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百五十五話 名前&装備

「にゃおぉん」


 中庭を歩いて寄宿用の離れへ向かうと、後ろから寂しげな声をあげながら黒猫(ロロ)が走ってきた。


 そのまま触手を俺の頬に伸ばしてくる。


 『来ない』『おいかけっこ』『遊びたい』『不安』


 黒猫(ロロ)的にはさっき二階で別れたのは、俺に追いかけて来て欲しかったらしい。


 と、分析。肩へ誘導する。


「悪かったな。ここにおいで」

「にゃ」


 黒猫(ロロ)は肩へ上って、小さい頭を俺の頬へ擦りつけてくる。


 くすぐったいけど、可愛い。

 そんなイチャイチャしながら、大部屋な離れの扉を開けた。


 扉を開けると、奴隷たちが部屋の中央にある机と椅子がある場所に集まって談笑しているのが見えた。


 彼女らは彼女らでコミュニケーションは取れているようだ。


「あ、ご主人様」

「む」

「行きましょう」

「そうですね」


 扉を開けた俺の姿に気が付いた奴隷たち。


 各自、頷き合うと、走り寄ってきた。

 さて、買いに行く前に、彼女たちに聞いておかなきゃならないことがある。


「準備はいいか? さっきもいった通りこれから武器防具を一緒に買いに行く。だが、その前に皆の名前を知りたい。種族名は覚えたが、買った時には名前を聞いてなかったからな。それじゃ、一番の右端から、順繰りに名前を名乗っていけ、これは命令だ」


 因みに、右端は小柄獣人(ノイルランナー)


「僕の名前はサザー・デイルです」


 もこもこはサザーが名前か。

 普通にサザーと呼ぶことにしよう。


「サザーか。よろしくな」

「はいっ、ご主人様のお役に立てるように、頑張ります」


 小さい顔を精一杯、上に向けて、けなげな言葉を語るサザー。


「おう、んじゃ次っ」


 短く軽い口調で喋りながら、次の奴隷、虎獣人(ラゼール)へ指を差す。


「わたしの名前はピレ・ママニ」


 ピレでもいいが、ママニのが珍しいと思うので、ママニと呼ぶことにする。


「ママニね。よろしく」

「はっ」


 ママニは、敬礼を行うように、胸に片手の拳を当てるポーズを取っていた。


「それじゃ次」


 首の裏に蟲がいる金髪エルフへ指を差す。


「わたしはフー・ディードです」


 フー・ディードね、いかにもエルフの名前だ。

 詩的で可愛らしい名前だな。

 クーフーリンとかいう妖精系の名前を思い出す。


「よろしく、フー」

「はい。頑張ります」

「分かった」


 最後の蛇人族に視線を移す。


「我はグリヌオク・エヴィロデ・エボビア・スポーローポクロン」


 ぐはっ、長すぎる。

 蛇舌を出しながらの早口だった。


「……えーとだな、名前が長すぎる」

「ご主人、済まない。命令だったので正式に言わなければ罰せられると思ったのだ」


 彼女は蛇舌を伸ばしながら、早口で謝ってきた。


「いや、名前が長いのは別にいいんだ。それより、その名前、短くしていい?」

「勿論」


 さて、あっさり許可が下りたけど、短くすると言ってもなぁ。

 確か、彼女の出身がエボビア区と語っていたのは、覚えている。


 名前の途中にもそれらしき言葉があったし……。

 名前はエボビアから取って“ビア”にしようか。


「……それじゃ、君はビアだ」

「ビア。……承った。我は今日から、ビアと名乗ろう。ご主人、宜しく頼む」


 ビアは何かの儀式挨拶なのか、両手を使い、自らの胸の左右にあるおっぱいの膨らみを触って、左右へ両手を広げて伸ばす動作をしている。


 失礼かもしれないけど、気になるので聞いちゃう。

 そのタイミングで、黒猫(ロロ)は眠くなったのか、肩から外套に付属する頭巾の中へ入っていく。


「……ビア、その両手を使った行動は何の意味があるんだ?」

「これは敬服の意味がある。女の象徴である三つの乳に触り腕を広げる動作には、相手を敬服し、受け入れる意味を持つのだ」


 ビアは蛇舌を出しながら早口で語る。


 そういう理由か。おっぱい研究会にまた新たなページが刻まれた。

 しかし、早口で語るのがこの種族の基本のようだ。


「……なるほど。分かったよ。んで、お前たちの武器、防具に迷宮用の道具を買おうと思うんだけど、どんなのが望みなんだ? 遠慮はいらんぞ。迷宮で使うのはお前たち自身なのだからな。まずはビアから順に話していってくれ」


 ビアはピュルルルと舌音を鳴らしながら、


「我は大きい盾と片手剣。予備に投槍に使える手槍が欲しい。防具は鱗が硬いので特にはないが、装備できる。背嚢は大きいのを希望する」


 さっきと同様にビアは早口で語る。


「盾と片手剣、投槍か。分かった。――次」


 ビアの注文を覚えると、次の奴隷、頭に蟲が寄生しているフーへ視線を向ける。


「わたしは後衛なので、属性が土の魔法杖、土系スクロールがあれば嬉しいですね。でも、魔法は使えますから、後回しで結構です。防具は革鎧系でお願いします。魔力回復薬(リリウムポーション)があれば嬉しいです。薬があれば継戦能力が上がるので。それと、背嚢は中くらいの大きさを希望です」


 フーは流暢に語る。頭、首後ろに蟲が寄生されてるとは思えない。

 見た目は本当に美人なんだけどな。


「……了解。次っ」


 視線と指で虎獣人(ママニ)へ言葉を促す。


「はっ、わたしは短剣、爪、拳、弓、の武具が欲しいです。鎧は動きやすい革鎧系でお願いします。爆発系、回復系、などのポーション各種、背嚢は中規模の物を希望します」


 爪拳は接近戦か。

 彼女は斥候とか罠解除が得意で、匂いのスキルを持つんだよな。

 まぁ、弓を持たせておいた方が無難か。


「短剣、爪、拳、弓とポーションか。覚えとこう。次っ」


 毛が“もこもこ”の犬耳を持つ小柄獣人(ノイルランナー)であるサザーへ視線を向ける。


「はいっ、僕は丈夫な長剣を何本か欲しいです。防具は合うサイズが……まずないと思うのでいらないです。背嚢は小さいのを希望します」


 ボクっ娘は剣士だった。

 最初、飛剣流を学んで烈級の手練を倒したと自慢気に語っていたっけ。


「……わかった。これで全員の名前と装備の希望は聞いた。一応、記憶したぞ」


 蛇人族の名前がビア。

 エルフの名前がフー・ディード。

 小柄獣人の名前がサザー・デイル。

 虎獣人の名前がピレ・ママニ。


 名前は覚えた。


「ご主人様、わたしも全てを、覚えていますので大丈夫ですよ」


 後ろで黙って見ていたヴィーネさん。

 一歩前に出ながら俺をフォローしてくれた。

 さすがは彼女だ。

 忘れたら、彼女に聞こう。


『閣下、わたしも一応は覚えました、ビアのお尻は巨大です』


 小型ヘルメが視界に登場。


『そりゃ、下半身が蛇だからな』

『はい、ビアを筆頭に優れた者たちのようです。いずれは、閣下が率いる軍勢の中核を担う者たちに成長を遂げるでしょう、偉大なる血族。光魔ルシヴァルの眷属化も視野にいれるべきですね』


 指を差しながらどこぞの帝国の参謀のように語るヘルメちゃん。


『軍勢……ヘルメ、俺に何をさせたいんだ?』

『閣下のご威光を全ての世に知らしめることです』

『……尻の蹂躙は?』

『少しはありますが、閣下が全てです』


 ヘルメは真面目顔で答える。


『そか、軍勢は、今の段階では考えてない。数百年後にはありえるかもしれないが、今は迷宮の冒険を楽しまないとな?』

『はいっ』


 危険なヘルメとの念話を終わらせ、思考を切り替える。



「……ヴィーネは頼りになる。んじゃ、もうすぐ夜だけど、知り合いの店に行くぞ」

「「――はっ」」


 奴隷を引き連れて家を後にした。

 ここはペルネーテの南、ザガの店には近い。


「にゃ」


 通りを幾つか過ぎたところで、背中頭巾の中で寝ていた黒猫(ロロ)が起き出した。


 肩から地面に降りた黒猫は馬獅子型へ変身して鳴声をあげる。

 そのまま触手を俺の胴体へと伸ばしながら巻き込み掴むと、軽々と持ち上げて自身の背中へ乗せてくれた。


「――おっ、また乗せてくれたか、だが、この人数はさすがに無理……ぬお」


 更に、ロロは巨大化。

 家サイズに成長していた。


 突如、都市の通りに巨大怪獣出現ってノリだ。


 そういえば、前に一度、こんな風に巨大化したことがあった。

 夜風が気持ちよいし、街を照らしているだろう魔法の光源が美しい。


「ひぃぁぁーー」

「バケモノがでたぞおおお」

「衛兵隊をよべぇぇ」


 やべぇ。遠くを見てる場合じゃないい。


 周りの通りを行き交う人々は混乱して逃げ出していく。

 側を一緒に歩いていた奴隷たちも腰を抜かしていた。

 あのヴィーネも同様だった。驚いて、お尻を地面につけている。


「おぃ。ロロ、俺の指示以外での巨大化はだめだ。いつものサイズまで縮小してくれ」

「にゃおおん」


 声はいつも通り可愛い。


 黒猫(ロロ)は瞬時に縮小。

 移動タイプの馬獅子型サイズに戻る。


 姿が小さくなると、周りの喧騒は徐々に収まっていくが、ざわざわ、ざわざわ、と怪しい視線が集まってきていた。


 衛兵隊を呼ぶとか言ってたからな、めんどうなことになる前に逃げよ。


「――おいっ、お前ら、いつまで地面に座ってるつもりだ?」


 この変な注目を避けるために、わざと驚いている奴隷たちに発破をかける。


「「はっははーーー」」


 奴隷たちは急ぎ立ち上がって、側に駆け寄ってきた。

 ヴィーネも奴隷たちと同じ行動を取る。


「――このまま、走るっ! 競争と思えっ、ついてこい」


 触手な手綱を握り、操作。

 ウィリーを行うように黒獅子の両前足を上げてから、集まった奴隷とヴィーネたちに叫ぶと、前進をしていた。


 あまり速度はださない。

 普通の速歩、トロット。ぐらいの速度で進んだ。


 背後を見ると、皆、必死になって走って付いてくる。

 少し可哀想だが、このまま距離を維持して走り続けていた。


 ザガの店近くにある通りに出ると、そこで、ストップ。


 奴隷とヴィーネたちを待った。


「はぁはぁはぁはぁ……」

「はぁはぁ……」


 息を切らして一番速く着いたのはビア。

 僅差での二位はヴィーネ。


 ヴィーネはビアに負けたのがショックだったのか、ビアを冷たい目で睨んでいた。


 しかし、蛇人族(ラミア)の走り方はくねくねしていて面白い。

 けど、持久力、走力が一番あるのは分かった。


 さすがは盾を使うだけあって継戦能力が高そうだ。

 冒険者活動中は、素晴らしい前衛だったに違いない。


「「はぁはぁはぁ……」」


 後は皆、同じぐらいだった。

 ……彼らの休憩をかねて、さっきの出来事に関して少し説明しとくか。


「……お前たち、休みながら聞いてくれ。さっきは驚かせて済まなかった。俺の相棒であるロロはただの使い魔じゃない。特別な黒猫なんだ。まぁこれから色々、俺とロロのことで驚くことは増えていくと思う。徐々に慣れていけば、よいからな」

「「――ははっ」」


 奴隷たちの声質と態度が明らかにこれまでと違う。

 彼女たちは、立った状態だが、ジャンピング土下座をしてきそうな勢いだった。


 今まで、他と違う態度だった蛇人族のビアも同様な態度。


 さっきのロロディーヌたる巨大な姿を見たら仕方がないな……。


 そこでヴィーネを見た。


 彼女はフェイスガードの銀仮面を少し弄っていた。

 走ったので汗を掻いたか、少しずれたのか分からないが、位置調整の確認をしている。

 その後は、奴隷たちの様子を窺い、自慢気な顔を浮かべながら、熱を帯びた視線を俺に向けていた。


「……ご主人様?」

「ん、いや、何でもない」

「はい。あ、知り合いの店というのは、ザガ様の店でしょうか」

「そそ。ザガとボンなら良い武器と防具を売ってくれるだろうし」

「はい。確かに」


 少しヴィーネたちと歩調を合わせてゆったりペースで黒獅子の足を進めていく。


 夕暮れが終わりそうだったので、光源の光球を発生させた。


 周りが暗くなってくると、ザガの店が見えてくる。

 工房からは眩しい光が漏れているので、営業中だ。


 馬獅子型黒猫から降りる。

 黒猫(ロロ)はすぐに姿を縮小させて、肩に戻ってきた。


「わぁぁ」

「凄い」

「ロロ様は素晴らしい……」

「……元に戻られた」


 奴隷たちは口々に感嘆めいた言葉をいっている。


 構わずに、その奴隷たちを引き連れて工房の中へ向かった。

 そういや……黒猫(ロロ)は珍しく、ボンに会いに走っていかないな。


 すると、工房の奥からカンカンカンッと硬質な音が響いていた。


 少し部屋が暑い。


 なるほど、作業中か。


 ザガとボンは作業に没頭中なので、俺たちには気付いていない。

 ルビアは冒険者活動中なのか、見当たらなかった。


 少し、見学をするか。


 金床に置かれた熱された鋼を、ハンマーでリズムよく叩く、ザガ。

 その合間にボンが魔力を纏った手を紅く光る鋼へ翳して魔力を鋼に込めていた。


 一瞬、餅つき大会を思い出す。


 そんなばかげた想像を捨てて、叩かれる金属を見ていった。


 魔力を込める度に、紅く光っていた鋼が白く濁ってくる。

 不思議だ。打ち付けているザガが持ってるハンマーも魔力を帯びていた。

 槌の叩く金属部位には魔法陣が刻まれていて青色に輝いている。


 ザガの顔もいつにも増して真剣。

 皺が増えているようにさえ見える。


 ボンも、魔力を注ぐ度に恍惚そうな表情を浮かべて、いつものエンチャントを喋っていない。


 暫く、その作業の様子を眺めていると、ザガがハンマーを打ち止める。

 ボンも手からは光が失われていた。


 ザガは打ち込んだ鋼を巨大炉の中へ入れ、その熱した鋼を取り出しては、素早く、側にあった筒型容器に炉で熱された鋼を入れていた。


 火入れ作業か。


 急ぎ、筒型容器から鋼を取り出すが、魔法のような炎が立ち昇る。

 その際にザガの髭へ燃え移ったが、塵でも落とすかのように、皮袋の腕先で燃えた髭を擦り火を消していた。


 手慣れたもんだ。


「――これはこんなもんだろう」


 ザガは刃の角度を見て頷いている。

 炎が消えた紅い鋼は長剣の形に整えられていた。


「エンチャント」


 ボンも満足気な表情だ。

 ザガとボンは互いに頷いて笑顔を浮かべる。


 作業は一段落したようなので、話しかけてみるかな。


「よっ、ザガとボン」


 ザガは魔法の槌をくるりと回して腰ベルトに装着。

 額の汗を拭ってから、顔をこっちへ向けてくる。


「――シュウヤか」


 ボンは俺の声に気付くと、くりくりした目を輝かせて走り寄ってきた。


「エンチャントッ」


 親指でグーを作り、俺と黒猫(ロロ)に挨拶をしてくる。


「ンン、にゃ」


 黒猫(ロロ)もボンに挨拶をすると、そのタイミングで肩から跳躍。

 ボンの足もとに近付き、また、いつものダンスタイムが始まっていく。


 奴隷たちは、その様子に面を食らったように驚いて見つめていた。


 いつものことなので、放っておこ。


「……シュウヤ、やっぱり、食事をたかりに来たのか?」


 ザガは少し笑みを含めた顔を見せながら語る。

 昼、久々に会った時にザガが奢るとか言ってたからな。


「いや、違うぞ。装備(・・)をたかりに来たんだ」

「違うのか」


 俺の軽いジョークは無視して、少し残念がっているザガ。


「……まぁ、それは今度ということで、今、来たのは奴隷を買ったからなんだ。だから、彼女たちの武器とか防具をお願いしたくてね」


 後ろで待機している四人の奴隷へ顔を向ける。


「ほぉ……四人。蛇人族(ラミア)もいるな。ちっこい犬人と虎獣人(ラゼール)に、耳長族(エルフ)か」

「そそ」

「すぐにでも用意できるぞ。長短合わせて武具の在庫は豊富だ。シュウヤのように特殊な素材があれば一点物のオーダーメイドも、日にちが掛かるが作ってやれる。勿論、値段は高いがな」

「今日のところは在庫の品でいいよ」

「――分かった。そこの棚から壁に飾ってあるのを選んでいけ。マジックウェポンも数は少ないが、あるからな」


 ザガはとことこと歩きながら短い腕を伸ばす。


「了解」


 それじゃ、めぼしい武具をチェックしていくか。

 棚の上には斧、大槌が並び、壁には長剣、短剣が飾られて、槍、斧槍、などが立て掛けられてある。


 まずは長剣類から順繰りに魔察眼でもチェック。

 魔力が漂っている物を手に取っていく。


 白刃に青白い光を帯びた長剣と短剣、先端に紅い光を帯びているレイピアのような細身の剣、魔力を帯びているが光っていないバスタードソード片手半剣、白刃に多数の魔法印字が刻まれてある長剣、刀身が二重になっている特殊そうな剣、手鎌も置いてある。


 拳系のパイル系はないようだ。


 使えそうなのは青白い光を帯びた長剣と短剣、後はバスタードソード。

 このまま俺が選んでもいいが、左官の垣根、弘法筆を選ばず、道具や材料のことをとやかく言わずに強い奴隷たちの目を信用して選ばせるか。


「お前たち、自分が扱いたい武器を選べ」

「はい」

「畏まりました」

「分かりました」

「承知」


 彼女たちはそれぞれに武器を手に取り、振り回す。

 右手から左手に持ち替えては、置かれてある武器類をとっかえひっかえ確認していた。


「どうだ? 気に入ったのはあったか?」

「はい、ここにあるものはどれもが素晴らしいです。魔力を感じない武具もバランスがよく目貫を施された柄巻きにも職人が魂が込められていると感じます」


小柄獣人(ノイルランナー)のサザーは青白い光を帯びた長剣を握りながら語る。


 やはりそれを選んだか。

 鋼の長剣も選んだのか、足元に転がっている。


「下にあるのは予備武器だな」

「はい」 


「サザーのいう通りですね。この短剣が気に入りました――」


 虎獣人(ラゼール)のママニは短剣が気に入ったようだ。

 青白い刀身が目立つ短剣を、ペン遊びを行うように掌で回転させては、華麗に握り構えると、素早く斬り下げ斬り上げの動作を行っている。


「主人、我はこれがいい、投げ槍もここに置いた」


 蛇人族のビアだ。

 鋼が何層も重なった模様が美しいバスタードソードを軽々と振るっている。

 

 床には槍もいくつか置かれてあった。


「それじゃ、選んだ武器は、中央にある机の上に置いてくれ」

「承知」


 ビア、ママニ、サザーは選んだ武器を机の上に置いていく。


「ザガ、これらのアイテムを買うよ。まだ選ばせるから」

「分かった」


 ザガは真剣な面持ちで頷く。焼け焦げた顎髭が分厚き胸板の上ではねた。

 後はママニのメインである弓、フーの杖類か。


「ママニ、弓も欲しいと言っていたが、選んだか?」

「はい、このロングボウのセットをお願いします、矢は牽制に使えればいいので、そこにある矢束で結構です」


 ママニは弓と矢筒のセットになった普通のアイテムを選んでいる。

 矢は鏃に使われている鉱物によって分けられてあるが、ママニが選択したのは普通矢だ。魔力が込められている矢は選択しなかった。


「ザガ、この矢は何本ある?」

「それは仕入れた奴だな。鉄矢、百本だ」


 百か。ここにある商品は全てを作った訳じゃないらしい。

 ザガ製じゃなくても商人としての目を信じて買おう。


「ママニ、選んだ弓と矢を机の上に運んでおいて」

「はい」


 そこでエルフのフーに顔を向ける。


「……フー、君が選んだのはその杖か」

「――はい。土属性ですね」


 エルフのフーはいきなり呼ばれてびくっと反応していたが、杖を掲げる。


「それじゃ、皆と同じようにあそこの机の上に乗せといて」

「はい」


 ザガの側にある大きな机の上には、投槍用、訓練用、魔力を伴っていないシンプルな鋼の長剣、長槍を十数本が机の上に置かれた。


 次は盾。


 ビアに顔を向け、


「ビア、盾も選んでおけ」

「承知」


 丸い大盾、蛸盾、方盾、小さい木製盾、などが並ぶ。

 魔力を伴った物はないな。

 ビアが最終的に選んだのは、丸い大盾のホプロンシールド。


 古代ギリシャの重装歩兵(ホプリタイ)が装備していた物に似ている。


 重そうな盾だが、彼女は軽々と持っていた。

 太い下半身の蛇鱗を生かすような盾の扱いをしている。

 武装騎士長といっていたが、蛇人族特有の盾使いでもあるんだろう。


「主人、我はこれがいい」

「了解、机の上に運んでおいて」

「承知」


 彼女は選択した盾を机の上に運んで置いておく。


「後は鎧だが、お前たちが自由に選べ」

「我は必要ない。見ての通り硬い鱗胴体を持つ。冒険者活動中もこの布水着で活躍していた」


 ビアは自信あふれる早口で語る。


「僕も要らないです。冒険者として迷宮に潜っている時もこの革服でしたので、それに、僕みたいな獣人用の鎧はまず売ってませんし」


 サザーも自信ある言葉。


「蛇人族用の鎧はないな、小柄獣人のも、すまんがない。シュウヤ、専用鎧を作るか?」


 ザガは鎧を作りたそうな顔を浮かべていた。


「いや、さすがに時間が掛かるから今はいい、サザー、本当に鎧は要らないんだな?」

「はい、回避にはかなりの自信がありますので、本当に要らないです。自慢ではないですが、普通の戦闘奴隷ではないと自負しています。単独でも五層程度なら楽に進める自信はあるので」


 機嫌を悪くしてしまった。

 彼女の自尊心を傷つけてしまったらしい。


「わかった、余計なことだったな」


 その間にも、虎獣人(ラゼール)のママニとエルフのフーは、革鎧を選択していた。

 売られているのは殆どが重装系の鎧ばかりなのもあるが。


「その革鎧でいいんだな?」

「はい」

「充分です」

「それじゃ机の上に運んでおいて」


 ママニとエルフは机の上に運ぶ。


「全部で幾らになる?」

「そうだな、特別に白金貨四十五枚で売ってやろう」


 相場は全く判らないので、ヴィーネに視線を向ける。


「ご主人様、かなりお買い得かと」

「ふん、シュウヤ、おまえさんだからこその値段だぞ」


 ザガが少し鼻息を荒らす。

 俺がヴィーネに視線で合図を送ったのを見ていたらしい。


「分かってるさ、ありがと。今、出すから」


 アイテムボックスを素早く操作。

 値段分の白金貨を出していく。


「丁度そこだ。ありがとな。在庫がかなり捌けた」

「俺こそ。ザガが売っている物を買えてよかった」


 ザガはニカっと歯を剥き出して笑う。


「がははっ、次もよろしく頼むぞ。良品を取っといてやろう」

「そりゃありがたい。んじゃ、奴隷たちに買ったアイテムを装備させてやるかな」

「おう」


 背後に振り向き、


「――お前たち、買った装備類を装着しろ」


 奴隷たちへ言い放つ。


「「はいっ」」

「了解した」

「畏まりました」


 奴隷たちは机に置かれてある装備類を選んでは身に着けていく。


 ビアが盾を左手に通して装備し、右手にバスタードソードを持っている。

 ママニが短剣と弓を持ち革鎧を身に着け、鋼入りの矢が入った筒を背中に回していた。


 サザーは自分の身長ぐらいはある青白い長剣を胸前に握り、剣先を鋭い視線で眺めている。


 フーも革鎧を身に付けて、手に持った杖を確認していた。


 後はベルトと背嚢、あの投槍用の筒もビア用に欲しいとこか、


「ザガ、まだ欲しいのがある。投げ槍用の巨大筒、あの蛇人族(ラミア)が背負える物、後は、四人分のベルト類と背丈に似合う背嚢が欲しい。用意できるか?」

「できるとも、今取ってきてやる」


 ザガはとことこと、箪笥類が並ぶところへ移動していた。

 箪笥の引き出しを開けては中から商品を幾つか取り出している。


 もっと奥へ移動して見えなくなった。


 暫くして、大きな箱を胸に抱えて持ってきてくれた。


「……一応、全部、サイズ的に合う物を選んだぞ。剣帯も武器に合う物を用意した。投槍用の巨大筒の在庫はそれしかない」


 おぉ、気が利く。巨大筒はビアに似合いそうだ。

 極小サイズと極大サイズの背嚢もあり、腰ベルトと胸ベルトも用意されてあった。


「これらは幾ら?」

「銀貨三十枚で良い」


 きっと、これもめちゃくちゃ安いんだろうな。

 いちいち聞くのも野暮なので聞かないけど。


「了解」


 アイテムボックスから銀貨を出して、ありがとう。と、気持ちを込めて銀貨を手渡した。


「まいどあり」


 そこで、また、奴隷たちへ振り向く。


「お前たち、これも身に着けとけ」

「「――はっ」」


 奴隷たちはベルトを装着し、背嚢を背負っていく。

 ベルトに繋がる剣帯にも自らの武器を納めて腰下へぶら下げるママニとビア。


 ビアは投槍用の筒を背負って筒から繋がる革ベルトを胸前でしっかりと嵌めている。

 彼女は鋼の槍を四本背負った状態だ。


 背中へと剣帯を回して長剣を装着したのはサザー。


 これで全員の装備が完了。


 後はポーションだが、それは俺が持っているのをあげれば良いだろう。

 爆発系のポーションはないけれど。

 というか、そんなポーションがあること自体しらなかったが。


「……戦闘奴隷を買ったということは魔宝地図の解読を済ませたんだな?」


 奴隷の様子を見ていたザガが聞いてきた。


「そそ。魔宝地図に挑もうかと思ってね」

「だろうと思った。だが、気をつけるのだぞ。わしの知り合い、ホワイトブラザーフットとか名が付くクランに所属して―」

「――その名はっ」


 ん、ヴィーネが驚いていた。


「ああ、かなり有名処らしいからな」


 ザガは少し自慢気な顔を見せる。


「へぇ、その、ホワイトブラザーというクランは有名なんだ、もしや、六大トップクランくらいに有名なの?」

「ご主人様、その六大トップクランの一つですよ」


 冷静に突っ込まれた。

 ヴィーネの顔色は少し冷然としている。


 う、すまんな世間知らずで……。

 すぐにザガの方を向いて、


「そうだったのか。そんな大御所クランと知り合いだったとは。さすがは凄腕鍛冶師」


 と、褒めといた。


「よせやい、まぁそのクランメンバーの一人が“魔宝地図は危険だ”“儲けがデカイが出現するモンスターが多い”“若いメンバーが死ぬのはクランにとっては痛手となる”とかなんとかな」


 大手クランも手を焼くほどなんだな。


「分かったよ。忠告ありがとう」

「おう。悲しい顔は見たくないからな。挑戦するなら頑張れ、そして、良い素材が手に入ったら持って来い」


 ザガは語尾にまたもや、ニカッと歯を剥き出して笑う。


「エンチャ、エンチャッ」


 そこにエンチャントを連発しながらボン君が近寄ってきた。

 黒猫(ロロ)も一緒だ。


「もう、ダンスは終わったのか?」

「エンチャ?」


 ボンは首を傾げる。


「何でもない。んじゃ、もう夜だし、そろそろ帰るよ」

「エンチャントッ」

「おう、一段落したら、また来いよ」

「了解」


 その場で踵を返す。


「お前たち、聞いてたな。家に一旦戻るぞ」

「はいっ」

「分かりました」

「――はは」

「承知した」


 皆、工房を出て通りを歩いていく。


 肩にいた黒猫(ロロ)が地面に降りると、また馬獅子型へ変身。

 触手を俺たちに伸ばしてきては、俺とヴィーネを背中の上に乗せてくれた。


 奴隷たちには触手を伸ばしていない。

 ペットの家族順位じゃないが、ちゃんと区別はつくらしい。


「ゆっくり進むか。丁度いい、訓練と思って小走りで付いてこい」


 Sの命令口調で、奴隷たちに指示を出す。


「「――はいっ」」


 奴隷たちは走り出した。

 並歩(ウォーク)の速度で進む。


 家に帰る。あっ、迷宮の宿り月の宿屋に報告とかしておかないとな。


 鏡もあそこだし、奴隷を家に置いてから、知らせに向かうとしますか。


 ゲートを使えばすぐだしな。

 そこで、背後を振り返って走って付いて来る奴隷たちの走る様子を見る。


「ご主人様、わたしも走った方がよいのでは?」


 後ろの奴隷の様子を確認してると、ヴィーネがそんなことを言ってくる。

 彼女は自らを鍛えたいとかいうのか?


「……何でだ?」

「わたしも鍛えたいと」


 やっぱり。


「ふっ、お前の自由にしろ」

「はっはい」


 彼女は笑う俺に頭を下げてから、馬獅子型の黒猫から跳躍。

 地面に着地すると、走っている奴隷たちへと加わった。


 ヴィーネの視線の先には蛇人族(ラミア)のビアへ向けられている。

 もしや、さっきの軽い競争で負けたのを根に持って、ライバル視しているのか?


 ビアはそんなヴィーネには気付かずに口から長い舌をヒョロロっと伸ばしては走っていた。


 背中に回しているバスタードソードも剣帯に上手く収まっているようだ、走って剣が揺れてるけど。大きな丸盾も苦になっていない。


 そんな奴隷たちの走り具合を確認しながら、俺の家に到着。

 全員が息を荒らしているが、その中でも、蟲が頭に取り憑いているエルフのフーだけが激しく息を切らしていた。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


 少し、エロく聞こえる。

 綺麗なアイドルが坂を駆け上がる番組を思い出す。


 しかし、フーは美人なんだよなぁ。

 頭の蟲をなんとかしてやりたいが。


 カレウドスコープでもう少し観察して、手術をするように、鎖で直接、ピンポンイントで蟲の本体だけを狙い当てて殺すか?


 そんなことしたらフーの首が飛んじゃうか。

 いや、<血魔力>系の必殺技である<血鎖の饗宴>なら、いけるか?


 血鎖を操作して、鎖を縮小させてやれば……。

 まぁ、今は想像でしかないが、後で、一人になったら<血鎖の饗宴>の実験だけでも行うか。


「……ご主人様。家に着きましたよ」

「あぁ、すまん、入るぞ」


 フーを見ながら、熟考しすぎた。

 ヴィーネは少し視線を鋭くさせているし……。


 オコンナヨ。口には出さないが。


 怒ったような顔を浮かべるヴィーネをちらちらと窺いながら、中庭を歩く。

 んじゃ、彼女たちに説明しとくか。


 丁度、真ん中に来たところで奴隷たちへ顔を向けた。


「――お前たちは家で、待機。この家で自由に過ごしてくれ。本館の食材も使っていいぞ。食事は各自自由にとってくれて構わない。俺は少し用があるから外へ出る。んじゃ、解散っ!」

「はいっ」

「分かりました」

「承知した」

「畏まりました」


 奴隷たちは顔を見合わせて、笑顔を浮かべると、そのまま中庭の右にある寄宿舎へ移動していく。


「ご主人様、どちらへ向かわれるので?」


 銀髪を揺らしながらヴィーネが尋ねてきた。


「宿屋、迷宮の宿り月だよ」

「なるほど、鏡の回収ですね」

「そそ。本館の中でゲートを使うぞ」

「はい」


 ヴィーネを連れて本館の家に入る。

 机がある中央リビングで、ゲートの準備。


 胸ポケットから二十四面体トラペゾヘドロンを取り出す。


 一の面を触り、ゲートを起動させた。

 ゲートの先にいつもの宿屋の部屋の光景が映る。


「行くぞ」

「はい」

「にゃ」

『はいです』


 ヘルメも視界に現れる。


 俺は肩に黒猫(ロロ)を乗せた状態で、ヴィーネと手を握り、ゲートを潜っていく。

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