千五百六十七話 ヴァルアの騎魔獣隊の装備一式
ヴァルアの騎魔獣のスタチュの素材は黒曜石と大理石に赤い魔宝石で造られているようにも見えた。
すると、足下に居る黒虎が、
「にゃ、にゃ、にゃお~」
と、鳴きながら上半身を上げてヴァルアの騎魔獣のスタチューを触ろうと前足を振るうが――勢いがありすぎる。
「はは、ロロ、これでアイスホッケーはさせないからな――」
と笑いながら発言し、ヴァルアの騎魔獣を持っている右手を挙げて、爪先半回転で横に移動し肉球パンチを避けた。黒虎は、不満そうに「ンン」と鳴きつつ俺の足を連続的に叩いてきたが、
「ロロ、戯れるのは後でだ」
注意すると黒虎は頷く素振りを見せて、
「にゃあ~」
と、鳴きながらエジプト座りに移行する。尻尾を前足に巻き付けているから一応の警戒は保っていると分かるが、ヴァルアの騎魔獣のスタチュの銀チェーンと、その揺れている銀チェーンにぶら下がっている袋綴じと冊子を見ては瞳を丸くしている、戯れたいんだろう。
さて、皆にヴァルアの騎魔獣のスタチューを見せた。
「――皆、<異界の軍事貴族使役>のスキルが呼応し<ヴァルアの騎魔獣>の使役に成功した。そうしたら、このようなスタチューと化したんだ」
と説明。
近くに居るヘルメが、ヴァルアの騎魔獣のスタチューを凝視し、
「はい、新しい騎乗生物の獲得! おめでとうございます! 触ってもいいですか?」
「おう」
「はい!」
とヘルメは細い指先でヴァルアの騎魔獣のスタチュの頭部を触っていく。
上顎と下顎の歯牙が合金に見えてくるし、腕が動けば動かせるプラモ的で面白い。
ヴァルアの騎魔獣のスタチューは後部と長い尻尾と、尻尾の表面の上下左右から生えている棘か刃の造りは精巧でリアルだ。
その尻尾と体の後部には、複数のチェーンと金具が付いており、刃の部分は金貨か銀貨が使用されているような印象で、かなり渋い。
その多数の銀チェーンに光が帯びた。
銀チェーンの一つは冊子の左上の金属穴を通り冊子と袋綴じを結んでいる。その袋綴じも光を帯びていた。袋綴じはヴァルアの騎魔獣の説明書かな、レアな魔札でも入っている?
そして、このヴァルアの騎魔獣のスタチューを『ドラゴ・リリック』に入れたら、あのゲームの中に登場させることができたりして……。
グィヴァも、
「おめでとうございます! 冊子と袋綴じが気になりますね」
ヴィーネも寄ってきてヴァルアの騎魔獣のスタチュを触る。
「はい、それにしても造形が見事ですね」
「うん、精巧すぎて、今にも動きそう」
ユイの言葉に皆が頷く。
「ふむ、異界の軍事貴族……」
シュレゴス・ロードも何かを考えるように発言している。
皆、精巧なヴァルアの騎魔獣のスタチュの造形を見て楽しんでいるようだ。
分かる、なんかワクワクするんだよな。
思わず、ゾイドを思い出した。
「はい、ご主人様のベルト類に携帯できるのは便利です。小隊の運用も可能なほどの人数が乗れそうなことにも期待が高まります」
ヴィーネの言葉に頷いた。
ヴェロニカにも、
「魔造虎と同じ技術で造られた異界の軍事貴族ってこと?」
「同じ技術かは不明だが、鑑定をすれば何かが分かるかもだから、ラムーの鑑定まちかな」
「うん」
ヴェロニカを含めて、皆がヴァルアの騎魔獣のスタチュを見ていく。
キュベラスに、
「キュベラス、この異界の門から召喚したヴァルアの騎魔獣が元々住んでいた異世界は、どんな世界かは分からないんだよな」
「はい、未知です。黒き環から進める他の次元世界や【幻瞑暗黒回廊】と繋がっている無数の異世界としか分かりません。そして、新たなる異界の軍事貴族の契約おめでとうございます!」
と教えてくれたキュベラスは巧手をしてから拍手をしてくれた。
皆も続くように拍手。
シュレゴス・ロードの拍手により、両手から桃色の魔力粒子が飛び散っていた。キュベラスの同僚とらしきイヒアルスは両腕の剣の腹を連続的に叩いて豪快な剣戟の音を響かせながら拍手してくれていた。
ヒョウガは四つの腕で派手な柏手を打ち鳴らした。
柏手を行うことで発生するスキルでもあるのか、ヒョウガの掌が衝突するたびに、波紋状の魔力が両手から発生していた。
ふと、拍手で霊が祓えると聞いたことがあったが、納得できる。
片腕を上げて、キュベラスに
「おう、こちらこそだ。ありがとう」
「ふふ、とんでもない」
キュベラスの満足そうな笑みに頷きを返した。
「では、冊子と袋綴じを開けてみる」
「「はい」」
和風の冊子には、ヴァルアの騎魔獣に乗っている兵士たちが戦う様子が描かれてあった。
異世界語で、
〝英雄ヴァルアと小隊の装備目録〟
〝異界の軍事貴族、ヴァルアの騎魔獣〟
〝魔槍ヴァルア〟
〝風神セードノ戦兜〟
〝ヴァルアの甲武鎧・参式〟
〝ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナ〟
〝ベジャルの魔剣〟
〝百人殺しの装具〟
〝陽迅弓ヘイズ〟
〝月迅影追矢ビスラの筒と束〟
〝フラミオンの魔酒樽〟
〝千宝ノ魔法盾ラミホス〟
〝フラミオン軍の騎兵軽装〟
〝フラミオン軍の具足〟
〝フラミオンの戦場を駆けたヴァルアの騎魔獣隊、撃破数五百騎を超え、単騎で数百を討ち取った〟
と、記されてあった。
袋綴じを開けるとヴァルアの騎魔獣隊の幻影が浮かび上がり、装備の名前が記された絵柄が現れて、その絵柄と装備が記されたまま立体化した。袋綴じが消えるが、
〝魔槍ヴァルア〟
〝風神セードノ戦兜〟
〝ヴァルアの甲武鎧・参式〟
〝ヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナ〟
〝ベジャルの魔剣〟
〝百人殺しの装具〟
〝陽迅弓ヘイズ〟
〝月迅影追矢ビスラの筒と束〟
〝フラミオンの魔酒樽〟
〝千宝ノ魔法盾ラミホス〟
〝フラミオン軍の騎兵軽装〟
〝フラミオン軍の具足〟
が、目の前に出現した。
「おぉ、異世界の歴史に装備とは驚いた。フラミオン軍の騎魔獣隊か。キュベラスは、これらの品と歴史は知っていた?」
「知りません、風神セードはセラの風神と関係しているようですが、異世界の一つでしょう」
「了解した。これらのアイテムも俺たちがもらっていいのか?」
「はい、当然です。見たところ呪いはないので安心してください」
魔人キュベラスは鑑定眼を使用したのかな。
先ほど見せていた魔法のゴーグルを眼前に展開させていた。
「おぉ、了解した、ありがとう、では、遠慮無く――」
肩の竜頭装甲を意識し、右腕に腕環の戦闘型デバイスを嵌めて、その戦闘型デバイスの風防硝子に浮いているように出現しているアクセルマギナとガードナーマリオルスを見ながら、すべての品をアイテムボックスに仕舞った。
「ヴァルアの騎魔獣隊の隊員たちの装備はどれでも優秀そうに見えました、やりましたね」
「おう、〝陽迅弓ヘイズ〟と〝月迅影追矢ビスラの束〟をヴィーネに預けとく、気に入ったら使い続けていい」
とアイテムボックスから取り出して、ヴィーネにプレゼント。
「ふふ、ありがとうございます!」
と早速、〝陽迅弓ヘイズ〟と装備する。
太陽をモチーフとした飾りに金の飾りが綺麗な弓。
弦は光を帯びている。
〝月迅影追矢ビスラの筒と束〟は筒を腰と背に付けられるタイプか。
筒には矢が入っていないように見えるが。
ヴィーネは〝陽迅弓ヘイズ〟を構えると、自然と弦に月迅影追矢ビスラが番った状態に変化していた。
「これは中々優秀、矢は自然と装備される。わたしは翡翠の蛇弓があるので、弓が得意な眷族にプレゼントするのもありですよ」
「そうだな、その際はヴィーネの判断で渡してくれていい。俺に返すのもありだ」
「はい」
そして、ヴァルアの騎魔獣のスタチューに魔力を送り、念話を意識し〝出ろ〟と命じると、一瞬にして先ほどのヴァルアの騎魔獣の姿に戻った。
その変化の速さは相棒たちと同様に速い。
ヴァルアの騎魔獣は、赤黒い角を無数に持つ大きな頭部を揺らしながら、皆に挨拶をするように見渡してから「ギュォォ」と鳴きつつユイとヴィーネを左の三つの眼で見てから、頭部を横に動かし、右の三つの眼で、ヴェロニカと黒虎とシュレゴス・ロードと魔人キュベラスたちとシュレゴス・ロードと魔人ザープを見ていた。
ヴァルアの騎魔獣は頭が良いと分かる。
そして、長い尻尾の上下左右から生えている鋭利な金と銀の刃は切れ味が鋭そうだ。
すると、黒虎のロロディーヌが「にゃー」と鳴きながら、ヴァルアの騎魔獣の鼻先に自分の鼻を押し付け鼻孔を広げて縮めつつヴァルアの騎魔獣の匂いを嗅ぎ、鼻キスを交わす、黒虎とヴァルアの獣同士の挨拶か、互いの鼻の温度と湿り具合とフェロモンで『これで、なかま、にゃりお~』と言っているのかな? と相棒の考えを予測するだけでも面白い。
黒虎ロロディーヌの大きさだから鼻は結構大きいが、ヴァルアの騎魔獣の鼻のほうが大きいから黒虎が一回り小さく見える。
ヴァルアの騎魔獣は、六つの眼で瞬きを繰り返してから、頷く素振りを見せる。
歯牙は鋭いし、恐竜のような見た目のドラゴンだが可愛く見えてきた。
そのヴァルアの騎魔獣は「ギュガォォ~」と鳴いて俺の前で姿勢を屈め俺に乗ってこいとアピールしてきた。早速――。
黒虎は「ンンン――」と喉声を鳴らしつつヴァルアの騎魔獣の周りを移動しては、ヴァルアの騎魔獣のお尻の臭いを嗅いでいる。
うんちの臭いで健康チェックか。
と、その黒虎はムクッと、顔を上げた。
少し驚いたような表情に見えた。
『くちゃくない!?』
と言っている?
面白い、フレーメン反応はないようだ。
相棒はヴァルアの騎魔獣の尻の臭いを嗅ぐを止めると、直ぐ横のヴァルアの騎魔獣の太股から腹と二本の後ろ脚と四本の前足の臭いを嗅いでいる。
その臭いを嗅ぐのに夢中な黒虎を触ってからヴァルアの騎魔獣に乗り込んだ。
鞍が自動的に出現し、持ち上がる。
――そこに座った。三人は横に座れる。
ヴァルアは背後にも席があるから、四輪駆動の装甲車気分に乗れるか。
見ていたヴェロニカとユイとヴィーネとグィヴァが乗ってくる。
シュレゴス・ロードも近くに来たが、乗らずにヴァルアの騎魔獣の横っぱらを触っていた。
ヘルメは、ヴァルアの騎魔獣の頭部と顎の下を撫でながら、
「――ヴァルアちゃん、お水をぴゅっとしますか~」
と「ギュォ~」と鳴いたヴァルアの騎魔獣は口を拡げる。
俺たちが座っている背の部分が少し揺れた。
ヴァルアは、ヘルメの言葉が分かるらしい。
厳ついドラゴンで重騎士たちが乗るようなドラゴンの見た目だが、可愛らしい。
すると、ヴァルアの騎魔獣の体内、足下からヘルメの水を飲んでいると分かる、ゴクゴクとした音と振動の音と何かを咀嚼する音が連続的に響いてきた。足下が揺れる。
すると、俺たちの周りを走っていた黒虎が、
「ンン」
と、喉声を鳴らして黒猫の成猫の姿に戻ると、そのままヴァルアの騎魔獣の赤黒い角の上に着地、直ぐに他の赤黒い角の上に跳躍しては、その角を滑っては、また跳躍を繰り返してから、頭部の右側に移る。
と、右側の三つの眼球を覗くように見つめて「にゃ」と挨拶していた。
「ギュォォ~」
ヴァルアの騎魔獣は応えている。
面白い。
「――ふふ、魔人キュベラスたちの貢ぎ物は本物だった!」
「――はい、鞍のようですが、鱗と肉の素材ですね、面白いです。そして、メトとハウレッツにシルバーフィタンアスとは少々異なるようですが、本当に異界の軍事貴族と分かります」
「うん――」
「ふふ、エヴァたちも氣に入りそう~」
「「はい」」
「ヴァルアの騎魔獣隊の装備も良いアイテムのようだし、魔人キュベラスのことは、今は信じられる」
皆が話しながらヴァルアの騎魔獣を触っている。厳ついけれど可愛らしい恐竜ドラゴンのヴァルアの騎魔獣は女性陣に人気が出るかもだ。
俺もヴァルアの騎魔獣を見て楽しい気分になった。
魔人ザープも、
「シュウヤ殿、一旦は魔人キュベラスを信じましょう、ホクトとサウラルアトも良いな?」
「勿論だ、キュベラスもシュウヤ殿とユイ殿が相手では、裏切る判断をするとは思えないからな。同時にシュウヤ殿のこれからのためになる思いも分かる」
「あぁ、信念と強さを併せ持つからこそだ、今はシュウヤ殿の信念を信じようか」
と、義賊ホクトと盗聖サウラルアトが語ってくれた。
『敵を倒した。シュウヤは魔人キュベラスとどうなったの』
エヴァから血文字が浮かぶ。
『キュベラスは降伏した、そして、異界の軍事貴族ヴァルアの騎魔獣をもらったことになって使役し、装備も得た』
『驚き! 今、皆と行く』
『おう』
ユイとヴィーネにもエヴァとレベッカから血文字が浮かぶ。
「キュベラス、今、眷族と仲間が此方に来る。その皆と少し相談後、その異界の門から【幻瞑暗黒回廊】のサケルナートが管理している〝異界の館〟に行くことなると思う」
「はい」
続きは明日。
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