千五百四十八話 地下オークション第一部の終了
メルが札を上げる。司会の女性は直ぐにメルを差して、
「はい、黒猫と白猫の大商会――」
「続いてハイペリオン大商会――」
「はい、マクフォル商会――」
「六面六足のエレファント・ゴオダ商会――」
「更に、キーラ・ホセライ、大白金貨一枚と白金貨五十枚でました」
どんどんと値が上がっていく、メルが少し躊躇して俺を見た。
「構わん、競り落とせ」
「ハッ」
「黒猫と白猫の大商会、大白金貨十二枚と白金貨二十枚出ました! 他に競売に参加する方は居られますか~」
キャネラスのデュアルベル大商会の木札を下ろすと同系列のハイペリオン大商会の木札を持っていた女性も下ろした。【デュアルベル大商会】の幹部組織【一角の誓い】のケラガン・キャネラス。ハイペリオン大商会とは別で参加しているようだが同組織のはず。
キャネラスの商会も集合体だから結構な大所帯だな。
ピサード大商会の女性も木札を挙げていたが、すぐに下ろした。
ピサード大商会か……彼らが座る円卓には、傲慢な様子の眼鏡をかけた男がいる。ピサード大商会の最高幹部の一人かもだ。
ドイガルガの元上院議員やサーマリアの公爵とも関係がある重要人物かもしれない。護衛も手強そうだが、地下オークションの後で追跡する価値はあるか? 単なる会計担当者の可能性もあるが、尾行をすればドイガルガの元上院議員の正確な居場所やサーマリアの公爵の動向、関連組織の詳細も分かるかもだ。ユイは<ベイカラの瞳>を発動してまくっているはず、【御九星集団】の最高幹部全員は確実にマークしただろう。更に、ピサード大商会の連中はマークしたと思うから、後で少し話をふるか。
ヘカトレイル後援会にマクフォル伯爵と他の商会も木札を下ろした。
キーラも上げていたが、俺をチラッと見てから下ろす。
「……決まりました。では黒猫と白猫の大商会が、コジロウ・オガミの落札です。おめでとうございます――」
「「「「おめでとうございます!」」」」
先ほどと同じくアシュラー教団の方々の賛美が続いて、音楽が鳴り響く。俺たちの頭上で花丸の幻影が閃く。
花丸の幻影が増えて、高精細に成っている。
エトアが、
「やった~シュウヤさんたちは凄い!」
「「はい!」」
と、勝利した気分になったようで嬉しがっている。
「では、コジロウ・オガミの受け取りにサインをしてきます」
「あぁ、頼む」
「一緒に行く」
「ん」
「「はい」」
メルとレベッカがアシュラー教団の係の人に近付く。
コジロウ・オガミは先程の魔人レグ・ソールトと同じく血を魔法証文に垂らすと体が仄かに光る。と、血の魔法証文が消えた。
新たな魔法紋の証書が出現し、それをメルが受け取る。
コジロウ・オガミは俺を見て一礼。
そのコジロウ・オガミと共にメルとレベッカが戻ってきた。
魔人レグ・ソールトの横にコジロウ・オガミが並ぶ。
自己紹介などは後回しだ。
メルとレベッカは魔人レグ・ソールトと魔人コジロウ・オガミに声を掛けてから【天凛の月】の円卓の席に戻る。
すると、司会の女性が、
「続きまして、四眼六腕の魔族です。魔界セブドラ出身の魔族は、とある傷場近くで強者の冒険者に捕らわれたようです。強すぎて鎖の拘束具は解いていませんので、どんな能力かは詳しくは不明、白金貨五十枚からスタート!」
これはスルー。
マクフォルとキーラとキャネラスの大商会が争い合うように札を上げ競争となる。
大白金貨五枚を超えたところで、キャネラスとマクフォルが辞退し、キーラが勝ち取っていた。
キーラとの争いとなったら、あの四眼六腕の魔族と争うことになるか。
続いて司会の女性がエセル界の白い翼を背に持つ天使のような女性に腕を向け、
「続きましては、エセル界の有翼人の女性。〝貝力翔エアプラ〟の生成と、〝貝雲力槍ポミラス〟の召喚が可能で、接近戦が得意、〝貝力椿エアドレイン〟の遠距離攻撃も可能です。<硝子昆虫・コライダ>や<硝子恐竜・ボボルン>などを多数の使役しています。戦闘能力はかなり高く、それでいて南マハハイム地方の共通語が喋れます。エセル語の翻訳も可能。大白金貨一枚からスタートとなります」
「「おぉ」」
周囲から歓声が上がる。
エセル界の有翼人は、【白鯨の血長耳】が、エセル界で捕まえたエセル人だろう。
前回の地下オークションにエセル人は出品されていた。
エセル界の文明は魔機械や魔通貝からしても結構高度だ。
そして、人族側とエセル界の間では、辛辣な戦いが起きている?
【白鯨の血長耳】側がエセル界の人材を捕まえているのも理由があるはずだ。エセル界では【白鯨の血長耳】がどんな立ち位置なのか気になる。人権云々は問わないが……。
さすがに【テーバロンテの償い】や【血印の使徒】のようなことはしないから大丈夫か。
元ベファリッツ大帝国陸軍特殊部隊白鯨のエリートたちだからな。エルフ至上主義の【スィドラ精霊の抜け殻】のような集団ならやりかねないが、レザライサたちは違う。
前回の男性は南マハハイム地方の共通語が喋られず、暴れていて可哀想に見えた。
今回のエセル人は大人しい。
フィナプルスのように美人で白い翼が背中に生えている。
拘束具などは一切ない。
――直ぐにマクフォル伯爵のビミャルが木札を上げていた。
続いて【星の集い】アドリアンヌの戈星大商会の木札が上がった。
【シャファの雷】のギュルブンの商会の木札が上がる。
【海王ホーネット】のブルーの商会が木札が上がる。
【御九星集団】のキーラも木札を自ら上げていた。
シャルドネのヘカトレイル後援会とマンダンホルガ大万屋にフラクタル電磁商会の木札が上がる。
――大白金貨が二十三枚まで一気に跳ね上がった。
凄いな、今までで一番人気が高い。大金だ。
近くに居るヴィーネに、
「ヴィーネは、あのエセル人をどう思う?」
「戦闘能力が高く、前回のエセル界の人員とは異なり、エセル界の翻訳も可能で、<硝子昆虫・コライダ>や<硝子恐竜・ボボルン>が乗り物にも成り得るなら有能かと。エセル界の情報源にもなります。現状【白鯨の血長耳】の独占に近い権益だと思われるエセル界ですから、その権益を皆に開放するための、値段だとすると、今の大白金貨が積み重なっていく現象も、分かるような氣がします」
ヴィーネの分析に皆が頷いた。
第二王子ファルス殿下も、
「エセル界の秘密か……」
と呟く。
レムロナとフランは頷いていた。
「レザライサたちもエセル界の秘密が公開されても構わない、他にもメリットがあるからだと思います」
キサラの言葉に頷いて、
「秘密が公開されることで、エセル界の権益を独り占めしている【白鯨の血長耳】にもメリットがあるってことかな」
と、発言すると、皆が頷く。
「はい、エセル界も広大な異世界のようですからね」
キサラの言葉に皆が頷いて、ヴィーネが、
「【白鯨の血長耳】も惑星セラでも忙しい。単純にエセル界に人員が割ける余裕がなく、人員が欲しい?」
と皆に聞いていた。
「もしそうなら、シュウヤに直ぐに話を持ってくるでしょ」
「ん、シュウヤは、あまりエセル界のことをレザライサに聞いていないから、興味がないと思われているのかも」
エヴァの言葉に頷いた。
レザライサにエセル界に行きたいとか言っていない。
浮遊岩と魔塔は無数にあるが、ダンジョンにもなっている浮遊岩と魔塔はあまり利用していないことも大きいか。
塔烈中立都市セナアプアは港の黒猫海賊団の利用と、魔の扉の魔界セブドラの出入り口としての利用ばかりだ。
するとユイが、
「レザライサの【白鯨の血長耳】も主力はセラだからね、エセル界の利用もダンジョンに潜る感覚だと聞いている」
その言葉に皆が頷いた。
エセル界の高級戦闘奴隷の値段はまだ上がり続けている。
メルは、
「【白鯨の血長耳】とは【血月布武】で確かな同盟がありますから、今の法外な大白金貨の値段からしても【白鯨の血長耳】は、【天凛の月】に迷惑を掛けずに他から大規模な資金を調達したかったって面があるのかもですね」
「レザライサは大金で、どこかに設備投資を行うつもりとか?」
レベッカの言葉に頷いて、
「軍部の印象が強いが、レドンドの迷宮戦車のようなエセル界の品を活かした魔機械も豊富だから、案外それ関係の設備を作るためとかあるかもだ。単純に人員強化に使われるかも知れないが」
「うん」
レベッカは頷いてレザライサたちを見やる。
俺も釣られて【白鯨の血長耳】たちが居る円卓を見た。レザライサは魔煙草を吸っている。
ご満悦の表情だ。
そのレザライサは俺の視線に気付くと右耳に指を当ててきた、魔通貝か。
『――槍使い、魔通貝の表の窪みを二回押し込めろ、そうすれば周囲に声が漏れないように振動波が口と耳の前に展開される。因みに、これは距離が近いから可能だ』
へぇ。左耳に嵌めている魔通貝の窪みを二回押し込む。
と、ブゥゥンと音が響くとノイズキャンセリング機能があるようなホワイトノイズが片耳に拡がった。
レザライサは、
『話を続けるぞ』
お、声が変化した。
『了解、ちょっと待った』
皆に片耳を傾ける。
レザライサたちとの魔通貝を用いた通信だと即座に理解してくれた。
エヴァも、
「ん、魔通貝の?」
頷くとヴィーネは、
「ご主人様はアシュラー教団のミライからも魔通貝を渡されていました」
少し嫉妬気味のヴィーネの片手の甲に手を優しく当てた。
すると、ヴィーネは「ご主人様……」と俺の手の内側に手を潜り込ませ掌を返し恋人握りにしてくる。
可愛い。すると円卓の上で香箱スタイルで休んでいた相棒も「ンン」と鳴きつつ俺の手の甲に前足を乗せてきた。
肉球の感触が良い。
「ふふ――」
ヴィーネも嬉しくなって、俺の手を離して黒猫の片足をぎゅっと握っていた。
「――可愛すぎ!」
レベッカも黒猫の反対の片方の前足をぎゅっと握られる。と、そのレベッカの手首を噛み付く黒猫。
「えぇ~でもいたくない~」
「「「ふふ」」」
黒猫は皆に撫でられまくる。
両前足を上げて、両後ろ脚を真っ直ぐ伸ばす。
なすがまま、お腹を皆に見せた。
へそ天で、ピンクな乳首が見えている。
「わぁ~細長くて、可愛すぎる~」
「うん!」
「うふふ、なんという神獣猫ちゃん!」
エトアとレベッカとファーさんは大興奮。
各自、腕を伸ばして、黒猫のお腹の産毛を触って、ちっこい乳首を指先で弾かれている。
黒猫は気にせず、ヴィーネとエヴァの指先に前足を伸ばし続けている。
――面白い。うちの円卓だけ、黒猫がアイドルと化している。
他の円卓の机の方々と大会場は、エセル人に大注目中。
さて、魔通貝に指を当て、レザライサに、
『エセル界の高級戦闘奴隷のことを教えてくれ』
『……名はアオマー。優秀だが競売には参加しないでくれ。別段ほしいなら構わないが他の組織から金を徴収したほうが【血月布武】のためになる』
『了解した』
『槍使いのシュウヤもエセル人がほしいのなら、私たちがエセル界に探検する際についてこい。シュウヤなら、アオマーより優秀なエセル人を大量に捕まえられるだろう』
『捕まえられるか……』
『勘違いするなよ? エセル界では【テーバロンテの償い】のようなことはしていない。とは言っても、エセル界のエセル翼人の支配者次第だがな』
『エセル翼人の支配者か……エセル界をあまり知らない』
『エセル界は浮遊岩の世界だ。神の魔法力、式識の息吹も通用しているが、私たちの魔法力は弱い。エセル界の主力魔力は〝貝力魔力〟と〝蒸気魔力〟。貝力風や貝力炎など属性もある。物理法則も私たちの知る世界とはまた異なる。魔通貝の魔機械も発展している。だから塔烈中立都市セナアプアと似た世界と言えば分かりやすい。そこのエセル人たちは軍閥貴族に分かれて争い戦っている。また、殿上人、ブルー=ブラッドと呼ばれる上級階級の貴族たちを頂点とした階級制度がある。が、私たちの言葉も通じないことが殆どだから分かり難い。そして、私たちの翼の無い種族は翼無し、エセル語で〝バッジャス〟、翅無しエセル語で〝バジジャス〟、餌取り、と差別される。餌取非翼人と呼ばれているようだが、エセル語はまだちゃんと覚えていない。私たちは差別されて一方的に殺して良い存在なのだ。だから命懸けの探検となるが、逆にエセル人を捕まえて、こちら側の魔法や、飛翔能力を有した魔道具に魔機械にスキルを見せると、案外大人しく従うようになるエセル人も多い。バッジャスに負けたエセル人は屈辱なようだな、アオマーはその中の一人だ』
『へぇ、エセル界の文化はいやだが、聞く分には面白い』
エセル界には、カーストのような階級制度があるのか。
『ふっ……では槍使い、また後でな、因みにあの硝子容器に入ったエルフは気になるから競売に参加するからな』
『おう、俺もその予定だ』
『なにぃ! 負けるつもりはないぞ』
『おう、俺もだ』
『はは――』
レザライサは俺をチラッと見て笑う。
軍曹とクリドススたちも笑みを見せていた。
レザライサは、その仲間内での話に移行していく。
「また値段が上昇したが、シュウヤは優秀なエセル人の競売に参加しないのか?」
ファルス殿下の言葉に頷いた。
「はい、レザライサからエセル界のことを少し聞きました。あのエセル人はスルーします。それよりも硝子容器の中に居るエルフが氣になります」
「……なるほど、あれはたしかに氣にはなる」
ファルス殿下の言葉には頷くだけにした。
「わたしも、ビーサが入っていた硝子容器の緊急次元避難試作型カプセルと似たアイテムだから気になってた」
ミスティの言葉に頷く。
「ん、初見で硝子容器の中に入れられている綺麗女性を救おうと、シュウヤなら買うかなと思った」
すると、司会の女性が、
「――大白金貨二十九枚!!! 凄まじい、ヘカトレイル後援会! それ以外の商会の方々は、いませんね?」
エセル人大人気だな、他の商会はさすがに高すぎるか。
皆降りている。シャルドネは両肩が少し震えている。
司会の女性は、
「はい、決まりました。今日一番、否、もしかしたら、地下オークションの歴史始まっていらいの高値かもですね、ヘカトレイル後援会様が、エセル人の落札決定です! おめでとうございます」
「「おめでとうございます!」」
アオマーはヘカトレイル後援会が落札していた。
シャルドネは細い右腕でガッツポーズを行う。珍しいよっぽどに嬉しいのか皆に会釈している。
が、キーキーとサメがシャルドネに何か不満げに語っていた。
そりゃ大金だからな。侯爵の金庫は大丈夫なのか? が、結構な戦力増強か。
すると、司会の女性が、
「では最後、硝子容器に入っている女性エルフと目される存在ですが、どこで入手したのか、詳しいことは出品者からは秘密にされています。その情報も落札者のみの提供となります、大白金貨一枚からスタートです」
「はい、六面六足のエレファント・ゴオダ商会の木札が上がりました――」
とレザライサたちの商会が直ぐに上げた。
「メル、俺たちも参加だが、木札を上げるのは後だ」
「はい!」
次々に大商会が木札を上げて、地下オークションの会場が盛り上がっていく。
マクフォルとキーラのところが粘る。
レザライサは止めた。
マクフォル伯爵が、
「うぉぉぉ、あのエルフたんは僕が守るんだぁぁぁ!」
とエロ騎士の気分なのか大興奮していた。
面白いが、メルに目配せ、
「はい――」
司会の女性も直ぐに――。
「出ました、黒猫と白猫の大商会! 大白金貨十五枚白金貨三十枚と成りました!」
マクフォル伯爵は、「……あぁ……」と呆然。
ビミャルに背を支えられている。
司会の女性は、
「他の大商会、個人での参加はありませんか~」
と、シーンとなった。
司会の女性は周囲を見てから、俺たちを差して、
「はい! では、黒猫と白猫の大商会が、硝子容器に入っている女性エルフを落札! おめでとうございます!」
「「「「おめでとうございます」」」」
「「おぉ~」」
俺たちの頭上にまた花丸の模様が煌めいた。
周囲も歓声が響く。
「総長、また手続きをしてきます」
「了解した」
メルは立ち上がり、係の者に向かう。
「あ、わたしも見てくる」
「ん、わたしも」
「わたしも!」
「では、私も」
レベッカとエヴァとエトアとクナが立ち上がる。
その皆が乙女走りで、こちら側に運ばれてくる硝子容器に入っているエルフに近付いていた。
皆も楽しそうだ、「ンン」と黒猫も円卓から跳び下りて皆についていく。
司会の女性はカザネに交代。
「それでは、今年の地下オークション第一部は終了です。第二部は明日の夜は去年と変わらず、各自落札者の方、お支払いがまだの方は、お願いします」
第一部は終了。
魔人レグ・ソールトと魔人コジロウ・オガミに近付いていく。
続きは明日。
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