千五百四十二話 黒い悪趣味な仮面を被る男
◇◆◇◆
ここは迷宮都市ペルネーテの西門近くの尖塔フロンマル。ペルネーテの西の高級宿の一つ。地下には闇ギルドが仕切っていない賭け場があった。
最上階の南側はバルコニーを備えた魔力を帯びた強化窓硝子のサン=ルームが占めている。
そこからはドラゴン崖とグリフォン丘の一部が見え、オセべリア大平原とラド峠と葉脈墳墓に繋がるに大街道を見渡せる。朝方にはオセべリア大平原を占めていた朝霧を旭が追い散らすように霧が晴れていく光景が稀に見ること出来た。もし霧が晴れる姿を見られて妖精が出現し、妖精から出題されたクイズに正解したら、その妖精に、大草原の何処かに眠っているとされる〝七つ星の秘宝〟の場所に案内されるといった伝説がある。
また、冒険者たちが大草原に湧くモンスターを狩る姿を見ることも可能。
旅行者たちの風物詩に登場するほど隠れた人気スポットでもあった。
その尖塔フロンマルを貸し切ったのはオセべリア王国の王族と関係が深い大商会アテナイババル。
迷宮都市ペルネーテのアテナイ商会の親商会だ。
尖塔フロンマルの一階と通りを守るのは……。
オセべリア王国第二青鉄騎士団に偽装した闇ギルド【天衣の御劔】の兵士たちと最高幹部の魔剣師ミテタラと魔術剣師トーラ。
ラドフォード帝国の特殊部隊【第二黒髪隊】の副長サトウ・コウイチと隊員リリカ・カザマと兵士たち。
【ラゼルフェン革命派】の最高幹部の毒メイスのガマキド、魔槍使いビアクスと兵士たち。
十二海賊団【鵞峰ヴァクプドー】の最高幹部、五番隊の船長、闇のモヤジと、コックのマニラン、斬り込み隊長バブバーンと船員たち。
などだ。
そして、尖塔フロンマル最上階の部屋の東のテラスから、魔人キュベラスたちと魔族殲滅機関たちの激戦を見ている者たちがいた。
その戦いを眺めている一人は黒い悪趣味な仮面を被る男。
オセべリア王国第三王子クリムだ。
続いて、その背後の黒髪で大柄の男はラドフォード帝国の特殊部隊【第二黒髪隊】隊長アラニシ。
アラニシは要衝都市タンデートのとある刑務所の管理者であり、オセべリア王国第三王子のクリムに<魔手術>を受けて大幅に強化されていた。
その【第二黒髪隊】は全員が転移者だがクリムに捕まり強引に洗脳と施術を受けている。
刑務所の受刑者たちの臓器を利用し、人体実験を繰り返しているのはクリムだ。
【第二黒髪隊】はラドフォード帝国に属してはいるが、実際はオセべリア王国第三王子クリムの私兵に成り下がっていた。ラドフォード帝国では、貴族の汚い仕事を請け負うことが多い。
クリムの<魔手術>に<魔洗脳>など技術は、錬金術師のマコト・トミオカやアドリアンヌには及ばないが、かなり域に達している。
そのクリムの斜め右には、白髪の大柄の老人が居る。
老人は【鉄角都市ララーブイン】の有力闇ギルド【錬金王ライバダ】のライバダ本人で【天衣の御劔】の盟主だ。【髑髏鬼】とは【御九星集団】のキーラのお陰で同盟を結んでいる。
その横に立っている中背の頭巾を被るのは【ラゼルフェン革命派】の最高幹部〝魔絶〟のファゼスト。武闘派だ。
クリムの左の中背の紫髪の男は【外部商会】の本部の最高幹部ペイシェル。
ラドフォード帝国の特殊工作機関【無頼】にも所属している〝霧のペイシェル〟。
【外部商会】とはラドフォード帝国領の軍産複合体の総称、国を跨ぐ軍需に関わる、人命を奪う戦争により利益を得ている悪魔的な組織、その連合体の表の商会名だ。
また、その背後に居るのは【外部商会】の護衛に雇われている【グムラファの闇の一党】の盟主グムラファと最高幹部のメメラジア。
クリムの斜め右後方に居るのは、西方フロング商会東リージョナル支部長モラマン。金髪の小柄の女だが、強者の魔剣師でもある。
同時にラドフォード帝国の特殊工作機関【無頼】にも所属している。
そして、フェルアと言う名と鬼武者ラマラの名も持つ騎士は、片膝で床を突いて黒い悪趣味な仮面を被る男、クリムに謝っていた。
フェルアは、
「はい、<魔霊隠れ>、<隠形法>、<隠蔽術ラムラ>、<魔力遮断>、<龍迷香>など、すべてが看破されました。更にシキに背後を封じられた直後、魔公ディフェルが敵に仕掛けたことで戦闘に成り……」
と発言すると、尖塔フロンマル東側に風が走る。
その風を受けた黒い悪趣味な仮面を被る男は全身に寒気が走った。
「……皆、負けたと」
「「「……」」」
皆が沈黙。
「はい、闇炎の串刺し公アルグロモアと魔公ディフェルとスレー、鬼武者アマツも倒されました」
フェルアこと、鬼武者ラマラが発言。
「……僕の<異空・魔転送>ごと大騎士スレー……僕の英雄の鬼武者アマツが滅されたのか」
「はい、申し訳ありません、閣下の役に立てず……」
「いいさ、失うことには慣れている。魂の消失も確認できたから、かなり痛いけど。肉体だけなら僕の施設で再生はできるからね。フェルラはこうして槍使い側の情報を伝えてくれるだけで十分だ。その槍使いとは、また戦うことになると思うから、鬼武者ラマラとしてまだまだ働いてもらうよ」
「はい! 閣下の<異空・魔転送>のお陰で助かりました」
悪趣味な仮面を被る男はフェルアの笑顔を見て頷いて、皆を見るように振り返る。
「しかし、その<異空・魔転送>ごとスレーこと鬼武者アマツを消されてしまうとは予想外だよ……それで、槍使いたちと相まみえて、どんな感じだい?」
この部屋に居る皆が頷いた。
そして、フェルラこと鬼武者ラマラが、
「スレーと槍使いの実際の戦いは殆ど見ることはできませんでしたが、尋常ではない強さかと、シキにファーミリアに神獣と有翼人たちも強かった……数度体が消えかかり、<血ノ恵>と<回復大王体>も追いつかないほどのダメージを受けましたから」
「数度か……」
黒い悪趣味な仮面を被る男は呟くと小声で、
……フェルラも<魔手術>を十度繰り返して鬼武者ラマラとしての強さを得ているが……僕のスレーはそれ以上に<魔手術>で強化を繰り返した大事な大騎士だったんだが……ショックが大きいよ。
と考えて、その場に居るに皆に、
「……とにかく、鬼武者ラマラを失わずに済んで良かった」
「はい」
黒い悪趣味な仮面を被る男は頷いた。
そして、黙っている大柄の【第二黒髪隊】隊長アラニシに、
「アラニシ、もし、槍使いと戦うことになった場合は、こちらの味方が多い環境の時にしよう」
「はい、難しいと思いますが……」
クリムも頷く。
【天衣の御劔】の盟主ライバダが、
「強いとは聞いていたが、大騎士スレーが倒され、闇炎の串刺し公アルグロモアと魔公ディフェルが倒されるとはな」
と発言。
【ラゼルフェン革命派】の最高幹部〝魔絶〟のファゼストも、
「槍使いは俺たちの最高幹部ギュララを倒したんだから納得だ。黒豹も槍使いの相棒の黒猫だろう。しかし、戦う場合と言ったが、隠蔽が効かないとなると情報収集にも限りがでてしまうぞ? どうすんだ」
と発言。
黒い悪趣味な仮面を被る男は、
「はは、真正面から消耗戦?」
「「……」」
「消耗戦か、いいぜぇ」
「……蛮勇に付き合うつもりはないよ、眷族も強いだろうし、雑魚を人質にとってもねぇ……しかし、あんな強い槍使いを君たちは滅したいのかい? スルーするのが無難だと思うのだが……」
「あぁ? クリム……なよってんじゃねぇ」
【ラゼルフェン革命派】の最高幹部のファゼストが怒りを滲ませる。
「冗談だよ、予想外だけど、スレーこと鬼武者アマツが殺されたからね、借りは返すつもりさ」
「……俺たちも【八指】バイデルン&テキルを失った」
【ラゼルフェン革命派】側はギュララを失い、手練れの殺し屋も失ったことになる。すると、【外部商会】の最高幹部ペイシェルが、
「……【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の強さと、吸血鬼のヴァルマスク家とコレクターが手を組むことは織り込み済みでしたが……まさか、神聖教会側の聖鎖騎士団がヴァルマスク家とコレクターとも手を組むとは、完全に予想外ですね」
その発言に皆が頷く。
続いて、西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンが、
「そうね、【天凛の月】の強さも予想以上よ」
「「「……」」」
一部の者たちが頷き合うとモラマンは話を続けて、
「……白の九大騎士の屯所は潰せましたが、【天凛の月】は宗教街の【闇の教団ハデス】や【セブドラ信仰】を利用した武装蜂起も防いできた。お陰でペルネーテの混乱が最小限に留まってしまいましたわ」
【外部商会】の最高幹部ペイシェルは、
「……衛兵隊と第二青鉄騎士団の青鉄騎兵団が纏まり始めたようですし、ファルス王子の暗殺は諦めたほうがいいでしょう、要所の貴族街の占拠も失敗しました。これが何気に最大の失敗でしょうか」
と発言。金髪を揺らすモラマンも、
「はい、すべての残置諜者を蜂起するにしても、さすがに足りません。星海雷の会合も予想外ですし……その結果による戦いの不始末は分かりますが、お陰で人員は極端に減ってしまった。西の戦場にいる帝国軍も王太子レルサンの竜魔騎兵団の活躍により殆どが倒され、壊滅状態と聞いていますし、さすがに……」
と、発言しながらクリムたちを見る。
【ラゼルフェン革命派】のファゼストと【天衣の御劔】の盟主ライバダは、納得がいかないように、モラマンの帝国の工作側の人員を睨む。
黒い悪趣味な仮面を被っているクリムは頷いて、
「うん、見ている。さすがにラドフォード帝国皇帝ムテンバード家の袖付き、〝蜘蛛鴉ノ魔傭兵〟の大隊だけではリムラは厳しいかな、アロサンジュ公爵の軍は潰せるかもだけどね」
と言うと【ラゼルフェン革命派】のファゼストは、
「そんな帝国とオセべリアの事情はしらねぇんだよ、クリム、【天凛の月】の潰しだが、地下オークションごと狙わないのか?」
クリムは両手を拡げながら、
「無理だね、外のうざい魔族殲滅機関たちも居る。【血星海月雷連盟】に神界側も守りに動いている。だから地下オークションが終わり次第かな、キーラと魔人キュベラスたちと父たちの動きに合流すべき、だいたい僕は事前に言ったはずだ。【闇の枢軸会議】の連中に、【天凛の月】の盟主への懸賞金など彼らを潰すための協力はするが、あくまでも、僕の第一の目標はレル兄だと」
と発言。
ファゼストは頷いて「あぁ」と納得する。
【天衣の御劔】の盟主ライバダも無言のまま頷いた。
「……今回は王太子暗殺成功は帝国側の戦果としては十分です。【第二黒髪隊】の名もあがる。ですが、リムラとペルネーテを落とすような大戦果と成れば帝国側には非常に美味しいですが……」
西方フロング商会東リージョナル支部長モラマンの発言にクリムは、
「それは夢見すぎだ。ファルスの兄の暗殺に成功していたのならアリだけどねぇ」
「ふふ、仮定ですが、その場合は、闇神リヴォグラフと喧嘩する覚悟が?」
モラマンの言葉に、クリムは、
「僕がオセべリア王国の王位ってことかい?」
「はい」
「それはどうだろう……」
【外部商会】の本部の最高幹部ペイシェルは西方フロング商会のモラマンと視線を合わせて、ニヤリと笑みを浮かべてから、
「フッ、クリムさんも野望があるから、暗殺に踏み切ったのでしょう? 付き合いますよ?」
「ペイシェルとモラマン、君たちは深読みし過ぎだ」
「ふ、すみません」
「ふふ」
とペイシェルとモラマンはラドフォード帝国組は己の立場側で語る。
【グムラファの闇の一党】の盟主グムラファと最高幹部のメメラジアは沈黙。黒い悪趣味な仮面を被るクリムは、
「君たちの案に乗るわけではないが、その件ではサケルナートが、先ほど僕に接触してきたよ。第二王子ファルスを殺せとね」
「「「……」」」
「だからか、国王側の動きと連携しろか。ハッ、分かったぜ。ファルスを殺すなら、【天凛の月】も潰さないとだからな」
【ラゼルフェン革命派】のファゼストは喜ぶ。
「では、ルーク国王側の指図通り動くので?」
「表向きはね、ペイシェルとモラマンも一働きしてもらうかもだ」
◇◆◇◆
大門の上からヴィーネと黒豹が庭に下りてきた。
ミライたちに、
「ミライ、地下オークションに出席するが、少しそこで待っててくれ」
「はい!」
大門から少し前に居るミライたちは足を止めた。
傍に居る<筆頭従者長>ビュシエが、
「ミライたちのアシュラー教団の護衛の数は増えたようですが、あの坂の激闘の後は【闇の教団ハデス】と【闇の教団ハデス】の魔人たちや、キーラの【御九星集団】から本格的な追跡は無かったようですね」
「王子暗殺を狙った連中も洗脳染みた一枚岩ではなく様々な組織の思惑で動いている連中が絡んだ故の事件かも知れない」
傍に居る皆が頷いた。
ハンカイとベネットは、『どうだろうな』という顔付きだ。
ハンカイは、
「ふむ……権力闘争か」
ハンカイはミライたちを見てから頷いた。
頷いて、この間メルが推測していたが、
「あぁ、王子邸と通り前に押し寄せてきた【セブドラ信仰】と【闇の教団ハデス】と帝国特殊部隊を主力とした【ラゼルフェン革命派】や【天衣の御劔】などの敵連合に、第三王子クリムさえも駒の場合もある……その場合だが、大ボスはルーク国王、親衛隊隊長の大騎士タングエン卿、王の護衛騎士トマス・シェフィールド、宮廷魔術師サーエンマグラム、魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問のサケルナート、王の手ゲィンバッハなどの場合があるだろう。そして、それらも駒で、裏ボスが闇神リヴォグラフって辺りか、闇神リヴォグラフの洗脳を受けた駒が、個別に暗躍している可能性と、各都市の魔法学院にある【幻瞑暗黒回廊】内で闇神リヴォグラフの【異形のヴォッファン】と戦っているかも知れない【魔術総武会】の一部なども考慮すると……可能性は多岐に渡るな」
と発言すると、皆が思案げとなって沈黙。
アドゥムブラリは、
「……白の九大騎士のグレートナイト・オブ・ワンが洗脳されているとは思えないが」
シビリアンコントロールはなく統帥権のような権限は王や貴族にあるだろうからな。上に立つ者が闇堕ちしていたら、軍はただの殺戮マシーンの玩具と化す。
己の意思で間違いを正す部下が居れば勇者だが、中々、そんな勇気を持つ気概を持つ存在は顕れない。
ハンカイは、
「第三王子クリムさえも駒か。闇神リヴォグラフにルーク国王ごとごっそりと洗脳されていた場合は、ファルス殿下側以外の、オセべリア王国の王政自体が敵となる」
ヴィーネが、
「ご主人様、八頭輝が一カ所に集まっているところを狙う算段もあるのでしょうか」
「あるかも知れないな」
と予想をすると、聖鎖騎士団団長ハミヤが
「南マハハイムの力を持つ闇ギルドたちを襲撃してくる連中ですから、あり得ますね」
と発言。
元神界騎士エラリエースも頷いて、
「はい、第二王子ファルス殿下が邪魔な存在は……【闇の枢軸会議】とラドフォード帝国特殊部隊だけでなく、オセべリア王国の中枢が組んでいるのなら、なにをしてくるか……」
と発言。
エラリエースも、俺の記憶を〝知記憶の王樹の器〟で共有しているからな。
ハンカイは、
「【闇の枢軸会議】と、簡単には、一括りにできないぞ」
「それはそうだな」
「ふっ、だが、一括りにしたい気分だねぇ」
クレインの言葉に皆が頷いた。
そこで、ハンカイが黒豹を見て、
「お、ロロが仮面を被ってる?」
「あ、本当~」
「わ、本当です~」
「渋い!」
「ンン、にゃぁ~」
「ぬご――」
ハンカイに黒豹が頭突きを噛ましている。
「ふふ」と笑ったヴィーネに、
「先ほど、実は、クリムの側近を先ほど倒したからクリムが怒って突っ込んでくるかもだ」
「え? 戦闘が?」
ヴィーネは驚いている。
ミスティとアドゥムブラリは頷き、
「そうなの、今さっき激闘を終えたばかり」
「敵の反応は大通りの武術街に入る門を見据えるような位置取りだった」
と発言。
「あ、シキとわたしたちを追跡していた連中でしょうか」
「そうだと思う。どちらも合わせた。そして戦闘斥候だろうな、強襲も可能な特殊部隊と言えるか」
俺の発言に、アドゥムブラリとミスティが頷いた。
ファーミリアとシキは自分の部下に今の出来事を説明していた。
すると、メルとユイとヴェロニカとレムロナとフランが寄ってきた。
メルが、
「総長、エヴァたちも直に来るようです」
その皆を見ながら〝知記憶の王樹の器〟を取り出して魔力を込める。
直ぐに皆に見てもらう記憶を弄ってから、〝知記憶の王樹の器〟をヴィーネに渡して、「ヴィーネ、先に飲んでおいて、記憶を得れば分かる」と発言し
「はい」
ヴィーネは直ぐに〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲む。
隣にいるハンカイに手渡していく。
先にメルたちに、
「記憶を見れば一発だが、まずは口でも説明しとく――」
続けて、
「黒豹の正義の神獣猫仮面が機能し――此方を見張っていた強者連中が使用していた<無影歩>級の隠蔽術が見えていたようで、追跡した。第一円卓通り近くの様々な施設と住宅が密集した屋根が連結しているような場所で、敵の隠蔽術を完全に看破し、その敵連中と戦闘となった」
と伝えた。
メルは、
「エヴァとレベッカたちが外に出て、ここの守りは戦力ダウンしたことで、ファルス殿下を殺そうと仕掛けてくるなら、今のタイミングかと思いましたが、来ないのは、敵も慎重な一面があったようですね」
「あぁ」
「クリムには、ファルス殿下の価値はそこまで大きくはないのかも知れないとヴィーネたちとも話をしてました――」
とメルはベネットから〝知記憶の王樹の器〟を受け取る。
俺の記憶入りを飲んだメルは、直ぐに頷いた。
「なるほど、闇炎の串刺し公アルグロモアと魔公ディフェルと大騎士スレーと女の大騎士」
と発言し皆で頷いた。
メルは〝知記憶の王樹の器〟をユイに渡す。
「シキの眷属を殺した連中は闇炎の串刺し公アルグロモアと魔公ディフェルだろう。残りの二人の大騎士はクリムの配下のはずだ。女の大騎士は逃がしたが、それ以外は仕留めた」
拾った神槍ケルフィムを取り出して見せる。
「はい、地下オークション中にも注意が必要ですね」
「そうだな、ここを守る眷属を増やし、血文字が使えないが、ナロミヴァスの応援に行ける眷属も必要かな」
と発言すると、第二王子ファルス殿下とキリエも寄ってくる。
「シュウヤ、ガルキエフの遺体だが棺に入れて工房の横に、一時置かせてもらったが、大丈夫か」
「はい、気にせず」
と、ガルキエフの遺体は専用の棺に納まっているようで、棺が見える。
周りは花々で埋められていた。仮の遺体安置所か。
「あの棺は殿下が?」
「レムロナとフランにキリエが急遽用意してくれたのだ」
「「はい」」
レムロナとフランの返事に頷いた。
キリエも頷いていた。
皆を見てから、直ぐに棺に向かった。
<破邪霊樹ノ尾>で棺を囲う。
それらしき雛壇を作ってから、王子たちが居る石畳のところに戻る。
すると、サラとママニとサザーとフーが大門に着地。
戻ってきたか。
サラは庭に居る皆に手を振ると、跳んで急降下――。
「シュウヤ、解放街は平穏無事よ」
「おう、血文字で少し聞いていた」
「うん」
ネコ耳がピクピク動いて笑顔満面の<従者長>サラが可愛い。
と、その背後の大門の出入り口にはエヴァとレベッカとキサラとベティさんとディーさんとリリィが現れた。
見知らぬ冒険者の三人も居る。
大門の下から普通に此方に歩いてきた。
人族の女性の射手と片手剣と盾持ちの人族、ドワーフの戦士と魔法使いの女性のパーティ。
大草原の肉の食材調達を頼んでいたリリィと知り合いか。
そのリリィたちは、イザベルとクリチワとアンナにキッチンメイドたちと抱き合っている。
エヴァは、ミライと
「ん、ミライさん、地下オークションは無事に開催できるのね」
「はい。開催です。出発する時間なら、まだ大丈夫ですから」
「分かった、ありがとう! あ、シュウヤ、皆を母家に案内してくる」
「了解」
「シュウヤ、わたしもベティさんを部屋に案内してくる」
「おう、地下オークションに向かうメンバーは少なめにするからな」
「――ん!」
「――当然!」
レベッカの声を聞きながらミライに寄る。
続きは明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。
 




