下げつつ、同じく基本の風槍流『焔突き』を行った。
「――はい! 事前の演舞も素敵でした。そして、<闇神螺旋槍・一式>は<紅蓮嵐穿>と似たような直線状の敵を掃討できる」
「時空属性もありそうでした」
ヴィーネとキサラの言葉に頷いた。
レベッカが、胸の【闇の教団ハデス】の定紋を見て、
「うん、胸のバッジは<パディラの証し>にも似ているけど、八角形だし、【闇の教団ハデス】の定紋よね?」
頷いて、
「そうだな、今は、このように胸の飾りと成っている【闇の教団ハデス】の定紋なんだが、先程は、俺を追随し、浮きながら闇の刃を出していた沙が言ってんだが、見えていたか?」
「うん、【闇の教団ハデス】の定紋からも<暗黒魔力>が形成しているような刃が出ていたわ」
「「はい」」
『やはり!』
『あぁ』
沙に同意。
そして、先程ハデス様が、
『ふふ、シュウヤ様が習得したであろう<暗黒魔力>を意識し、定紋に用いれば、その定紋がシュウヤ様が攻撃した対象を自動で追尾し、遠距離から攻撃を開始します。定紋の硬度は非常に高く、破壊されても再生するのです。思念操作も可能で、自然と周囲に漂いながら付いていきます。更に、【闇の教団ハデス】の定紋に<暗黒魔力>、を注げば、<闇の御使い>などの戦闘職業を得ることができるでしょう。そして、<間歇ノ闇花>の恒久スキルを獲得すれば、本人のみ闇属性の<言語魔法>を無詠唱で、<紋章魔法>を簡略化して使うことができるようになります』
と言っていた。
【闇の教団ハデス】の定紋は、今のように防具の飾りに使えるし、遠隔攻撃の武器として使えるようだから色々と有能なアイテムだ。
「エヴァのような<念導力>に<導魔術>のように扱える【闇の教団ハデス】の定紋もシュウヤには合う!」
興奮気味に語るレベッカの言葉に皆が頷いていた。
「おう、話ながらでいいから皆のところに行こう」
「「うん」」
レベッカたちと、闇の聖堂のような広い施設の中央に戻った。
外にいた魔人と魔族たちの数は五十名前後かな。
皆、息を呑むように静まり返った。静謐な聖堂らしい空気感と成る。
【闇の教団ハデス】の最高幹部たちの魔人キュベラス、炎極ベルハラディ、豪脚剣デル、飛影ラヒオク、闇速レスールは、片膝を地面につけて頭を下げていて臣下の礼を取り続けていた。
【闇の教団ハデス】には絶対的な闇神ハデス様の降臨だから仕方ないか。
「「「……」」」
レベッカは、
「皆が畏まるのは当然だけど、シュウヤ、色々と起きすぎ!」
「はは、だが、まいどだろう?」
「ふふ、うん、<闇神ハデスの愛>でのハデス様の出現に<暗黒魔力>の獲得と<間歇ノ闇花>の獲得で、無詠唱に続いての魔槍技の新技の獲得とか! エヴァたちには、〝知記憶の王樹の器〟が必須の出来事、後で飲ませてあげてね」
親友、血の姉妹想いのレベッカの語りに頷いた。
「闇神ハデス様の降臨といい、マスターの闇属性がかなり強化されたわね」
「はい、闇神ハデスのステッキの穂先の先端が銀と朱の螺旋状に変化しています」
「<銀朱螺旋槍ディヴァニティ>のスキル効果ね」
「ふふふ、【天凜の月】の魔術師長としての意見ですが、<言語魔法>の<無詠唱>と<紋章魔法>の簡略化を可能とする<間歇ノ闇花>の恒久スキル獲得のほうが重要ですわね、そして、<暗黒魔力>があれば【幻瞑暗黒回廊】を魔力源にできるのも地味に、【幻瞑暗黒回廊】に居る【異形のヴォッファン】の軍勢と戦いが起きた時に役に立つかもです」
皆の言葉とクナの分析に納得。
そのクナと皆に、闇神ハデスのステッキこと、銀朱螺旋槍ディヴァニティを見せると、自然と闇神ハデスのステッキに戻った。
「ふふ、ステッキの穂先も杭刃ですわ」
「はい」
「しかし、先程の闇神ハデス様は……<闇神ハデスの愛>で、セラに顕現される……」
「歴史的な神話的な事象です……シュウヤ様を、導きし者と皆が口々に語るのも分かります……」
「そうですわね、導きし者で闇と光の運び手のシュウヤさんは、不偏不倚で過不及のない漢であり、力の正義の執行者でもある。皆が一瞬で虜になるのも分かりますわ、素敵すぎる」
アドリアンヌも熱を帯びて語ってくれた。
「「「はい」」」
「たしかに、大厖魔街異獣ボベルファとの絡みを思い出しました」
クナとファーミリアとシキとビュシエとアドリアンヌが語り合いながら闇神のステッキを凝視していく。
その皆に、
「ステッキは、闇神ハデス様の魂の欠片が宿っているだけはある」
「はい」
「にゃ~」
と、黒猫が闇神ハデスのステッキに前足を振るって猫パンチを寄越そうとしてきたから、直ぐに闇神ハデスのステッキを上げて猫パンチを避けた。
「黒猫、爪ならまだしも肉球ちゃんは大切に、危ないからだめだ」
注意すると、黒猫は耳を少し凹ませつつ、
「にゃ~」
と、納得したように鳴いてから、俺の右足に頭突きをして甘えてきた。
可愛い。
相棒の頭部を撫でたくなったが、皆に、
「闇神ハデスのステッキについて闇神ハデス様は、こうも言っていた……〝私の魂の欠片を持つ父の大眷属が居るはずです。その者たちに近付けば闇神ハデスのステッキが反応します。その者たちを倒してくだされば闇神ハデスのステッキに私の魂の欠片が吸収される。闇神ハデスのステッキと<銀朱螺旋槍ディヴァニティ>の性能が上昇します。そして……〟と、何かを言いかけながら、このステッキの内部へと戻っていったんだ」
「「はい」」
「ふふ、闇神リヴォグラフと全面戦争ですわね。吸血神ルグナド様とも好都合かも知れません」
「そうですね、宵闇の女王レブラ様にも……」」
「「うふふ」」
ファーミリアとシキは長い交友関係があるように語り、笑い合う。
その二人の言葉に頷いた。
「「「「……」」」」
「あぁ、そして、闇神ハデスのステッキに居るハデス様とは、常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァのように念話も可能になる場合もあるようだ」
「「「「「ハイッ――」」」」」
「「「「ハイッ、導きし者!」」」」
「「「はい、盟主!」」」
【闇の教団ハデス】の最高幹部に魔人と魔族たちの声が連続的にハモる。
施設の内部に皆のハモる声が合唱団が歌声のように共鳴して響いた。
皆の信仰心が爆上がり状態だと分かる。
目が血走って此方を見ている厳つい方々が居るから怖い。
――直ぐに美形のラヒオクを見た。
真っ黒の瞳が紫のアイシャドーで可愛く見えた。
その目元から黒と朱の魔力の粒々を発生させているのも、なんか可愛い。
そして、角ありの美しい女性魔族のモスヒートも良い。
彼女は孤独だったバフラ・マフディを信じていたようだからな。
そのモスヒートは、俺を見て涙を先程から流し続けている。
信じていたんだな。バフラの想いを……。
彼女の顔を見ていると、自然と心が熱くなって自然と双眸に涙が溢れてきた……ふと、モスヒートとバフラが過去に行っていた闇神ハデス様を思う会話が聞こえたような氣がした。
「ご主人様……」
「「シュウヤ!」」
「シュウヤ様――」
「にゃ~」
「マスター!」
ヴィーネ、キサラ、レベッカ、ミスティ、ユイからの連続的にハグを受けて、心が温まる。バニラ、チャンダナ、シトラスの香りを得ていい氣分になりながら闇神ハデスのステッキを消し、皆を強く抱きしめた。
黒猫のロロディーヌは、そんな、俺と皆の肩を移動しながら、皆の顔を舐めては俺の耳たぶを噛んできた、痛かったが……その分の愛情を感じて嬉しかった。
「では、キュベラスたち最高幹部と魔人たちも俺の武術街の家に一旦はきてもらうが、良いか?」
「「はい、盟主!」」
「「「はい!」」」
「「承知!!」」
「「「「おう!」」」」
外に出ると、もう夕方から夜になる頃合い。
丁度良い。
「ンンン――」
肩から黒猫が地面に飛び降りる。
と、直ぐに巨大な黒虎ロロディーヌに変身。
体から出した触手で皆の体を絡め取り、一瞬で、体の上に乗せていた。
やや遅れて、俺にも触手が飛来してきたが、その触手から逃げるように<暗黒魔力>を放つ。触手は少し驚いたようにその場で止まる。
直ぐに<闘気玄装>を強めながら倉庫街を駆け出した。
港に移動しては<武行氣>――。
「にゃご~」
「ははは、相棒、家まで競争だ!」
「ロロちゃん、シュウヤを捕まえたら、美味しいーションブルーベリージャムが入ったパンをあげる!」
と、レベッカがエヴァのように俺を捕まえるように相棒に指示を出す。
「ンン、にゃごぉ~」
視界が暗くなるほどの大量の触手が飛来してきた――。
即座にバックステップ――。
更に、闇神ハデスのステッキに<血魔力>と<暗黒魔力>を交互に込めつつ<闇神ハデスの愛>を発動させた刹那、ブッと蒸発したような音が闇神ハデスのステッキから響く。
光属性が濃厚な<血魔力>は少し危険だったか?
と、闇神ハデスのステッキが右手から離れ飛びつつ離れた宙空で血濡れた闇神ハデス様に変化。
驚いた黒虎は「にゃぉぉぉ」と鳴きつつ速度を緩めてハデス様を触手で捕まえていた。
「あぅぅ~」とハデス様の叫ぶ声が面白い。
「――ふはは、捕まってたまるか!」
と、一足先に武術街に逃げた。
◇◇◇◇
正門の上に着地――。
「「シュウヤ様!」」
「盟主、お帰りなさいませ!」
【天凜の月】と【白鯨の血長耳】の若い衆たちの言葉に、
「おう、只今だ」
「あ、総長! キュベラスたちは?」
「あぁ、もう来る――」
と、庭に居るメル、ヴェロニカ
やや遅れて、背後の正門に建てた魔塔のような建物を越えた神獣ロロディーヌが庭に着地し、皆を一瞬の間に庭に降ろしていく。
「シュウヤ、ロロちゃんがハデス様を捕まえたけど、直ぐに闇神ハデスのステッキに戻ったから」
と、レベッカが持っていた闇神ハデスのステッキを受け取った。
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