千五百七十八話 レベッカの暗器刀キルシュナ
エヴァたちが手摺りの前に移動し、
「――ん、<異界の門>は便利!」
「はい、【幻瞑暗黒回廊】と異界の館にも転移が可能で各地域のセーフハウスに転移が可能は便利です」
エヴァとビュシエの語りに頷いた。
ヴィーネは、
「はい、そうした移動道具でありながら、異界の軍事貴族の召喚と契約が可能なことも素晴らしいです。ヴァルアの騎魔獣に英雄の装備も得ましたし」
と〝陽迅弓ヘイズ〟を掲げた。
ビュシエは、
「はい、〝魔槍ヴァルア〟、〝風神セードノ戦兜〟、〝ヴァルアの甲武鎧・参式〟、〝ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナ〟、〝ベジャルの魔剣〟、〝百人殺しの装具〟、〝陽迅弓ヘイズ〟、〝月迅影追矢ビスラの筒と束〟、〝フラミオンの魔酒樽〟、〝千宝ノ魔法盾ラミホス〟、〝フラミオン軍の騎兵軽装〟、〝フラミオン軍の具足〟を得た。ヴィーネが実戦に用いた陽迅弓ヘイズと月迅影追矢ビスラの矢は強力でした」
ビュシエの語りに皆が頷いた。
すると、レベッカが振り返り、
「ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナは、サケルナートことルキヴェロススとの戦いに使わなかったわね」
頷いた。左腕を見せながら、
「サケルナートは速くて頭が回らなかった。まだ熟練していないのもあるか、それほどにサケルナートことルキヴェロススは強かった。余裕がなかったとも言える。無意識に近い感覚でヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナは出なかったとも言えるか」
「うん、武人の言葉ね、戦闘中の刹那の判断は染みついた動きが自然と出るし、最近少しそれが分かるようになった」
「あぁ」
納得だ、俺は風槍流の動きが染みついている。
そこでヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナを外すことを意識した直後、ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナは腕から外れて眼前に浮かんだ。
手首の防具部分だけが粒子状に成っており、手首を上下させて透過が可能か。
不思議だ。
「――このヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナだが、レベッカが使うか? レベッカはジャハールとタン・ブロメアの拳もあるし前衛用攻撃オプションに使える。ゲルダーノ咆哮と異界蜘蛛ブルルヴェイチュの大鎌はさすがに他に回すべきだと思うが、ヴァルアの英雄装備の腕甲の暗器刀キルシュナは、蒼炎弾とは違った形の不意打ちが可能なるからお勧めかもだ」
「うん、いいの?」
と、俺に聞きながら皆を見る。皆は頷いていた。
ユイもヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナは似合いそうだが、特にほしがる気配はない。
「おう」
「ありがと、わたしに合うかな?」
「大丈夫。レベッカの綺麗な細い腕には、自然とフィットするはずだ」
レベッカは頬を朱に染めてから、嬉しそうに微笑むと、
「うん、ありがと! わたしで試したあとエヴァたちにも試してもらう。あ、魔杖レイズと魔杖ハキアヌスは返すわね」
「おう――」
ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナと魔杖レイズと魔杖ハキアヌスを交換――。
レベッカはヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナを持ち上げる。
裏側と暗器刀キルシュナが嵌まっている孔の中に指を入れて危ないことをしていた。と、そのヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナに魔力を込めていた。
その直後、「わっ」と声を発したレベッカの左腕にヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナが自然と装着されていた。細い腕にフィットしていて、良い感じに見える。
レベッカは腕甲を装備することも多いから似合う。
「自然とサイズが合った~紅孔雀の攻防霊玉のような感じ!」
「ん、似合う!」
「はい、レベッカに似合います」
「ふふ、腕の大きさに自然とサイズが調整されるのは、なかなか良い防具で武器ですわね」
ファーミリアも装備したそうな印象だ。
レベッカが嬉しそうに左腕を突き出してから、「キュベラス、そこの壁に試し撃ちしていい?」と聞いていた。
キュベラスは、
「はい、ご自由に壁をぶち抜いても直ぐに直せますから、あ、なんなら、これを――」
キュベラスは懐からグニグニした大きいグミを取り出しては、
「ぐるぐるぼぼん~♪」
と、変な声を発している。
なんか食べられそうな見た目だが、添加物が危険な印象だ。
「このモンスターは私が生み出せるグルグルボボンというモンスターで、魔力や打撃をある程度吸収しつつセラだと自然消滅してしまう儚いモンスターです」
「ええ? グルグルボボンは見た目が柔らかそうで可愛いんだけど……」
「……そうですか? では、これは自然に消えてもらうとして――」
とキュベラスは、見た目が凶悪な小形猪を両手の先から生み出していた。
瓜坊とは真逆の造形だ、乱杭歯だらけの小形猪だらけで舌が多くて、その舌があちらこちらに伸びていた。
キュベラスの両手の甲から出ている魔力の紐のような物で体が拘束されているから大丈夫だが、少し身構えたくなるような面だからびびる。
「これは魔獣べーマリオン。耐久性はなかなかです。そして、長い舌から毒の粒々を撒き散らします。毒のブツブツを喰らうと皮膚が真っ赤に膨れ上がり、三日の内に解毒剤を飲まなければ、顔や両腕に、魔獣べーマリオンの牙が生えてくるという……危険な魔獣? かもです。私の手を離れると、警戒モードに入るので直ぐに殺してあげてください、よろしくて?」
とキュベラスが言っている間に、グルグルボボンは宙空をぷかぷかと浮いて、屋上を離れて通りを進んでは闘技場の壁にぶつかって儚く消えていた。
面白いな、グルグルボボン。
「……」
「キュベラスって魔物使い?」
「はい、その戦闘職業は持っています。現在は魔法系が主力で極刹智魔力師という名が付いてますわ、職の神レフォト様に感謝です。ふふ、魔人で魔族の私にも、ちゃんと恩恵を下さって……うふ♪」
「うん、ではべーマリオンを離して暗器刀キルシュナを試すから離して」
「はい」
キュベラスは魔獣べーマリオンの拘束を解いた。
その瞬間、「いっけえぇ!」と可愛いレベッカの声が響く。
と、左腕に嵌めているヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナの孔から暗器刀キルシュナが射出された。
シュバッと音を響かせて魔獣べーマリオンを撃ち抜く――。
魔獣べーマリオンはボッと音を響かせて散った。
孔から出た直後は細い杭刃にしか見えない暗器刀キルシュナだったが、太くなって、壁を突き抜けていた。
「わわわ、威力がある――」
と発言したレベッカの近くに暗器刀キルシュナは飛来して戻ってくると、レベッカの左腕に嵌めているヴァルアの腕甲の中にシュッと音を響かせて納まった。
格好良い。
「「「おぉ~」」」
「やった、狙い通り、魔獣べーマリオンを倒せた!」
「ふふ、暗器刀キルシュナ、中々の威力ですね」
「はい、レベッカと相対した相手は驚きと共に倒れることが増えるかもですね」
「うん、マグトリアの指輪の時のように使えるのは、良い暗器」
ユイの言葉に頷きながら――。
再度、魔杖レイズと魔杖ハキアヌスに魔力を込めた。
ブゥゥゥッン――と音が魔杖レイズと魔杖ハキアヌスから響いた。
放射口からレッドとオレンジのエネルギーの魔刃が生える。
血魔剣的に使えるから、これはこれで良い武器だな。
ヴィーネは赤いエネルギー刃を見て、
「魔杖レイズと魔杖ハキアヌスは時魔神パルパディが、ご主人様だからこそ相応しいと言っていました。皆も使えますが、ご主人様独自の何かがあるかもです?」
ヴィーネの言葉にそうかもな、と、
「あぁ――」
と、頷きつつ<血魔力>を両腕から発した。
魔杖レイズと魔杖ハキアヌスを見ながら<血想剣>を意識。
<血魔力>の血の中で回っていた魔杖レイズと魔杖ハキアヌスは自然と柄巻を俺に見せるように宙空を漂う。
その魔杖レイズと魔杖ハキアヌスを掴むように、両腕を上げつつ――。
「ハルホンク、衣装替えだ」
「ングゥゥィィ!」
「ゴルゴダの革鎧服と魔竜王の装甲を少し加えた軽装バージョンで剣帯を複数備えた魔剣師スタイルに変化させよう」
「マリョク、ノ、ゴホウビ、ホシイ、ゾォイ!」
「了解した、たらふく食べると良い!」
と――肩の竜頭装甲に<血魔力>をプレンゼント。
「――ウマカッチャン!」
「ふふ、美味しそうにお目目が光ってます~」
「口もカツカツ音を立てて、楽しそうな反応も面白いです」
レガランターラには新鮮か。
テツ・リンドウには悪夢なのかも知れない。
俺たちを会話と行動を見て涙を溜めているようにふるふると、体が震えていた。
「良かったですね~ぴゅっとしてあげます~」
「ん、元氣なハルちゃん~」
「ングゥゥィィ~、ヘルメ、ノ、水モ、ウマカッチャン~」
ハルホンクが元氣に発言すると、ゴルゴダの革鎧服の上下に胸元に魔竜王の装甲が胸に付いた。腰ベルトには剣帯を複数設置されている。
腰ベルトの剣帯に魔杖レイズと魔杖ハキアヌスと鋼の柄巻とル・クルンの魔杖と魔杖ラベゼンと魔杖キュレイサーを装備した。
<握吸>を実行――。
左手と右手に魔杖レイズと魔杖ハキアヌスを吸引するように引き寄せて柄巻を強く握った――この<握吸>は便利だ。
そのまま掌の中で魔杖レイズと魔杖ハキアヌスの柄巻を回転させた。
先程のキュベラスのようなことは俺にもできる――。
すると、レベッカが俺の装備を見て、
「シュウヤ、キュベラスの影響を受けたのね~」
「あぁ、格好良かったから真似をした」
「――ふふ、ドヤ顔! 脇腹を擽っちゃうわよ! きゃ――」
<滔天魔経>を実行し、機先を制するようにレベッカの脇腹を先に擽っては駆ける。
「――ふはは、先手必勝~」
「えぇ――」
と屋上を転移するようにレベッカから逃げた。
「「「ふふ」」」
皆が笑顔となったところでレベッカにタックルを受けながら捕まった。
そのままレベッカに好きなようにさせてから共に屋上の手摺りから真下の通り見る。
レベッカは、
「闘技場付近は活気が戻ったってより、あまり関係がなかった感じよね、魔人たちの狂乱の夜の影響はなさそう」
「そうだな、客の出入りもたいした影響もないような印象だ」
「うん、でも、大闘技場から歓声が響いてくるし、何か雰囲気がある――」
と、レベッカは手摺りと壁際に備わっていた長椅子に座った。
頷きながら、
「たしかに、屋上に設置されている魔酒の樽に机とパラソルに椅子を見るに、ビアガーデンで酒を楽しみながら、闘技場の中で戦っている様子をパブリックビューイングで見られるってのが、ありそうな感じだ」
「ぱぶりっくびゅーいんぐ?」
「あぁ、遠くの偵察用ドローンの映像をガードナーマリオルスが投影したことがあっただろう? あんな感じで闘技場の戦っている様子を大きい映像として、ここに展開させたら、客も喜ぶかなと」
「ふふ、シュウヤ様――」
キュベラスが中央に移動して、
「実は魔酒が並ぶカウンター席の机に――と、〝闘技魔大鏡〟がありますから、ここで闘技場の戦い様子は見られるんです」
と、発言すると本当に大きい鏡が出現し、闘技場で巨大なアービターのような眼球モンスターと闘技者の三人組が戦っている様子が映る。
「「「おぉ~」」」
では、ドローンカメラのような物が闘技場の宙空に幾つも浮いている?
――カメラワークが見事だ。
「まさか、本当に大闘技場の競技をここで楽しめちゃうとは……」
と、レベッカはお菓子とテンテンデューティを用意している。
皆、モンスターと三人組の二眼二腕の人族か魔族の戦いを観戦となった。
三人組の闘技者が勝利を収めていた。
同時に巨大闘技場の歓声が此方にも響いてきた。
キュベラスは〝闘技魔大鏡〟を消した。
「キュベラス、その〝闘技魔大鏡〟を使って裏武術会の皆と闘技場で行われている戦いの賭け事を楽しんでいた?」
「はい、裏武術会のメンバーと会合を開く際に利用していました」
「「なるほど」」
数人が、はもり頷いた。
レベッカは、
「随分とお洒落なセーフハウスだし、場所も大闘技場と隣接した大通り前の一等地だから、ここに複合商店が開けそうよね」
「たしかに、三階建てで見晴らしは良い」
「うん、有名な黒の預言者のキュベラスだから当然だと思うけど、相当にお金持ち?」
レベッカの疑問にキュベラスは微笑み、
「ふふ、お金はあまり。大白金貨は数十枚程度ですわね、それ用のアイテムボックスも容量が食いますから」
と、語る。背後にはヘルメたちもキュベラスの行動を見ている。
テツ・リンドウは依然と拘束中。
テツリンドウは恨みを込めてキュベラスを睨んでいた。
闇神リヴォグラフ側に与していたテツ・リンドウだ、当然に裏切り者は許せないか。
レベッカは、
「裏武術会か、武術連盟と関わりないからピンと来ないけど、この闘技場の様々な興行は昔から大人気だったから、それに集まるお金も莫大な利権なのでしょう?」
と、また聞くと、キュベラスは屋上を見渡してから、
「はい、武術連盟の闘技大会と神王位戦は大人気で、裏のダフ屋と上級ルームとVIP席を巡る利権は血生臭いことに発展することがある。そうしたことが起きないように一部の利権を得ていた裏武術会が働いていました。武術連盟も暗黙の了解でしたの。ですが、今日限りですね、そんな利権は【天凜の月】に譲ります」
その辺りの利権構造はあまり理解していない。
行政側も結託している場合もあるだろうな。
と、ヴィーネに視線を向け、
「利権も裏武術会が裏の一部だけなら行政側の胴元が怪しいかな?」
と話を振ると、
「はい、武術連盟の高級役員たちの一部と武術連盟の【蚕】に、〝行政官僚:闘技係〟の高級官僚の数名と、副長官のデクオル伯爵とトニライン伯爵辺りが怪しいはず。イモずる式に絡んでいるかもです。とはいえネモ会長や、神王位に競技者の不正は少ないはず」
と語った。皆が頷いた。
そして、聡明なヴィーネに、
「そっか、ヴィーネ、いつもありがとう」
「ふふ、ご主人様――」
ヴィーネは傍に居たベリーズとレベッカを押しのけて俺の右腕に抱きついてきた。
そのヴィーネとハグをしてから振り返るとキュベラスが、
「裏武術会の分かりやすい悪が消えることで、武術連盟の一部の偽善の顔が強い、真の悪がのさばる可能性が高いです」
「ありがちだな」
「はい、競合のフリをした商会同士の不正な結託は競技者にまで及ぶ。勿論、大半は真面目な方々だと理解していますが不正者は居る。また、それを影ながら排除するのが裏武術会の本来の目的でしたが……魔人ザープの言葉にあったように、真面目にがんばっているだろう競技者を排除する裏武術会のメンバーも居たことは事実です。また、私も遊びの範疇でしたから、注意などはしてませんでた」
「了解した。そうした問題は【天凜の月】のメルに報告しといてくれ」
「はい」
「話を変えるけど、<異界の門>ってかなり便利ね」
と、言ったレベッカのプラチナブロンドの髪が風の影響で靡きながら広がった。
可愛い。
「あぁ、便利だ――」
と言いながら目の前の巨大なコロッセウムと下の大通りをまた見やる。
レベッカは、
「ふふ、ここの大通りは闘技場の客が沢山集まるから商売人たちに大人気、あっ」
通りに右手を伸ばし、指摘。
「見て、フルーツのサウススターが売ってるお店よ! 昔鑑定前の寄り道してシュウヤに買ってもらった時と同じ店かも! マーガレット商会のマーガットさんがいる!」
「あぁ~、ラドフォード帝国の人気フルーツ。バナナ的な感じのか」
「うん! 似たようなお菓子も流行ってるけど、本場のフルーツは美味しいんだから」
レベッカが嬉しそうに語るから、自宅に向かう前に、買いに行くか。
と、その店の前をドワーフと人族の剣闘士らしき方々を連れた大商人が通っていた。
エヴァたちも隣に来て、
「ん、サウススターが売っているなら買ってから皆のところに戻る?」
「そうしよう」
「ん、分かった。後、キュベラス、異界の館が、まだあそこに残るなら、今後も利用できる?」
エヴァが【幻瞑暗黒回廊】の異界の館について聞いていた。
キュベラスは。
「利用はできると思いますが、闇神リヴォグラフの大眷属たち、【異形のヴォッファン】の隊長たちも利用するはず、異界の館で過ごすのは、危険かもしれないです」
「ん、なら、もう行かないほうが良さそう」
「はい」
「ペルネーテには<異界の門>を用いた転移が可能なセーフハウスが幾つかあると聞いたけど」
「はい、南門と港街にもあります」
「話は買い物しながらってことで、下に降りようか」
「「はい」」
「了解~先に行ってる」
「うん」
レベッカとユイが飛び降りるように浮遊しながら通りに降りていく。
皆と同様に宙空に出たキュベラスに、
「【闇の教団ハデス】の定紋で開けられる部屋に何があると思う?」
「……闇神ハデス様に通じる何かがあるかもです」
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫1巻~20巻」発売中。
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