千五百七十四話 時魔神パルパディとの邂逅
皆の声に応えようとした直後――。
周囲に散っていたルキヴェロススの肉片と装備類が持ち上がった。
自動的に浮かぶ? 近くに来ていたエヴァを見た。エヴァは皆とハイタッチしてはハグをしている。
そのエヴァは此方を見て、浮いている装備類とルキヴェロススの血肉を見ては目を見開いて驚き、
「あれ?」
と発言。エヴァの念導力ではないらしい。
浮遊するアイテムは、色々だ。
闇のクリスタル、紅色のクリスタル、オレンジ色のクリスタルが数十個あり、魔杖レイズと魔杖ハキアヌスも含まれていた。
細かい物品もあるが、魔杖は眷属たちへの贈り物にしたい。
と、肉片は塵と化し消え去った。
装備品の一部は、魔杖レイズと魔杖ハキアヌスと共に空中に留まり、他の装備品は地面に落ちた。
空中に浮かぶ魔杖レイズと魔杖ハキアヌスの他には、闇に輝く紋章のバッジと漆黒の装束があるな。
と、それらアイテム類が浮かんでいる宙空から、突如としてオレンジと赤のプラズマブレードのような魔刃が現れた。
――え?
サケルナートことルキヴェロススは生きている?
「「「え!?」」」
「オレンジとレッドの魔刃が宙空に生えた?」
「魔杖なら柄巻があるはずですが、ないですし……」
そのオレンジとレッドの魔刃が下に動き、宙空と地面の一部を斬る。
<魔結界主・異界の館>を外の【幻瞑暗黒回廊】に居る連中が斬った?
斬った箇所が不自然な鉗子のような力が加わったように横に拡がった。
オレンジとレッドの魔刃は宙空の奥に収縮し消えた。
その亀裂の奥には、黒と白銀の何かがいる。
黒と白銀の何者かが、ここに侵入しようと?
「「「え!」」」
「閣下、これは……」
「闇神リヴォグラフ側、従兄弟と聞いていますが、宮廷魔術師サーエンマグラムでしょうか!」
「ん」
「あぁ、驚きだ」
「敵なら、皆で一斉に攻撃する?」
ベリーズは環双絶命弓に自然と番われているベリーズの聖十字金属の魔矢を直ぐにも射出できるスタイルだ。
「少し様子見だ」
と、サケルナートと共に異界の館に転移をしてきた女を見た。ヘルメの<珠瑠の花>の輝く紐で体が拘束されている女は頭部を左右に振る。
知らないか。
女の口を覆っていた<珠瑠の花>の輝く紐は一部のみ解放されたが女は沈黙したままだ。
ユイはエヴァにマグトリアの指輪を渡してから前に出る。
先程、マグトリアの指輪を使用していた。
あれはナイス過ぎる一撃。
凄腕の剣師のユイだからこそ、相手も面食らう。
魔法なんて使う素振りを見せないまま数十と打ち合ったところでいきなりのドカン! 烈級:土属性の《怒崩象歯群》だからな。
<筆頭従者長>のエヴァが、マグトリアの指輪に怒崩象歯群》を込めたから烈級の威力は超えている。
ユイは、右手に握るアゼロスの魔刀の切っ先を亀裂に向け、
「……ありえる、サケルナートはルキヴェロススだったし、宮廷魔術師サーエンマグラムと国王ルークも実は魔人転生を成し遂げた闇神リヴォグラフの大眷属かもしれないわよ」
ありえるな。
「なんだぁ?」
「……キュベラス様?」
「……」
イヒアルスとキュベラスとヒョウガにドマダイは知らないようだ。
切断された空間の奥には、黒と白銀と宇宙的な星々の輝きが映る。
亀裂の先は【幻瞑暗黒回廊】かな?
「【幻瞑暗黒回廊】に居るだれかが<魔結界主・異界の館>に侵入しようと?」
「早いと思いますが闇神リヴォグラフ側の勢力がサケルナートの死を知ったのでしょうか」
ヴィーネたちの言葉に頷いた。
キュベラスをもう一度見ると、キュベラスは、
「……<魔結界主・異界の館>は作用し続けている。高次元からのアクセスかと思います」
「え、では魔神?」
「はい、たぶん……」
キュベラスは呟いた。
その直後、亀裂の奥に居る黒と白銀の何かが後退した。
げ、黒と白銀は眼球だったのか。
黒と白銀の眼球の一つで、此方を覗き込んでいたと理解ができた。
他の三眼は紺碧と蒼の魔眼で色違いだ。
そんな四眼を有した巨大な存在が、
「『――我の恩寵を得ていたルキヴェロススを倒し者よ、そなたから強い闇と光の黄金比と……強い時空属性、バイコマイル胞子を感じるぞ……更に、とても強い生きたマインドの持ち主か……そして、光を知るお前ならば……我の真の<時闇ノ魔術>を学びきれるかもしれぬ……学びきれば……我の闇の深淵と時空の銀河闇騎士となり得よう……さすれば【時空の鷹】や【エレニウム調査銀河連盟】にて結集しつつある他の銀河騎士マスターたちや神界の者たちを容易く屠れようぞ……では、これを受け取れ銀河に闇と混沌と秩序を齎せる<パディラの証>を授ける――そしてルキヴェロススが使っていた魔杖レイズと魔杖ハキアヌスは、そなたにこそ相応しい――』」
闇に輝く紋章入りのバッジとカーボン系の装甲が備わる戦闘装束に魔杖レイズと魔杖ハキアヌスが降下――。
すると<銀河騎士の絆>が反応した――。
戦闘型デバイスから音楽が鳴り始めた。
壮大なクラシック音楽のような印象だ。
戦闘型デバイスの風防硝子の真上に映っていたアクセルマギナとガードナーマリオルスの幻影が消えると、
「「ナ・パーム・ド・フォド・カリーム!」」
「「ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!!」」
「「真に輝かしき銀河騎士なり!」」
叫び歌い始める?
銀河騎士たちが持つブレードが重なり合って虹色に輝いた。
汝、須く銀河騎士として銀河の平和を保つ。
汝、須く師を仰ぎ、自らのサイキックの向上を図り心身のバランスを保て。
汝、須く銀河戦士の弟子を育てよ。
汝、須く銀河騎士マスター評議会の律法に反しない限りにおいて、全銀河のナパーム統合軍惑星同盟の交通を認可する。
汝、須く寛大たれ、嘘偽りを述べるなかれ、生まれた星を愛すべし、いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし。
迫力ある音程で歌が奏でられた。
銀河騎士の戒律だろうか。
「――汝、須く寛大たれ、嘘偽りを述べるなかれ、生まれた星を愛すべし、いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし!」
と、最後にアオロ・トルーマーの声が戦闘型デイバスから響いてきた。
更にアオロ・トルーマーの幻影が出現し、
『……時魔神パルパディ、闇は闇でも闇は要らぬわ! そしてシュウヤはわしらと同士、しかも選ばれし銀河騎士マスターだ。オマエに用はない、消えろ――』
と、戦闘型デイバスから表示されているアオロ・トルーマーの幻影は鋼の柄巻を召喚し、その柄巻の放射口から青緑色のブレードを生み出す。
そして、跳躍し、くるくると回転して空間を薙いだ。
闇に輝く紋章入りのバッジなどを斬るが、アオロ・トルーマーさんは幻影だ。
ムラサメブレード・改と似たブレードも幻影。
闇に輝く紋章入りのバッジと二つの魔杖は落ちた。
が、時魔神パルパディは少し動揺したように幻影が薄らぎ、空間の亀裂が縮み元に戻りかけた。
「……かのフォド・ワン・ガトランスマスター評議会……我が銀河での作戦を次々と潰されてきた……チッ、希少なバイコマイル胞子にエレニウム因子を持つ最良の素材を……お前たちに先を越されたが……ふっ、黄金比は、我ら闇騎士こそが輝く。それはお前も知っているだろう……コモンセンスのアオロよ、ふふふ、ははは、やがて、その銀河騎士も、我らの闇騎士となるのだ……ふはははは!」
と、時魔神パルパディは嗤いながら消える。
空間に発生していた亀裂も修復されて元通り。
闇に輝く紋章入りのバッジと魔杖ハキアヌスなどはそのままだ。
皆、唖然としていた。
「……時魔神パルパディ……」
ファーミリアは動揺しているように呟く。
ベリーズは驚きのまま環双絶命弓を下ろしていた。
レベッカが、
「……時魔神パルパディとか、魔界で聞いたことがなかったけど、このセラがある宇宙次元で暴れていたのね……」
「そのようだ」
そこで、闇に輝く紋章入りのバッジを見る。
「ん、あのバッジを触ると、時魔神パルパディに取り込まれる?」
「怪しいがどうだろう。俺たちは光魔ルシヴァルだからな」
「はい、時魔神パルパディは、わたしたちの特異性を、<光闇の奔流>と時空属性、としか見ていない」
「あぁ」
ヴィーネたちの言葉に頷いて、キュベラスを見る。
キュベラスは魔法の半透明なゴーグルで、周囲のアイテムを類を見ていた。
数回頷いて、
「大丈夫ですわ。第二種危険指定アイテム類でもない。属性が合えば皆が使えるかと、バッジのほうもです」
「了解」
と、闇に輝く紋章入りのバッジを触って持ってみたが、何もなし。
魔力を込めると、
※ピコーン※<銀河闇騎士の絆>恒久スキル獲得※
アオロ・トルーマーさんの幻影は揺らぐ。
『……ふむ、やはり受け入れたか。が、これでこそ……運命が開かれた……と言える……優しき愛の水の受容性を持つ選ばれし銀河騎士よ、深いダークのマインドをも鍛えるがいい――』
とアオロ・トルーマーさんの幻影が消える。
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