千五百四十三話 ヴェロニカの涙と笑顔に天道虫のビビ
2024年8月3日 13時33分 最後チョロッと追加
蒼聖の魔剣タナトスと義遊暗行師ミルヴァの短剣を戦闘型デバイスのアイテムボックスに格納し消す。
〝知記憶の王樹の器〟は一通り皆が飲む。
と、レベッカとエヴァが戻ってきたから、レベッカとエヴァたちにも飲んでもらった。
ベティさんともっと話がしたかったと思うが、
「準備完了、あ、宗教街の戦いなどね、了解――」
「ん、あ、ヒューイ~」
「ピュゥ~」
と、厩舎の前の樹の枝に留まっていた荒鷹ヒューイがレベッカとエヴァの周りを廻ってから、俺にも寄ってきた。
レベッカは〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んだ直後だから、ヒューイに手は伸ばしていない。ゼロコンマ数秒の虚ろの表情となるが直ぐに活気づく。
「いきなりの神槍ケルフィルの獲得とか! スレーを撃破も凄い。ファーミリアとシキたちが戦っていた報酬を約束していた強そうなのもいたのね!」
とレベッカは興奮気味に話をしつつ、エヴァに〝知記憶の王樹の器〟を渡す。
エヴァは直ぐに〝知記憶の王樹の器〟に口を付けて中身の俺の記憶入りの液体を飲む。
レベッカは、
「ル・クルンの魔杖、蛇神チャスラの魔槍、ゲルダーノ咆哮、幻魔ノ腕輪ボックス、幻獣アゲロンの腰ベルト、魔造小箱、爆弾ポーション×5、鋼魔革ヴィム・ループボックスも気になるんだけど~」
と言うから、ゲルダーノ咆哮を取り出して、レベッカに手渡しした。
「え、ちょっ!」
ツヴァイハンダーの魔剣のようなゲルダーノ咆哮を片手で持つレベッカは、見様見真似の剣術を披露していく。が、ゲルダーノ咆哮に回されるように体が軽いレベッカは横にズレてこけそうになっていた。
エヴァは俺に〝知記憶の王樹の器〟を渡しつつ、
「ん、ぷっ」
「「「ははは」」」
と皆も笑っていた。
「えぇぇ! だって片手半剣って結構、難しい!」
と、レベッカは笑いながらゲルダーノ咆哮を振るいまくる。
暫く預けておこう。
すると、近くを飛んでいる荒鷹ヒューイに、下から黒豹が「にゃお~」と鳴きながら跳躍、ヒューイに触れようと右前足を伸ばす。
右前足から爪は出ていないから肉球パンチかタッチをするつもりだろう。
「――キュゥッ」
ヒューイは翼をばたつかせて浮遊し、ロロの肉球パンチを避けると両足の爪を見せながら俺の右肩に着地。
肩の竜頭装甲の髭と頭部を掴んでは、そのまま嘴で少し竜頭を突いている。
ハルホンクは「ングゥゥィィ、ツンツク、キモチヨイ! ゾォイ!」
と鳴きながら蒼眼をぐるぐる回転させていく。
そんな肩の竜頭装甲の上に立っているヒューイを見て、
「よ、ヒューイ、ポポブムたちと遊んだかな」
ヒューイは突くのを止めて頭部を上げた。
つぶらな瞳で俺をジッと見ながら、嘴の両顎を拡げて、歯牙と舌を見せながら、
「キュ、キュゥ♪」
と可愛く鳴く。荒鷹ヒューイの頭部の『まろった眉』は健在だ。
三つの眉の∴の形の眉毛が可愛すぎる。
そのヒューイは両翼を少し広げた。
『主、ヒューイに魔力をあげたい』
『おう』
左手の<シュレゴス・ロードの魔印>に棲むシュレゴス・ロードが、左手の掌から桃色の魔力を少し出す。その桃色の半透明な魔力を擁した左手をヒューイに差し向けると、
「キュゥ♪ キュゥ、キュッ♪」
と鳴いて人差し指から出していた〝ぽあぽあ〟とした桃色の魔力を吸収していく。
〝ぽあぽあ〟とした桃色の魔力を嘴で摘まむように食べる様子が、綿アメを食べる鷹に見えて可愛い。そのヒューイはつぶらな瞳を輝かせる。
ぽあぽあした桃色の魔力を得て満足したようだ。
「キュゥ~」
と発して飛翔しては、左手の周りを器用にぐるぐる廻る。
と、左腕から離れたヒューイは、ヴィーネのポニーテールを避けて、背にくっ付いた。
自然と<荒鷹ノ空具>の翼と成っていた。
ヴィーネは頭部を回し、背を見るような仕種で、
「あ、ヒューイ、わたしと一緒に地下オークションに?」
「……」
ヴィーネの言葉に返事をするように、ヒューイの翼は少しだけ動いたが「ぴゅぅぅ~」と鳴いては離れて厩舎のほうに向かう。ミミの傍には蒼い鳥が飛んでいた。
あれ? あの蒼い鳥、どこかで見たような。あぁ~、ムーと一緒に居た蒼い鳥だ。
まさかサイデイルからここまで飛んできたのかな。
すると、皆を乗せながら庭の芝生を低空でゆっくりと飛翔していた法魔ルピナスがこちらにやってきた。
その法魔ルピナスから降りては上ってを繰り返しているクナとルシェルとビュシエとヴェロニカが、法魔ルピナスから離れて小走りに寄ってきた。
「総長、地下オークションの序盤の出席は任せた。わたしはアメリを見てくる」
「はい、わたしもついて行きます」
ビュシエもか。そのヴィシエは拳を出す。ヴェロニカもビュシエと目を合わせ頷きながら、拳を出して、拳同士をコツンとぶつけ合う。
そのビュシエとヴェロニカは俺を見て、
「余計な敵の注意を引きつけたくはないけど闇炎の串刺し公アルグロモアと第三王子クリムの側近を倒した、今なら殆どの矛先は、殿下かシュウヤに集中するだろうから」
頷いて、
「そうだな、白猫たちが居るから大丈夫と思うが」
と発言。ヴェロニカは、
「うん、紅月の重傀儡兵を五体と、角ありの骨傀儡兵と紅月の傀儡兵五十体が居るから、倒されたら直ぐに分かるし、まだ一度も倒れてないから戦闘は起きていないと分かる。アメリの住宅街はかなり平穏なはず。だけど一応見てくる、まだスヤスヤと寝てるかも?」
「あぁ、その姿を想像しただけで癒やされる」
「ふふ、うん♪ だから地下オークションには途中から乱入するかも、あ、それか地下オークションの会場の高台の周囲を警邏もするかな~」
「おう、その辺は自由だ」
「うん」
「で、その傀儡兵だが、今の俺たちの資金力ならば現時点で最強クラスの紅月の重傀儡兵の量産化も夢ではない?」
と少し冗談的に伝える。
「……あぁ、あ……総長は前に『量産の暁には、連邦なぞあっという間に叩いてみせるわっ』とかなんとか、血文字で変なこと言ってたアレ?」
覚えていたのか。
「はは、それは冗談だ。高性能な機体には素材も貴重すぎて、金がいくらあっても素材自体がなければどうしようもない。と言ってたな」
「そう、それでも<傀儡回し>は成長中で、ゼッタにも指示を出せるように改良したし、かなーり使える」
「そうだな、【天凛の月】の若者に新人の命を守ることにも繋がる」
「うん」
「<傀儡回し>で造れる傀儡兵の強さ、ランクのような物があると思うんだが、教えてくれ」
「傀儡兵→角ありの骨傀儡兵→紅月の傀儡兵→紅月の重傀儡兵よ、紅月の重傀儡兵の量産は素材が高級過ぎて無理。でも、極大魔石の目処が付いているから、角ありの骨傀儡兵と紅月の傀儡兵も結構な数を造れるわ」
そういえば、【迷宮の宿り月】の前後の通りを角ありの骨傀儡兵が占めていた。
「おう、からな。更なる<傀儡回し>の進化に期待しておこう」
「うん、任せて! アメリがいるところに行く予定だけど、ビュシエの街の案内がてらもある。それと、街に【闇の枢軸会議】の魔人たちか、帝国の人員に邪神の眷族を見かけたら倒しに掛かることも考えている。強盗を行うような連中も見かけたら、速攻、ぶっ殺して、ヴァルマスク家の血の補給用の瓶に溜めとくから」
「――まぁ! ありがとうございますヴェロニカ様。あ、先ほどは、皆に血を分けていただきましてありがとう」
ファーミリアがヴァルマスク家で会話中だったが切り上げて、ルンスとアルナードとホフマンを連れて傍にきた。
ヴェロニカは、
「ふふ、いいのよーファーミリアが居るのに、血を出してしまって少し申し訳ない気分もあったし」
「ふふ、気にしていませんし、私も、ヴェロニカ様の器の大きさに、感心していたのです。そして、ルンスをキツイ目で見てました」
ルンスは、
「……ファーミリア様……ヴェロニカ様……今後は友好関係を向上させることに情熱を注ぎます故……なにとぞ、お許しを……」
とヴェロニカとファーミリアに謝ってきた。
<筆頭従者>アルナードと<筆頭従者>ホフマンと、三人の<従者長>にアラギヌスたちや<従者>たちも息を呑んだ。
ルンスがここまで謝ることは無かったような雰囲気だ。
ヴェロニカとメルとベネットは頷き合う。
ヴェロニカは憎しみを帯びた目でルンスを見ていたが、渡り鳥の鳴き声が響く。
更に蝶々が前をひらひらと通った。そして、ヴェロニカは見上げる。
すると、俺の<光の授印>が光り天道虫の形をした魔力がヴェロニカの胸元に向かいネックレスと衝突した。
ヴェロニカの光を帯びたネックレスは少し浮かぶ。
「え」
驚いたヴェロニカは自身のネックレスから凝視。
そのネックレスから半透明な光の天道虫が浮いてルンスの下に移動した。
ルンスの右手の甲に付着すると、「ぐっ」とルンスは右手に火傷を負った。
火傷は再生したが天道虫の痣と魚と似た痣が残る。
「……これは」
皆、どうして? といった顔付きとなった。
ハミヤたちも不思議そうに俺の<光の授印>の明るさを見ていた。
ルンスの右手の天道虫の痣と魚と似た痣は不思議と消えなかった。
半透明な天道虫はルンスの周りを廻ると、一瞬だけ女性を模ると天道虫に戻ってから、上昇して消えた。
涼しい<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>を感じた。
ヴェロニカは天道虫を見て泣いて「……ビビ……」と呟く。
ベネットとメルもビビの話を知っているように片目からツゥと涙が零れる。
「「「……」」」
ヴェロニカは涙を拭いて、
「……ファーミリアさんとルンス、【天凛の月】と光魔ルシヴァルに敵対しなければ、ずっと仲良くできると思うから、もう責めないわ、未来を見据えましょう」
ルンスは、その言葉を聞くと体が弛緩したように両膝の頭で地面を突いた。
「……ヴェロニカ様……私の完敗です……許してくださいませ」
と喋ったルンス、項垂れた老人に見える。
そして、もう独特な毒氣のような氣は感じない。
「うん、先ほどの言葉を三百年履行し続けたら……信じる。そこで許してあげるかも知れない」
「……はい」
暫く静謐の空気が流れる。ヴェロニカには、俺を見て、
「では、行ってくるから」
「あぁ、当然だ、だが、油断はするなよ」
「ふふ、うん、油断なんてしないから、それにアメリに付きまとっていた連中の魔族殲滅機関たちがいい塩梅に魔人たちを追跡してくれているようだから、安全過ぎるはず。あ……」
と『しまった』と口を押さえて近くに居る聖鎖騎士団団長ハミヤを見ていた。
そのハミヤは優し氣な表情を浮かべて胸元に手を当てる。胸元の聖騎士黄金の光が発生し、<聖刻ノ金鴉>が発動し、その光が俺の胸元の<光の授印>と繋がった。
ハミヤの感覚を得たような氣がする。
<聖刻ノ金鴉>は、聖戦士たちの遺跡に反応する以外にも、聖鎖騎士団の団長とも繋がりを得られる? ハミヤは頬を朱に染めている。
嬉しそうだ。ハミヤはヴェロニカを見て、
「ヴェロニカさん、事情はすべて聞いていますので大丈夫です。聖女アメリ発見も教皇庁五課聖者・聖王探索局の聖鎖騎士団には大事ですが……シュウヤ様の〝黄金聖王印の筒〟のほうが重要ですから、もう聖女アメリ様の説得はいたしません」
「え、そうなのね!」
ヴェロニカは俺に向けて細い腕を上げていた。
「はい、夜を昼に変える事象は、神聖書の二章十八節霊王チリムと、十一章五節のイザヤとアザヤの記述など、幾度が登場するんです」
神聖書か、旧約聖書や新約聖書を想像しつつ、
「へぇ、神聖書は読んだことないからどんな文章なんだろう。もう地下オークションに行くから、短い文章を教えてくれるかな」
「はい、喜んで! 〝選ばれし聖者、選ばれし聖王は、黄金の夜に誕生するであろう〟〝黄金の夜の縁と成りて、奇跡の夜と成る〟です。シュウヤ様が〝黄金聖王印の筒〟で起こした事象の部分にあたります」
頷いた。
神聖書を知っている者たちは、頷いて納得顔を作る。
疑問げな表情を浮かべている者もいた。
「そうしたこともあり、アメリ様より、シュウヤ様のほうが何氣に重要です」
「へぇ、シュウヤが宗教国家に向かうならアメリも……」
少し不安げに語る。アメリも宗教国家に向かうかも知れないな。
その場合は前にも言ったがヴェロニカにも付いてくるだろう。
ハミヤは俺を見て、
「シュウヤ様の、十字架の神印の背景に聖なる丘も増えたことも信じられない現象です。聖槍アロステの話といい完全にシュウヤ様は光魔ルシヴァル様に導かれた聖者様、聖王様であり、八大使徒で在られる可能性が非常に高い。ですから、シュウヤ様の発見は聖鎖騎士団の歴史上、史上最大の発見となる」
まだ起きている聖鎖騎士団の一部は全員が片膝で床を突いて頭を垂れていた。
そこまでの事象らしい。
世界各地に聖者、聖王を探索する騎士団が結成されるだけはあるようだな。
ヴェロニカは、
「あの坂では、いきなり昼間になったからね、ファーミリアは<天孫降臨>とか、太陽の名が付くスキルを言ってた」
「あぁ」
俺の頷き合わせて頷いていたファーミリアは、ニコニコして、
「はい、随分と昔のことです。鉄角都市ララーブインとハイム川が近い山中側で、光神ルロディスの眷族を囲う教徒たちがいたのですが、<天孫降臨>の声が周囲に響き渡ると突如として夜が昼に変わった時がありましたの」
と語ると「おぉ」、「「おぉ」」と団長ハミヤと起きている聖鎖騎士団の方々が感嘆の声を発した。ハミヤは「ファーミリア様に感謝を……」と告げると頭を下げていた。
ファーミリアは「ふふ、はい」とドレスの端を両手で持ち可愛く会釈。
背後のヴァルマスク家の吸血鬼たちもハミヤに会釈していた。
ぎこちない。が、そのぎこちなさが、光と闇の縁だから凄く面白く見える。
ハミヤは、ミレイヴァルとエラリエースとヴィーネたちをチラッと見てから俺を見て、
「……皆様から隠天魔の聖秘録の事象と載っていた【光ノ使徒】などの言葉を教えて頂きましたが、それも驚きでした」
と、発言すると聖鎖騎士団の一部と聖鎖騎士団のパーミロ司祭とキンライ助祭が頷く。
「あぁ、色々と符号することが多いからな」
「はい、……光と魔、揃う、逢魔時、黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる。それは暁の灯火であり暴神ローグンの慧思者、神玉の灯りと光と闇の奔流ヲ、赤肉団と光韻ヲ持つ。【見守る者】が印……仮面に宿り魂が、神呪天ガ……などの伝承……シュウヤ様が神界騎士エラリエース様を魔界セブドラで救出した話も、光神ルロディス様の行為そのもの……シュウヤ様が行く所々に光が満ちていく……ですので、銀印教皇勅書に魔力を込めて頂きまして、いずれは、私たちの聖鎖騎士団と共に【宗都ヘスリファ】の教皇庁に凱旋をお願いしたいのです」
と俺を見る。<聖刻ノ金鴉>も偶然ではない。
「行くことは行くが直ぐには無理だ」
「――承知済みです。何十年、いえ、一生を、聖王に尽くす想いですから大丈夫です!」
とハミヤは俺に向け近寄ると片膝の頭で石畳を突く。
頭を下げてきた。
「一生か……では、ハミヤ、光魔ルシヴァルの眷属に成る覚悟があるか?」
「……え! はい!」
と嬉しがったハミヤを見ると嬉しいが……。
テントで休んでいないタフな少数の聖鎖騎士団のメンバーたちがどよめく。
パーミロ司祭とキンライ助祭は無言のままだ。
そこで、キサラとレベッカを見て、
「では、いずれの眷族候補としてハミヤのことを考えておく」
「ありがとうござます!」
聖鎖騎士団団長が眷族となったらとんでもないような氣がするが……。
まぁエラリエースも眷族候補だしな。
キサラとレベッカを見て、
「おう、【宗都ヘスリファ】に行くタイミングだが、数年単位は考えていたほうが良い、俺は古の星白石で繋がりもある闇と光の運び手だ。神々やイギル・フォルトナーの聖戦士の伝承なども、俺の<光の授印>は繋がっている」
と言うと、キサラとレベッカは頷いた。
エヴァとクレインにハンカイとママニとブッチとベリーズとサラも頷いている。
「はい! 古の星白石は、<筆頭従者長>としてレベッカとわたしも繋げたことになります」
「うん、シュウヤは、光神ルロディスと光精霊フォルトナから祝福を受けた聖戦士の話と聖槍アロステにも通じるし、数え切れないほどの縁が、光と魔、揃う、逢魔時、黄金の夜の縁にも合う。そう考えると鳥肌よ……だって、わたしは、ハーフエルフとして冒険者として過ごしていたのにシュウヤと会って……」
とレベッカは少し目元が潤んでいた。エヴァが寄り添った。
キサラは、嬉しそうにダモアヌンの魔槍を掲げている。
レベッカはエヴァとキサラと笑顔で目を合わせてから頷いて、
「うん、蒼炎神の加護がある黒魔女教団の高手のアーソン・イブヒン、そして、魔境の大森林の北東だったかな、【ベファリッツ大帝国】の古代遺跡と、わたしが持つ、魔杖の城隍神レムランは関係がある」
「そうだな、キサラとレベッカは結構縁が深い」
「はい」
「うん!」
キサラの白絹のような美しい髪と蒼い双眸は嬉しそうだ。
レベッカの蒼い双眸と何処となく似ているか?
皆を見ながら、
「ゴルディクス大砂漠への入り方だが、四天魔女たちが待ち望んでいる闇と光の運び手の伝承を実行するつもりだからな」
「はい! 闇遊の姫魔鬼メファーラ様の軍に協力し、その傷場の確保をして〝魔境の大森林〟からゴルディクス大砂漠にですね。【アーカムネリス聖王国】にも向かえますから、アウローラ姫たちにも会いに行けます」
キサラも俺の記憶を共有しているから、アウローラたちを実際に見てみたくなったかな。
頷いて、
「ゴルディクス大砂漠の【アーメフ教主国】に突入し、黒魔女教団の総本山だったダモアヌン山に【ダモアヌンの魔女】を再集結させ、黒魔女教団を再建する。メファーラの祠にも行こうか。あ、その前に二十四面体のパレデスの鏡を一つ回収しとくのもいいかもだ」
「「「はい!」」」
「色々と楽しみだけど、狩魔の王ボーフーンと闇遊の姫魔鬼メファーラ様の傷場を巡る争いは結構熾烈かも?」
「ん、がんばる」
「そうですね、ご主人様の記憶にあった、魔境の大森林には、魔族の軍が数十万単位は居ますから、魔界セブドラ側の傷場は、狩魔の王ボーフーンの勢力の陣地ばかりと容易に想像できます」
ヴィーネたちの言葉の後、レベッカが細い腕を上げてポージングしながら、
「うん、でも、今のわたしたちなら?」
「ん、大丈夫!」
「行けるさね」
「行けるわ!」
「「「ふふ」」」
エヴァとクレインとミスティがレベッカの真似をして笑い合う。
「シュウヤ様にブラッドクリスタルを捧げつつ神界騎士の動きを伝授します」
「宗主と皆に貢献します」
「シュウヤ様と光魔ルシヴァルを支えましょう」
「シュウヤと一緒に行く」
「わたしも、環双絶命弓でシュウヤに貢献するから」
「陛下と皆さんの活動を支えましょう」
「魔導人形の研究をしつつだけど、次は皆との冒険を優先するから」
「主の戦いに貢献しよう」
「俺もだ、主の進化する速度に付いていくのは大変だが、光魔ルシヴァルに息づくアムシャビス族の血を活かせてもらう」
「「ふふ」」
「当然♪」
「わたしもアメリちゃん次第だけど、協力する」
と皆で語る。
「にゃァ」
「にゃぁ~」
「にゃォ~」
「ワン!」
「グモゥ!」
「プボプボォ」
銀灰猫と黄黒猫と白黒猫と銀白狼と子鹿とポポブムも返事をしていた。
ビュシエとヴェロニカはエラリエースともブラッドクリスタルに<血魔力>を活かす<血魔術>の血道のことで色々と話をしていたようだし、仲良くなったか。
「うん、じゃ、今度こそアメリを見てくる。皆もまた後で!」
「行ってきます」
「おう、いってら~」
「ん、また後で」
「了解~」
「「「「はい!」」」」
<筆頭従者長>ヴェロニカとビュシエが飛翔していく。
ビュシエが直ぐに<血道・石棺砦>を作り、ヴェロニカの足下に生成した血の大剣と交換するように宙空を駆けていく。
<筆頭従者長>キッカが、
「総長、では、巡回警邏と冒険者ギルドマスターのヨナギ・コーインテルに挨拶をかねてクラブアイスの動向を聞いてきます」
「了解した」
「使者様、わたしも【天凛の月】の門番長としてがんばってきます!」
「おうよ」
「シュウヤ様、では、後で」
「旦那、俺もトオたちを見てくるぜ」
〝セヴェレルス〟を掌の中で回転させているベニーの言葉に頷いた。
【迷宮の宿り月】の守りには、ルル&ララとロバートと使い捨ても可能な角ありの骨傀儡兵も居るが、臨機応変に対応できる人材は多いほど良いからな。
ベニーを見ながら、
「元暗殺チームで優秀と分かるが、徹夜だ、休憩してもらおう」
「はい、イモリザとマルアとフィナプルスに【迷宮の宿り月】の警備の後退も頼むつもりだった」
イモリザとマルアとフィナプルスは頷き、
「はい♪」
「「はい!」」
と元気に挙手をして返事を行う。
イモリザは挙手をした片手を下げてフィナプルスの白い片翼を触って悪戯をしている。フィナプルスは、反対の方角を見ていた。
イモリザは『クククッ』とした悪戯っ子の表情を浮かべている。
マルアは俺を見ているから二人の挙動には気付いていない。
フィナプルスは悪戯に気付いて、翼から一つの羽根を飛ばし、操作しては、イモリザの項を擽っていた。
「ぁぅ」
と感じたような声を発したイモリザが背を伸ばすと、マルアを見るイモリザ、「マルちゃん、今触った?」「ほぇ?」とマルアの惚けた顔と言葉が面白い。
その面白い三人組とベニーと魔剣・月華忌憚を掲げて『皆をお任せください』という印象のキッカを見て、
「それがいいだろう」
と発言。
<筆頭従者長>キッカと、フィナプルスとベニーとカズンと<光魔ノ秘剣・マルア>のマルアと<光邪ノ使徒>のイモリザには、
「はい!」
「では!」
「行くぜ」
「総長、また今度――」
「【迷宮の宿り月】に行ってきます~」
「行っこう♪ 行っこう♪ 行こう~♪」
と【迷宮の宿り月】と武術街の自宅を巡る警邏チームを臨時に編成し警邏に出てもらった。
「総長、宗教街を見てくるさ」
ヴェロニカの<筆頭従者>のベネットの言葉だ。
「おう、ゼメタスとアドモスが居るが、了解した」
「器、妾たちはここを守るか?」
「沙・羅・貂たちには、武術街と宗教街の守りを頼もうか」
貂が、
「分かりました。ベネットとゼメタス、アドモスと連絡を取りつつ、武術街の自宅の皆と、通りの巡警も行うと」
「そうだ、沙・羅・貂の機動力ならば、それでも狭いと思うが」
「はい、分かりました!」
「ベネットさん、宜しくお願いします」
「承知したさ、では、行こうか」
「「はい」」
「うむ! 行こう!」
ベネットと沙・羅・貂は飛び立つ。
「盟主、ではナロミヴァス支援組に立候補しよう」
「了解、クレインならば絶対だ」
「ふふ、任せな」
クレインは笑顔で金火鳥天刺を掲げた。
「では、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスも行ってもらうかな」
「承知!」
「我も戦場に行こうか」
「シュウヤさん、わたしもアルルカンの把神書と共にオセべリア大平原に!」
「任せろ!」
「おう、キスマリに、ルマルディとアルルカンの把神書、頼んだ」
すると、ママニが、
「ご主人様、わたしも西のオセべリア大平原に」
「了解した」
「では、ここの守りを、黄黒猫と白黒猫と銀灰猫と銀白狼と子鹿と共に<従者長>フーとブッチとサザー、<筆頭従者長>アドゥムブラリと<従者長>のサラとルシェルにエマサッドとラファエルに頼もうか」
「「承知!」」
「「「了解!」」」
「分かった」
「「はい!」」
「では、エヴァ、キサラ、ユイ、ヴィーネ、ベリーズ、レベッカ、クナ、ミスティ、メル、エトア、ラムー、シャナ、ハンカイ、地下オークションに出席しようか。ファルス殿下も出席を一緒にしましょうか」
「了解した。付いて行こう」
「わたしたちも共に」
「はい」
「レムロナとフランも勿論だ」
「ん」
「楽しみ~」
「はい!」
「了解♪」
「「ふふ」」
「地下オークション、ドキドキしてきました」
「うん、シャナなら前座で歌とか頼まれたら、皆を魅了するかも?」
レベッカの言葉にシャナは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といったような表情を浮かべる。
だが、人魚だ。それに邪神系に効く歌声だ。会場に邪神系の眷族が紛れ込んでいたら、騒ぎになって戦いとなってオークションがめちゃくちゃになるかもだ。
邪神側も悪と勝手に断罪し、レッテルを張るのもな……。
そんな考えで、
「シャナの歌声はピカ一だが、色々とマズイだろ」
「あ、そうね」
「ふふ、はい」
「行こう~」
「私も出場しますわ」
ファーミリアの発言に周囲が響めく。
アシュラー教団のミライは、口が開いたままだったが、「結界に反応は……あ、なるほど、ならば大丈夫でしょう」と発言していた。
「ふふ、良かった。アルナードとホフマンとルンスの皆は、ここの防衛に参加しなさい」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
ファーミリアは出席で、ヴァルマスク家は全員がここの防御か。
「私も当然に、霧魔皇ロナドと共に出席する。そして、できれば【白鯨の血長耳】と【天凛の月】の隣の席を望む。他は、ここの防衛に参加させよう」
「「「「はい!」」」」
「では、ナロミヴァス支援のオセべリア大平原組は頼む。ミライ、地下オークション会場に行こうか」
「分かりました。行きましょう」
ミライはアシュラー教団たちに視線を向けるように仮面を被った頭部を動かす。
皆一斉に立ち上がり、踵を返した。
大門から先に武術街の通りに出ると「ンン、にゃおぉ~」と鳴いた相棒が通りに出た。
その黒豹が振り向きながら大きい黒虎に変化を遂げる。
一瞬でヴィーネとエヴァにシャナとエトアとラムーとハンカイを乗せていた。
ラムーは霊魔宝箱鑑定杖を持つから直ぐに鑑定も可能だから、期待しておこう。
続きは、明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




