千五百六十五話 ザープたちと交渉と真実
すると、ザープの魔素を察知――。
斜め後方から飛来してきたザープの背後から二人の戦士も姿を現した。
ザープの仮面は相変わらず変わりない。
足の踵に黒い翼を生やし、その黒い翼を活かしながら周囲を旋回する、その飛翔のまま俺たちの傍に滑らかに着地した。ザープの血に濡れた指は以前と同じだ。
あれが<血層>のスキルだろう、血の刀は鞘に収められた状態か。
背後の二人も飛行術で着地してきた。
黒と金の仮面が義賊ホクト、白と金の仮面が盗聖サウラルアトかな。
ヴェロニカとユイとヴィーネが、
「ザープたち! 魔人たちを追い掛けていたと目撃情報があったけど!」
「ザープ、メルとは連絡を?」
「ザープ! キュベラスたちと戦ってましたが、今は対話してます」
ザープは、
「娘とはまだだ。【セブドラ信仰】の魔人と裏武術会の剣師ハセ・カミラスと一刀バルアを仕留めることに集中していた」
と発言後、皆に会釈。
すると、大妖怪の頭部に乗っている頭が無い異形の存在が、
「ザープたちか、普段ならどうってことはないが、今はよくねぇ……」
と、厳つい肩と魔剣腕を俺に差し向ける。
「イヒアルス、そこで大人しくしといてね」
「あぁ」
頭部がないイヒアルスは、かなり好戦的な雰囲気のままだ。
武闘派で、戦って死ねるなら本望タイプと予測。
「「……」」
豹獣人の六眼四腕は沈黙、彼も武闘派に思えるが、冷静かな。
その二人の足場と化している頭部が異常に大きい大柄魔族の名はドマダイは、性格は柔和なのかも知れない。
大きい頭部は大妖怪だが、仏像っぽさもある。
そのドマダイは、俺の<血刃翔刹穿>を防いだ。
あの頭部は強度がべらぼうに高い。
ザープは、俺に向けて再度頭を下げてから、
「シュウヤ殿、久しぶりです。魔人たちの狂乱騒ぎの首謀者の一人だと思われるキュベラスと対話ですか? そして、【天凛の月】の活動に同意する仲間として、少し、この場にお邪魔するがよろしいか」
頷いた。
頭部が大きい大妖怪のようなドマダイと、その頭部に居る異形の二人と、魔人キュベラスは、ザープたちが現れても微動だにしない。
ザープに、キュベラスを見てから、
「キュベラスとは、つい先ほどまで戦って捕らえたんだが、第三王子クリムの邪魔が入ってな」
「え? 第三王子、オセべリア王国の王子がですか?」
ファルス殿下の弟と父親ルーク国王がヤヴァい存在とは知らないか。
そのことではなく、
「……そうだ、その後、皆が戦っていたが、鼬ごっこになりかけていたこともあり、本格的にあの異界の門ごと魔人キュベラスを潰す行動に移る前にキュベラスも話がしたい素振りを見せたから、話だけ話をしていたところだった」
「そうですか……」
ザープは仮面越しに鋭い眼差しをキュベラスに時折向けている。
「それで背後の方々は?」
「義賊ホクトと盗聖サウラルアトです。秘密裏に活動している同僚ですが、シュウヤ殿も……」
と、何かを言うように俺の姿を見る。
今の姿は魔竜王装備の軽装装備だが……。
義賊ホクト、盗聖サウラルアトは会釈。
二人とも二眼二腕だが、魔族かな。
ザープに、
「俺も?」
「いや、氣にせず」
「了解しました。義賊ホクト、盗聖サウラルアト、宜しく、【天凛の月】のシュウヤです」
「「はい」」
ザープたちに、
「【髑髏鬼】の盟主アルカルと紅のアサシンは地下オークションに出席していました」
「そのようですな、【髑髏鬼】はキーラたちの影響で【錬金王ライバダ】たちと連合し、規模が大きくなり、【鉄角都市ララーブイン】を支配したと、聞いていました、しかし、このキュベラスと交渉とは解せないです」
ザープは背に刀の柄巻に手を掛けて、キュベラスを見る。
キュベラスは両手の宙空に発生させている雷状の盾をこれみよがしに泳がせ、魔人ザープを涼しげな視線で見ては、
「ふふ、また遊んであげてもいいけど、槍使いの邪魔をしているだけと理解できる?」
「……」
ザープは、キュベラスと背後の異様に大きい頭部の大妖怪と、その頭部に居る二人の強者に異界の門を見上げてから溜め息を吐いては、俺を見て、少し頭を下げるような仕種をしてから刀の柄巻から手を離す。
力量から、この異形の者たちとキュベラスには、たいした傷は与えられないと判断したんだろう。
ザープたちはキュベラスと何度も戦っているはず。
キュベラスたちは強い。
常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァとシュレゴス・ロードに<筆頭従者長>ヴェロニカと相棒の攻撃を凌いでいた。
仕留めるには<闇穿・魔壊槍>か<紅蓮嵐穿>か。
次点で<飛怪槍・赤斂ノ戦炎刃>も良いか。
そのザープの仮面越しから覗かせる瞳には、まだ殺氣がある。
ザープは、
「……キュベラスたち、ペルネーテを潰すつもりだったのか?」
「ないですが、結果潰れても仕方はないとは考えていましたわ、うふふ」
と、魔人キュベラスは双眸を光らせる。
<闇透纏視>で見なくても分かるが、虹彩に魔法陣が発生している。
眼前には、時折、小形の魔法陣と魔法の文字だけで、立体的な半透明なゴーグルが形成されて、その魔法のゴーグル越しに此方を見ていた。
ザープはキュベラスを睨みながら、
「……お前たちには、ペルネーテが潰れたところで構わない思考、他の都市の闘技場を利用するだけか」
「はい、武術連盟の主催する大会はどこも同じ、裏武術会の代わりはごまんといる」
「……だからなんだ、裏で競技者の邪魔をし、殺すのは許されざることだ」
「殺される程度の武術家、競技者を生かしても、いずれは大会で負けるようになるだけ、仕方がないと思いますが」
「ふざけるな、真面目にがんばっている武術家に競技者を闇から葬る卑怯な者共、神は許しても、我は許さない」
ザープは深い恨みがあるか。
「許すも許さないも、勘違いしているようですが、裏武術会の活動はお遊戯ですからね? 貴方もよく知る従妹たちが居る【セブドラ信仰】の活動が主力です」
「……あぁ、そうだろうよ、その異界の門といい、ジェレーデンの獣貴族の時のような悲劇をまた起こすつもりか?」
「ふふ、異界の門による、新しい異界の軍事貴族……その契約が悲劇ですか? あぁ、もう既にこの西門から先の地は死に塗れていますね、それはある一面からしたら悲劇と言えましょう」
と、語ると静まり返る。
ユイとヴィーネが俺の横に来ては得物を異界の門に向けてから、アイコンタクト。あぁ、と頷く。異界の門=異界の軍事貴族?
銀灰虎と銀白狼と子鹿とは異なるタイプ。
召喚器具versionの異界の軍事貴族もあるようだからな。
ザープは、
「誤魔化すな、氣に喰わない……」
「……ハッ、ごまかす? 笑わせないで頂戴、【黒の預言者】の一人だった貴方も当時は争いに必死だったわよ? 今さら人族たちを助ける【義遊暗行師会】ズラですか? ジュレーデンの者たちが生きていたら、なんて言うでしょうね? うふふふ」
「……あの者たちを愚弄するのは許さない」
「あの者たち? ……貴方の都合ですべてを決めないでください、ジュレーデンの者が魔族に従妹たちに、いったい何をしたのか……アレを許すのですか? 悲劇とは、そのことでしょうに」
「……あぁ、勿論、許すわけがない」
キュベラスはザープの言葉を聞いて、虹彩が少し揺らいだ。
「……ふふ、それを聞いて、とても安心しましたわ」
魔人キュベラスと魔人ザープは、何か気持ちが通じている?
因縁があるんだろうな。
ザープは、
「……とにかくお前のやることには何か裏がある、信用できない」
と、ザープは俺を見る。
キュベラスを信じるなと忠告してくれたんだろう。
頷いてから、
「キュベラス、ザープは【天凛の月】の同盟者だ。そのザープと敵対しているのならば、俺の敵ということだが?」
俺がそう語ると、キュベラスから笑みが消えた。
「……」
異界の門を見ながら、
「その異界の門は、ペルネーテの魂を糧に獣貴族などの異界の軍事貴族を呼び寄せている最中か? 異界の門を利用するのに条件があるから今は使えない? また、その異形の者たちは、異界の門の異世界の中で監視していた? また、その異界の門が【幻瞑暗黒回廊】に通じているのではないか?」
「「「……」」」
魔人キュベラスたちは沈黙。
ドマダイが少し上向いた。上に居たイヒアルスと豹獣人の六眼四腕の戦士が両手を、その大きい頭部に付けた。
ドマダイは、
「キュベラス様、そこの御仁は武闘派ではありますが、敵対者とも対話が可能な理知さがある。サケルナートたちとは異なります。また、そのサケルナートもクリムが敗れた以上は、我らの行動にも注意を向けているはず……ここは我らのすべてを晒し、立場を正直に説明なされたほうがほうが、良いかと思いまする……それでもダメなら……我の根冠<天下ノ堅靭>のすべてを解放します故、異界の門に突入しましょう……」
と、何か決意を込めたように語る。
闇神リヴォグラフの手下のサケルナートがキュベラスたちにも注意を向けるか。
では<無影歩>のようなスキルを使い相棒の嗅覚を超えて観察しているのか?
思わず、ヴィーネとユイとヴェロニカとヘルメとグィヴァと視線を巡らせる。
そして、黒の預言者の魔人キュベラスは、【闇の枢軸会議】ごと、闇神リヴォグラフと、その関係者に何かの弱みを握られているから利用されている?
魔人キュベラスは頷いて、
「ドマダイ、ふふ、そうね。では槍使い、シュウヤ様、私たちの立場を聞いてくださいますか?」
「あぁ、聞こうか」
「はい、私は闇神リヴォグラフ様の眷族ではありませんわ、ただ、私を慕い従ってくれる【セブドラ信仰】や【闇の教団ハデス】のメンバーたちの中には闇神リヴォグラフ様の眷族も居ますし、信奉者も多いです」
「了解したが、魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問のサケルナートが、お前たちを注視している理由だが、弱みを握られているのか?」
「はい、まずは、私の胸元を……」
魔人キュベラスはハイネックの胸の谷間にある魔宝石を示すように両手を広げた。一瞬で衣装と装甲が消えて素肌が露わになる。
美しい乳房が見えたが一瞬で上半身の中心が蠢いた。
<闇透纏視>を通さずとも分かるようにキュベラスの心臓部が露出した。
アルケーシスとは異なる心臓部か、黒い塊と繭がある。
その黒い塊と繭にはカードが刺さっている?
凝視すると、カードから無数の細い刃が出ていて、それらが心臓部の塊と繭を突き刺さっていた。
「……そのカードが弱みか」
「はい、サケルナートの<魔札黄泉送り>、<魂魄使役術>、<魔札ノ魔神契約>、<魔札ノ偽造本契約>などのスキルの作用。また、この弱みの一つですが、これは私の<擬心波>と<覇轟ノ闇朔>でも解除ができますし、誤魔化しも色々と可能なので、大丈夫です。肝心なのが、もう一つの弱み……それは異界の門の先にあります。異界の門から行ける【幻瞑暗黒回廊】の一部に私の異界の軍事貴族たちが閉じ込められているのです。その見張りもサケルナートです」
「……サケルナートは人族ではないな」
「はい、彼は人族の皮を被った闇神リヴォグラフ様の大眷属ルキヴェロスス、時魔神パルパディとも通じているようです」
続きは明日「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。