千五百六十四話 魔人キュベラスたちの戦いと対話
異界の門から放出されている魔線は魔人キュベラスと繋がっている。
その異界の門は魔人キュベラスの上空を漂っていた。
異界の門の先には宇宙的な異空間が見えていた。
宇宙的な異空間は【幻瞑暗黒回廊】なんだろうか。
と、考えながら、
「ヘルメたちフォローする」
「「「はい」」」
「槍使いは私を殺したいようですわ――」
魔人キュベラスは空中に浮かびながら、ヴェロニカや俺たちに向けて風と土属性の魔力が込められている礫と<投擲>してきた。
無数の小石を魔槍ラーガマウダーの柄で打ち払った。
更に頭部が異様に大きな大妖怪が、触手のような骨の剣を振りながら頭から突進してきた。俄に魔槍ラーガマウダーを持つ右腕を引き、中段に構えた。
<握吸>のスキルで魔槍ラーガマウダーの柄を強く握り、槍の強度を高めつつ大妖怪の大きい頭部を見据え、その頭部に向けて魔槍ラーガマウダーを突き刺すように<血刃翔刹穿>を繰り出した。
大妖怪の大きい頭部にぶち当てたが、硬質な鋭い音を響かせるのみ、大妖怪は大きい頭部で魔槍ラーガマウダーの穂先を受け止めたまま静止しているが、<血刃翔刹穿>の血の刃も、その頭部は弾いてきた。
<血刃翔刹穿>一撃と血刃は通じなかった。
その異様な大きな頭部は驚くほど頑丈だ。その大妖怪は、頭部を上げて、
「キュベラス様は我らが守る、おまえたち、我に喰われる前に消えろ――」
と、再び、異常に大きい頭部を突き出し、魔槍ラーガマウダーを押し出してから自らは退いて魔人キュベラスたちの傍に戻った。
異界の門の傍に移動する魔人キュベラスたちは、逃げようとしている?
「消えろ? か……」
「あぁ? ドマダイ、仲間たちが殺されているんだ、こいつらには警告ではなく死を与えるべきだろうが!」
口の荒いのは頭部が無い両腕が魔剣の異形の者。
頭部が大妖怪は、あまり戦う気概ではないと直ぐに理解できた。
魔人キュベラスは、異界の門近くから急降下、地面に足を付けてから、ヘルメと接近戦を行う。
「ふふ、精霊の近くにいると魔力が得られてラッキーですわ」
「……わたしたちの魔力を自然に得られるスキル持ちのようですが――」
ヘルメは腕槍を突き出す。
キュベラスは魔杖から出ている蒼いエネルギー刃で受け持った。
重数合の打ち合いの後、互いに距離を取る。
「精霊、見事ですわね……槍使いと少し話をさせていただけないでしょうか……」
と、俺を見る魔人キュベラスに、ヴェロニカが「今さらよ!」とフランベルジュを突き出した。
が魔人キュベラスには当たらず。異界の門に近くに浮遊して逃げていた。
ヴェロニカに頭部が無い腕剣の異形の者が突っ込む。
「槍使いの眷族の女! 大人しくしとけ――」
と、腕剣を連続的に飛ばす。
ヴェロニカは血剣の大剣に乗りながら左右の手に握るフランベルジュを振るいまくる。
腕剣を斬り捨て、処分していた。
魔人キュベラスの近くにある異界の門は餓鬼道に墜ちた亡者のような存在たちが固まり、構成されているが、飾りは、魔界セブドラの神々か諸侯に助けを求めるように門の中に腕を向けている。
魔人キュベラスは、
「イヒアルス、槍使いたちに殺意を向けたらアルケーシスと同じ目に遭いますわよ?」
と、頭部が無い異形の者に注意している。
イヒアルスが、頭部無しの名か。
魔人キュベラスは、両手の先に雷状の魔力と異界の物質で構成されているような盾を生み出していた。
「私を攻撃するのは自由ですが――」
と言いながら、ヘルメとグィヴァが
「はい――」
「<雷雨剣>――」
と魔人キュベラスに攻撃していくが、
「ふむ――」
シュレゴス・ロードの近接攻撃も往なされる。
皆の魔力を吸収するたび蜃気楼的な淡い魔法の防御層を発生させて強めていく。
その蜃気楼的な防御層から目に見えない斥力が発生しているようだ。
ヘルメたちを徐々に遠ざけていく。
唯一、ヘルメのレジーが持っていた魔槍腕の一閃や突きの攻撃だけが、その蜃気楼的な魔法の防御層と独自の斥力や雷状の盾を切り裂き貫いて魔人キュベラスに直にダメージを与えられるようだが、ヘルメたちは押し返されていた。
ヴェロニカと相棒が再度、魔人キュベラスたちに近付いた。
その蜃気楼的な防御層に突入した相棒は四肢の爪で難なく切り裂いた。
独自の斥力のような圧力も弾き飛ばしながら魔人キュベラスたちに近付いたが、頭部が異常に大きい大妖怪が、立ちはだかる。
頭部が硬い大妖怪の頭突きは触手骨剣も通じずか。
しかし、魔人キュベラスは先ほど疲弊していたが、その姿は嘘のようだ。
魔人キュベラスは、豹獣人と似た頭部に六眼を擁した四腕の戦士と、頭無しの両肩が大きい二剣の魔剣師と、頭部が異常にデカイ大妖怪のような大柄魔族の前にも雷状の盾を生み出すと、ヘルメ以外は近付くこともできないようになっていた。
シュレゴス・ロードたちの攻撃は魔人キュベラスよりも、頭が異常に大きい大妖怪の体に跳ね返されることが多い。硬質な音が何度も響いている。
すると、
『主、先ほど、巨大な神獣に巨大な蜘蛛が空に現れたが』
アドゥムブラリ血文字に、
『おう、その蜘蛛の名は異界蜘蛛ブルルヴェイチュ。相棒が勝利した。アルケーシスが召喚してきた。そして、クリムの邪魔が入ったんだが、そちらは無事か?』
『マジか、何もないぜ、武術街は平気だ』
『了解』
アドゥムブラリに血文字を返す。
キュベラスたちの誘導に、俺が動いたところを狙って武術街の自宅に第三王子クリムがファルス殿下を狙う作戦はプランB&プランCとしてあるかも知れないと薄々考えていたが、大丈夫そうだな。
ヴェロニカと黒虎は、魔人キュベラスの背後に回る。
<バーヴァイの魔刃>を飛ばし、触手骨剣を飛ばす――。
魔人キュベラスは背中に目があるように、ヴェロニカの少し前の宙空に、雷状の盾を生成し、フランベルジュごと<バーヴァイの魔刃>を封じて、相棒の触手骨剣も防いできた。
「またも防がれた!」
「ンン」
黒虎はまたも接近戦に切り替える。
ヘルメとグィヴァとシュレゴス・ロードの間から突進。
が、皆と同様に、頭部が異常に大きい大妖怪に阻まれた。
その大妖怪にまたも触手骨剣を繰り出す。
が、大妖怪は鋼のような頭部と体、触手骨剣は突き刺さらずに跳ね返っていた。
何度もキィィンと硬質な音を響かせている。
あの頭部が大きい大妖怪、狩野派の妖怪画『化け物づくし』にも登場しているような印象。
六眼四腕の豹獣人と似た戦士は、ヘルメとグィヴァとシュレゴス・ロードと五十合打ち合っても平気だった。強い。
ヴェロニカは、少し遠目から、
「――キュベラス、そのまま異界の門でどこに逃げるつもり?」
ヴェロニカは血剣の群れを操作し、魔人キュベラスたちへと、血剣をさしむけた。
すると、六眼四腕の豹獣人と似た戦士と頭部が無い腕が魔剣の異形の者が跳びながら袈裟掛けを血剣の群れに仕掛ける。
二人で、その血剣の群れを薙ぎ払って、弾き飛ばしていた。
魔人キュベラスは、「――ふふ」と笑いながら、ヴェロニカの扱う血剣の一つを魔杖の紫色のエネルギー刃で弾かず、二つの魔法陣に挟むと回収し、
「……そうだとしたら、そこの槍使いは異界の門ごとわたしたちを穿ちそうですからね、それに逃げられるなら逃げてます――」
ヴェロニカの血の剣を赤黒い血の剣に変化させて、ヴェロニカに<投擲>していた。
ヴェロニカは、その赤黒い血の剣をフランベルジュで両断――。
そこに、
『ん、ユイたちがそっちに向かった。皆で敵の魔人を四人屠ってから十二海賊団【鵞峰ヴァクプドー】の強者たちと帝国特殊部隊と【セブドラ信仰】と【闇の教団ハデス】の一部増援と戦ってる。クリドススが西方フロング商会の親玉を倒したってレザライサが喜んでいた。挟撃の話もしていたけど、聞き取れなかった、あ、ルピナスも元気』
と、エヴァの可愛い血文字が浮かぶ。
『了解、がんばれ、俺は魔人アルケーシスは倒した。魔人キュベラスは生きている』
『凄い! 分かった、がんばって!』
『おう』
周囲に転がっている大きな鎌と魔人アルケーシスの死体ごと装備を戦闘型デバイスに回収を試みる。
出来た――。
new:異界蜘蛛ブルルヴェイチュの大鎌×2
new:アルケーシスの死体と装備×1
アルケーシスの装備一括りか。
すると、後方からヴィーネとユイがやってきた。
黒虎が「ンン――」と喉声を発して、キュベラスたちから離れて出迎える。
「ご主人様、アルケーシスを倒されたのですね――」
「魔人キュベラスたちは生きているのね、でも、あの門はなに?」
ヴィーネとユイの言葉に頷いた。
「あの門は異界の門が名のようだ。魔道具か召喚用の魔道具かな。異界の門から異形の人型たちが現れた。魔人キュベラスの同胞か、不明だが部下もいるようだ」
「異界の門……狭間を利用した通り道でしょうか、冥界や魔界にも通じている?」
「そうだな、異界の門だから他の異世界の可能性もある。【幻瞑暗黒回廊】の出入り口なのかも知れないが」
「はい」
「もしそうなら、【幻瞑暗黒回廊】の出入り口を自分で呼べるってこと? 相当ね」
二人の言葉に頷いた。
黒虎は、
「にゃおぉ~」
ヴィーネの片足の膝頭に頭突き。
ヴィーネは「ふふ」と笑みを浮かべたまま右足が後退し半身となったが翡翠の蛇弓を構えは崩さず、立ちながら光線の矢は番った状態だ。
いつでも光線の矢を魔人キュベラスたちに発射可能だが、まだ射出はしていない。
ヴェロニカとヘルメたちも居るからな。
ユイは首のホルダーに神鬼・霊風を嵌めた状態でアゼロスとヴァサージの魔刀を左手と右手に持った二刀流の構えだったが「ぁぅ」と可愛い声を発した。
膝の裏に黒虎の頭部の頭突きを受けて膝かっくんを喰らっている。
それでも真剣な表情を浮かべたままのユイは、魔人キュベラスたちと戦っているヘルメたちを見てから俺を見て頷きニコッと笑顔を作ると、両手の武器を消して、
「ふふ、ロロちゃん!」
と、片膝の頭で地面を付いて姿勢を下げながら黒虎の頭部を撫でていく。
抱きしめていた。黒虎はゴロゴロとした重低音の喉音を響かせていた。
ユイの首筋や耳を舐めている。
首と耳に頬を舐められたユイは「きゃ」と可愛い声を発して、両肩をピクッと上げた、それは〝くすぐったい~〟と言うような体の動かし方で可愛かった。
ユイは「ふふ」と、再度、黒虎を抱きしめる。
また首と耳などを大きい黒虎の舌で舐められると、
「ぞわぞわしたけど、気持ち良い~癖になるかも……」と、少し気持ち良さを得ていた。
気持ちは分かる。ざらざら感に愛があるんだよな。
そんなユイたちを見てから、
「見て分かるが、魔人キュベラスは元気に復活しているが、一度倒しかけて拘束しかけたんだ。クリムに邪魔された」
ユイは驚いて立ち上がり、
「え、第三王子?」
「ここで第三王子、では敵の狙いはもうファルス王子ではなく、ご主人様?」
と、二人は発言しながら周囲を見渡す。
「おう、誘導に掛かった俺たちに合わせて、殿下を狙う可能性も視野に入れていたが、なさげだから、そうかもな。クリムは黒い閃光のような高高度からの狙撃だった。俺たちごとキュベラスも撃たれていた。その第三王子らしきクリムは空中で屠ったが、ネドーのようなこともあるから復活しているかもしれない」
「……はい、闇神リヴォグラフの眷族として復活もありえます」
「あぁ、マコトと似た錬金術師の一面もあるようだからな……自分の体の予備に魂の一部はコピーしてバックアップしているかも知れない」
二人は「……」のまま沈黙し、魔人キュベラスを見やる。
ヘルメたちはあまり深追いはしない。
魔法を吸収しているキュベラスだからな。
あまり派手な戦いは起きていない。
「……そのクリムって、ロロちゃんと空の上で戦っていた?」
「ンン、にゃ?」
と、黒虎が、二つの触手をユイとヴィーネの足下に置いたが、その肉球の上に蜘蛛の複眼のような眼球が載っていた。更に黒虎は体の他のところから触手をユイとヴィーネに付けて、
「え? あ、うん、あめだまって、この蜘蛛の大きい複眼?」
「にゃ~」
「そ、そう、わたしはいいからロロちゃんのお食事にして」
「ンン」
黒虎はユイとヴィーネに向けていた触手を引っ込めた。
すると、頭無しの肩が大きい二剣の魔剣師と、六眼四腕の戦士は頭部が異常に大きい大妖怪のような大柄魔族の、その頭部の上に跳び乗った。
魔人キュベラスは、その味方から少し離れつつヘルメたちの攻撃を受けながらも俺に近付いて、
「――槍使い、先ほどの影の歩法からアルケーシスの魂をも貫いたのは魔界の神々の恩恵がありそうな魔槍の力のようね――」
と、語ってきた。
余裕感も復活している。
ヘルメとヴェロニカとグィヴァとシュレゴス・ロードからも魔力を吸い取って、また新しい装甲が付いた防具を右手首と足首に生み出していた。
皆に向け、
「皆、ちょいまった」
と言いながら魔人キュベラスに、
「そうだが、アルケーシスが倒れても冷静だな?」
俺の言葉に皆、攻撃を止めて退いた。
魔人キュベラスは、
「ショックですが、私もすべてを出される前に、倒されかけましたから」
「なるほど、で、お前の目的だが、キーラとクリムたちと共同でファルス殿下を狙っていたんではないのか?」
「はい、キーラは裏からですわね、クリムの目的は他にもあったようです」
他の目的?
「クリムはどのような目的で動いてる、ファルス殿下を狙わず、俺を狙う理由が知りたい。そして、なぜ、お前は利用されて殺されかけた?」
「クリムは、己の実験素材として槍使いに、私の血肉が欲しくなったのかも知れませんわ」
王位はあまり興味ないか。
「クリムはファルス殿下を殺すことに協力しただけか」
「それは私たちもですわ。クリムは優秀な私兵とラドフォード帝国繋がりを持ちますからね」
「では、やはり、ルーク国王側の闇神リヴォグラフが背後に居るのか」
「はい、第二王子ファルス殿下の暗殺は、第三王子クリムが主軸ではなく国王側、その裏の闇神リヴォグラフ様ですわね」
「やっぱり、シュウヤの予想は大当たりね」
ユイの言葉に皆が頷いた。
「では、ルーク国王、王の手ゲィンバッハ、宮廷魔術師サーエンマグラム、魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問のサケルナートなども闇神リヴォグラフの手下ってことか」
と、魔人キュベラスに聞くと、
「王の手ゲィンバッハは知りませんが、はい、親衛隊隊長の大騎士タングエン卿、王の護衛騎士トマス・シェフィールドもルーク国王の指図で動いているはず、それらが闇神リヴォグラフ様の眷族かは知りません」
王都グロムハイムを守る連中もか。
王の手王の手ゲィンバッハは意外だが、まともなのか?
と、考えてから、
「……お前はどんな条件で、第二王子暗殺などに手を貸していた」
「美に関する研究施設に、大規模闘技場の裏武術会への王族による支援など諸々です」
裏武術会か。
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