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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1553/1999

千五百五十二話 紅の突撃千人隊隊長ナロミヴァスと光魔ルシヴァルの皆


 ナロミヴァスは黒と黄と赤の羽根飾りが付いた紅の兜を脇に抱え、<血遊衣刃速ガラモラ>のマントを靡かせながら第四支城の正門の前に向かう。正門の広場には紅馬騎士団の約五千の兵士たち集結していた。

 その兵士の間を進むと、紅馬騎士団一番隊隊長ハルレルグ・キルベルンが直ぐに、

「――隊長のお通りだ! 突撃隊ィィ、敬礼ぃぃぃ」

 と叫ぶと、無数の突撃隊に選ばれた紅馬騎士団の面々がザッとした音を立てながら、

「「「「――ハッ」」」」

 と敬礼を行う。ナロミヴァスも片手を上げて応えながら威風堂々と前進する。

 兵士たちを超えて第四支城の正門を見上げたナロミヴァス。

 オセべリア大平原から迷宮都市ペルネーテまでの道のりを思い浮かべ頷いた。

 そして、多数の紅馬騎士団を見るように振り返る。


「「「――ナロミヴァス様!」」」

「「「――ナロミヴァス!」」」


 ナロミヴァスは紅馬騎士団の面々の声を聞いて満足そうに頷いた。


 ――皆、気合いに満ちている。

 と考えたナロミヴァスは紅の兜を両手で持ち直した。

 ――父上から頂いた紅の兜……。

 

 ――これは紅馬騎士団の突撃千人隊隊長の証し。

 ――私の実力を信用しての突撃千人隊隊長の役目だ、


 ナロミヴァスは、その紅馬騎士団の紅の兜を被り、城内から庭に出たばかりに父ベイスを見やる。

 父のベイス公爵は、愛馬のゲイズバロアに乗り込んで手綱を引いていた。

 隣には、馬に乗った副官ハイローサも居る。

 

 ナロミヴァスは、その父とハイローサに会釈を行った。

 ベイスは広場に居る息子の雄姿を見て、満足そうに微笑むと、徐に左腕を上げた。


 ナロミヴァスは微笑む。


『父上、見ていてください、私は必ず父上をペルネーテに導く!』


 と決意を固めていた。そして、


「――レヴァン、アンブルサン、アポルア、魔獣オウラ準備はいいな?」

「「「はい!」」」

「ギュァァ!」


 <血遊衣刃速ガラモラ>を再度使用し浮遊したナロミヴァス――。

 <血遊衣刃速ノ暈>を使い、レヴァン、アンブルサン、アポルア、魔獣オウラに速度の上昇などの恩恵を与える。


 アンブルサンとアポルアも体から血魔力を発して浮遊した。

 レヴァンを乗せた魔獣オウラも浮遊をし、ナロミヴァスたちの背後に付けた。


 ナロミヴァスは光魔ルシヴァルの力を意識し魔族の角を生やす。兜の内側から角が突き上がった。


 外からは紅馬騎士の兜の角飾りにしか見えないだろう。

 近くに居るレヴァンは薄々ナロミヴァスの変化に気付いている。

 が、角を生やしたナロミヴァスを見て、普通の人族ではないと確信を得る。魔族、魔人……如何わしい噂は真実だったか。


 だが、公爵家の紋章が入ったブローチの輝きは本物。

 ナロミヴァスの真剣な紺碧の眼を見たレヴァンは己の直感を信じることにした。


 魔獣オウラも「ギュアァ~」とナロミヴァスを飼い主の一人と想い鳴いている。

 

 ――<灰玉ノ魔獣オウラ>は近くに危険な魔族、魔人を見つけた場合、凶悪的な反応を示す。

 ――ナロミヴァス様の体が如何様に変化したにせよ、あのナロミヴァス様は本物だ。


 と、考えていた。


 ナロミヴァスは、そのレヴァンを見る。

 互いに『紅馬騎士団をペルネーテに!』と想いは一致しているように頷いた。


 ナロミヴァスは、頼もしい大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォンの背後に居る皆を見据えながら紅の兜の角から闇の刀剣ヴァローハを抜くように生み出した。


 その腕をゆっくりと下ろす。

 その闇の刀剣ヴァローハから闇の炎が勢い良く噴き上がっている。金色の髪に、その闇の炎が衝突していくが闇の炎は金色の髪に吸い込まれて消えていた。

 

 凝視すれば、人族の成せることではないと分かるが、紅馬騎士団の中に気付く者は居ない。

 

 闇の刀剣ヴァローハを生み出したナロミヴァスに、

 「「「「「「おぉぉぉ」」」」」」

 と、多数の兵士たちから歓声が上がる。

 ナロミヴァスは左手を角と眉の付近に当てると、その角と眉から闇の刀剣ヴァローハを引き抜くように左手に闇の刀剣ヴァローハを生み出していた。


 ナロミヴァスは闇の刀剣ヴァローハの二刀流となる。

 

「「「「おぉぉ」」」」

 

 紅馬騎士団のナロミヴァスに対する期待の現れとも言える大歓声は止まらない。

 ナロミヴァスは斜め下に居る紅馬騎士団の笑顔を見せる。

 女性兵士たちの中には失神して倒れる者も現れた。


 鼻筋が通り、容姿端麗なナロミヴァスは、その佇まいだけで老若男女を魅了させる。

 まさに、貴公子と言えるだろう。


 ナロミヴァスは気にせず――。

 オセべリア大平原のある方向に片腕を差し向け、


「――行くぞ、紅馬騎士団突撃千人隊! 一番槍として戦場を穿つ! 一番隊と二番隊も私に続けよ! まずは谷間の帝国弓兵を倒し、平原の帝国兵を薙ぎ倒しながら直進する!」

「「「おぉぅ!!」」」


 第四支城に紅馬騎士団たちの声が谺する。

 ナロミヴァスは第四支城の正門の真上から外に出た。

 ナロミヴァスからやや遅れて闇の悪夢アンブルサンと流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアが飛翔していく。

 先を飛翔しているナロミヴァスは防護服とマントを<血遊衣刃速ガラモラ>で強化し、加速しながら前進し前方の谷間を跨ぐ岩場に並ぶ弓兵を見やる。


 まずは、あの弓兵からだ――。


 ナロミヴァスは宙空から谷を跨ぐ岩場に陣取っていたラドフォード帝国の弓兵たちに向け、右の闇の刀剣ヴァローハを振るう――。


 闇の刀剣術<闇炎刀ギドア>を発動――。

 闇炎刀ヴァローハから横長の闇炎の魔刃が前方に迸った。

 <闇炎刀ギドア>の横長の闇炎の魔刃が弓兵たちに射撃の隙を与えずドドドッと重低音を響かせながら弓兵たちの体を突き抜けた。


 弓兵たちは一度に五名の体が輪切りにされる。

 間髪容れずナロミヴァスは谷間を跨ぐ岩に着地し――。


 <獄炎鳥(ゾ・ラド)>を発動。

 両手の闇の刀剣をクロスさせると、それを素早く左右に振るう。

 黒い刀身から闇の炎を身に纏った無数の<獄炎鳥(ゾ・ラド)>の獄炎鳥が飛び立つ。

 

 谷を結ぶ橋のような長い細い岩場に居た多数の弓兵を喰らうように、口を拡げた無数の<獄炎鳥(ゾ・ラド)>が衝突していく。


 <獄炎鳥(ゾ・ラド)>に喰われた弓兵たちの体は一瞬で歯形を残した死体と成る。一部の死体は穴だらけとなって闇の炎の獄炎が発火したように燃焼し、散る。

 一部の弓兵たちは獄炎に包まれて絶命し、墜落。

 体の欠損のみに留まって生きている弓兵も居たが、その体も獄炎に包まれながら下の岩場と坂道に墜落していく。

 

 ナロミヴァスは一人で百を超える弓兵を倒し、谷間を跨ぐ岩場の要所を押さえることに成功。

 そのナロミヴァスは直ぐに横に移動。

 そこに巨大な矢が飛来していた。

 ナロミヴァスは、巨大な矢を繰り出した、谷間と崖に設置されている巨大バリスタの魔鉄強弩と、それを操作し、バリスタに巨大な矢を装填している兵士たちを見やる。


 ナロミヴァスは、「そこか――」と叫びながら谷間を跨ぐ岩場を蹴り、宙空で、<血遊衣刃速ガラモラ>を強める。<魔闘術>系統の<血遊魔速>をも発動。


 武装魔霊<血遊衣刃速ガラモラ>のマントが煌めく。

 と、そのマントの一部が肩と腕と背を覆う甲と刃に変化を遂げた。

 ナロミヴァスは加速しながら速度が上昇、そのまま宙空を刃の如く突進し――。

 崖の足場に居た弓兵と兵士を闇の刀剣ヴァローハで斬り捨てると、バリスタをも闇の刀剣ヴァローハで破壊しては、次々に坂の下に居る槍使いの帝国兵士を闇の刀剣ヴァローハで得物を斬り上げては、半身の回転から近付いて、その槍使いの首に闇の刀剣ヴァローハの刃を吸い込ませていた。


 シュパッと帝国の槍持ち兵士の首を刎ねるまま、前進し、武装魔霊<血遊衣刃速ガラモラ>のマントを前方に展開させて、坂にいる兵士たちの<投擲>された投石類を防いでいた。

 そこに、


「閣下――」

「ギュオォォ~」


 魔獣オウラに乗った大騎士レヴァンがナロミヴァスを殺そうと集中攻撃をしている坂に居る帝国兵士たちに突入し、一度に複数の帝国兵士を薙ぎ払った。


「いいぞ、レヴァンとオウラ!」

「はい!」

「ギュァァァ――」


 ナロミヴァスはレヴァンとオウラの右に出ながら坂を上がる。

 帝国兵の斧持ちの胴を抜き、一人を斬り捨て、正面の魔剣師の魔剣を、右手の闇の刀剣ヴァローハで受けながら横回転し逆手持ちの<闇炎刀バファサル>で魔剣師の脇から背を斬る。

 体を斜めに斬られた魔剣師は闇の炎に包まれながら一気に燃焼し散った。

 ナロミヴァスはその散りゆく塵を吸い込みながら斜め右に居る槍使いが繰り出した<刺突>の槍の穂先を武装魔霊<血遊衣刃速ガラモラ>を防御に使い払い退けると追うように前進しながら逆手持ちの<闇炎刀バファサル>を下から上に振るい、槍使いの太股の動脈を斬る。


「げぁぁ――」


 その悲鳴を発した槍使いの首を右手の闇の刀剣ヴァローハで刎ねると、横に跳び崖を蹴って三角跳びを行い、盾持ちの帝国兵に目掛け逆手の持ちの<闇炎刀バファサル>を<投擲>――続けざまに右手の闇の刀剣ヴァローハで<闇炎刀ギドア>を繰り出した。

 盾持ちは<投擲>された<闇炎刀バファサル>を防ぐが横長の闇炎の魔刃<闇炎刀ギドア>は防げない――。

 頭部を両断せしめた<闇炎刀ギドア>は突き抜けて、背後に居た盾持ちたちの足を切断していた。


「「「げぁぁ」」」


 その足を失って悲鳴を発し倒れた帝国兵の頭部を魔獣オウラの右前足が捕らえるように踏みつけて倒していた。その魔獣オウラに騎乗しているレヴァンは聖剣カシヴァルを縦に振るう。

 <王剣流・破氣刃翔>を繰り出した。

 聖剣カシヴァルから蒼白いブレードが迸り、坂にいた複数の帝国兵を頭から両断して倒していた。

 

 一方、ナロミヴァスの左、谷間の左の岩場に居た弓兵たちには闇の悪夢アンブルサンが向かう。


 闇の悪夢のアンブルサンは、岩場の斜め上空から細い両腕を振るい<闇夜の槍(ダーク・ランサー)>を発動――。

 指先に、無数の漆黒の槍が出現し、それが加速し宙を直進し、ラドフォード帝国の弓兵たちは矢を放つこともできず――。

 その<闇夜の槍(ダーク・ランサー)>を次々に体に喰らっていく。

 

 右の岩場の弓兵には流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアが宙空から向かう。


 神狩手アポルアは<漆黒雲水・闇剣ドドラス>――。

 と、<流觴(りゅうしょう)の血手矢>を発動――。


 流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアは、谷間を俯瞰する上空の位置でコンマ数秒静止した。


 刹那、<流觴(りゅうしょう)の血手矢>の血魔力を有した無数の<血魔力>の矢を生み出すと、急降下――。


 アポルアの両足の靴から、<漆黒雲水・闇剣ドドラス>の漆黒の雲のようなモノが出現し、周囲の<流觴(りゅうしょう)の血手矢>が、その<漆黒雲水・闇剣ドドラス>の漆黒の雲の中に隠れた。


 漆黒の雲を体に纏った流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアの降下中に、その<漆黒雲水・闇剣ドドラス>から無数の<流觴(りゅうしょう)の血手矢>が、いきなり突出し、下に向かい、左の岩場の弓兵たちに降り注ぐ――。


 一部の漆黒の雲は<漆黒雲水・闇剣ドドラス>のアポルアの靴と融合し、グリーブの底から漆黒のブロードソードのような魔剣が生み出されていた。


 そのゼロコンマ数秒の間に、無数の<流觴(りゅうしょう)の血手矢>が右の岩場と坂道に居た弓兵と歩兵たちを蜂の巣にしていた。


 更に<流觴(りゅうしょう)の血手矢>が蛇のように蠢きながら形が変化すると、弓兵の体に絡みつく。

 

 弓兵は動けない。

 その動けない弓兵の脳天を両足のグリーブの底に出ている<漆黒雲水・闇剣ドドラス>の漆黒のブロードソードで串刺しに処しながら、踏み潰し、左の岩場に着地した刹那――。


 岩場に居る弓兵たちに向け<血迅ノ豪矢>を放つ。

 太い血の魔矢は一直線に突き進む。

 岩場に居た弓兵たちを、その岩ごと弓兵たちを突き抜けていく。右の岩場と衝突した<血迅ノ豪矢>は爆発し、岩場が崩壊、多数の弓兵と歩兵が、岩場の崩落に巻きこまれていた。

 

 そうして数十分後、ナロミヴァスとアンブルサンとアポルアと大騎士レヴァンと魔獣オウラだけで、谷間を制圧した。


 魔獣オウラに乗っている大騎士レヴァン・ラズトグフォンは、


「ナロミヴァス様、見事です」

「あぁ、が、まだだ、大平原に出てから本番」

「はい」


 ナロミヴァスたちはオセべリア大平原に向けて加速し、飛翔していく。

 ナロミヴァスは谷間から大平原出たところで、大平原に陣地を張っていたラドフォード帝国の歩兵大隊を見てから振り返り、作戦通りに信号弾を放つ。


 直ぐに第四支城からもナロミヴァスに向けて信号弾が放たれた。

 第四支城と谷間の辺りから大量の土煙が上がる。

 紅馬騎士団の突撃隊と紅馬騎士団の本隊が出現した証拠だ。


 ナロミヴァスたちは突撃隊でもある騎馬隊の先頭がオセべリア大平原に無事に出たところで、振り返る。迷宮都市ペルネーテは、この大平原を突破した先にある。

 ナロミヴァスは、


「皆、いいな、もうここからは後ろは振り向かず、ただ、ひたすら直進するのみだ」

「「はい」」

「ハッ!」


 ラドフォード帝国の歩兵の大隊は俄に陣太鼓が響き始める。

 と、その陣列を乱すように複数の歩兵集団が、ナロミヴァスたちに突撃していた。


「まずはアレを叩く――」


 とナロミヴァスは加速し、なだらかに続く丘の表面を駆けるように飛翔しながら――。

 両手の闇の刀剣ヴァローハを振るう――。

 左右の闇の刀剣ヴァローハから<闇炎刀ギドア>が二つ繰り出された。

 二つの横長の闇炎の魔刃の<闇炎刀ギドア>が丘に生えている草花を切断しながら歩兵集団を一気に薙ぎ払った。

 

 ナロミヴァスと闇の悪夢アンブルサンと流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアは加速し飛翔していく。その様子を頼もしく見ている魔獣オウラに乗っているレヴァン。


 レヴァンは背後から続いている突撃隊の騎兵を待つ。

 総勢、五百騎を連れる形となったレヴァンは、敵の歩兵大隊に向け聖剣を向ける。


「――閣下たちが突撃を噛ましている敵歩兵大隊の側面を我らが突くぞ!」

「「「「はい!」」」」


 五百の突撃隊はナロミヴァスたちの側面を守るように突進を開始した。

 

 ナロミヴァスたちがオセべリア平原に陣取るラドフォード帝国の歩兵大隊に風穴を空けることに成功し、武のアロサンジュ公爵が率いる紅馬騎士団本隊が一気にラドフォード帝国の歩兵大隊を蹂躙した。


 その勢いは留まるところを知らず、東のリムラ補給基地を攻略しようと攻撃を仕掛けていた、〝蜘蛛鴉ノ魔傭兵〟背後を突く形と成る紅馬騎士団は蜘蛛鴉ノ魔傭兵の後衛部隊を次々と撃破してオセべリア大平原を突破しかかる。


 ところが、先頭を突き進んでいたナロミヴァスたちの勢いが止まると、急激に紅馬騎士団の勢いも落ちる。


「どうしたことか!」


 武の公爵アロサンジュが蜘蛛の被り者を被ったような魔傭兵を貫きながら愛馬の動きを止めて、叫ぶ、副官のハイローサが、


「はい、ナロミヴァス様たちの勢いが削がれたようです」

「くっ、直進するしかあるまい!」

「はい!」


 紅馬騎士団本隊の加速を強めて進軍速度が上昇するが、戦う相手はラドフォード帝国皇帝ムテンバード家の袖付き、〝蜘蛛鴉ノ魔傭兵〟の精鋭クラス。

 さすがに今までとは異なる強さ持つ魔傭兵たちに紅馬騎士団の一人一人が苦戦し始める。落馬者も増えると、完全に騎馬隊としての勢いが削がれていく。

 そして、リムラを攻撃してきた前衛部隊の蜘蛛鴉ノ魔傭兵が反転し、間延びした紅馬騎士団の横っ腹を突くと紅馬騎士団の騎兵部隊が次々と討たれ始めると、紅馬騎士団は分断される。


 ナロミヴァスたちは、漆黒の甲冑装備が厳ついグリフォンの中隊と衝突していた。


 大騎士レヴァンは、


「――ナロミヴァス様、相手は〝グリフォンの悪夢〟や〝グリフォン丘の悪夢〟に〝悪夢のボルガード〟と呼ばれている、エースパイロット! 精鋭グリフォン部隊です」


 と、発言しながら加速して、悪夢のボルガードに挑む。


「こいつらがグリフォンの悪夢に、〝悪夢のボルガード〟かどうりで強いわけだ……」


 そう発言したナロミヴァスは漆黒のグリフォンの右前足の攻撃を闇の刀剣ヴァローハで受け止めながら後退し、後転しながらの踵の蹴り上げで漆黒のグリフォンの胸元を蹴り上げて、「ギュァッ!?」と吹き飛ばしていた。



 大騎士レヴァンは、聖剣カシヴァルを振るう。

 が、袈裟懸けの聖剣カシヴァルは重装備の魔槍の柄により防がれる。

 魔獣オウラの前爪の突き出しも、漆黒のグリフォンの前爪に防がれていた。

 他のグリフォンに乗る重装騎士がレヴァンに近付いた。

 ナロミヴァスは前進加速し、武装魔霊<血遊衣刃速ガラモラ>を前方に繰り出す。

 グリフォンに乗る重装騎士が繰り出した<刺突>のような攻撃を、マント状の武装魔霊<血遊衣刃速ガラモラ>が防ぐ。

 重装騎兵は連続的に魔槍を振るうが、その薙ぎ払いも防いだ。

 傷だらけとなった<血遊衣刃速ガラモラ>を消したナロミヴァスは、そのグリフォンに騎乗している重装騎兵を睨みつけ<闇炎刀バファサル>を<投擲>――。

 <闇炎刀バファサル>は下からきゅるきゅる回りながら直進し、その重装騎兵の頭部の上部を通り抜けた。

 <闇炎刀バファサル>の刃が、重装騎兵の兜と額と頭蓋骨を両断――頭が左右に割れた魔界騎士風の重装騎士は回復能力は高くない、そのまま絶命した。

 

 操縦者を失った漆黒のグリフォンは暴れる。

 が、アンブルサンの<闇夜の槍(ダーク・ランサー)>を全身に喰らう、体中に丸い穴だらけとなって地面に倒れた。


「――アンブルサンとアポルアにレヴァン、確実に一つずつ屠り、父上たちのフォローに回り紅馬騎士団を少しでも前進させるのだ」

「「「はい!」」」



 ◇◇◇◇



 オセべリア大平原のナロミヴァスたち紅馬騎士団が苦戦を強いられている状況の中。

 ルマルディとアルルカンの把神書を先頭にした光魔ルシヴァル組が加速し前進しオセべリア大平原を迅速に駆けていた。


 すると、


「見えたぜぇ! 漆黒のグリフォン部隊がラドフォード帝国の奴らだろ?」

「はい、騎兵隊が紅馬騎士団ですね、ナロミヴァスと、あ、見つけました――」


 アルルカンの把神書と<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ルマルディが加速――。

 やや遅れて、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスと、キスマリ、クレイン、ママニが飛翔していく。


 金色の髪のルマルディは片目の<七ノ魔眼>を発動――。

 ヘテロクロミアと化した刹那、一瞬で、周囲の状況を理解。


「ハッ、騎兵を叩くためか<迷魔想>を使ってねぇから、数えるまでもねぇ!」

「最初が肝心、騎兵を叩くことに夢中になっている塊からぶち抜くわ」

「おう!」

 

 ルマルディの言葉に、アルルカンの把神書が吼える。

 ルマルディは<魔霊術アルルカン>を使用――。

 加速し速度を上昇させたルマルディとアルルカンの把神書は単騎に近い形で漆黒のグリフォンと重装備の騎士たちに近付きながら<血魔力>を発して「<刹把鮫・血喰>――」を繰り出した。


 アルルカンの把神書から放射状に魔線が迸る。

 と、その魔線が大きな鮫の<刹把鮫・血喰>に変化を遂げる。

 大きな鮫の<刹把鮫・血喰>は口を拡げる。

 と、濃密な魔力を内包した魔息を吐きながら突進し、


「ガギャァァァァ」


 と咆哮をしながら漆黒のグリフォンの群れに突入した。


 <刹把鮫・血喰>が漆黒の重装備の騎士とその漆黒のグリフォンを喰らう。

 瞬く間に数十の漆黒のグリフォンと漆黒の重装備を着た騎士たちを喰らってから地面に居る漆黒のグリフォンと重装備の騎士を喰らいながら、地面と衝突し、衝撃波を周囲に発生させるほどの爆発が起きた。


「「ぐえぁ」」


 漆黒のグリフォンだった死肉が宙空から大量にオセべリア大平原に降り注いだ。


「ひゅぅ~、さすがの空極さね――」

「負けられぬ――」


 光魔ルシヴァル<筆頭従者長(選ばれし眷属)>クレインと<従者長>キスマリの言葉だ。

 共に加速しながらナロミヴァスと大騎士レヴァンが戦っている魔界騎士のような存在に近付いた。

 クレインは、


「――ナロミヴァス、応援にきたさ!」


 続けてキスマリが、


「主の命令だ、勝手に出陣したからには必ず生きて帰ってこいと!」

 

 と叫ぶ。

 ナロミヴァスは光魔ルシヴァルたちの家族の登場に一気に安心感を覚えて、体が弛緩しつつも、


「あぁ、クレインお姉様とキスマリのお嬢様! ありがとうございます――」


 と、ナロミヴァスの上ずった声を聞いたクレインとキスマリは、思わず草原の上に転げたい気分となったが、気にせず、魔界騎士風情の重騎士に斬り掛かった。


 クレインは<龍騎・突>――。

 体ごと銀火鳥覇刺と金火鳥天刺を突進させる<龍騎・突>を発動――。

 二つのトンファーの切っ先が、魔界騎士風情の重騎士が扱う魔槍に防がれる。

 <従者長>キスマリは四腕が持つ魔剣ケルと魔剣サグルー魔剣アケナドと魔剣スクルドで<黒呪烈刀陰符>を繰り出した。


 魔剣ケルの突きの<黒呪烈刀陰符>は魔界騎士風情の重騎士の魔槍の石突が防ぐ。

 が、「ぐぇあ――」と「ギュァァァ」と魔剣サグルー魔剣アケナドと魔剣スクルドの<黒呪烈刀陰符>は防げない。

 漆黒のグリフォンは四肢の半分が切断され絶命し、魔界騎士風情の重騎士も片腕を斬られながら吹き飛んでいた。


「おぉぉ! あの〝悪夢のボルガード〟を吹き飛ばした!」


 ナロミヴァスが喜びの声を発した。

 片腕を失った悪夢のボルガードは草原を転がっていくが、魔槍は手放していない。

 その魔槍の石突で衝撃を殺すと、「ふがっ!!」と気合い声を発して体を硬直させると、片腕を生やした。

 

 が、その隙は致命的――。


「そこだ――」


 <従者長>ママニが大型円盤武器のアシュラムを<投擲>――。

 悪夢のボルガードは魔槍を傾け大型円盤武器のアシュラムを弾くが、「ぐぇ」と悲鳴を発したように大型円盤武器のアシュラムは悪夢のボルガードの右胸と肩を削ぎ抉って背後の丘に突き刺さって止まる。


 <光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスが「止めは我が!!」と叫びながら、無数の煌びやかなグリドラスラの魔宝石礫を飛ばした――。

 

 悪夢のボルガードは柄で守勢に回る。

 茶色のグリドラスラの魔宝石礫を体に喰らいながらも耐えていた。

 <光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスは、


「しぶとい――」


 ゲルサクの王樹球槌を振るった。

 ハンマーを血塗れの悪夢のボルガードは魔槍の柄で何とか弾くが、頭部と上半身の一部が細断される。ルマルディの<炎衝ノ月影刃>が背後の草原に幾つも突き刺さって爆発し、衝撃波を起こしていた。

 魔力の衝撃波の中には月の形をした炎と風の属性の朧気な影刃が無数に群がっていた。



「あぁ、大将格の首はルマルディだねぇ! ナロミヴァス、残りの雑魚はわたしたちに任せな!」

「分かりました、あ、父上のところに戻って紅馬騎士団の守りをお願いします!」

「承知したさ」

「分かりました、蜘蛛の頭部を持つ兵士が帝国兵でしょうか」


 とママニがナロミヴァスたちに聞く。

 ナロミヴァスは、


「はい、そのはずですが、レヴァン、蜘蛛や鴉の被りが多い傭兵たちはムテンバードの?」

「そうです、ラドフォード帝国皇帝ムテンバード家の袖付き、〝蜘蛛鴉ノ魔傭兵〟の大隊です」


 回復ポーションを飲んでいた大騎士のレヴァンが答えていた。


 その間にもキスマリは一人駆けながら<黒呪仙回天斬り>を繰り出す。

 次々に魔剣ケルと魔剣サグルー魔剣アケナドと魔剣スクルドを振るい突き、蜘蛛鴉ノ魔傭兵の魔傭兵たちを屠り続けて前進を続けた。

 やや遅れて、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスとクレインとママニとルマルディとアルルカンの把神書が続いた。


 光魔ルシヴァル組の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>と<従者長>の活躍で情勢は一変する。


 勢いを取り戻した紅馬騎士団を率いるアロサンジュ公爵と息子ナロミヴァスたちは、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>と<従者長>たちに助けられながらオセべリア大平原を東に直進した。


 


続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵だったキャラが味方になると弱くなるという現象があるが、ナロミヴァスは弱体化したとはいえ、かなり強い ‼︎ 流觴の神狩手アポルアは、弓剣聖のホワイト以来の弓使いの強者。 三人の中だと、流…
[良い点] ナロミヴァス達も活躍したが、多勢に無勢で危うかったですね。何とか援軍が間に合って良かった。 最後は敵の大将格を討てたし、間接的に狙われてたリムラを救った形にもなったな。 [気になる点] >…
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