千五百六十九話 記憶共有と魔族殲滅機関のリヨとコガ
エヴァとレザライサとレガランターラたちに続いて魔族殲滅機関の面々にも記憶を共有してもらおう――。
金髪に端整な顔立ちのレングラットに、
「俺を知れる〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体をレングラットたちにも飲んでほしいが、良いかな? あ、俺の<血魔力>が入った神秘的な液体だから、嫌なら遠慮せず断ってくれていい、強制はしないし、教皇庁中央神聖教会の教えは尊重したい思いがある」
レングラットが、
「――はい、聖者様、僕は平気です。飲ませてください!」
と、元気に喋り、胸元に手を当てて礼儀正しい所作をしてくれた。
思わず俺もラ・ケラーダの挨拶を返す。
他の魔族殲滅機関の面々も、
「俺も頂こう! 英雄で魔英雄、そして、吸血鬼でありながら<聖刻ノ金鴉>を得て<光の授印>を持つ、光魔ルシヴァルのシュウヤ様の血を!」
と、渋い銀色の髪を持つ二桁の灰銀デュモル・ゲラルドが語る。
「私も飲ませて頂きます――」
「「俺たちも、飲みます――」」
「あぁ、俺もだ」
「「はい」」
「「「私たちも!」」」
「聖者様で英雄様の血を得て記憶を得る。血は少し怖いですが……神聖書にはそれらしき言葉がありました……」
「……はい、聖者様の血を頂ける日が来るなんて……〝血は命を現す物、その血を飲む者は、その命の影響を受けるであろう〟〝暁の灯火を扱えし者、飢えた民に、光神の血と肉を分け与える〟」
と、神聖書を暗記している方がいた。
魔族殲滅機関の隊員の全員が、〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体を飲むことに了承のようだ。
すると、ハミヤと話をしていた二人、魔族殲滅機関の綺麗な女性隊員が俺の前に来る。
「聖者のシュウヤ様――私はリヨ・アスシッド。魔族殲滅機関の二桁、ナンバー二十八でございます――」
「聖者様、私の名はコガ・モザリランザです。魔族殲滅機関の二桁、ナンバーの三十です」
ハミヤの友達のリヨだったかな。
「おう、二人とも、よろしく」
「魔人アルケーシスの討伐に、黒の預言者のキュベラスたちの降伏、おめでとうございます」
と、発言し、リヨの隣の美女のコガも、
「おめでとうございます、強い魔人アルケーシスを滅し、魔人キュベラスを手懐ける! 実に気分が良いです。団長とビュシエさんとレザライサさんとファーミリア様からも何回か聖者様、【天凛の月】の盟主として活動を聞いています」
「はい、団長ハミヤと強いエヴァさんたちから色々と聞いています。【天凛の月】と【白鯨の血長耳】は民を助けて素晴らしい活動を続けている!」
「ふふ、黒の預言者の魔人キュベラスと、ヴァルマスク家の女帝ファーミリアが聖者様に付いた、まさに奇跡の日……昨夜の〝黄金聖王印の筒〟の奇跡は、まだまだ続いています!」
二人は熱く語る。
「おう、ありがとう、皆が居たから勝てたし戦えた。そして、〝黄金聖王印の筒〟は貴族街と魔法街の坂道で起きたと思うが、魔族殲滅機関たちにも、見えていたのかな?」
と語ると、魔族殲滅機関たちは頷く。
「はい、夜が昼に変化する、前代未聞の奇跡の〝黄金聖王印の筒〟の現象は、遠くからでも、ハッキリと分かりました。あの時の光景は衝撃的で、今でも目に焼き付いています」
リヨの隣の美女コガも「はい、忘れない!」と発言。
「そして、血を飲むことも賛成です。先ほどケキミラが言いましたが、神聖書の十八章には、選ばれし聖者が光神ルロディス様の眷族と同じように、血と肉を精霊と民に分け与えるような記述があるんです。食料のパンや葡萄酒の意味もあると思いますが、実際の高度な神聖魔法には<血魔力>のような雰囲気もありますからね」
「はい! 聖者の血入りの液体を飲むことは、聖者の弟子、光神教徒の弟子と同じ意味合いになる」
へぇ、神聖魔法か。
「ですから、その〝知記憶の王樹の器〟に入っている聖者、シュウヤ様の<血魔力>入りの液体を飲むことは、非常に光栄なことなんです」
「はい! 光栄です! 聖者様の血を頂けることは嬉しいです」
「はい! 〝黄金聖王印の筒〟の聖者シュウヤ様! 喜んで血入りの液体を飲ませて頂きます!」
速滅リヨ・アスシッドと刹滅コガ・モザリランザがまたも熱く語る。
俺を崇めている熱心な信徒的だ。
二人にとっても聖鎖騎士団の重騎士たちと同様に、〝黄金聖王印の筒〟の現象は決定的な事象だったようだな。
聖女アメリの時にも〝黄金聖王印の筒〟は起きたと思うが、規模が違ったようだ。
光魔ルシヴァルは、闇の血が濃いが……この分なら宗教国家ヘスリファートの都市部に入っても磔にされずに済みそうだ。堕天の十字架を使ったらどうなるか分からないが……。
が、そんな安直な訳がないか。
この魔族殲滅機関とハミヤたちの一派はあくまでも、教皇庁五課聖者・聖王探索局の考えで動いている一派だ。
リヨは薄い蒼色の髪。
双眸は薄い銀色と焦げ茶色。
人族かも知れない。
コガは、黒色の髪で黒い瞳。
魔族殲滅機関の戦闘用の制服は可愛らしと渋さを兼ね備えている。
胸元の十字架と教皇庁中央神聖教会の八課を象徴するワッペンが映えて似合う。
軍服に腰のベルトは魔獣の革製でバックルは高級感がある。
そのベルトにはポーチが付いて鞭と鋼鞭が専用の帯に納まっていた。
鞭と鋼棒による接近~中距離戦も可能で、槍も持つのか、槍の穂先は銀杏穂先で、石突は十字架で光属性の魔力に溢れているから確実に聖槍だろう。
ミニスカートに太ももが露わとなっている。ハイソックスがイイ感じにムッチムチな太股を映えさせている。
アンクルの銀十字架のアクセサリーも良いアクセントになっていた。
靴も高級感がある黒い魔獣の革が使われている戦闘用の靴で、魔力も内包されているし、動きやすそうな設計が施されていると分かる。
美人さん二人を見ているとテンションが高くなる。
いずれは眷族に……とか考えてしまう。
すると、ヴィーネがスタスタと前に歩いて<異界の門>を見上げてから、俺を見る。
と、陽迅弓ヘイズを構え、月迅影追矢ビスラの矢を出現させる。月迅とあるように月の模様と無数の粉雪のような銀色の魔力が矢の周囲に発生している。
双月神ウリオウ様と双月神ウラニリ様と関係があるかも知れない。
眷族の話を振るのは今は止めておこう。
すると、俺の心を読んだようにヴィーネは「ふふ」と微笑んだ。
レベッカとエヴァが、そのヴィーネの横に移動し、「ヴィーネ、ナイス」と小声で話しかけている。
<筆頭従者長>たちの美女たちは、勘が鋭い。
そこで、魔族殲滅機関たちに、
「では、二人にも記憶を共有してもらおう」
「はい、嬉しいです、〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲ませてもらいます!」
「了解しました!」
リヨとヨガからレングラットに視線を向け、
「では、レングラットから〝知記憶の王樹の器〟の俺の記憶入りの液体を飲んでもらうか」
「はい!」
レングラットは飲み終われると直ぐに倒れかかったから、その体を支えてあげながら〝知記憶の王樹の器〟を片手で掴む。
イケメンな野郎のレングラットだが、体が咄嗟に動いてしまう。
レングラットは涙ぐんで、
「まさに行いが聖者様……シュウヤ殿は槍使いとして、南マハハイムを救い続けていた。小さなジャスティスの信念には敬服いたします。そして聖女アメリを救っていたヴェロニカさんを含めて光魔ルシヴァルの皆さんには頭が上がらない」
「はは、己を貫き通したまで」
レングラットは俺をジッと見て、数回頷いた。
そして、拱手をしてから、
「素晴らしいシュウヤ殿の小さなジャスティスの行為ですが、間違いですね、実際には、小さなではなく、とても大きく、計り知れない正義だと思います。そう、それは正義の神シャファ様の大眷属がシュウヤ殿なのでは? と、思えてきます……行為そのものが大峽客です。益荒男の仕事人。とにかく、南マハハイムで活動してくれていたことに感謝しかない」
「はは、ただ真っ直ぐ行動しただけだったりするが……」
と、少し照れつつ〝知記憶の王樹の器〟を他の魔族殲滅機関たちに渡していく。
そうして魔族殲滅機関の皆が〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体を飲んだ。
そこで、まだ記憶共有をしていない魔人キュベラスと目が合うとキュベラスの衣装がブレた。変化をしてから、また元のインナーとローブに元通り。
そのキュベラスの瞳孔は散大し収縮を繰り返してから、ハッとした表情を浮かべて俄に、また片膝を地面に突けて頭を下げる。
背後に居た岩石坊主のドマダイも大きい額で地面を叩くように頭を垂れる。
土下座スタイルだが、地響きが起きた。
「ンンン、にゃ~」
と黒猫がそのドマダイに寄って、頭頂部の匂いを嗅いでは、その硬い頭頂部へと右前足の肉球を当てて、肉球パンチを繰り返している。相棒の触手骨剣を跳ね返した大きい頭部だからな。
鋼のような硬度を誇る大きい頭には幾何学的な模様が刻まれてある。
六眼四腕の豹獣人のヒョウガも同様に頭を下げた。
頭部が無く両腕が魔剣状態のイヒアルスは、両膝の頭を地面に突け、生首の口を俺に見せるように俺を敬う姿勢となった。
魔人キュベラスに、
「降伏した手前、その気持ちは分かるが、何度も頭を下げずともいい、立ってくれ」
「――はい、恐縮ですわ」
「「ふむ――」」
「ハッ」
と、キュベラスたちが立ち上がり、
「――記憶が共有可能とは畏れ入りました。シュウヤ様は知記憶の王樹キュルハ様との縁も持つのですね」
「おう、共通の眷族、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスを持つ。そのルヴァロスはもうじき西の戦場から戻ってくる」
キュベラスは「え?」とまた驚いては体が震えて、
「……共通、共同眷属、それは神々と同格に見られている証拠……そのような御方と私は……」
「マジか……」
「「「おぉ……」」」
岩石坊主のようなドマダイと六眼四腕の豹獣人のヒョウガと、頭部がないイヒアルスも驚いている。
此方としては、ドマダイに目があったのが驚きだ。
そのキュベラスに、
「俺は、神界と魔界の神々と関係を持つ。魔界側では、悪夢の女神ヴァーミナ様とは<夢闇祝>の繋がりがあり、姉妹の悪夢の女王ベラホズマ様を助けて復活させた。その際に<夢闇轟轟>などの他に、攻撃スキルを幾つか獲得したんだ。悪夢の女王ヴィナトロス様も復活できたが、既に神格落ちをしていたから、俺の光魔騎士ヴィナトロスに迎えることになった。更にナロミヴァスと流觴の神狩手アポルアと闇の悪夢アンブルサンも、優秀な眷族として復活させることができたんだ。更に、魔神バーヴァイ様、闇遊の姫魔鬼メファーラ様と吸血神ルグナド様と恐王ノクターと魔神ガンゾウとレイブルハースとペマリラースと魔裁縫の女神アメンディ様との面識がある。闇神アーディン様とは<アーモタルビューイング>の世界で槍修業を行った経験もあるな……その異次元世界では、死ぬ経験を何百と味わったのは貴重だった。魔毒の女神ミセア様とはセラの地下都市ダウメザランで手鏡越しに会ったことがあり、魔界セブドラ側でも数度合っている。吸血神ルグナド様とはビュシエ繋がりで、一度、幻影越しに会っている。闇神リヴォグラフも一度見たな」
「……凄まじい……魔界の神々と……そして神界にも繋がりが……それが光魔ルシヴァル……」
魔人キュベラスの言葉に皆が頷いた。
俺の記憶を得たばかりの魔族殲滅機関の面々は、感動して涙を流していた。
暫し、沈黙が続いたから、キュベラスに、
「その<異界の門>の異界の軍事貴族の召喚器具、魔道具は使用時間に制限はないのか? また、魔力や精神力などをかなり消費していると思うが、どうなんだろう」
「はい、今の状態は、異界の軍事貴族を召喚するバージョンであるため、魔力を大量に消費していますが、【幻瞑暗黒回廊】から魔力を得て補給がなされるので、実質的な消費はなく、差し引きゼロのリスクはない。大丈夫です」
「了解した。では、<異界の門>を利用し、〝異界の館〟に移動して、用を済ませた後だが、帰る際はどうなるんだ?」
「はい、<異界の門>が出現可能な、セラのセーフハウスの数カ所を押さえてあります。当然、ペルネーテにもあります」
「了解した。では、【幻瞑暗黒回廊】に向かう戦力だが……」
と、レザライサが前に出て、
「槍使い、わたしはここでレムロナたちと合流する」
「了解した」
「ん、【幻瞑暗黒回廊】に行く」
「わたしも」
「私も付いていってよろしくて?」
と、ファーミリアの言葉に頷いた。
「勿論だ」
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